タ イ ト ル 更新年月日 専門店の従業員の資質 2013/12/27 変われる者が生き残る 2013/12/12 シクラメンパビリオンの企画 2013/11/26 物を売ることからの脱却 2013/10/24 小規模切り花産地の苦悩 2013/10/03 中国国際菊花シンポジウムに出席して 2013/10/02 キクの生産施設にヒートポンプが導入 2013/09/14 入谷の朝顔市と国際バラとガーデニングショウ 2013/09/05 東京入谷の朝顔市 2013/08/20 オランダ国際花き園芸博Floriade2012のホームページ 2013/08/12 花の職人とは 2013/07/18 遺伝子組み換え植物と農業 2013/06/26 短径多収の切り花は日本の花き産業を変えられるか? 2013/06/11 スプレーギクの中国輸出は可能か? 2013/05/28 中国古代バラ(中国古老月季) 2013/05/13 トマトの将来 2013/05/07 Facebookでの情報交流 2013/04/30 輪ギクの新たな戦略 2013/03/19 葬儀用輪ギクの20年後 2013/03/10 蕾の切り花は花保ちがよい? 2013/02/28 シンビジウムの将来 2013/02/18 家族葬がもたらすもの 2013/02/05 岐阜県のイチゴ生産・販売戦略 2013/01/28 シンビジウム生産の今後 2013/01/09 2013年を迎えて 2013/01/01
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日本農業新聞9/6の食品スーパーバイヤー黒畑稔氏のコラムに、食品スーパーの店員の知識不足についての記事がありました。
食品スーパーのパート従業員の資質が低下しており、商品知識がないことによる深刻な売り上げ低下を招いています。30〜40歳代のパートの中には果物の知識がまったくなく、リンゴは品種に関わりなく「リンゴ」、知っていても「フジ」程度の知識しかなく、ブドウもすべて「ブドウ」としてしか認識できないため、顧客に対して何もアドバイスができず、深刻な課題となっています。
私は20年前までは果樹を専門としており、博士の学位論文は「リンゴの生理落果の発生機構に関する研究」でした。当然、リンゴの品種を認識することができます。アメリカの有名なパソコンメーカー「Apple社」はMcIntoshというブランドのパソコンを販売しています(今ではすべてMacで統一されていますが・・)。「McIntosh」という名前はリンゴの品種です。日本名は「旭」といい、北海道の一部で今でも細々と生産されています。「McIntosh(旭)」はアメリカで育成された古い品種で、明治時代に日本に渡来しています。真っ赤な果色で、果肉が真っ白という特徴的な品種で、果実表面から独特の芳香が漂い、酸味が強いことから、二日酔いの朝に食べると気分が爽快になります。
「紅玉」という古い品種があります。これも明治初期にアメリカから渡来した品種で「Jonathan」という英名があります。この紅玉とゴールデンデリシャス(Golden Delicious)を交配してできた品種が「Jona Gold(ジョナゴールド)」です。
このように品種には各々謂われがあり、話を聞くとついつい食べてみたくなります。
食品スーパーのパート従業員の課題は、花専門店でも同じです。「パンジー」といえば定番の秋植え花壇苗ですが、「貴族のパンジー」や「リカちゃんパンジー」と言われると「何か特別なパンジーですか?」と聞き返したくなります。これらのブランド・パンジーは価格も高く、1苗300円前後します。もし何も説明がなく知識もなければ、80円の普通のパンジーの横に置いてある限り手に取ることはありません。
花の消費を担っていると言われ始めた量販店の従業員にこのような資質を期待することは、業態から考えても到底無理です。このような専門的な知識の基に顧客に説明をすることが出来るのは間違いなく専門店だと思います。花の消費拡大を考える時、専門店の従業員あるいは店主が果たす役割は極めて重要ですが、近年の専門店の従業員や店主の知識の低さには少々がっかりすることが多く、本当に消費拡大を担っていただけるのか疑問を感じることがあります。
札幌の生花店「フローレン花佳」の薄木健友氏は全国各地で切り花の水あげの講習会を開催しています。薄木氏の水あげ技術は地道な研究活動の中から生まれた技術で、消費者にとっても大切な情報にもかかわらず、残念ながらなかなか全国の生花店にこれが普及する状況ではないようです。
是非とも専門店には、豊富で高い技術力と知識を財産とし、花の消費拡大の立役者となっていただきたいと思います。
学生時代に私が登山を趣味にしていたことはあまり知られていません。現在の体型では想像もできないくらいスリムで、40kgの荷物を一人で担いで南アルプスや大雪〜十勝岳縦走などをしていました。登山が目的ではなく、高山植物の写真を撮って植物を確認することが楽しみでした。
40年前の当時、リバーサルフィルムといえばコダック社のエクタクロームで、価格は結構高かったのですが、花色を再現するにはこれしかない!とまで惚れ込んでいました。そのコダック社が2012年1月に経営破綻しました。まさにデジタルカメラの普及を読み切ることができなかった結果です。ところがWikipediaによると、世界初のデジタルカメラを発明したのは1975年12月のイーストマン・コダックのSteve Sasson氏ということです。
1980年代のデジタルカメラは画像が粗く、全く使用には耐えられませんでしたが、1990年代になると多くのメーカーがデジタルカメラを発売し始め、一眼レフカメラにもデジタル化の波が押し寄せました。デジタルカメラの発明から普及までの15年間は、いわゆるコンパクトカメラが広く普及した時期で、既にフィルムにこだわるユーザーが激減し始める時期でもありました。このように、コダック社はデジタルカメラを自社で発明したにもかかわらず世の中の流れを読み切ることが出来ず、高級フィルムにこだわり、「世界のコダック」の名前を大切な資産として位置づけていたことが、大きな負債を背負うことになりました。15年間の猶予があったにもかかわらず、マーケットの動きを読んで業態を変化させることが出来ませんでした。
『最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるでもない。唯一生き残るのは、変化できる者である』というダーウィンの名言は聞き古されているかもしれませんが、コダック社の衰退を見る限り心に響きます。
さて、日本の切り花業界のなかでキクは切り花全体の39%を占める巨大作物です。キクが潰れると日本の切り花生産が崩壊するとまでいわれています。そして、キクの中でも輪ギクは55%を占め、小ギクの29%、スプレーギクの16%を大きく引き離しています。すなわち、輪ギクが潰れれば切り花の21.5%が崩壊することを意味しています。しかし、生産量は1996年の12億7000万本から2011年は8億6600万本に減少し、15年間で2/3となっています。
輪ギクの消費は葬儀需要が主体です。1996年当時は葬儀場が次々と建てられた時代で、葬儀業者や農協までもが郊外に立派な葬儀場を建設しました。そして、生花祭壇などの業界がもてはやされた時代でもありました。しかし近年は家族葬が主体となり、大学関係者の葬儀でも「親族だけで執り行いますので、ご香典、供花等は辞退させていただきます」との通知が普通になりました。当然、祭壇は質素になり、キクを使うことがなくなっています。おそらく、今後も一層輪ギクの消費量は減少することになるでしょう。
2005年頃からダリアブームに火がつき、それに伴ってフルブルーム・マムに注目が集まってきています。この動きは輪ギク業界には願ってもないチャンスと言えるはずなのですが、愛知県や福岡県などの大産地の動きは鈍く、葬儀用の輪ギクにこだわっています。
日本の輪ギクが、コダック社と同じ足跡を踏まなければと願っています。
シクラメンは30年ほど前までは、シンビジウムと共に冬の贈答品の筆頭でした。豪華な花立ち、葉色と花の色彩コントラスト、魅力的な葉の模様など、シクラメンは数多くの魅力を持った鉢物の代表でした。そしてシクラメンを生産する農家は、潅水、施肥、葉組みなど、シクラメンと語り合いながら「職人としてのプライド」を持って生産を行っていました。
