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タ イ ト ル 更新年月日
共販産地の戦略−販売組織としての法人化− 2012/12/26
共販産地の戦略−組織の確立と組合員の確保− 2012/12/18
共販産地の戦略−流通改革による鮮度保証− 2012/12/07
共販産地の戦略−全国津々浦々の出荷− 2012/12/05
百貨店の戦略とスーパーの戦略 2012/11/26
共販産地の戦略−信頼関係を築く− 2012/11/20
共販産地の宿命 2012/11/19
アメリカの花き苗産業が急速に成長している 2012/11/05
園芸専門店と量販店の違い 2012/10/29
IFEX2012に参加して 2012/10/19
人口分布から見る花き市場の将来 2012/10/13
多様な切り花の重要性 2012/10/01
私立大学の45.8%が定員割れ 2012/09/24
景気変動と花の需要 2012/09/18
フワラーウォーク 2012/09/12
日本でもラボバンク問題が始まっている 2012/09/10
オランダの花き産業の苦悩 2012/09/04
日本でも導入されている在宅セリシステム 2012/08/27
オランダの大規模花き市場の苦悩 2012/08/20
市場外流通の大きな流れ 2012/08/16
農地の相続税納税猶予がもたらす農地の荒廃 2012/08/07
輸入切り花をもっと広報しよう! 2012/07/23
韓国サボテン育種研究所での研究 2012/07/11
国際化の中での国内生産者の目の付け所 2012/06/22
店持ち(たなもち)と花保ち(はなもち) 2012/06/15
中国の農業の変遷 2012/06/05
政策としての花き産業振興策 2012/05/30
TPP問題について 2012/05/23
鉢物の低迷−園芸店とホームセンターの店頭の違い− 2012/05/20
花き生産者の代表者は誰か? 2012/05/05
かたい蕾で収穫した花は花保ちが良いという神話 2012/04/23
スマイルカーブ 2012/04/09
ヒートポンプ除湿による病害の抑制 2012/04/02
農業は産業になっているか? 2012/03/18
フラワーバレンタインの感想 2012/03/12
花き市場からの情報の活用 2012/03/08
バラを作る意味 2012/02/22
日本の切花は芸術品 2012/02/15
生産者は花専門店の御用聞きになるべき 2012/02/07
小規模なバラ生産者の戦略 2012/02/02
フロリアード2012の宣伝 2012/01/26
花き流通業界の再編 2012/01/18
縮小社会での大学再編 2012/01/13
最近の消費者は、と嘆くなかれ 2012/01/08
2012年を迎えて 2012/01/01

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★共販産地の戦略−販売組織としての法人化− (2012/12/26)

 共販組織の大きな課題は共同組合であることです。協同組合である限り、組合員は生産規模の大小にかかわらず平等に権利を有し、意見を集約することができず、その結果として明確な経営方針を打ち出せない状況に陥ります。
 共販組織を法人として独立させ、切り花販売を主たる業務とします。これによって、組合組織では果たせなかった指示系統の明確化が図られ、法人の取締役は経営の責任を持って職務に専念できます。株主(出資者)は農家の他、農協、県市町村などの自治体、中核市場などが想定できますが、農家の出資割合は50%を下回ってはいけません。
 これまで組合員であった農家と販売法人との関係は、農家に切り花生産を委託する関係になります。生産された切り花を品質に応じて価格を設定して買い取ります。当然のことながら、買い取る品種の構成は販売法人が事前に決定し、委託する生産者に割り振ります。買い取り価格は品種ごとに異なります。作りにくい品種は作りやすい品種より高価格になりますが、生産技術の低い農家が作りにくい品種を作付けして委託を受けた本数を出荷できない場合には相応のペナルティーを受けるため、相応のリスクを負うことになります。
 また、高品質な切り花を生産できれば買い取り価格が上がるため、農家は生産技術の向上に積極的に取り組みます。販売法人が開催する生産技術向上のための研修会は当然「有料」です。農家が必要とする資材は販売法人が入札によって購入して農家に配布しますが、主たる業務が切り花の販売であるので、農協のようにマージンを取る必要はありません。
 一方、法人の職員は営業・販売の高い能力が要求されますが生産知識を持つ必要はないため、外部から営業・販売能力の高い人をヘッドハンティングすることが可能ですし、専門職として業務に専念できることになります。
 基本的に、農家は共販組織の時のように生産した切花を全量出荷しなければいけないというという縛りはありませんが、委託を受けた本数の出荷は契約上の義務を負います。農家は基本的に委託を受けていない切り花の出荷販売は自由ですが、販売法人の営業・販売能力が向上することによって販売価格が上昇するため、各自で販売するより有利な価格で買い取られるために、自然に全量委託を受けて生産することを選択するでしょう。
 共販組織を法人化することによって組織の経営方針の明確化や経営責任の所在の明確化が図られ、販売先の精査が行われ、マーケティングに基づいた販路拡大や販売店との連携プロモーション、鮮度保証などに積極的に取り組むことができるため、共販組織で大きな問題となっていることの多くは解消できるのではないかと考えます。販売法人の経営が順調になれば、営業・販売業務以外の後継者育成などの人材育成事業なども手がけることが可能になってくるでしょう。


★共販産地の戦略−組織の確立と組合員の確保− (2012/12/18)

 共販産地の組合員の減少に歯止めが掛かりません。高齢化に伴う廃業に加えて、優秀な生産農家の組合からの離脱も大きな要因です。
 共販産地のメリットは大量の生産出荷物を確保していることです。組合員の減少はこの大量の生産出荷物の確保という最大のメリットがなくなることであり、共販組織の崩壊を意味しています。「農業協同組合の共選共販の限界と展望」 や「日本一の産地の苦悩」に掲載したように、高齢化や意欲的な専業農家の組合からの脱退などの組合員の減少に伴って産地が崩壊する事例は枚挙にいとまがありません。
しかし全国には若い後継者が次々と就農し、新規就農者も加わって、組合員の減少が見られない産地もみられます。これらの共販産地では若手や中堅の生産者の意見を積極的に取り込む体勢ができています。若い生産者は生産経験が浅いため生産技術が必ずしも高くありませんが、これまでのしがらみを知らないために自由な発想ができ、生産だけでなく流通・販売に対する興味が強いのも特徴です。
年配の生産者からは「花一つまともに作れないのに生意気な」と一蹴されやすいのですが、これまでのしがらみこそが現在の閉塞状況を作っていることも事実です。「数は力なり」は共販組織の鉄則にもかかわらず、途中で退会した生産者が再度加入したいという意向があっても、過去のしがらみがそれを許しません。企業であれば「しがらみ」にとらわれることなく統合・合併が可能ですが、統率力のあるリーダーがいないため、論理よりも感情論が優先されてしまいます。
多くの共販組織のリーダーは組合員である生産者が務めます。しかし、組合長といえども生産者であり個人経営者であるために、自分の経営を捨ててまでも組織の発展に尽くすことはできません。同様に農協担当職員も人事異動で組織を離れる可能性があるため、強く意見を主張することもありません。
このように組織のリーダー不在の状況では若者を育てる気風は出てきませんし、組織としての統率力もなく、次第に烏合の衆の集まりとなって組合員の減少を招くことになります。


★共販産地の戦略−流通改革による鮮度保証− (2012/12/07)

 地球の裏側のケニアから輸入される切り花は収穫後から最低でも5日かかって販売店の店頭に届きます。これに対して共販産地の切り花は3日で販売店にお届けすることが可能です。鮮度という観点から見ると、輸入切り花に対して圧倒的に共販産地の方が有利に見えます。しかし実態はそうではありません。
 多くの切り花市場の開設日は月・水・金などのように隔日に行われているため、収穫した切り花を的確に鮮度を維持して出荷することができません。輸入切り花は輸送中のコールドチェーンが完備しているのに対して、国内のトラック輸送での保冷車の割合は意外と低く、輸送中の切り花はヒートショックのストレスを受けています。さらには市場の品温管理もずさんであるため、コールドチェーンはまったくといって完備できていません。
 また、大規模市場への荷物の集中化が一段と進み始めた結果、大規模市場から地方市場への転送の割合が急増しています。産地から販売店までの時間的距離は大きくなるばかりで、ケニアからの輸入切り花の販売店までの時間的距離を上回ってしまう事例が多々あります。果たして国産は輸入に対して本当に有利なのでしょうか?
 多くの共販産地では大規模な集荷場を持っており、首都圏や関西圏などの大規模市場に一元的に出荷するにはもったいないほどの分荷能力を備えています。この施設を活用して全国津々浦々の市場への分荷・配送をすることで、販売店までの時間的距離を短縮することができます。集荷場でのトラック積み込み・大規模市場での積み下ろし・地方市場への転送のためのトラック積み込み・地方市場での積み下ろしなどのトラックへの積み換え回数を減らしてコールドチェーンを徹底することが可能になります。
 当然、全国の市場からの発注伝票処理を行うのは大変ですので、その業務は大規模市場に担っていただきましょう。商品は直送ですが、伝票だけが市場間転送処理になります。
 大規模市場にとっても伝票処理だけで手数料を受け取ることができるためメリットがありますし、手数料削減の交渉も可能になるかもしれません。
 鮮度保証のためには流通過程の簡素化が不可欠ですし、効果が最も大きいのも事実です。大規模な集荷場を持っている共販産地だからこそできる鮮度保証の取り組みは、販売店にとっても輸入切り花に対する国産のメリットとして認識され始めます。


★共販産地の戦略−全国津々浦々の出荷− (2012/12/05)

 これまで共販産地の販売戦略は「首都圏や関西圏の大規模市場の市場占有率を確保する」ことが目標となっていました。確かに人口の多い首都圏や関西圏は「切り花初心者」や「花マニアの基部」の消費者人口も多く住んでいるので効率はよいのですが、同様に輸入商社の商圏でもあります。
 共販産地が販売の効率化を目指して首都圏や関西圏の大規模市場に限定して出荷することは、まさに輸入商社と同じ土俵で相撲を取ること意味します。
 残念ながら共販組織の担当者は農協職員で、定期的な職場の移動を余儀なくされるため、担当者の営業能力は定期的に低下します。これに対して輸入商社の営業担当者の経験年数は長く、組織として継続されるため、輸入商社の営業マンと共販組織の営業担当者との力量の差は明らかです。
 このような状況からみて、輸入商社と同じ土俵で相撲を取るのではなく、新たな土俵を作る戦略が必要です。切り花輸入商社は私企業であり、その経営体質は言われているほど揺るぎないものではありません。輸入商社は輸入切り花を買い取り契約して国内の販路の開拓をしているため不確定な需要を狙って販売ができず、当然企業理念として商圏の選択と集中が不可欠です。輸入商社に対抗して、品質の安定した同一品種を大量に出荷できるという特性を最大限に発揮するためには、特定の市場への出荷ではなく、安定して全国津々浦々に供給できる体勢を目指すことが必要です。
 首都圏や関西圏の大規模市場以外に共販産地の切り花の出荷を望んでいる市場は極めて多いにもかかわらず、ほとんどの共販産地はその声を敢えて無視し、「うちの花が欲しいのなら首都圏や関西圏の大規模市場から転送してもらいなさい」という姿勢は間違っています。まさに殿様商売とでも言える農協体質の悪い側面が出ているのではないでしょうか。
 欲しいというお客様がいれば何処にでも販売すると言う姿勢を示すことこそ、輸入商社とは違う国内産地というメリットが最大限に発揮されると考えます。


★百貨店の戦略とスーパーの戦略 (2012/11/26)

 消費構造の三角形の中で、「バラ好き」や「バラマニア」といわれる消費者は購買力が高く高価なバラを購入してくれる階層ですが、総人口に対する人数が少ないのが特徴です。
 従って、総人口の割合が0.5%とした場合、例えば10万人の地方都市では500人ほどしかいませんが、200万人の名古屋市には10000人の消費者がいることになります。500人の消費者が毎月1000円のバラを1本購入してくれても年間600万円にしかなりませんが、名古屋市では1億2000万円の売り上げになり、名古屋市のような大都市では、高級なバラを販売する専門店はビジネスとして充分に成り立ちます。
 すなわち、消費構造の三角形の上位階層を対象とするビジネスは「百貨店」の戦略です。百貨店は一定以上の人口のある大都市で、高級ブランド商品を選択的に販売することでビジネス展開でき、地方都市では成り立ちません。
 これに対して、消費構造の底辺に位置する「初心者」層は人数が多く、推定で総人口の半数を占めているものと思いますが、年間購入金額は低いのが特徴です。
 従って、10万人の地方としてでも5万人程度の人口があり、年間1000円しか購入してくれませんが、5000万円のビジネスが可能です。
 共販組織の出荷先をみると、その多くが大都市の大規模花き市場に集中しています。このことから判断して、共販組織は消費構造の三角形の上位階層を対象とする切り花を生産していることになります。しかし、そのようには思えないのは私だけでしょうか。
 共販組織は一定品質の切り花を大量に出荷できるというメリットを考えた時、百貨店の戦略を選択するのが良いのか、スーパーの戦略を選択するのが良いのかをジックリ考えてみる必要があると思います。高度経済成長期やバブル期の夢をいまだに追い求めて、その当時の戦略を継続することは、共販組織の有利性を損ない、組織の崩壊を招くことになりかねないと考えます。


★共販産地の戦略−信頼関係を築く− (2012/11/20)

 「切り花初心者」と「花好きの基部」の消費者【PDFファイル】を対象として切り花を販売しているのは花束加工業者に委託しているスーパーであり、都市部のエキナカのフラワーショップであり、地方では駅周辺のセンスの良い園芸生花店です。この販売店が「輸入の切り花でも国産の切り花でもどちらでも問題ない」と考えれば、当然安定した品質で安定供給される輸入切り花が主流になっていくでしょう。
 しかし、これらの販売店や花束加工業者が地球の裏側にあるケニアの生産地を直接視察することはできません。どのような人達が、どのような環境で、どのように生産しているのかを理解することは難しく、ましてや言葉が通じないために信頼関係を築くこともできません。輸入切り花はいわゆる素材の一つとして扱われることになります。
 これに対して共販産地は日本国内ですので、いつでも見に行くことができます。販売者が作っている人と知り合いになり、周囲の風景などの環境を知り、心が通じ合う信頼関係を作ることは容易です。
 不思議なもので、顔を知っている生産農家が作っている切り花には何故か思いがこもってきます。素材ではなく、思いがこもった商品になっていきます。「あの人が作った花だからしっかりと売ってあげたい」と思うようになります。
 共販組織だからできることとして、市場と協力して、一定の切り花を購入してくれている販売店を招待して産地見学をしてもらい、生産農家との交流会を開催しましょう。大量に取引してくれている花束加工業者を通じて、スーパーの担当者を招待しましょう。個々の生産者ではできないことですが、組織であれば経費を支出することが可能です。
 農家一人の出費が2万円であっても、100人の農家が集まれば200万円となり、往復のバス10台分の経費を負担することが可能です。宿泊は先方持ちですが、バス代などの交通費と昼食代は共販組織が持って産地見学をして頂くことで、参加者は必ず増えてきます。
 生産農場を見て、生産者と交流した販売担当者は、必ず強い絆を感じて積極的に共販産地の切り花を購入してくれるでしょう。
 生産者と販売者が強い絆で結ばれた時、輸入切り花には真似のできない貴重な商品情報の交換が可能になり、新たな品目の開拓や生産技術の改善に繋がりますし、初心者向けではない「花好きの基部」の消費者を対象とした「チョット価格の高い切り花販売」にも繋がってくると思います。


