診療内容

岐阜大学産婦人科の診療内容

「岐阜県の最終拠点病院として、最先端の医療を提供する」

岐阜大学産婦人科の診療内容を紹介します。産婦人科の主たる4分野である周産期、腫瘍、生殖、女性のヘルスケアがバランスよく発展しています。また、ロボット、腹腔鏡、子宮鏡の婦人科低侵襲手術は症例数も多く、高レベルの手術を実施しています。

周産期医療について

岐阜大学病院産婦人科は地域周産期母子医療センターであり、岐阜県全域からハイリスク症例を受け入れています。
当院で受け入れている症例には以下のような特色があります。

  • 内科疾患の合併(高血圧症、糖尿病、脳血管疾患、心疾患、血液疾患、遺伝性疾患等)
  • 精神疾患の合併
  • 出血ハイリスク症例(前置胎盤、巨大筋腫合併等)
  • 母体救命が必要な症例(常位胎盤早期剥離、産後出血等)
  • 胎児異常症例(胎児発育不全、腹部疾患症例等)

その他、当施設の特徴としては以下のようなものがあります。

IVRによる母体救命

当院放射線科、高次救命センターの協力の下、産後出血症例に対するTAE(経カテーテル動脈塞栓術)を数多く行っています。この治療により、低侵襲に子宮を温存することが可能となります。当院では24時間体制で岐阜県全域からの受け入れを行っており、年間平均30件以上のTAEを行い、非常に高い母体救命率を誇っています。
また癒着胎盤などにより帝王切開時に子宮全摘術が必要となる症例に対して、CIABO(総腸骨バルーン閉塞術)を行う場合もあります。

周産期メンタルヘルスケア

妊娠中や産後は誰もがメンタルヘルスの不調をきたしやすい時期です。特に精神疾患を合併しているとそのリスクは増加すると言われています。
当院では病棟のスタッフとチームを作り、周産期のメンタルヘルス不調に対するスクリーニングや予防、ケア、勉強会を行っています。

出生前診断

出生前診断として、NIPT(非侵襲的出生前診断)、羊水検査、精密超音波検査を行っています。 NIPTは母体血中のDNAの断片を測定することにより、胎児の染色体異常症をスクリーニングする新しい出生前遺伝学的検査です。妊娠10~15週に母体の採血を行い、トリソミー21(ダウン症候群)、トリソミー18、トリソミー13の有無を判定します。 この3つの染色体疾患の陽性的中率(検査陽性と診断した中で、実際罹患していた割合)は91.0%(トリソミー21は97.2%、トリソミー18は89.1%、トリソミー13は54.9%)、偽陰性(検査で陰性と診断したものの、実際罹患していた割合)は0.01%という高い精度で診断することができます。当院は2016年よりNIPTを認定施設として開始し、年間100件程度の検査を行っています。 また最新の超音波機器を保有しており胎児のスクリーニングや精密検査、4Dエコーなどを行っています。

胎児心臓超音波
4Dエコー

遺伝カウンセリング

当院には臨床遺伝専門医と遺伝カウンセラーが常駐しており、出生前診断やその他の遺伝性疾患に対する遺伝カウンセリングを行っています。

プレコンセプションケア

プレコンセプションケアとは「妊娠前の健康管理」のことを指し、妊娠前から自身の健康状態やリスク因子を把握しケアを行うことで、妊娠合併症を減らしその後の健全な環境での子育てへつなげることを目的としています。 本来プレコンセプションケアは思春期以降、妊娠可能な年齢の全女性及びカップルを対象として行うべきものですが、当科では以下のような方を対象にプレコンセプションケア外来を行っています。

対象者

  • 慢性疾患を有する者
  • 精神疾患を有する者
  • がんサバイバー
  • 不妊,不育症患者
  • 妊娠合併症の既往を有する者
  • 肥満
  • 喫煙者