大きくシクラメンの生産が変化したのは底面給水の導入が契機でした。底面給水が導入されたことによって、それまで手潅水で行われていた潅水作業が省力化されて生産規模の拡大に繋がりました。しかし、底面給水の水あげ効率の向上のために、培養土がそれまでの腐葉土主体のものから調整ピートに変化しました。調整ピートはロットが安定しており、購入培土をそのまま培養土として使用できる手軽さもあり急速に普及しましたが、大きな問題も引き起こしました。肥料保ちが悪く、液肥管理ができない消費者の手許では肥料欠乏が出てしまうことです。
また生産段階に起因する大きな問題も生じました。シクラメンはサクラソウ科で高温に弱い性質があり、夏の高温期の栽培管理には「シクラメンと語り合える職人の技」が必要だったのですが、底面給水の導入によって夏の栽培が容易となり、誰でも栽培が可能となったために栽培技術不足による粗悪品が出回ってしまいました。さらに夏の生育管理が容易となったことによって、10月出荷というシクラメンにとって好ましくない高温期の販売が行われたことで、購入後の消費者の手許で一気に花が終わってしまうという現象が頻繁に起こるようになりました。さらに追い打ちをかけたのがガーデンシクラメンの登場です。これによって粗悪品の鉢物のシクラメンとガーデンシクラメンとの区別が難しくなり、シクラメンに対する消費者の印象は急速に低下し、現在の「シクラメン冬の時代」を迎えることになってしまいました。
一方で、シクラメンの育種はこの30年間に急速に進化しました。鹿毛哲郎氏が開発した黄色のシクラメンの登場、ビクトリアに代表されるフリンジ咲き、近年では金澤美浩氏が手掛けた八重シクラメン、組織培養技術による芳香性シクラメンやブルー系シクラメンなどのクローン品種など、大きくシクラメンが変化し始めています。しかし、このように数多くの新しい品種が登場している一方で、園芸店の店頭には「品種の名前のない色とりどりのシクラメン」がトレーに入ったまま従来通りの低価格で販売されています。
シクラメンの長期低落傾向の根本的課題に、この「玉石混淆」状態があると考えています。経済学では「悪貨は良貨を駆逐する」といわれているように、粗悪なシクラメンの横行をいかに止めるかがシクラメンの将来展望を語る上で最も重要な課題といえます。
さて、これからが本題です。近年のシクラメンの育種力をアピールする企画を考えてみませんか?大鉢の豪華なシクラメンを作り出す職人の技をアピールしてみませんか?まずは首都圏の東京で、育種会社と生産者が共同で出資して「シクラメンパビリオン」を開催してみませんか?資金は種子代金に1%を課しても良いし、市場販売金額からケース100円を課しても良いし、販売店からも協賛金を出資していただきましょう。
各育種会社のコーナー、生産者のコーナーに加えて、花色コーナー(赤・白・薄ピンク・濃ピンク・紫・黄・覆輪)、花型コーナー(フリンジ・細弁・広弁・八重)、ガーデン・大鉢シクラメンコーナーなど、様々な組み合わせのコーナーを設けて、消費者が「なるほど。シクラメンってスゴイねぇ!」と感じさせることを目的とします。
初年度の来場者の評価が高ければ、当然、翌年には関西圏でも開催しましょう。そして全国の主要都市でも開催できるように盛り上げましょう。
大切なことは、消費者にシクラメンの素晴らしい力を知ってもらうことです。
切り花はようやく暗いトンネルを少しずつ脱却し始めた様相ですが、鉢花業界はいくらか下げ止まり状態とはいえ依然と復活の兆候が見えてきていません。8月の岐阜花き流通センター総会での久々の講演を受けて、FAJの藤澤俊三社長から「福井先生、花が売れる方法があれば教えてください」とのご意見をいただきました。
花業界が陥っている大きな問題として「物を売ること」があります。生花店や園芸店が実際に「花」という「物」を売っているのは事実ですが、消費者は「花」という「物」を買っているのでしょうか。例えば、8月は36℃を超える毎日でしたが、喫茶店で食べる「かき氷」は物を購入しているのではなく、「かき氷」という「涼」にお金を払っているのではないかと考えます。8月のリンドウの切り花は「リンドウ」という物を買っているのではなく、「もう秋が近いんだねぇ」という心を買っているのだと思います。
心を買っていただくためには、心に訴える何かを伝える必要があります。「リンドウ=秋の花」というイメージは、花業界で仕事をしている人にとっては当然のことですが、意外と一般の消費者にとっては、言われれば判りますが、常識ではないように思います。従って、店頭で花を販売する時には「秋の花リンドウで秋を感じてください」という言葉を一緒につけることが重要ですし、花き市場で買参人に販売する時にも「秋の花のリンドウ」という言葉が重要です。できれば、8月の猛暑の時に「そろそろ秋のリンドウが欲しいねぇ」と思わせるコマーシャルが必要だと思います。
すべての植物(花)には「物語」があります。その物語を伝えることを忘れて「物としての花」を売ろうとしているのが花き市場であり、生花店、園芸店ではないでしょうか。
生産者も同様です。2月14日のフラワーバレンタインでは、バラ生産者は「バレンタインにはバラでしょう!」と当然のように思い込んでいますが、「なぜ愛を語る時にはバラなのか」を伝えることなく「バレンタインにはバラ」という押しつけでは消費者は動いてくれません。母の日にはカーネーションといわれますが、「なぜ母の日にカーネーションなのか」を忘れてカーネーションを売り込んでもなかなか売れなくなっています。
花き業界は「物を売っている」のではなく、「心を売っている」ことに再度気が付くことが重要であって、物を売りたいのであれば「心を伝える」ことにもっと励む必要があると考えます。
各県に存在する小規模切り花産地の多くは、1970年代の高度経済成長期に始まった産地です。1980〜1995年のバブル絶頂期には作れば必ず高く売れる時代を過ごしています。産地の主力メンバーの現在の年齢は60歳代が主体ですが、切り花生産を始めた頃は20〜30歳代で、地域のなかでも元気が良く、発言力もあり、異端児といわれながらも地域の農業を引っ張ってきた功労者でもあります。
バブルがはじけて20年の花き業界暗黒の時代を経過し、地域の活性化という観点からも切り花産地の将来構想を作り直そうという機運が全国各地で高まり始めており、この数年間、私の所にも全国各地からアドバイザーになって欲しいとの依頼が届いています。
実際に現地に伺って感じることですが、後継者が育っていない、後継者がいてもこれまで頭を押さえつけられ続けたために意欲が低い、県などの行政や農協への依存体質が強いなどの問題点を感じます。リーダー達も60歳半ばを過ぎて新たなことを取り組む意欲が減退しています。このような状況の中で、全国各地に点在する小規模切り花産地の展望を考えてみましょう。
第一に、農協や市場に対する依存体質をいかに変えるかが重要です。新たな作目に転換しなければいけない場合に出てくる話が、「農協は販売を担ってくれるのか?」、「現在の選花場は使えるのか?」、「県は補助金を出してくれるのか?」、「県や農協は生産指導をどこまでしてくれるのか?」といった質問です。自分が市場に出掛けていって仲卸や買受人と話をして情報収集をしたり販売PRをする意欲がなければ新しい作目に転換することはできません。ましてや、それを既に生産出荷している産地に出向いて生産状況や管理方法、出荷の留意点などの情報を収集する意欲がない生産者が新たな作目を生産することはできません。
生産者が生産する作目を変えるということは、大学の研究者が研究分野を変えることに匹敵します。私は20年前に果樹(柿)から花卉(バラ)に研究内容を転換しましたが、その当時は一から研究論文を読み直してバラの研究課題を一つずつ洗い直し、自分の持っている技術と知識を活かせる研究内容の選択に数年間を要した記憶があります。さらに学会で発表し、論文を書く段階に至るにはさらに数年間を必要としました。私は来年には59歳になりますが、この歳になって新たな研究分野に転向する意欲は出てきません。できるとすれば、バラからキクにスライドする程度が限界ですし、若手の研究者と共にバラの遺伝子に関する共同研究を開始することくらいが限界です。
このように考えると、小規模切り花産地をリードしてきた60歳前後の方々が、改めて新たな作目に転換することは極めて難しいといえるかもしれません。
