[トム・ジョーンズ] [ノーサンガー・アビー] [ダーバヴィル家のテス] [荒涼館]
放送大学岐阜学習センター 平成26年度第2学期 面接授業 内田勝(岐阜大学地域科学部)
テレビドラマで読むイギリス小説 第2部 (2014年011月1日 11:20-12:45)
フィールディング原作『トム・ジョーンズ』[後半]([前半]はこちら)
引用文中の[…]は省略箇所、[ ]内の文字は原文のルビ、【 】内は私の補足です。
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【放浪するトムは、自分の父親とされていた元教師のパートリッジに出会う。パートリッジは、トムの父は自分ではないと言い、トムの旅の仲間に加えてくれと志願する。二人は道中で、暴漢に襲われていた婦人を救う。ウォーターズ夫人と名乗るその夫人が、トムの母親であるはずのジェニー・ジョウンズにほかならないことは、ドラマ版の視聴者には明らかだ。何も知らないトムとウォーターズ夫人は、アプトンという町の宿で共に一夜を過ごすことになる。】
【アプトンの宿では、フィッツパトリック氏というアイルランド紳士が、逃げた妻(実はソファイアの従姉妹でもあるフィッツパトリック夫人)を捉えようとして、宿の女中の勘違いのため、トムと一緒に寝ているウォーターズ夫人の部屋に乱入する。】
[1]紳士は扉に錠がおりているのを知るや、猛烈な勢いで体あたりを食わせたから、錠はたちまちケシとんで、扉はバターンと押し開かれ、紳士は頭から室内にころがり込んだ。
彼が立ちあがる暇もなく、【ウォーターズ夫人の】寝台からヌーッと起きあがったのは――どうも恥ずかしいまた悲しい気持で話を進めねばならぬが――ほかならぬ我らの主人公、食いつきそうな声音で紳士にむかい、何者だッ、かくも無作法にわが室【へや】に闖入[ちんにゅう]するとはなんとしたことッ、と詰問する。
瞬間紳士は室をまちがえたと考えて、詫びを言って退こうとしたが、そのとき突然、明るい月の光で目に入ったのは、乳押さえ【原文は stays。コルセットでは?】、ガウン、ペティコート、帽子、リボン、長靴下、靴下どめ、靴、木靴、そのほかが床[ゆか]に散らばったありさま。これらの品々に彼のもって生まれた嫉妬心は猛然と呼びさまされて、怒り心頭に発した彼は口もきけぬ体[てい]たらく。(フィールディング『トム・ジョウンズ(三)』p.14)
[2]【アプトンの宿に偶然泊まったソファイアと侍女のオナーは、トムが同じ宿に泊まっており、しかも彼が他の女(ウォーターズ夫人)と一夜を共にしていることを知る。】
今は侍女と二人だけになって、彼女はこの腹心の侍女に言った、「私こんなに気が楽になったことはないわ。あの人は悪い人である上に、卑しい軽蔑していい人だわ。[…]。もう私、軽蔑してやる。オナー、ほんとうに私、気が楽になったわ。すっかりサバサバしたわ。」そう言ってよよと泣きくずれた。(フィールディング『トム・ジョウンズ(三)』p.34)
【ソファイアは旅の途中でばったり従姉妹のフィッツパトリック夫人に出会い、彼女の知り合いの貴族の屋敷に滞在するが、フィッツパトリック夫人がこの貴族と不倫をしているのに気づいて嫌気がさし、遠縁のベラストン夫人の屋敷に移る。トムはフィッツパトリック夫人が滞在している屋敷を訪ねるが、すでにソファイアは屋敷を去った後だった。フィッツパトリック夫人とベラストン夫人はトムをソファイアから引き離すべく協力するが、ベラストン夫人はトムが気に入ってしまう。】
[3]【トムは謎の人物から招待された仮面舞踏会で、ある女性に話しかけられる。その女性がフィッツパトリック夫人だと思ったトムは、ソフィアの居所を教えてもらうため、彼女が滞在している家まで着いて行く。】
婦人はハノウヴァー・スクウェアからほど遠からぬある通りで轎【かご】をおろさせる。と、すぐに扉が開いて彼女は運び入れられ、ジョウンズもツカツカと後に従った。