研修会開催等

母体救命講習会(J-MELS)の開催

母体急変は予告なく突然起こります。突然の母体急変に迅速かつ適切に対応するために、母体救命講習会を定期的に開催しています。当院が中心となって講習会を開催し、岐阜県内の産科施設のスタッフに参加してもらっています。岐阜県の母体救命の「最後の砦」として、臨床面でも教育面でも中心となり活動しています。

新生児蘇生講習会(NCPR)の開催
出生した新生児の15%は自発呼吸を開始するまでに何らかの処置が必要になると言われています。この出生直後の処置が適切に行われないと、新生児に致命的な後遺症を残す可能性があります。新生児蘇生をいつでも適切に行えるために、年に1,2回、院内で新生児蘇生講習会を開催しています。
周産期メンタルヘルス講習会の開催
周産期のメンタルヘルスケアについて、関係者の知識のアップデートや技術の向上、一般市民への啓発を目的に、医療関係者向けの講習会や市民公開講座を定期的に開催しています。

婦人科腫瘍(悪性疾患)について

岐阜大学医学部附属病院は都道府県がん診療連携拠点病院に指定されており、産婦人科におきましても婦人科悪性腫瘍(子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、外陰がん、腟がんなど)に対し、多くの患者様に対し外科手術(ロボット手術などの低侵襲手術を含む)、抗がん剤治療、放射線治療を行っています。婦人科腫瘍専門医を中心としてガイドラインに沿った標準治療から、がん遺伝子パネル検査を行った個別化治療など幅広い治療内容を提供しています。また最新の治療方法を確立するため多くの臨床試験にも参加しています。現在、岐阜県において最も浸潤癌治療の多い施設となっており、年間150例程度の新規がん症例を治療しております。また日本婦人科腫瘍学会 婦人科腫瘍指導医が1名、婦人科腫瘍専門医が3名、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医5名が在籍しており、日々最先端の婦人科がん診療を行っています。

子宮頸がん

本邦における子宮頸がん検診の低受診率やHPVワクチン接種の遅れなどから、若年発症や初診時に進行がんである傾向があります。当科においては腫瘍のサイズ、進行期などを細かく評価したうえで治療内容を選択・提案しています。外科的治療として標準術式である広汎子宮全摘術の経験も豊富です。また、排尿神経の温存術式を行っており、術後の排尿機能も良好に保たれています。そして、手術と同等に根治治療が可能な放射線同時化学療法(CCRT)も放射線科と連携のうえ、数多く行っています。手術療法と同等の治療効果があり、高齢の方や合併症のある方の治療法として選択されています。また、低侵襲手術として、2cm以下など適応を満たす早期の子宮頸がんに対しては腹腔鏡下広汎子宮全摘術を行っています。

若い女性の子宮頸がんに対する子宮を取らない治療法(妊孕性温存療法)

子宮頸がんは若い女性に多い病気です。子宮頸がんでも数ミリ程度のごく初期の場合は、円錐切除といって子宮の入り口のみを切除して子宮を残す手術が可能な場合がありますが、ほとんどの場合は子宮の摘出が必要になります。子宮を摘出してしまうと、赤ちゃんを産めなくなってしまいます。このような若い女性の子宮頸がんに対して、子宮頸部の病変部のみを摘出し、残った子宮体部と腟をつなぎ合わせる手術「広汎子宮頸部摘出術」を行うことにより、2cmまでのがん(ⅠB1期までのがん)の場合は、将来赤ちゃんが産める希望を残すことができます。妊娠、出産前の子宮頸部浸潤癌に対し、詳細な進行期の診断と十分なインフォームドコンセントが得られたうえで、根治性と妊孕性を考慮した広汎子宮頸部切除術も行っています。

