NEVADO ECUADOR
Latacunga, Cotopaxi, EQUDOR
【切りバラ生産】
2008年9月22日にJFMA(日本フローラルマーケティング協会)主催のエクアドル・コロンビア視察でNEVADO ECUADOR社を訪問しました。
NEVADO ECUADOR社はエクアドルの首都キト市の南140kmのCotopaxi州Latacunga市の南25kmにあり、標高は2,756mです。生産面積は40haで、従業員は600人、生産品種はRed Intuition、Anastasia、Bella Vita+、Forever Young、Gold Strike、Titanicなど42品種です。年間総生産本数は4000万本です。
NEVADO ECUADOR社の成り立ちは、1965年に創業者のRoberto Nevado氏がスペインから移住したことから始まります。当初はブロッコリーの生産・輸出から始まりました。アメリカのバラ産業の崩壊とエクアドルからの切りバラの輸出の急増が起きた1990年代にアメリカの投資家からの誘いを受けて1998年からバラ生産を始め、NEVADO ECUADOR社が設立されました。
NEVADO ECUADOR社は、エクアドル国内で生産環境対策や従業員の雇用環境改善に積極的に取り組んでいる企業で、MPS-A、MPS-GAP、ISO9001、FLP、MAX HAVELLAAR、FLORECUADOR、BASC、VERIFLORA、FFP、EcoCert Organic、Rainforst Allianceの10種類の国際認証を受けています。
事務所はきれいで、さすが国際的な切花生産会社だと思いました。
事務所に展示されていたバラはいずれも驚くばかりの巨大輪のバラです。写真のタバコケースと比べて、大きさが実感できると思います。
なかでもRed Intuition、Forever Young、Red Intuitionの3品種はアメリカでSix-Foot Rosesと呼ばれ、2mを超す超長切花で、私自身、2006年のIFEXで展示されたRed Intuitionに驚きました。Six-Foot Rosesと呼ばれる2mを超す超長切花は、株基のベーサルシュートが成長したものです。収穫はベーサルシュートを根本から切り取って収穫されます。超長切花は専用の出荷箱に入れて輸出されます。輸入した会社では、この箱を見てキット驚くでしょうねぇ・・。
Red IntuitionはNEVADO ECUADOR社がSix-Foot Rosesで国際的に有名になるきっかけを作った品種で、主にアメリカに輸出されています。2007年のアメリカ輸出本数は10万本に達しています。1997年に定植された11年目の株が現在も栽培されていました。
養液土耕(セミハイドロポニックシステム)では、土壌改良が積極的に取り組まれており、鶏糞の混入や、もみ殻、燻炭などが層状に施与されていました。
ポットによる養液栽培では、培土にもみ殻、バークチップ、パミスなどが用いられており、日射量センサーによる潅液管理が行われていました。
エクアドルは12〜4月の雨季以外はほとんど雨が降らないため、雨水を回収して貯水槽に溜めています。貯水槽は施設全体で20万tの貯水能力があり、3ヶ月分の潅水能力を持っているとのことです。
ポットでの養液栽培では、環境に配慮した廃液を回収する養液循環方式を取っており、回収された養液は濾過、UV殺菌、イオン交換樹脂での余分なイオンの除去が行われた後、再利用されます。
収穫前のバラで、中国でよく見かけた蕾ネット(フラワーキャップ)が使用されていました。中国では輸送中の花弁の傷みを予防するために使われていますが、NEVADO ECUADOR社では夜間の保温効果を目的に使用されていました。
採花は基本的に朝行われます。採花したバラは収穫ネットに包んで通路を移動できる網ケースに入れられ、その後すぐにプラスチック箱に入れ、プラスチック箱ごと前処理剤(殺菌剤)溶液の入ったコンテナに入れます。コンテナごと搬送コンベアに乗せて搬送レールで採花後20分以内に集花場に運ばれます。
バラの切り前を7段階に区別して収穫していました。切り前は輸出国ごとに好みが異なっており、アメリカ向けは固めの2段階で出荷、ロシアは切り前4で出荷するとのことです。切り前表はホームページでも公開されており、生産温室でも従業員が区別できるように掲示されていました。
採花ブロックの採花担当者が決められており、採花ステージの間違いや圃場ブロックの清掃などについて勤務評価が行われます。圃場の清掃は、経営者のポリシーで徹底されている。「栽培圃場が生産会社の基本であり、生産圃場の整備の徹底は生産会社としての責任感の表れである」
病害虫の発生がみられた場合には、採花ブロック担当者が病害虫の種類で分類された色テープ(灰色カビ病は灰色のリボン、アザミウマは青色のリボンなど)を畝の通路に貼り付けておくと、病害虫管理グループ職員がそのテープを目印に防除を行います。
農薬散布した生産温室には、薬剤の種類、対象病害、散布日時、入室可能日時などが記載されたボードが掲示されており、従業員の農薬中毒に対する配慮が行われていました。
ちなみに劇薬に指定されている農薬で、日本ではバラでの使用は認められていません。
左写真 使用薬剤:KARATE
成分名:LAMBDA-CYHALOTHRIN
濃度:0.8ml/リットル
気温:17℃
農薬分類:V
散布日:2008年9月22日
散布開始時刻:午後12時15分
散布終了時刻:午後12時35分
散布実施者:Martes
入室可能日時:2008年9月23日午前6時30分
対象病害虫:アザミウマ
【注 : 国連危険物分類 6.1】
(体内への摂取や吸入、皮膚との接触によって、人体に重大な障害を起こし、人を死亡させ、または健康を害する物質)