★共販産地の宿命 (2012/11/19)

 鉢物生産に比べて切り花生産は共販組織を形成して出荷している産地が多いのが特徴です。
 1980年代の国内の景気が良かった時には切り花の需要が強く、大量の切り花を出荷できる共販産地が重要な役割を果たしていました。すなわちパーティや結婚式で品質が揃った切り花を大量に使用するにあたって、零細な個選の生産者ではその需要をまかなえず、品質の安定した同一品種を大量に出荷できる共販産地の存在が不可欠でした。
 しかし1990年代に入ってバブルの崩壊と共にパーティーなどのいわゆる仕事花の需要が急速に減少したのを受けて、共販組織で生産される大量の切り花の消費を伸ばすために「カジュアルフラワー」という概念が提唱され、共販組織は短茎多収の生産体制に移行し始めました。しかし、カジュアルフラワーとして消費される短茎多収の切り花は当然価格の上限が制約されますが、短茎多収の切り花であっても収穫・調整・選別・出荷にかかる労力が軽減されるわけではなく、販売価格の低下に伴ってこれらの経費の割合が高くなり、共販産地の生産者の収入が低下すると共に、組織運営経費も減少して、共販組織の基盤が脆弱化し始めました。
 2000年代にはいると、海外からの輸入切り花が急増し始めました。海外の生産会社の生産規模は日本とは比べ物にならない生産規模で、例えばケニアの切りバラ生産会社の上位2社をあわせると日本全体の生産面積を超えてしまいます。このような大規模生産会社では同一品種を大量に輸出することが可能で、まさに共販産地が得意としていたジャンルを奪っています。
 このような状況の中、共販産地はどのような戦略を取るべきかで悩んでいます。
 さて、共販産地の特性をもう一度考え直してみましょう。共販産地の個々の組合員は小規模零細な生産農家ですが、産地として生産技術を共有して統一品種を生産することで、出荷組織として安定した品質の切り花を大量に供給できることが特徴です。大量に切り花を消費できるのは、いわゆる消費構造の底辺に位置する「切り花初心者」と「花好きの基部」の消費者です【PDFファイル】。個々の消費者の購買能力は低いのですが、人数が多いので大量の切り花を消費してくれています。しかしこの消費者は地域的に集中しているのではなく、広く分散しているのが特徴です。すなわち、この消費ターゲットは一定の人口に応じて存在し、人口の多い首都圏や東海圏、関西・中国圏、九州北部だけではなく全国至る所で生活している人達です。
 輸入切り花を花束加工してスーパーマーケットで販売している切り花は、まさにこの消費ターゲットを対象としていますし、定期的に仏花を購入する消費者もこのターゲット層に含まれ、まさに輸入切り花との勝負が課せられます。
 輸入切り花との競争では、人件費、施設設備費などの生産コストではかないませんし、相手は周年安定出荷できるのに対して共販産地では必ず出荷盛期と端境期が出てきてしまい、まともには勝負できません。では、どのような戦略が取れるのでしょうか。次回に考えてみましょう。


★アメリカの花き苗産業が急速に成長している (2012/11/05)

 1990年以降、アメリカの花き苗産業が急拡大し、2010には7億1700万ケースと15年で2.5倍になっています。アメリカでは切り花産業はコロンビアやエクアドルからの輸入に淘汰され、細々と季節対応の切り花が生産されているに過ぎませんが、苗産業は急拡大し、これがアメリカの花き産業界を支えています。
 アメリカには日本のような花き市場はなく、ベンダーと呼ばれる販売者を通じて生産者は販売店(ガーデンセンター)に販売しており、生産者はガーデンセンターからの注文に応じて自社のトラックで直接搬入する事例も多くみられます。アメリカでの花き苗産業が急増した理由に、この販売店への直接納入が関係していると考えています。
 シアトルの宿根草生産者を訪問した時に、経営者は遠く1000km離れたカリフォルニアのガーデンセンターまでトラックで出荷していました。自社で生産した苗をガーデンセンターに納入する場合、何も会話をしないで帰ってくることはありません。当然店内を一回りして、自社の苗がどのように売られているかを見てきます。ヒョッとしたら、お客さんから自社苗の評価を聞くこともできます。これらの情報は間違いなく新たな商品開発に繋がる貴重な情報です。
 日本国内の花苗生産量は7億9200鉢と極めて少なく、花き産業のほとんどは切り花で占められています。もしアメリカのように海外からの輸出攻勢が進んだ場合に、切り花は一気に崩壊するかもしれません。そうなった場合に、アメリカのように花き苗生産が大きく発展しなければ、花き産業自体が日本国内からなくなってしまうかもしれません。
 前向きに考えましょう。アメリカでは花き苗や鉢物の生産・消費が極めて大きいのに対して、日本国内では花き苗や鉢物があまりにも少ない状況からみて、日本での鉢物・花き苗の消費は今後拡大できる余地を持っていると考えることができます。特に2010〜2030年はインテリアに強い興味を示す1960〜70年代生まれの人達が50歳代となり、室内装飾としての花鉢物や観葉植物が多くな注目を浴び始めます。さらに1990年代のガーデニングブームを子供の頃に体験した人達が40歳以上となり、ガーデニングブームが再来すると考えています。
 これからの10〜20年は鉢物や花壇苗を積極的にアピールする必要があり、新商品を投入していくことで花き園芸産業が再び脚光を浴びると考えています。


★園芸専門店と量販店の違い (2012/10/29)

 近年のホームセンターなどの量販店での花壇苗や野菜苗の販売量の急増は目を見張るものがあります。経産省の商業統計によれば、苗物販売に限ってみると全販売額の3/4が量販店で販売されています。そして、近年は花鉢物を積極的に取り扱う量販店も出始めています。
 2000年頃だったと記憶していますが、某ホームセンターのバイヤーが「パンジーなんて人寄せパンダだから、少々仕入れ値を下回った価格で販売しても園芸資材を買ってもらえば何も影響しない。我々はパンジーに対して品質などは望んでいない。とにかく生産者は何も言わずに我々が望む低価格で苗を生産してくれればよい」と言ったことに対して、口論となったことがありました。若かったですねぇ・・。
 これは極端な事例かもしれませんが、ホームセンターの中には園芸植物部門を客寄せの付け足しと考えている所があることも事実ですし、その一方でオリジナルの鉢物商品を特定の生産者と共同して開発し、独占販売しようとする海外のガーデンセンターを目指しているホームセンターもあり、鉢物や苗物に対する姿勢がどうも2極分化し始めているように感じます。
 さて、このガーデンセンター化を目指している量販店と園芸専門店の棲み分けが課題となっています。関東を拠点とする量販店は園芸に力を入れており、園芸専門店に匹敵する従業員教育を徹底しており、まさにガーデンセンターです。これに対して園芸専門店は世代交代の真っ最中で、先代の親父さんは植物に詳しく、ウンチクを話してくれたのですが、2代目の後継者はまだまだ勉強不足で、植物の名前もおぼつかないところも見受けられます。まぁ、世代交代したばかりの北朝鮮の金正恩政権が心もとないのと同じですかねぇ・・・。
 それはさておき、山梨県の生花商業協同組合の会合で「園芸専門店と量販店との違いは何ですか?」と質問を受けました。
ホームセンターは効率よく売れ筋商品を取り揃えて販売します。お客さんは「トマトの苗を買う」という目的を持ってホームセンターを訪れているので、苗の種類や管理方法などの説明は特に必要ありません。これに対してガーデンセンターは、豊富な品目(種類)に加えて品種もふんだんに取り揃えてあります。お客さんは「どのトマトにしようかなぁ」と色、形、利用法などを考えながらトマトの種類を選んでいます。時には店員さんから「この品種はパスタ料理のソースにピッタリです」というアドバイスに納得したりします。このように同じ量販店でもホームセンターとガーデンセンターとはいささか異なるように感じますが、基本的な考え方は共通しています。『お客さんは購入目的を明確にして、購入商品を自分で選ぶ』ことです。
 さて、園芸専門店がするべき業態とはどのようなものでしょうか?私は『園芸の楽しみ方を提案できるのが園芸専門店である』と考えています。来店したお客さんが、お店の植物を見て「なるほど!こんな使い方(飾り方)があるんだ。へぇ〜、やってみよう!」と感じて手を出してしまう。これが究極の園芸専門店の楽しみだと思います。見慣れた植物なのにワクワクしてしまう。毎回新しい提案があり楽しくて何度も来店してしまう。心豊かになる。植物を買って満足できる。例えば、5月に季節の鉢花を購入しようと来店したお客さんが「アジサイなら鉢物として楽しんだ後、庭に植えて、翌年は切り花として楽しむことができます」という活用法を教えてもらって納得して購入する。リビングに適した観葉植物や花物を一挙に提案する「リビングコーナー」、日陰の庭園に適した植物を集めた「日陰者にスポットライト」、「庭の草取りいらずのグランドカバー」など・・。
 園芸専門店は高い人件費を支払って従業員を雇っています。先日訪問した前橋市のフラワーガーデン泉の従業員を評して、同行いただいた生産者が「ここの従業員のお客さんに対する接し方はホストクラブのホストのように感じる時がある」と言っていました。従業員との会話を楽しんで園芸のおもしろさを実感する。従業員の優しさや思いやりをうれしく感じる。
 量販店に対しては、消費者は明確な商品購入目的を持って来店するので衝動買いを目的とした商品構成は不要で、売れ筋商品に絞った比較的単純な商品構成で構わないため、販売効率を前面に出して価格の安さを売りにするビジネスが可能です。
 これに対して、園芸専門店に来店するお客さんは花を買いに来るだけではなく、知識や情報を求めて来店するのではないでしょうか。衝動買いもありますし、「ここにしかない」と言われれば価格を度外視した購入もあります。園芸専門店では「心豊かな満足」を提供できることが大切です。ただし、来店者数が少ないとロス率が高くなります。遠くからでも来店するお客さんを集める口コミや広報が重要になります。


★IFEX2012に参加して (2012/10/19)

 昨年は日本ばら切りバラ協会の研究大会と重なったため行けませんでしたが、2年ぶりにIFEXに行ってきました。2年前のIFEX2010は花の展示が極端に減少して農業資材展になりかかっていたのですが、今回のIFEX2012は生産者ブースが多く開設されていて、植物の展示が多くなり、さらに大きな区画を占めたトルコキキョウフェアブースでは種苗会社も展示を再開し、種苗会社もそこそこ独自のブースを出展していました。
 数年前には到底及びませんが、国際フラワーEXPOらしい展示会に戻りつつあるように思いました。
 しかし、初期に出展していた花き市場のブースはやはり見られませんでした。
 IFEXはアジア最大の花業界商談会と銘打っていますので、花き市場にとってはIFEXに出展しても商談ができるわけではありませんし、通常の競売も自社施設で行っており、ましてや人件費を考えると1千万円を超える経費を費やしてまで出展する意義が感じられないのかもしれません。
 しかし本当にそうでしょうか。
 生産者が個人でIFEXに出展すること自体は大いに奨励するべきことだと思いますが、大手のバイヤーが必要とする量の商品を個々の生産者で対応することは、余程の大規模生産者でない限り難しいことです。実際に個々の生産者が出荷してきた植物を、一定の量としてまとめて販路を開拓することが花き市場の役割であることを考えると、個々の生産者と大手バイヤーが一堂に集まる商談会としてのIFEXはミスマッチ以外の何ものでもありません。
 花の展示商談会が活性化することは、そのまま花き市場の業務の活性化を導きます。「IFEXに出展しても商談するわけではないのでメリットがない」という近視眼的観点から出展を取りやめているのであれば、生産者とバイヤーの間を取り持つ役割を果たすという花き市場の本来の業務内容を見失っているのではありませんか?
 花き市場が花き業界を盛り上げて、一見大仰に旗を振ることで花き業界が活性化し、その結果として取扱量が増加して一定の価格が維持されることによって花き市場の経営が改ざんされるものと考えます。


★人口分布から見る花き市場の将来 (2012/10/13)

 「人口増減率」と「15〜64歳人口」の分布を見てください【PDFファイル】。人口が増えている都道府県は、東京・埼玉・神奈川の首都圏、愛知、滋賀、福岡、沖縄のみで、それ以外は減少しています。比較的人口減少の少ない0.0〜0.3%の都道府県を含めると、千葉県を含む首都圏、東海圏の愛知県、近畿・中国圏、九州圏とみることが出来ます。
 15〜64歳人口は別名「労働者人口」ともいわれ、一定の所得を持っている人口です。この分布を見ると、やはり400万人以上の都道府県は、首都圏、愛知県、大阪府の3地域となり、200万人以上では、静岡県、兵庫県、福岡県、北海道が加わります。1000万人以上を加えて遠目から見ると、人口増減率でみられた「首都圏」、「中京圏」、「関西中国圏」、「九州圏」が見て取れます。
 人口分布、すなわち花の消費地の分布は大きく分けて4地域に集中していることを示しています。
 全国の約130社の花き市場のうち取扱金額の上位をみると、そのほとんどがこれらの4地域に立地していることが判ります。すなわち、日本国内の花き市場には産地市場と消費地市場があるとされていますが、経営状況から見ると「消費地市場」が優位に立っているといえます。
 花き市場の取扱金額は1998年の5800億円をピークに毎年減少しており、2010年には4000億円を下回りました。市場の収入は取扱金額からの一定割合の手数料で賄われれています。この十数年間で40%程度の収入減となった花き市場の経営は厳しくなっていることは誰の目から見ても明らかですが、消費地に位置する市場はこれよりはいくらか余裕があると思われます。
 在宅セリシステムの導入、持ち株制度の導入、市場間の経営連携など、着実に消費人口分布を考慮した合従連衡が進んでいますが、その方向が花き業界にとって本当に間違っていない方向であるかは、だかがどこかで検証する必要があるのではないでしょうか?花き市場は花き業界の中核を担うキーパーソンです。私企業の花き市場の目指す方向(ベクトル)が、花き業界が目指さなければならない方向(ベクトル)と違っている時に大きな問題が生じる恐れがあり、それを修正するためには極めて多大なエネルギーを必要とします。オランダの花き市場FloraHollandが苦悩していることはその前例であると思います。


★多様な切り花の重要性 (2012/10/01)

