岐阜大学循環器部門は高度な専門性を有するスタッフにより、患者さんを中心として最先端の医療機器・設備を駆使し、うっ血性心不全、急性心筋梗塞、不整脈、肺血栓塞栓症、の診断・治療を総合的に行っています。
当院は呼吸器内科・腎臓内科や心臓外科、放射線科、病理科と密に連携することで、循環器疾患を早期に診断し、最適な治療を受けていただくことを目指しています。
また当院は特定機能病院であるとともに、岐阜県唯一の高度救命救急センターとドクターヘリ基地施設でもあります。従って、救急を要する循環器・呼吸器・腎臓疾患に対する対応が救急専門医、集中治療専門医と連携して対応できます。
附属病院高次救命治療センター内にCCU(心臓疾患集中治療室)を設置し、循環器専門医、専攻医を当科より派遣しており、24時間365日対応できる体制になっております。
1. 日本循環器学会認定循環器専門医研修施設
2. 日本高血圧学会認定施設
3. 日本心血管インターベンション治療学会研修施設
4. 日本不整脈心電学会認定不整脈専門医研修施設
5. 日本超音波医学会認定超音波専門医研修施設
6. 日本心臓リハビリテーション医学会研修施設
7. 日本心エコー図学会認定心エコー図専門医 研修施設
虚血性心疾患とは、狭心症や心筋梗塞を総称した言い方で、心臓の血管(冠動脈)にプラークと呼ばれる脂質が蓄積し冠動脈が狭窄することで発症します。
糖尿病や高血圧・脂質異常症(以前は高脂血症と言われていました)を始めとした生活習慣病や喫煙が原因となり冠動脈が狭窄すると、心臓に流れる血液量が減少し胸部の圧迫感や絞扼感が出現します。胸部の症状の他にも、患者さんによっては肩や背中・首・みぞおち・歯の周囲に痛みが出現することも有ります。
また、痛みがなくとも冠動脈の狭窄が起こっていることも有り、症状がないからといって油断は出来ない疾患です。
虚血性心疾患は、心臓カテーテル検査や冠動脈CT検査・心筋シンチグラフィといった検査を用いて診断します。また、虚血性心疾患の治療は大きく分けて二つあります。
一つは当科で行う心臓カテーテルによるカテーテル治療と、もう一つは心臓外科で行う冠動脈バイパス手術です。
カテーテル治療では狭窄している冠動脈にバルーンと呼ばれる風船やステントと呼ばれる道具を用いて治療を行います。
また、動脈硬化が高度に進行し血管が硬くなっている場合には、ロータブレーターと呼ばれる非常に小さなドリルを用いて血管を掘削する治療も行います。患者さんの病状やその他の持病により検査・治療法にはメリット・デメリットが有りますので、当院では心臓外科と毎週検討会を行い、これらの検査・治療法について相談しながら診療しています。
また、不安定狭心症や心筋梗塞はさきほどまで何の症状も無かったお元気な方が突然発症します。日中に発症することも有りますし、寝ている間に起こることも有ります。
当院では休日・夜間を問わず、24時間専門家である循環器内科医が院内に常駐し虚血性心疾患の診断・治療に当たっております。
何かお困りのことなど有りましたら当科にお問い合わせください。
心不全とは,「心臓が悪いために,息切れやむくみが起こり,だんだん悪くなり,生命を縮める病気です。」
これは、2017年に日本循環器学会・日本心不全学会から提唱された、心不全という病気の定義です。
心不全に対する治療は、高血圧症・高脂血症・糖尿病などといった危険因子のコントロールを早期からコントロールすることにより、心不全の原因となる虚血性心疾患や左室肥大・弁膜症の進展を予防するところから始まります。そして、いったん心不全を発症しますと、原因に対する治療や、再発予防の治療を行います。
しかし、心不全は徐々に進行していきますのでだんだんと心不全症状を繰り返すようになり、いわゆる慢性心不全となります。
心不全の原因の中には、心筋症という心臓の筋肉そのものが異常をきたす病気もあります。
当科では心筋症の診断のために心筋のごく一部を、カテーテルを用いて採取する心筋生検という検査を行っています。その際に一般的な光学顕微鏡による病理検査のみでなく、症例によっては電子顕微鏡を用いた超微形態学的診断まで積極的に行っております。
近く超高齢化社会が到来することや、最近のがん治療の進歩により、がんを克服する患者さんが増える時代になったことなどより、近年心不全の新規発症患者さんが増えており、「心不全パンデミック」と言われています。
心不全の予防・治療は今後もますます重要になってきます。
心不全の治療
当科では、心不全の原因を診断したのちに、それぞれの原因に応じた治療を行っています。
原因が虚血性心疾患の場合は、経皮的冠動脈インターベンション(カテーテル治療)を行っています。
また、弁膜症が原因の場合は、内服加療を十分行うことと並行し、心臓血管外科と連携して適切なタイミングで手術をお勧めしています。
