このコラムの内容にご意見,ご感想がありましたら,右のポストをクリックして,メールでお寄せください.
タ イ ト ル 更新年月日 タ イ ト ル 更新年月日 酉年にちなんで、年賀状 2005/01/01 日本における国際花き生産流通戦略
【24】消費者ニーズの把握と的確な商品提供
−地産地消の高鮮度の切りバラ販売−2005/04/13 恐れるより相互補完を
(朝日新聞2003年1月29日社説より)2005/01/17 日本における国際花き生産流通戦略
【25】消費者ニーズの把握と的確な商品提供
−消費者ニーズに合わせた商品規格−2005/04/20 日本における国際花き生産流通戦略
【16】海外からの輸出を防いだローテローゼ2005/01/25 日本における国際花き生産流通戦略
【26】消費者の階層分類とニーズの把握2005/05/06 日本における国際花き生産流通戦略
【17】市場の階層分類と戦略
@超ミニシクラメンのマーケティング2005/01/31 男性が園芸に興味を持ち始めた 2005/11/10 日本における国際花き生産流通戦略
【18】市場の階層分類と戦略
A50〜60歳代のシクラメン戦略2005/02/04 日本は花き消費国?生産国? 2005/11/17 日本における国際花き生産流通戦略
【23】消費者ニーズの把握と的確な商品提供
−効率的な流通に適さないバラの生産−2005/03/30 中国ではベンツとアウディに近づくな! 2005/11/29 日本における国際花き生産流通戦略
【22】消費者ニーズの把握と的確な商品提供
−ホームユース用途の切りバラ−2005/03/08 「アジアの中の日本」を目指すために
−シンビジウムの中国輸出−2005/12/01 日本における国際花き生産流通戦略
【21】消費者ニーズの把握と的確な商品提供
−プレゼント用途の切りバラ−2005/03/04 緊急事態 「インドの輸入バラがトップ7に!」 2005/12/03 日本における国際花き生産流通戦略
【20】消費者ニーズの把握と的確な商品提供
−装飾用途の切りバラ−2005/02/23 重油の高騰が及ぼす影響 2005/12/06 日本における国際花き生産流通戦略
【19】海外からの切りバラの輸入動向を分析する2005/02/10 したたかに生き残るアメリカの切りバラ生産 2005/12/21
★したたかに生き残るアメリカの切りバラ生産 (2005/12/22)
2005年9月にアメリカの切りバラ生産会社California Pajarosa Floralを視察しました。アメリカのバラ産業はコロンビア・エクアドルからの輸出で崩壊したと思っていましたが,さすがに生き残っている生産会社はしたたかなマーケティング戦略を実施していました。オランダの戦略とを比較してみましょう。
一言でいえば,オランダは市場流通を主体とした効率的な大量生産・流通を目指しているのに対して,アメリカは消費者ニーズに応じた直接配送主体のオンデマンド生産・流通体系となっています。
オランダでもアメリカでも同様に,海外で生産していない品種を選択しています。アメリカでは人件費の安いメキシコ人を雇用して,切花・選花に人手の掛かるスプレー系や少花弁の品種を栽培しており,オランダでは省力生産が可能な大輪系の品種を栽培しています。
生産方式としては,アメリカは少量多品目生産方式で,California Pajarosa Floralでは7haの温室で140品種を栽培し,生花店やスーパーからの要望があればマイナーな品種であっても生産します。まさにオンデマンドな切りバラ生産と言えると思います。例えば,藤色系のラバンデ(Lavande)は花弁数が少なく,花保ちが悪いため,エクアドルで生産した場合に長距離輸送に耐えられません。しかし,微妙な薄紫の花色に加えて,花首が長く細くてしなやかさがあることから根強いマニアがいます。このことを逆手にとって国産でしか供給できない生産体系をとっています。同様に,スプレー系品種は切花日数がかかり,蕾の調整に技術を要し,自動選花機での選花に向かないため,エクアドルやケニアでは生産されませんが,California Pajarosa Floralでは生産品種の60%を占めています。また,アメリカには切りバラ育種会社がほとんどないため,古い品種であっても消費者が望むバラ品種の選択が重要となっています。
これに対してオランダでは,生産の効率化を図るための少品種多品目生産に徹し,労働生産性の向上を図っています。ムービングシステムを導入しているRozenkwekerij van Os & De Lierでは2.3haの施設で1品種を栽培し,1日2回の切花・選花を12人の労働者で行っています。労働者は忙しく働き,全自動で選花,パッケージが行われ,花き市場での占有率を高めることを優先に大量生産に努めています。
アメリカでは,選花機で選別した切りバラを再度45度の角度で基部の切り戻しを行い,消費者の手に渡ってからの水あげに配慮しています。生花店やスーパーから毎日発注情報を受け入れ,収穫した切花は2日以内で生花店に提供する直接発送システムを立ち上げています。これに対してオランダでは,市場流通システムを整備して大量の切花を効率よく輸送し,切花処理剤を使って水あげを良くする努力が払われています。また,多数の切りバラ育種会社で育成された品種を積極的に導入する新品種差別化戦略も特徴です。
アメリカでの収穫時の切り前は遅く,かなり開花した状態で収穫を行うことで消費者に対してバラの美しさを提供しようとしているのに対して,オランダでは流通効率を優先させ,かなり堅い状態で切花収穫を行っています。
このように,海外からの切りバラ輸出に対抗する戦略として,アメリカとオランダは全く逆といえる戦略を選択していることが判りました。
インド,韓国,ケニア,中国の輸出攻勢が今後一層強くなっていく日本の切りバラ生産の将来戦略として,私はアメリカ戦略の方が適しているように思います。一時的なパーティー需要や普段使いの切りバラは海外に任せて,本当のバラの良さを判ってもらえる消費者のニーズに的確に対応して,オンデマンド生産・流通を目指すことが高品質生産を得意とする日本の方向性のように思います。
ただし,この方向性を目指した場合には多くの切りバラ生産者の廃業が前提となります。オンデマンド生産・流通を必要とする需要は現在の日本の切りバラ流通量の30%程度かもしれません。できる限り多くの生産者が生き残っていくためには,やはり日本だけの市場ではなく,アジア市場を対象とするしかないのではないかと思います。
原油が高騰しています。原油価格の推移を見ると 【pdfファイル】,1973年の第1次オイルショックと1979年の第2次オイルショックの凄まじい原油の高騰が見て取れます。そして,2005年の原油価格の高騰が第3次オイルショックともいえる異常な価格であることが判ります。1979年の第2次オイルショックの時には切りバラ生産者は暖房温度を下げて対応し,年末から3月にかけての生産量が著しく低下したため市場価格が高騰し,切りバラ生産者の所得はむしろ増加したと言われています。
現在,重油の高騰に対して切りバラ生産者の対応は2つの選択肢に別れ始めています。1つは暖房温度を下げて重油の使用量を減らす方向と,もう1つは敢えて従来の暖房温度を維持する方向です。どちらの選択肢がどのような結果をもたらすかは今の段階では判定が難しい状況ですが,1979年とは状況が全く異なることは間違いありません。
暖房温度を下げている生産者がいる限り12月以降に生産量が減少することは間違いないと考えますが,恐らく市場流通量には変化が見られないものと考えています。その理由は海外からの輸入の増加による補填です。ケニア,インド,エクアドルは赤道直下の高冷地であるため無加温で生産が行われており,重油の価格に関わりなく生産量は一定です。
オランダの施設生産は北海油田で採掘される天然ガスを使用しており,天然ガスの価格は原油価格の高騰の影響を受けないため,日本と異なってヨーロッパにおける切りバラ生産量は減少することはなく,価格の変動も大きくないと推定されます。これに対して日本では生産量の減少によって切りバラ価格が上昇する可能性があり,インド,ケニア,エクアドルの切りバラがヨーロッパから日本に輸出方向を転換することが考えられます。また,2005年11月15日にUAE(アラブ首長国連邦)のドバイにDubai Flower Center(ドバイ・フラワー・センター)が開設されたことによって,ケニアから日本への切りバラ輸出の時間と費用が大幅に削減されます。このことは,原油高騰によるケニアからの航空運賃の上昇を相殺する効果があるとともに,これまで以上に高い鮮度を維持した切りバラが輸出されることを意味します。
恐らく,この2005年の冬は日本国内の切りバラ生産者にとって大きな転換点になると考えています。すなわち,20%程度の生産者が廃業,もしくはバラから他の作物への転換を図るものと考えています。
7月にケニアを訪問して感じたことです。ケニアの生産施設内の温度は昼間は28℃程度まで上昇しますが,夜間は10℃以下に低下します。日平均気温は22℃前後ですが,昼夜温の格差は20℃あり,この日格差がバラの高い収量性と花の大きさに関係していると考えます。
現在,冬季の切りバラ生産施設の温度管理は,夜間17℃,昼25℃程度に維持されていると思います。夜間温度の維持は切りバラ生産に不可欠と考えられていますが,ケニアの気候を考えると,下記のような温度管理が可能であり,重油使用量の節減にも繋がると考えますが,いかがでしょうか。
6:00〜 9:00 20℃
9:00〜16:00 30℃
16:00〜19:00 20℃
19:00〜 6:00 10℃
外気温の低い夜間に加温するためには大量の重油を必要とするため,加温温度を10℃まで低下させて重油の使用量を節減します。昼間の日射量が確保でき,外気温が比較的高い時に敢えて暖房設定温度を高めて30℃に維持します。日平均気温は,従来の夜間17℃,昼25℃の設定と同じ19℃程度を確保でき,かつ高品質な切りバラが生産できるのではないでしょうか。
★緊急事態 「インドの輸入バラがトップ7に!」 (2005/12/03)
園芸学会が出版予定の「HorticultureJapan(日本の園芸)」という本のバラの項目を担当することになり,日本の切りバラ流通状況を調査するために太田花き市場に問い合わせて判ったことです。2004年の取り扱いバラ品種は1,105品種と予想外の多さです。トップテンの品種はローテローゼ(赤)を始め,ティネケ(白),ノブレス(ピンク),パレオ(オレンジ),リトルマーベル(赤),デリーラ(藤),マサイ(赤),マカレナ(黄),デュカット(黄),サフィーア(ピンク)と続きます。