円錐切除術
広汎子宮頸部切除術

子宮体がん

閉経後の不正出血が初発症状として多い子宮体がんは、近年、未婚、未産の女性の増加とともに増加傾向にあり、当科においても早期がんに対しての低侵襲手術から進行がん・特殊組織型に対する根治手術まで幅広く行っています。早期がんに対する低侵襲手術では、ロボット支援下腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術や腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術を積極的に行っています。また進行がんに対する開腹手術では傍大動脈リンパ節郭清を含めた高侵襲手術も行っていますが、術後合併症を軽減するため当院ICUと連携した周術期管理を徹底しています。

ロボット手術

若い女性の子宮体がんに対する子宮を取らない治療法(妊孕性温存療法)

若い女性に子宮体がんが発生した場合、その治療方法を決めるのに大変頭を悩ませることがあります。子宮体がんの標準的な治療法は手術で子宮を摘出する方法ですが、まだお子さんがいない女性の場合、この治療法だと赤ちゃんを産めなくなってしまいます。このような若い女性の子宮体がんに対して、ホルモン療法により治療をすることが可能で、子宮をとらずに将来赤ちゃんが産める希望を残すことができます。ホルモン療法は、がんが子宮の内側にだけにとどまって子宮の筋肉の中に入り込んでいない場合、高分化型のがん(悪性度の低いがん)の場合に限って行うことが可能です。黄体ホルモンによる治療法は、子宮を残すことができる反面、薬が効かなかった場合、病気が進んでしまう可能性があることや、一度がんが消えてもまた出てきてしまう(再発)リスクがあることを十分に理解して治療を受けていただくことが必要です。

卵巣がん

卵巣がん(上皮性卵巣がん)は初発症状が乏しいことから進行した状態でみつかることの多い疾患です。当科においても進行期に応じて様々な治療方法を選択・提案しています。 初期の卵巣がんに対しては根治手術(ステージング手術)として、標準術式である両側の卵巣卵管(附属器)、子宮、大網の摘出およびリンパ節郭清を行っています。進行がんに対しては、術前診断として画像検査にくわえ審査腹腔鏡をおこない腹腔内を十分に観察することで腫瘍切除の範囲や術前化学療法の必要性につき評価をしています。 進行がんは手術をする際に可能な限り腫瘍を摘出するため、直腸や結腸などの消化器や肝臓・横隔膜、尿管や膀胱など腹腔内臓器の一部を切除する高侵襲手術が必要となる場合があり、岐阜大学病院においては消化器外科や泌尿器科と連携のうえ、高度な外科手術を行っています。 卵巣がんは進行・再発が多い疾患ですが抗がん剤(化学療法)の感受性が高いことも知られています。術前化学療法から術後補助化学療法、再発に対する化学療法は複数存在し、それぞれの進行期や組織型、遺伝的プロファイルにそった薬物選択をしています。

若い女性の卵巣がんに対する子宮を取らない治療法(妊孕性温存療法)

卵巣がんと診断された場合には、通常両側の卵巣・卵管と子宮の摘出が必要になります。若い女性に卵巣がんが発生した場合には、将来赤ちゃんをどうしても産みたいという強い希望がある場合には、卵巣がんがごく初期の場合には、腫瘍のみを切除して、一方の卵巣と子宮を温存する妊孕性温存手術が行われることがあります。妊孕性温存手術が可能な条件は、一般的には以下の通りとされています。

  • 進行期がIA期であること(片方の卵巣にがんがとどまる)
  • 高分化型腺がんであること

がん薬物療法

婦人科悪性腫瘍に対し抗がん剤による化学療法を行っています。化学療法は、初回治療時の術前化学療法もしくは初回治療後の再発予防目的としての術後補助化学療法と、再発がんに対する化学療法に分けられます。使用する薬剤や投与方法は最新の知見に基づいて選択しています。当科では保険診療に基づいた化学療法を中心に行っていますが、治療効果に根拠のある化学療法においては倫理委員会承認のうえで薬剤を選択することもあります。

