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社交不安症専門外来

ご挨拶

社交不安症専門外来のホームページへようこそ。
岐阜大学医学部附属病院精神科は、社交不安症(SAD)の診断と治療を専門とする医療機関です。社交不安症は、日常生活や社会生活に大きな影響を及ぼすこころの健康問題ですが、適切な治療とサポートを受けることで克服することが可能な病気です。当院は、患者さん一人ひとりに合った最適な治療法を提供し、安心して生活できる環境をサポートいたします。

社交不安症とは?

社交不安症(SAD)は、社交場面や対人関係において強い不安や恐怖を感じる精神的な障害です。世間ではあがり症(赤面)や対人恐怖症とも言われている病気になります。

以下のような症状が現れることがあります:

対人恐怖 他人の視線や評価に対する過度な不安を感じ、人前に出ることを避ける。
パフォーマンス不安 特定の状況、例えばプレゼンテーションやパフォーマンスなどで極度の緊張を感じる。
身体症状 心拍数の上昇、発汗、震え、吐き気などの身体的な反応が現れることがある。
引きこもり 他人と関わることに対する恐怖から、自宅に閉じこもることが多くなる(不登校の要因)。

社交不安症は、日常生活や仕事、学業に大きな支障をきたす可能性がありますが、
専門的な治療によって改善することができます。

専門外来の特長

社交不安症専門外来は、以下の特長を持っています:

専門医による診療 社交不安症に精通した専門医が診療を担当し、問診、採血、認知機能検査、心理検査、頭部MRIなど各種検査結果に基づいて、パニック症や全般不安症などの他の不安症併存の有無や、他の精神疾患との鑑別を行い、確定診断や重症度の判定を行います。
個別治療プラン 患者さんの症状や状況に応じた最新の知見(エビデンス)に基づいた最適な治療法を、専門医、患者さんやご家族と相談し、納得された治療法を選択します。
薬物療法の導入 必要に応じて、エビデンスに基づいた薬物療法(抗うつ薬)を開始し、症状の改善をサポートします。
心理療法の導入 外来で実施可能な短時間の認知行動療法(CBT)や曝露療法などの効果的な心理療法を取り入れ、不安の軽減を図ります。
継続的なサポート 症状軽減後も定期的なフォローアップを行い、再発予防や生活の質の向上を目指します。

受診の流れ

1.初診予約

まずはお電話(岐阜大学医学部附属病院 058-230-6000)で、精神科外来につないでいただき、初診の予約をお問い合わせ下さい。
他院受診中の方は、診療情報提供書をご持参下さい。
専門外来は第1・3週木曜の午前中(1日2枠)に行っています。
枠が空いていれば、当日の受診も可能ですので、受診可能か精神科外来にお電話でお問い合わせ下さい。

2.初診

診察までの待ち時間の間にいくつかの質問紙に答えていただきます。
回答に基づいた専門医の診察を通じて、現在の症状やお悩みを詳しくお伺いします。
さらに、確定診断や重症度判定のために、採血、認知機能検査、心理検査、頭部MRIなど各種検査の予約をします。

3.診断と治療方針の決定

初診時あるいは再診時の診断結果に基づき、最適な治療を、専門医、患者さん、ご家族と相談して決めます。

4.治療の開始

決定した治療を開始します。

5.フォローアップ

定期的な診察を通じて、治療の進捗を確認しながらサポートを続けます。

Q&A

日本人を含むアジア人の社交不安症の有病率は欧米諸国と比べてどうして低いのでしょうか?

日本人を含むアジア人の社交不安症の有病率が低い理由の一つには、診断の際に用いられる閾値が文化によって異なることが考えられます。例えば、西洋文化では内向性が病的と見なされることが多い一方、アジア文化ではそれが一般的な行動とされることがあり、同じ症状でも病気と診断されにくいことがあります。アジアの多くの文化では、内向性や謙虚さが美徳とされ、社交的な行動への期待が低いため、社交不安が表面化しにくい傾向があります。また、感情の表出が控えめであることが一般的であり、不安や恐怖が他の形で表現されることが多いです。このため、実際の社交不安症の有病率が低く見積もられる可能性があります。

対人恐怖症と社交不安症は同じ病気ですか?