集花場では、搬送レールで温室から運ばれた切花を品種ごとにまとめて選花場に運ばれます。
集荷場では、植物検疫用の切花に対して特別な消毒処理が行われていました。花束全体を3種類の液体に漬け込みます。最後に花の部分だけを白色の薬剤に漬けて処理します。最後の薬剤は、恐らく花のなかに潜むアザミウマに対する殺虫剤ではないかと思います。
選花場では蕾の大きさと開花ステージで7段階に選別され、さらに下葉を除去して長さで選別されます。日本では長さの選別を台の上で寝かせて行いますが、花の痛みを防ぐために立てて選別されていました。
選別された切花には選別した従業員の番号シールが貼られ、最終出荷箱には選別した従業員の氏名として印刷されて輸出されます。これによって、輸出後のクレームに対する責任の所在が明確に取られることになります。
束にまとめられた切花は3℃に制御された冷蔵庫に搬入されます。これ以降のラッピングや輸出用の箱詰め、梱包などの作業はすべて冷蔵庫内で行われます。
冷蔵庫には搬出窓が作られており、この搬出窓から保冷トラックに直接積み込まれます。
選花場の脇には日保ち試験用の切花が展示されていました。
集花場に持ち込まれたプラスチックケースは、集花場で洗浄されて再び生産温室に戻されます。
NEVADO ECUADOR社は南緯1度07で標高2756mにあるため気温はほぼ年中一定しており、日平均気温15℃、最高気温22℃、最低気温7℃であることから、生産温室内の最高気温は28〜30℃、最低気温は7℃程度になると推定できます。バラからの蒸散量はかなり大きいことから、夕方からの気温の低下に伴う病気の発生や昼の気温の上昇による害虫の発生は大きなものと思われ、殺虫剤や殺菌剤などの農薬の使用は不可欠です。
NEVADO ECUADORではトウガラシやニンニクエキスによる害虫の予防や鶏糞を活用した有機栽培による耐病性の向上など、農薬に極力頼らない生産技術の開発に努めていました。また生産温室のサイドと天窓には防虫ネットを張って害虫の侵入を防ぐ努力がされていました。
しかし随所に防虫ネットの破れや脱落があり、また害虫の発生をチェックするための青色の誘因粘着シートが随所に設置されていましたが、シートには害虫数を計数出来ないほど付着していて、実際には発生チェックはほとんど行われていないようで、経営者の意図が必ずしも現場に行き渡っていない感じを受けました。
集花場の作業は40名で行われており、選花場は20名で行われていました。従業員は制服を着用しており、制服の色によって管理者や作業者などの役割が判るようになっていました。
従業員の雇用環境の改善に関しては、Fair TradeやMax Haavarなどの認証を受けています。従業員の福利厚生は充実しており、従業員専用の託児所が設置されており、立派な食堂が整備されていました。NEVADO ECUADORの従業員食堂の食事は美味しいと評判とのことでした。従業員用のトイレも充分な数が設置され、きれいに清掃されていました。
発展途上国企業の現地従業員に対する福利厚生に対する関心はヨーロッパでは強く、例えば「スイスのスーパーで切花を販売するためには、Fair Tradeの認証取得義務が課せられていますが、実際上はFair Tradeの認証を受けていない切花を消費者が購入に当たって選択しないためにやむを得ずFair Trade認証を受けざるを得ない状況となっている」とのことでした。消費者が商品購入のための選択基準として人権保護を受け入れている社会環境だからこその認証取得といえ、ビジネス戦略の一環ということもできます。
これに対してNEVADO ECUADORの販売先の一つであるアメリカは、ヨーロッパのような社会環境に達していないこともあって、NEVADO ECUADORの今後の展開に興味が持たれます。
NEVADO ECUADORはMPS-AとMPS-GAPの認証を受けています。この2つの認証制度は地球環境に配慮した生産環境の改善が義務付けられており、この認証を維持することは日常的な労力を必要とします。一例として、生産温室の各所にはリサイクルと非リサイクルのゴミ箱が設置されており、従業員の意識向上が図られていました。また、バラの生産は養液土耕やポット隔離栽培で行われていますが、それらは廃液回収システムが導入されていました。
従業員の雇用に当たって、障害者の雇用に関しても積極的に対応が行われていました。
従業員の給料は、エクアドル国内法で決まっている200$/月を支払っています。この数年間で給与法が次々と改訂されて50$→100$→200$と倍増したため、経営が圧迫しているとのことでした。
生産量は、20万本/日で、年間4000万本を輸出しています。近年の切りバラ国際価格が低迷しており、創業当初は100¢であったものが現在は40〜50¢にまで価格が下落しており、人件費高騰と相まって経営を圧迫し始めているとのことです。
NEVADO ECUADOR社の収益を単純に見るために、切りバラ平均単価を40¢/本として年間4000万本の生産力から換算すると、年間売上高は約20億円になります。坪当たりに換算すると330本/坪で、売上げは18000円/坪になります。
人件費は、600人×22,000円(200$)×12ヶ月=1億5,840万円で、福利厚生費を同額、管理職手当などを勘案して4億円程度と推定され、全体の20%程度が人件費関係ということができ、それ程大きな割合とは言えないものと思います。経営を圧迫しているのは、人件費以外の農薬、肥料などの高騰や航空運賃の高騰による輸出経費の上昇も大きな影響を与えていると考えます。
NEVADO ECUADOR社の輸出先としてアメリカの占める割合が大きいことから、近年のサブプライム問題が引き起こした景気低迷による高級バラの消費停滞も大きいと思います。