気になることば
73集
一覧
分類
| 「ことばとがめ」に見えるものもあるかもしれませんが、背後にある「人間と言語の関わり方」に力点を置いています。 |
|
20000829
■「神坂」
どうもご無沙汰いたしました。すっかり、夏休みをいただいてしまいました。といっても、この次の更新はいつになることやら…… ともあれ、一つだけ、これは! と思ったことがあったので、書いてみます。
8月中旬に中央高速を往復する用事がありました。長い長い恵那山トンネルに入るまえには、パーキング・エリアで気分をリフレッシュすることにしています。直前のでもいいのですが、やはり、お店があった方がいいかな、など、いろいろ迷いますが、それも楽しみのうち。
で、そのパーキング・エリアのひとつに神坂パーキング・エリアがあります。問題は「神坂」の読み方なのですが、カミサカではなくミサカだそうです。ははぁ〜ん、ひょっとして、これは…… ちょっと思い当りました。
『万葉集』には、「足柄の み坂たまはり 顧(かへり)みず 吾(われ)は越(く)え行く……」(4372)という言い方があります。これは、「峠や坂はそこを領する神のものとする意識があり、その許しを得て通行させて頂く」(岩波・旧大系本・4)と解釈できるそうです。坂を、神の所有物として考えるわけですから、「み坂」の「み」は、美称とか敬称とか考えていいものでしょう。「御」をあててもよいところです。
こうしたことを踏まえて、ミサカと呼ばれていた地名に「神坂」の字を当てたのではないでしょうか。「神」の字を用いたのは、よりダイレクトに神の所有であることを示そうとしたのでしょう。とすると、かなりの勉強家がつけたのかな。江戸時代の国学者とか……
といったことを思いついたのですが、はたして、どうでしょうか。
この暑いさなかに(お天気情報で、岐阜の最高気温予想などを見てくださいね。ぜひぜひ)、仕事場のクーラーが壊れたりして、何分、やる気がそがれてしまって……
そうそう、神坂PAから歩いて馬籠の宿場に行けるそうです。町並み探訪を趣味にしようか、と思っている私にはよい情報です。地理関係はこちらを。
20000808
■いっこく堂の秘密?
大変なものをいただいてしまいました。TDL寺子屋で話したときのビデオです。
一月ほど前にいただいていたのですが、自分の顔や体型を見るのがつらくて(?)、今日、初めて見ました。いやぁ、話すの、下手ですね。断言してよいようなところも、ぼかした言い方してますし…… 断言調で威圧感を与えてはいけない、と思って話しはじめたので仕方がないのですが。
手を無闇に上下させる、ということはしていません。これは日頃から注意していますので。もし、手が挙がってしまったら、意味のあるような動きにしています。が、ビデオを見るかぎり、どうも動きに切れがない……
あれ? こんなこと、言っていたのか、と思うこともありました。忘れていたんですね。その一つに、腹話術で有名ないっこく堂さんの話がありました。このころから、話題にしていたんだ、と再確認。ただ、これは、寺子さんの方から振られたのでちょっと違うかな。例の衛星中継のことでした。
さて、私がいっこく堂で注目しているのは、(どなたもそうかもしれませんが)バマ行音の発音です。唇を閉じて開くことで音にするので、かならずや、唇が動くだろうと思っているのですが、彼の唇は動きませんね。見事です。では、どうやってバマ行音を実現しているのでしょうか。
唇を使わずに「閉じて開く」をどう実現するか、ということですね。唇以外に「閉じて開く」ができそうな、柔軟な動きができる部位…… 舌しかありません。きっと彼は、舌先と上唇の内側で「閉じて開く」をしているのでしょう(「閉じて開く」のと同時に、肺からの息を「せき止め、開放する」こともしています。そうなるとますます舌しか候補がありません)。
そうなると自分も真似してみるのですが、なかなか思うようには行きませんね。さらにコツとか、習練とかが必要なのでしょう。
20000731
■デジカメの使い方
昨年の秋に、デジカメというものを買ってみました。FinePix1700Z というヤツです。ここで採り上げるのですから、どれだけ日常の仕事に使えるか、をお話します。
実は、最近、これでメモを取ることが多いんです。最高の分解能は 1280×1024 ですが、640×480 でも結構いけますし、画質も fine の一つ下 normal でも十分見られますので、32MBのコンパクト・フラッシュでもかなり撮れます。では、640×480 で、画質 normal の画像を見ながらお話します。もちろん、レタッチ・ソフトなどで手はいれず、デジカメの出力そのままのサンプルを見ていただきます。