ジョウンズとその連れが通ったのは立派な調度の暖かい一室である。と、女性は[…]突然に、あなたといっしょでは誤解されやしないかしら、こんな夜中に二人だけでいっしょになんかいて世間はなんと思うでしょう、と言う。がそういう重要な問いに直接は答えず、ジョウンズは執拗[しつよう]に面を取ってくれとせがむ。結局は押し勝ったが、現れたのはフィッツパトリック夫人ならぬ、ベラストン夫人その人の顔であった。
この後の会話はありふれた平凡な話ばかりで、それは二時から朝の六時までつづいたが、その委細を語ることは退屈なだけであろうし、多少ともこの物語に重要なことだけを述べれば十分である。それは夫人が、なんとか骨を折ってソファイアを見つけて二、三日中にジョウンズに会わせると、一度会ったら必ず別れるという条件つきで約束したことで、その話が完全にきまり、さらに今夜この同じ場所でもう一度会うという約束ができると、二人は別れて、夫人はその邸へ、ジョウンズは宿へと引き上げたのであった。(フィールディング『トム・ジョウンズ(三)』p.238)
【ここで作者フィールディングはあいまいな語り方をしながらも、二人の間に性的交渉があったことを伝えようとしている。ドラマ版ではこの点がかなり露骨に描かれている。】
[4]【ベラストン夫人の愛人となったトム。】
今ではもう我らも隠し得ないが、ベラストン夫人がはげしい溺愛を見せて彼の上にさまざまの恩誼[おんぎ]を山と積むのである。夫人のおかげで今では彼はロンドンきってのしゃれた服装をしていたし、[…]今まで夢にも知らなかった富裕の状態に昇格していたのである。(フィールディング『トム・ジョウンズ(三)』p.245)
[5]【ベラストン夫人はソファイアをトムに会わせまいとするが、彼らは偶然再会してしまう。抱き合う二人。】
「いとしいソファイア、どんなに苦しくてもぼくはあなたをあきらめる。思い止まる。あなたのためにならないような望みはこの胸からむしり取る。愛の気持はいつまでも持ちつづけるけれど、それを口には出すまい。あなたから遠く離れて、どこか外国の、ぼくの絶望の声もため息も絶対にあなたの耳を悩まさない場所からあなたを思いつづけよう。ぼくが死んだら――」彼はなおつづけようとしたが、さきほどから彼の胸にもたれて一言も発し得ずにいたソファイアの落す涙の前に、その言葉はとぎれた。彼はキスで涙をぬぐってやる。それをしばらく彼女はなすままに任せていたが、やがて我にかえるとおだやかに男の腕から離れて、あまりに切ない堪えがたいその話題から話をそらそうと、今まで聞く折のなかった一つの質問を発する気になった。「どうしてこの部屋へは?」という問いである。彼はどもり、どう考えても彼女の疑惑を招きそうな答えをしにかかった、ちょうどそのとき突如ドアが開いて、はいってきたのはベラストン夫人である。(フィールディング『トム・ジョウンズ(三)』pp.256-7)
【ベラストン夫人の愛人の一人である貴族のフェラマー卿が、ソファイアに一目惚れしてしまう。ベラストン夫人は、フェラマー卿を利用してトムとソファイアの仲を引き裂こうとする。】
[6]【ベラストン夫人からソファイアを手篭めにするようそそのかされたフェラマー卿が、ソファイアの部屋に忍び込む。ソファイアは必死に逃げようとする。】
「あなたは、あなたは、是が非でもぼくのものだ。」――「あだな望みはお捨てください。私もうお言葉に耳は貸しません。手をお放しください。今すぐ失礼いたします。二度とお会いいたしません。」――「では今の瞬間をできるだけ利用しなければならない。あなたなしでは生きてゆかれないのだから。」――「何をおっしゃるのです。皆を呼びますよ。」――「かまいません。ぼくの怖いのはあなたを失うことだけです。あなたを失うまいために、ぼくは絶望のさし示す唯一の方法をとります。」そう言って彼は女を両腕に捕えれば、女はけたたましい叫びをあげる。当然だれかが何事かと馳せ参ずる順序だが、そこはベラストン夫人が、だれの耳にも届かぬように手配してある。
がこの時ソファイアにとって幸運なことが起こった。彼女の叫びを打ち消すほどの大きなわめき声が家じゅうに鳴りひびいたのである。「娘はどこだ? 畜生、今すぐ追い出してやる。どの部屋だっ。わしの娘はどこだ。この家にいることはわかってるんだ。生きているなら会わせろ。どこにいるんだっ。」この最後の言葉とともに扉がサッと開いて、はいってきたのは地主ウェスタン、例の牧師と、さらにとりまきの壮士の一団がつづく。