がんゲノム医療

がんは遺伝子の変化によって起こる病気です。がん遺伝子パネル検査では、がん細胞に起きている遺伝子の変化に関して、一度に多数の遺伝子を調べる(解析する)ことで、がんの特徴に基づいた治療法を検討します。がん遺伝子パネル検査を受けることで、抗がん薬の選択に関連する遺伝子の変化が明らかになり、今後の治療選択に役立つ情報が得られる可能性があります。一方でこの検査を受けても、患者さんの治療選択に有用な情報が何も得られない場合や、得られたとしても治療に適した薬剤がない場合もあります。また、解析に用いた検体の品質や量によっては、正確な結果が得られないこともあります。また遺伝性腫瘍の原因となる遺伝子の異常(生まれつき持っているがんに罹りやすい体質)があることがわかったり、遺伝性腫瘍の可能性が判明する場合があります。検査対象となる患者さんは以下の通りです。

  1. 標準治療がない固形がん患者さん、または局所進行もしくは転移が認められ標準治療が終了となった固形がん患者さん(終了が見込まれる患者さんを含む)
  2. 全身状態及び臓器機能等から、がん遺伝子パネル検査施行後に化学療法の適応となる可能性が高いと主治医が判断した患者さん

ご自身が対象となるかどうかについては、現在治療を担当されている主治医とご相談ください。

遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)

乳がんや卵巣がんになった方の一部に、BRCA1やBRCA2という遺伝子に、がんの体質と関わる変化(変異と呼びます)があることがわかっており、HBOCと呼ばれています。卵巣癌の20%、乳癌の5-10%が、遺伝性腫瘍であるといわれています。HBOCは乳がんや卵巣がん、膵がんになりやすい体質のことでBRCA1/2遺伝子の「変異」は、次の世代に50%の確率で伝わります。BRCA1/2遺伝子検査によって、乳がんや卵巣がんになりやすいことがわかった場合、がんの予防や再発について知り、定期的に検診を受けることが早期のがん発見と治療につながります。卵巣がんや乳がんの家族歴がある方の場合、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)である可能性があります。これらの疾患は遺伝子診断により診断することも可能となっています。近年、家族性腫瘍は発がんの分子生物学的メカニズムの解明とリスク低減手術・早期発見のためのサーベイランスといった予防対策の両面から注目を集めており、当科としてもこれらの方々のご相談に応じることができます。当科ではHBOCの患者様に対する腹腔鏡などを用いた低侵襲なリスク低減手術を実施しております。

生殖医療について

成育医療センターを中心とする生殖内分泌部門では、排卵障害、月経異常、不妊症に対して、西洋医学的方法ばかりでなく、漢方治療を含めた東洋医学的アプローチも積極的に取り入れた診療に対応しています。
大学病院では、診療の研鑽を通して、知識や技術によるサブスペシャリティの取得に留まらず、研究活動によって国の医療システムにも関わる醍醐味も味わうことができます。我々とともに、生殖医療および婦人科内分泌学に取り組みましょう!

子宮内膜症への対応

ライフスタイルの変化により年々増加している子宮内膜症に対しては、その病態と患者さんのニーズを総合的に判断して、手術療法とホルモン治療(GnRHアナログ、ピルなど)で症例により個別的に対応しています。

不妊治療への対応

不妊治療としては、適切な治療方針に基づいて、排卵誘発から、体外受精、顕微受精などAssisted Reproductive Technology(ART)と呼ばれる高度な生殖補助医療まで行っています。

小児・若年成人世代のがん患者様への対応

治療によって妊孕性(妊娠できる能力)の喪失をおこす可能性がある小児・若年成人(Children, Adolescent and Young Adult: CAYA)世代のがん患者さんに対して、診療科横断的な情報提供および意思決定支援の提供から、このリスクを回避するための精子や卵子、胚、卵巣組織の凍結保存にまで対応しております。これは全国初の地域がん・生殖医療ネットワークで「岐阜モデル」として広く知られています。

