水利環境学研究室別館 本文へジャンプ


研究対象:最近の研究テーマの一部を紹介します


☆水田魚道の効率的な運用☆

 田んぼと水路に落差が生じ,水路内の水生生物が田んぼを利用できなくなってきました.その対策として,水田に魚道を設けるのですが,水を流しっぱなしにすれば多くの魚が遡上する反面,田んぼの水温低下,肥料や農薬の流失,ポンプの電気代などの問題が生じます.その結果,水田魚道の設置自体が農家に受け入れられにくくなります.
 そこで,多くの魚が遡上する時期,時間,必要な流量などをビデオ撮影やトラップに掘る捕獲によって調べます.もちろん,魚種によって遡上条件が異なるため,それらにも配慮して効率的な魚道の蘊奥方法を検討して行く必要があります.
☆水田地帯におけるイシガイ科二枚貝の保全☆

 貝にもいろいろありますが,ここで取り上げるのは淡水に生息するイシガイ類という極めて地味な二枚貝です.日本には16種もいますが,多くは絶滅危惧種に指定されています.
 イシガイ類はタナゴ類の産卵床となり,また逆に幼生期は魚類に寄生するなど生物相互作用のかなめになっています.また,寄生できる魚種は貝の種類によっても変わってくるため,本種の保全には多くの種類の魚が生息する必要があります.加えて寿命が長い,移動しずらい,底質と密接なかかわりを持つなど,環境指標生物として非常に有用だといえます.
 本研究室では,イシガイ類を通して水田生態系保全に取り組んでいます.



☆圃場整備地区における水生生物の保全☆

 水田農業の生産性向上のため,多くの地域で圃場整備が行われてきました.もちろん,未整備区域を設けて生態系を保全することも重要なのですが,生態系と農業との共存を図っていくことが大切です.そこで,圃場整備が行われた地区において,コンクリート水路や排水河川において如何に水生生物の保全を行うかに挑戦しています.コンクリート水路の単調な水の流れにどのようにして生息域を設けるか,越冬場所や産卵場所をどうやって確保していくか・・・やらなければいけないことは山積です.
 写真の魚はカワバタモロコです.本種をシンボルに,農村集落全体で環境問題に取り組んでいます.
☆ミナミメダカをカダヤシの猛威から守る☆

 去年,メダカはミナミメダカとキタノメダカに別れました.それはさておき,今やメダカは絶滅危惧種に指定されるに至ってしまいました.その原因として,生息地の劣化や減少がありますが,外来種による影響も大きいと考えられます.その一つがカダヤシです.
 カダヤシは病気を媒介する蚊を駆除する目的で導入されました.ボウフラをよく食べてくれるので,「蚊絶やし」なのです.しかし,メダカなどに対する悪影響が非常に大きいため,特定外来種に指定されています.
 カダヤシからメダカをどのように守っていくためには,メダカの保護とカダヤシ駆除の両輪をフル稼働していかなければなりません.



☆養魚場におけるカワシンジュガイの増殖☆

 カワシンジュガイは氷河期の残存種であり,北海道を中心に分布しています.本州では局地的な分布であり,多くの生息地が天然記念物指定を受けるなど保護対象となっています.本種の特徴と言えば何といっても長寿,そう100年以上生きるものもいます.
 本種は幼生期間にサツキマス(アマゴ)やサクラマス(ヤマメ)に寄生します.寄生期間は2カ月と長いため,その期間寄宿魚が元気でいてもらわなければなりません.しかし,本州では釣りによる捕獲圧が非常に高く,寄生・変態が完了することは困難です.そのため,カワシンジュガイの保全には,宿主魚の保護が欠かせない要素となります.
 当研究室では,現在,養魚場で多数飼育されているアマゴに寄生して増殖している本種個体群を対象に,養魚池における増殖メカニズムの解明を行い,本種の再生産に向けた水産業の活用を検討しています.
☆水田地帯におけるスナヤツメの保全☆

 スナヤツメは従来,水田地帯の水路や幹線排水路に多く見られましたが,現在では一部の河川に生息する程度です.その理由の一つに,本種の生態が関与しています.
 本種は春になると砂礫底に産卵床を掘って産卵します.孵化した個体はアンモシーテス幼生と呼ばれ,眼や鰓孔は不明瞭でミミズのようです.幼生は遊泳能力が備わるまでの1年間ほど,生まれた場所近くの泥底に潜って生活します.さらに2年半後の晩秋に生まれ故郷の近くに戻り,変態して成魚になり,翌春に産卵して4年の生涯を終えます.本種は生まれた場所に戻ってくるのですが,これは幼生の出すフェロモンに反応します.つまり,産卵に必要な砂礫底と幼生の生息する泥底が近くに存在する必要があります.しかし,コンクリート水路や直線化された河川ではこのような環境は失われてしまいます.
 環境の多様性を確保することは,スナヤツメに限らず生物の多様性を維持するための必要条件なのです.
 



