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気になることば 第41集   バックナンバー索引   同分類目次   最新    

*「気になることば」があるというより、「ことば」全体が気になるのです。
*ことばやことばをめぐることがらについて、思いつくままに記していきます。
*「ことばとがめ」に見えるものもあるかもしれませんが、その背後にある、 人間が言語にどうかかわっているか、に力点を置いているつもりです。

19980111
■ありし日の「恰好」
 学者に教へる。帽子を買ふ時には自分の頭に被つてみる。 履物を買ふ時には自分の脚に穿いてみる。 そして男女問題は真先に自分の細君に当てはめて者へてみる事だ。 唯こんな場合には醜(みつともな)い細君よりは美しい方がずっと恰好なものだ、 丁度帽子を被る頭は禿げたのよりも、髪の毛の長いのが恰好なやうに。
薄田泣菫「強制妊娠」『完本茶話』上 冨山房百科文庫
 「恰好」ということば、現代でも「ちょうどよい」の意味で使われるが、用法自体はかなり固定されている。 「観光に(は)恰好のロケーション」のように「に(は)」で導かれる句を伴うか、「恰好の話題」「恰好な話題」のようにいきなり単独で修飾するものくらいではないか。

 さすがに大正期の随筆からはもっと多様な用法があったことが知れる。 ま、西依成斎のお導きといったところで。

8日の雪で、小田急の踏み切りでは遮断機がおりっぱなしになって大変だったそうだ。 9日のNHK19時のニュースで、森田美由紀アナが「あかずの踏み切り状態だった」と。 「句+状態」という言い方、最近よく聞くが(ネルトン紅鯨団あたりから広まったのか?) NHKで、しかも森田アナから言われると、なにやら微笑ましく思われる。
19980112
■「ケーキ入刀」
「切るというのがいけないのなら、披露宴につきもののケーキカットというのもだめなはずでしょう?」
「でも、ケーキカットとは言わないんじゃないですか? ケーキ入刀と言って……」
「ああ、そうか……」
 私は苦笑した。「たしかに入刀だ。変な言葉を使うなと思っていたが、あれはカットの代わりなんですね」
佐野洋「「切る」」『「傑作推理」大全集』上 光文社
 結婚式などでは、忌み詞と称して、「切る・別れる・終わる・擦る」などが忌まれ、別の表現をとるようにする。「すり鉢」を「当たり鉢」、「宴を終える」を「宴をお開きにする」、「すずり箱」を「あたり箱」と言ったりする 「すずり」は何というのだろう?  源流をたどれば、いわゆる「言霊(信仰)」に行き着くのだろう。 発したことばが現実化する、という。

 でも、実際には、「切る」行為が平然と行われている。 披露宴の食事も洋食が普通になりつつある。 ナイフやフォークを使って、「切り」、「刺し」ている。 洋食を優雅だと感じる時期を過ぎてしまった年代なので、どうにも、殺伐たるものに思えてしまう。

 「ケーキ入刀」も以前から違和感があったが、佐野洋のを読んで膝を打った。 代替語だったか。

 入刀されたケーキはどうなるのだろうか。 本来なら、出席者に「切り」わけて、共に食するように思うのだが。 ま、儀式というものは、えてして象徴化・形式化されるものだから、そこまでしないようになってしまったのだろう。

 しかし、ことばだけ変えれば何をやってもいいというのは面白い。 つまり、忌み詞による代替はかなり厳格に守られているのに対して、ことばが指す行為の方は依然として、いや(洋風化する)以前にもまして堂々と行われているのだから。

 私のときは、和食にしようか。
19980113
■音訛形のはたらき
 「しかしあの客は、全然美人じゃねえじゃないか。おまえも妙な符丁を使うねえ」
宮部みゆき「六月は名ばかりの月」『淋しい狩人』新潮文庫
 えー、困ったときの宮部頼り、です。 わたしがもし言うとしたら、どちらもネエかナイかに統一します。 ナイジャナイカ・ネージャネーカです。 もし、どうしても混ぜて使えということなら、ナイジャネエカでしょうか。でもかなり抵抗はありますが。

 日本語では、文末にいくほど、話し手の感情を表しやすいものがくる傾向があります。 逆に、文末から離れるほど、物質的というか客観的というか、そういう表現になる傾向があります。 大雑把に、文で述べてきたことがらへの、その文を書いた(話した)ときの態度・心情が文末にあらわれ、それ以前では情報(的な面)が述べられる、ということになります。

 で、わたしの場合、情報として正確を期すために最初はナイに、二番めでは心情をこめることができそうなのでネエになる、ということのようです。 くだけた感じをネエに託すのだろうと思ってますが。
19980114
■獅子化して虎となる
 名前はものの本質を左右する。 トラは、「トラ」と名付けられるまでは、密林を支配し夜の闇を跳梁する悪魔的猛獣だった。 それがひとたび名付けられ、分類されると、鉄砲であっけなく額を射抜かれるただの肉食獣になり下がってしまったのだ。
宮部みゆき「いつも二人で」『とり残されて』文春文庫
 このはなし、普通はライオンである(参照)。 ここで、宮部が間違っていることを指摘して、教養がない、などというつもりは毛頭ない。

 名前を与えることの意味、あるいは、人間がことばで外界を把握している例として示されるこの逸話が、言い伝え読み伝えられるあいだに、いかに変容していくかを追ってみるのも面白いのではないか、とふと思ったのである。 そこで宮部の例を記しておいたまでのこと。

