病型と診断のポイント

1 ALDの臨床像

症状と発症年齢により下記の臨床型に分類されている。同一家系内の同一変異を有しても、臨床型が一致するとは限らない。

1) 小児大脳型 (CCALD):
3~10歳に視力や聴力の異常、行動異常や成績低下、歩行障害、けいれん等で発症し、症状の広がりから急速な進行を認め、数年で寝たきりの経過をとることが多い。
2) 思春期大脳型(AdolCALD):
発症年齢11~21歳でCCALDと同様の症状を呈するが、より緩徐に進行する。
3) Adrenomyeloneuropathy (AMN):
20代から中年期に下肢の硬直や筋力低下で発症し、排尿障害や陰萎などの自律神経障害も加わってくる。進行は比較的緩徐だが、次項の成人大脳型に進展する例もある。
4) 成人大脳型(ACALD):
性格変化や知能低下、精神症状で発症し、認知症や精神疾患の鑑別として重要である。経過はCCALDに類似して急速で、数年で寝たきりになる場合もある。また大脳型からAMNに進展することはない。
5) 小脳・脳幹型:
小脳失調を主症状として日本人に多い。大脳型に移行する例もみられる。
6) アジソン型:
2歳から成人期に原因不明の嘔吐や元気のなさ、体重減少、色素沈着等の副腎不全症状で発症するが、7歳ごろの発症が多い。その後、小児大脳型やAMNなどに進展することもあり、注意を要する。
7) 発症前男性患者:
どの病型をいつ発症するかも現時点では予測ができない。
8) 女性発症者:
AMNに似た症状を呈する。女性保因者で20歳以前に神経症状を呈することはほとんど稀であるが、年齢とともに頻度が増加し、ごく軽い神経学的徴候も含めると、40代以前では18%が、60歳以降では88%に認めるとの報告もある1)

副腎機能異常はアジソン型以外でも男性ALD患者の少なくとも70%に認める。

2 発症後の診断ポイント

1) CCALDとAdolCALD:
途中から気づく斜視や、「見えにくそう」、「聞こえにくそう」な様子から眼科や耳鼻科を受診して視力や聴力検査にて明らかな異常を認めずに経過観察されている症例、学校等にて落ち着きのなさや行動異常、成績低下、書字やしゃべり方の異常からAD/HDや学習困難児として対応されている症例も散見される。いずれもけいれんを起こしたり、症状の進行や広がりにより小児神経専門医等を受診して、脳MRI検査にてALDが疑われることが多い。それ以外にも年少児も含めて歩行障害やけいれんを初発症状として認める症例も散見される。好発年齢としては7歳を頂点に、多くは3歳から15歳くらいまでに発症する。
2) AMN:
つっぱったような歩行障害がゆっくりと現れ、排尿障害、陰萎などの自律神経障害も加わる。脊髄の腫瘍や損傷とともに、脊髄小脳変性症の鑑別として重要である。
3) ACALD:
成人期以降に性格の変化、知能低下、精神病様症状などで発病するため、認知症や精神疾患の鑑別として重要である。
4) アジソン型:
2歳以降から成人期にかけて非特異的な症状である易疲労感、全身倦怠感、脱力感、筋力低下、体重減少、低血圧などで発症する。また食欲不振や悪心・嘔吐、下痢などの消化器症状、精神症状(無気力、不安、うつ)など様々な症状も訴える。鑑別として重要な症状である色素沈着は皮膚、肘や膝などの関節部、爪床、口腔内にみられる。原発性の慢性副腎不全であるアジソン病ではALDの鑑別としての極長鎖脂肪酸検査は男性の場合、必須である。
5) 女性発症者:
女性保因者では中年以降に、AMNに類似した脊髄症状を呈する場合がある。初発症状としては、下肢の軽度の筋緊張の亢進や筋力低下による負荷のための下肢、臀部、背部痛等が多く、その後、歩きにくさや転びやすさ、排尿・排便機能の低下をきたすこともある。家族歴がある場合には遺伝カウンセリングにも配慮した上で、極長鎖脂肪酸から遺伝子解析を行う。女性保因者の極長鎖脂肪酸値は対照と一部、重なる症例もあるため、正常範囲内でも保因者を否定できない。従って発端者のABCD1遺伝子異常の有無を確認することが必要である。正確な診断は適切な治療に繋がる。

1)Engelen M, Barbier M, Dijkstra IM et al. X-linked adrenoleukodystrophy in women: a cross-sectional cohort study. Brain 2014; 137: 693-706.