ほとんどの品種はバラの関係者であれば一度は聞いたことのある有名な品種ですが,第7位にはいった「マサイ」は残念ながら私も知りませんでした。早速,京成バラ園芸とキリンに問い合わせましたところ,10年以上前に当時バラ品種の輸入代理店をしていた第一園芸が登録した品種であることが判りました。しかし,この品種は日本での評価は低く,数年後には登録抹消され,現在,日本で生産する農家はほとんど皆無ということでした。しかし,国内で最も流通量が多い太田花き市場の第7位に入っています。早速太田花き市場の担当者に再度問い合わせた結果,「全量がインドから輸入されるバラ品種」であるとのことです。さらに,このバラ品種は市場を経由しないで,直接花束加工業者に引き取られることが多いとのことですので,市場外も含めた国内流通量のトップ5以内に入っている可能性もあります。
国内では生産されない輸入バラ品種が上位7位以内に入っていたこと自体,大きなショックを受けました。2005年1月25日の「教授の一言コラム」で「海外からの輸出を防いだローテローゼ」と題してコラムを書きましたが,この時には既にローテローゼと同じ赤バラ品種「マサイ」が雪崩を打って日本に押し寄せていたようです。
この情報を知った後に,花束加工業者と大手生花店に質問したところ,「インドのバラは結構品質も良く,価格もリーズナブルなので,2年ほど前から積極的に仕入れています。特に長期間の花保ちを必要としないパーティー用のアレンジには大量に使用して豪華さを出すのにうってつけです。」との答えが返ってきました。インドからの切りバラの輸出動向は「海外からの切りバラの輸入動向を分析する(2005/02/10)」(資料)でも書いているように認識はしていたのですが,思わぬ急激な速度で輸入バラが増加していることを感じさせる事実でした。私の予想では2006年に切りバラ市場価格が55円に低下する予定でしたが,2005年の速報値では今年の切りバラ市場価格は既に55円に達している可能性があるとのことです。腰を落ち着けてじっくり輸入対策を錬る時期ではなく,何をおいてもまず出来ることから対応する時期にきているのかもしれません。
日本の切りバラ生産者を代表する組織である日本ばら切花協会,あるいはエアーリッチアーティング栽培研究会の会員の方がこのコラムを読んでいただいているのであれば,両組織の方々が一堂に会して,早急に対応策を立てて実行する必要があるのではないかと考えます。
現在,日本に押し寄せている輸入切花の大波はキク,カーネーション,バラに限られていますが,これ以外の切花もその延長線上にあると考えています。全国の切花生産者は,これらの品目で起きている事柄を正面から分析して,今から対応策を考える必要があるのではないでしょうか。緊急事態が目の前に迫ってからでは手遅れになるかもしれません。
★「アジアの中の日本」を目指すために (2005/12/01)
−シンビジウムの中国輸出−
数年前から中国に向けてかなりの量のシンビジウムが日本から輸出されています。2004年の中国の春節にむけて日本から輸出されたシンビジウムは3〜5万鉢と推定されており,花が4本立ちで1000元(15000円)で販売されていました。しかし,必ずしも輸出が順調というわけではありません。様々な要因が関係していると思いますが,2006年旧正月用の中国輸出を中止した生産地も出てきています。
日本のシンビジウムは,花が5本立ちの場合,3本が開花状態で1本は開花直前の蕾の状態,もう1本は小さな蕾の状態になるように花芽の時に調節されて生産されます。しかし,中国では5本の花が開花していないと高級品とは評価されません。蕾の花があると「不揃い品」として評価されて価格は一気に低くなります。日本の出荷規格で生産されたシンビジウムは中国では評価が得られず,クレームとの戦いを強いられています。これに対して韓国は中国の出荷規格にあわせてシンビジウムを生産し,高い評価を受け始めています。
日本のシンビジウムの需要期は年末です。日本のシンビジウム生産者は年末に開花するように生産環境を制御して出荷します。これに対して中国の需要期は1月末の春節であるため日本とは出荷期が異なり,国内向けの通常の生産では最適な商品を供給することが難しく,中国輸出を目的とした場合には国内出荷とは異なる作型で生産する必要があります。しかし,現段階では日本国内で中国輸出専用として,国内とは異なる規格で,1月の旧正月用にシンビジウムを生産している生産地はないと思われます。もし,日本の生産者が中国に花を輸出しようと考える場合には,当然輸出先の消費ニーズに合う商品を最高の状態で生産して出荷するのが本来の姿であると思います。しかし,日本の生産者の頭の中には「中国向けのシンビジウムを生産する」という考えはほとんどみられず,「日本で売れ残った残り物」を輸出しようと考えているとしか思えないものが堂々と輸出されているようです。
間違っているかもしれませんが,日本の生産者は中国のシンビジウム消費者を蔑んでみているのではないでしょうか。「日本のシンビジウムの規格が中国に受け入れられないのはおかしい!」,「中国は後進国だから日本の1級品を輸出するまでもない。残り物で充分!」といった発想が底流にあるのではないかと感じます。しかし,中国で日本のシンビジウムを購入する消費者はベンツやアウディに乗っている新富裕層であり,日本のシンビジウム消費層とは比べものにならない大金持ちであることを理解しているでしょうか?
日本が本当に「アジアの中の日本」を目指すのであれば,輸出先の消費ニーズを的確に調査し,日本ブランドとしての最高の商品を輸出する心構えが必要ではないかと考えます。今のシンビジウムの中国輸出の状況を見る限り,日本ブランドが中国で定着することはなく,日本の閉鎖性だけが定着するのではないかと危惧しています。
★中国ではベンツとアウディに近づくな! (2005/11/29)
中国,特に上海などの大都市に行くと,この数年間急速にベンツやアウディを見かけるようになりました。ヒョッとすると名古屋当たりの都市より見かける頻度は多いかもしれません。これらの高級外車に乗る中国人は,急速に増加し始めた新富裕層といわれる青年実業家です。通訳の方との話で,「中国ではベンツやアウディを見たら近づくな!」と言われているそうです。「日本と同じですねえ」と答えましたら,どうも中国での意味は少々異なるようです。
10年程前まで中国で乗用車を運転するのは職業運転手で,運転手という職業は特殊技能者としてのステータスを持っていました。私が中国に出張すると運転手付きの乗用車が必ず用意され,中国滞在期間は常に運転手さんと一緒の行動をしていました。ある時,中国南部を訪問した時のことです。昼食をとった後に担当者が私をホテルの一室に案内し「ここで2時までお休み下さい」と言いました。中国南部では昼暑いため,昼の休息の習慣があります(今でもあるようですが)。私は現地視察の時間がもったいないため「昼休みは必要ないので現地視察に行きませんか?」と言ったところ,その答えは「運転手が昼の休憩をとっているので車が動かないから2時までここで休んで下さい」でした。すなわち,運転手という職業は日本と違って,学長のスケジュールさえも変える力を持っていたようです(私はぺーぺーですが・・)。
話は変わって,中国の最近のホテルで見かける光景です。実業家とおぼしき青年がホテルに入る時には,人差し指で車のキーをクルクル回しながらホテルのフロントロビーを歩いていきます。「私は自家用車を持っている」ことを自慢げに誇示しているように感じます。以前は,運転手付きの乗用車を持つことが富裕層の象徴とされましたが,新富裕層の青年実業家は高級乗用車を自分で運転することがステータスになっているようです。
したがって,中国でベンツやアウディに乗っているのは青年実業家で,ごく最近になって車の運転免許を取った初心者なのだそうです。日本ではベンツにぶつけると修理代が高いので近づいてはいけないのですが,中国では「彼らは運転技術が低いので近づいてはいけない」と言うことだそうです。
まさに,近年の急速な経済成長と,その申し子である新富裕層の台頭を言い表した話題だと感じました。
日本は北アメリカ,ヨーロッパに次ぐ世界3大花き消費地域の一つに挙げられています。インド農業加工食品輸出開発局(APEDA)の1995年報告によると,アメリカの花き消費市場規模は145億8600万$,第2位のドイツは76億700万$で,日本は第3位の53億9600万$です。しかし,3大花き消費地域という観点からもう一度数値を見直すと,北アメリカはカナダを加えると200億$以上に達し,ヨーロッパは主要花き消費国であるドイツ,フランス,イギリス,オランダなどを合わせると143億$以上となります。すなわち,日本は北アメリカ消費圏の1/4,ヨーロッパ消費圏の1/3程度の花き消費市場規模であり,本来であれば「世界3大花き消費地域」として取り上げられる国ではありません。
一方切花生産面積をみると,日本は21,218haと世界の1/10を生産しており,アメリカ,ドイツ,フランスと比較しても明らかに生産面積が大きいことが判ります。
このことは,日本は消費国でもあるが,世界的にも大きな生産国でもあることを示しています。生産面積が大きく,それに比べて消費市場が小さい国としてオランダを挙げることができます。オランダはヨーロッパ市場をターゲットとする切花輸出国であり,生産された切花は自国内消費を目的としていません。これに対して日本は,生産した切花のほとんどが自国内での消費を目的として流通されています。近年は国内生産に加えて海外からの切花輸出量が増加しています。すなわち,近年の日本の状況は,生産過剰直前の状態で生産と消費が微妙なバランスで成り立っていた所に,海外からの輸出切花が増加したために需給バランスが崩壊し,単価が暴落している状況であると考えられます。
本来,日本はオランダと同様に海外への輸出を目指すべき立場にあるにもかかわらず国内市場のみを対象とした流通にこだわっており,この需給バランスの崩壊による単価の下落を回避するためには,海外消費市場に目を向けなければならない状況であると考えます。日本の周辺のアジア諸国は,中国をはじめとして急速な経済成長を遂げています。1995年の中国の花き市場規模は4億8800万$程度ですが,2000年以降急速に花き消費市場が成長しており,2004年には少なくみても10倍以上,日本と同程度の50億$に達していると推定できます。