 オランダのFloraHollandはヨーロッパに切り花を供給する大規模花き市場です。その取り扱い品目のデータをインターネットで見つけました【PDFファイル】。第1位がバラで総流通量の38%を占めています。第2位がチューリップで18%、第3位がスプレーギクの12%、第4位がガーベラの9%となり、これら上位4品目で総流通量の77%に達しています。今年7月のAalsmeer市場訪問時に「やけにバラが目立つなぁ」と感じたのですが、あの大量の物量の中の1/3がバラだったのですから、当然といえるかと思います。
 そして驚いたことに、第5位以降のフリージア、ユリ、カーネーション、アルストロメリア、輪ギク、ヒペリカムの6品目を加えると全体の90%に達してしまいます。
 以前のコラム「アメリカの切り花アレンジ」でアメリカの流通品目の少なさを指摘しましたが、同じようなことがヨーロッパでも起き始めていたことになります。これら10品目のうち7品目はケニアなどの熱帯高地で周年生産が行われている品目で、さらに残りの3品目も球根の冷蔵保存などを行うことで周年供給が可能な品目であり、いわゆる季節感を感じさせない切り花です。
 アメリカに続いてヨーロッパも切り花流通が国際規格に席巻されてしまっていることに、いささかショックを受けました。JFMA会長の法政大学・小川先生が、ヨーロッパでも切り花流通はスーパーマーケットが大きな力を付けてきていると言っておられましたが、この流通品目の貧弱さを見る限り、専門店がフラワーアレンジメントで技術力を誇示できる状況にはなく、ヨーロッパの消費者は花束加工された季節を感じられない同じようなパック花束を年中スーパーマーケットで購入せざるを得ない状況になってきているものと思われます。
 同一品目を周年生産することは、生産側からみると極めて効率が良く、生産性を上げる方策を容易に見つけることができます。特に労働者を雇用して生産する生産法人の場合、周年同一品目の生産は労働者に特別な技術力を要求する必要がなく、一年中同じ作業を依頼することで生産できます。これに対して季節感を感じさせる切り花を生産する場合には、次々と栽培する植物が替わり、多い場合には年間十数品目を生産しなければなりません。同時期に生育段階の異なる複数の品目が生産施設内に存在し、病害虫の管理や潅水・施肥管理など、こまめな管理の徹底が不可欠であり、雇用労働者は高い技術力と植物の生育を判断する目を要求されます。当然人件費は高くなりますし、管理経費も増加することになります。
アメリカやヨーロッパでの花き流通品目がこのように貧弱になってしまった理由に、生産の効率化を追求する合理性の高い国民性があります。同じ切り花生産を行うのであれば、同一品目を周年生産する、もっと突き詰めると1品種を2.3haの大規模施設で生産することになります【Henk van Os & Zn, Rozenkwekerij】。そしてその延長線上に赤道直下の熱帯高地での適地生産があります。
これに対して日本の切り花生産は3haが大規模生産といわれるように、小面積の農家による切り花生産です。企業的な生産効率の追求ではなく、効率が悪くても職人としての思い入れと、消費者に喜んでもらいたいという心意気で切り花が生産されており、結果としてそれが季節感を感じさせる日本特有の切り花産業が成立していると考えることができます。
一見、前近代的な法人化されていない、経営効率の悪い「農家の切り花生産」。ヒョッとすると、これが日本人の心の原点なのかもしれませんねぇ・・・。


★私立大学の45.8%が定員割れ (2012/09/24)

 Facebookでフィード購読している中村修治氏のコメントで「日本では既に住宅総戸数が総世帯数を大幅に上回り、8戸に1戸は空き家になっている」とのことでした。人口分布をみれば明らかなように、人口の減少、少子・高齢化が進み、若年人口は着実に減っています。それにもかかわらず、大学の研究室には首都圏や関西圏のマンション購入の勧誘電話が毎月のようにかかってきます。自転車操業と判りながら、停まったら倒れるとばかりに目の前の金儲けのために走り続ける。今の日本はどうなっているのでしょうかねぇ・・・。
 そう思っていたら、8/28の日経新聞に私立大学の45.8%が定員割れしているとの記事が載っていました。少子化をむかえている現状では当然のことかもしれませんが、一方では私立大学の新設や新学部の設立も多くみられます。平成24年4月には全国で6大学が新設されて1,000人の入学者枠が増加し、31校で学部が新設され、新たな学科の設置は52校に及びます。住宅総戸数が総世帯数を大幅に上回っているにもかかわらずマンションが建設され続けるデベロッパーと教育業界が同じと思うと少々寂しい限りです。
 文部科学省は、このような状況を踏まえて、国立大学の定員削減に踏み切るようです。大学を統廃合するのは極めて難しいとの判断から、学部の統廃合を目指し始めました。まずは今年度は医学部、教育学部(教員養成)、工学部に的を絞って学部の存在意義(ミッション)を提出するように指示してきました。
 医学部はそれぞれ付属病院を持っており、地域の高度医療拠点機関としての役割を果たしています。当然のことながら付属病院を廃止するわけにはいきません。しかし、医師養成教育機関としての医学部は各都道府県にすべて必要なわけではなく、例えば道州制をにらんで東海地方にある医学部をまとめ高度医療に対応できる充実した医学教育を担う拠点大学を整備する考えのようです。確かに一理あります。現在の各大学で行っている医学教育をまとめることで、一定以上の教員定数が確保できるため、講座を増設して充実した医学教育が行えますし、本当の目的でもある医学部の教員削減にも繋がります。
 小中学校の教員養成を目的とする教育学部も同様です。これまでは各都道府県の教育委員会と連携していたために、国立大学の法人化の時にも統廃合が実現しませんでした。しかし少子化が一層進む中で、いよいよ大ナタが振るわれる状況になってきました。現実問題として、岐阜大学においても教員採用試験合格率が年々下がってきており、私立の教員養成大学との厳しい採用率競争を余儀なくされています。愛知県の教員養成系国立大学や私学との統合も視野に入れた指示がなされる可能性が高くなっています。
 工学部に関して言えば、あまりに数が多すぎるのは事実です。東海圏でも工学部を持つ大学が12大学あり、そのうち国立大学が5校、私立大学が7校あります。さらに近年の教育水準の低下が業界から指摘されており、教育内容の改善を含めて改革が必要と判断されています。
 ここで問題なのは、岐阜大学は医学部、教育学部、工学部を除くと、旧教養部から改組した地域科学部とわが応用生物科学部だけです。医学部、教育学部、工学部の3学部が例えば名古屋大学などと統合されると、自動的に岐阜大学は廃止の方向に進むことになり、私の応用生物科学部も自動的にどこかと統合されてしまうことになるのでしょうねぇ・・・。
 厳しい世の中になってきました。国立大学法人化の際に、学長の強いリーダーシップの基に大学の改革を進めるというスローガンが掲げられましたが、弱小地方大学の岐阜大学では世の中の流れに棹さすことは何とも難しいのでしょうねぇ・・・。私は定年まであと7年ですので、何とかこの間は首が繋がりそうですが、若い先生方はそろそろ行き先を考えないといけないかもしれませんねぇ。


★景気変動と花の需要 (2012/09/18)

 景気が悪くなると必需品ではない花の需要が低下するといわれています。本当にそうでしょうか?
 景気動向の指標としてGDPがありますが、最近GDPデフレーターという指標が経済関係のTV番組などで用いられています。GDPデフレーターは「名目GDP÷実質GDP×100」という数式で表され、労働者の賃金などの所得の変化を示す指数とされています。
 このGD`デフレーターと切り花生産額とを重ねてみると、1998年以降、GDPデフレーターの減少と切り花生産額の減少がきれいに一致していることが判ります【PDFファイル】。すなわち、所得の減少に伴って切り花需要が減少しているとみることが出来ます。しかし、日用品に近いと思われる家電製品の販売額をみるとGDPデフレーターの減少以上に大きく低下しており、まさに家電製品は家計の中で倹約対象品目と位置づけられていることが判ります。必需品ではあるもののチョット贅沢品とも言える乗用車はどうでしょうか?乗用車販売台数はGDPデフレーターに沿った傾向がみられることから、家計の中での切り花の位置づけと乗用車の位置づけは類似し、花は乗用車と同じくらいチョット贅沢な必需品と見なされていると思われます。
 驚いたことに、GDPデフレーターの低下に影響されないものを見つけました。国内宿泊旅行者数です。2004年以降やや減少しているもののGDPデフレーターの減少にも関わらず旅行者数はほとんど減少が見られません。国内宿泊旅行者数を上回るものが海外旅行者数です。GDPデフレーターの減少をものともせず、1995年以降まったく変動が見らず、やや微増となっています。
 国内宿泊旅行や海外旅行者の変化は何を示しているのでしょう。私は、消費者が心の豊かさを求めているのではないかと考えます。「たまには温泉につかってノンビリしたいねぇ」、「何年かに一度は海外旅行でもして心の洗濯をしに行こう!」。
 これらのグラフから見えてくることは、日用品であればあるほど所得の低下と共に節約対象になりやすく、心の豊かさを感じることができる「チョットした贅沢」は節約対象になりにくいということです。
 カジュアルフラワーの推進やスーパーでの花束の販売促進はまさに日用品としての花の消費拡大です。日用品は景気の変動を受けやすく、花を日用品として扱うことは景気の低迷が続く日本経済の中で、花き産業界が選択する戦略として得策ではないように考えます。
 奥様や彼女の誕生日に贈る花束は、給料が下がっていても「一丁奮発してハッと思わせる花束を贈りたい」と思うのではありませんか?不景気の中での海外旅行のように「心の満足」を与えられる役割こそ、本来花が果たさなければいけない役割ではないでしょうか。
 花の消費がジリジリと下がっている今の時期だからこそ、日用品としての花き戦略を選択するのか、心の豊かさを求めるチョットした贅沢品戦略を選択するのか、「花き業界としての立ち位置」を再度確認するべき時期ではないかと思います。


★フワラーウォーク (2012/09/12)

 愛知県の生産者組織から始まったフラワーウォークが札幌、静岡県、宮城県など各地に広がっています。花の生産者が率先して花を持って歩くことで、なにがしかの消費拡大を考えたいという思いから始まった活動です。私の地元の岐阜県でも趣旨は同じですが県職員がフラワーフライデーという動きをして花の消費を拡大しようと活動をし始めています。
 「フラワーウォーク」は生産者自らが街へ出る機会に花を持って歩くことで一般市民が花に親しめる機会を作ろうと提唱されたもので、男性が花を持って歩くことで花に親しみを持って貰おうという取り組みです。男性が花を持って歩くことが花の消費の増加に直結するとは思いませんが、男性が中心の生産者団体がこのような活動をするという意気込みは高く評価できます。
 とかく花の生産者は生産することだけに力を入れる傾向があり、生産技術者としての職人に徹して消費に関しては誰かがやってくれるという他人まかせな思いこみに終始しがちです。しかし、このフラワーウォークを企画した愛知県豊橋市のバラ生産者は、「生産することだけに留まらず、自分が作っているバラの魅力を一人でも多くの人に判って欲しいとの想いからフラワーウォークを提案した」と言っていました。
 彼らの想いに対して次第に共感する人達が増えてきているようで、例えば愛知県豊橋市では、花を持った人に対してサービスをしてくれるフラワーウォークサポートショップも出てきているとのことです。小さなことであっても、花業界に携わっている人が一つずつ行動をすることが大きな動きになるのかもしれません。
 最も効果的なのは、花業界が一丸となって花の消費活動をすることであることは間違いありません!


★日本でもラボバンク問題が始まっている (2012/09/10)

 日本経済新聞(9/3付け)で、農協の組合員数のうち農家以外の準組合員数が497万人となり、農家の472万人を上回ったと報道されました。実際には農家の正組合員の中には農業を生業としていない元農家も含まれていることから、農業者の割合が1/3程度になっていると推定されます。当然のことながら、農業資材や農業機械販売での収益が減少するなかで農家以外の準組合員を対象とした住宅ローンなどの金融部門や自動車保険などの共済部門が大きな割合を占め始めています。以前から農協の業務が金融と不動産が主体になっていることはよく知られており、12年前のコラムでも指摘しています(農業協同組合について(2000/09/07))。
 記事の中で、「農業関連の融資額が全体の1割に満たない状況」ということを考えると、オランダのラボバンクが選択した道と同じ道をJAバンクが辿っているように感じますし、オランダの花き産業の危機と同じことが日本でも起きている可能性が見え始めてきていると考えます。いや、20年前からこのような動きが見られることから考えると、ヒョッとするとオランダ・ラボバンクの先を歩んでいるのかもしれません。農業生産者のための組織、農業生産者を代表する組織であるはずの農業協同組合が、農業から乖離し始めた時、産業としての農業の崩壊が始まります。
 多くの農業者は「農協は農家を護ってくれる」と信じていますが、本当にそうでしょうか?農業生産に力を入れている農協もありますが、国内の主流は農業から大きく離れた事業が主体です。営農指導能力のない営農指導員。農業の将来展望を見通せず目の前の農業資材の販売しか興味を示さない営業担当者。政治活動や組織の人事に強い興味を示す管理職。これらの職員を養っているのは農家です。確かに農家は農協を護っていますが、農協は自分の組織をも護っているのであって、必ずしも日本の農業を護っている訳ではないのかもしれません。


★オランダの花き産業の苦悩 (2012/09/04)

 第2回温帯性木本観賞植物国際シンポジウムに参加し、オランダを視察してきました。オランダはこれまで日本が常にその背中を見て目標としてきた花き生産輸出国です。しかしこの10年間、オランダ花き産業は変化するためにもがいています。ケニアなどの東アフリカ諸国からの大量の切り花輸出に加えて、デンマークの鉢物生産輸出攻勢にさらされて、かつての巨象が新たな方向を求めて模索し始めていました。
 東アフリカからの輸出の結果、単価の下落が生じて、さらなる生産コストの低減が急務となっています。しかし、1時間3000円の人件費の中での生産コストの低減には省力化設備の拡充が必要なのですが、設備投資が困難な状況に陥っています。
 その原因の一つにラボバンク(Rabobank Nederland)問題があります。ラボバンクは農業組織向け金融機関として設立された銀行で、日本の農協のJAバンクあるいは農林中央金庫に相当し、農業者の設備投資に対して絶大な支援を行う銀行として位置づけられてきました。しかし、東アフリカからの輸入などの影響を受けてこの10年間で多くの零細生産農家が廃業に追い込まれ、数多くの不良債権を抱える状況となっており、「農業の銀行」からの脱却を図っています。ラボバンクは銀行格付け機関の評価では現在「AAA」ですが、ギリシャやスペインに始まるユーロ安問題などを受けて、これ以上不良債権を増やすことができず、花生産会社の設備投資に対する融資に慎重になっており、これがオランダの花き産業の発達のブレーキとなっています。
 その結果として、花き生産会社にとって省力生産設備の整備は急務となっているにもかかわらずラボバンクからの融資が受け難くなり、生産規模の拡大にブレーキがかかってきました。自己資本が豊かな生産会社はラボバンクからの融資に頼らないで設備投資が可能ですが、多くの生産会社はこの10年間の花き産業の不景気の影響で自己資本が大きく目減りしており、本来は新たな設備投資で経営の立て直しを図る必要があるにもかかわらずこれが出来ず、倒産目前に陥っています。恐らくこの5年間でオランダの花き生産は大きく減退すると予想されています。
 日本の花き産業も今後このような経済界の影響を受ける可能性が否定できません。経営体質を原点から考え直す必要があるように思います。


★日本でも導入されている在宅セリシステム (2012/08/27)