方法としては、私がバラからキクに研究内容をスライドさせたように、既存の作目の作り方や出荷方法を変えることです。例えば、葬儀用輪ギクの生産から、フルブルームマム(ディスバッドマム)やスプレーマムへの転換がこれに相当します。これまで培ったキク生産の知識を最大限に活用して新たな販売品目に転換する方法です。
もう一つは、中堅や若手の生産者に従って一緒に生産する作目を変える方法です。この場合は、私が若手研究者と遺伝子共同研究を進めるように、主導権を中堅・若手生産者に委ねる気持ちが大切です。切り花産地を作ってきた重鎮という立場で適宜アドバイスをする程度で、主体は中堅・若手生産者にまかせるという強い意志が必要となります。
もし、中堅や若手の生産者が育っていなかったり、彼らの意欲が低かったりする場合には、その産地には未来はありません。中核メンバーの高齢化と共に産地は終焉を向かえることになるでしょう。
★中国国際菊花シンポジウムに出席して (2013/10/02)
9/27〜28に北京で開催された中国国際菊花シンポジウムの中国研究者の講演の80%が遺伝子に関する発表でした。5年前に中国科学院が、分子生物学以外の研究に対しては基本的に研究費を出さないと通達したことは知っていましたが、ここまで徹底されるとは思いませんでした。実際に研究者に聞いても、研究費を獲得するためにDNAを対象とせざるを得ないと言っていました。
ことわざに「土方殺すにゃ刃物はいらぬ。雨の三日も降ればいい。」という都々逸がありましたが、研究を変えさせるには研究費を絞れば簡単ということでしょうか。
今回のシンポジウムの主催は北京林業大学と中国農業大学でしたが、これらの大学の使命の一つに産業としての農業の振興があります。DNA研究者に尋ねると、いかにももっともらしく「大いに農業の発展に役立ちます。」と言いますが、詳しく話しを聞くとほとんど生産現場に行ったことがなくて、生産地で困っていることが理解されておらず、たぶんそうだろうと机上の想像で研究をしていることがわかります。さらにたちが悪いのは、DNAを手掛けていないと「遅れた前近代的な研究者」としてさげすむ傾向が分子生物学研究者の中にあることです。
このことは中国に限ったことではなく、日本でも同じです。
DNAは世界中で先進を競う研究分野ですので、いかに多くの研究労力をつぎ込むかが重要な鍵になりことは理解していますが、農学研究は誰のためにあるのかを改めて感じた国際シンポジウムでした。
★キクの生産施設にヒートポンプが導入 (2013/09/14)
昨今の重油の高騰やTPP対策を受けて各種の補助事業の募集が開始され、キクの生産施設にもヒートポンプの導入が急速に進んでいます。切りバラ生産では2008年の重油の高騰を受けて急速にヒートポンプの整備が進み、全生産面積の80%程度にヒートポンプが設置されています。
ヒートポンプは重油ボイラーに較べて暖房効率が高く、省エネルギー対策として評価されています。しかしヒートポンプは産業用エアコンであることから、除湿や夜間冷房にも使用することができます。バラではヒートポンプを導入したことによって、灰色カビ病が出にくい花弁が厚く高芯剣弁の品種から、花弁が薄くて柔らかいクラシックタイプの品種(バラらしくないバラ)への転換が始まりました。
クラシックタイプのバラ品種は、バラ好きやバラマニアといわれるワンランク上の女性に大変人気で、ガーデンローズ業界ではクラッシックローズの品種が主流となっていましたが、これらの品種は花弁が柔らかいため灰色カビ病に弱く、湿度がコントロールできない切り花生産施設では生産が難しく、需要はあっても流通量が少なく、なかなか主流の品種とは成り得ませんでした。しかし、ヒートポンプの導入よってクラシックタイプ(バラらしくないバラ)の品種が全流通量の30%を占めるまでに増加し、大きなステータスを築き始めています。
このように、導入当初は省エネルギー対策の一環として広がったヒートポンプですが、現在では除湿や夏季の夜間冷房に大きな力を発揮し始めています。
これまでの輪ギク生産では親指の先ほどの蕾で収穫が行われ、横箱出荷が主流で、水揚げと花保ちが良いことから葬儀主体の需要に頼りすぎていました。しかし、葬儀の形式が生花祭壇、そして家族葬に変化し始めたことから輪ギク需要が急激に低下し始めています。
キク生産施設にヒートポンプが導入され始めたことが契機となって、フルブルームマム(咲き始めたキク切り花の総称)の生産が始まり、輪ギク業界に大きな変化が生まれることを期待しています。
とはいえ、輪ギク生産者からは「フルブルームマムは蕾からフラワーネットを掛けないといけないし、横箱輸送ができないので手間がかかる」との声が聞こえそうです。しかし、バラ業界においても当初は「クラシックローズは花弁に傷がつきやすく選花に手間がかかるし、横箱輸送ができない」といった同じ声が聞かれました。しかし、消費者の需要が後押しをしたことで30%を占めるまでに至っています。
輪ギク業界へのヒートポンプの導入は、現状の輪ギク業界の閉塞状況を大きく打開してくれる契機となることを期待しています。
★入谷の朝顔市と国際バラとガーデニングショウ (2013/09/05)
前回のコラムで、東京入谷の朝顔市の人出が40万人で、西武ドームの国際バラとガーデニングショウが22万人の入場者であることを書きました。朝顔市は入場無料の街角市であるのに対して、国際バラとガーデニングショウは2000円の入場料が必要なイベントですので、両者を単純には比較できませんが、朝顔市の集客力の高さが理解できます。
朝顔市が国際バラとガーデニングショウと大きく違う点として、アサガオの愛好者は必ずしも「アサガオ・マニア」ではないことがあげられます。確かに一部には古典朝顔をこよなく愛する「朝顔通」がおられますが、朝顔市に出掛ける人々の多くは「アサガオ初心者」だと思います。これに対して国際バラとガーデニングショウに来場される方々の多くは「バラ大好き」な女性です。
国際バラとガーデニングショウは今年で15回を重ねるバラの一大イベントです。バラという植物の特性なのかもしれませんが、その開催テーマを見てみると、初心者や男性はなかなか近寄りがたい雰囲気が全面に出てきています。
・2000年 わたしの憧れる暮らし「キッチン&ガーデンが暮らしの真ん中」
・2001年 不思議の国のアリス
・2002年 色彩のアーティスト・ガーデン
・2003年 バラで彩る暮らし
・2004年 バラとプロヴァンスのあざやかな花につつまれる
・2005年 秘密の花園
・2006年 英国流庭のある暮らし
・2007年 プリンセス・ジャルディエの「小さなシャトーの花の庭」
・2008年 英国ガーデンへの復帰
・2009年 「色彩の庭」そして「新しいバラの世界」
・2010年 バラにつつまれる贅沢を
・2011年 心惹かれるバラの香り
・2012年 バラできれいになる
・2013年 恋するバラの15年
確かに来客者は毎年新しいテーマに飛びつきますし、これまでになかったものを欲しがります。長年続くイベントを継続させるためには、既来場者の定着と新規の来場者の確保の両面が要求されます。バラ好きやバラマニアが集うイベントには、初心者は気後れして入場するのに勇気がいります。従って、新規の来場者の確保には初心者への対策が必要です。
国際バラとガーデニングショウ入場者数は上述のように22万人と多いのですが、実はこの数年間入場者数が頭打ちの状態です。その原因の一つにテーマの先鋭化があるように思います。バラの消費構造は、以前のコラム(2008/12/18)でも指摘したように、三角形を呈しており、底辺に「バラ初心者」、その上位に「バラ好き」、最上部に「バラマニア」がいます。国際バラとガーデニングショウは間違いなく「バラマニア」と「バラ好き」の人達をターゲットとした展示会ですが、15年間継続すると世代交代が必要になってきます。
朝顔市のように、初心者も気楽に参加しやすくすることで、次世代の「バラ好き」を養成する必要が出てきているのではないでしょうか。
花の消費拡大の戦略としても同様に、既に花を消費してくれている消費者に対するさらなる魅力の追求に加えて、新たな消費者の掘り起こしという両面性の観点から追求する必要があります。
7月6〜8日に開催された東京入谷の朝顔市には40万人の人出があります。西武ドームで毎年開催されている国際バラとガーデニングショウが22万人の入場者であることと比べると、朝顔市の人出がいかに多いかがわかります。朝顔がなぜこれほどの集客力を持っているのでしょうか?