これからの日本の目指す方向は,オランダが目指してきた「ヨーロッパの中のオランダ」と同様に,高品質な花き商品をアジア圏に輸出する「アジアの中の日本」を目指す必要があると考えます。
花き消費
市場規模
(百万$)切花生産
面積(ha)アメリカ 14,586 16,400 ドイツ 7,607 6,621 日本 5,397 21,218 フランス 3,828 3,795 イギリス 1,680 6,804 オランダ 1,191 8,017 中国 488 59,527 世界全体 5,449,596 223,105 インド政府農業加工食品輸出開発局(APEDA) 1995年
4月の園芸店を訪れると,野菜の苗が半分を占めています。なかでも,トマトやピーマンなどのブランド野菜の高級苗の種類が豊富で,十年前のサントリーのサフィニアに代表される高級花壇苗のブームを思い起こさせます。この傾向は2〜3年程前から顕著になってきています。高級野菜苗を購入するお客さんを観察していると,圧倒的に中高年の男性が多く,十年前の高級花壇苗のお客さんが熟年女性であったことと対照的です。園芸店で男性が野菜苗を購入する理由を考えてみましょう。
家庭菜園の調査結果からみると,家庭菜園を楽しんでいる年代層は,30〜50歳代の男性が中心です。50歳代はいわゆるベビーブーマーといわれる戦後生まれのそろそろ定年をむかえる人々です。技術系の企業では「2007年問題」といわれるように,2007年には大量の男性が60歳定年をむかえ始めます。定年後の彼らは,多額の退職金を所有しており,まだまだ体力も気力もあります。彼らは今でこそサラリーマンですが出身は農家の子弟で,彼らの子供時代は両親が農業をする姿を見て育ってきています。農業に対する愛着や憧れは強いのですが,サラリーマンとして過ごしてきた都市での生活を捨てて生まれ故郷に戻ることはできないのですが,都市近郊での疑似農業体験を退職後の趣味として捉えています。
サラリーマン時代は技術者として過ごしてきた経験から理論に強く,農業を理論的に考えて取り組みたいと考えています。野菜作りの技術指導書を購入し,有機農業を土作りから取り組み,肥料についてもこだわり,基礎から野菜作りを勉強しています。栽培する野菜は普通の野菜ではなく,こだわりを持って品種を選定しています。
男性の趣味の特徴は,女性と違って「金に糸目は付けない」ことです。私も5年前から市民農園に参加していますが,30uの猫の額のような農地に毎年春と秋に5袋以上の完熟堆肥を投入し,12,000円の借地料に加えて,苗代,肥料代,資材代を考えると一体いくらの野菜を収穫していることになるのか判りません。家内はスーパーで100円のキャベツをみて「お父さんの野菜は高級野菜だねえ!」と嫌味をのたまいますが,私自身は一向に気にするそぶりも見せず「新鮮,穫りたて!スーパーの野菜とは味が違う」と自慢しています。先日も新聞に「家庭用耕耘機の販売が好調」との記事が掲載されていました。家庭菜園で20万円の耕耘機はどう見ても投資コストが合わないと思いますが,男性主体の家庭菜園ならではのニュースだと思いました。
江戸時代の古典園芸に造詣の深い名古屋園芸の小笠原亮氏から伺ったことですが,江戸時代の園芸は世界で最も進んだ園芸文化で,いわゆる旦那衆が金に糸目を付けず究極の園芸を目指したため,朝顔,桜草,福寿草,万年青などの園芸文化が花開き,メンデルの遺伝の法則が公表される以前に既に優性の法則や補足遺伝子の働きなどの遺伝の法則性に気付いていたと言われています。
男性が主体となった園芸文化は経済に対する影響力が大きく,園芸市場の拡大が期待できます。ただし,これまでのガーデニングに代表されるような感性に重きを置いた園芸では彼らは満足できません。技術者としてのプライドから,学名,植物名,原産地,栽培化までの来歴に始まり,培土や肥料の特性,栽培環境など専門的で的確な情報を要求します。現在の花き園芸産業界を見ると的確の情報を提供が少なく,感性を重視した女性対象のマーケットを指向しているように思います。団塊の世代の男性マーケットを対象としたマーケティングは,今後より重要になると考えます。
★日本における国際花き生産流通戦略
【26】消費者の階層分類とニーズの把握 (2005/05/06)
女性の購読雑誌ベスト5を見てみましょう(下表参照)。20歳代は,トップがMORE,次いでan'an,オレンジページが続き,4位にはWith,5位にWalkerが挙がっており,ファッション雑誌が上位を占めています。これに対して30歳代になると,オレンジページ,レタスクラブ,クロワッサンなど生活スタイル提案雑誌が上位となっています。この傾向は40歳代も類似しており,上位3誌は同じです。50歳代になると,オレンジページをおさえてきょうの料理が1位となり,趣味の園芸がクロワッサンより上位の3位に現れます。60歳代では,きょうの料理,趣味の園芸が上位を占め,女性自身,暮らしの手帖,家庭画報など自己を磨く研鑽雑誌が好まれています。購読雑誌の傾向から各女性年代層のニーズを推察すると,以下のようにまとめることができます。
20歳代:自分を際だたせるためにお金を使いたい。自己を積極的にアピールしたい。
30歳代:自分の生活スタイルを模索し,家庭のなかで自分が輝くことを目指しています。
40歳代:家族と共に生活スタイルを確立し,自分を磨くことに強い興味を示す。
50歳代:生活スタイルに合わせた園芸に興味を持ち始め,趣味のなかで自分を磨いていきたい。
60歳代:花を育てる園芸に対して強い興味を示し,趣味を中心としたなかで生活を充実したい。
年代で特徴的なことは,20歳代はファッション性がないと受け入れられないことです。20歳代をターゲットにした園芸消費を考える場合,ファッション性を前面に出した商品性のPRが不可欠です。広報・宣伝,販売ともに従来の園芸業界のなかで実施しても効果はなく,ファッション雑誌とのコラボレーションや,ファンシーグッズ店での販売など,これまで異業種と考えられてきた分野での新規ルートの開拓が必要です。当然,花き市場−園芸店(ホームセンター)の流通ルートを考える限り20歳代を購買層とすることは不可能と考えます。【超ミニシクラメンのマーケティング(2005/01/31)】
30歳代と40歳代は家族を中心とした生活スタイルの確立に強い関心を持っており,家庭のなかでの園芸の提案が効果的である点が共通しています。30〜40歳代はマンション,あるいは1戸建を新築・購入する年代であり,インテリアのなかでの園芸の楽しみ方の提案が不可欠です。すなわち,鉢物,切花ともに単品としての提案ではなく,飾る場所,家具との組み合わせ,生活スタイルのなかでの主張が必要です。例えば,住宅やマンション建築業者とコラボレーションして,住宅展示場やマンション内覧会で観葉植物や花鉢物,切花を積極的に装飾・展示して,生活空間のなかでの花の活用方法を提案したり,インテリア業界とコラボレーションすることで,インテリアとしての花の利用方法を開発するなどが有効です。当然,花の供給先として住宅展示場やマンション内覧会が開催されている近隣の園芸店やホームセンターの協力が不可欠であることは言うまでもありません。
50歳代以上になると購読雑誌の上位に趣味の園芸が現れてきます。「NHK趣味の園芸」が他の園芸雑誌と異なる特徴は「育てる園芸」を前面に出していることです。植え付け培土は市販の物ではなく必ず配合を明記し,株分けや種まき方法などを易しく解説しています。また,普通では育てにくい珍しい植物の紹介や植物の自生地の紹介など,まさに趣味としての園芸愛好家を育てることに力を入れています。恐らく,花き生産者の商品イメージに最も適合している年代層で,園芸専門店に足繁く通うヘビーユーザーでもあり,これまでの園芸業界を支えてきた年代層といえます。
以上のことから,花き商品の既購入者のリピーター化を考える場合には,50歳以上のニーズに合わせた「育てる園芸」に力点を置いた商品展開が必要であり,鉢花の場合には購入後にさらに一層花が咲き続ける商品性の向上や,観葉植物では成長する過程を楽しめる商品性,切花では花保ちをより追求することが重要です。
30〜40歳代への販売強化は将来の園芸愛好家を確保するために重要な戦略です。数十年前とは異なり趣味の種類は格段に増えており,アウトドアー,国内旅行,海外旅行,手芸,陶芸など園芸と競合する生活スタイルは多様を極めています。従来の園芸普及事業ではなく,園芸を楽しむ生活スタイルを提案することが重要であり,異業種とのコラボレーションを積極的に取り組む必要があると思います。
20歳代に対しては,「園芸の普及」といった考え方を払拭する必要があると考えます。20歳代は購入した鉢花を,植物ではなくファンシーグッズと感じています。サボテンを生産している(株)岐孝園の商品は明らかに若年層を対象としたファンシーグッズ的な「カワイイ」商品です。花き生産者は「花き園芸」というこだわりを捨てることで新たな顧客層を確保することができると思います。
いずれにしても,新たな顧客層である20〜40歳代の女性を開拓するためには,新たな発想に基づく商品開発,広報・宣伝,流通経路の開拓が必要であり,広報・宣伝媒体として上位5位までの購読雑誌は重要な位置づけとなると考えます。
女性が購読している雑誌ベスト5 (インテージ2002年2月調査結果) | |||||
20歳代 | 30歳代 | 40歳代 | 50歳代 | 60歳代 | |
1 | MORE | オレンジペ−ジ | オレンジペ−ジ | きょうの料理 | きょうの料理 |
2 | an'an | レタスクラブ | レタスクラブ | オレンジペ−ジ | 趣味の園芸 |
3 | オレンジページ | クロワッサン | クロワッサン | 趣味の園芸 | 女性自身 |
4 | With | すてきな奥さん | 女性自身 | クロワッサン | 暮らしの手帖 |
5 | Walker | MORE | きょうの料理 | 女性自身 | 家庭画報 |
★日本における国際花き生産流通戦略
【25】消費者ニーズの把握と的確な商品提供 (2005/04/20)
−消費者ニーズに合わせた商品規格−