 FloraHollandで行われている在宅セリシステムが大田花きとFAJでも導入されていますし、新たなジャパン・フロリカル?チャー・ホールディングス(JFH)でも導入される予定です。
 オランダの花き市場はヨーロッパを対象とした物流の拠点を目指す広域市場であるのに対して、日本の花き市場は対象とする地域が狭い「生産地市場」あるいは「消費地市場」です。オランダで開発された「時計セリシステム(セリ下げ方式)」を1990年に大田花きが日本に導入しましたが、その利点としては取引の公平さや公開性、コンピュータ制御による事務処理の迅速化など市場の経営効率の向上につながりました。しかし、量販店による大量仕入れが容易になったために量販店への販売シェアが拡大し、価格低迷に拍車がかかる原因となったことも事実です。さらには、日本人が大切にしている「花の価値」を評価しづらくなったなどの問題点もあります。
 私自身がこれまでオランダを見てきて感じることは、オランダ人の徹底した合理主義です。特に経営に関しての合理主義の徹底は感服するところですが、日本人の感覚からすると「ここまで必要なのか?もっと人間味あふれた経営というものもあってもよいのではないか?」とも感じます。
 2012年7月に訪問したFlora Hollandではバラがあふれていました。年中同じ気候のケニアやエチオピアで生産されたバラは年中品質が一定しているため、わざわざ市場に出掛けて実際の商品を見る必要はありません。写真画像を見ればおおよその品質も理解できるため、在宅セリシステムが導入されれば、わざわざ花き市場に出かけて買い付ける必要はありません。FloraHollandで取り扱われている切り花の内、バラは実に38%を占め、チューリップ、スプレーギク、ガーベラの上位4品目で77%を占めています【PDFファイル】。これらの上位4品目は年中品質が安定している定番商品であるため、直接ものを見なければ買い付けできないと言うことはなく、まさに在宅セリシステムに適した商品といえ、その結果として市場の効率化が図られています。
 しかし実際には問題も生じています。花き市場では、買受人は出荷されている物しか買うことができません。本当は高芯剣弁の白いバラが欲しいと思っても、市場にはチョットイメージの違う「アバランチェ」という品種しか出荷されていなければ、『まぁ仕方がないかぁ。アバランチェでも買っておこう』と購入ボタンを押します。生産者は市況情報をみて、「アバランチェが結構売れているじゃない!人気があるんだ!」と思ってアバランチェの栽培面積を増やしますが、当然のことながら本当に望まれている白バラ品種は「アバランチェ」ではなく「ティネケ」であるため、アバランチェの市場価格は低迷してしまいます。
 昔であれば、市場内のコーヒーショップで「アバランチェじゃなくて『ティネケ』は誰も作っていないのかね?」と情報交換ができたのですが、市場に人が集まらなくなったことでこのような情報交換ができなくなり、切りバラ生産会社に混乱が生じているようです。もっと深刻なのは育種業界です。育種は5年後、10年後の先のトレンドを考えて育種目標を立てますが、将来のトレンド情報を入手する場がなくなってきているのです。
 花き市場は物流の拠点であると共に、情報の拠点でもあります。花き市場が自社の経営効率の向上を目指すのは当然のことですが、花き業界の中で果たす役割の重要性も大切にしていただきたいと思います。人が集うという最もアナログ的な側面を軽視すると、将来の花き産業界が崩壊しかねないという危険性を注視する必要があります。
 生産業界と流通業界、販売業界、育種業界。これらの業界間の情報交流ができなかったことが現状の日本の花き産業の低迷の原因になっていることに対して、多くの人達が気が付いているにもかかわらず「人の交流」を軽視する傾向が読み取れることは、今後重大な問題を引き起こしかねません。


★オランダの大規模花き市場の苦悩 (2012/08/20)

 第2回温帯性木本観賞植物国際シンポジウムに参加し、オランダを視察してきました。
 2008年にアルスメール市場とオランダ花市場が合併して世界最大の花き市場Flora Hollandになりました。Flora Hollandはオランダにある花き市場ですが、オランダのための花き市場ではなくヨーロッパのための花き市場です。買参人の多くはオランダの生花店ではなく、ロシアのバイヤー、ドイツのバイヤー、そしてイギリスやフランスなどに輸出するための仲卸会社です。また、出荷者もオランダの生産会社だけではなく、イタリアやスペインに加えて、ケニアやエチオピアなどの生産会社もFlora Hollandに出荷しています。
 市場で取引される量は世界一で、この大量の物流取引の効率化を図るためにインターネット取引のシステムが導入され、商分離が図られました。商物分離は日本でも市場が目指す課題として挙がっている事項で、市場流通の効率化を図るための大きな目標とされています。しかし、これが大きな問題を引き起こしているようです。
 インターネット取引システムが導入されたことによって、買参人は市場に出かけることなく在宅で大量の売買が可能になりました。ロシアのバイヤーはわざわざオランダに出掛けることなく、日々更新される地元の需要情報をパソコンで見ながら、その横でFlora Hollandのセリ画面を見て仕入れが可能となります。当然のことながら、時々刻々と変化する需要データを見ながら取引ができるために的確な見込み買い付けも可能で、自然と取扱金額は年々増加しています。Flora Hollandは買い取り情報に従って商品を分荷配送する物流システムを完成させ、的確に商品を配送することに傾注します。まさに究極の商物分離システムが完成し始めているといっても良いかもしれません。
 インターネットを活用した在宅セリシステムが導入された結果、買参人はFlora Hollandの市場に出掛ける必要がなくなりました。実際の画面を見ながら的確に買い付けができるのですから、わざわざオランダに出張する必要もありませんし、大規模なオランダ営業所も不要になります。まさに商物分離は市場にとっても買参人にとっても良いとこずくめのようです。しかし、市場に人が集まらなくなってしまいました。花き市場のコーヒーショップは情報交換の場です。生産者と買参人、時には育種会社の担当者などが様々な情報を交流して、次の戦略を立てています。オランダの生産者はこの貴重な情報が手に入れられなくなったために、5年後、10年後の方向性を見いだせなくなってしまいました。
 市場の経営効率化という大前提の基に進められた在宅セリシステムが、本来花き市場が果たさなくてはいけない「情報流通(交流)」という役割を置き去りにしてしまったようです。商物分離の「商(取引情報)」と「情報流通(交流)」とを一緒に考えてしまうことは大きな間違いではないかと思います。


★市場外流通の大きな流れ (2012/08/16)

 F.F.M.A.生鮮食品市場アドバイザーの小林勇氏からの情報によると、最近の青果物市場経由率は既に5割を切ったのではないかとのことです。青果物の市場経由率が低下している原因として、量販店の契約栽培の増加、農産物直売所の増加に加えて、輸入農産物の増加も一因と考えられます。青果物市場の動向は花き市場の20年先を進んでいると判断していますが、実際に花き業界においても量販店との直接取引や直売所での販売、そして輸入切り花の増加が着実に進んでいます。このような状況下で花き市場の取扱金額はこの十数年間毎年減少し続けており、花き市場の経営は極めて厳しい状況に追い込まれています【pdf】
 今年1月に兵庫県生花と大阪鶴見花きの経営統合の報道を受けて「花き流通業界の再編 (2012/01/18)」をコラムに記しましたが、その後この動きに追随する情報は届いていません。しかし、間違いなく花き市場の経営は悪化しており、過去の余力で食い繋いでいる状況からみて、新たに大きな動きが始まるのは間違いないと思います。
 多くの花き市場、特に切り花を扱う市場では競売率が大きく低下しており、30%を維持するのが難しい状況です。市場関係者の間では「競売こそが市場の最も重要な役割」と言われていますが、実際には競売で正当な価格形成が行われる状況にはありません。携帯電話やスマートフォンの普及が進んで、競売に参加する買受人も全国各地の市場の価格を同時に確認し合うことができる状況では、昔のように特定の市場で高値がつくことはなく、全国一律の価格販売が行われ始めたと言っても過言ではありません。
 また大手市場は地方市場との連携を強めて地方市場への転送の占める割合が増加し、さらには大規模花束加工業者への直接販売を強化して、商品の一極集中化(ハブ化)を目指しています。このような状況下で地方の花き市場や仲卸業のあり方が問われ始めています。
 前述の小林勇氏からの情報によると、青果物では市場の商品評価機能はほとんど評価されておらず、産地が期待するのは集荷分荷のロジスティック機能と代金決済機能だけとのことです。今一度、市場のあり方、役割を再確認する必要がありそうです。


★農地の相続税納税猶予がもたらす農地の荒廃 (2012/08/07)

 親から不動産を相続すると相続税がかかります。猫の額ほどの土地しか持たない普通のサラリーマンであれば、それほど大きな問題にはなりませんが、大面積の不動産を親が所有している場合には重大な問題が生じます。さて、農地の場合にはどのようになっているのでしょうか。
 原野や山林はともかくとして、農地が市街地に近い場合にはとんでもない相続税が課せられることになります。しかし、農業振興を目的として「相続税納税猶予制度」という特別な相続税対策が講じられています。親から農地を相続した場合、農業を20年以上継続して営むことを前提に、相続税を免除されるという制度です。普通に考えれば農業を継続するための納得できる優遇制度で、これによって農地が安定して維持されることはとても良いことです。しかし、この制度が様々な問題を引き起こし始めています。
 中山間地の農業は高齢化に拍車がかかっており、農地を相続するべき息子達は都会で働いています。あるいは平地でも、親は農業を細々と続けていますが、同居している息子達は企業に勤めており、いわゆる兼業農家の状況となっています。
 親が亡くなった時、農地を相続することになった息子は、とても農業を続けられる状況にはないにもかかわらず「農業を続けないと高額な相続税が課せられますよ」という声に背中を押されて「相続税納税猶予制度」を選択します。心の中は「停年で辞めたら農業でもやろうかなぁ」という気持ちかもしれませんが、農業はそんなに甘い職業ではなく、結局農地をもてあます状況に陥ります。
 その結果として、農業放棄地のような状況となり農地は荒れ放題となってしまいます(本当に何も作られていない農業放棄地となった場合には猶予された相続税を納めなければいけないため、形ばかりの作付けが行われていますが・・)。
 近年、農業をやってみたいという意欲を持つ農家出身ではない若い人達が増えてきているようです。同様に、農業に意欲を持つ企業も現れ始めています。農地を持たない若者や企業にとって、周辺に存在する広大な面積の荒れた農地は魅力的で、借りて農業をしたいと思い始めます。農業をあきらめかけた農地の所有者にとっても、先祖伝来の農地を維持してもらえるならと渡りに船のように借地契約に同意します。しかし、ここで問題が生じてきます。
 相続税納税猶予制度では「農地の所有者が農地の賃借権の設定をした場合には納税猶予が打ち切られる」という決まりがあり、農地を他人に貸した途端に猶予されていた高額な相続税を納めなければいけません。すなわち、優良な農地であっても他人が耕作することはできず、荒れ放題の状況を続けることが義務づけられるというおかしな現象が続くことになります。
 農地は誰のものなのでしょうか。人口が増加し続けた高度経済成長期には農地は住宅地に転用され、兼業農家にとって農地を持っていることは資産保有の手段と考えられてきました。しかし、人口減少の状況の中、もはや農地が住宅地に転用されることはあり得ません。農業に意欲を持たない兼業農家が多数を占める現状を考えると、自給率の問題も含めて、真剣に産業としての農業に新規参入したいと考える人達に農地を配分することが必要な時期にきているのではないでしょうか。
 どうも最近の農政は、農協などの圧力団体の顔色をうかがって目の前の小手先のことしか考えていないように思えて残念です。20年後の日本の農業の将来ビジョンを考えて欲しいと願っています。


★輸入切り花をもっと広報しよう! (2012/07/23)

 カーネーションやスプレーギクでは輸入割合が50%に達する状況となっており、量販店や専門店で販売されている切り花の半数は輸入という状況です。しかし、花売場では国産や輸入の区別が付けられていません。
 野菜では、スーパーでもデパートでも産地表示がシッカリされており、例えば「刻みネギ」でネギラーメンを作りたい時には中国産でも構わないけれども、「すき焼き」にする時には国産にこだわりたいといったように、用途に応じて消費者は使い分けています。当然、国産のネギは中国産のネギの2倍以上と高額ですが、「美味しいすき焼きを食べたいから」と納得して高い国産のネギを購入します。
 私は輸入切り花を問題視する気は毛頭ありません。輸入切り花にも国産切り花にも各々果たす役割があり、その違いを認識して消費者が選択するべきものと考えます。
 ケニアやコロンビア、マレーシアなどの熱帯高地は平均気温が年中16℃前後で、気温の日較差が大きく、日照量が強い条件は植物の生育環境として最も適しており、これらの国で生産された切り花の品質は国産の切り花の品質を上回ります。また、人件費が安く、大規模生産農場での大量生産方式の結果として生産コストは著しく低く、最も高いコストは航空運賃です。したがって、日本で同じ品種を生産した場合には、品質、価格ともに競争できる状況にはありません。
 問題は、消費者が輸入と国産を識別できないことが問題と考えます。輸入切り花にも問題点がありますし、同様に国産に切り花にも問題点が存在します。日本の生産者が輸入切り花に対抗するためには、国産の切り花の長所を認識すること、そして短所を把握して改善することが最も大切で、その長所、短所ともに消費者からの評価が基本となっています。
 生花店や量販店からは「バラだけを売る場合には表示可能だが、花束にする時には国産と輸入がどうしても混じってしまうので、区別して表示できない」という声が聞かれます。同様に「経営が厳しくなっている現状を考えると、輸入の切り花は収益性が高いのでありがたい」という声も聞かれます。しかし、輸入と国産の各々の有利性を消費者が判断できず、なにがしかの不満をいだいたまま消費者が切り花を購入しているこのような現状が、将来の切り花産業の発展に悪い影響を及ぼすことは誰が考えても判ることではないでしょうか。「アメリカの切り花アレンジ (2011/09/21)」でも記したように、日本国内から切り花生産者が淘汰された時には、専門店も同時に淘汰されることになります。
 日本の生産者が国産の切り花の長所を認識して生産を改善するためには、輸入切り花と国産切り花を明示して、消費者からの評価を生産者にフィードバックさせてください。
 「輸入切り花だけを扱うコーナー」と「国産切り花だけのコーナー」を作って消費者の声を聞かせてくれる専門店はいませんか?あるいは、いっそのこと輸入切り花専門店という発想も必要なのかもしれません。
 国産と輸入を混ぜて販売することは、消費者に対する裏切りではありませんか?


