レポートの書き方マニュアル

2025年9月28日 内田勝


レポートや発表資料を作る手順についての、ごくおおざっぱな説明です。

[準備編]

(1)とりあえずのテーマについて、15の質問を考える。

たとえば「インスタントラーメン」について考え始めるなら、こんな感じで、その場で思い付いた質問を15個くらい書き出してみます。

1. インスタントラーメンは、いつ、どこで、誰によって、どのように発明されたのか?
2. 関東と関西でスープの味が違うというのは本当か?
3. 地域ごとにスープの味が違うとしたら、そこにはどんな食文化の違いが反映されているのか?
4. 他の麺類やお店のラーメンとは違う、インスタントラーメン独自の魅力とは何か?
5. 袋麺とカップ麺で、購買層にはどんな差があるのか?
6. ラーメン店での流行の味は、どのようにインスタントラーメンに反映されているのか?
7. インスタントラーメンを習慣的に食べることにはどのような批判があるか?
8. インスタントラーメンの歴史上代表的なCMは、それぞれどのような価値観を伝えているのか?
9. アメリカでのハンバーガーは、日本のインスタントラーメンと同じような役割を果たしているのか?
10. インスタントラーメンは、諸外国ではどのように受容されているのか?
11. イスラム圏でインスタントラーメンを売るためにはどのような工夫がされているのか?
12. インスタントラーメンの歴史上、画期的な変化があったのはいつといつか?
13. 発売されたもののすぐに消えてしまったインスタントラーメンにはどんなものがあるか? 消えた理由は何か?
14. インスタントラーメンが重要な役割を果たす物語作品(ドラマ・漫画など)は存在するのか?
15. インスタントラーメンは、何の象徴として用いられるか?

この時点では一貫性は必要ないので、思い付いたことを思い付いた順序に書き出してください。質問の数は最低限15個くらい必要ですが、もっといろいろ出てきたときは、出せるだけ出してください。

質問の中にはすぐに答えられるものや、ちょっと調べれば答が出るものもあるし、いくつか先行研究に当たらないと答えられないもの、はっきりした答が出ないものもありそうです。この時点では答を出す必要はないので、次の手順に進みます。手順を進める過程でどうでもよくなった質問は捨て去ればいいし、新たに生まれた質問は付け加えればいいです。

(2)先行研究を調べて文章の断片を集める。

先行研究をどうやって集めるかについては、このサイトの「情報の集めかたについて」を参照。集めた資料を読みながら、気になった文章、使えそうな文章は、その都度どこかに書き写したりコピペしたりしておき、少しずつ蓄積していってください。どの文献の何ページから書き写したか(ウェブページならURL[ページのアドレス])を記録しておくのを忘れずに。文章の断片を集めた文書の具体例については、このサイトの「ワープロを使った『カード取り』の実例」を参照。

(3)自分の思いつきを書き留めて蓄積する。

さっきの15個の質問について考えたり、先行研究を読んだりしている間に思いついたことを、上限140字程度の短い文章でどこかにメモして、そうしたメモを少しずつ蓄積していってください。自分の書いたメモを読み返していて新たに思いついたことがあれば、それもメモするわけです。

[実践編]

(1)仮の目次(アウトライン)を作る。

自分が本の著者になったつもりで、さまざまな新書の目次などを参考にして、論理的に筋の通った目次を作ってみましょう。卒論であれば3つくらいの章の下に小見出しをいくつか並べていくわけですが、レポートや発表資料の場合なら、どういう問いを立て、それらにどう答えていくか、そしてどういう順番で問いを並べ、最後にどうまとめるかを考えればいいです。

アウトラインを作るうえでは、Microsoft Wordの「アウトラインモード」が役立ちます。ただしMicrosoft Wordは初期設定のままではアウトライン作成ソフトとして使いにくいので、アウトライン作成用に設定し直したWord文書をここに置いておきます。ダウンロードしたら「アウトライン表示」にして、実際にアウトラインを作ってみてください。

アウトラインを作るうえで大事なのは、レポートや発表では必ず何らかの主張をする必要があることです。これについては同じサイトの「卒論を書くとは『調べてまとめる』ことではない!」を参照。主張自体は他人の借り物でも構わないことに注意。

(2)どこにどの引用が使えるかを考える。

これまで集めた他人の言葉や自分の言葉をあれこれ眺めて、どの場面でどの言葉が使えるかを考え、実際にそれらの言葉を原稿に並べていきます。この過程で目次(アウトライン)自体を変える必要が出たら変えていけばいいし、新たな質問と答が生まれた場合は、それらをどんどん取り込んでください。何度も読み返しながら少しずつ書き足したり削ったりして直していき、あなた自身がまあこれでいいだろうと思ったところで、でき上がりです。

[準備編の補足]

「問い」を立てるために生成AIを使ってみるのもいいでしょう。たとえばChatGPT(https://chat.openai.com)の無料版は、以下のような問いを立ててくれますし、さらに卒論のアウトラインも提案してくれます。(ただしChatGPTなどの生成AIは、実在しない本や論文を参考文献としてまことしやかに勧めてくることがよくあるので、その点は注意して使ってください。)
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あなた:
私は大学で文化研究のゼミに所属しており、卒論でインスタントラーメンをテーマにしようと思っています。私が卒論で答えるべき「問い」を、15個ほど挙げてください。