切りバラの出荷規格は2L,L,M,Sがあり,最近では80cm以上,70cm,60cm,50cmなどの長さ表示に統一されつつあります。いずれも長いほど価格は高くなります。豪華な花束を作る場合には,一定以上の長さがないと豪華な花束にはなりません。したがって,「高い花」=「長い花」という規格があるのは理解できます。しかし,消費者は80cm以上の切りバラを最高品質のバラとして納得して評価しているのでしょうか?いくら長い切りバラでも業務用ではない花束は60cmもあれば充分です。普通の花束を作る場合には20cm以上の無駄な茎を切り落として買っていきます。私が以前花束を購入したときに,惜しげもなく20cm以上の茎を何も躊躇なく切り離した店員を見て,「その20cmには価格があるんだぞ!」と言いたくなった記憶があります。また,生産地から消費地へ大量の生ゴミを送りつけている社会構造も問題があるのではないでしょうか。
50〜60cmのバラは,花店で最も需要の高い長さです(別表「切りバラの規格別意向調査」)。しかし,需要が高くても市場価格も販売価格も安く,花店としては利ざやが低い花で,80cm以上の切花は販売価格が高いため利ざやが稼げる切花です。バラの花の大きさは切花長と関係があり,切花長が長い切りバラの蕾は大きく,いかにもバラらしい花が咲きます。しかし60cmの切りバラの蕾は小さく,長さは適当なのですがバラの花としては寂しい花です。したがって,花店は80cmの長さは無駄だと思いながら,花の大きさの価値を優先して,あえて長い切バラを市場で高値で競り落とします。あるいは,需要は少ないのですが,ホテルの装飾などのビジネス装飾用にも使用できると想定して,20cmの無駄な茎が生ゴミとして出ることにはなりますが,80cm切りバラを購入しています。
私の家もそうですが,一般家庭には70cm以上のバラを飾ることのできる立派な花瓶はありません。とはいえ,貧弱なバラより立派なバラの方が見応えがあり,バラらしい80cm級のバラを飾りたいとも思います。
そこで提案ですが,例えば,出荷する全ての切りバラの長さを60cmに切り揃えて,花の大きさ(蕾径)に応じて,「秀(≧40mm),優(≧30mm),良(<20mm)」という独自の規格で販売するアイデアはどうでしょうか?流通箱あるいはバケットの規格は全て同じなので輸送コストを下げることができるでしょう。消費者は一輪挿しであれば「良」のバラを,アレンジであれば「優」を,大きな花瓶には「秀」を購入する選択肢が与えられ,これまで以上にバラの花が気に入って,さらにバラを買ってくれるのではないでしょうか。夏に「切花長は長いけれども貧弱なバラを買わされた」といったクレームは来ないでしょうし,冬はふんだんに豪華な秀品のバラを楽しむこともできるでしょう。
花店が業務用で長い切バラが必要であれば,市場に注文品として予約相対で購入すればよいと思います。業務用の長い切バラはあくまでも特別品であって,これからの消費の主体となるべき一般消費がレアケースの業務用の流通規格に翻弄されることは好ましいことではないと考えます。
日本の消費者に花の大きさを中心とした価値観が定着すれば,巨大輪のエクアドル産のバラを取捨選択するのも消費者であり,切りバラ生産者の価値観でいたずらに脅威を感じる必要もないのではないでしょうか。
男性には良く理解できない現象ですが,バラをもらった女性は必ず感動します。花は感動を与える産業であることを考えれば,感動を与えることのない業務用を主体とするのではなく,一般消費者をターゲットとしたマーケティングを優先させるべきではないでしょうか。以前のコラムで書いたように【【20】消費者ニーズの把握と的確な商品提供−装飾用途の切りバラ−】,国内産のバラの優位性が低い業務用(装飾用)の基準をバブル期が去ったにも関わらず採用し続けることは,これからの一般消費を主体とした国内切りバラ産業の発展に悪影響を及ぼすと思います。
農林水産省が進める「短茎多収:短いバラをたくさん収穫する」戦略ではなく,消費者が望む商品を的確に提供する戦略が重要だと考えます。
切りバラの規格別嗜好 | ||||||||
切り花長の規格 | −30cm | 30cm | 40cm | 50cm | 60cm | 70cm | 80cm | 80cm− |
消費志向(%) | 27 | 4.4 | 7.6 | 17.2 | 24.8 | 23.3 | 13.9 | 6.1 |
★日本における国際花き生産流通戦略
【24】消費者ニーズの把握と的確な商品提供 (2005/04/13)
−地産地消の高鮮度の切りバラ販売−
以前,鳥取県の方からメールをいただきました。「海外からの輸入が数量ばかりでなく、品質的にも日本の生産に大きな影響を及ぼしている中で、若いバラ生産者が今後の経営に不安を持っており,国内の生産者が生き残るためには何が必要なのか、あるいは、早期にバラから他の作物に転換するほうがいいのか、アドバイスをいただければ幸いです。」
鳥取県がバラの生産適地であるかどうかについては,難しい判断を迫られるところですが,顧客ターゲットをどこに絞るかによって見方が変わります。鳥取県で大規模生産をめざして全国市場出荷を狙うのであれば,より環境に恵まれた生産地の方が有利であり,多雪地域で冬の日射量が低く多額の暖房コストがかかる上に,夏は結構高温になる鳥取県が,通常の市場競争で他産地に勝てる保証はほとんどないと思います。しかし,鳥取県と島根県を合わせた140万人の消費者をターゲットとして,鮮度の高い,日保ちの良いバラを提供することに絞ると,他県の産地に対しては有利な状況が生まれてきます。
一般に生産者が収穫した切りバラはすぐに市場に出荷される訳ではありません。収穫した切りバラは冷蔵庫で水揚げされた後,選別され,市場に出荷されます。しかし,市場は毎日切りバラを集荷している訳ではなく,週3回程度(例えば月・水・金)しかセリを行っていません。したがって,最悪の場合,木曜日の朝に収穫されたバラは金曜日の市場のセリには間に合わないため,月曜日のセリまで冷蔵庫で眠ることになります。当然,月曜日にバラを競り落とした花店は,出荷箱からバラを取り出して再度水揚げを行い,販売のための調整をして,店頭に並ぶのは月曜日の午後からになるでしょう。店頭に並んだバラはすぐに売れる訳ではないため,火曜日,水曜日・・・と店頭ショーケースのなかで保管されることになります。消費者が購入する切りバラは,本当はいつ収穫されたバラなのでしょう。食品業界では食品衛生法あるいはJAS法の規定に従って製造年月日や賞味期限が明記されており,消費者は食品を購入する基準の一つに使っていますし,賞味期限が近いものはスーパーの値引き販売商品の代表です。切り花は食品と同じ生鮮品の部類に分けられますが,この点については消費者本位の観点から大きくかけ離れています。
小さな産地,小中規模生産者であるからこそ,地域の消費者をターゲットとしたマーケティングを考えることができるのではないでしょうか。朝収穫して水揚げしたバラをその日のうちに買って家に飾ることができれば,花保ちは何日保証できるのでしょうか。当日切花保証の『朝露穫りのバラ』@150円,前日切花保証の『切りたてのバラ』@100円,それ以外@80円という価格は充分消費者は納得できると思いますし,可憐な一重のバラの花束@1500円なども自家用車を使って多くの人々が買いに訪れるものと思います。当然のことながら,販売の際にはバラに関わるストーリーをお客さんに語ってあげることは必須です。お客に「生産者と友達だ」と感じさせることが産地直売のメリットです。
各地の農産物直売所では,鮮度にかかわらずすべてが@100円均一で,あたかも100円ショップのような安売りを目玉にしています。バラの直売所では,安売りではなく,消費者がリーズナブルと感じる付加価値販売をして欲しいと思います。このことこそ市場出荷では評価されにくい1000坪以下の小規模生産者が目指す「地産地消の高鮮度の切りバラ販売」ではないでしょうか。
★日本における国際花き生産流通戦略
【23】消費者ニーズの把握と的確な商品提供 (2005/03/30)
−効率的な流通に適さないバラの生産−
海外の切り花生産国や国内の大規模産地では,収穫した大量のバラを効率よく市場に出荷するため,まっすぐなバラしか生産することができません。曲がったバラは規格化された出荷箱には合わないため,規格外品として取り扱われています。しかし,消費者はまっすぐなバラだけを欲しがっているわけではなく,曲がったバラも欲しいと思っています。実際に,日本ばら切花協会千葉県支部のバラコンテストで,品評会終了後に即売会を行ったところ,金賞に入賞したまっすぐなバラには見向きもしないで,参考展示されていた曲がったバラが一番人気だったとのことです(写真提供:千葉県榎本雅夫氏)。曲がったバラは選花過程でB級品として取り扱われますが,切花の規格は誰が何を目的に決めているのでしょうか?市場での大量流通が目的であれば理解できますが,消費者ニーズを考えているとはいえない部分があるのではないかと思います。
このことは,野菜の分野では古くから論議されていることです。岐阜県高山市丹生川町のトマト選果場では,3L・2L・L・M・S・2Sの6段階の規格に加えて,秀・優・B級の3階級があり,さらに色規格として赤(R)・ピンク(P)・普通(N)の3階級に分けられ,6×3×3=54ランクにも及ぶ規格が設定されています【丹生川村のトマト選果場】。トマトに54種類の規格が必要なのでしょうか。消費者が必要としているのでしょうか。恐らく,青果市場と生産地が決めているものであり,消費者あるいは販売店の意向が規格を作り出しているものではないと思います。
切りバラでも70cmのA級品より,50cmの曲がったB級品の方が市場での価格が高かったことを経験している生産者はたくさんいます。10年前の「作れば売れる」景気が良かった大量物流・消費時代には輸送性や大量消費を基準とした規格が必要であったと思いますが,時代の変化と共に消費ニーズが変化した現在も以前のままの規格にとらわれていることは問題であると思います。大量流通・消費を前提とした時代に合わない市場流通規格であっても,ついつい生産者は高規格品を作ることに一生懸命になってしまいます。本来,「物の価値」はニーズに応じて決まる物であり,「物の価値」は市場ではなく消費者あるいは花専門店が決めるものではないかと思います。市場は消費ニーズの調査を行い,適宜規格を変えながら最適な商品提供する努力をする義務があるのではないでしょうか。
これまでの切りバラは段ボール箱に詰めて出荷されてきました。近年,鮮度保持を目的としてバケットによる出荷が行われるようになり,曲がったバラも出荷することが容易になってきました。消費者が望む商品規格を早急に作って,消費者がリーズナブルと感じる価格の設定を考える時期に来ているのではないかと思います。
