薬理病態学分野 国立大学法人 東海国立大学機構 岐阜大学大学院 医学系研究科・医学部

薬理病態学分野 ロゴ

研究内容

量子医療で、人と社会にやさしい未来を

Quantum Medical Technologies for People, Health, and Society

研究室のコンセプトイラスト。地球の弧のように広がる風景の中に、都市、海と漁船、学校、病院、研究室、家族連れ、高齢者、車椅子の人など多様な暮らしが描かれ、その上をピンク〜マゼンタの矢印付きの球(量子スピン)が点在して横切る。球に乗る人や寄り添う人がいて、量子技術が医療や日常を支える基盤として社会に広がる様子を表している。

イラスト:スペースタイム株式会社

イラストについて

大きく見る(別タブ)

このイラストは、私たちの研究室が取り組む量子医療研究が、人や社会の未来にどのようにつながっていくのかを、ひとつの風景として表現したものです。手前に広がる緑の道は、量子技術を医療に応用する研究の先に見えてくる、より明るく人にやさしい未来を示しています。ピンク〜マゼンタの球で描かれた量子スピンは、私たちが研究の中核として扱っている量子の性質を象徴しています。人々が量子スピンに乗ったり、その周囲に浮かんだりする姿は、量子技術が理論や装置にとどまらず、医療や日常生活を支える基盤技術として社会に広がっていくことを表しています。子どもから高齢者まで、さまざまな人々が同じ空間に描かれているのは、量子医療がすべての人の健康と社会に寄り添う技術であるという、私たち研究室の思いを示しています。私たちは、量子技術を人と社会に開かれた医療技術へと育てていく研究を進めています。

薬理病態学分野では、量子超偏極イメージングと呼ばれる新しいMRI技術を用いて、これまでの形態的な画像診断から機能・代謝に基づく診断や薬の評価を目指した研究を行っています。近年、これまでの原子や分子といったナノサイズを取り扱う分子生命科学から、より小さい電子や陽子などの量子を用いて生命を議論する量子生命科学が着目されており、量子技術により、従来不可能であった極微少環境の計測や、超高感度化など革新的な技術の創出や新たな産業を生み出すことが期待されています。私たちは、量子技術を使って私たちの体の中で細胞がどう働いているか、病気になったときはどのように変わるのかを見ることができるイメージング技術の開発をしています。特に、様々な病気への関与が知られている酸化還元(レドックス)状態を可視化する方法の開発や、体内の代謝をリアルタイムに検出する方法の開発に挑戦しています。これらの研究を通じて、がんや生活習慣病などについて、新しい診断・薬効評価法へ展開することで医療や健康寿命の進展に貢献したいと考えています。

Theme 1量子イメージング

病気の早期検出・薬効評価に役立つ量子超偏極技術の開発

in vivo DNP-MRI ― 生体内のレドックス状態を“見える化”する技術

in vivo DNP-MRIは、マイクロ波を用いたオーバーハウザー型DNP(動的核偏極)により、MRI信号を高感度化するイメージング技術です。ニトロキシルラジカルなどの電子スピンプローブや電子伝達体を利用することで、生体内で起こる酸化還元(レドックス)の状態やその変化を、体を傷つけることなく画像として可視化・解析することができます。レドックス状態は、ミトコンドリア機能や酸化ストレス、エネルギー代謝などと深く関わっており、さまざまな疾患の発症や進行に伴って変化します。in vivo DNP-MRIは、こうした通常のMRIでは捉えにくい生体内の機能変化を早い段階で検出できる可能性があり、将来的には疾患の早期診断や、治療・薬剤の効果を早期に評価する技術としての応用が期待されています。

解説動画:DNP(動的核偏極)でMRI信号を増幅するしくみ / 約47秒・音声なし

量子の力で、からだの「はたらき」を見る。

私たちの研究に共通する土台が、DNP(動的核偏極)です。電子スピンの整った状態を原子核へ移すことで、MRIの信号を桁違いに大きくします。この動画では、その原理と、実際に腎臓のレドックス(酸化還元)を画像化した例をご覧いただけます。

解説動画の内容をテキストで読む(音声なしの映像です)