(フィールディング『トム・ジョウンズ(四)』pp.23-4)
[7]【トムは、どうすればうまくベラストン夫人と別れられるかを、親友のナイティンゲイル氏(ドラマ版ではパートリッジ)に相談する。】
相手はしばらく考えてから言った、「いいことがある! 確実な手段を見つけたぞ。結婚を申し込むんだ! 成功しなかったら首をかけてもいい。」――「結婚?」とジョウンズ。――「そうだ、結婚を申し込むんだ。そうすりゃたちまちお払い箱疑いなしだ。」(フィールディング『トム・ジョウンズ(四)』p.53)
[8]【トムが出した求婚の手紙に対するベラストン夫人の返信。】
いったいあなたは私をほんとうにばかと思っているの? それともあなたは私を説得して私の理性を狂わせ、私の全財産をあなたの手にゆだねさせ、私を踏み台にしてしたい三昧[ざんまい]をするなんてことができると思っているの? これが私の期待した愛のしるしかしら。(フィールディング『トム・ジョウンズ(四)』p.54)
【トムはまんまとベラストン夫人から解放されたものの、ベラストン夫人はトムへの復讐として、トムの求婚の手紙をソファイアの叔母に渡し、ソファイアに見せるようにうながす。一方トムは、フィッツパトリック夫人の夫から、夫人の浮気相手はトムだというあらぬ疑いをかけられて襲いかかられ、フィッツパトリック氏を剣で刺してしまう。】
[9]【ソファイアから獄中のトムへの手紙】
再び手紙をさし上げるのはまことに意外なことがあったからです。叔母からたった今、あなたがベラストン夫人に宛てた手紙を見せられたのですが、その手紙には結婚の申し込みが書いてあります。あなたの手にちがいありません。さらに意外なのはその日付が、あなたが私のことでたいへん心配していたと私に思わせたいちょうどそのころなのです。――説明はあなたにまかせます。私の希望は、もうあなたの名前は二度と聞きたくないということだけ。
(フィールディング『トム・ジョウンズ(四)』p.122)
[10]この結婚申し込み状にまつわるエピソードは、『トム・ジョーンズ』のテーマが二重契約のジレンマにあるとするわれわれの見方を支える有効な証拠となる。
なんのことかと言えば、トムがソフィアとベラストン夫人との二重契約を解消するために書いた結婚申し込み状が、二重契約の動かぬ証拠となってしまうというパラドックスが、まさに、資本主義社会における契約書の逆説を語っているからである。つまり、片方との契約を解消してもらうために書いて渡した手形が「善意の第三者」の手に渡り、その結果、もう片方との契約も無効になってしまうという契約社会の恐ろしさが象徴的に描かれているのである。(鹿島『悪党が行く』p.245)
[11]【ウォーターズ夫人が獄中のトムを訪問する。その直後にトムは、パートリッジから恐ろしい話を聞く。】
「いま出ていった女はアプトンでいっしょになった女ですね?」――「そうだよ、」ジョウンズが叫ぶ。――「で、あんたはほんとうにあの女といっしょに寝たんですかい?」と体がふるえる。――「残念ながら二人のあいだのことはだれ知らぬ者ないだ、」とジョウンズ。――「いや、後生だからはっきり返事してください、」とパートリッジ。――「いっしょに寝たと言ってるじゃないか。」――「ああ、それでは主があんたの魂を哀れみ、あんたをゆるしたまわんことを! 正真正銘[しょうしんしょうめい]、あんたは実のおふくろさんと同衾したんだ。」
聞いたジョウンズはたちまちパートリッジにもまさる恐怖の像と化した。しばらくはあまりの驚愕にものも言えず、二人とも立ったまま目ばかりギョロギョロ相手を見つめていた。
(フィールディング『トム・ジョウンズ(四)』pp.176-7)
[12]トムの危機を最終的に救ったのは何かというと、それは「捨て子の王子」という「貴種流離」的な出生の秘密である。(鹿島『悪党が行く』p.245)