昨今の節電に伴うグリーンカーテンにアサガオが使われていますが、これはあくまでも限定的なブームです。アサガオの育種は江戸時代に飛躍的に進化し、変化朝顔といわれる突然変異個体が昨出されるとともに、肥後六花の一つにあげられる肥後朝顔は大輪朝顔として育種されていました。しかし、これらの古典朝顔は明治時代とともに衰退していますので、古典朝顔が集客力を持っているわけでもありません。
アサガオといえば小学校の教材です。ほとんどの日本人が小学校で朝顔を育てた記憶があり、夏休みの宿題あるいはラジオ体操と共に、アサガオは夏の花の象徴として意識づけられています。すなわち、朝顔の人気は「花育」と「季節感」の両者が複合的に関係しており、そこに古典朝顔から発想される日本の風物詩として「ゆかたの似合う和の花」の印象が加わっている現象と考えられます。
入谷の朝顔市の光景を見ると、西武ドームの国際バラとガーデニングショウでは来客のほとんどが女性であるのに比べて、男性の来客が多いことに気がつきます。庭でのバラ作りは日々の病害虫管理や適切な肥培管理が大変で、年2回の剪定は専門的な知識が必要と信じられており、愛好者は時間と心に余裕のある40歳代以上の主婦層に限定されます。これに対してアサガオは、取りあえず水さえやっておけば何とか花を咲かせてくれるので、男性でも初心者でも育てて楽しむことができます。また品種も多様で、家の前を行き交う人達に「アラッ!珍しい朝顔ね!」と褒めてもらえる楽しみもあります。さらに、家族で子供の頃の思い出を語り合うきっかけにもなります。アサガオはアメリカやヨーロッパの家には似合わないかもしれませんが、洋風の建物といえども日本の家ですから、「和の雰囲気を持つ朝顔」はどこの玄関先に飾っても似合います。
このように考えると、アサガオはいわゆる「育てる楽しみ」、「花色や花型の新規性」、「装飾性」を持ち備えた植物であり、「家族の団らん」をもたらす花育効果を持っていることが判ります。
さて、この20年間、鉢物の消費量が年々下がっています。以前のコラム「鉢物の市場低迷 (2010/11/29)http://www1.gifu-u.ac.jp/~fukui/0712.html#101129」で書いたように、最近の鉢物が切花化していることに気がつきます。生産者が出荷する時、すなわち消費者が購入する時がベストの状態で、購入した消費者は「育てる楽しみ」を味わうことができなくなっています。むしろ、水をやって管理していると咲いている花がドンドン少なくなって、悲しい思いを感じさせているように思います。「育てる楽しみ」を味わえない植物が「家族の話題」を提供できるはずもありません。
また、品種の変遷が早すぎて定番商品として定着する前に品種が変わってしまい、何が新しいのか、何が古いのかが判らなくなっており、「花色や花型の新規性」を楽しむことができなくなっています。
日本国内の消費者の心をつかむためには、ヨーロッパやアメリカで育成された植物・品種であっても「和の雰囲気」を醸し出すことは重要です。海外の品種をそのまま「いいね」と導入するのでは知恵がありません。ヨーロッパ人の感性と東洋人の感性は違います。種苗会社や種苗輸入会社は、一工夫して「日本の消費者の感性」に合わせた商品作りを考えていただきたいと思います。
あらためて入谷の朝顔市の人気を考えるに、鉢花と花苗の将来を考える上で、「育てる楽しみ」、「花色や花型の新規性」、「装飾性」の重要性を再認識しました。このままでは、鉢花や花苗の素晴らしい素材・能力を持った品種の「使い捨て」になってしまい、飽きて見放される業界になりかねません。
★オランダ国際花き園芸博Floriade2012のホームページ (2013/08/12)
昨年4月から10月にかけてオランダ・フェンロー市で開催されたFloriade2012(フロリアード2012)では国際花き品評会が開催され、日本から出品された多くの花が表彰を受けました。なかでも、シンビジウム「親王」は品評会での最高得点の9.90点を獲得すると共に、7品種が1席、4品種が2席、4品種が3席など、日本の花き育種力を世界に示す良い機会となりました。岐阜大学で育種した「フェアリーウィング」も頑張って出展し、金賞(優秀品種)を受賞することができました。
フェアリーウィングを岐阜大学応用生物科学部附属農場で生産し、今年の7月から試験販売を開始するにあたって、フェアリーウィングのホームページを立ち上げました(http://www1.gifu-u.ac.jp/~wing/index.html)。当然、Floriade2012の受賞記事をリンクしようとFloriade2012ジャパンのHPを探したのですが見当たりません。私の検索方法が悪いのかと何度か試行してみたのですが、結局ページを見つけられませんでした。
Floriade2012では農水省も積極的に支援を行い、私自身も関連委員会の委員長などを務めました。そして、24人の若い研修生達が日本ブースでの半年間の展示を担当し、日本から輸送されてくる国際花き品評会出品植物の管理などを務めてくれた結果として数多くの品評会入賞植物が産み出され、それと共に日本ブースは栄えあるコンテスト屋内展示部門金賞も受賞しました。
Floriade2012ジャパンのホームページでは、これらの活動を逐一報告すると共に、受賞植物の記事を詳細に記載して、世界に発信していましたが、今年に入って突然ホームページを見ることができなくなりました。不思議に思い、Floriade2012ジャパンを実質的に支えていた日本花普及センターに問い合わせたところ、受託を受けたJTBとの契約が切れたためにホームページが維持できなくなり、現在は閉鎖しているとのことでした。
現在TPPの論議も関わって、花きの輸出が注目されています。当然、切り花や鉢物などの植物自体の輸出も重要ですが、知的財産権としての種苗の輸出も重要で、Floriade2012での国際花き品評会での高い評価はその大きな原動力となるものと思います。
実際に、岐阜大学が育成し金賞を受賞した「フェアリーウィング」はオランダで生産が開始されることとなり、研究室で増殖している培養苗の提供依頼を受けて、植物防疫所の栽培地検査を受けている最中です。「フェアリーウィング」は優れた形質を持っており、ヨーロッパで高い評価を受ける能力があるとは思いますが、Floriade2012品評会での評価は10点満点の9.00点でした。Floriade2012品評会で、「フェアリーウィング」より高い評価を得た植物は数多くあるのですが、現段階ではその品種名、育成者などの情報すら得ることができなくなっています。残念です。情けないですねぇ。
植物工場が注目を集めています。匠といわれる農業者の高度な技術と勘をコンピュータプログラム化し、環境制御を駆使して、農業初心者でも高品質な農産物を生産しようとする試みです。
この考え方は工業界では既に実用化されており、町工場の熟練職人の技をコンピュータプログラム化したマシニングセンタによって、自動制御で1000分の1ミリ単位の精密な加工を行う技術です。まさに職人の技術のデータ化といえます。
植物工場の技術が進めば農業者が不要となるのでしょうか?
植物生理学の観点から見ると、「理想の農業生産は可能」です。しかし、現実には「実現は不可能」ともいえます。
教育界では公文式学習法が学力向上に効果があるといわれています。子供一人一人の学力に応じてステップアップする学習法で、世界中で認められている学習法の一つです。高校入試や大学入試のための知識の習得という観点だけで考えれば、確かに公文式学習法は効果的かもしれませんし、数学が苦手な子供が数学のテストで良い成績をとるための勉強法としては有効だと思います。すなわち、公文式→学力向上だけを考えればそれでOKです。しかし、数学はなぜ学ぶのでしょうか?
私は大学教員をしているので、数学に接する機会は一般の方より多いと思いますが、30年にわたる研究生活の中で、sine(サイン)・cosine(コサイン)・tangent(タンジェント)や微分・積分、二次方程式を使う機会はほとんどありませんでした。恐らく一般の生活をしている中では、これらの知識は何も役に立たない知識の一つかもしれません。
しかし、数学を学ぶことの意味は、実生活でこれらの知識を使うことではなく、論理的な考え方を学ぶことであり、ひいては社会生活を営む中でイメージや感情に流されることなく論理的にステップアップして物事を判断できる人間性を育むためではないかと考えます。
職人の技・匠の技の意味は、1000分の1ミリ単位の精密な加工を行う技術だけではありません。発注者の要望に応じて臨機応変に精密加工を行う能力であり、「なんでも思った通りのものを作ってくれる」技術応用力です。設計図面に基づいて大量生産するものに対してはコンピュータ制御のマシニングセンタは大きな力を発揮しますが、部品の開発段階で、経験と勘に基づいて「この部分はこうした方が良い」といったアドバイスはしてくれません。
植物の成長生理の観点から温度、湿度、日射量、風を制御して最高の収量をあげることは出来ます。熱帯高地などの気候が安定した地域で、切り花長が60cm、花径が4cmの規格品のバラを大量に生産することは得意です。しかし、日本の気候のように高温多湿で日射量が強かったり、低温で日射量が低く湿度も高かったりと、日々刻々と変化する気象変化に応じて、よりベターな栽培管理を行うことはコンピュータにはできません。ましてや、生花店の要望に応じて「長い切り花。茎は細いが大きい花。華奢な短い切り花。」などの要望に応じて生産することは到底できません。
ここで問われるのは、花の職人の「技術」ではなく「適応力」であり「感性」だと思います。生産者の皆さん。技術におぼれることなく、『植物を見る目』を養いましょう。植物と語り合える「感性」や「適応力」を磨きましょう。
とはいえ、将棋のプロ棋士が将棋ソフトに負ける世の中ですから、職人の「適応力」や「感性」もコンピュータ化されるのかもしれませんが・・。