約47秒の無音アニメーション。①通常のMRIでは、体内の核スピンの向きがばらばらで、1.5テスラの磁場の中で揃うスピン(相殺されずに信号となるスピン)はごくわずかしかないことを示します。②そこで、電子スピンを持つフリーラジカル機能造影剤(ニトロキシル造影剤)を体内へ投与します。③マイクロ波を照射して電子スピン共鳴を起こし、電子スピンの整った状態を周囲の水分子の原子核へ移します(DNP=動的核偏極)。④相殺されないスピンが劇的に増え、MRIの信号が大きく増幅されます。⑤投与されたニトロキシルラジカルは、組織のレドックス反応によって次第に消えていくため、DNPによる画像も時間とともに薄れていきます。⑥この消えていく速さを画素ごとに計算することで、体内のレドックス代謝を画像として捉えられます。⑦最後に、正常な腎臓と急性腎障害モデル(AKI)の画像が並べて示され、両者でレドックスの状態が明らかに異なることが分かります。

Dissolution DNP-MRI ― SpinAlignerで代謝を高感度に見る

SpinAlignerは、Dissolution DNP(溶解型動的核偏極)によって、13C、15NなどのMRI信号を大幅に増強する超偏極装置です。試料を極低温・強磁場下に置き、マイクロ波を照射することで電子スピンの高い偏極を13Cなどの核スピンへ移し、通常では非常に弱いMRI信号を一時的に大きく増幅します。

私たちは、この技術を13C標識ピルビン酸などの分子に応用し、SpinAlignerで超偏極した試料を溶解した後、生体へ投与してMRIで撮像します。これにより、例えばがん特有の代謝によりピルビン酸が乳酸などへ変換される体内の代謝反応を、リアルタイムかつ非侵襲的に捉えることができます。

下の解説動画では、SpinAlignerによる超偏極から、試料の溶解・投与、13C-MRIによる代謝イメージングまでの一連の流れを装置レベルで再現しています。

解説動画:Dissolution DNP-MRI ― 超偏極から代謝イメージングまで / 約95秒・音声なし

解説動画の内容をテキストで読む(音声なしの映像です)

約95秒の無音アニメーション。①13C標識ピルビン酸に、不対電子をもつトリチルラジカル(OX063)を混ぜて急速凍結します。②超偏極装置SpinAlignerの中で、極低温・強磁場のもとマイクロ波を照射し、電子スピンの高い偏極(約94%)を13C核へ移します(Dissolution DNP)。信号は約10万倍に増強されます。③偏極が失われる前に試料を溶解し、④超偏極13C-ピルビン酸溶液をシリンジで吸い取って小動物用MRI(MR VivoLVA)のそばへ運びます。⑤麻酔下のマウスに尾静脈から投与し、ベッドごと磁石ギャップ(搬入口)へスライドさせて計測を始めます。⑥体内では酵素によりピルビン酸が枝分かれして変換されます:LDHで乳酸(がんで亢進するWarburg効果)、ALTでアラニン、PDHで重炭酸へ。⑦13Cスペクトルを連続取得すると、ピルビン酸(170.2 ppm)が減り乳酸(183 ppm)が立ち上がる様子が捉えられます。⑧CSI(各画素がスペクトルをもつ撮像法)により「どこで」代謝が起きたかを画像化すると、腫瘍では乳酸への変換が高いことが分かります。がんの悪性度評価・治療効果の早期判定への応用が期待されています。

Theme 2レドックス可視化

様々な病気を生体内の酸化還元(レドックス)状態で視て評価する

細胞のエネルギー工場“ミトコンドリア”の変化を見える化する

ミトコンドリアは、細胞が生きていくためのエネルギーをつくるだけでなく、活性酸素の生成や酸化還元(レドックス)反応を制御する、細胞内の重要な中枢です。ミトコンドリアの機能が乱れると、エネルギー代謝やレドックスバランスが崩れ、過剰な活性酸素の産生などを引き起こします。こうしたミトコンドリアの異常は、がん、心血管疾患、代謝疾患、神経・筋疾患、加齢に伴う疾患など、さまざまな病気の発症や進行に深く関わっています。

私たちは、DNP(動的核偏極)をはじめとする量子超偏極技術を活用し、これまで体の外から捉えることが難しかったミトコンドリアのレドックス反応や代謝機能を高感度に可視化・解析する研究を進めています。これにより、ミトコンドリア機能の変化を病気の早い段階で捉え、ミトコンドリア関連疾患の早期評価や、治療・薬剤の効果判定につなげることを目指しています。

いま画面で起きていること 食べ物から取り出された電子が、ミトコンドリア内膜の複合体Ⅰ→Ⅲ→Ⅳへとバケツリレーのように渡され、最後は酸素と結びついて水になります。その勢いで水素イオンが膜の外へ汲み出され、戻る流れがATPを作ります。この電子の受け渡しこそがレドックスであり、こぼれた電子は活性酸素の原因になります。
停止中 全画面で見る(別タブ)
このアニメーションの内容をテキストで読む