★韓国サボテン育種研究所での研究 (2012/07/11)

 2011年2月28日に研究室の卒業旅行で韓国光陽市のサボテン研究所を訪問しました。
 サボテン研究所が設立された1995年当時、韓国は世界に誇るサボテン生産国で、アメリカやデンマークなど30カ国に接ぎ木サボテンを輸出していました。農業で外貨獲得産業の象徴といわれ、光陽市周辺でもサボテン農家が150軒程いて、サボテン生産農家の生産技術向上に大きく貢献していました。ところが、現在は150軒のサボテン農家は15軒に減少し、輸出産業からの撤退を余儀なくされています。
 恐らく、サボテンを専門に研究する研究所は韓国光陽市以外にはないと思われますが、産業としてのサボテン生産が壊滅した現在、サボテン研究所の韓国国内での存在意義はどのようになっているのでしょうか?
 産業としてのサボテン生産を支援するために設立された研究所は、サボテン産業の崩壊を阻止する義務があったのではないかと思いますし、産業としてのサボテン生産が崩壊した現在、その存在意義は消失しているのではないかと考えます。
 世の中には世俗とはかけ離れた研究のための研究所があっても良いとは思いますし、産業に媚びない基礎研究が必要なことも理解できます。しかし、そのためには世論からなにがしかのコンセンサスが得られていることが必須ではないかと考えます。ましてや設立趣旨にそぐわなくなった時には組織の見直しが必要になると思います。
 さて、岐阜大学応用生物科学部の設立趣旨は?存在意義は世論に理解されているのでしょうか?私達も韓国光陽市のサボテン研究所のようにならないように気を付けなければいけないと感じました。


★国際化の中での国内生産者の目の付け所 (2012/06/22)

 10年ほど前は、県の試験場の退職者が中国で花き生産指導に行っているとか、種苗会社の担当者が技術指導したという話が聞かれ、国賊のような扱いがされたことがありました。しかし、中国の生産会社に行くと農業技術体系が全巻揃っていたり、各種技術書が本棚にあり、単純な生産技術という観点では、日本の生産技術は公知の技術情報として伝達されています。では、生産技術情報が伝われば日本と同じような高品質の商品が生産できるのでしょうか。
 そうではありません。その証拠に、様々な情報があふれる日本国内でも、出荷商品の生産者による格差は大きく、生産技術情報が氾濫していても、すべての生産者が同じレベルのものを生産できているわけではありません。同じ品種のバラをロックウール栽培システムで生産しても、素晴らしい品質のバラを出荷できる人もいれば、セリで買いたたかれてしまうバラしか出荷できない人もあり、生産者によって大きな品質差が生じます。植物を見る目や生育状況を判断する着眼点、出荷する商品の取り扱い方などは本では伝わらないものです。大切なことは、植物に対する思いや出荷商品に対する気配りではないかと思います。
 国際化という観点で見れば、商品を輸出あるいは輸入する場合に、単純な「物」として考えれば価格が安い方が良いことになりますが、生産者の思いが加わった時には別の評価が生まれてきます。
 実際に、マレーシアのスプレーギクは生産輸出する会社が日本国内のマーケットリサーチを充分に行い、着蕾数が多く切り枝がしっかりした切り花で花色をミックスして、顧客に生産会社の「思い」を伝える出荷しています。その結果として、単純な輸入切り花という扱いではなく、生花店や花束加工業者にとって「扱いやすい商品」という評価を受けています。これに対してケニアのバラは、日本国内の需要者に対する「思い」をそこまで込めていないため、「物」としての品質の良いバラという評価に留まっています。
 さて、国内生産者は「思い」を込めて出荷していますか?「生産者の思い」を伝える努力をしていますか?当然のことですが、「その思いを評価できる人」を見極めることが大切で、漫然と市場出荷していませんか?福岡県のたなまち園芸場では市場で購入してくれる買参人に様々な方法で「生産者の思い」を伝える努力をし、高い評価を得ています。生産者は、その「思い」を積極的に伝えてくれる市場、仲卸、販売店を選ぶことが大切です。一時的な高値に目がくらんでいては将来の経営がおぼつかなくなる状況に直面しています。同様に、流通販売業界の方々も、「生産者の思い」を積極的に、そして的確に顧客に伝えることが生き残るためには最も大切であることを自覚してください。「物」を販売するのではなく、『花』を取り扱っているのです。「物」を扱っている限り、量販店の得意技である「そこそこの良い物を安く提供する」という波に呑み込まれることになります。
 切り花の輸出に対する関心が高まっていますが、単なる「高品質な日本の花」という観点では成功しません。商品に対する「思い」を一緒に輸出する心構えが大切だと思います。「高品質な切り花」ではケニアのバラと同じで「物」としての扱いを受け、価格競争に巻き込まれてしまいます。国際化の中では、日本の育種力を含めて、「思い」を伝えることが要求されるのではないでしょうか。


★店持ち(たなもち)と花保ち(はなもち) (2012/06/15)

 切り花生産者や鉢物生産者は鮮度を重要視して生産施設から販売店までの時間的距離をいかに短くするかの努力をしています。宅配便を使って直接販売店への出荷を行っている生産者と話をしていると特にその意気込みを感じます。生産者が鮮度にこだわる理由は花保ち保証です。一日でも早く消費者の手に渡ることで鮮度の良い、花保ちの長い商品を楽しんでいただきたいとの思いです。しかし、販売店の方との話のなかで、「鮮度が良いと店頭での持ち(店持ち)がよい」との指摘がありました。確かに「鮮度が高く店持ちの良い商品」はロス率が低く、販売店にとっては有難い商品です。
 花苗ではもっと深刻な問題が出ています。花苗生産者にとって最も重要なことは均一な栽培管理ができる培養土の選択であり、その結果としてピートモスの割合が増加してきます。しかし、ピートモスは一度乾くと撥水性が問題となり、乾いた鉢に潅水を行っても充分に吸水してくれません。生産段階で鉢が乾いてしまうような管理は行いませんので、ピートモスの撥水性が問題となることはありませんし、生育が良いので出荷された花苗の鮮度は申し分ありません。しかし、ホームセンターでは店頭管理が行き届かないため鉢が乾いてしまうことが多々あります。ホームセンターからは「店持ちが悪いのでピートモスの使用を避けて欲しい」との要望が出されています。しかし、ピートモスを他の培養土に置き換えると培養土のロット管理が難しくなって、生育のバラツキが出て商品性が低下します。
 どちらの言い分にも利があるような気がしますが、何か間違っているようにも思います。「花保ち」と「店持ち」。読み仮名で1字違いではありますが、消費者にとってはまったく価値の異なる商品といえます。花保ち(鮮度)は何のために追求するべきなのかが、生産者と販売店との間でズレていることが問題なのでしょう。
 全国展開している岐阜の一流スーパーで野菜を買うと1週間後でも鮮度が高く調理できますが、安売りスーパーで買った野菜は3日後には葉が黄色くなり始めます。当然一流スーパーの価格は安売りスーパーより割高ですが、消費者は承知の上で購入していますし、すぐに調理して食べる場合には安売りスーパーで購入します。このように、消費者は鮮度を重要視しながら購入店を選択しています。
 「採花日を表示を強調されると、生花店での販売がしずらくなる」という声に代表されるように、『一体、採花日表示は誰のために行うのか』という疑問が出てきます。採花日表示は「生花店が消費者のためにそれを有効に使用し、鮮度が高く花保ちの良い切り花を消費者に提供する」ために行うものであって、生花店での店持ちを良くするために行うものではありません。
 切り花も鉢花も消費者が長く楽しく花の魅力を感じていただくために花を販売していると思いますし、生産者も同様の気持ちで生産を行っているはずです。当然、市場も同じ思いだと思いますが、一人一人が話し合い始めるとお互いにエゴが前に出てきて話し合いが決裂してしまいます。一度、生産者と花き市場、販売店が、消費者のためにそれぞれが果たす役割を冷静に話し合う必要があるのではないでしょうか。花き市場は花き市場協会が、仲卸は仲卸協会が、そして販売店は生花業協会や園芸商組合が役割を果たしますが、さて、ここでも花き生産者には代表する組織がなくなってきているのが壁になってきます。


★中国の農業の変遷 (2012/06/05)

 1年ぶりに技術顧問をしている遼寧省農業科学院と上海を訪問しました。上海では高層ビルの建設やマンション建設が一段落して落ち着いてきている様子でしたが、遼寧省の瀋陽市やバラの研究所のあるもう少し田舎の遼陽市では未だにマンションの建設ラッシュが続いていました。上海の大学卒の人件費は10年前は1,000〜2,000元(約3万円)といわれていましたが、現在では4,000〜5,000元(約7.5万円)と高くなっています。物価もかなり上がってきており、10年前はおよそ日本の1/10程度と思っていたのですが、1/4くらいの感じがしました。レストランに行くと、間違いなく量より質が求められ始めたことを実感しますし、花き市場の品質は格段に上がってきていました。中国の友人達の口からは「中国は充分な食を求める時代から、満足できる食を求める時代に入った」という言葉を良く聞きました。
 今回は、中国沿海部でも世界の最先端都市の一つといわれる上海市と、内陸の都市である遼寧省の瀋陽市と遼陽市を訪問しました。確かに世界有数の上海市と瀋陽市では格段の地域格差のあることは間違いありませんが、着実に内陸部の都市の瀋陽市や遼陽市も成長していること実感しました。
 中国国内の清明節(4月上旬)は日本のお彼岸にあたり、輪ギクの需要期の一つです。今年の清明節の白ギクの中国国内価格(農家買い取り価格)は2元(26円)/本だったそうです。日本でのお彼岸前の輸入白ギクの価格が45円/本であったことを考えると、中国国内で販売した方が中国農家にとっては良いのかもしれないと考えてしまいます。
 今、中国では間違いなく切り花や鉢物の市場が活気を帯び始めていることから考えて、中国農業が「質より量」の時代から「量より質」に変化し始めていることを実感しました。遼寧省農業科学院との新品種のバラの協議のなかでも、「日本で種苗登録をして、日本で高い評価が得られれば必ずその後には中国でも評価を得ることができる」という考え方で一致しました。ここには間違いなく日本が割り込むことのできる大きな「スキ間」が生まれてきているように思いました。


★政策としての花き産業振興策 (2012/05/30)

 農業に対する国や県の補助事業については色々と意見があるようです。農業以外の産業界からは「補助金って何ですか?私達は補助金なんてもらったことがないのに何故農業には補助金制度があるの?」という意見もあるようです。これには色々と政治的な色合いもあるようですし、以前のコラムにも書いたことがありますが、政策として農業に対する補助制度を導入せざるを得なかった経緯もあるようです。それはさておいて、農業に対する補助制度が60年前から現在まで同じようにハード面が重視されていることに問題があるように思います。
 現在の花き生産業界は補助制度の恩恵を受けにくかったことが根底にあって、稲作や果樹、野菜などとは違ってかなり自立した産業となりつつあります。自らの意志で法人経営を選択する生産者が多く見られることでも明らかなように、産業としての花き生産を担っているという自覚を持つ生産者が数多くいるのが特徴です。
 今、花き業界にとって本当に必要な支援政策とは何でしょうか。花き生産業界は、他の果樹や野菜、稲作とは異なって後継者の就農率が高く、岐阜県の鉢物生産者の組織でも50%、バラ生産者組織でも60%程度に後継者が就いています。岐阜県は花き生産地としては比較的元気な産地ですので後継者就農率は高い方だと思いますが、全国的にもこれに近い数値ではないでしょうか。当然、彼ら後継者には現役の父親である経営者がいますが、彼らの経営状態は良好で、というよりも経営的に安定しているから後継者が就いているといえると思います。
 花き産業界における政策的支援制度を見ると、ハード面に偏りすぎているように感じます。確かに補助制度を活用して生産施設や設備を整備できることは大変有益ではありますが、後継者が就農して経営的に安定している生産者にとって最も重要なことは、将来の10〜20年後の花き産業を担う後継者が自信を持って花き生産業に従事できる状況を整備することではないでしょうか。すなわち、少子高齢化の影響を受けて国内人口が減少し、さらに世帯別花き消費量が減少しているなかで、需要の拡大を目的とした販促戦略や的確な消費ニーズの把握、従来の物流システムに囚われない鮮度保証を伴う新たな流通システムの改革やホームページ開設支援、さらには中国や極東ロシアなどの東アジア諸国への輸出体制の整備など、ソフト面での産業振興政策も重要な課題であると考えます。また、農協の営農指導体制や都道府県の普及員制度が崩壊しかけており的確な生産技術指導が受けにくくなっている状況で、栽培技術指導に対する補助制度も必要であると思います。
 ハード面に対する補助支援は受益者が明確であるのに対して、ソフト面での補助支援は受益者が明確ではなく、かつその成果を形に表すことも難しい事項です。事業の受益者が明確ではなく、成果も見えにくい事業に対して税金を投入できないとの意見も理解できます。しかし、受益者が明確であればある程その対象は目の前の対処療法になりやすく、将来の花き産業を担う後継者の10〜20年後の発展を願ってその状況整備を行うことも重要な課題ではないかと考えます。
 日本の花き産業を振興する農水省あるいは都道府県の行政機関にとって、現在の第一世代の経営者の声は大きく、政治的な影響力も無視できないかもしれませんが、行政が本当に正面から見据えなければいけないのは、経営実権を委譲されていない、声が小さく、自信なさげで頼りない後継者であり、彼らが20年後に立派な経営者として日本の花き産業を支えることのできる能力と環境を整えることではないでしょうか。
 少なくともこれからの20年間で、花き消費を支える消費者人口が減少することは、予測ではなく人口動態データから既に判っていることです。花き産業の消費を支える園芸消費人口の減少に対して購買量を確保しなければ花き産業の出口はありません。まず、販促や消費ニーズの把握などの消費拡大戦略、食品で既に行われている製造年月日と鮮度保証の表示に対する支援、ホームページ開設支援などのソフト事業、生産技術指導に対する支援、輸出促進のための対外環境整備などに対する支援制度の導入について是非ご検討下さい。


★TPP問題について (2012/05/23)

 TPP問題は非常に難しい問題です。私は農業経済学者ではありませんし、農業政策学者でもありませんので、学問上のコメントと言うより、花き産業に関わってきた者としての所感とご理解ください。
 日本農業新聞という業界新聞があります。この1年以上の農業新聞はTPP反対の記事であふれかえって少々食傷気味です。議論というものは反対論を述べることで相手から回答と譲歩を得るものだと言うことは重々承知ですが、一方的な意見だけを読ませられ続けると次第に拒否反応が生まれてくるか、洗脳させ始めるかのいずれかの状態になってしまいます。私は前者の方です。
 花業界は生まれた時からTPPです。輸入関税は0%で、海外から怒濤のごとく大量の切り花が輸入されています。カーネーションやスプレーギクでは、とうとう国内流通量の50%超が輸入切り花となっており、最大の切り花産地は「海外」という状況です。今はキク、カーネーション、バラも生産者は苦しんでいますが、頑張って新たな道を模索しようともがいています。しかし、その過程こそが新たな底力を生み出す原動力なのだと思います。
 農業のなかでは、北海道のテンサイや沖縄のサトウキビは気候に恵まれない地域産業の振興と国土保全の観点から保護すべき分野であると思いますが、一定の競争力を潜在的に持っているはずの他の作物を保護することで、潜在的競争力が低下することもあります。
 兼業農家を守るために専業農家が割を食うことが本当に日本の農業の将来にとって良いことなのでしょうか。現在の高齢農家を大切にするあまり、20年後の農業を担おうとしている農業青年達の意欲を減退させることが本当に正しい方策なのでしょうか。すべての農家を守るために時代遅れの護送船団方式を維持することが、産業としての農業を発展させるために本当によいことなのでしょうか。
 新たに就農した若者達も1代限りの高齢農家も農家であることは間違いありませんが、産業としての農業を本当に成り立たせたいと考えた時に、活性化させなければいけないのはどちらなのかは自明の理ではないでしょうか。花業界にとって、輸入関税はフリーなのに輸出には高い関税がかかって輸出能力が減退している現状を考えると、TPPも将来の花き産業活性化のための方向の一つの様に思えます。


★鉢物の低迷−園芸店とホームセンターの店頭の違い− (2012/05/20)