ChatGPT:
面白いテーマですね!インスタントラーメンは食文化・社会・経済・グローバル化・ジェンダー・災害など、さまざまな観点から分析可能です。文化研究のゼミということで、以下に「文化的問い」を中心に15個の卒論に使える問いを提案します。

インスタントラーメンをめぐる文化研究的「問い」15選

1. インスタントラーメンは「日本文化」としていかに構築・輸出されてきたのか?
2. 戦後日本において、インスタントラーメンはどのように「日常食」として定着したのか?
3. インスタントラーメンの広告は、どのようなジェンダー・家族観を再生産してきたのか?
4. 非常食・保存食としてのインスタントラーメンは、災害時の「食文化」とどう関係するか?
5. インスタントラーメンは「貧困」とどのように結びつけられて語られてきたか?
6. なぜインスタントラーメンは「学生の食べ物」としてステレオタイプ化されているのか?
7. 多国籍企業によるインスタントラーメンのグローバル展開は、地域文化にどのような影響を与えたか?
8. インスタントラーメンは「ジャンクフード」か?それとも「庶民的グルメ」か?
9. 韓国、中国、日本など、東アジアにおけるインスタントラーメン文化の共通点と差異は何か?
10. インスタントラーメンのパッケージデザインは、どのように時代の価値観や美意識を反映してきたか?
11. SNS上での「インスタントラーメン投稿」は、食の意味をどのように再構築しているか?
12. ベジタリアン・ハラール対応など、インスタントラーメンは多文化共生にどう対応しているか?
13. 「健康志向」とインスタントラーメンのイメージの変遷は、どのように関連しているか?
14. ノスタルジーとしてのインスタントラーメン――個人の記憶と社会の記憶をいかに媒介するか?
15. インスタントラーメンの「カスタマイズ文化」は、消費者の創造性やアイデンティティとどう関わるか?

これらの問いは、歴史、表象、メディア、消費、ジェンダー、アイデンティティなど、文化研究の複数の領域と接続できます。特に興味のある問いを深堀りしていくとよいですよ。必要であれば、問いの選定の相談や、問いから導かれる「仮説」や「分析視点」などの構築もお手伝いできます!

あなた:
私の卒論のアウトライン案を作ってみてください。

ChatGPT:
もちろんです!まず、あなたの卒論テーマ「インスタントラーメン」に文化研究的な視点を加えて、以下のような方向性を提案します。

卒論テーマ(仮):
「インスタントラーメンにみる大衆食文化の形成と変容 ― 日常性・グローバル性・メディア表象の観点から」

卒論アウトライン案

【序章】問題提起と研究目的(導入)
・研究の背景
 ・戦後の食糧事情とインスタントラーメンの誕生
 ・インスタントラーメンの社会的浸透と文化的存在感
 ・なぜ今「インスタントラーメン」を研究対象とするのか
 ・日常的でありながら多層的な意味を持つ食文化としての特異性
・研究の目的・問い
 ・本研究は、インスタントラーメンを通して日本の大衆文化、消費文化、グローバル文化を読み解くことを目的とする。
・方法論・資料の紹介(例:広告、パッケージ、CM、SNS投稿、メーカーの資料など)

第1章:インスタントラーメンの歴史と文化的位置づけ
・1958年の誕生(チキンラーメン)から現在までの展開
・戦後復興期の食文化との関連
・食品としての位置づけの変化(非常食・家庭食・B級グルメ)
・「安い・早い・うまい」価値観の象徴としての文化的意義

第2章:インスタントラーメンのメディア表象とジェンダー
・広告にみる家族観と性別役割(例:母親が子供に作る、男性の一人暮らし)
・テレビCMやパッケージの分析
・メディアが作り出す「ラーメンのある日常」の表象
・SNS時代における再構築:#ラーメンアレンジ、#夜食文化 など

第3章:インスタントラーメンとグローバル化
・海外市場への展開(アジア諸国・アメリカ・中東など)
・現地化された製品とローカル文化の融合
・「日本食」としてのインスタントラーメンの輸出とその消費イメージ
・多文化対応(ハラール・ベジタリアン仕様など)の文化的意味

第4章:インスタントラーメンと消費文化
・コンビニや自販機など流通システムとの関係
・「一人食」と孤食文化
・カスタマイズ文化(卵、チーズ、キムチ等のアレンジ)
・ファン文化・コレクター文化(パッケージ集め、マニアなど)

第5章:インスタントラーメンが喚起する記憶とノスタルジー
・個人の記憶と結びついた食経験(例:夜食、受験、学生時代)
・社会の記憶と「国民食」的な位置づけ
・映画・ドラマ・文学に登場するインスタントラーメンの意味

【結論】
・研究のまとめと主張の再提示
・インスタントラーメンが示す「日常性」と「文化的複層性」
・食文化研究における今後の可能性と、本研究の位置づけ

【参考文献】
インスタントラーメン関連の書籍・論文
食文化・メディア文化・グローバリゼーション研究の理論文献
メディア資料(CM、広告、企業ウェブサイトなど)

必要に応じて、フィールドワーク(例:ラーメンミュージアムの見学やインタビュー)なども組み込めます。

補足
このアウトラインは幅広い視点をカバーしていますが、もし特に興味のある切り口(たとえばジェンダーか、SNS文化か、グローバル化など)があれば、章立てを整理してもっと焦点を絞る形にもできます。修正・絞り込み・深掘りのご相談もお気軽にどうぞ!
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(c)内田勝(uchida.masaru.m7@f.gifu-u.ac.jp) 更新日: 2025-9-28

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