ISAAA(国際アグリバイオ事業団)の報告によると、2012年の世界の遺伝子組み換え作物の栽培面積は、前年の1億6,000万haから1,030万ha増加して1億7,030万haに達し、日本の耕地面積456万haの37倍以上に相当しています。栽培されている作物は、ダイズ、トウモロコシ、ワタの順で、その多くがラウンドアップレディーと呼ばれる除草剤耐性の遺伝子組み換え作物です。
日本も2009年から遺伝子組み換え作物生産国となっていますが、スーパーマーケットで納豆を購入すると、成分表示欄には「丸大豆(国産)(遺伝子組み換えでない)」との表示が行われており、いまだに遺伝子組み換え作物が消費者に受け入れられていないことが判ります。それでは、日本で栽培されている遺伝子組み換え作物には何があるのでしょうか。
それはサントリーが開発した青いバラ“APPLAUSE”(アプローズ)です。そして、遺伝子組み換えの紫色のカーネーション“Moondust”(ムーンダスト)は、2012年には200万本がコロンビアから輸入されて流通販売し、母の日の最も人気の高い定番商品となっています。
納豆の大豆と、青いバラ“APPLAUSE”やカーネーション“Moondust”に対する消費者の対応の違いは何故生じているのでしょうか。前者が食品で、後者が切り花であるという単純な理由だけではありません。“APPLAUSE”や“Moondust”は遺伝子組み換え植物であっても、消費者にとって充分なメリットがあるからこそ受け入れられており、納豆の大豆は遺伝子組み換えであることによる消費者メリットがないからだと考えます。
分子生物学を研究しておられる方々と話していると、「遺伝子組み換えによって○○という特性が付与され、世界の農業を変えられる」という夢の話を聞かされますが、実際にはそのような夢が現実になることはないと思っています。私は応用生物科学部の教員で、園芸学という応用科学を専門としています。純粋に基礎生物学を研究するにあたって遺伝子組み換え技術は極めて有効な武器となることは充分理解していますが、産業としての園芸産業を支える園芸学にあっては、遺伝子組み換え作物は極めて微妙な研究対象です。
分子生物学分野の研究は日進月歩で、世界という土俵の中で戦っていくことを余儀なくされ、ややもすると「研究目的は後からついてくる」といった考えに陥り、研究のための研究をする事態に陥ってしまいます。競争の中で優位に立つことは興奮をおぼえることであり、大変楽しいものです。しかし、応用科学、なかでも農業という産業を支援する科学という立場を考える時、研究の目的やその立脚点に常に立ち返る姿勢が大切だと考えます。私自身もバラやキクを材料として遺伝子解析を行っていますが、その本来の研究目的を決して忘れることなく、園芸学研究を進めていかなければならないと考えています。
★短径多収の切り花は日本の花き産業を変えられるか? (2013/06/11)
「短茎多収」という言葉が世の中に広まったのは平成12年(2000年)の農水省花き産業振興方針ではなかったかと思います。同時にカジュアルフラワーという言葉も同時に流行したように記憶しています。
短茎多収やカジュアルフラワーが提案された理由には2つの意味があります。
1つは、産地−市場で様々に設定されていた切り花規格に対する警鐘です。バブル期にはより長い切り花が評価され、短い切り花は規格外の扱いを受けて低価格で販売されていました。本来切り花の長さはcmで表示するのがよいと思いますが、生産地ではより長い切り花の評価を受けようと2L/L/Mの表示を行っていました。しかし、産地によって「L」の長さが異なったり、キクのように重さが規格基準であったりと、規格の統一が行われていませんでした。短茎多収という言葉の使用によって、「短茎とは何cm?」という疑問が生じ、これに応える動きが始まりました。その効果もあって、最近ではSの表示よりも長さを表示する事例が多くみられるようになってきました。
2つ目は、バブルが崩壊して高品質規格の長い切り花の価格が急落し、生産者の経営を圧迫し始めました。これに対して短い切り花の価格は予想外に低下が小さかったことから、長さが短い切り花を多く収穫することで経営の安定を図ろうとしたのが短茎多収やカジュアルフラワーへの動きと理解しています。
短茎多収やカジュアルフラワーが提唱されて以降、既に12年が経過していますが、この戦略で経営が向上した生産者は少ないと思います。その理由には、やはり花き市場の商品規格に対する信仰のようなものがあります。販売店では、長さが短くても、それに応じたブーケやアレンジメントなどの商品製作を行っており、意外と長尺規格の切り花だけを評価することはありません。バラでは、むしろ短い切り花の方が風情があるという生花店もあります。しかし、花き市場では依然と長尺物を優先する風潮が残っており、需用者との意識の乖離があるようです。
もう一つの理由には花のボリュームがあります。バラでは、切花長の長い花は大きくなり、短い切り花の花は小さいため、短茎の切り花はボリューム感に難点があります。長い切り花を60cmに切り戻して出荷すれば豪華な短茎の切り花ができますが、市場ではそれを正当に評価してもらえない現状があります。
確かに、豪華で高価な花束を作る場合には、長尺の切り花でないとボリューム感が出ませんし、その前にバランスの良い花束自体を作れません。これに対して、短い切り花で作る花束はボリュームがないため低価格となります。価格の高い花束を販売した方が経営上は効率がよいのは当然ですが、実際の需要はそれほど高くありません。
このように、花き市場での切り花購入者の意向がなかなか反映されないままに、未だに「長尺の切り花=高品質の切り花」という方程式が続いている所に花き産業の課題があるのかもしれません。消費が減退している今だからこそ、花き業界あげて論議を尽くす必要があります。
★スプレーギクの中国輸出は可能か? (2013/05/28)
日本にはマレーシアやベトナムから大量のスプレーギクが輸入されており、スプレーギク総需要の47.1%(2011年)に達しています。マレーシアから切り花が輸入されるのであれば、経済発展が著しい中国に向けて日本から切り花を輸出することが可能でしょうか?
日本の総人口は40年後には1億人を下回ると推計されており、切り花消費量も減少すると考えられています。これに対して中国の2012年のGDP成長率は7.8%を維持しており、尖閣列島問題などの政治的課題はさておき、中国上海の富裕層の消費マーケットは魅力的です。そして、日本製品に対する「高品質」という高い評価も健在で、魅力ある切り花の消費マーケットとして注目され、切り花の中国輸出に対する着実な試みも行われています。
しかし、中国の富裕層達の声を聞くと、「単純に日本製品が欲しいのではなく、日本で高い評価を受けている商品が欲しい」ということが理解できます。
では日本国内のスプレーギクの評価を見てみましょう【pdfファイル】。産地別にみると、最も大きな産地は、なんと『マレーシアなどの海外産地』で、第2位に愛知県、第3位が鹿児島県です。
アフリカ・ケニアのバラ生産輸出会社を訪問した時に、「日本の人口は近い将来減少するので、あなた達にとってはそれほど魅力的な輸出相手国ではないのでは?」と質問したところ、「日本の後ろには中国があり、巨大な中国マーケットを将来確保するためには、当面日本への輸出が一番効果的です」との答えが返ってきました。
この観点から見る限り、マレーシアは着実に日本最大の産地に成長し、市場でも高い価格で販売されているというステータスが確立されつつあることが判ります。この状況では「日本で高い評価を受けている日本産のスプレーギク」を日本から中国に向けて輸出するという夢は実現できないことになります。
マレーシアで生産されているスプレーギク品種はヨーロッパ育成品種です。このままでは、切り花自体の輸出の夢も、知的財産としての種苗の輸出の夢も果たせないことになりかねません。
日本にはヨーロッパにはないキクの系統「小ギク」があります。そして、ヨーロッパにはないキクの育種に培われた豊富な遺伝資源があります。育種力がなく、生産しかできないマレーシアにはマネのできない新たなスプレーギクの世界を作り出して、国内での高い切り花評価と育種力を中国に輸出する方策を見出して欲しいと思います。
2002年から中国遼寧省農業科学院の花卉研究顧問を務めて10年になります。農業科学院での主な仕事は、中国の明・清朝に育成された中国古代バラ(中国古老月季)の収集とそれを活用した新たなバラの育種です。
研究現場は遼寧省の省都瀋陽市から南に100 kmほど下った遼陽市の経済作物研究所です。10年前の経済作物研究所の対象作物は綿花、高麗キビが主体で、バラを栽培したことのある研究員は誰もいませんでした。挿し木の方法、トウモロコシの茎葉を使った堆肥と草炭での土壌改良方法、養液土耕栽培のための液肥組成、施設環境の改善など、まさに一からの出発でした。ただ、このプロジェクトのために配属された責任者や新規採用の若い研究員達の努力は並々ならぬものでした。
顧問就任当初は中国古代バラに対する評価が低く、「そんな古いバラはまったく価値がない。ヨーロッパで開発されているようなバラの育種を進めて欲しい。」といったコメントを受けたのですが、『とにかく古代バラを集めて欲しい。古代バラは中国の文化遺産で、まったく新たなバラの育種が始まる!』と説得し続けてきました。3年間は研究員達もその気になってくれず、ほとんど研究自体も進まず、訪問時にバラの栽培指導をすることが唯一の仕事でした。4年目になって、ようやく私の言葉を理解してくれるようになり、中国各地から徐々に古代バラが集まりはじめました。6年目からいよいよ交配育種プロジェクトが開始され、毎年30,000粒の種子を播いています。一昨年にようやく中国古代バラと現代バラの切り花品種との雑種が生まれ、選抜を行いました。これまでのヨーロッパの バラとは少々異なる花が咲き始めています【pdfファイル】。年1回の育種技術指導のため、まだまだ緒に就いた段階ですが、日本国内で種苗登録を行う予定です。