 ただ、宮部のこの表現では、名前のない状態のトラを表しきれていないだろう。 何か表現したらその途端に、もう「名前のない状態のトラ」は別の色に染められてしまう、というジレンマは容易に超えがたい。 もちろん、短編小説の一挿話として書くなら、このくらいになってしまうのだろうと、同情は禁じえないのだが。 この問題(参照2)は本当にむずかしい。
19980115
■気が重かったはずなのに‥‥

 好きで入った研究の世界だが、気の重い仕事もないではない。 それを逃避したり、気分転換していると、こんなページができてしまう。 しかし、やりはじめると実は面白くて、時間を忘れてしまう(いま15日になったところです‥‥‥ (;_;)

 コラム記事用に寄せられた原稿のチェックなのだが、パソコンがあるお蔭で、随分はかどる。
 百科事典的な内容なら、まず『日本大百科全書』(電子ブック版。小学館)を引く。 原稿に『厨事類記』などという古い書物からの引用があると、『群書類従』(CDROM版。大空社。とうとう買っちゃいました!)を起動する。 もっと情報が必要になると、gooで検索だ。 空振りも多いのだが、結構面白い情報にぶつかる。 たとえば、15世紀創業のお菓子屋・そば屋が健在だったことが知られたり、こういうページに行き当たって、ムフフフのアハハハなんてこともある(私、壊れかけてるかも)。

 というわけで、気の重い仕事がなぜ面白くなったのかというと、結局は、パソコンに淫していることになるから、なのかもしれない。 いやいや、やはりことばとそれをめぐる世界が好きなのだ。
 ん、そうか。本当か。どっちなんだろう。どっちにしても、気をつけないと。
19980117
■気が重いしごと

 宵闇のなか、私は愛車を駆っていた。いや「駆る」までの苦闘を続けていた。 細い道を、歩行者をさけるように、頻繁にステアリングを切り返していた。 ここを抜ければ気持ちよく駆れるはずだ‥‥

 早起きがいまごろになって効いてきた。疲れが、津波のように肩を襲う。
 「いままで、何をしてきたのだろう」
 かすかな感傷とともに、無為にもみえる時間を過ごしてしまったことに、自問してみる。 それが、いっそう、疲労を誘うことには気づいているのだが。

 活力がほしい。そのとき、目に入ったのが、サークルK長良福光店はす向かいにある「元気接骨院」だった。 あああぁぁぁ、元気になれるかな。 いや、院長だけが元気にパキパキ、ボキボキ、ズコズコ骨を継いでたりして。

   ◇  ◇  ◇

 というわけで(ちっともわけがわからん)、今日は、大学入試センター試験の監督だった。 二日間、フル出場である。会場は某高校。つまり外部会場だ。 さらに今回は、地域科学部のお手伝い。
 はは、気分は傭兵。

 昼飯時、何か一つ足りないと思っていたら、事務の方の手作りになる大根のお新香がなかったことに気づいた。 教育学部が担当する会場ではないのであたりまえだが、傭兵にも愛の手を! と叫んでみようか。 サノヨイヨイッ‥‥ それは「合いの手」である。

 ま、こんなところで愚痴ってもしかたがない。 遠隔地の会場へ泊まりがけで監督している人もいるのだから。 全国の監督者諸君! 明日も元気にハツラツとがんばりましょう。
 そう、気分は陽性、に。

 どうすれば陽性になれるか。京都大学の「折田先生像 七変化」でもどうぞ。
19980118
■試験監督の余得

 試験監督は二人で組んで1教室を担当する。 普段、お話できないような人とも話すことができる。 今回は、地域科学部のお手伝いだったうえ、工学部の教官と組むことになった。 いつもなら聞けない話も聞けるわけ。

 1日めのHさんから。
「最近のパソコンはよく壊れる。研究室でもあっちこっちで壊れますね。 電源を落とすときはハラハラ。入れるときはドキドキ」。
 なるほど、経費節減して作ってるからね。

 2日めのKさんから。
 松下のレッツノートを持ちこんでいたのでちょっと聞いてみる。 「初代を30万円以下で買って、1年使って17万円くらいでソフマップに下取りにだして、2代目を購入。 やっぱり30万円くらいでした。いまは、ハードディスクを4GB(!)に装換して(!!)、 メモリーは64メガ(ショップの倍増サービスだそうです)」。
 やるなぁ。で、WindowsNTで画像シミュレーションなどをなさっているとか。 もちろん、本格的にはデスクトップでやるのでしょうが。 それにしても下取り額が高くていいなぁ。
 おっ、私のノートも上限15万円だぞ。ううん、また迷いが‥‥

 2日め、教育学部のSさん。中国哲学専攻。ここはやはりbig5について教えを乞うところ。
 「big5のFEP? う〜ん、『漢字通』かな。ニフティの中国語関係のフォーラムに行けばありますよ。 シェアウェアでね」。
 これは耳寄り。ためしにgooで検索したら、こういうページに転載されていることがわかった。 あとはどう入力するかである。日本語でいけるの? ローマ字でいいの? 部首なんてことは?  やっはりピンイン? じっくり添付ファイルを読むことにします。

 「そうそう、秀丸エディタも、 リソース激減バグが解消されたバージョン(2.20)が出てるよ」。
 こいつぁ、私があやまった。さっそくダウンする。
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