そのほかにも、ペースメーカーによる心臓再同期療法も行っています。
また、近年心臓リハビリテーションの重要性が示されています。
当科でも心不全入院中から心臓リハビリテーションを導入し、心不全患者さんの予後改善や生活の質の改善に貢献しています。
退院後も外来での心臓リハビリテーション継続が可能です。
心房細動は不整脈の一種ですが、読んで字のごとく、心臓の一部である心房が痙攣して(ほぼ)動かなくなってしまいます。
決して稀な疾患ではなく、70歳以上では20人に1人、80歳以上では10人に1人が心房細動を患っているとされます。
年齢以外では、血圧の高い方、アルコールを多飲される方やもともと心臓病がある方に多く発症します。
すぐに命が奪われてしまう類の不整脈ではありませんが、心房が動かなくなることで、心不全(心臓のポンプとしての機能が低下している状態)になったり、心房血流がうっ滞して血の塊(血栓)ができる事があります。
血栓が血流にのって心臓から流れ出て、脳や心臓などの重要な血管に詰まってしまうと寝たきりや突然死の原因になります。
実に全脳梗塞の20%弱が心房細動に起因すると言われています。
治療はまず薬物治療を行います。血をサラサラにするお薬(抗凝固薬)と心房細動発作を止めたり予防したりする薬(抗不整脈薬)です。これらの治療は効果的ですが、心房細動の根治治療ではなく、いわば「心房細動とうまく付き合っていく治療」、すなわち「心不全や血栓症のリスクとうまく付き合っていく治療」となります。
また薬だけでは、発作のコントロールが難しく、特に自覚症状の強い患者さんでは、QOL(生活の質)が損なわれてしまう例にしばしば遭遇します。
近年、心房細動に対してカテーテル治療が積極的に行われる様になってきました。薬物治療と決定的に違うところは「根治治療」である事です。
特に自覚症状が強い方、薬が効かない方、副作用で薬が使えない方、心不全となってしまう方には積極的にお勧めしています。
具体的にはカテーテルと呼ばれる電極付きの細い管を右頸から1本と右脚の付け根から2~3本、心臓に留置します。その内の1本のカテーテルを使って心房細動の起源の90%を占めると言われる肺静脈をやけどさせます(この治療を肺静脈アブレーションといいます)。
当科では高周波、冷凍ガス、レーザーの3種類のエネルギーを駆使して肺静脈アブレーションを行っています。治療は静脈麻酔を使って意識のない眠った状態で行われます。
カテーテル治療は大変優れた治療である反面、侵襲的であり、頻度は極めて低いものの、重篤な合併症が起こる可能性があります。
カテーテルで心臓に傷ができたり、血栓がとんだり、心臓に接している食道や神経に過度にやけどが及んでしまう場合です。当院では慎重に手技を行うだけでなく、常に最新の器機を導入し合併症の低減に注力しています。
また万が一合併症が起きた場合でも、瞬時に脳外科、心臓血管外科、食道外科を含めた他科と連携して迅速な対応ができるのも大学病院ならではです。
当研究室では実臨床に基づく基礎研究に取り組んでいます。
すなわち研究のための研究ではなく臨床での経験・疑問をもとにBed to Bench & Bench to Bedを意識して最終的には臨床に還元できるように世界に発信しています。
心筋梗塞後心不全に対する我々の取り組み
現在の急性心筋梗塞治療として、急性期の冠動脈形成術による冠動脈再灌流や各種薬剤による心臓リモデリング抑制、心機能保持が期待されますが、心機能低下例においては現存治療に限界があります。
当教室では従来とは異なる治療法を開発、研究しております。今までに動物実験で心筋梗塞後にサイトカインのG-CSF, エリスロポエチン投与が梗塞心筋組織を修復・再生し左室リモデリングを改善、心機能を改善することを報告してきました。
また、再生医療の細胞治療として、間葉系幹細胞のMuse細胞を用いて、心筋梗塞後の心機能保護効果があることも報告しました。
細胞死、オートファジーに着目した心不全へのアプローチ
心不全の原因は虚血性心疾患や心筋症など様々ですが代償期を経て最終的に心機能不全(心不全)に陥ります。
近年では高齢化に伴い“心不全パンデミック”が叫ばれ世界的に問題となっています。
心不全に対する治療はデバイスや薬物治療の進歩により一定の効果を上げてきましたがまだまだ十分とは言えません。
我々の研究室ではこの心不全をテーマに研究しています。高血圧、糖尿病、心筋梗塞、慢性腎臓病、心筋症など種々の疾患動物モデルを用いて心不全の発症メカニズム、新しい治療法の開発を模索しています。
特に臨床現場から得られた心筋生検の病理像は大切であり、そこでみられる細胞死やオートファジーに関する形態変化は大きなヒントになります。
