理念

「絶滅の危機に瀕した・・・」というフレーズが，野生動物の枕詞のように使われるようになってから長い年月が経ちました。現実に，イヌワシなどの猛禽類を始め，多くの種や地域個体群が存続の危機にさらされ続けています。しかし，その一方で，ニホンジカのように中山間地域からの人間の撤退等にともなって増加し，生息環境破壊や農林水産業被害をもたらすようになった野生動物も存在します。また，2011年には傷病鳥獣として救護されたオシドリから，高病原性鳥インフルエンザウイルスが確認されました。これらの事例は，野生動物を「絶滅リスク管理」の対象のみならず，多様化した「被害リスク管理」の対象としても捉えるべき必要性が生じたことを示しています^（注）。すなわち野生動物には，保護や愛護など耳当たりの良い言葉のもとに感覚的に接するのではなく，科学性と計画性の保持を原則に，施策の効果測定（モニタリング）の結果を基盤とする「順応的管理」の発想で対応しなければならない時代に突入したわけです。このような時代の要請を踏まえ，本センターは，生態学，獣医学，感染症学，社会科学，教育学などの多様な視点を盛り込みつつ，岐阜県との有機的連携のもとで総合的な「野生動物管理の研究拠点」としての機能を果たします。

注：「野生動物管理（ワイルドライフ・マネジメント）」は，個体数調整や農林水産業被害など，人間社会が蒙る被害への対応と認識されがちです。しかし本来は，絶滅リスクなど，野生動物が蒙る恐れのあるリスクへの対応も含んだ概念として位置づけられています。

目標

野生動物管理学研究センターは，野生動物管理や生物多様性保全に関わる諸研究を推進するとともに，野生動物を含む自然環境に関わる教育と文化活動を幅広く展開します。センターの設立の契機となった21世紀COEプログラム「野生動物の生態と病態からみた環境評価（2002-2006年度）」は，世界に通じる教育研究拠点形成と人材育成を主要な目標としておりました。今後ともこのプログラムの趣旨を堅持し，大学附属のセンターとして地域のみならず国際貢献も視野に入れた「野生動物管理に関わる教育研究の拠点としてのモデルケース」の構築を目指します。

沿革

平成15年11月	「COE野生動物救護センター」として設立 文部科学省の岐車大学21世紀COEプログラム「野生動物の生態と病態からみた環境評価」の事業推進拠点として設立されました
平成19年4月	「岐阜大学応用生物科学部附属野生動物救護センター」として改組 岐車大学21世紀COEプログラムが平成19年3月末日をもって終了したのを受けて学部附属のセンターとなりました
平成21年4月	「岐阜大学応用生物科学部附属野生動物管理学研究センター」として改組 「野生動物医科学分野」と「生息域管理学分野」を設置し、生産環境科学課程や食品生命科学課程の教員も運営協議員/併任教員として参画することになりました。傷病鳥獣救護は「野生動物救護室」にて従来通りの対応をすることになりました（同室は平成24年3月に閉鎖し，救護活動は終了しております）。センターは、こうした視点を強く認識し、関連諸分野との連携を深めた総合的な「野生動物研究拠点」として発展を目指します。
平成23年6月	北海道大学人獣共通感染症リサーチセンターとの特定共同研究の採択による規程改正「野生動物医科学部門」「生息域管理部門」「人獣共通感染症研究部門」の3部門体制となりました。
平成24年５月	岐阜県からの寄附により「寄附研究部門（鳥獣対策研究部門）」を開設し、４部門体制となりました
平成29年4月	平成29年3月で鳥獣対策研究部門が終了し、4月から寄附研究部門「鳥獣管理の教育と普及」となりました。