全11ステップのガイドツアー。①ミトコンドリアと解糖系(細胞質)→②ズームイン:ミトコンドリアの中へ →③電子伝達系の全体像 →④複合体Ⅰ(NADH脱水素酵素)→⑤複合体Ⅱ(コハク酸脱水素酵素)→⑥ユビキノン(Q)とQサイクル →⑦複合体Ⅲ(シトクロム bc1)→⑧シトクロム c による輸送 →⑨複合体Ⅳ(シトクロム c 酸化酵素)→⑩プロトン駆動力(電気化学勾配)→⑪複合体Ⅴ(ATP合成酵素)。複合体Ⅰ・Ⅲでは電子の一部が酸素へ漏れて活性酸素が生じます。複合体Ⅰ〜Ⅴの形は、実際に測定されたタンパク質の立体構造(PDB)にもとづいています(操作パネルのチェックで従来の模式的な表示にも切り替えられます)。

Theme 3診断・薬効評価

光で分子の信号を増幅して、新たな分子機能の評価へ応用

光で分子の信号を増幅して生体機能を視る ― CIDNP(化学誘起動的核偏極)

CIDNP(Chemically Induced Dynamic Nuclear Polarization:化学誘起動的核偏極)は、化学反応の過程で生じる電子スピンの性質を利用して、NMRの信号を大きく増強する量子技術です。

私たちは特に、光を照射することでCIDNPを誘起する photo-CIDNP の研究を進めています。光を吸収した光増感剤と標的分子との間に一時的なラジカル対が形成されると、その電子スピンの状態によって化学反応の進み方にわずかな違いが生じます。この「スピン選択的な反応」を利用することで、標的分子の核スピンの向きを偏らせ、通常のNMRでは非常に弱い信号を大きく増幅することができます。

いま画面で起きていること 光をあてると、ビタミンB2の仲間(FMN)と抗がん剤5-FUのあいだで電子が移り、2つの「ラジカル」が対になって生まれます。この対の電子スピンの向きが混ざり合い、どう分かれたかによって原子核の磁石の向きが大きく偏ります(CIDNP)。結果として、ふつうより桁違いに強いNMR信号が現れ、薬が体内でどう反応したかを追う手がかりになります。
停止中 全画面で見る(別タブ)
このアニメーションの内容をテキストで読む

全8シーン。①光でFMNが励起される →②項間交差(ISC)で三重項状態になる →③5-FUから電子を奪い、ラジカル対が生まれる →④2つの電子スピンの一重項と三重項が混ざり合う(S–T0混合) →⑤対の運命が分かれる(再結合するか、離れて自由になるか) →⑥その分かれ方が原子核のスピンの向きに偏りを残す →⑦19F NMRで、通常より強い吸収・放出のピークとして観測される →⑧どちらに偏るかはKaptein則で予測できる。

測りたいものに合わせて、装置と部品を自分たちで設計する

磁気共鳴の測定では、対象や目的が変わるたびに、必要な装置や部品も変わります。市販品ではどうしても届かないところがあるため、私たちはMRI・DNP-MRIの磁石や高周波コイル、組み立て治具といった機器・備品を自分たちで設計し、試作しています。設計に使う計算ツールも自作し、形や寸法を決めるところから手がけています。

ハルバッハ型磁石の配置設計図。円周上に並べた16個の角柱磁石それぞれの磁化の向きを矢印で示し、中央に一方向の磁場B0ができることを表している。
ハルバッハ型磁石の3次元配置と、中心にできる磁場の均一な領域を色で示した図。
3Dプリンタで製作した磁石組み立て用の治具リング。磁石を差し込む角穴が円周上に並んでいる。
in vivo DNP-MRI用サーフェイスコイルの3次元イメージ。銅の1ターンのループを樹脂のホルダに収め、同調と整合のトリマを載せた基板へ銅線でつなぎ、同軸ケーブルが伸びている。

順に 磁石の配置設計/磁場の均一領域/3Dプリンタ製の組み立て治具/in vivo DNP-MRI用サーフェイスコイル

参考もっと知りたい方へ

ニトロキシルラジカルとマイクロ波 ― DNPの原理を3Dで

Theme 1 の解説動画に登場したニトロキシルラジカル(TEMPO)が、マイクロ波の照射によって水の水素原子核(1H)を超偏極させるしくみを、分子レベルの3Dアニメーションで詳しく見ることができます。