品種群の名前は「オリエンタル・ローズ(東洋バラ)」です。目標はボタン・シャクヤク咲きのガーデンローズ、ポッテリした蕾から豪華に咲き開く切り花品種です。近い将来、日本国内で「オリエンタル・ローズ」が店頭に並ぶことを夢みています。
近年の切り花の市場価格の低迷が影響して、切り花生産から野菜生産に転向する生産者が多くなっています。なかでも、トマトに転換する生産者が多い傾向があります。
トマトの収量は平均すると20t/10aといわれていますが、近年の植物工場ブームもあって、オランダの80t/10aには及ばないものの、50t/10aを目指した生産施設整備も行われており、チョットした「トマトブーム」が国内で起きているような状況です。
2003年からのトマトの作付面積を見てみると(pdfファイル)、普通トマトの作付面積は10,840 haから2012年には9,431 haに年々減少していますが、ミニトマト(普通系以外:ミディ系を含む)の作付面積は1,650 haから2012年には2,090 haに増加しています。すなわち、切り花生産からトマトに転向した生産者の多くがミニ・ミディ系トマトを生産していることが判ります。
トマトの作付面積と卸売価格との関係をみてみましょう。
普通トマトでは、2003年から2008年にかけては作付面積が減少することで卸売市場価格が何とか280円前後を維持していたのですが、2009年以降は作付面積の減少に伴って価格が急上昇しています。すなわち2009年以降は、トマトの需要が高まっているにもかかわらずトマトを生産する農家が減少するというチョットおかしな傾向がみられます。これには普通トマトの生産農家の高齢化が関わっていると推定されます。普通トマトはいわゆる農協の共選共販組織が生産出荷しており、作付面積の小さい生産農家がトマトを生産していますが、トマトは重量野菜であることもあって、高齢化に伴ってトマトの生産をやめる農家が次第に増えていることを示しています。実際に岐阜県の夏秋トマト(普通トマト)産地である飛騨地方でも2005年以降出荷量が年々減少しています(pdfファイル)。
しかし、普通トマトは需要が高まっていることから、企業的な生産施設で生産しても現段階では充分に採算が合うと考えられます。恐らく、国内の適正なトマトの生産面積は9,900 ha程度であると考えられ、kg単価350円を維持する場合、200 ha程度の施設の増加であれば価格の暴落を引き起こさないものと推定されます。
ミニトマト(普通系以外:ミディ系を含む)についてみてみましょう。ミニトマトは2003年から2009年までに作付面積が毎年平均して60 ha程度増加して1,650 haから1,990 haに増加しました。作付面積が増加し、出荷量が増加しても卸売市場価格は一定で推移しており、ミニトマトの需要はかなり確固したものであることが判ります。2009年以降をみると、卸売市場価格は高騰しており、作付面積の増加が需要に追いついていないものと思われます。
従って、現状でもミニトマトの需要はかなり堅く、2,500 ha程度が適性面積ではないかと推定され、2012年の2,100 haから400 ha増加しても採算が合うのではないかと考えます。
普通トマトとミニトマトに共通するのは2009年以降の卸売市場価格の上昇です。確かにスーパーの野菜売場をみると、トマトの販売コーナーは年々大きくなっています。以前のトマトの販売コーナーは、山のように積まれたトマトか、パックされたトマトが売られていましたが、近年はいわゆるブランドトマトが大手を振って鎮座しています。特に、ミディトマトやミニトマト、高糖度のフルーツトマトのコーナーが多くなっていることに気が付きます。
すなわち、様々なタイプのトマトが生産・販売されることによってトマトの需要が開拓され、それに伴って普通トマトの需要が高まっていると考えられます。
しかし、普通トマトの作付面積が減少していることは何を意味しているのでしょう。恐らく、消費者は普通トマトに対しても何らかのブランド力を期待してるのですが、共選共販組織である農協は相変わらず生産量を前面に出して販売戦略を立てており、消費者の需要とミスマッチが起きかけているのかもしれません。
さて、トマトのブームはいつまで続くのでしょうか?
ミディトマトやミニトマトの出現は、それまで普通トマトを見慣れていた消費者にとって目新しいトマトであり、需要の拡大を引き起こしました。しかし、トマトの育種力を見る限り、これに変わるような新たなトマトの世界が大きく広がることは期待できません。敢えて言えば、加工用トマトの世界でしょうか。カゴメはトマトジュース用トマト「凛々子(りりこ)」をリリースし、徐々に浸透し始めています。
従って、上述のように普通トマトで200 ha、ミニトマトで400 haが限界で、これ以上に作付面積が増加すると暴落が始まると考えます。近年の生産業界でのトマトブームから判断して年間100 ha程度が増加していると推定されることから、5年間は作付け面積が増加しても価格が上昇し続けますが、それ以降は微妙に安定していた需給バランスが崩れて卸売市場価格が暴落する可能性があると考えています。
この数年、バラ生産者の後継者達がFacebookで盛んに情報交流をしています。Facebookグループの参加者だけでも104名にのぼり、恐らくその150名程度の若いバラ生産者がFacebookに参加しているものと思います。情報交流の内容をみていると、皆前向きにバラ生産に取り組んでおり、間違いなく彼らが日本のバラ産業を引っ張ってくれるものと楽しみに思っています。
新しい情報交換手段としてSNS(Social Networking Service)が今後も一層活用されることは間違いないと思いますが、不安もあります。私自身、mixiをやっていましたが、何か物足りなさを感じてFacebookに移ってきました。2年前は面白くてFacebokにはまり込んでいましたが、人間の興味は移ろいやすいもので、どうも波があるようです。日常的な情報を記述したり、何かのイベントに対しては気持ちが乗ってくるのですが、心に秘めた思いを伝える手段としてはSNSはあまり適していないように思います。
人生観や哲学とまではいかなくても、考え方を相互に理解し合うためにはジックリと話し込んで語り合うことが重要に思います。ネットでの情報交換は結構一方的で、自分に興味がない話題は無視することができますし、相手の気持ちをそれほど考慮しないで自分の考え方を一方的に述べ続けることもできます。
バラを生産するためには「バラに対する思い(ポリシー)」が必要です。利益を生む経営のためだけでバラを生産するのであれば、もっと収益性の高い作目を選択する方がベストです。それでもバラを生産し続けるにはなにがしかの思いが大切ですし、その思いは一人一人違っているのではないでしょうか。
Facebookを始めとするSNSでは、その思いを互いに理解し合うことができません。考え方が違っていれば「あー、そうですか」と耳目を塞ぐことができますが、直接会って話をする場合にはそのような失礼な態度を取ることができないため、相手の考え方を聞かざるを得ず、自ずと相手の意見に耳を傾け、自分の考えを述べることになります。
実はこのことが一番重要なのではないでしょうか。そして、直接会って話し合った仲間は一生の良き理解者、財産となるのではないでしょうか。これからまだ20年以上バラ作りをしていくことになる若手のバラ生産者の皆さん。そろそろネットでの情報交換から、顔を会わせて自分の思いを伝え、理解し合う仲間作りの時期に入っていませんか?
バラ作りの思いを語り合える一生の友人を作るチャンスが、今、目の前にあると思います。
輪ギクは日本古来から葬儀の花として定着していると理解されていますが、実はその歴史は新しく、人為的に創られた文化です。
昭和20年代半ばに、葬儀業者が花を祭壇に飾ることを考え、年中一定量が安定して供給でき、価格がそこそこの切り花を探し求めていました。時を同じくして、白熱電球を用いて夜間に照明して花芽分化を抑制するキクの電照栽培の技術が確立し、消費の拡大を探し求めていました。この両者のニーズが一致して、現在のような白菊で祭壇を飾る葬儀が定着しました。
このこと自体は、輪ギクの安定した周年消費需要を生み出し、輪ギク生産が大きな産業として発展する契機となったのですが、その逆に輪ギクを葬儀以外で使用することに対する大きな壁を作ることになってしまいました。
昭和30年代後半では、歌手の雪村いずみさんが美空ひばりさんからステージでキクの花束をもらうシーンが1961年7月号の「女性自身」に掲載されていますが、昭和40年代になるとキクは葬儀の花で縁起が悪いというイメージが定着してしまい、花束に使われることはなくなってしまいました。
「キク育種会社精興園のネオ輪菊 (2010/08/18)」や「キクの本当の魅力 (2010/12/23)」のコラムで書きましたが、最近輪ギクのイメージが変わってきています。ダリア咲きのカラフルな輪ギクが婚礼にも使用されるようになっています。2005年頃からダリアの切り花が大きなブームを引き起こしていますが、最近の輪ギクカタログのなかにはダリアそっくりの品種があります。ダリアの切り花は豪華ですが、花保ちに大きな難があります。しかし、ダリア咲きの輪ギクの花保ちは格段に優れています。年末に精興園からいただいたキクは2カ月の間鑑賞することができました。
まさに、花保ち性に優位性のあるバラ咲きのトルコキキョウが、切りバラに匹敵する人気がある事例と良く似ています。
葬儀用の輪ギクを生産している切花生産者からは、「ダリア咲きの色付き輪ギクなんて邪道な切り花!」といわれていますが、消費者のダリア咲きのキクに対する需要は着実に増え始めており、葬儀以外の輪ギクの活路を開拓できる大きな方向性ではないかと考えます。