★日本における国際花き生産流通戦略
【22】消費者ニーズの把握と的確な商品提供 (2005/03/08)
−ホームユース用途の切りバラ−
自家消費のホームユース用途はどのようなニーズを持っているのでしょう。
ホームユースの切り花の購入先を大きく分けると,花専門店と近年急速に増加し始めた駅やスーパーなどのスタンド販売店に分けられます。この2種類の購入先から花を購入する消費者の購入目的は明確に異なっています。
駅やスーパーなどでスタンド販売されるパッケージ花束を購入する消費者は日常的に花を購入する習慣を持つリピーターで,高頻度切り花消費者です。カルチャー教室などで切花装飾技術をある程度学んだ人が多く,スタンド花販売店で花を購入する理由は低価格であることと手軽さを挙げることができます。彼らは切り花使用頻度が高く,フラワーデザイン能力や鑑賞技術も高いため,品質はやや劣るパッケージ花束の切り花を効果的に利用することができ,同じ種類,例えば赤いバラであれば,花専門店で売っている高品質な国産ローテローゼでなくても,品種名が不明の輸入の赤いバラを充分使いこなすことができるものと思います。しかし,彼らは必ずしもパッケージ花束に満足している訳ではなく,あくまでも普通のバラであれば安い方がよいと考えているだけです。したがって,通常購入する花は低価格の輸入切りバラですが,時折「今日はチョット奮発してみようか!」という時には変わったバラが欲しくなります。
高い鑑賞技術を持つパッケージ花束消費者は切り花評価能力も高いため,見た目に明らかに商品性が異なる切り花,例えば前回の「プレゼント用途の切りバラ」で述べた「バラらしくないバラ」に対しては必ず高い評価を与えるものと推定され,「バラらしくないバラ」のパッケージ花束がそこそこの価格(1000〜1500円程度)で販売された場合には必ず購入する客層となります。花束のスタンド販売を進める業者は「パッカー」と呼ばれ,年間を通じて一定量の切花を安定価格で安定供給を希望しているため輸入切り花が取り扱い対象となってきていますが,パッケージ花束消費者のこのようなニーズを考えると,「バラらしくないバラ」の販売ルートとしてスタンド販売もターゲットとして加えることができると考えます。
パッケージ花束消費者が花専門店で花を購入することはほとんどありません。恐らく,年間使用量が多いため高価格な切り花を販売する花専門店では購入できないことや,フラワーデザイン能力が高いため花専門店でのアドバイスを必要としないことなどが考えられます。切りバラ生産者の皆さん,パッケージ花束を馬鹿にするのではなく,新たなビッグユーザーの確保に向けてこの分野の市場開拓に正面から取り組んでみませんか?
花専門店での切り花購入について考えてみましょう。花専門店での切り花購入目的を判断する資料としてJFTDのアンケート調査結果があります。花専門店で花を買う理由には,気分の転換,うれしいことがあった,部屋を明るくしたい,季節の変わり目などが上位に挙げられており,花を飾る目的には「日常のなかでの生活転換を図る」ことがあると考えます。生活転換を図るために用いられる花以外のアイテムとしては,「温泉旅行」,「レストランでの食事」,「チョット高級なワイン」,「部屋の模様替え(インテリアグッズの購入)」などがあり,切り花購入行動はこれらのアイテムと競合すると考えます。花以外のアイテムとの競合については後ほど論議することとしましょう。
スタンド花販売店で花を購入する消費者は日常的に花を購入する高頻度消費者であるのに対して,花専門店で花を購入する消費者の切り花購入頻度は少なく,低頻度消費者ということができます。この消費者の切り花装飾技術は低く,フラワーデザイン能力も低いため,消費行動には花専門店が大きく影響します。花専門店とスタンド花販売店との関係は,鮮魚販売における鮮魚店とスーパーの関係と似ています(八百屋と鮮魚店(2000/11/24))。「今日は良いことがあったので,自分を褒めてあげたいんです」あるいは「チョット気分を変えたいんだけど・・」と店の人に相談すると,「それならこの花がピッタリだと思いますよ!」といって花専門店の店員がお薦めの花を紹介します。したがって,「自分のための花を花専門店で購入する人」に対するマーケティングは実は花専門店に対するマーケティングであり,花専門店が惚れ込む商品性が重要となります。購入する人が「なるほど!」と納得する商品性が要求されます。素材としての切り花ではダメです。
イングリッシュローズの切り花が評判となっています。イングリッシュローズは花が大きくてバランスが悪く,茎は曲がって長くなり,収穫本数が少ないなど生産者にとっては取り扱いにくい切り花のようです。しかし,花専門店で切り花を購入する消費者(花専門店の従業員?)にとって,このイングリッシュローズの切り花は魅力的な花のようです。ポッテリした花の豪華さ,しなやかな曲線をもった茎,独特のバラ特有の香り,オールドローズの風格・・のように,これまでの直線的で香りの少ない造花のようなバラの花に感じていた不満を解決してくれる魅力がイングリッシュローズにはあるようで,直線的ではないバラの切り花は観賞価値を一層増加させてくれると思います。
静岡県三島市の市川バラ園が育成したバラ・アンダルシアも日常の中での生活転換を感じさせてくれる商品性を持っています。花弁数は少なく,グロリオーサのように花弁が捻れて,とてもバラには見えない花姿ですが,癒しの感性を持った花ということができます。バラの花に飽きてきた花専門店の店員にとっては是非お客さんに勧めたいバラ品種の一つということができるでしょう。
花専門店,スタンド花販売店のいずれの場合でも共通することは,新鮮さと花保ちです。特に自分へのプレゼントは,自分が自身への贈り物ですので,鑑賞中の花保ちの低下はバラのヘビーユーザーに対する裏切りであり,リピーターのバラ離れに繋がります。
以上のことから判断すると,自家消費のホームユースについても,スタンド販売する普通のパッケージ花束は海外からの輸入切りバラが独占することになるかもしれません。花束をパッケージ加工する業者のなかには,国産にこだわっている会社もありますが,ケニアの切りバラのように1週間の花保ち保証を提案している輸入バラが普及してくると,1週間程度の花保ち保証は輸入・国内を問わず当然備えるべき価値の一つとなると考えます。したがって,パッケージ花束はそこそこの品質を保証できる低価格競争の中に入っていくのでしょう。実際に,2004年12月にはかなりの量のパッケージされたバラの花束がケニアから輸出され,首都圏を中心としたスタンド花束販売店で販売され,そこそこの評価を得たとの情報も入っています。
日本の切りバラ生産者がホームユース用途の切りバラ市場で戦う土俵としては,このような「そこそこの品質を保証できる低価格のバラの花束」市場ではなく,見た目にも差別化を図ることができる高い商品性を目指した切りバラ市場であり,花専門店や花束加工会社と共同で企画する「高い商品性を持ったバラ」は海外からの輸入切りバラではできない新たな消費拡大をもたらすものと思います。切りバラ生産者の皆さん,花き市場だけを見つめるのではなく,その先の花専門店や花束加工会社とのコラボレーションを積極的に取り組んでみませんか?
★日本における国際花き生産流通戦略
【21】消費者ニーズの把握と的確な商品提供 (2005/03/04)
−プレゼント用途の切りバラ−
プレゼント用の花束用途の顧客ターゲット市場を考えてみましょう。バブル期は赤いバラが売れたそうです。見栄で飲み屋の女性へのプレゼント需要が多く,当然「贈った後は知らない」という状況でした。景気が安定してくると身近な人へのプレゼントが多くなり,誕生日,記念日,お祝い,母の日の順に需要があります。花束を贈られた人は必ず家で花瓶に飾って楽しみます。飾っている花が長保ちすることは,贈った人の印象を深くすることに繋がるため,鮮度がよいことが重要であり,花保ちは必須条件です。花保ち期間は,流通方法,流通経路,花保ち材の使用などと密接に関連しており,これらのことを徹底することは当然の顧客ニーズに対する対応といえます。切花収穫後の「水揚げ」は重要な要素で,切花直後から冷水に漬けることや,選花,流通を含めて常温にさらされる時間をなるべく短くするコールドチェーンの徹底やバケット流通(立て箱流通),鮮度保持剤の使用も重要です。また,切花の水揚げは葉からの蒸散量に伴うため,葉に傷がつかないことに配慮することも大切です。このように,バラの採花から流通まで細心の注意を払うことは鮮度・花保ちで輸入切りバラに対する差別化戦略として重要です。
贈答品であるからには「豪華」であり,「贈られた人に感動」を与えることが重要です。「感動」という感性は視覚・嗅覚など五感に加えて思考や記憶,感情が加わります。すなわち,バラの香りにこだわった花束,品種の名前にまつわる物語が添付された花束,見たことのないバラの花束,以前から欲しいと思っていたイングリッシュローズの花束・・。すなわち,一般的なバラではない,何かこだわりを持った商品性が大切です。当然,一般的なバラの花束のプレゼントもありますが,この場合には装飾用途の切りバラの需要と重複する部分であり,輸入切りバラと同じ範疇に含まれます。
こだわりのバラの魅力の一つに香りがあり,バラを楽しむ人たちは必ずといってよい程,花に顔を近づけて香りを確認します。千葉大学の上田善弘助教授によれば,バラには6種類の香りがあり,(1)ダマスク・クラシック,(2)ダマスク・モダン,(3)ティー,(4)フルーティ,(5)ブルー,(6)スパイシーに分類されます。一般の人でこれらのバラの香りを体験している人は少なく,「スパイシー」や「フルーティー」の香りのバラの花束は感動を与える商品性を持っていると考えます。
バラ品種の名前にまつわる物語としては,例えば「皇族のバラ」を挙げることができます。Royal Highness,Queen Elizabeth,Princesse de Monaco,Diana-Princess of Wales,Princess Margaret of England,Princess Michiko,ハイネス雅,ハイネス愛,Princess Sayakoなど,少々高貴すぎるようにも思いますが物語性はあります。この他にも,バラの品種には色々な名前があります。「ジューンブライド」と「ブライダルピンク」,「プリティーウーマン」の花束は結婚する友人にプレゼントする花束として魅力的ではありませんか?