☆イシガイ宿主魚類の移動距離を把握する☆

 本研究は,イシガイ類の保全から派生したテーマです.イシガイ類は幼生期間に魚類に寄生しますが,寄生魚類の移動にともなってその生息域を拡大していきます.よって,イシガイ類の保全拠点の設置密度は,寄宿魚類の移動範囲を参考に決めていく必要があります.
 対象種はイシガイ,トンガリササノハガイ,フネドブガイの3種において寄宿主となったオイカワ,ヌマムツ,カワヨシノボリの3種です.これらの魚類にエラストマータグを打ちこんで放流し,標識再捕獲法によってその移動距離を評価しました.調査期間はイシガイ幼生の寄生期間となる7日間としました.
 結果から,移動距離の大きいオイカワ,ヌマムツは生息域の拡大や個体群間の遺伝的交流に寄与し,定着性の強いカワヨシノボリはイシガイ類生息域近辺で再生産に寄与すると考えられました.また,イシガイ類の保全施設は魚類の移動に伴って個体群交流が行われるように1000m間隔で設置することが望ましいという結論を得ました.
☆カメメトリー〜ニホンイシガメは何処へ行く〜☆

 ニホンイシガメはここ数年各地で希少種に指定されていますが,いまだ謎の多い生物です.本種を保全するには,その生態を知る必要があります.そこで,カメに小型発信機を取り付けて追跡するラジオテレメトリーを行いました.
 その結果,以下のことが明らかになりました.@河川においては,河川敷など広い陸域のある部分を好み,その傾向はメスで顕著であること,Aメスは産卵期には河川敷を広範囲に移動すること,B越冬は深場に潜って行うと考えられるが,護岸植生や抽水植物があれば30−40cmの水深でも越冬可能であることがわかりました.また,捕獲場所と異なる場所で放した場合,堤防や道路をを乗り越えて元の場所に戻るという強い回帰性を示しました.そのため,河川改修工事などで本種生息域に手を入れた場合,代替地を設けたとしても元の場所に戻って大きな影響を受けることが危惧されます.

☆ため池の環境保全〜モリアオガエルの巻〜☆

 止水域の乏しい中山間地において,ため池は多くの生物にとってかけがえのない環境となっています.しかし,水田農業の衰退および灌漑施設の整備に伴って多くのため池が放棄,埋立されています.そのようなため池の機能を再評価するため,ここではモリアオガエルに注目しました.
 本種は水面に張り出した木に卵塊を生むことで有名ですが,普段は森の中に住んでいます.つまり森林と水域が接している環境が必要となります.本研究では,モリアオガエルがどのような生活を送っているのかについて,その生息分布や卵塊の分布を調査することによって明らかにし,ため池の保全方針を策定することを目的としました.これより, 幼体は流入する沢沿いを,成体は広範囲にわたる高木を利用して移動すること,産卵はある程度の大きさのある広葉樹に産み付けることがわかりました.
 少なくとも,現在本種のいるため池の改修にはこのような条件を残してほしいものです.
☆干潟におけるカニの生息環境評価☆

 私は藤前干潟のガタレンジャー.でもって当研究室の学生にも沢山のガタレンジャーがいます.そんな縁もあって,フィールドは干潟にまで及んでいます.
 干潟には様々なカニ類が生息しています.タカノケフサイソガニ,チゴガニ,アシハラガニ,オサガニ,ヤマトオサガニ,マメコブシガニなどなど.しかも種によって棲み分けが行われているような気がします.そこで,各種カニ類の好適生息環境をHSIモデルで評価することを試みました.説明変数として,標高(水深),底質(泥,砂,礫),岩の有無,ヨシの繁茂状況などを測定しました.その結果,チゴガニは砂質底を,タカノケフサイソガニは岩のあるところを,他の多くのカニは泥質底にその分布が支配されることがわかりました.また,ヤマトオサガニは幼体と成体で標高の異なる地点に集まっていることも示唆されました. 
 HSIモデルの利用は初めてだったのですが,その長所短所がわかって有意義な研究となりました.干潟はいつ行っても面白い.また別のテーマに挑戦したいと思っています.