確かに花き市場関係者のなかでは「まだ需要が小さく将来性は未確定」とも言われますが、消費者の評価は今後着実に増えていくと思われます。輪ギク生産業界として、この動きを仕掛けて将来に繋げる心構えが大切だと思います。再び、ステージの花束にキクが復活することを願っています。
輪ギクの国内生産量はこの15年間右肩下がりで低下し続けており、約30%減少しています。海外からの輸入は主に中国からですが、中国国内の経済成長を受けて切り花の需要が増加しているため、日本への輸出はカーネーションと同様に2006年以降頭打ちで、総需要量に対する輸入の割合はわずか5%に過ぎません。すなわち、輸入の影響ではなく、日本国内の輪ギク需要自体が低下しています。
このことは、葬儀の形態が変化していることでも理解できます。葬儀は亡くなった本人のためでもありますが、残された喪主達のために行われ、参列者の多くは喪主に関連する人達です。これまでは、葬儀の準備などで追われる状況のなかで、世間体もあり、葬儀業者の言われるままにそれなりに豪華な白菊の祭壇を選択していたのですが、家族葬が主体になってくると、儀礼的な参列者をお断りして、亡くなった人のためにお別れをする形式が多くなってきています。
その結果として、白菊以外のバラやユリの祭壇、なかには赤いバラの祭壇までみられるようになり、一層の輪ギクの需要低下に繋がってきています。
一定の供給量が満たされる場合には、葬儀業者としては使いやすい白の輪ギクを葬儀で使おうと心掛けますが、生産供給量が低下して需要を充分に満たせない状況になると大きな変化が起き始めます。すなわち、キク以外の安定供給できる切り花に一気にシフトされる現象で、こうなると「葬儀用の白の輪ギク」のステータスは完全に消失することになります。
あるいは別の方向に大きく動く可能性もあります。家族葬で白菊以外の切り花を飾ることが習慣的になってくると、白の輪ギクの祭壇に違和感を感ずるようになり、それが大きな流れとなった時に葬儀業者が一気に白の輪ギクから離れる動きです。
いずれの場合でも、そうなるとその動きを止めることはできません。「白菊=葬儀の切り花」というイメージが固定した白の輪ギクはその売り先をなくし、価格の低下に歯止めが掛からなくなります。そうなる前に新たな一手を打つ必要があります。
2012/04/23のコラムで書いたように、一般に蕾の方が花保ちが良いと考えられています。しかし実際には、蕾で収穫した切り花は最後まで満開になることなく寿命をむかえますが、開花し始めてから収穫された切り花は満開まで咲き切り、花保ち期間は断然長く、満開まで咲き切った満足感とその見事さを堪能することができます。
「蕾の方が花保ちがよい」という神話が信じられているのは日本だけではありません。アメリカでも同じように「蕾神話」があるようで、エクアドルのバラ生産会社の施設には切り花収穫の従業員向けに切り花ステージの図が貼り付けられており、「アメリカ輸出用はかたい蕾」、「ロシア輸出用には開花し始め」となっていました(NEVADO ECUADOR社)。
また、ほとんどバラ生産が崩壊してしまったアメリカ国内で、堅実にバラ生産を行っているPajaFlora社では、コロンビア・エクアドル産のバラとの差別化を図るために、切り前(切り花収穫ステージ)を遅くして出荷していました。
この数年、キクではフルブルーム・マムやディスパッド・マムと呼ばれる花が開いた切り花が流通し始めていますし、バラでもクラシックタイプの「バラらしくないバラ」では開き始めてから収穫して流通する切り花が増加し始めています。
生花店の中でも「開き始めた切り花は鑑賞期間が長い」ことが次第に理解され始めており、購入する消費者に「こちらの方が良く保ちますよ!」と勧めてくれていますが、まだまだ理解されていない生花店が多いのも事実です。仲卸や花き市場になると「蕾神話」が根強く残っています。花き市場には花保ち試験のコーナーがあります。まずは流通段階で蕾で収穫した切り花と開花して収穫した切り花の花保ちを比較してください。そして、その結果を基に生産者と販売店への情報発信をして頂きたいと思います。
「思いこみ」が最も危険です。花き市場は花き産業のキーパーソンです。データに基づいた情報発信から始めましょう。
シンビジウムは日本が誇る洋ラン業界の雄です。シンビジウムの育種を行っている育種会社は日本以外ではほとんどなく、世界で流通販売されているシンビジウム品種のほとんどが日本で育成された品種です。これは1970年から1990年頃まで20年間続いたシンビジウム黄金期がもたらした功績であり、豪華なお歳暮の代名詞といわれたシンビジウム人気の成果ともいえます。
シンビジウムは国内でも組織培養技術(メリクロン)が早く導入された品目の一つで、1966年に赤塚植物園の赤塚充良氏がMorelの茎頂培養の論文を参考に始めたのが最初といわれています。メリクロン技術の導入によってシンビジウムは高嶺の花から庶民の手の届く商品となりました。私が小学校の時には、近所の会社の社長さんのお庭の温室でシンビジウムが育っていました。昔の記憶で定かではありませんが、50年前の金額で1鉢数万円したとの記憶があります。私が大学生になると、大苗であれば数千円で購入できる状況になり、当時自宅で数十鉢を栽培していました。
シンビジウム生産農家は、メリクロン苗を順化させたCP苗を購入し、2年間栽培した後、3年目の9月に花芽が伸び出して、冬に出荷する長期栽培作物です。シンビジウムは夏季の高温が苦手なため、7月には1,000m以上の高地に山上げし、9月には生育したすべての株を山下げします。従って、冬季の栽培圃場に加えて、夏季の山上げ圃場の確保が必要となります。当然、冬季は加温が不可欠ですので、暖房経費がかかります。また、山上げを行っている間は、管理のために毎日のように自宅と山上げ地を往復しなければなりませんので、特別な交通費が加わります。
このような3年という長い生産年数と経費を考えるとシンビジウムの販売価格が高額になるのは当然で、花保ちの長さや豪華さ、植え替え・株分け後に再度開花させて楽しむ喜びなど、シンビジウムが持つ相対的価値は他の鉢花物とは比べものにならない高さがあります。
しかし、現在のシンビジウムの販売価格は、メリクロン苗購入経費、3年間の栽培年月に相当する労力費、2年間の暖房経費を回収できる再生産価格になっていません。ホームセンターでは1鉢1,980円、ひどいところでは980円という破格値で販売しています。生産者からの買い取り価格は一体いくらになっているのでしょうか?
2008/07/27のコラムでも書いたように、シンビジウムの低価格は生産農家が自ら招いたこととはいえ、シンビジウムはお歳暮商戦から完全に退場しています。洋ランのなかで人気のない品目となり、価格の低迷が続く中で生産者が激減しています。最も生産量が多かった1991年は年間593万鉢が出荷されていましたが、2008年は321万鉢と激減しています。2012年の苗出荷量は150万本と推定されており、今後さらに出荷量が激減するものと推定されます。
苗販売数の減少は、シンビジウム種苗会社にとって存亡の危機ともいえる極めて大きな問題です。育種会社は登録品種の苗の販売数に応じたロイヤリティー収入を得て、それを育種事業に再投資することで成り立っています。しかし、苗を購入してくれる農家が減少し、ロイヤリティー収入が減少するのに加えて、シンビジウム業界が元気だった1980年代に育成された品種が次々とパテント切れになり始めており、このままではシンビジウム育種業界が成り立たなくなりそうな状況です。
最初に述べたように、日本のシンビジウム育種力は世界に誇る力があり、高い販売価値を評価するシンビジウム生産業界と販売業界が支えてきました。しかし、販売業界がこの商品価値を評価できなくなり、生産業界が崩壊した時、共に育種産業も崩壊することになります。このことは、日本のシンビジウムのみならず、世界のシンビジウム産業に大きな影響を与えることなるでしょう。
経営難から一部の生産者がシンビジウムを投げ売りし、それを助長する量販店の低価格販売がこのような大きな影響を招くことになるとは思いもよらなかったのではないでしょうか。
「良いものを安く」という量販店の非常識を、商品価値を評価して生産販売する花き産業界に持ち込むことが重大な問題を招くことになる代表的な事例といえます。
農業新聞(2013/01/16)の囲み記事「増える小規模な葬儀」にJAぎふ葬祭事業部の内容が掲載されていました。葬儀1件あたりの単価が2008年の150万円から2011年には128万円に低下しています。この大きな理由に家族葬の増加があります。
近年の家族葬の増加の傾向は、今後一層高まってくると考えられます。コラム「葬儀用の輪ギクの需要予測 (2011/02/01)」でも書きましたが、家族葬は亡くなった本人を偲んで行う葬儀であるため、見栄えや世間体を気にすることはありません。葬儀に赤いバラを使うと「周りから何を言われるか判らない」といった周囲の目が気になりますが、身内だけで執り行われる家族葬であれば、故人が好きな花を飾ることが優先されることになるでしょう。
記事では、最後に「数年後には当JA管内でも家族葬が主流のスタイルになっているかもしれません。そのためには今から経営者としての中・長期的な展望を思い描いておくことが、大切ではないかと考えています」と締めくくられていました。
日本国内の輪ギクの生産量は9億本で、カーネーションの3億2000万本、バラの3億2000本を大きく引き離しており、切り花生産量の約15%を占めています。キクは電照栽培やシェード栽培が開発されたことで周年安定出荷が可能となり、葬儀需要に適した切り花として葬儀会社が優先的に利用してきました。しかし、家族葬の普及によって葬儀の祭壇装飾の決定権が葬儀会社から喪主に移った時に、間違いなく輪ギクの需要は予想をはるかに超えて急速に低下する可能性があります。
輪ギク生産業界は、上述のJAぎふ組合長のように、経営者としての中・長期的な展望を正確に思い描いているでしょうか?「まだまだ言うほど輪ギクの需要は堅い」と言い切れるでしょうか?