対人恐怖症と社交不安症は重なる部分が多いものの、必ずしも同じ病気ではありません。これらの疾患は共通する症状を持つ一方で、文化的背景や主な症状の焦点が異なるため、それぞれ独自の特性を持っています。対人恐怖症は、日本を含む東アジア圏特有の概念であり、社交不安症は、国際的な診断基準DSM-5で定義 された精神疾患になります。
対人恐怖症の「敏感型(Sensitive Type)」は、社交不安症と共通する部分が多く、他者の評価に対する不安が中心です。しかし、対人恐怖症の「攻撃型(Offensive Type)」は、他者に迷惑をかけることへの恐怖「他者志向」が特徴で、これは社交不安症が自己の評価や羞恥心「自己志向」に焦点を当てるのとは異なります。また、対人恐怖症は東アジア特有の文化的背景に根ざしており、例えば「視線恐怖症」は、東アジアでは目を合わせないことが尊重される行動として理解されることがあります。さらに、対人恐怖症のいくつかのサブタイプ(「赤面恐怖」、「自己臭恐怖」、「醜貌恐怖」など)は、社交不安症のほかに身体醜形症や幻覚症状として診断されることもあります。こうした文化的違いや症状の焦点の違いから、対人恐怖症と社交不安症は異なる疾患として扱うべきと考えられています(Asakura et al., Psychopathology. 2012, Kotera et al. Asian J Psychiatr. 2023)。

社交不安症のパフォーマンス限局型は、一般的な社交不安症と異なる病気ですか?

以前の診断基準(DSM-IV)では、「パフォーマンス限局型の社交不安症」という特定の診断カテゴリーは存在していませんでした。しかし、パフォーマンス状況に限定された不安は、通常「社交不安障害」として診断されていました。DSM-IVでは、社交不安障害は広範な社交状況に対する不安だけでなく、特定のパフォーマンス状況に対する不安も含む包括的な診断カテゴリーでした。現在の診断基準(DSM-5)で「パフォーマンス限局型」という特定の診断用語が導入されたのは、社交不安症の症状が特定の状況(例:発表や試験)に限定されるケースがあり、これを明確に区別することで診断と治療を精密化するためです。全般的な社交不安症とパフォーマンス限局型の社交不安症では、薬物反応性にも違いが見られると言われています。全般的な社交不安症では、SSRIやSNRIといった抗うつ薬が効果的で、広範な状況での不安を和らげるために長期的な治療が必要です。一方、パフォーマンス限局型の社交不安症では、特定のパフォーマンス状況に対する不安が中心のため、状況に応じて短期的に有効な薬剤(ベータ遮断薬など)を使用します。このように、DSM-5で「パフォーマンス限局型」が明確に定義されたことで、より個別化された治療が可能になりました。

社交不安症に対して日本で保険適用となっている薬剤はありますか?

日本で社交不安症に対して保険適用となっている薬剤には、以下のものがあります。
選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI):
フルボキサミン(商品名: ルボックス、デプロメール)
パロキセチン(商品名: パキシル)
エスシタロプラム(商品名: レクサプロ)
これらの薬剤は、日本で社交不安症に対して保険適用されており、診療で広く使用されています。
一方で、日本では適応外ですが、他のSSRIであるセルトラリン(商品名: ジェイゾロフト)や、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 (SNRI) のベンラファキシン(商品名: イフェクサー)は、社交不安症の治療において諸外国や各国のガイドラインで推奨されている薬剤です。これらは上記の薬剤と同等の効果および忍容性が報告されていますが、国内では未承認のため使用には注意が必要です (社交不安症の診療ガイドライン, 日本不安症学会/日本神経精神薬理学会)
その他にも、日本では適応外ですが、社交不安症に対して使用されることがある薬剤として、ベンゾジアゼピン受容体作動薬: ロラゼパム(商品名: ワイパックス)、クロナゼパム(商品名: リボトリール)やβブロッカー: プロプラノロール(商品名: インデラル)などが挙げられます。ただし、ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、急性の不安に対して即効性がありますが、依存性のリスクや長期使用による副作用があるため、社交不安症の第一選択薬としては推奨されていません。短期的な対症療法としての使用に限定されます。また、βブロッカーは、身体的な不安症状(心拍数の上昇や震え)を一時的に緩和するために使用されることがありますが、精神的な不安症状の根本治療には効果が弱く、社交不安症に治療には推奨されていません。

社交不安症は年を重ねると良くなりますか?それともずっと続くのでしょうか?