☆ウシガエルによる食害評価☆

 ウシガエルは悪食ゆえに特定外来種に指定されています.海外の研究では主にアメリカザリガニを食べていると報告されていますが,国内の事情はよくわかっていません.そこで本種が何を食べているかについて,強制嘔吐法により調査しました.
 ほとんどの場合,胃の中からはアメリカザリガニが出てきました.しかしここで疑問が.アメリカザリガニの甲殻は消化されにくいから残っているのではないかと・・・
 そこでウシガエルに魚やザリガニやらを食べさせて,それらが何時間で消化されるのかを調べました.その結果,タモロコは3時間程度で消化される一方,アメリカザリガニは12時間以上も甲殻が確認できました.よって,胃の内容物を見ただけでは本種の食害が評価できないことが分かりました.
 このような問題点をクリアするため,安定同位体比による解析を行いました.しかし,餌となる昆虫やザリガニ自体が雑食性で複雑な食物網を持つため,明確な結果を得るのはなかなか難しそうです. 
☆食性からみたカエル類の保全☆

 多くのカエルは水田付近に生息していますが,そこは人間によるかく乱がたびたび生じます.それにより,カエル自身のみならずその餌資源も影響を受けます.
 本研究では,草刈りや稲の収穫にともなってカエルの餌資源がどのように変化するのか,またそれに対してカエルどのように反応しているのかを調べ,カエルにやさしい営農方法について検討しています.
 対象としたのはニホンアマガエルとヌマガエルです.アマガエルが草木の上に定位して昆虫類を食べているのに対し,吸盤のないヌマガエルは地面付近で昆虫や土壌生物を捕食していました.また,草刈りにより地上部の餌資源が減少し,アマガエルは違う場所に移動しましたが,ヌマガエルは刈り取られて伏せられた草本の隙間でそれまで対象外であった地上生の昆虫を新たに食べており,餌の多様性が増していました.
 この結果,畔の草刈りは大面積を一度に行わずにカエルが避難する機会を設けること,倒伏した草を焼き払ったり持ち出したりするのは避けた方がカエルにとって良い方法であることがわかりました. 



☆その他PURE SCIENCEちっくな研究☆

 私は研究上,生物・生態系については人間とのつながりを意識しています.人との関わり,農業や水産業,人と自然の共生や利用などがそれにあたります.一方,農学部から応用生物科学部へと変わったころから,学生の指向は純粋な生物学に傾きつつあります.
 当研究室においてもそのような研究に取り組むケースが出てきました.オオヤマカワゲラ属3種の棲み分けの要因分析,渓流に棲むヒダサンショウウオとハコネサンショウウオの分布に関する研究などです.
 普段,Applied Scienceをやっている者としてはPure Scienceに携わるのはとても楽しいものです.(逆もまた然りというのもよく耳にしますが).
 調査・研究の方針,データ解析や取りまとめなどについてはアドバイスしていますが,私よりも学生のほうがはるかに詳しい世界.私自身,勉強しながら楽しませてもらっています.
☆外来種の食利用〜天敵は人間なり〜☆

 多くの生物が人間の捕獲圧によって減少あるいは絶滅にいたってきました.そう,生物最大の敵は人間なのです.そこで外来種対策に人間の持つ食欲を利用してみてはどうだろうと・・・
 対象種はスクミリンガガイ,アメリカザリガニそれにオオカナダモの3種です.スクミリンゴガイはグロテスクな見た目が,アメリカザリガニは可食部の小ささゆえの処理の手間が問題となりまっしたが,3種とも食材として合格点が付きました.写真はオオカナダモのてんぷらです.ほろ苦くて山菜のような味でした.
 ただし,安全・衛生面の問題は大きいです.誰も汚い水路で採ったものを食べたいとは思わないでしょう.しかし,そのために食材として不適格と判断するのではなく,むしろ自分たちは身の周りで捕獲したものが食べれないほど汚れた環境に住んでいるという自覚が芽生えるいい機会になるのではないかと考えます.それをクリアして,積極的にこれらを食す機会が増えるといいのではないでしょうか.