いやしくも焚き火を趣味とするからにはふだんの精進が求められるのだ。自慢ではないが、私の頭の中では片時も「燃えしろ」なることばが離れることはない。「糊しろ」「縫いしろ」などの言葉から私が連想した用語で、「燃えるもの」ほどの意味だ。庭を掃除する際は、燃えしろになるか、ならぬかで対象を区別しているのである。(長野泰一「内証の話焚き火道楽」」『耳ぶくろ '83年版ベストエッセイ集』文春文庫・153ぺ)この例は、新たな言葉(単語)を作った人の証言が現れている点で面白い。前にも書いたようになかなか新しい語の作り手にはなれなかったり、言語変化の最初の人をつきとめるのは難しいが、こういう例があると助かる。ただし、ある程度の使用者を獲得した言葉でないととりあげにくいのではあるが。
滋味というのは、うまい味、うまい食物のことをいうのであって、のちに比喩的にこの言葉を文章や話のほうにもってきて、滋味あふるる講話などというようになった。しかし、いかにうまい話でもそれを聞いてうまいものを食ったような気分にはてれないんだから、話のほうは大変にお上手な、結構なお話でしたといったほうがよく、滋味は食物専門にしておいたほうが紛らわしくなくていい。(田中雅夫「滋味あふれる法話と蛤」『午後おそい客 '84年版ベストエッセイ集』文春文庫・161ぺ)1年生の概論などでは、「言葉の乱れ」についてなにがしかの話をする。まぁ、だいたい、目くじらを立てないで冷静に判断しましょうや、と話す。
最初の英語辞書 英語で書かれた最初の日本紹介本 日英対訳会話集 英語にける日本語借用語の初出年 最初に印刷された英和語彙集 最初に印刷された日本人の英文 英語辞書に最初に収録された日本語普段、あまり首をつっこまない分野だけに、再確認したり、新たな知見が得られたりで勉強になった。
抄物では(中略)「ミタムナイ」のみではない、「行キタムナイ」のごとく「動詞連用形+トウモナイ」はほとんど「連用+タムナイ」という形をとる。関西の「だんない」の語源についての一節。壽岳さんは、「大事ない」からという語源説を音韻変化の上から、「段ない」からの説を意味・心理の上から無理なものとする。そこで抄物の例を手掛かりに新案をだしたのである。文章にするとわかりづらいが、次のようなことになる。
私は翻然と悟るところがあった。現在使う「ダンナイ」はもともと「ダムナイ」なのではなかったろうか。その「ダム」は「ドウモ」なのではなかろうか。(中略)「ドウモナイ」や、「ドモナイ」も今よく使われる。(壽岳章子「私説 抄物研究史」『国語論究5中世語の研究』(明治書院・1994。166ぺ)
〜トウモナイ:〜タムナイ素晴らしい論文に出会うと、自分が馬鹿に思えることがあった。手掛かりはすべて提示されていたのに、読み解けなかった場合などはなおさらだ。王手をかけたら、遠くの角行がびしっとこちらをにらんでいたというところか。
ドウモナイ: ダムナイ(推定形。→ダンナイへ)
司会者「最近の風潮に対するものでしょうかね」携帯電話の呼出音とみたようだ。が、いまどきの電話はりんりんとは鳴らない。では、なぜ、電話の呼出し音をりんりんというのか(試しにお知り合いに聞いてみてください。多分、りんりんというのでは? 同趣のことを高橋克彦かだれかのエッセイで読んだような気がする。御存じの方はお知らせください。まさか、フィンガー5とか小泉今日子の影響もあるのだろうか。)。
アシスタント嬢「最近あちこちでりんりん鳴ってますからね」
(1)ヘナチョコ(埴猪口)の義。明治一四、五年(一八八一、二)頃、新聞記者の野崎左文の用いた、外部に鬼面を、内部にお多福面を描き、酒を入れるとじゅうじゅう音がして酒を吸い泡立ったという楽焼の杯から[大言海]とあった。物が最初で、「未熟者」などの意味はこの転義らしい。『広辞苑』などもそれによっている。 しかし、なんだか嘘っぽいなぁ、この語源説。かといって、明治以前の例を見つけたわけではないが。
実際に中国人が手書きで書く時にはすべての筆画を続けて書くから、その字は結果的に はカタカナの「ケ」と非常によく似た字となる。これが日本語て「ケ」を「個数」の意味 で使うようになった由来であり、もともとは中国から輸入された荷物の箱などに「个」と いう字が書かれていたのを、カタカナの「ケ」と誤読したのがその始まりであろう。(『ネ パールのビール '91 年版ベスト・エッセイ集』文春文庫・1994。306ぺ)『日本国語大辞典』ではこのコースで日本語に定着したのは「君ヶ代・越ヶ谷・八ヶ岳 」の「が」だということだが。ただしもとの字は「箇(→个)」のよし。