1 造血幹細胞移植後のミエロパチーの発症
最近,発症前診断患者において,症状を呈していない脳MRI異常の段階で移植した症例の後方視的観察にて,5例中3例に尿失禁,病的反射を伴う歩行障害,脊髄性感覚障害のいずれかを認め,脊髄障害を発症したとの報告があった.このことは造血幹細胞移植では大脳型における炎症の進行抑止効果は認めるものの,adrenomyeloneuropathy(AMN)の発症に関しては,進行を遅らせる効果は否定できないが,少なくとも発症阻止効果は認められない可能性が示唆される.さらに,ALDにおける大脳型の炎症性脱髄とAMNの慢性軸索障害は異なる発症機序である可能性も示唆される1).
1)van Geel BM, Poll-The BT, Verrips A, et al: Hematopoietic cell transplantation does not prevent myelopathy in X-linked adrenoleukodystrophy: a retrospective study. J Inherit Metab Dis 2015; 38: 359-361.
2 ALDの遺伝子治療
2009年にフランスのグループが、適合する移植ドナーが得られなかった大脳型2症例に対して、患者本人から血液幹細胞を採取して、レンチウィルスベクターにより正常ABCD1遺伝子を導入した自己造血幹細胞移植を施行し、その後の観察にて14~16か月後より症状,MRIの進行停止を確認し、従来の造血細胞移植と同等の効果を得たことを報告した1)。現在、米国Bluebird bio社の支援により第II/III相試験として治療群のみの多施設共同試験をボストン小児病院等にて実施中である.
対象は17歳以下のALDで,MRIで所見があり(Loes score 0.5~9点,Gd造影効果陽性),神経症状は軽度もしくはなく, HLAマッチの同胞ドナーがいない症例であった.主要評価項目は,24か月後に重度機能障害(コミュニケーション能力の消失,皮質盲,経管栄養,車椅子,自発運動の消失,完全尿失禁)のない症例の割合となっている.2016年4月にその中間報告がなされ,その時点で17例が治療、重度機能障害を起こした症例はなく、16例でneurological function scoreが、14例でLoes scoreが安定していた.
1)Cartier N, Hacein-Bey-Abina S, Bartholomae CC, et al: Hematopoietic stem cell gene therapy with a lentiviral vector in X-linked adrenoleukodystrophy. Science 2009; 326: 818-823.
3 ALDの新生児マススクリーニング
米国では新生児マススクリーニングを目的に、乾燥ろ紙血を用いて極長鎖脂肪酸由来の物質である1-hexacosanoyl-2-hydroxy-sn-glycero-3-phosphocholine(Lyso-PC 26:0)を定量する方法が開発され1)、ニューヨーク州でのパイロットスタディを経て2) 、他の州にも広がりをみせている。2016年11月の報告では,米国において2013年12月から2016年9月までの34か月間に約63万件の分析を行い、ABCD1遺伝子変異が確認された患児が43例発見されている.また,ABCD1遺伝子変異を認めず,ペルオキシソーム形成異常症を含めた他のペルオキシソーム病が疑われる症例もみつかっている3).
1) Hubbard WC, Moser AB, Liu AC, et al. Newborn screening for X-linked adrenoleukodystrophy (X-ALD): validation of a combined liquid chromatography-tandem mass spectrometric (LC-MS/MS) method. Mol Genet Metab 2009;97:212-220.
2) Vogel BH, Bradley SE, Adams DJ, et al: Newborn screening for X-linked adrenoleukodystrophy in New York State: diagnostic protocol, surveillance protocol and treatment guidelines. Mol Genet Metab 2015; 114: 599-603.
3) Moser AB: Diminished plasmenylethonolamines in X-linked adrenoleukodystrophy. The 1st International Plasmalogen Symposium. Nov.7-8, 2016. Fukuoka.