消費者にとって見たことのないバラ,すなわち「バラらしくないバラ」も感動を与える商品といえます。現代バラはヨーロッパでの数百年の育種の歴史から生まれました。この過程で中国から渡ったRosa chinensisは重要な役割を果たし,その子孫からヨーロッパの人々の感性にあったバラが選抜されました。花店で見かけるバラはどこかバタ臭く,洋風の部屋には似合いますが,和風の部屋にはチョット似合いません。図1は2004年から2005年にかけてヨーロッパのバラ育種会社から発売された新品種の赤バラです。よく見ると多少の違いはありますが,一般の人々には全て同じ「赤いバラ」にみえます。生活の欧風化の流れの中で日本人は西洋風生活の象徴として「バラ」を捉えてきましたが,ヨーロッパのバラは自然を愛でる日本人(あるいはアジア人)の感性に欠けるところがあると思います。図2のバラは最近育成されたいわゆる「バラらしくないバラ」の仲間です。ヨーロッパの感性とは違うこのようなバラ品種は,輸入切りバラにはない感性の豊かさを備えており,まさに贈った相手に強い印象を与えるプレゼント用のバラの代表ということができます。日本(あるいはアジア)の感性を持ったバラ育種は重要な国際化対応戦略の一つといえるでしょう。
★日本における国際花き生産流通戦略
【20】消費者ニーズの把握と的確な商品提供 (2005/02/23)
−装飾用途の切りバラ−
マーケティングの基本として,「ターゲット市場の設定」があります。切りバラ生産者あるいは花き市場はどのようなターゲット市場を設定しているのでしょうか?私の見る限り,最大公約数としての「最大多数の最大幸福」市場,「万人が好む切りバラ」市場を考えているように思います。しかし,将にこのマーケットの選択こそ,切りバラ輸出国が想定する「ターゲット市場の設定」であるのです。日本国内の切りバラ生産者であるからこそ,日本の消費者の細かなニーズに的確に対応したマーケティング戦略が必要であり,このことが生き残り戦略の選択肢となるものと考えます。
バラの消費を考えると,大きく分けて(1)結婚式やパーティーなどの装飾用途,(2)プレゼント用の花束用途,(3)自家消費などのホームユース用途の3分野に分類できます。
装飾用途は一時的な生花の利用であり,装飾用途の切りバラは将に最大公約数的需要といえます。不特定多数のパーティー参加者が「綺麗なバラ」と感じることが重要で,一般的なバラのイメージが満たされれば,品種にはこだわる必要はありません。当然,鑑賞目的はパーティー時の一過性であることから鑑賞者の思い入れは存在しませんし,花保ちも必要とされません。需要者のニーズは,「いつも見かける普通の綺麗なバラの装飾をして欲しい」という要望であり,装飾業者のニーズは「安定した品質で,いつでも一定量の安定供給」ということができます。バブル景気の頃は,装飾に費やす経費に大きな制限はありませんでしたが,景気が安定している現在では低価格が要求されます。このような消費ニーズを満たすのは,年間安定して生産が可能で,低価格で販売できる韓国,ベトナム,中国などの輸入バラということができます。この消費分野で国内のバラ生産者が対抗するためには,バラの生産に適した地域で,生産性の高い品種(年間切花本数の多い品種)を栽培し,省力化を図って低コスト生産を行い,価格が乱高下する市場でのセリ取引を経ない流通を目指す大規模生産会社の設立が不可欠になります。例えば,5haの生産面積で,赤:1ha,ピンク:2ha,白:1ha,黄色:1haの単品種大量生産を提案することができます。単品種であれば,栽培管理,収穫・選別もかなり効率化することができ,輸入バラに対抗できる低価格での販売が可能となるでしょう。
装飾用途の切りバラには見かけの豪華さもニーズの一つです。エクアドルやケニアのバラは大きくてボリューム感があります。現在は高値需要期にのみ輸出を行っていますが,ともに周年生産国であることから考えると,将来的には周年輸出をしてくる可能性は否定できません。
いずれにしても,このターゲット市場では長期間の花保ちは必要とせず,品質,量ともに安定した低価格がキーワードですので,国内の生産者がこの土俵の上で相撲をとることは極めて難しいと考えます。一般の中規模の切りバラ生産者はこのターゲット市場を目指すべきではなく,むしろ,このターゲット市場を輸入切りバラに明け渡すことを選択することも重要かと思います。すなわち,装飾用途に切りバラがふんだんに使用されることは,切りバラの普及に必ず繋がり,プレゼント用や自家消費などの消費拡大をもたらすと考えます。現在の切りバラ産業の状況を考えると,新規ユーザーを確保することに大きな力を費やすことではなく,リピーターを確保し,リピーターの消費量を増加させることに重点を置くべきでしょう。新規顧客を確保するためのコストは,リピーターを満足させるコストの5倍を必要とします。輸入量の増加は,一時的には大きな影響を受けますが,輸入を阻止する姿勢を取るのではなく,輸入を受け入れた上でそれに対応できる明確なマーケティング戦略を立てることで市場の拡大を図ることが重要ではないかと考えます。
★日本における国際花き生産流通戦略
【19】海外からの切りバラの輸入動向を分析する (2005/02/10)
海外からの切りバラの輸入は1993年の1,110万本から年々増加して2003年には国内流通量の14.3%に相当する6454万本に達しました。それに伴って平均市場価格は1993年の76円から2003年には60円まで低下しました(図1:(財)日本花普及センター)。輸入切りバラの推移から今後の輸入の状況を推測すると(図3),年次と輸入量との間には直線的な関係が見られ,2006年には8,698万本,2010年には国内流通量の24%に相当する1億971万本,2020には37%に相当する1億6,653万本が輸入されると予想されます。海外からの輸入量と平均市場価格との間にも負の相関関係が見られ(図5),輸入本数が1,000万本増加する毎に市場価格は2.6円低下し,2006年には55円,2010年には50円/本,2020年には35円/本に価格が低下し,ヨーロッパ並みの低価格市場に突入する可能性があります。アメリカの例をみると,輸入依存率が40%を超えた段階で国内切りバラ産業が崩壊したことから,輸入バラが国内流通量の37%に達する2020年前後に日本のバラ産業は正念場をむかえると予想されます。現在の平均市場価格の60円は,日本ばら切花協会の経営診断結果からも損益分岐点を超えている可能性があり,経営的に苦しい状況であることは事実であり,予測通りに進んだ場合には間違いなく国内切りバラ産業が崩壊する危機をはらんでいると考えます。
今後の切りバラ産業の将来戦略を考える上で,現在の海外からの輸入動向を分析してみましょう。
国別の輸入の推移を見ると(図2:アーチング研究会),最も多いのがインドと韓国で,韓国は1999年以降,安定して2,000〜3,000万本を輸出しているのが判ります。韓国は,全面的に日本向けの輸出政策をとっており,生産品種もローテローゼをはじめ,日本で評価の高い品種を生産しています。しかし,韓国内の農業補助金の減額によって生産施設面積の増加が鈍化したことに加えて,韓国国内の経済状況の好転もあって,輸出量は減少することはあっても増加することはないものと推定します。インドのバラ生産地は南部高原地帯で,国策による対外輸出促進政策の基,多額の優遇補助金を活用した大規模生産施設が作られ,ヨーロッパと日本をにらみながら対外輸出を行っています。現在,ヨーロッパのバラ市場単価が暴落していることもあって,2001年まで2,000万本で安定していた輸出量が,2002年以降徐々に輸出量が増加しており,2004年には3,841万本となり,1998年から倍増しています。ヨーロッパの切りバラ価格が好転する気配がない状況で,インドからの輸出が今後一定して増加する現象はしばらく続くと考えます。
この2国と比べて輸出量はまだ少ないのですが,ベトナムが1998年以降安定して増加しており,ケニアは1999年以降,中国が2001年以降,エクアドル・コロンビアが2002年以降に急増していることが判ります。ベトナムはラオスとの国境に2000mの高原地帯があり,アジアの亜熱帯高地の特性を持つ国です。過去にフランス統治下にあったことから,資本主義を理解できる国民性で,勤勉,低賃金という国民性からみても,切花国際市場への参入が間近であることを伺わせます。ケニア,エクアドルの最近の輸出量の急増は,上述のインドと同じように,ヨーロッパの切花市場価格の低迷に起因すると推察します。これに対して,中国も同様に2001年以降輸出量を増加していますが,ケニア,エクアドルとは異なる状況があると考えます。これらの輸出国の状況を解析することは,今後の国内切りバラ産業の将来を考える上で重要な課題であると考えます。
輸入切りバラの月別推移を見ると(図4),3月と10〜12月にピークがあることが判ります。日本のバラ平均市場価格の月別推移をみると(図10),2〜3月と12月は年末と卒業式の需要期のため高価格で推移しています。したがって,海外からの切りバラの輸入は需要期を狙った輸出体制がとられていると考えます。
国別に輸出量の月別推移を見ると(図6),インドは3月と10〜12月にピークがみられます。インドの切りバラ生産は亜熱帯高地での周年生産ですので,敢えて高価格需要期を狙った輸出ということができます。これに対して韓国は,類似した2つ山はみられますが,年間を通じて比較的安定した輸出体制をとっています。ベトナム,ケニア,中国についてみると(図7),ケニアはインドと同様,熱帯高地の周年切りバラ生産国ですが,3月と10〜12月に明確なピークを示しており,高価格需要期を狙った輸出戦略をとっています。これに対してベトナムは,韓国と同様に周年輸出体制の国ということができます,中国は輸出量が少ないもののケニアと類似した3月と10〜12月に緩やかなピークを持つ年間推移を示していますが,近い将来,ベトナムのような周年輸出体制をとるものと考えます。コロンビアとエクアドルは輸出量がまだ少ないため,予測が難しいのですが(図8),ヨーロッパとアメリカの市場をにらんだ輸出戦略を見る限りでは,インドやケニアと同じように高価格需要期を狙った輸出戦略を進めるものと推定できます。