2016年に大隅良典博士がノーベル賞を受賞され、一躍注目を浴びたオートファジーに関する研究は当教室でも10年以上前から注目してきました。
我々は心筋オートファジーの役割を明らかにする中でオートファジーが心機能の維持に重要であり心不全治療のターゲットになり得ることを報告してきました。
これらの研究成果は日本循環器学会をはじめとする国内主要学会、米国心臓協会学術集会(AHA)、ヨーロッパ心臓病学会 (ESC)で報告を重ね、国際的な学術誌にも発表しています。
項 目 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 |
病床数 | 57 | 51 | 51 | 51 | 46 |
---|---|---|---|---|---|
年間入院患者数 | 945 | 713 | 743 | 880 | 855 |
平均入院日数 | 5.5 | 8.93 | 8.77 | 7.68 | 7.57 |
急性心筋梗塞患者数 | 52 | 61 | 50 | 75 | 58 |
心不全入院患者数 | 579 | 111 | 97 | 122 | 112 |
急性大動脈解離患者数 | 48 | 18 | 29 | 30 | 15 |
トレッドミルまたはエルゴメーター負荷試験件数 | 30 | 6 | 4 | 8 | 112 |
マスター負荷試験件数 | 49 | 10 | 13 | 5 | 4 |
ホルター心電図件数 | 635 | 426 | 485 | 454 | 345 |
経胸壁心エコー件数 | 5,418 | 5,508 | 6,170 | 6,307 | 2,875 |
経食道心エコー件数 | 251 | 148 | 171 | 141 | 129 |
冠動脈造影検査件数(PCIは含めない) | 757 | 369 | 364 | 415 | 356 |
冠血流予備量比(FFR)測定件数 | 51 | 93 | 59 | 90 | 51 |
安静時心筋血流シンチ件数 | 21 | 80 | 57 | 88 | 39 |
運動負荷心筋血流シンチ件数 | 27 | 5 | 0 | 1 | 0 |
薬物負荷心筋血流シンチ件数 | 261 | 316 | 323 | 303 | 227 |
肺血流シンチ件数 | 45 | 42 | 49 | 33 | 16 |
冠動脈CT件数 | 102 | 134 (FFR-CT 1) | 159 | 186 | 144 (FFR-CT 14) |
大血管CT件数 | 340 | 358 | 505 | 525 | 61 |
緊急PCI総件数(患者単位) | 57 | 65 | 51 | 73 | 33 |
待機的PCI総件数(患者単位) | 210 | 123 | 135 | 138 | 155 |
POBA件数 | 182 | 48 | 27 | 26 | 20 |
ステント(BMS)留置件数 | 6 | 0 | 1 | 0 | 0 |
DES(薬物溶出性ステント)留置件数 | 96 | 149 | 144 | 177 | 202 |
ロータブレーター件数 | 38 | 18 | 14 | 13 | 22 |
ダイアモンドバック件数 | NA | 7 | 6 | 16 | 13 |
IVUS件数 | 256 | 178 | 130 | 155 | 157 |
OCT/OFDI件数 | 17 | 17 | 44 | 49 | 59 |
AMI(急性心筋梗塞)患者に対する緊急PCI総件数 | 40 | 54 | 33 | 53 | 22 |
PTA件数(患者単位) | 47 | 49 | 27 | 46 | 31 |
心筋生検数 | 19 | 27 | 24 | 39 | 44 |
下大動脈フィルター挿入件数 | 19 | 4 | 5 | 2 | 1 |
IABP件数 | 26 | 14 | 16 | 30 | 12 |
PCPS件数 | 8 | 6 | 13 | 15 | 8 |
ペースメーカー植え込み件数(新規) | 39 | 25 (リードレス 4) | 22 (リードレス 7) | 32 | 33 |
ペースメーカー植え込み件数(交換) | 10 | 12 | 12 | 19 | 16 |
ICD植え込み件数(新規) | 2 | 8 (S-ICD 4) | 1 | 6 | 5 |
ICD植え込み件数(交換) | 8 | 1 | 4 | 7 | 2 |
カテーテルアブレーション件数 | 162 | 180 | 171 | 174 | 181 |
心大血管疾患リハビリテーション新規患者数 (心筋梗塞、狭心症、開心術後、心不全を含む) |
272 | 264 | 314 | 386 | 226 |