たとえば、A5版2段組の学術雑誌を撮ってみたのがこれ(90kb)です。文字も読めますね。ストロボを焚いてますが、ちょっと暗めに写っちゃいました。でも、まあ、十分でしょう。デジカメの液晶で見るのはつらいですが、1700Zですと、4倍まで拡大できますし、拡大面をあちこち移動して見ることも可能で、出先など不如意な環境では頼りになります。
そして、こちら(92kb)は、自宅のノート・パソコンの画面です。12インチで、周囲をちょっと入るくらいにして撮りました。四隅がすぼまっているので、CRT かと思われるでしょうが、レンズの歪曲によるものです。これは、ストロボなしで撮りました。ちょっとしたノウハウもありますが、ともかく、手ブレに十分気をつけます。テーブルに両肘をついて、撮りました。
私の場合、共同の資料室で調べ物をするときに使う機会が多いですね。パシャっと撮っては自室にもどり、液晶画面を見ながら入力したりします。辞典ですと数段組かになっているので、デジカメの横長画面とは相性がいいです。
自分でも変だな、と思うのが、使用頻度のわりには、パソコンに取り込んで見ることがあまりないことでしょうか。やるとすれば、フロッピィ・ドライブ経由ですが、読み込み速度がおそかったりで、けっこう、億劫です。おすすめの方法は、ケーブル一本でテレビの外部入力端子につなぎ、明暗などもテレビのつまみで調整しながら見ることでしょう。
20000728
■『私の青空』のことば
青森県の西半分が津軽地方です。そこの言葉には以前から触れる機会があったのですが、やはり難しい言葉だと思います。それでも、最近は、聞きなれて分かるような気がしてますが、話すことは思いもよりません。でも、話してみたい、という気持ちはあります。なんといっても、スピード感には圧倒されます。
「機関車のヒューズが飛んで油圧が下がったのだそうです。いま修理しているから、しばらく待ってください、と言ったのですよ」 |
そうそう、こういう感じです。スピード感というのはあたってないのかもしれませんね。縮約していると思わせる感じ、でしょうか。
で、機会があれば、NHKの『私の青空』を見たりしてます。物語りは、下北半島の先端の一つ、大間と、東京の築地を行ったり来たりするので、津軽弁に近いものを聞くことができるからです。
主演の田畑智子さんは、たしか、京都出身だったように思います。で、共通語も話せて、下北弁のセリフを話して…… なんだか、うらやましいような、感激するような…… また、彼女が築地でしゃべっている言葉が、なんともいい感じです。共通語なんだけれど、アクセント・イントネーションに青森の香りが残っているような気がするんですね。もちろん、大間の方が聞いたら変だと思うのかもしれませんが、私には、いい線行っているように聞こえます。考えれば、これもすごい。指導は「方言指導」の方がされているのでしょうか。
さて、ドラマでは、大間の登場人物は、大間弁を話すわけですが、多分、テレビ放映向けに、わかりやすい大間弁になっていることでしょう。とくにテンポの上ではそうなのではないか、と思います。私自身、大間には行ったことがありますが、そこの言葉に接したことはありません。ですから、実際にゆっくり話しているのかもしれませんけれど。
20000722
■「あずましい」
NHK教育で、「ふるさと日本のことば」という番組をやっていますが、昨日深夜は青森県の回でした(再放送)。そのなかでアズマシーもとりあげられていました。なかなか共通語訳しにくい言葉ですが、とりあえず、「ほっとする感じだ、くつろげる感じだ」といったような意味だと解しています。
そこで、番組の作り方として感心したのは、何人かの人に「あなたにとってアズマシーと感じるのは、どういうときですか」とインタビューしていたことですね。一人の人からいろいろ聞くのもいいのですが、やはりいろんな人に聞くのがいいような気がします。いろんな人のニュアンスをこちらが総合してイメージできるからです。
誰か一人の人に聞いても、それはそれでいいのですが(だって、こちらの情報量はゼロなわけですから)、でも、なんだか隔靴掻痒の印象を持つものですので。
ところで、アズマシーですが、実は、ちょっと面白い話を聞いていたのを思い出したので、書きはじめたのでした。京都のとある研究所で話をする機会があったのですが、話が一段落して出席した方々といろいろ雑談をしているときです。素晴らしい話を聞かせていただきました。アズマシーが、京都だったか大阪だったかの大学で、学生たちに盛んに使われているというのです!
