気になることば 89集 一覧(ミニナビ) 分類 | 「ことばとがめ」に見えるものもあるかもしれませんが、背後にある「人間と言語の関わり方」に力点を置いています。 |
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20050307 ■シジュウカラガン |
セキレイの仲間なのですが、タヒバリという鳥がいます。ヒバリが、どちらかといえば草原や畑に多いので、「田にいる(ことの多い)ヒバリ」として名付けられたのでしょう。全体に茶色っぽいのもよく似ています。もう少しいうと、羽毛が根本から先にいくにしたがって茶色からクリーム色へのグラデーションしていきますが、それが集まって羽となり、組み合わさって翼となった全体の色合いも似ています。 |
イソヒヨドリも、ヒヨドリとは名ばかりで、ツグミの仲間です。この名前が付けられたのは、どうしてでしょうか。ヒヨドリといえば、名前の語源にもなったピーヨという、ともするとうるさく耳に立つ鳴き声が特徴ですが、イソヒヨドリもうるささはともかく、声がなかなか美しい。少々強引ですが、声に特徴があるという共通点はありそうです。 タヒバリにしても、イソヒヨドリにしても、もとのヒバリ・ヒヨドリと大きさも近いことも、この際、注意してよいでしょう(ただ、タヒバリはヒバリより一回りは大きいのですが、もとのヒバリが小鳥の部類ですから、よいことにしましょう)。名前を借用するのですから、色や鳴き声だけでなく大きさの上でも、というより、一つでも多く共通するのが自然でしょう。種を超えての借用であれば、なおのことです。 |
そう考えてくると、シジュウカラガンという名前は少々気になります。ガンの一種ですから、それなりに大きく、アヒルかそれ前後の大きさはあるものです。それがなぜ、スズメ大のシジュウカラの名を冠されたのか…… 大きさの異なりを超える類似点があることになります。 |
左図、いかがでしょうか。頭部は黒いけれど、頬から下顎にかけて大胆な白斑があります。これは本家シジュウカラにも共通する「意匠」ですね。種も大きさも異なる二つの鳥に、これほどの類似点があるとはちょっと意外ですし、それだけに印象的です。シジュウカラを知っている人にとって「シジュウカラガン」の名は「なるほど!」と思わせる、一度聞いたら忘れられない命名ではないでしょうか。
補注。シジュウカラガンという名は、カナダガンの一亜種名とするのが現在では普通です。日本には亜種シジュウカラガンだけが渡ってくるので、カナダガン自体をシジュウカラガンと総称することがあったようです(詳しい解説はこちらをご参照ください)。上に掲げたシジュウカラガンの画像も、正確には亜種シジュウカラガンではなく、カナダガンの一亜種(チュウカナダガン?)のようです。 |
20050228 ■鳥の「ゴイ」 鳥の名前で面白いのはいろいろありますが、一つのパターンとして省略があります。右のササゴイ(画像)もその例。 野鳥への興味がない人にとって、ササゴイなる音韻の連続は、まずは鯉への連想を呼ぶのではないでしょうか。唱歌「こいのぼり」でおなじみのヒゴイ・マゴイ、日本庭園に付き物(?)のニシキゴイなどの具体例がすぐに思い浮かぶでしょうから。だから、ササゴイが鳥の名だと知れば、ちょっと違和感があるかと思います。 ササゴイ同様、○○ゴイという名の野鳥は多く、要素が1つ付いたものにミゾゴイ・ヨシゴイ・サンカノゴイがあります。さらに要素を重ねたズグロミゾゴイ・オオヨシゴイ・リュウキュウヨシゴイもあります。こんなにあると、野鳥の方がゴイの本家かと見紛うばかりです。 ただし、このゴイは、何かがかぶさったためにゴイと濁ったのではなく、もともとゴイなのです。もっといえば、ゴイサギという鳥の名を省略したものなんです。 では、そのゴイとは何ぞや。語源説として有名なのが『平家物語』巻五の「朝敵揃」にある醍醐天皇(885〜930)説話。勅命に素直に従ったサギがいたので五位に叙した、というものです。これにちなんでゴイサギと呼ばれるようになったと言われています。たしかに、それにふさわしい気品があるかもしれません。 サギの一種とはいえ、ずんぐりしているのが少々残念(?)ですが、大雑把に言って、ずんぐり系のサギ類を「○○ゴイ」というのは、このゴイサギのゴイ(五位)によるのです。 とすると、ゴイは、もともとサギを修飾する要素だったのが、ミゾゴイ・ヨシゴイ……などでは修飾される本体に格上げ(?)されたことになりますね。
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