 鉢物の市場価格が低迷しています。鉢物は人気がないのでしょうか?園芸店からは「鉢物がさっぱり動かない」、「ホームセンターに花苗のシェアが奪われて経営が苦しくなってきている」といった声が聞かれます。
 鉢物を取り扱う販売経路としては園芸店とホームセンターが主体ですが、園芸店とホームセンターでは対象とする顧客が異なり、経営方針も大きく違っています。MPSジャパンの花き産業の流通コストに関する調査結果によれば(pdfファイル)、花き専門店とホームセンターの販売にかかる経費は大きく違っており、割合で見ると、利潤と管理経費はほとんど同じですが、人件費と販売経費が花き専門店の方が大きくなっています。一方金額では、花き専門店の仕入れ原価が高いことから、花き専門店ではあえて価格の高い高品質の商品を仕入れていることが判ります。当然、販売経費、管理経費、人件費も圧倒的に高く、利潤もいくぶん高めです。したがって、園芸店では高品質な鉢物や花苗を仕入れて、経費をかけて積極的な販売を行い、店頭での従業員による接客活動によって情報提供を行うことが戦略であると読み取れます。
 しかし実際はどうでしょうか。園芸店とホームセンターの店頭写真を見て下さい(pdfファイル)。どこか違うような気もしますが、同じようにもみえます。園芸店の店頭のレイアウトはホームセンターとほとんど区別ができない状況であり、園芸店が目指しているポリシーが来店した顧客に伝わっていないのではないでしょうか。
 以前のコラムで「園芸店は農産物展示即売所(2002/02/06)」について記しましたが、いまだに店頭の工夫が見られない園芸店が目につきます。生花店は切り花をキーパーに陳列して売っているけれども、売る商品は花束やブーケ、アレンジなど店の技術・工夫を凝らして販売をしています。これに対して園芸店はどうでしょう。市場で仕入れた鉢花をただ並べ替えて、ひどい場合には生産者の出荷したトレーそのままの状態で販売しています。切り花のように手を加えることはほとんどありません。これではどこかの農協の農産物(野菜)販売所とどこが違うのでしょうか?農産物陳列即売所は薄利多売が本来の目的であるはずですので、当然、販売経費の節約、仕入れ価格の低減を図って低価格・新鮮・安心をねらい目にしており、園芸店とはまったく異なる経営方針であるはずです。
 私は「園芸は文化だ」と思っています。「文化でメシが食えるか!」という声が聞こえてきそうですが、そうであれば真剣に儲かる農産物陳列販売所を指向してはいかがでしょう。園芸店はもっと目指すべき本質的な道があるのではないでしょうか。中途半端な態勢でホームセンターと同じ土俵で争っていると、農産物展示即売所以下になり下がってしまうのではないかと心配しています。


★花き生産者の代表者は誰か? (2012/05/05)

 日本花き生産協会は各県の花き関係組織が支部として登録することで成り立っています。しかし、この10年間支部登録から脱退する県が次々と出ており、約1/4の県が脱退して、全国の花き生産者を代表する組織としての位置づけが崩壊しかけてきています。その理由の一つに、これまで事務局を担当してきた各県の農政部などが定員削減などの影響で組織が変わり、事務局を担当できなくなったことに加えて、次の受け皿として機能してきた農協組織が全農支部となったために県単独事業に対して積極的に動けなくなったことなどがあげられます。
 一般に、農業は一次産業として位置づけられていますが、農業という産業を代表する組織、花き生産業という一次産業界を代表する組織はどれが相当するのでしょうか?
 共選共販を行っている産地では農協がその役割を果たしていると思いますが、花き生産業界では共販ですら一般的ではありません。農協は組合員である生産者から成り立っているという観点からすると、農協は一見一次産業を代表する組織のように見えますが、実際の法人としての農協の業務は農家への資材の販売や共済、金融、不動産などの事業が大きく、一次産業を代表する組織とは言えなくなってきているのではないでしょうか。その結果として、農協の主張が生産者の考えと必ずしも一致しないという現象すらみられます。
 花き生産も含めて、一次産業を担っている農家の経営規模は小さく、自動車工業界や家電製造業界などのように国政に対して大きな声を上げることが難しい状況です。よくテレビなどでは、農協が全国から農家を動員してTPP反対全国集会といった形で「農家の声を聞け」と気勢を上げている光景が報道されますが、「農家の声」なのか「農協の声」なのかが判らなくなる時があります。
 農協は経営体として独自の価値観を持っており、その価値観は必ずしも一次生産業を担う花き生産者の価値観と一致しているとは言えません。今だからこそ花き生産者の思いや将来の展望を正面から考える組織が必要になってきていると考えるのですが、現実にはどうもその反対の動きが始まっているような気がします。
 花き生産が産業である限り、行政や政治を動かす力が必要です。花き生産者の声を結集して代弁する強い組織が必要だと思います。


★かたい蕾で収穫した花は花保ちが良いという神話 (2012/04/23)

 バラやキクは蕾がかたい状態で収穫されます。バラでは花弁が開き始めた花を出荷すると、市場からは「開きすぎ!」とクレームが寄せられます。
 バラでもキク、カーネーションでも蕾から開花し始めまでの時期に大量の糖を必要とします。花弁の細胞はこの時期に細胞内に糖を取り込んで浸透圧(細胞内の糖濃度)を高め、これによって花弁の細胞は吸水して膨潤化し、急速に花弁の面積が増加します。開花始めから完全開花までは花弁が急速に大きくなるため、人の目から見るとダイナミックに変化しているようにみえますが、実際には花弁の細胞は水ぶくれで大きくなっているだけで、その原動力は蕾から開花始めまでの間に花弁細胞に蓄えられた糖(浸透圧)です。
 花は収穫されるまでは株からふんだんに糖の供給を受けることが出来ますが、切り花として収穫された途端に株からの糖の供給がなくなり、切り枝の中に含まれているわずかに残った糖に頼らざるを得ません。
 したがって、蕾がかたい状態で収穫を行うと花弁の細胞は充分な糖の供給が行われず、浸透圧(細胞内の糖濃度)が高まらないため細胞が吸水できず、完全開花まで到達できずに途中で咲き終わってしまいます。これに対して花弁が開き始めた状態で収穫された切り花は株から充分に糖の供給を受けることができるため、花弁細胞の浸透圧(細胞内の糖濃度)は充分に高まっており、花弁の細胞は充分に吸水して完全開花まで達することが出来ます。
 切り前を遅くして収穫した花は咲き切るとすぐに散ってしまう印象がありますが、そうではありません。むしろ充分に糖を蓄積した切花は、咲き始めから咲き終わりまではエネルギーをほとんど必要としないため、花保ち期間が長くなります。さらに花保ち剤(フラワーフード)を使うと鑑賞期間はより長くなります。これに対して固い蕾で収穫された切り花は必要な糖の供給が株から受けられず、花保ち剤に入っている微量な糖ではとても間に合わず、エネルギー不足で咲き終わってしまいます。
 この数年バラは香りのある品種が多くなっています。香りの成分は花弁の成長と共に作られますが、香りの成分は炭水化物ですので、これの生合成にも糖が大量に必要とされます。当然、香りのバラは固い蕾ではなく、咲き始めで収穫することで日保ちが長くなると同時に充分な香りを楽しむことが出来るようになります。
 蕾から咲き切るまでの期間が一定と考えると、蕾が固い方が開き始めより鑑賞期間が長く感じられるかもしれませんが、実際には固い蕾で収穫した切り花は咲き切る前にエネルギー不足で途中で終わってしまうため、鑑賞期間が短くなります。
 切り前を遅くして収穫した切り花の方が鑑賞期間が長いことは生産者もうすうす気が付いてはいるのでしょうが、花き市場からのクレームを素直に信じ込んでしまっているのではありませんか?
 切り前が遅く、開き始めてから収穫された花は流通過程で花弁に傷が付きやすく、取り扱いに注意が必要です。しかしその反面、ギッチリ詰め込んでの航空輸送が出来ないため、輸入切り花にはまねをすることの出来ない国産切り花の差別化戦略としても活用できます。
 キクでは、咲き始めてから収穫したフルブルームマムの花保ち期間が通常の堅切りした輪ギクより長いことは既に知られていますし、咲き切った豪華な花は新たなキクの魅力を提供してくれます。
 そろそろ消費者が花の魅力を存分に味わっていただけるために、生産者も花き市場も販売店も、切り前を再度考え直す時期にきているのではありませんか?


★スマイルカーブ (2012/04/09)

 スマイルカーブって知っていますか?台湾のパソコンメーカーの会長が提言した収益構造を表すイメージで、製品開発・企画−部品生産−製品組み立て−販売−サービスの工程を横軸に、縦軸に利益率をとった場合、開発や企画あるいはサービス業務の利益率が高く、製品組み立て業務の利益率が低く、両側が高いカーブを示して両側が持ち上がった「人が笑った時の口のような形」を示すことから『スマイルカーブ』と呼ばれています(日経エレクトロニクスpdf)。
 従来の日本の産業構造は、最終組立業者を頂点として従属的支配下に部品メーカーが集まるという、いわゆる「系列」であり、付加価値(=利益率)は最終組立業者が握っているという状況でした。しかし、企業間の取引が従来のクローズな関係からオープンな関係へと変化するなかで、これまで1社の下請けでしかなかった部品メーカーも、複数の企業と取引を行うことが可能になっています。複数の企業と取引が可能になれば、技術力・商品力の高いメーカーの競争力はますます高くなり、取引の集中へとつながります。こうした流れの中で、付加価値(=利益率)は最終組立業者から部品メーカーへと移りつつあります(パワー・インタラクティブHPより)
 花き業界でこの考え方を当てはめると、どうなるのでしょうか?生産者はどの工程に属するのでしょうか。園芸店や生花店は儲からないと言われますが果たしてどの工程に属しているのでしょうか。花き市場や仲卸売り業者の利益率が下がっていると聞きますが、どうなんでしょうか?いずれにおいても製品開発・企画やサービスを業務としている場合には利益率は高いはずです。
 生産者:生産者は切り花や鉢物・苗物を生産しています。従来の産業構造のままに、特定の市場にしか出荷しない系列化されたクローズドな出荷体系をとっている限り、素材産業は買いたたかれる構図です。育種会社の新品種を生産して出荷するという立場であれば、製品開発・企画の役割は育種会社が果たしているため「部品生産・製品組み立て」業の生産者の利益率が低いのは当然です。生産面積の拡大以外には充分な利益を出すことは難しいでしょう。まさに生産コストとの戦いで、大規模生産者だけが生き残れる業界であり、切り花の場合には輸入切り花とまともに立ち向かうことになります。これを打開するためには、開発・企画にシフトするか、販売・サービスにシフトすることが不可欠です。前者では、高い生産技術力を前面に出して「同じ新品種であっても福井園芸のバラは違うねぇ」といわれるものを生産する、あるいはオリジナル品種あるいは独占品種を確保することが該当します。同様に、後者では営業に力を入れ情報を的確に提供することで、販売店が信頼して仕入れたいと思う仕組みを作り上げることが該当します。
 販売店:本来は販売・サービス業に該当するため利益率は高いはずです。しかし、儲からないということはサービスが行われていないことを示します。ヒョッとして「製品組み立て業」になっているのではありませんか?顧客に充分な情報提供をしていますか?顧客管理が的確になされていますか?サービス業としての花の魅力を伝えたり、購入者のフォローアップをしていますか?水揚げ処理や花保ち付加技術、花束加工技術を最大限に駆使すると共に、その情報を的確に伝えることで、「あそこの生花店で買った花は最後まで咲き切ってお値打ちだった」、「花の組み合わせや配色が抜群だった」などの口コミが広がりリピーターが付くことを目指しましょう。「あの園芸店に行けば私好みの花が必ずある」とか、「管理方法に困った時の園芸アドバイザーになっていただいています」などの評価は、まさにサービス業の神髄だと思います。
 花き市場:果たしてどの工程に属しているのでしょうか?販売でもないですよね?本来は「サービス業そのもの」と思いますが、市場が果たす「サービス」の意味が理解されていないために工程のどこにも属さない業態となり、利益率が低下しているのではないでしょうか。市場が果たすべき「サービス」とは何ですか?市場手数料を0.5%あげることすら猛反発を受けている状況は、まさにそれに見合うサービスがなされていないと言われているように思います。昔ながらの「大卸」といわれた立場で、出荷生産者にも買参人に対しても「売ってやっている」という姿勢が時々気になる市場があります。この点に気が付いた市場には自然と商品が集まり始めますし、買参人の欲しいと思う商品が集まれば高値が確保されます。出荷生産者に対しても買参人に対しても、きめ細やかな情報提供に努めることで利益率が向上するのではありませんか?
 生産者、花き市場、仲卸、専門店、このいずれにおいても「製品開発・企画」ができるはずですし、「サービス」ができるはずです。
 今一度、生産者がすべき「開発・企画とサービス」とは何か、花き市場や仲卸会社がすべき「開発・企画とサービス」とは何か、専門店がすべき「開発・企画とサービス」とは何かを考えてみてください。


★ヒートポンプ除湿による病害の抑制 (2012/04/02)

 ヒートポンプの基本的機能は家庭用エアコンと同じです。一般家庭ではエアコンを暖房のみで利用することはなく、むしろ除湿や冷房での使用が主体で使われています。このことから考えて、バラ生産におけるヒートポンプの暖房利用は特殊な利用方法といえ、除湿や夜間冷房での利用拡大が今後の重要な鍵となります。
 バラ生産においてウドンコ病、灰色カビ病、ベト病などの病害の防除は栽培管理上の重要な課題となっています。灰色カビ病の発生は夜間湿度と大きな関係があり、湿度90%以上で濡れ時間が1時間を超えたり、80%で濡れ時間が3時間以上経過したりすると多発します。同様に、ベト病の発生は夜間湿度が90%を超えると多発し、夜間湿度を90%以下に制御して濡れ時間を小さくすることでその発生は抑制される。また、ウドンコ病の発生は昼間に高温乾燥、夜間に多湿条件になると多発します。このようにバラの病害の多くは夜間の多湿条件によって助長されることから、ヒートポンプを用いた夜間の除湿は病害の抑制に著しい効果を発揮します。
 国内で生産されるバラ品種の80%はヨーロッパの育種会社で育成された品種であり、それらの品種の多くは日本への輸出国であるインド、東アフリカ、南米諸国でも生産されています。日本の気候は夏季の高温多湿、冬季の日照不足など必ずしもバラの生産に適していないのに対して、熱帯高地の輸出国は年間の日平均気温が18℃前後で高い日射量があり、バラの生育に最適な気候であるため、同じ品種であっても日本で生産されるバラに比べて花径が大きく、花色も鮮やかとなります。これらの国々で生産される切りバラは、輸出のための航空輸送中に花傷みが発生しやすいため、花弁の厚い高芯剣弁のバラ品種が生産される傾向にあり、さらに花保ち性の観点から芳香の無い品種が選択されています。花弁の厚いこれらの品種は灰色カビ病やウドンコ病にも強く、ヒートポンプを設置していない日本の生産施設でも比較的生産が容易な品種といえます。しかし、同じ品種を生産した場合には見栄えは圧倒的に輸入切りバラの方が優れており、国内産のバラの国際価格競争力は強くありません。
 このような観点から、輸入の切りバラに対抗するためには輸入バラに対する差別化が重要な課題であり、長時間の輸送に耐えられない花弁の柔らかいバラ品種や芳香性の高いバラ品種の生産が今後重要となってきます。これらの品種は灰色カビ病、ウドンコ病、ベト病にも弱く、ヒートポンプによる除湿機能を活用した環境制御が不可欠です。例えば、ラ・カンパネラは花弁が傷つきやすく灰色カビ病に弱いため、国際的にはほとんど評価を受けていませんが、日本国内では高い評価を受けている品種の1つであり、この品種の生産にはヒートポンプによる除湿が不可欠です。
 国内産のバラの国際競争力を高めるためにも、ヒートポンプを暖房だけに使用するのではなく、除湿や夜間冷房にも積極的に取り組むと共に、国際的な品種ではなく、日本での除湿や夜間冷房に適した品種への改植を行っていただきたいと思います。
 これからの春から初夏にかけてのシーズンと初秋から晩秋にかけてのシーズンは、暖房施設として導入したヒートポンプを大活躍させることが、これからの日本のバラ生産を大きく変える契機になるものと思います。