スゴイ! すばらしいですね! どんな地方に言っても自分たちの言葉を通す、と関西(大阪というべき?)の人は言われます。その人たちが、アズマシーを使っているんですよ。それにしても、誰がもたらしたのでしょうね。同業者で弘前大学から移られた方がいらっしゃるのですが、その人かな。あるいは、学生さん? 伝播経路を知りたいものです。
なお、「ふるさと日本のことば」の索引を飯間さんが作ってらっしゃいます。こちらです。
ところで、担当の研究者は同窓の先輩、佐藤和之さんでした。ご無沙汰してます。お元気そうでなりよりです! あの背広は、ベージュですか、黄色ですか? 青森のつぎは鹿児島の回。こちらは木部暢子さん。バイタリティと守備範囲の広さには、いつも敬服しております。(24日、リンクなど補)
20000721
■ワープロの恩恵
まぁ、いまさらではありますが、私の場合を書いておきます。
ワープロを使いはじめたのは大学院生のときでした。研究室にあるワープロ(オアシス100Fだったでしょうか)に触らせてもらえるようになり、ついで、自分用にオアシス・ライトFROM7だったでしょうか。液晶など4行40字でしたね。さすがに見づらく思い、ほどなく、オアシス30SFを購入しました。
ワープロの、なにがありがたいって、もちろん、編集操作、美しい印刷ということがありますが、よくよく考えてみると、活字で表示されることだろうと思っています。もう少しいえば、「つ」なら「つ」が、「め」なら「め」が、いつ見ても「つ・め」であることでしょう。
これでは何がなんだかわかりませんね。ちょっと説明。実は、私は、かなりの悪筆で、思いつきを忘れぬうちに書き留めようとすると、とんでもない字になります。あとで読めないんですね。まぁ、じっと見つめていれば分かってくるのですが、そんな手間をかけていたのでは、まとまる考えもまとまりません。ですから、常に、懸案のテーマや課題を頭の中でなんとか覚えこんで、生活していた(ような)のです。ただ、それはあまりに、精神衛生上、よろしくない。が、ワープロを使うまでは、そんな日々をすごしていました。
ところが、ワープロを導入してからは、さっぱり忘れられるようになった。精神衛生の向上が可能になったんです。どうしてかと考えてみると、ワープロで書くには、ワープロの前にすわって電源をいれて…… といったことが必要になります。したがって、何か書くときはワープロの前から離れられません。でも、いいんです。いつ見ても、きちんとした字で表示されるので、読むのに苦労はありません。すっと、脳内メモリーに入ってきますから。
こう考えると、「じゃ、ワープロ買わなくても、清書に精を出せばいいじゃないか」と自分でも突っ込みたくなりますが、「いや、それほど、マメな性格ではないだろう」と再び自分で突っ込み返します(何をやっているんでしょうね)。まぁ、実際、手で字を書くという作業は、なかなかに労力のかかることですし、誰しも納得していただけるかと思います。思い出しましたが、後輩に熱心な人がいて、一つの論文を脱稿するのに、ついやした原稿用紙の厚さが1メートルにもなった、と聞いたことがあります。それ以来、彼には、尊敬の念をいだいています(まじめに)。
というわけで、ワープロは手放せません。あるいはこれまで書いてきた機種からお察しの方もいらっしゃるかと思いますが、親指シフターです。「思考のスピード」に近いという高尚な理由ではなく、はじめて触れたキーボードが親指シフトだったからです。もちろん、タッチ・タイプしてます。たまに打鍵ミスしますけれど。
最近、物忘れをするのは、ワープロのせいかも。記憶力がきたえられていない?
20000719
■「語学上の問題点」
学生が作ってくる演習の発表資料で、ときどき見受ける表現です。「担当範囲の翻刻と難解語の注釈は終わりました。いよいよ本題にはいりますよ」というところで出てきます。特に私は小言を言ったりしませんが、実はちょっとだけ違和感を持っているんです。
「語学」というときの、私たちや学生のもっているイメージを考えてしまうのですね。教養科目の語学のイメージと言えばわかりやすいでしょうか。初歩的なところでは「三人称の単数現在形では−sをつける」とか、「これこれの動詞は不変化で、過去形・過去分詞形の区別はない」といったことが思い浮かびます。もう少しいえば「言語はそうそうシステマティックではない、例外もある。例外があるから〈人間の言語〉なんだね」といった警句(?)も連想されます。
となると「語学上の問題点」との標題のもとには、そうした例外の部分だけに注目したものや、「わたし、わし、おれ、ぼく、わっち」などといった多様な代名詞の羅列をするのではないか、と思ってしまうわけです。
しかし、私が演習で意図しているのは、そういうことがらでは、ありません。あえて、はっきりいえば、言語がシステマティックであることをまず理解してもらう、ということです。それが済んだうえで、例外的な事項に目を向け、どのような点で例外なのか、例外が出てくるのはどういうときなのかを学んでいく、というものなんですね。
言語がシステマティックであるということは、かなりの部分で認められることですが、意外に気づかないもののように思うんですね。それをまず、実体験してほしい。文法の参考書に書いてあることだけを鵜呑みにして、丸暗記しても本当には身につかない。外形だけを外形のまま、触ったにすぎない。それでは、あまりにも味気ないじゃありませんか。そこで、自分で調査し、システムを発見することを通して、実感してもらいたい、ということです。
これまで、「語学上の問題点」という表現について、ふさわしくないぞ、と注意した記憶はないので、きっと私が思うような発表をこれまでしてきてくれていたんだろうと思っていますけれど。
*必ずしもことばだけが話題の中心になっているとはかぎりません。
">
・金川欣二さん(富山商船高専)の「言語学のお散歩」
・齋藤希史さん(奈良女大)の「このごろ」 漢文学者の日常。コンピュータにお強い。
ことばにも関心がおあり。