いま画面で起きていること 不対電子をもつニトロキシルラジカルにマイクロ波を当てると、電子スピン共鳴が起こり、電子の整った偏極が周囲の水分子の1H核へ移ります(オーバーハウザー効果)。これがin vivo DNP-MRIの信号増幅の心臓部です。
停止中 全画面で見る(別タブ)
このアニメーションの内容をテキストで読む

全9場面。①主役は安定ラジカルTEMPO。N–O部位に不対電子を1個もち、周囲を水分子が取り囲みます。②電子スピンと1H核スピンはそれぞれ磁場中で歳差運動をしています。③ここに電子スピン共鳴の周波数に合わせたマイクロ波を照射すると、電子スピンの分布が飽和します。④電子と1H核の間で交差緩和(W2経路)が働き、⑤電子の大きな偏極が水の1H核へ移されます(オーバーハウザー効果)。⑥その結果、水のNMR/MRI信号が通常の数十〜百倍以上に増幅され、符号が反転します。⑦アニメではEPRスペクトル・偏極の移り変わり・NMR信号の変化を並べて確認できます。⑧⑨最後に、この原理がin vivo DNP-MRIとして生体のレドックス画像化に使われることを示します。

レドックスプローブの使い分け ― TPL・CmP・CxP

私たちが研究に用いるニトロキシルプローブは1種類ではありません。細胞膜を通れるもの・通れないもの、還元されやすいもの・されにくいもの——プローブごとの「反応の場」の違いを使い分けることで、血管内・細胞内・組織のどこでレドックス反応が起きているのかを見分けられます。その考え方を3Dアニメーションでご覧いただけます。

いま画面で起きていること TEMPOL(TPL)は細胞膜を通り抜けて細胞質で速やかに還元され、Carbamoyl-PROXYL(CmP)は細胞内に入っても細胞質では還元されずミトコンドリアの電子伝達系で還元され、負電荷をもつCarboxy-PROXYL(CxP)は膜を通れず血中にとどまります。同じレドックス画像でも、使うプローブによって「どこの・どの反応」を映しているかが変わるのです。
停止中 全画面で見る(別タブ)
このアニメーションの内容をテキストで読む

全10場面。①3種類のニトロキシルプローブ——6員環のTPL(TEMPOL)、5員環のCmP(Carbamoyl-PROXYL)、負電荷をもつCxP(Carboxy-PROXYL)——が登場します。②静脈内投与され、血流にのって全身へ運ばれます。③CxPはカルボキシ基の負電荷のため細胞膜を透過できず、血中にとどまる血中滞留型です。④TPLは血管から細胞内へ入り、⑤細胞質で速やかに還元されます。⑥ただしTPLはミトコンドリアの反応は捉えられません。⑦CmPも細胞内へ入りますが、細胞質では還元されません。⑧CmPはミトコンドリアの膜間腔へ到達し、⑨電子伝達系(NADH依存)によって還元されます。⑩まとめ:3つのプローブは「反応の場」が異なるレドックスセンサーであり、使い分けることで血中・細胞質・ミトコンドリアそれぞれの状態を選んで画像化できます。

MRIが画像を作るしくみ ― 信号取得から画像化まで

そもそもMRIは、体から出る小さな信号をどうやって「画像」に変えているのでしょうか。電波の発信からk空間、フーリエ変換による画像再構成までの流れを、音声ナレーション付きの3Dアニメーションでご覧いただけます。

解説動画:MRI信号取得から画像化まで / 約88秒・音声ナレーション付き

音声が不要な場所ではOFFにしてご覧いただけます
解説動画の内容をテキストで読む

約88秒のナレーション付きアニメーション。①強い磁場の中で、体内の水素原子核(プロトン)のスピンが磁場の向きにそろいます。②そこへ共鳴周波数のRFパルス(電波)を当てると、スピンが倒れて横を向きます。③倒れたスピンは歳差運動をしながら元に戻り、そのときコイルに微弱な信号(FID)が生まれます。④傾斜磁場によって、体の場所ごとに信号の周波数と位相へ「住所」が書き込まれます。⑤取得した信号はk空間と呼ばれるデータの升目に一行ずつ記録されます。⑥k空間の中心は画像の明暗(コントラスト)を、外側は細かい輪郭を担います。⑦すべての行がそろったら、フーリエ変換という計算で信号を画像へ変換します。⑧こうして体の断面画像が得られます。撮像の待ち時間は、このk空間を埋める時間なのです。

一緒に研究しませんか?

量子イメージングの研究に興味を持たれた方へ。学部生から大学院生まで、見学はいつでも歓迎です。

募集について見る 研究室の機器紹介はこちら

Page top