1. ロレンツォオイル
ALD患者において,オレイン酸(C18:1)とエルカ酸(C22:1)を4:1の割合で配合したロレンツォオイルを約6~8週間投与することにより血中飽和極長鎖脂肪酸量が低下する.この結果を受け,ロレンツォオイルがALDの治療として世界中に広まったが,その後の検討で,血中飽和極長鎖脂肪酸値を低下させるものの,大脳症状発症後では自然歴に影響を及ぼさないとされている.またAMNや大脳症状発症前からの投与も検討されたが,その有効性は確立されていない1, ,2).
1)Aubourg P, Adamsbaum C, Lavallard-Rousseau MC, et al: A two-year trial of oleic and erucic acids ("Lorenzo's oil") as treatment for adrenomyeloneuropathy. N Engl J Med 1993; 329: 745-752.
2)van Geel BM, Assies J, Haverkort EB, et al: Progression of abnormalities in adrenomyeloneuropathy and neurologically asymptomatic X-linked adrenoleukodystrophy despite treatment with "Lorenzo's oil". J Neurol Neurosurg Psychiatry 1999; 67: 290-299.
2. 造血幹細胞移植
現在、大脳型ALDに対して唯一、有効な治療法は発症早期の造血幹細胞移植である。最近では骨髄非破壊的前処置による低リスクの移植や、臍帯血による移植例も比較的良好な治療成績を挙げている。その機序はドナー由来の単球から分化したマクロファージ系細胞が脳内で機能する可能性が示唆されている1)。
造血幹細胞移植適応ガイドラインの変遷
国際的な集計解析より、移植時の進行度と予後には明らかな相関が示されている。その中で推奨される移植適応の進行度指標として、生命予後に関しては移植時の脳MRIでの進行度を示すLoes score2, 3)が9点未満,視力,聴力など5つの神経学的機能異常が0または1つ,さらに知的予後に関しては動作性IQ (performance IQ;PIQ)が80以上,精神機能障害の程度を示すALD-disability rating scale(ALD-DRS)がⅠ以下となっている4)。
移植適応のための進行度評価
■MRI:Loes score
■神経学的機能異常
1. Vision
2. Hearing
3. Speech
4. Gait
5. Other (fine motor skill, ADL)
評価:0,1,2,>2
(認知障害、行動異常のみ:0)
■知能指数:IQ(WISC-III)
PIQ(視覚・運動)
VIQ(聴覚・言語)
■ALD-DRS(精神機能障害)
0. No
Ⅰ. Mild learning or coordination ↓
Ⅱ. Moderate learning, sensory ↓
III. Severe learning, sensory ↓
IV. Loss of cognitive ability
一方、国内においては平成24~25年度の厚労省の研究班(加藤俊一研究代表者)により、国内実施例の詳細な検討に基づき適応基準も含めたガイドラインが報告されている5)。基本的には進行例では移植は推奨されていないが、家族歴のない大脳型発症例においてはLoes score 10点未満の段階で診断されることは稀であり,10~12点程度であっても移植の適応になることが示唆されている.また大脳型発症前患者では病型予測が不可能で、かつ移植リスクもあるため、脳MRIでの軽微な異常を含め大脳型発症の徴候を確認後に速やかに移植することが推奨されている。
さらに平成28年度末には厚労省の研究班(衛藤研究代表者)により、海外文献による移植実施例,加藤班での国内実施例による検討より、推奨が報告されている6).
今後,ALDに対する移植法のさらなる改善とともに,移植症例の予後評価の蓄積に基づく新たなガイドラインの更新も重要な課題である.
1) Berger J, Forss-Petter S, Eichler FS. Pathophysiology of X-linked adrenoleukodystrophy. Biochimie 2014;98:135-142.
2)Loes DJ, Hite S, Moser H, Stillman AE, et al: Adrenoleukodystrophy: a scoring method for brain MR observations. AJNR Am J Neuroradiol 1994; 15: 1761-1766.
3)厚生労働省難治性疾患克服研究事業 運動失調に関する調査及び病態機序に関する研究班:副腎白質ジストロフィーハンドブック.第2版,2005.
4) Peters C, Charnas LR, Tan Y, et al. Cerebral X-linked adrenoleukodystrophy: the international hematopoietic cell transplantation experience from 1982 to 1999. Blood 2004;104:881-888.
5)厚生労働省難治性疾患等克服研究事業 先天代謝異常症に対する移植療法の確立とガイドラインの作成に関する研究班(代表研究者 加藤俊一):平成24~25年度総合研究報告書,2014.
6) 副腎白質ジストロフィー(ALD)診療ガイドライン作成委員会(編). 副腎白質ジストロフィー(ALD)診療ガイドライン2017. 診断と治療社. 東京
3. AMNおよび女性発症者
下肢の痙縮に対しては,抗痙縮薬や適切な理学療法を早期に開始することにより,症状の軽減や進行の予防が期待される.また,直腸膀胱機能障害に対しても,泌尿器科医などに相談のうえ早期に対応することが重要である.治療薬開発としてはABCD1ノックアウトマウスを用いた研究でAMNの軸索変性に酸化ストレスが関与していることより、抗酸化作用を有する薬剤の検討が進められている1)。
1)López-Erauskin J1, Fourcade S, Galino J, et al. Antioxidants halt axonal degeneration in a mouse model of X-adrenoleukodystrophy. Ann Neurol 2011;70: 84-92.
4. 副腎皮質ホルモン補充療法
副腎不全症はALDの病状や生命予後にも深く関わるため,すべての男性ALD患者において定期的な副腎機能検査を実施し,慎重に補充療法の計画を策定していく必要がある(「副腎クリーゼを含む副腎皮質機能低下症の診断と治療に関する指針」1)参照).男性ALD患者では, アジソン型だけでなく,CCALDやAMNでも70~80 %に副腎皮質機能の低下を認めるため2),移植後を含め,定期的な副腎機能の評価と副腎皮質ホルモン補充の検討が必須である.一方,女性保因者では発症例でも副腎機能異常は極めて稀である.
1)日本内分泌学会,日本小児内分泌学会,日本ステロイドホルモン学会,厚生労働科学研究費補助金政策研究事業 副腎ホルモン産生異常に関する調査研究班:副腎クリーゼを含む副腎皮質機能低下症の診断と治療に関する指針.日内分泌会誌 2015;91(増):1-78.
2)Engelen M, Kemp S, de Visser M, et al: X-linked adrenoleukodystrophy (X-ALD): clinical presentation and guidelines for diagnosis, follow-up and management Orphanet. Journal of Rare Diseases 2012; 7: 51