★農業は産業になっているか? (2012/03/18)

 役職柄、様々な農業経営審査を依頼されて審査委員として担当する機会があります。素晴らしい生産技術を持っておられ、地域のリーダーとして活躍されておられる農家の経営状況を見ると、経営者の時間あたりの労働収益が1,000円以下の場合をよく見かけます。日本の最低賃金が750円前後で、パートタイマーの時間給が800〜1,000円の時代に、経営者の労働収益がそれと同等、ある場合にはそれ以下の事例が見受けられます。
 農業後継者対策についての意見を良く問われますが、私の答えは一つです。「サラリーマンをするよりも儲かる農業を実践していれば必ず後継者問題は解決できます」。
 確かに農業には時間を自分の都合で有効に使えるとか、家族との時間を十分に確保できるなど、一見時間に拘束されないようにみえますが、実際には収穫や出荷調整の作業は毎日課せられますし、植物には土日祝日がありませんので、サラリーマンのように定期的な休日や長期休暇を取ることも困難です。
 農業は自由業なので人間関係のストレスが少ないという方がおられますが、そんなことはありません。資材の購入には業者との折衝が必要ですし、生産物を出荷する場合も農協職員や市場関係者などとの人間関係で取引価格が決まりますので、人間関係の構築は極めて重要です。ましてやパート従業員の管理や、地域のコミュニティーの参加など、サラリーマン以上に人間関係のストレスは多いように思われます。自然を感じながら心豊かな生活ができるという意見についてはその通りかもしれません。
 いずれにしても、農業が産業として認知され、後継者が継続して就農し、新規参入も活発に行われるためには、少なくともサラリーマンの給与に匹敵する収入の保証は必要と考えます。大学卒業者の年収は300万円程度かと思います。年間労働時間を2,000時間として時間給を計算すると1,500円の労働収益になりますが、経営者であれば2,000円以上の労働収入が基準になるのではないでしょうか。
 確かに「心豊かな生活」は何物にも代えられない価値を持っていますが、産業人として農業者が認知されるためには最低の給与所得が保障されることも重要です。
 今一度、年間所得ではなく時間あたりの所得という観点から経営を見直してみてください。


★フラワーバレンタインの感想 (2012/03/12)

 今年で2年目になるフラワーバレンタイン。関係者の努力もあって、ポスターやのぼりなどを生花店や園芸店でよく見かけましたし、フェイスブックなどでは毎日のように情報が発信され、結構盛り上がっていたように思います。実際の効果に関してみると、首都圏では売り上げが増加したとの報告や男性客の購入率が大幅にアップなどの効果が出てきているようですが、地方では思ったような効果が出てきていないようです。私の住む岐阜でも「・・・」という反応でした。ちまたでは「東京で勝手に盛り上がって、本当に花き業界として経済効果があがるのだろうか?」という声も聞かれます。
 流行を考えてみましょう。アパレルなどでは当然のことといわれていますが、まずは東京で仕掛ける!それが定着し始めると札幌や福岡などの「地方の東京」に相当する都市に飛び火し、その後ようやく「なんか東京ではこれが流行っているんだって!」という形で地方に浸透していくようです。この点から考えると、フラワーバレンタインは着実に第一歩を歩み始めたと言って良いと考えます。来年はもっと首都圏で大きな動きにさせる必要があります。岐阜までその効果が及んで来るには最低でも3年はかかるかもしれませんが、流行とはそういうものと理解しなければいけないと思います。
 流行が広がる法則には、イノベーター(2.5%)→ アーリーアダプター(13.5%)→ アーリーマジョリティ(34.0%)→ フォロワーズ(34.0%)→ ラガード(16.0%)という考え方があります。イノベーターは革新者といわれ、新しもの好きでとりあえずやってみようというパイオニアの人達です。アーリーアダプターは初期採用者といわれ、流行に敏感で、情報収集力があり、オピニオンリーダーとなって大きな影響力を発揮する人達です。アーリーマジョリティは前期追随者とも呼ばれ、ある程度評価が高まった段階で採用する人達です。ここまで来ると流行しているんだということが実感できるようになり、地方に住む人達の間でもフラワーバレンタインが流行っているんだと実感できるようになります。
 恐らくフラワーバレンタインを進めた関係者の所には、地方の方々から「地方との較差が大きいので活動方針を考え直して欲しい」などの声が寄せられているものと推測しますが、私は今年の進め方で問題ないのではないかと考えています。地方にいる人間としては少々寂しい気持ちもしますが、もっともっと東京で盛り上がってください!新しい取り組みはマスコミも取り上げやすいので、全国放送のテレビや全国紙などでドンドン取り上げてもらってください。地方のアーリーマジョリティにとって、「テレビでやっていた」という情報は行動を始める大きな力になります。
 伝え聞いた話ですが、チョコレート業界から「本当のバレンタイン」という表現に対してクレームが寄せられたそうです。序ノ口の力士が横綱から稽古をいただいたようなもので、「将来有望なので今のうちに圧力をかけておかなければ」といったところでしょうか。ありがたいお話だと思いましたし、大きな流れになる可能性を評価いただいたものと思います。
 来年のフラワーバレンタインは今年以上にもっと盛り上がりましょう!


★花き市場からの情報の活用 (2012/03/08)

 市場での売買情報は販売委託した生産者にとって貴重なマーケティング基礎情報です。どの様な買受人が商品を購入してくれたのか。どの様な価格で購入してくれたのか。定期的に購入してくれている買受人は誰か。卸売市場法の中には規定されていませんが、一般論として販売を委託された市場は委託者(生産者)に対してこれらの情報を提供する責務を負っているものと考えますし、多くの市場では請求されれば提供していただけるようになってきています。
 最近物流システムが発達し、花き市場で生産者を見かけることが少なくなりました。20年前には、花き市場を訪問すると思わぬ生産者とお会いすることもあったのですが、最近はさっぱりです。花生産者にとって「花を生産する」ことは最も大切な仕事ですが、近年は「花を売る」ことや「ニーズをつかむ」ことも大きな仕事になってきています。
 市場で「どの買受人が自分の花を購入してくれているのか」は情報として入手することができますが、「他の生産者が生産した花の評価」や「需要の高い花のトレンド」は直接市場に出かけて出荷されたものを見たり、ウェブ販売情報を入手したりしないと判りません。あるいは、買参人席で競売に参加している買受人との会話も重要な情報になります。
 自分が生産している商品だけを見ていると改善点や課題はなかなか見つかりませんが、他の生産者の出荷商品と価格を比較することで、買受人のニーズを理解することができます。(「カーネーションの価格」参照
 花生産者の皆さん。もっと積極的に時間を作って花き市場を見に行きませんか?


★バラを作る意味 (2012/02/22)

 バラを生産しておられる生産者は何のためにバラを生産しているのでしょうか?「バラ生産者だからバラを作っている」のではないですよね?「バラで生計を立てるため」ですか?
 「バラを欲しいと思う人がいるから」ではないですか?
 「重油が高いから暖房を控える」という発想の根源には、「暖房しても暖房費が回収できるほど高く売れないから」という考え方があると思います。しかし消費者からみると、「重油代を上乗せして支払うほど欲しいと思わない」から高値が付かないのであって、『欲しいと思うバラであれば高くても買いたい』のではないでしょうか。
 バラを買ってくれるお客さんは、どんなバラが欲しいのか?自分が作っているバラは、その要求を満たしているのか?を考え直す必要があります。「農地があるから」、「温室があるから」、「苗が植わっているから」。これはバラを生産する理由とはならないと思います。現状を考えると、バラを生産するよりも野菜を生産した方が収益性は高いのではないでしょうか。実際に、バラ生産からホウレンソウなどの葉菜類に転向した生産者を何人も知っています。韓国の亀尾園芸輸出公社(KMC)はスプレーギクの生産・輸出で有名な生産会社ですが、3年前からキクの生産温室をパプリカの生産温室に転換したとのことです。
 すべての生産業は消費者による評価を受けて変化するのは経済の法則です。経済の法則に従わない生産業としては工芸品がありますが、その工芸品業界も様々な努力をしています。バラは工芸品ではありません。誰のためにバラを作っているのかをよく考えましょう。
 当然のことながら、需要に応じた技術力と供給能力は要求されます。


★日本の切花は芸術品 (2012/02/15)

 農水省花き産業振興室の佐分利応貴前室長が講演で「日本の花はArtといわれています」と言っておられました。愛知県のバラ生産者の三輪真太郎氏から聞いた話ですが、イングリッシュローズのDavid Austin Jr.とケニアから輸入したイングリッシュローズの切花品質について論議をした時に、David Austin Jr.は『ケニアの花は大きくて最高品質』と主張したのに対して、三輪氏は『花弁の傷や茶色の変色があり、とても販売価値はない』と意見が一致することがなかったそうです。
 日本は季節の変化がはっきりしており、自然も豊富で、植物に求める価値観がヨーロッパと大きく異なります(ヨーロッパと日本の植物感の違いは氷河期が関係しています)。ヨーロッパに切花を輸出しているケニアやインドの切りバラを見ていると「物としてのバラ」という印象を受けるのに対して、優秀な日本の生産者のバラはその品種の特性を最大限引き出した「Art」かもしれません。
 Artはそれを評価する人がいて成り立ちます。私は朴念仁ですので、美術品や芸術品の価値があまり判りません。美術館で解説なしに感動できる物もなかにはありますが、多くは解説を読んでしかその価値が理解できません。同様に、テレビの「何でも鑑定団」をみていて中島誠之助氏の解説を聞いても何故これが数百万円の価値があるのか判りませんし、結構多くの人が「ザ〜ンネ〜ン!」といわれているのをみると美術品・工芸品は難しい世界だなぁと思ってしまいます。
 国産のバラを愛する日本の切花消費者はArtを理解できる人達だと思います。もし、バラの消費マーケットを広げようと考えるなら、国産のバラを愛してくれている消費者の感性をできるだけ多くの人達に解説して理解してもらう努力をする必要があるのだと思います。バラの消費構造の上位に位置する「バラ好き」や「バラマニア」がバラを愛してくれている理由は様々です。バラの香りが好きな人、バラ品種の歴史が好きな人、庭でバラを栽培している人、色や形の変化が好きな人、プレゼントした時に喜んでもらえた人・・・。
 バラの消費構造の底辺に位置する「バラを買ったことのない消費者」にバラの魅力を伝えながらバラを買っていただくことが大切です。朴念仁の私でも美術館で解説書を読みながら鑑賞すると、納得してその良さが理解できるのと同じかもしれません。


★生産者は花専門店の御用聞きになるべき (2012/02/07)

 生産団体から依頼を受けて講演する時に、最近は必ず質問するようにしています。「皆さんが市場出荷した品物の競売率は何%ですか?毎回のように商品を買ってくれている買参人がおられると思いますが、誰か知っていますか?その販売店を訪問したことがありますか?」
 多くの生産者が市場での取り扱い状況を把握しておらず、誰が買ってくれているかも知りません。果たしてこれでよいのでしょうか。
 多くの花き市場では30%の競売率を維持するのが難しく、多くの商品が予約相対、市場ネット販売、注文取引で販売されています。競売前取引が主流になってきている現状では競売に出てくる商品は引き取り手のなかった残り物という状況になり、競売価格は下がる一方です。競売価格は生産者として経営が成り立つ価格ではなく、出来る限り競売前取引される商品を生産して出荷することが重要です。
 愛知県の米村浩次氏が2010年の日本花き生産者大会の講演で「予約相対価格は競売価格の1.5倍」と言っておられました。買参人は安い花を買おうとしているのではなく、確実に売れる花であれば少々高くても買いたいと考えています。不確定要素のある競売ではなく、確実に希望数量を確保できる予約相対や市場ネット販売で購入することを選択しています。
 生産者は競売で販売される商品と市場ネット取引で販売される商品の違いを認識しておられるでしょうか?また、市場で売れている商品と買参人が本当に欲しいと思う商品が異なることを知っておられるでしょうか。本当に欲しい商品がないので、代替商品を購入している事例は意外と多いです。
 自分が出荷した商品を定期的に購入してくれているりリピーターの買参人とお話ししたことがありますか?「最近は市場のシステム化が進んで買参人番号が記載されなくなったので判らない」といわれますが、いずれの花き市場でも「経費削減で致し方ない状況ですが、聞かれれば教えます」といっています。
 少なくとも、自分の商品を定期的に購入してくれている買参人を認識してください。そしてその要望を聞きましょう。出来れば販売店を訪問して、自分の花を購入してくれた消費者の声を聞きましょう。もし可能であれば、バラ生産者なら50本のバラの花束を持って、良く買ってくれるお客さんのご自宅を訪問してお話を伺いましょう。
 量の販売を目指す4,000坪の大生産者や共販組織に所属する生産者はそのようなことをする必要はないかもしれませんが、1,000坪前後の家族経営で少量多品種の生産者だからこそ、時間を有効に使うことが出来るはずですし、少しでも販売価格を確保するためにも販売店の要望を積極的に伺いましょう。
 販売の原点は「御用聞き」だと思います。


★小規模なバラ生産者の戦略 (2012/02/02)