もっと大きな問題があります。日本の切り花需要の15%を占めている輪ギク生産が崩壊した時に、輪ギク生産者が他の切り花に転向できなければ、日本国内の切り花生産業自体が大きく衰退する危険性が考えられます。輪ギク生産業界が衰退する事態は、日本の花き業界が一気に崩壊しかねないゆゆしき事態です。
花き生産業界として、将来を正確に読み取って、今から対策をたてることを真剣に考え始めないと、そのような事態が起きてからでは手遅れになりかねないと考えます。「まだまだ大丈夫」という『茹でガエル』の考え方は極めて危険だと思います。
私は花き業界を守備範囲にしていますが、昨年岐阜県のイチゴ生産者大会での講演依頼を受けました。ムムッ、イチゴは専門外だけどと思いながらも結局断り切れずに引き受けました。岐阜県のイチゴは全農岐阜の系統販売が主体で、主に北陸市場に出荷されていますが、生産出荷量は1988年から年々減少し、この25年で半減しています。果たして岐阜県のイチゴは何を目指しているのかが課題です。
全国的なイチゴの生産出荷量は、1988年以降ほぼ一定していたものの、2001年から急激に減少する傾向を示しています【PDFファイル】。
イチゴの消費は、バブル景気に加えて各都道府県で行われた新品種育成競争の成果として急増しました。バブル崩壊によって消費の増加が停止したものの、イチゴを食べる習慣が定着したことによってイチゴの消費が一定で維持されました。しかし、2001年以降の減少は給与収入の減少に加えて、新品種の更新が一段落して他の果実との競合に勝てなくなっているものと考えています。
岐阜県のイチゴ生産出荷量をみると、この全国的な生産出荷量の流れとはまったく異なっています。全国のイチゴ出荷量が増加していた1988年以前であっても出荷量は一定でした。そして全国の出荷量の増加が停止し始めた1988年以降に早々と減少し始めています。
すなわち、岐阜県のイチゴの販売マーケットである北陸市場は、1988年以前のバブル期に岐阜県のイチゴ生産能力に見切りをつけて、需要の増加に応じて岐阜県以外の産地からの入荷へとシフトしていたものと推測されます。そして需要の増加が停滞した1988〜2001年にかけては、岐阜県産の評価が低迷する中で、他産地のイチゴ出荷で補填する体勢確立され、2001年以降は岐阜県産イチゴの評価の低迷に歯止めが掛からない状況になり、生産意欲が一気に低下したと考えます。
さらに、北陸地方の人口減少の影響もあります。北陸3県の人口はいずれも100万人未満で、年々人口が減少しています。岐阜県の人口も減少しており、出荷先マーケットの人口減少はそのまま消費量の減少をもたらします。岐阜県に隣接する愛知県は400万人の人口があり、年々人口が増加しているのにもったいない話です。
もう一つの要因として生産者の高齢化もあげられます。図中の折れ線グラフの赤丸は、岐阜市で20cm以上の積雪があった年です。これらの年には岐阜市の西部に位置するイチゴ産地ではもっと多い積雪があり、イチゴハウス倒壊の被害が出ています。積雪によるイチゴハウスの倒壊は高齢化したイチゴ生産者の生産意欲を大きく減退させ、「ハウスの倒壊を機に引退しようか」という機運が広がり、倒壊したハウスの再建を断念した結果、その翌年の出荷量が減少しているのが判ります。
岐阜県では5年前からイチゴの新規就農者育成事業として「いちご新規就農者研修」が開始され、毎年4名の募集があり、12名の新規イチゴ生産者が現れています。イチゴ生産者大会の参加者をみると明らかに世代格差が大きく、新規就農した30〜40歳の若者と明らかに60歳以上の方々に大きく分かれており、意識の格差の大きさを実感しました。年齢から見る限り親子ではなく「祖父・孫」の関係です。
当然、高齢者はとりあえずの収入があれば満足でしょう。しかし、新規就農者は生業としてのイチゴ生産を考えていますので、これまでの岐阜県のイチゴの経営や出荷方針に対する意識が新規就農者と従来の高齢農家との間で大きく乖離しています。このような中で、単純に若い新規就農者を就農させるだけでは産地の活性化に繋がらないと思います。岐阜県のイチゴ生産・出荷の方向性をどのようにしていくのかが問われているのだと思いました。
8月28〜29日に鳥取県と岡山県のシンビジウムの山上げ産地を視察してきました。
シンビジウムについてはこれまでのコラムでも数回取り上げていますが(観葉シンビジウム(2001/05/16)、シンビジウム業界の悩み(2008/07/27)、「アジアの中の日本」を目指すために(2005/12/01))、お歳暮の最有力商品からの転落、輸出戦略のはき違えなど、多くの問題を経て現在に至っています。
シンビジウムは品種の選定と苗の発注から出荷までに4年の長期間を要する特殊な生産品目で、生産ロスの発生は他の作物とは比較にならないリスクを持つ鉢花です。生産ロスを避けたいあまりに通常では出荷できない物を量販店で売りさばきたい気持ちは理解できないわけではありませんが、市場出荷できる商品の価格が量販店での販売価格に影響されて低下し、その結果としてご贈答品としての地位を失ってしまったという状況を招いてしまいました。また、中国でのシンビジウムの旧 正月需要が年明けの1月下旬から2月上旬ということから、年内出荷できなかったB級品を輸出したことで、自らその優位性を放棄してしまったこともありました。
過去の失敗はともかくとして、これからのシンビジウムの将来展望を考えてみたいと思います。キーワードは「新たな商品戦略」と「新たな生産技術と商品開発技術の融合」です。
シンビジウムの品種開発技術は日本が世界のトップを走っており、恐らく日本を追随できる国は世界にありません。すなわち、真面目にシンビジウムの育種をしている国はないと言っても過言ではありません。しかし、最盛期のシンビジウムの生産出荷量が500万鉢と言われているのに対して現在の生産出荷量は200万鉢を下回っており、育種会社(種苗会社)にとって、経営が成り立たない状況に追い込まれていると言えます。シンビジウム育種会社最大手の河野メリクロンは育種・培養増殖以外の事業の多様化にシフトし始めていますし、向山蘭園もシンビジウム以外のランの育種や中国事業展開など多様化を図っています。このような状況から見て、新規品種によってシンビジウム業界が大きく変わることは期待できないでしょう。生産者として、世界に冠たる育種能力が発揮できないことは誠に残念です。
したがって、「新たな商品戦略」には従来の品種群の中から選抜せざるを得ない状況ですが、その一つに向山蘭園が提案している「和蘭」があげられます。高知県や三重県の若手生産者などが取り組んでおり、東洋蘭の清楚で趣のある姿と、洋蘭の華やかさを併せ持ち、香りと侘び寂びを感じさせてくれます。小型でテーブルの上やテレビの横に置いて楽しむことができ、これまでの持ち運びにも飾る場所にも悩む大型のシンビジウムの概念を打ち破る商品といえます。しかし問題点もあります。東洋蘭の血統が入るため開花までの年数が3年以上かかったり、小さいために市場での評価が低かったりと苦戦しています。マーケットで評価を得るためには一定の年数を必要とするように思います。
「新たな生産技術と商品開発技術の融合」では、鳥取県のシンビジウム生産者(国本洋蘭園)の所で楽しみな開発商品をみることができました。シンビジウムの生産は通常3年を要し、培養苗から2年間の育苗期間が必要でした。しかし2年株で開花させることが可能になりつつあります。小鉢での開花株はジャマにならない省スペースで鑑賞することができます。さらに興味深いことは、購入した消費者が翌年も必ず開花させることができることです。「観葉シンビジウム(2001/05/16)」でも書いたように、大鉢のシンビジウムは貰った時には豪華ですが、すっかり根詰まりしているため翌年に再度開花させることができず、「花の咲かない観葉シンビジウム」が各家庭に1鉢は転がっている状況です。これに対してこのシンビジウムは翌年に開花させることが容易であるため、消費者が「育てて咲かせる満足」を味わうことができます。
このように、現在のシンビジウム産業は30年前の隆盛期から見るとどん底のような状況ですが、新たな後継者が就いて新しい風が吹き込まれたことによってシンビジウムも新しい局面が見え始めているように思います。
巳年の年頭に当たって、メール年賀状を作成いたしました。ご覧下さい
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本年4月から応用生物科学部長を拝命することになりました。これまでのように花き産業界への講演活動は出来なくなるかもしれませんが、昨年と同様に「教授の一言コラム」の掲載に励みます。
いよいよインテリアの時代をむかえ、鉢物業界も少しは先が明るくなりそうな予兆もみえ始めています。
また、フラワーバレンタインも首都圏では定着し始める予感がいたします。是非盛り上げていきましょう。
本年もよろしくお願いいたします。