[13]【ウォーターズ夫人ことジェニー・ジョウンズが、オールワージ氏に真実を語る。】
「この手で赤ん坊をあなたの寝床に運んだというところまでは、私の白状したことにうそはありません。生んだ母親の命令で運んだのです。同じ人の命令で私はその後自分の子と言い、私の秘密も私の恥辱もあのかたのご親切で立派に報いられていると思っていました。」――「いったい誰だ、その女は?」とオールワージ。――「それがたいへん申しにくいのです、」ウォーターズ夫人が答える。――「それだけ言いしぶるところから察すると、わしに縁のつながるものだな?」――「ごく近いおかたです。」オールワージがギクリとする。女はつづけた、「あなたにはお妹御がおありでした。」――「妹!」と彼はおうむ返しに言って真蒼になる。――「そのお妹御こそ正真正銘、あの棄て児の母親だったのです。」[…]。
ウォーターズ夫人はこの話にうそはないと何度も言い張り、最後に言った、「これでやっとあなたに実の甥御さまをご紹介申しあげました。今後はあのかたを甥御とお考えいただけると思います。」
(フィールディング『トム・ジョウンズ(四)』pp.206-9)
[14]かくして、オールワージ氏もウェスタン氏もトムとソフィアの結婚に大賛成することになり、トムは喜び勇んで結婚を申し込むことになる。
ここで注意すべきは、トムがオールワージの甥だという事実以上に、トムが伯父の正式な相続者となったことである。財産が生まれて初めて、資産家の娘に結婚を申し込む権利を生じさせたのである。
だが、この期に及んでも、ソフィアは頑として首を縦に振らない。トムの誠実さがはっきりとしたかたちで「時間」によって証明されない限りは、承諾は与えられないというのである。二重契約の証拠である結婚申し込み状が災いしたのである。(鹿島『悪党が行く』p.246)
[15]【トムはソファイアに求婚しようとするが……。】
「天に誓って、すべての神聖なものに誓って、決して君の姿はぼくの心の中から消えたことはなかった。女性の繊細な心はわれわれ男性の粗野な気持を理解できないのだ。ある種の恋愛は心とは何の関係もないということがわからないのだ。」――「私にはそんな妙な区別などできませんし、またそういう区別をすることができないだけの潔癖さがわからないような男の人とは、決して結婚しませんわ、」ソファイアがいとも真面目に言う。――「ぼくもわかるようになる、」ジョウンズが言う。「いや、もうわかっているんだ。ぼくのソファイアをぼくの妻に迎えられるかもしれないという希望を持ったその瞬間に、すぐそれがピンとわかったんだ。そのとき以来他のすべての女性は、ぼくの情熱を捧げる相手でもなかればぼくの情慾の対象でもなくなったんだから。」――「わかっていらっしゃるかどうか、証明は時にしてもらいましょう。ジョウンズさん、あなたの境遇は今はかわりました。かわったことを私はたいへん喜んでいます。なぜって、今後あなたは私のそばにおいでになる機会に事欠かず、自然、境遇だけでなく考えかたもかわったことを私に納得させる機会もいくらでもあるわけですもの。」
(フィールディング『トム・ジョウンズ(四)』pp.255-6)
【すぐに結婚することは渋るソファイアだったが、そこへ彼女の父親のウェスタン氏が例の調子で乱入してきて、とっとと求婚しろとトムに迫る。怒るソファイア。】
[16]【ややヤケクソ気味に叫び合う大団円。】
「お父さまは私にいったいどうしろとおっしゃいますの?」ソファイアが叫ぶ。――「どうしろとおっしゃるかって? 知れたことさ、今すぐこの男に手をさし出せと言うんだ。」――「それではおっしゃるとおりにいたします、」とソファイア、「ジョウンズさん、手をお受けください。」――「えい、ついでに明日の朝この男と結婚したらどうだ?」――「おっしゃるとおりにいたします、」彼女が叫ぶ。――「よし、それでは明日の朝と決めたぞ、」と父親も叫ぶ。――「お父さまのご意志なら、それでは明日の朝といたします。」――ジョウンズは膝まずいて、激しい喜びに彼女の手に接吻する。ウェスタンのほうは部屋のなかをピョンピョン踊りまわりはじめた[…]。