 小規模生産者が一般的な売れ筋品種を生産し続けている限り、平均以上の収入を上げることは出来ません。一般の産業界では当然のことですが、ターゲットを絞ってビジネス展開を行うことは重要です。赤いバラを生産する生産者は誰をターゲットにしているのでしょうか。
 1,000坪前後の生産者が3,000坪以上の生産者と同じ品種を生産している限り、生産規模=収入の図式が成り立ってしまいます。むしろ、3000坪以上の大規模生産の方が収穫や選別作業での効率が高まって、収益率は高くなるでしょう。小面積で高収入を上げるためには大規模生産者とは異なる品種構成を考える必要があるでしょうし、販売戦略も当然異なってくるはずです。
 バラの消費者はピラミッド構造を取っています。ピラミッド構造の一番底辺には「バラになじみの低い消費者」がおり、その上にはバラの魅力を理解し始めた「バラ好きの初心者」がおり、その上には「品種を区別できるバラ好き」がいて、さらにその上には「バラマニア」がいます。当然、底辺の「バラになじみの低い消費者」の数は圧倒的に多く、上の階層に行くほど人数は少なくなってきます。しかし、購入金額は上の方が高く、下の階層ほどバラに支払う金額は低くなってきます。3,000坪以上の大規模生産者は生産コストを削減できており、出荷できる切花本数も多いため、「バラ好きの初心者」をターゲットとした販売戦略に対応することが可能です。一番底辺に位置する「バラになじみの低い消費者」に対しては、低価格で年中一定価格に対応できる輸入のバラが適しているのかもしれません。
 1,000坪未満の小規模生産者が収益を上げるためには、当然のことですが「品種を区別できるバラ好き」や「バラマニア」をターゲットとした販売戦略を選択する必要があると考えます。これらのピラミッドの上位に位置する消費者は人数が少なく、需要も大きくありませんが、1本あたりの購入金額が大きく、大量に出荷できない小規模生産者にとってはマーケット規模も丁度良いのではないでしょうか。これらの消費者は高品質なバラを希望していますが、生産面積が小さいために充分に手をかけて生産することが可能です。
 ただし、大きな課題は「バラ好き」や「バラマニア」の人口割合が低いことです。恐らく1%未満ではないでしょうか。人口40万人の岐阜市では、女性人口の0.5%は1000人です。1000人の女性が年間5回「バラらしくないバラ」を購入したとして、岐阜市の需要は年間5000本で、年間50週として1週間では100本、週3回のセリ日あたりでは30本と1ケース以下の需要しかありません。当然好みの品種が異なるため、岐阜市での1品種の需要は週10本未満ということになります。200万人の名古屋市になると50本程度の需要に達し、ようやく1品種1ケースの出荷が可能になるでしょう。
 このように考えると、地方の花き市場に対しては「複数の品種のミックス出荷」が不可欠ですし、首都圏でもせいぜい数ケースまでの需要なため、全国の市場に広く出荷する対応が不可欠です。生産規模が小さいからこそできることがあります。ターゲットを絞ってビジネス展開を行いましょう。


★フロリアード2012の宣伝 (2012/01/26)

 来年の2012年4月5日から10月7日にかけてオランダ・フェンローでフロリアード2012が開催されます。フロリアードは国際博覧会協会AA級の博覧会で、10年に一度オランダで開催され、私自身は果樹から花に研究を変え始めた頃の1992年のズーテルメア会場、そしてバラに研究の主体を移し始めた2002年のハーレマーメア会場に出掛けました。
 今回のフロリアード2012にも是非とも参加したいと思っていますが、今回はフロリアード基本計画検討委員とコンテスト部会委員を引き受ける立場になり、これまでの単純な楽しい参加ではなくなるかもしれません。フロリアードの企画立案を受託しているのはJTBコミュニケーションズで、委員会では「フロリアードに日本の花を出品して、日本の花をヨーロッパに広げよう!」と全国の花生産者への盛り上げを図っています。
 この数年気になっていることがあります。我が家では新聞は全国紙と地方紙の2紙をとっていますが、そのいずれでも毎日必ず海外旅行と国内旅行の全面広告をみかけます。不景気とか暗黒の時代といわれる割には二十数万円前後のツアーが必ずといって良いほど企画されています。
 花生産者がフロリアードを盛り上げるのは、業界人として当然のことかもしれませんが、国内の花き業界の発展を考えると、日本国内の多くの消費者がフロリアードに出掛けて、日本から出品された花が金賞を受賞しているのを見ていただくことも重要ではないかと思います。
 フロリアードの企画立案を受託しているJTBコミュニケーションズさん、是非ともフロリアード見学ツアー企画を立案して大々的に宣伝していただけませんでしょうか。そして、花き業界の皆さん。フロリアードツアーに積極的に協力して頂けませんでしょうか。今回の会場はドイツとの国境に近いフェンローです。「ドイツ・ロマンチック街道と世界の花の祭典フロリアードツアー」、「イングリッシュガーデンを見ながら世界の花を体験するフロリアードツアー」、「スイスアルプスとフロリアード」など・・・。
 世界旅行ができる消費者層と花の主要な購買層は限りなく重なります。出来る限り多くの日本の花の消費者がフロリアードでの日本の花の素晴らしさと世界で高く評価される活躍を目の当たりにしていただきたいと思います。


★花き流通業界の再編 (2012/01/18)

 2012年の正月気分がさめやらぬ1月7日の神戸新聞で兵庫県生花と大阪鶴見花きの経営統合の話題が報道され、Facebookでも様々な意見が交わされていました。
 報道によれば、少子高齢化による花き需要の減少に対応するため、規模拡大で集荷力を高め、システムの高度化でコスト低減を図る。全国4位の兵庫県生花と7位の鶴見花きが経営統合し、全国2位の花き市場が誕生するとのことです。
 統合による取扱数量の増加について考えてみましょう。取扱数量が大きくなることは取扱金額が増加して手数料収入が大きくなることですので、システムの効率化が図れれば当然経営収支は向上します。しかし、消費が年々縮小している現状では経営統合による売り上げの増加は一時的なもので、どこかで再び他社と新たな経営統合を図る必要に迫られます。このような経営統合が繰り返されることで、全国に150社あるとされる花き市場が数社に再編整備されることになり、これ自体は大きな意味を持ちます。しかし、花の消費の減少に歯止めが掛かる起爆剤になるとは思えません。数の論理での一人勝ちを目指す経営統合は成長社会での戦略であり、少子高齢化に伴う需要減少期での戦略としては適切な戦略とは言えないかもしれませんが、大きな流れとしては致し方のないものと思います。
 選択と集中によるシステムの効率化について考えてみましょう。多くの花き市場は切花と鉢物を取り扱っており、月水金の表日では切花を、火木土の裏日では鉢物を取り扱っています。切花生産者の感覚からすると、木曜日の午後に収穫した切花は金曜日の競売に間に合わないため月曜日の競売にかけられ、概ね火曜日に販売されることになり、収穫後4日以上経過して消費者の手に渡ります。これが切花の採花日表示ができない大きな理由であり、花保ち保証に踏み切れない大きな理由にもなっています。経営統合によって切花と鉢物を取り扱う市場を分離できれば1市場で両者を取り扱う必要がなくなり、毎日競売を行うことも出来、採花日表示も鮮度保証も可能になってきます。鮮度を前面に出した販売戦略も容易になってくるでしょう。当然、商品管理システムも1つにできるため、それぞれの市場がソフト会社に支払っていたソフト使用料も一括でき、ソフト管理業務者も削減できるので、システムの効率化の効果は大きいと思います。また、市場の取扱量のうちネット市場取引が大きくなっている現状で、販売店にとっては同じネット取引システム画像で切花も鉢物も毎日購入できることは極めて利便性が高く、買参人の登録が増加する効果も期待できます。
 規模拡大を武器として集荷力を高めることについて考えてみましょう。生産業界は現在大きな転機をむかえており、いわゆる国内有数の生産量を誇る大産地が新たな方向を模索し始めています。大量に生産して消費される品目はキク・バラ・カーネーションに代表される上位数品目に限られ、それは海外の熱帯高地の生産国からの輸入切花品目と重なります。海外の輸出国の生産面積は国内の大産地の比ではなく、品質・ロット・価格で勝負しようとしても到底勝ち目がなく、大生産地ほど生産方針の転換を迫られています。このことは流通業界でも同じで、輸入商社と花き市場が競合することになります。日本の花き産業の特徴として品目数と品種数の多さがあります。季節感を感じさせる多様な種類の切花を提供するために出来る限り多くの品目を取り扱う必要があり、さらに販売店のニーズに応じて多様な品種を確保する必要があります。しかし、これを目指せば目指すほど集荷・分荷業務が増大し、システムの効率化を図りづらくなります。これを解消するためには、出来る限り注文・ネット市場取引、予約相対などの事前取引を増やし、宅配業界などでは一般的になっている小口荷物の分荷システムを導入することが必要になりますが、取扱数量が少ないとこのシステムを導入する意味が薄れてしまいます。選択と集中による取扱数量と品目数の増大と事前取引の重点化によって、小口であっても効率よく分化できるシステムが完備できるでしょうし、その効果として集荷力が高まることが予想されます。
 集荷力の強化でもう一つの課題があります。品質です。同じバラの切花であっても生産者によって品質が大きく異なります。そこそこの品質で大量に欲しいという需要と、たくさんは要らないけれども一級品が欲しいという需要があります。第三者の目から花き市場を見るとそれぞれに特性があり、「ピン」の切花を生産するトップクラスの生産者とそれを評価して販売できるトップクラスの販売店が集まっている市場と、そこそこの品質の切花を大量に生産する生産者とそれを大量に販売したいという販売店が集まる市場、そしてそのどちらも欲しい地方市場があるように感じます。両者の販売店はターゲットとする消費構造三角形の顧客ジャンルが異なり、出荷する生産者も意識や技術・こだわり・生産規模が異なるため、必ずしも両者が両立することはないように思います。ターゲットとする相手が異なる花き市場が経営統合した場合に、その結果として特徴がなくなってしまうと、集荷力が低下することに繋がりかねません。選択と集中も重要な課題です。自動車業界では、何でもそこそこの品質で大量に販売する企業と、こだわりの技術や特化したジャンルで生き残りをかける企業に分かれ始めていますし、ハイブリッドカーや電気自動車が注目されるなかで新たな再編も始まりそうな気配です。性格の異なる市場が統合した時に、どのような方針で経営を進めていくかが大きな課題となります。
 もう一点、私自身が花き市場の大きな課題と感じる項目として従業員教育があります。「企業は人」とよく言われますが、会社の方針が定まらないと教育方針も決まりません。これが明確に定まった時には経営統合の効果はより明確に出てくるものと思います。一定以上の従業員を保有できれば、教育に投資を行うことが可能になってきます。現状の150ある経営規模が小さい市場では充分な従業員教育が行われておらず、様々な問題が発生している状況が統合によって解消できるものと考えます。


★縮小社会での大学再編 (2012/01/13)

 受験生人口が減少しているなかで大学の再編整備が想定されています。
 受験生人口が増加する時代には、いかに多くの学生を対象に魅力ある教育を提供できるかが問われ、総合大学化が進みました。いわゆる百貨店のように質の高い商品を品揃え豊富に提供することが重要で、私立大学などでは次々と新たな学部を新設し、キャンパス面積を拡大するために広い敷地を求めて郊外に移転する大学が相次ぎました。多くの学生を卒業させることで知名度を上げ、医学から工学、理学、経済、文学、商学とたくさんの学部があることで受験生の心を捉え、学生の確保に繋がりました。
 さて、受験生人口が減少するなかでは同じ戦略が通用しないことは当然です。戦略としては、小さくなっていくパイを他大学から奪い取れる魅力を作って生き残る「淘汰の強者の論理」戦略か、あるいはターゲットを絞り込んで特定の分野に特化して安定した受験生人口を確保する戦略のいずれかを選択することになります。
 他大学に比べて特筆できる魅力を作り出す「淘汰の強者の戦略」を成し遂げることは至難の業です。例えば、教育の質を高めて優良企業への安定した就職を保証することなどがありますが、一朝一夕にできることではありません。この魅力を完成させるためには最低でも10年を必要としますが、その間に大学経営が難しくなってしまうかもしれません。ましてや、この時代に「一人勝ち」という状況を作ることは極めて難しく、優秀な教授陣を揃えるなどの大きな投資を伴いますが、現状の学部数や学生数の増加を伴わずに(収入を増やさずに)この戦略を取る場合には、経営効率がどうしても低下せざるを得なくなります。また、複数の大学の再編統合も話題に上がりますが、統合によって一時的には学生数が増加して収入が確保され、同時に事務などの効率化が図られるため、一時的には経営改善に貢献できるかもしれませんが、キャンパスが異なるなどの要因もあって、結局大胆な効率化を図ることは難しいでしょう。
 特定分野に特化する場合には、特化すればするほど対象の受験生が限定されて少なくなります。例えば、工学や農学、理学などの理系に特化すると、中部圏の受験生だけでは定員を満たすことができなくなるかもしれません。当然、関西圏や首都圏に対象地域を拡大して受験生を集める必要が出てきます。しかし、ターゲットが限定されているために受験生対策もやりやすいでしょうし、学部の枠を超えた教育連携も可能です。また、学生の就職対策も対応しやすく、意外と短期間で成果が出る可能性があります。しかし、この戦略では必ずリストラ分野が発生します。総合大学を目指した方針を転換するわけですから当然でしょう。
 この両方の中間戦略としては、地域に特化した地域一番校という戦略もあります。
 東大や京大とは違って、岐阜大学のような地方大学では今後どのような戦略を選択するのかが重要な時期に来ています。名古屋大学との統合?地方大学間の再編統合?岐阜大学だけでの再編?今後の行方を左右する大きな方針の選択時期が着々と近づいています。
 さて、年明けに花き市場の統合の話題が出てきました。国立大学と同じようなことが花き業界でも始まりつつあることを実感しています。


★最近の消費者は、と嘆くなかれ (2011/01/08)

 生花店との話題の中で、「最近の消費者の意識レベルの低下は目に余ります。フラワーアレンジを買ってくれた方から、レジで『この花は水をやらなければいけませんか?』」と聞かれたそうです。「生花だから水が切れたら補充するのは当然なのに、それが面倒くさいと感じられることが情けない」と嘆いておられました。
 人が物事を面倒くさいと思うことと楽しいと思うことは紙一重です。「水をやらなければいけないから面倒だ」と思うことに対して、「水をやると元気になるから楽しい」の違いは、自分の行為によって何がしかの変化が見られてそれを実感できるかできないかの違いだと思います。「私が水をやることで元気に花が開いてくれる」と感じられれば喜んで水をやりますが、「現状を維持するために水をやるのはむなしい」と思えば面倒くさいと感じます。
 私は教育者です。学生が知識を持たないのは当然で、知らない学生に「何で知らないんだ!」といったところで何も変わりませんし、知らないことに対して「なぜ知らない」と言われても学生は答えようがありません。知らない事を恥ずかしいと思い、知識を得たことを褒められて楽しいと思えば勉強するでしょう。小学生が「どうして分からないんだ」と叱られると勉強するのが嫌になるのと同じではないでしょうか。
 フラワーアレンジを買ったお客さんに「花は水をやるのが当たり前ではありませんか」と答えるのか、「水をあげると花が次々と開きますから、楽しんでみてください」と答えるのかでお客さんの気持ちは大きく変わります。
 花に水をやることが大切だというのは常識かもしれませんが、嘆いても何も始まりません。むしろ業界人としては、お客さんの花に対する気持ちが一人一人高くなることによって花業界にとって大切な第一歩が始まると考えましょう。


2012年を迎えて (2012/01/01)

 辰年の年頭に当たって、メール年賀状を作成いたしました。ご覧下さい
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 昨年は東日本大震災から始まって、終わりがみえない福島原発、ユーロ危機と不思議な円高など、大変な年でした。
 しかし、今年は昨年に増して盛り上がりそうなフラワーバレンタイン、フロリアード2012と、少しは先が明るくなりそうな予兆もみえています。
 昨年にも増して、「教授の一言コラム」の掲載に励みます。
 よろしくお願いいたします。