小児希少難病早期診断・予防医学講座

令和5年4月1日に寄附講座として、
「国立大学法人東海国立大学機構岐阜大学大学院医学系研究科　小児希少難病早期診断・予防医学講座」が設立されました。

本寄附講座における研究活動の目的は、岐阜県公衆衛生検査センター及び東海マススクリーニング推進協会と連携し、新生児マススクリーニング追加検査の普及、検査法の確立をしていくことです。そして、診療体制の整備、診療に習熟した医療者の育成も行っていきます。具体的には下記に挙げた5つの項目について目的を達成できるよう活動していきたいと考えております。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

① 検査法の確立
原発性免疫不全症(重症複合免疫不全、B細胞欠損症、アデノシンデアミナーゼ欠損症)、脊髄性筋萎縮症、ファブリー病、ポンペ病、ムコ多糖症I型、ムコ多糖症II型、ゴーシェ病、副腎白質ジストロフィーの検査陽性者の精密検査として疾患ごとの特異的臨床検査、遺伝学的検査を行うことで確定診断を試みる。（その際に現状では偽陽性者が多く検出されているが、検査のカットオフ値の最適化を行うことで検査の偽陽性を減らしていく必要がある。）
また治療薬があるにも関わらず、早期発見が困難な疾患に対しては今後もマススクリーニング検査体制の拡充を図っていく。

② 診療体制の整備
公的マススクリーニング対象疾患については県内の中核病院で初期診療の受け入れは通常の小児医療の範疇となってきているが、その中でも特に先天代謝異常症18疾患の陽性者は岐阜大学医学部附属病院小児科でほぼ全て診療を行っている現状がある。さらに追加検査対象となっている疾患のうち、脊髄性筋萎縮症以外の疾患についてはやはり岐阜大学医学部附属病院小児科でしか岐阜県下においては診療可能な施設が存在していない。そのため、新生児マススクリーニング検査陽性者の受け入れ体制の整備を進め、担当医の受け入れ能力が逼迫しないように、人員を拡充する必要がある。また岐阜大学大学院医学系研究科小児科学教室には診断に必要なフローサイトメーターやDNAシークエンサーを教室として保有しているが、迅速な確定診断のためにこの体制を維持していく必要がある。

③ 学生・医師教育
希少疾患、難病に関する診療について当学医学生や研修医、非専門医に対する教育活動を行う。特に原発性免疫不全症や先天性代謝異常症は、岐阜県だけでなく東海北陸地区全体を見渡しても専門医が非常に少ない疾患領域であり専門医養成は急務であると考えている。原発性免疫不全症の診断にはマルチカラーフローサイトメトリーや遺伝学的検査に関する知識の習得が必要であり、また先天性代謝異常症においても各疾患の理解、遺伝学的検査の結果解釈に専門的知識が必要となっている。脊髄性筋萎縮症は昨今高額な遺伝子治療薬が国内で使用可能となっているが、その活用方法、投与後のフォローアップ方法などに習熟が必要である。いずれも遺伝性疾患であるため臨床遺伝学の知識だけでなく、遺伝カウンセリングのスキルも必要となる。小児科所属の臨床遺伝専門医、指導医と連携して臨床遺伝の専門医研修を行うことも可能である。

④ 岐阜県及び近隣県での啓発活動
東海マススクリーニング推進協会と連携し、年1回医療従事者向けのセミナー、年1回市民公開講座を開催する。また追加マススクリーニング検査の契約が済んでいない分娩、新生児取り扱い医療機関に対して個別に説明する機会を設けて検査の普及を目指す。近隣県に対しては、すでに2022年5月から石川県内、2023年2月からは三重県内、2023年4月からは福井県内の医療機関にて追加マススクリーニング検査が開始されつつあるが、近隣の他県での開始に向けても啓発活動を行なっている。2021年度より岐阜県希少疾患ネットワーク会議を立ち上げており、岐阜県庁子育て支援課とも連携し、岐阜県先天代謝異常検査等事業検討会で追加マススクリーニングの成果を行政にも情報提供を行なっている。これらの活動を通じて、現在任意検査となっている追加マススクリーニング検査に対して公的補助が得られるように働きかけていく。

⑤ 日本人における発生率に関する疫学研究
新生児マススクリーニング追加検査対象疾患はそれぞれ希少疾患であるため日本における正確な発生率が不明な疾患が多い。本講座における研究成果と日本国内の他地域と連携した疫学研究により、日本人における各疾患の発生率を算出する。また日本人固有の遺伝子バリアントの特徴についての分析も行う。

Department of Early Diagnosis and Preventive Medicine for Rare Intractable Pediatric Diseases