以上のことを基に,輸出国を類別すると,高価格需要期を狙う輸出戦略国(インド,ケニア,コロンビア,エクアドル)と周年輸出戦略国(韓国,ベトナム,中国)に分けることができます。日本国内の切りバラ生産の月別推移を見ると,1〜2月と8月に生産量が少なくなりますが,必ずしも価格と連動した生産体系がとられているわけではありません(図9)。したがって,日本の切りバラ生産者にとって,韓国,ベトナム,中国からの輸出本数が増加することは年間を通じて切りバラが輸出され,年間流通量が増加することから,切りバラの年間平均価格の低下をまねくことになると考えます。これに対してインド,ケニア,コロンビア,エクアドルの輸出増加は,高価格需要期に対する影響ということができ,年末や年度末の一時的な需要期の価格が低下する現象として現れるものと考えます。
韓国,ベトナム,中国などの周年輸出戦略国は,明らかに日本市場のみをターゲットとして生産し輸出する国であり,これらの国からの輸出量が増加することは,年間の平均単価が徐々に下がることとなり,ボディーブローのようにジワジワとその影響が現れてきます。日本をターゲットとしたこれらの周年輸出国に対する対応策としては,日本の消費者が国内で生産された切りバラを優先的に選択するための付加価値対策が重要です。消費者が認識できる国内産の有利性を正確に伝える必要があります。例えば,@立て箱流通の徹底による「花保ちの良さ」,A流通システムの効率化による「鮮度の良さ」,B花店との連携を深めた「生産情報の提供」,C花店との連携やアンテナショップを活用した「消費ニーズの把握と的確な商品提供」,D日本国内での育種による「日本のオリジナル品種の普及」,D国内産業としての「バラ生産業界への理解」などです。
これに対して,インド,ケニア,コロンビア,エクアドルなどの高価格需要期輸出国に対する対応策としては,高値販売期がなくても経営できる「生産コストの低減」は主要な対応策と考えます。また,高価格需要期を狙う輸出戦略国の共通点は国際的な切りバラ流通を前提とした輸出国であり,そのいずれもがヨーロッパ,アメリカ市場もにらんだ生産を行っています。したがって,生産されているバラ品種は国際市場で評価されているバラ品種であり,日本国内で評価を受けている品種とは異なるため,国内消費者に対して品種を明示した差別化は効果的な戦略ということができます。一方,年末や卒業式シーズンの需要期の切りバラ価格の低下は,消費者にとって歓迎されると考えます。リーズナブルな価格でバラを購入できた消費者は,それ以外の時期でもバラを購入する可能性は高く,適切な生産コストの低減を図ることができた国内生産者にとって,消費拡大による周年需要が高まる可能性もあります。
先週,エアーリッチ・アーチング栽培研究会に出席して,ケニアの状況を聞く機会がありました。ケニアの切りバラは,オランダ資本による生産会社が多く,ケニア産の切りバラはいったんオランダに輸出された後,オランダ産のラベルで世界中に輸出されているとのことです。2002年の「教授の一言コラム」で書いたことが,実際に行われ始めていることを実感しました。【オランダの国際花き戦略 (2002/07/08)】 関税のかからないアラブ首長国連邦のドバイ空港の近くにアフリカ産の切りバラの国際集出荷センターが建設されるとの話も出てきています。この集出荷センターができると,ケニアは周年輸出国になる可能性があり,国内の切りバラ生産者にとって,大きな驚異になる可能性があります。今こそ,切りバラ生産者は花きの国際化にむけて将来的な戦略を立てる時期に来ているのではないでしょうか。
次回からは,国際化にむけて日本の生産者がとるべき指針について解析していきたいと思います。
★日本における国際花き生産流通戦略
【18】市場の階層分類と戦略
A50〜60歳代のシクラメン戦略 (2005/02/04)
50〜60歳代の女性は子育てが終わり,教育費の呪縛から解放されるため,金銭的な余裕があります。また時間的な余裕もあり,手間をかける園芸に強い興味を持っています。購読している雑誌ベスト5にはNHKの趣味の園芸が上位にあがってきます(インテージ2002年2月調査結果)。
底面吸水シクラメンが導入された1990年以前のシクラメンは潅水のタイミングが難しく,長く楽しむための的確な肥培管理のコツも必要でした。底面吸水シクラメンは購入後の管理の難しさを解消し,多くのシクラメン愛好家を増やした功績は大きいと思います。底面吸水と同時に導入された技術としてホルモン処理があります。ホルモン処理したシクラメンは多数の花が一斉に揃って咲くために出荷時の見栄えがよいため市場での評価も高く,今やホルモン処理は必須の栽培技術の一つといわれています。しかし,ホルモン処理をしたシクラメンは,購入後に新たな花が続けて咲きにくく,シクラメンの日持ちを低下させる原因ともなっています。
50〜60歳代の女性はシクラメンのヘビーユーザーです。しかし,現在シクラメンの主流となっているホルモン処理した5号鉢の底面吸水シクラメンに,50〜60歳代の女性は満足しているのでしょうか。シクラメンの平均市場価格の推移を見ると,これしかないから仕方がなく購入しているものの,次第に不満が蓄積して,買い控えが始まっているのではないでしょうか。
底面吸水シクラメンは管理が容易であることが特徴ですが,時間の余裕があり,「育てる」ことに強い興味を示す50〜60歳代の女性にとっては「物足りない」商品です。できれば自分が管理した証として,大きく育つシクラメンを望んでいます。12月に購入したシクラメンが4月まで咲き続けることを保証する「100日シクラメン(仮称)」という商品はいかがでしょう。敢えてホルモン処理をせず,底面吸水ではない6〜7号鉢程度の商品です。ホルモン処理をしていないので見栄えは少々悪いのですが,恐らくそれが区別性に繋がります。
4月まで咲かせるためには,日当たりを確保するための鉢の置き場所や定期的な施肥,潅水にも気を使う必要があります。適切な温度管理も重要です。「100日シクラメン」には生産者のホームページと商品番号が明記されており,購入者にはホームページから詳細な管理方法を入手すると共に,商品番号を基にメールやファックスで質問することができます。消費者が生産者のことを「私のシクラメンの先生」と感じて,生産者と一体感を持つことで高い商品性を維持できます。
シクラメンを購入したこの年代の女性が必ず一度はチャレンジしていることに「シクラメンの夏越し」があります。一般家庭で夏越ししたシクラメンは,開花期は少々遅れますが球根が一回り大きくなり,開花数も多くなります。私が北大の学生だった頃に10年生のシクラメンがありましたが,尺鉢でそれは見事なものでした。年数を重ねたシクラメンの球根は年毎に球根が大きくなり,開花数が増加します。通常販売されているシクラメンは,播種から出荷まで約1年間で出荷されますが,敢えて2年ものの7〜8号サイズの「100輪シクラメン(仮称)」という商品はいかがでしょう。50〜60歳代の女性は「5号鉢の底面吸水シクラメン」に飽きてきています。栽培期間が長く,大量生産ができないため価格は少々高くなりますが,珍しい豪華なシクラメン,できれば自慢のシクラメンが欲しいと感じている50〜60歳代の女性にはピッタリの商品だと思います。
50〜60歳代の女性は園芸店の主要顧客層です。また,デパートの外商部門を支える主要顧客層でもあります。消費者に的確な情報提供を行い,双方向の情報流通を行うことは日本の生産者だけに許される商品情報戦略です。情報流通を市場に頼らず,こだわりのシクラメン情報を直接消費者に的確に提供する情報戦略は,新たなシクラメン市場の拡大に大きく役立つ戦略だと考えます。
★日本における国際花き生産流通戦略
【17】市場の階層分類と戦略
@超ミニシクラメンのマーケティング (2005/01/31)
シクラメンはポインセチアと並ぶ年末の代表的な鉢花で,12月の花き市場はシクラメンで覆い尽くされます。しかし,生産量の増大に伴って価格は年々低下する傾向にあります。また,昨年11〜12月にかけて中国からの輸出が始まり,いよいよ国際化の波が押し寄せ始めています(ついに始まった!中国からシクラメンの輸出(2004/12/23))。シクラメンの価格が低下している原因は色々と考えられますが,(1)底面吸水の普及に伴う生産量の増大があります。1985年頃に始まった底面吸水栽培の普及で栽培技術が簡単になり,商品需要を超えた普及品が大量に生産されたことをが挙げられます。(2)F1の登場と高冷地での早出しも原因の一つです。高冷地で生産されたシクラメンはまだ高温の続く10月から販売され,消費者が購入後,耐暑性がないため枯れ上がり,年末の需要期を前に,消費者の購入意欲が低下してしまいます。(3)ガーデンシクラメンの登場は鉢花としてのシクラメンの価値を低下させました。特に小鉢のミニシクラメンとの区別性がなくなり,シクラメン全体の価格低下を招きました。(4)育種の速度が遅く,新品種の導入が少ないことも原因の一つです。1980年以降に急速に始まった固定種からF1種,パステル系などの導入が一段落した後,新たな品種の登場がなく,また生産段階では認識されている品種名が流通の過程で認識できなくなり,消費者が品種を区別できなくなっています。(5)シクラメンを購入する消費者層が固定してきて,新たな市場の開拓を怠ったことも原因の一つです。
シクラメンの6号鉢の価格の推移を見ると(PDF file),バブル崩壊の影響を受けて,1992年以降価格が低迷し始め,徐々に低落していることが判ります。すなわち,市場が成熟し,マーケティングの導入が不可欠であったと見ることができます。また,生産数量と市場価格の関係を見ると(PDF file),生産量が増加するに従い価格が低下しており,過剰生産による価格の低迷の様相を呈しています。
