診断

1. 診断基準

【参照】
厚労省難病情報センター 20. 副腎白質ジストロフィー 診断基準
厚労省難治性疾患等政策研究事業(編)ライソゾーム病・ペルオキシソーム病 診断の手引き

<主要症状および臨床所見>
各病型で高頻度に認められる所見は以下の通りである.

1 精神症状
小児ではADHDや心身症と類似した症状を呈する.成人では社会性の欠如や性格変化,精神病に類似した症状を呈する.
2 知能障害
小児では学習の障害,視力/視覚・聴力/聴覚・認知・書字・発語などの異常が現れる.高次脳機能障害(失語,失行,失認)も生じうる.成人では認知症,高次機能障害などを呈する.
3 眼科的所見
初発症状として多い.視覚障害,視野狭窄,斜視,皮質性の盲などを呈する.
4 歩行障害
痙性対麻痺(痙性対麻痺を呈することが多いが,時に左右差を認める)による歩行障害を呈する.
5 錐体路徴候
四肢の痙性,腱反射の亢進,病的反射陽性で,どの病型においても高頻度に認められる.
6 感覚障害
表在および深部知覚障害.AMNでは脊髄性の感覚障害を示す例が多い.
7 自律神経障害
排尿障害,陰萎などを呈する.
8 副腎不全症状
無気力,食欲不振,体重減少,色素沈着(皮膚,歯肉),低血圧などを呈する.

<参考となる検査所見>

1 極長鎖脂肪酸検査
C26:0,C25:0,C24:0などの飽和極長鎖脂肪酸の増加を認める.血清スフィンゴミエリン,血漿総脂質,赤血球膜スフィンゴミエリンなどを用いて分析する.極長鎖脂肪酸の蓄積の程度と臨床病型の間には相関性はない.女性保因者でも極長鎖脂肪酸の増加を認めるが,15~20 %程度は正常範囲を示す(www.x-ald.nl).
2 画像診断(頭部MRI,頭部CT)
CCALD,AdolCALD,ACALDにおいては,大脳白質の脱髄部位に一致して,CTでは低吸収域,MRI T2強調画像では高信号域を認める.病変の分布は後頭葉白質,頭頂葉白質の側脳室周辺部,脳梁膨大部が多いが,時に前頭葉白質から脱髄が始まる例もある.AMNおよび小脳・脳幹型では錐体路,小脳,脊髄小脳路の脱髄を主体とする.活動性の脱髄病変のある部位ではガドリニウム(Gd)により造影効果を認める.
3 神経生理学的検査
聴性脳幹誘発電位(ABR)ではI~III波間, Ⅲ?Ⅴ波間潜時が延長することが多い.体性感覚誘発電位(SEP)および視覚誘発電位(VEP)でも異常を認めることが多く,最初の異常所見である場合もある.末梢神経伝導検査も軽度低下を認めることがある.いずれも経過とともに悪化を示す.
4 副腎機能検査
臨床的に無症状でも,ACTH高値や迅速ACTH負荷試験で低反応を認めることがある.
5 遺伝子解析
ABCD1遺伝子の変異は多彩で,病型と遺伝子変異に明らかな相関は認められていない.同一の変異を有していても異なる臨床病型を示すことはよく経験される.
6 病理所見
病理変化は中枢神経系と副腎であるので,生前の診断には役立たない.大脳白質の脱髄,グリオーシス,血管周囲の炎症細胞浸潤が強いこともALDの特徴である.副腎では皮質細胞の膨化,進行期には著明な萎縮を認める.大脳白質マクロファージ,副腎皮質細胞,末梢神経Schwann細胞に松の葉様の層状構造物を認める.この構造物は極長鎖脂肪酸を有するコレステロールエステルを含むものと推定されている.

2. 鑑別診断

1 小児
ADHD,学習障害,心身症,視力障害,難聴,アジソン病,脳腫瘍,亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis;SSPE),他の白質ジストロフィー.
2 成人
家族性痙性対麻痺,多発性硬化症,精神病,認知症,脊髄小脳変性症,アジソン病,脳腫瘍,悪性リンパ腫,他の白質ジストロフィー.

3. 確定診断

(1)「主要症状および臨床所見」で述べた項目(1~8)のうち,少なくとも1つ以上該当がある.
(2)血漿,血清,赤血球膜のいずれかで極長鎖脂肪酸値が高値.
(3)脳MRI,神経生理学的検査,副腎機能検査のいずれかで異常を認める.

確診例は,以下の①~④のいずれかに該当する場合とする.
①上記(1)~(3)のすべてを満たすもの(発症者).
②家族内に発症者または保因者がおり,上記(2)を満たす男性(発症前患者).
③上記(1)と(3)を満たし,家族内に発症者または保因者がいる,あるいは極長鎖脂肪酸高値やABCD1遺伝子変異をヘテロ接合で有する女性(発症者).
ABCD1遺伝子の病原性変異が同定された男性.