社交不安症の経過はさまざまな要因に影響され、治療の有無や早期介入が大きな役割を果たします。未治療の場合、社交不安症は長期にわたって持続することが多く、自然に完全に消失することはほとんどありません。症状が一時的に緩和することはあっても、強いストレスや新たな社会的状況に直面した際に再発する可能性があります。しかし、早期に適切な治療を受けることで、症状が大幅に改善し、社会的な機能や生活の質が向上することが期待されます。特に、認知行動療法(CBT)は社交不安症に対する最も効果的な心理療法の一つであり (Leigh et al., Clin Child Fam Psychol Rev. 2018)、暴露療法を含む場合は長期的な改善が見込めます。また、SSRIやSNRIなどの薬物療法も有効で、症状の軽減や再発リスクの低減が期待されます。ただし、社交不安症はうつ病や他の不安症、アルコール使用症などの精神疾患と合併することが多く、その場合は治療が複雑化し、予後が悪化することがあります。治療を受けずに放置した場合、学業や職業、対人関係に支障をきたし、社会的孤立や経済的問題を引き起こすことも少なくありません。治療後も再発のリスクは残るため、特に治療を中断したり、ストレスの多い状況に直面した場合には、再び症状が悪化する可能性があります。そのため、長期的な管理や定期的なフォローアップが重要です。全体として、早期の治療介入と継続的な治療、および合併症の適切な管理が予後を大きく左右するため、早めの介入が推奨されます。

社交不安症で顔が赤くなったり、汗をたくさんかいたりするのは本当ですか?
それとも思い込みなのでしょうか?

社交不安症で顔が赤くなったり、汗をたくさんかいたりするのは、実際に生じる生理的反応です。しかし、それがどの程度周囲に目立っているかや、本人が感じている強さについては、しばしば認知の歪みが影響しています。社交不安症における赤面や多汗は、交感神経の活性化によるものです。これは、不安や緊張を感じる場面で自然に起こる「戦うか逃げるか」のストレス反応の一部です。交感神経が活性化すると、血管が拡張し、顔が赤くなったり、汗腺が刺激されて汗が増えることがあります。したがって、赤面や多汗自体は実際に生じている現象です。一方で、社交不安症の人は、自分が赤面したり汗をかいたりしていることを過剰に意識し、誇張して感じていることがあります。周囲が自分の症状にどれほど気づいているかを過大評価することが多く、実際にはそこまで目立っていない場合も多いです。この認知の歪みは、社交不安症の典型的な特徴です。結論としては、赤面や多汗は生理的に本当に起こっていますが、その強さや目立ち方を過剰に感じてしまうのは、社交不安症特有の思い込みの一部です。治療としては、認知行動療法(CBT)がこのような認知の歪みを修正するのに効果的です。

お問い合わせ

ご不明な点やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

【問い合わせ先】

〒501-1194
岐阜県岐阜市柳戸1-1
岐阜大学医学部附属病院精神科
電話番号 : 058-230-6000(代)
FAX : 058-230-6266
所属・職名 : 精神科・准教授
氏名 : 大井 一高
E-mail: ohi.kazutaka.h8@f.gifu-u.ac.jp

日本における不登校の現状

不登校とは

不登校は、主に小学生から高校生に見られる長期的な欠席の状態を指し、病気や経済的な理由ではなく心理的、社会的、あるいは学校環境に起因する場合が多いです。
不登校の問題は1980年代から徐々に増加し、現在も深刻な社会問題として取り上げられています。

不登校児童生徒数の経年変化

統計データ

文部科学省の統計によると、近年、不登校の児童・生徒数は増加傾向にあります。
2022年度のデータでは、全国で不登校と認定された小中学生の数は約30万人に達し、不登校の児童・生徒数は全児童・生徒数の約3.2%に達しました。
このうち、中学生の不登校率が特に高く、小学生と比べて約2倍以上の割合となっています。

原因

不登校の原因は多岐にわたります。主な要因として以下のようなものが挙げられます:

心理的要因 学習内容の難化や成績に対するプレッシャー。
学業のプレッシャー 学習内容の難化や成績に対するプレッシャー。
いじめや対人関係の問題 学校内でのいじめや友人関係のトラブル。
家庭環境 家庭内の不和や親子関係の問題。
学校環境 教師との関係や学校の雰囲気が合わないこと。

不登校の児童・生徒の中で精神疾患を有する割合については、調査によって異なりますが、比較的高いとされています。
精神疾患には不安症、うつ病、発達症などが含まれており、これらの疾患が不登校の原因となっていることが多いです。

不登校の児童・生徒における社交不安症の具体的なデータは限られていますが、文部科学省の調査によると、多くの不登校児童・生徒が不安や無気力を理由に学校に通えなくなっています。
また、60-70%が「学校の同級生などがどう思っているかが不安だった」と報告しており、不登校の背景には様々な心理的要因が含まれ、その中には社交不安症も多く含まれると考えられます。