食道外科
特色
食道は、喉(咽頭)と胃の間をつなぐ管状の臓器で、口から食べた食物を胃に送る働きをしています。われわれ食道チームでは、食道に発症する悪性疾患(がん)をはじめ、良性疾患(アカラシア・良性腫瘍)など様々な疾患に対して治療を行っています。特に食道がんは、がんのなかでも治りにくく、手術も困難となるため、専門的な治療が必要となります。早期の食道がんの場合は消化器内科による内視鏡治療が可能ですが、進行した食道がんの治療は手術・放射線・抗がん剤が3本柱です。手術は長時間を要し、体の内外の傷も大変大きなものとなります。手術する患者さんだけではなく、進行している状態であったり、高齢であったり、他の病気をかかえておられたりと、手術できない患者さんもいらっしゃいます。しかし、われわれは、内科・放射線科・頭頚部外科をはじめ、さまざまな診療科と連携して患者さんにとって一番よい治療法を選択することをスローガンに、あらゆる食道がんの患者さんを診療しようと考えております。さらに詳細は、岐阜大学腫瘍外科ホームページ診療内容(食道外科について) https://hosp.gifu-u.ac.jp/2geka/information/syokudou.htmlもご覧ください。
スタッフ
- 講 師田中 善宏
- 助教・大学院佐藤 悠太
- 助 教浅井 竜一
診察実績
当科における食道疾患の治療患者数の推移
主な疾患
食道癌
早期の食道がんは、症状がほとんどありませんが、しみる感じや違和感を感じることもあります。食道がんが進行すると喉のつっかえ感、体重減少、声がかすれるなどの症状が現れます。
当科での食道がんに対する治療方針
Stage 0/I → 内視鏡治療、胸腔鏡下食道亜全摘、化学放射線療法
Stage II/III → 術前化学療法 + 開腹もしくは胸腔鏡下食道亜全摘
Stage IV → 化学療法もしくは化学放射線療法の効果が得られれば根治切除術+術後化学療法の追加
治療の詳細
- ・内視鏡下粘膜切除術
- 粘膜内に留まっている早期がんに対して、内視鏡で食道の内側から切除する方法です。当院では消化器内科が行います。内視鏡切除の結果次第で、われわれ外科での追加切除術が必要となることもあります。
- ・手術
- 食道がんを含めた食道の切除と、転移を来しうるリンパ節を取り去ることからなります。食道を取り去った後は、胃を持ち上げて頚で吻合して食べ物が通経路を再建します。食道手術は頚・胸・腹部におよぶ広範囲なものとなり、外科手術の中でも最も大きな手術の一つになります。われわれは低侵襲な胸腔鏡下食道切除術を積極的に行っており、手術後の合併症を予防するさまざまな取り組みを行っております。
- ・放射線治療
- 毎日1回、放射線照射装置に入り、胸・頚に放射線をあてます。基本的に1週間に5回(月曜~金曜)、合計で6週間必要とします。その後の副作用からの回復期間や治療の効果判定などに1か月ほど必要とします。当院では放射線科が行います。
- ・化学療法(抗がん剤)
- 化学療法には手術を前提とした術前化学療法と、切除不能がんに対する化学療法があります。従来は2種類の抗がん剤を用いた方法が主体でしたが、われわれは、3種類の抗がん剤を組み合わせた治療(Biweekly-DCF療法,DGC療法)を行い、より良い治療効果が得られています。
食道手術①
食道手術②
食道手術③
当科の取り組み
- ・低侵襲手術と緻密な周術期管理
- 従来の開胸手術と比較し、傷が小さく、術後の回復も早い胸腔鏡下食道手術を積極的に行っています。さらに食道がんの周術期において適正な輸液計画を怠ると、肺水腫・心不全・縫合不全・肺炎等重篤な合併症を併発します。われわれはSVV(stroke volume variation)値を指標とした周術期循環管理を行っています。SVVの変動幅が最も的確かつ早期に反応したデータをもとに、術中からSVVを10%前後・ScvO2を70%以上に維持することで、P/Fratioの改善・肺炎の発生頻度減少・早期腸管運動の早期回復と、頻拍発作発症の軽減が実現されています。
- ・手術後の合併症、特に縫合不全を限りなくゼロに近づける再建方法
- われわれは胃壁内の血管ネットワークを利用した亜全胃再建という方法を10年以上行い、良好な成績をえています。縫合不全率は0.6%です(全国平均は10~15%)。
吉田和弘,他: 胃管再建術のコツと要点 安全な頸部食道亜全胃 手縫い吻合法 臨床外科 71(9):1087-1091,2016
田中善宏,他:外科治療 食道再建 胃を用いた再建. 日本臨牀. 76(8):311-319, 2018
今井健晴,他:縫合不全ゼロを目指す亜全胃を用いた再建術. 手術. 73(6):877-884, 2019
Kazuhiro Yoshida, et al. Subtotal stomach in esophageal reconstruction surgery achieves an anastomotic leakage rate of less than 1%. Annals of Gastroenterological Surgery. 2020 - ・3剤併用の化学療法
- Biweekly-DCF療法やDGS療法のレジメンを開発し実践することによって、進行食道癌患者さんに奏効率93.8%という高い治療効果をえています。
Tanaka Y, et al. Phase II trial of biweekly docetaxel, cisplatin, and 5-fluorouracil chemotherapy for advanced esophageal squamous cell carcinoma.Cancer ChemotherPharmacol. 77(6):1143-52, 2016.
Tanaka Y, et al. Phase II trial of neoadjuvant chemotherapy with docetaxel, nedaplatin, and S1 for advanced esophageal squamous cell carcinoma.Cancer science. 107(6):764-72, 2016. - ・積極的な栄養管理
- 進行食道がん患者さんは栄養状態が低下している場合がほとんどです。当科では積極的な栄養管理を併用して治療を行っております。手術後には経腸栄養を併用することで体重減少や筋肉量の減少を最小限に抑えることが可能となっています。
田中善宏,他:,がん患者の栄養管理‐コンプライアンス向上のための方策-臨床腫瘍プラクティスVol12 No1, 2016
亜全胃再建の工夫
亜全胃の血流
良性疾患
- ・食道アカラシア
- 食道アカラシアはまれな病気のため、治療が可能な病院が限られています。当院では内服治療やバルーン拡張で効果がみられず、長年の症状にお困りの患者様に対して、腹腔鏡下食道括約筋切開手術を積極的に行っております。傷も小さく、体にやさしい手術を心掛けております。食道アカラシアでお困りの患者様はぜひ当科へご相談下さい。
その他、良性腫瘍
食道平滑筋腫をはじめ、様々な良性疾患で手術適応がある患者さんに対して、胸腔鏡下の腫瘍切除を行っております。
さらに詳細は、岐阜大学腫瘍外科ホームページ 診療内容(食道外科について)
https://hosp.gifu-u.ac.jp/2geka/information/syokudou.html もご覧ください。