園芸店のシクラメン購入者を分析すると,50〜60歳代の女性が中心で,20〜30歳代の女性はほとんど購入せず,同様に男性の購入者は皆無に等しいとのことです(岐阜市長良園芸安藤正彦氏談)。顧客層が固定し始めた成熟市場では,消費者の階層分類を行い,新たな商品開発が必要です。
市場の階層分類を行って商品開発を行っている事例として自動車産業を挙げることができます。トヨタはカローラ,パッソ,プリウス,クラウン,セルシオなど多数の車種を販売していますが,明確な顧客層の分類を行い,ターゲットを絞った商品提供を行っており,それぞれの車種で購入者の年齢,年収,生活感を想像することができます。年齢毎の階層分類を行い,シクラメンの商品開発戦略を考えてみましょう。
20歳代は「独身で,マンションに住み,昼は部屋に不在で,管理技術低く,感動・癒し商品に対する興味が高い」といった特徴があります。2000年頃に岐阜県でも「超ミニシクラメン」が生産・販売されたことがあります(写真:農林漁業現地情報・長野版より)。場所を取らず,狭いマンションのテーブルに置いて楽しむ20歳代にピッタリの商品だ感じました。しかし,外観の商品性は高かったのですが,「栽培管理技術が低い」20歳代には管理できない商品であったと考えます。すなわち,鉢が小さく頻繁に潅水・施肥が必要であるにもかかわらず,底面吸水ではないため,見た目以上に管理が難しい商品であり,顧客ターゲットの20歳代に適合しなかったものと考えます。また,鉢は素焼き鉢に似せたプラスチック鉢で,店頭に並ぶミニ観葉(写真:三浦園芸)と比べると20歳代の感性に合わない商品性でした。
20歳代の女性の花の購入先を考えてみます。園芸店の顧客層は40歳以上で,ホームセンターは30歳以上です。20歳代の女性は,例えば東急ハンズやロフトなどのインテリアショップ,プランツ・プランツなどのファンシーショップなどで花を購入しています。これらの販売店は花き市場では花を購入せず,直接生産者との取引をしています。したがって,20歳代が顧客層ではない園芸店やホームセンターが主要買参人である花き市場では超ミニシクラメンを評価することができないため,商品価値に見合った価格を提示することができず,生産者の意欲が低下して,最近では超ミニシクラメンを見かける機会がほとんどなくなりつつあります。
商品を開発する場合に,顧客ターゲットを絞り,マーケティングを行って顧客ニーズを分析し,的確な流通経路を開拓する必要があります。この点で,超ミニシクラメンはそのいずれもがかけていたため,高い商品性を持ちながら普及できなかったものと考えます。
国際化のなかでの国内販売戦略を考える場合に,顧客ターゲットを絞って商品開発を行い,的確な流通経路を開拓することが重要であると考えます。
★日本における国際花き生産流通戦略
【16】海外からの輸出を防いだローテローゼ (2005/01/25)
日本国内で最も多く販売されているバラの品種は“ローテローゼ”です。浅見均氏が1992年に登録した品種で,日本が誇る赤バラの代表品種です。その栽培面積は切りバラ総栽培面積の18%を占めており,赤バラに限ると全国で栽培されている赤バラの63%がローテローゼです(2003年花き需供調整協議会資料)。この品種は花店の需要が高く,品種登録されて15年近くになるにも関わらずロングセラーを続けています。
バラは国際流通される農産物の一つで,世界的にみると,アメリカに対してはエクアドルやコロンビアが,ヨーロッパに対してはケニアなどの東アフリカ諸国やイスラエル,インドが,日本へもインドや韓国,中国などが生産・輸出しています。
アメリカの切バラ流通量の85%以上が海外からの輸出切りバラで占められており,ヨーロッパについても40%以上がEU圏外から輸出されている現状です。これに対して,日本市場に占める輸出切りバラの割合は15%程度でとどまっています。日本のバラの市場平均単価は60円(2003年フラワーデータブック)で,2004年のヨーロッパ(Aalsmeer Flower Auction)の平均単価37円(Holland Web社)と比較しても,世界で切りバラ価格が最も高い国といわれています。しかし,南米やアフリカなどの輸出切りバラ生産国からの輸出攻勢がアメリカやヨーロッパに比べると格段に少ない状況です。この原因の一つとして,日本での“ローテローゼ”の寡占状況があると考えます。
輸出用バラ生産国は輸出相手国で最も売れている品種を生産して輸出します。ヨーロッパ向けの輸出国であるケニアが栽培している品種の86%はヨーロッパで育成された品種です(ドイツ50%,オランダ22%,フランス14%)。その理由は,ヨーロッパ最大の花き市場であるAalsmeer Flower AuctionとFloraHollandで取引されている主力品種を生産・輸出しているからです。
赤バラは国際的にみて切りバラの主力商品です。日本の赤バラの主要品種は“ローテローゼ”ですが,この品種はヨーロッパやアメリカではまったく評価されておらず,輸出用切りバラを生産している国で“ローテローゼ”を生産しているのは,日本を唯一の輸出相手国と考えている韓国だけです。ヨーロッパを輸出相手国として考えているケニアやインド,そしてアメリカを輸出相手国としているエクアドルやコロンビアでは,日本でしか販売できない“ローテローゼ”を生産することは,大きな危険を冒すことになります。したがって,これまでエクアドルやインドが日本への輸出量を増やせなかった理由の一つとして,日本で育成された“ローテローゼ”が日本国内の主力品種で赤バラの63%を占めていることを挙げることができます。
しかし,近年日本国内での“ローテローゼ”のシェアが徐々に低下し始めており,オランダで育成された品種が日本国内でも増加し始めています。オランダは国際的な育種戦略を進めている国であり,ヨーロッパやアメリカで販売されている主力品種がオランダ育成品種に置き換わろうとしています。オランダで育成された品種は国際品種であり,ロイヤリティーを支払えば世界中のどこでも生産することができます。日本国内でオランダの品種が増加することは,その品種を生産している切花輸出国にとっては,ヨーロッパやアメリカに加えて,日本も輸出対象国に加えることができることになります。
海外からの輸出に対して脅威を感じる日本国内の切りバラ生産者が,自ら率先して海外の品種を生産し,国際市場への道を開いていくことが「日本の切りバラ国際戦略」として適切であるのかを再度認識する必要があると考えます。これまで“ローテローゼ”が海外からの輸出攻勢の壁となり,日本国内の切りバラ産業を支えてきたことを再認識し,日本国内での育種を一層発展させることは,重要な「日本の切りバラ国際戦略」の一つであることは間違いないと考えます。
日本国内での育種を積極的に進め,日本国内で流通するバラ品種に占める国内育成品種の割合を高めることは,国際切りバラ生産流通戦略の重要な方策だと思います。
★恐れるより相互補完を(朝日新聞2003年1月29日社説より) (2005/01/17)
記事としてはチョット古いのですが,今でもこの社説は生きていると思いますし,花き業界においては,さらに一層加速するべき状況にあると思います。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
昨年の日本の貿易統計で、中国からの輸入が長らく首位だった米国を抜いて、初めてトップになった。
日用雑貨から工業製品まで割安な中国製品が日本中にあふれている。中国経済の脅威論が叫ばれ、「中国発の世界デフレ」を防ぐために、人民元の切り上げを求めるべきだという議論が盛んだ。
中国からの輸入額は、日本の国内総生産(GDP)の2%弱だ。日本のデフレの責任をすべて中国に押しつけるわけにはいかない。とはいえ、低価格の中国品が世界の価格水準を押し下げ、デフレ傾向の原因の一つになっている。
中国の昨年末の外貨準備高は1年前に比べ700億ドルもふえた。貿易で稼いだドルを売らずに、元との交換レートを維持しているためで、それがなければ大幅な元高になるとの見方もある。
中国のような新興の工業国にとって、輸出を鈍らせる通貨の切り上げは、国内の抵抗が大きい。だが、原油などの輸入も増えており、長い目で見れば中国にとっても元安が有利とばかりは言えないだろう。
中国を説得して、通貨の切り上げを受け入れさせるには、主要国首脳会議(G8サミット)などに加えて、世界との協調を求めるのも一案ではないか。
近代の歴史をみれば、19世紀後半には、新興工業国の米国やドイツが「世界の工場」といわれていた英国を脅かし、20世紀の後半には一時、日本製品が米国の市場を席巻した。中国が世界の経済地図を将来塗り替える可能性があるのは確かだろう。
「世界の工場」であると同時に、中国は消費意欲の旺盛な「世界の市場」になってきていることも忘れてはならない。日本の輸出先としても、米国に次ぎ2位だ。昨年の伸び率は前年比32%で、輸入の伸びの10%を上回っている。
中国は東南アジア諸国連合(ASEAN)との間で自由貿易協定の締結を呼びかけている。日本も場当たり的に中国品の輸入制限をしたり、元の切り上げを声高に叫んだりするだけでなく、将来を見据えた月中関係の構図を描く必要がある。
いまのところ、日本企業が中国と競合しているのは技術力の低い分野で、ハイテク製品では日本がまだまだ優位に立っている。日本が中国と競合する分野は20%弱で、ほかのアジア諸国に比べれば、その比率は低いとの試算もある。
付加価値の高い製品を欧米だけでなく、中国市場にも輸出する。一方、労働集約的なものは、現地生産を含め中国からの輸入を増やしていく。生産拠点としても消費市場としても、中国を生かすことだ。
そのためには、日本が技術力を絶え問なく向上させて新分野を開拓し、中国の先を歩み続けなければならない。「言うは易く、行うは難し」だが、相互補完の関係を築き、それを維持していくしかない。
酉年の年頭に当たって、メール年賀状を作成いたしました。ご覧下さい
PDF files