研究活動への取り組み

研究においても、早発卵巣不全、多嚢胞性卵巣症候群をはじめとした排卵障害の病態解明から治療方法の開発、さらにその社会的対策、さらにまた、これらの患者さんに寄り添った、長期にわたる女性医学的なヘルスケアの向上などに取り組んでいます。 我々が関わった研究活動の結果、2021年からCAYA世代のがん等患者さんの妊孕性温存に対する公的助成制度が開始され、2023年には、がん診療連携拠点病院の指定要件にも「地域がん・生殖医療ネットワークへの参加」が必須要件に盛り込まれました。

女性ヘルスケアについて

岐阜大学産婦人科では、「女性の一生をトータルでケアする」という女性医学の基本理念のもと、女性ヘルスケアの患者さんも診療しています。
女性の心身はライフステージによって大きく変化します。思春期や更年期などホルモンの不安定な時期はもちろん、妊娠や出産、不妊治療による体調の変化など、心身の不調は女性なら誰しも直面する問題です。人生100年時代をより自分らしく、健やかに生きるための医療を提供しています。

思春期~若年期

月経困難症
月経に関連した痛みが軽減できるだけで、勉強や仕事のパフォーマンスも向上します。女性の社会進出が進んだ今、月経痛は現代女性だけではなく、社会全体の課題です。そのため、薬の開発や研究が進んでおり、現在では低容量ピルなど提案できる治療方法も多くなりました。治療効果も高まっているので、月経に関連した痛みを我慢したり、我慢させたりする時代は終わりに近づいています。ぜひ我慢しないで相談してみてください。
月経前症候群(PMS)または月経前気分不快障害(PMDD)
月経前には卵巣から分泌される2つの女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)がどちらも高い状態になっています。それが急激に減少して出血(月経)が始まります。身体がこのホルモンの変動に対応できず、頭痛やめまい、お腹や乳房の張り、下痢や便秘などの身体症状が出現するのが月経前症候群です。気分の落ち込みやイライラなど、精神の症状が強い場合には月経前気分不快障害と診断される場合もあります。どちらの疾患も、ホルモンの変動を調節することで症状を軽減することができます。また、漢方療法を併用してより自分に合った治療を選択することができます。
無月経(原発性・続発性)および月経不順
満15歳を超えても初経が来ない場合は初経遅延と考えます。まずはお近くの婦人科を受診しましょう。また、一度順調に来ていた月経の周期が不安定になった場合や、3か月以上月経が止まっている場合、逆に2週間以上の出血が続く場合は、どの年代でも早期の受診をお勧めします。一般的な診察で診断がつかない場合や治療に反応しない場合には精密検査が必要です。
性器の異常
先天的な病気が原因で、初経の発来が遅れたり、自分の性に違和感を持っていたりする場合があります。適切な診断と治療で、将来予測される健康リスクを減らすことにつながります。手術を必要とする場合もあります。

プレ更年期~更年期

一般的に更年期とは、閉経を迎える前後の「年代」を指します。日本人女性の平均的な閉経年齢は50歳ですから、その前後5年ずつ、45歳頃から55歳頃までの約10年間が平均的な「更年期」です。しかし、女性ホルモンは、30代後半から徐々に低下し、40歳ではピークの半分ほどに減っています。ですから更年期の手前でも心身の不調が出現しやすくなるのは自然なことです。更年期の治療として一般的なホルモン治療は効果的ですが、体のメンテナンスをしない限り、期待した効果は得られず、副作用に悩まされる結果にもなりかねません。我々の外来では、ホルモン療法や漢方療法を組み合わせ、ひとり一人に合わせた治療を提案しています。

基礎疾患・合併症のある場合の治療
全身性エリテマトーデス、甲状腺疾患、関節リウマチなど、比較的女性に多い疾患や潰瘍性大腸炎など若年でも発症する疾患があります。女性の場合、基礎疾患の治療中に月経に関連した症状や不調に悩まされることも少なくありません。しかし、副作用の観点から一般的な低容量ピルなどの治療が難しい場合があります。当外来では、体調や服用中の薬に合わせたホルモン療法や漢方療法を検討し、治療をおこなっています。

婦人科良性疾患について

子宮筋腫とは?