(フィールディング『トム・ジョウンズ(四)』pp.258-9)
[17]このやり取りが意味していることは明白だろう。結婚が純粋な経済行為である以上、先験的な【=もともとの】権利を握る父親の命令があって初めて、ソフィアも結婚に同意することができるということ。愛よりも信用が大事、なのである。
ことほどさように、『トム・ジョーンズ』は捨て子物語のかたちを借りた信用小説[クレジット・ロマン]なのである。(鹿島『悪党が行く』p.247)
【鹿島氏はソファイアが一転して結婚に同意する展開に上記の理由で納得しているが、日本語版の翻訳者である朱牟田夏雄[しゅむた・なつお]氏は、この展開に違和感をおぼえている。】
[18]解決部について内容的に[…]気になるのは、卒然としてトムの素性が明らかにされ、急転直下めでたしめでたしになる点である。[…]。少なくとも、終始すぐれたリアリズムで話を進めてきたのに、最後になってはなはだ都合のよい結末をつけたという感じは免れない。もっともトムの素性が最後に明らかになるというのは、むしろこの小説の根本的趣向の一つであって、そうわかってからもう一度全篇をふりかえって見れば、第一巻以来じつに多くの伏線が張ってあったことに気づく。逆に言えばこの運勢の逆転を目標にして、作者は用意周到に筆を運んできたわけであって、この点は非難するにあたらない。ただあれだけしっかりしたソファイアが、最後はまことに他愛なく結婚を承諾する点などに問題がある。因襲的なハッピー・エンディングをそうやかましく詮議する必要はないかもしれないが、やはり気になる点ではある。(朱牟田「あとがき」pp.288-9)
[19]【この大長編を締めくくる作者フィールディングの演説の一部。原作はいたって陽気な調子で終わる。】
読者よ、こうして我らはついに我らの物語を大団円にまで持ってきた。ここでジョウンズ君が全人類中最大の果報者らしいことは、あるいは読者の期待に反したかもしれないが、我らとしては大きな喜びである。事実、この世の提供し得るいかなる幸福が、ソファイアのような女性をわがものとすることに匹敵し得るか、正直に白状するが余は未だ知らないのである。(フィールディング『トム・ジョウンズ(四)』p.265)
【奇妙なことに、BBCのテレビドラマ版では、ソファイアが結婚に応じる場面が描かれず、最後の場面では作者フィールディングが、上の引用どおりのセリフを言っている途中でふと嫌気がさしたかのように首を振り、つまらなそうな表情でカメラの前を立ち去ってしまう。おそらく脚本家あるいは監督が、あまりにベタなハッピーエンディングを避けるために行なった演出だろう。ドラマ版の製作者たちは、引用18の朱牟田氏と同じような理由で、突然のハッピーエンディング、特にソファイアがあっさり結婚に同意してしまう展開には納得がいかなかったようだ。しかし、せっかく陽気に終わる原作を書き換えてまでこんな寂しげな結末を付ける必要があったのか、私としては大いに疑問である。】
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【講義で使用した資料】
●ヘンリー・フィールディング作、朱牟田夏雄[しゅむた・なつお]訳『トム・ジョウンズ』[全4巻](岩波文庫、1975年)[原著1749年]
●ヘンリー・フィールディング原作、サイモン・バーク脚本、メーティン・フセイン監督『トム・ジョーンズ』(アイ・ヴィー・シー、2004年)DVD[BBCで1997年に放映]
●鹿島茂[かしま・しげる]『悪党[ピカロ]が行く――ピカレスク文学を読む』(角川学芸出版、2007年)
●朱牟田夏雄「あとがき」ヘンリー・フィールディング作、朱牟田夏雄訳『トム・ジョウンズ(四)』(岩波文庫、1975年)277-94ページ
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(c) Masaru Uchida
2014
ファイル公開日: 2025-8-24
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