20才から40才くらいまでの女性の4~5人にひとりが持つと言われます。子宮の筋層に筋腫というコブができて大きくなる病気です。原因はよく分かっていません。子宮筋腫は、卵巣から分泌される女性ホルモン(エストロゲン)によって増殖し、大きくなると考えられています。

症状は?

筋腫が小さいうちは、自覚症状が見られないことが多いのですが、筋腫の発生する場所や大きさにより、月経多過や月経痛、不正出血が起こり、出血が多く貧血となれば、動悸、息切れなどが現れます。不妊症の原因にもなる場合もあります。粘膜下筋腫は特に過多月経と関連が強いとされています。

治療は?

筋腫による症状が軽いものは、対症療法といって症状を軽くする治療が行われます。月経痛に対する鎮痛剤の投与や貧血に対する鉄剤の内服が行われます。 筋腫が大きく、月経過多や貧血がひどい場合には、薬物療法による保存的治療科、手術療法を行います。薬物療法では、偽閉経療法と言われ、月経を止める薬物療法GnRHアナログ製剤があります。GnRHアナログ製剤にはアゴニスト(受容体作動薬)とアンタゴニスト(受容体拮抗薬)が存在します。GnRHアゴニスト製剤は一月に一回の注射剤です。GnRHアンタゴニスト製剤は連日内服する薬剤です。半年間月経を止めることで、筋腫の縮小をはかります。ただし、この治療のみで筋腫を完全になくすことはできません。治療中は月経がとまるため、症状は軽減しますが、骨粗しょう症などの副作用のために半年しか継続できません。治療をやめると筋腫が再度増大します。また、人工的に閉経の状態にするために顔面のほてりやいらいらなどの更年期障害のような症状が出たり、骨量が減少したりすることもあります。 薬物療法で症状がとれない場合や、筋腫が不妊症の原因となっている場合には筋腫を取り除く手術療法が行われます。

子宮筋腫に対する内視鏡下手術

子宮筋腫の治療法として、上記のように薬物により症状を軽くしたり、月経を止めて一時的に筋腫を縮小させる方法がありますが、以下の場合には手術が必要になります。

  • 症状が強い場合
  • 大きな筋腫
  • 筋腫が不妊症の原因となっている場合

当科では筋腫の手術として、内視鏡下手術(腹腔鏡下手術、子宮鏡下手術)を積極的に行っています。筋腫に対する内視鏡下手術としては以下のようなものがあります。

  1. 腹腔鏡下筋腫核出術

    臍部に2cm程の傷をつけて、そこから腹腔鏡というカメラをいれて筋腫をくりぬく手術(核出術)を行っています。他に2~3箇所の1cmほどの小さな傷から、電気メスやはさみなどを入れて筋腫をくりぬきます。筋腫のくりぬきから子宮の縫合まですべて腹腔内で行います。くりぬいた筋腫は細かく切断して、傷から体外へ取り出します。筋腫だけをくりぬき、正常な子宮は残りますから、その後の妊娠も可能です。10cm大くらいまでの大きさの筋腫ならこの方法で手術が可能です。ただしすべて体内で手術を行うため、筋腫の大きさが大きい場合や、筋腫の数が多い場合は、出血量が多くなったり、手術時間が長くなったりするため、腹腔鏡補助下筋腫核出術が行われます。

  2. 腹腔鏡補助下筋腫核出術
    上記の手術の傷に、2~3cmの傷を加えてその傷から筋腫をくりぬきます。筋腫をくりぬいた後の子宮の縫合もその傷から行うことが可能です。傷はやや大きくなりますが、ほとんど目立たず、身体への負担も腹腔鏡下筋腫核出術とほぼ変わりありません。筋腫径が大きく、個数も多いときに行われる手術です。 腹腔鏡下手術は、手術後数日で退院が可能です。退院後も傷が小さいため、退院後数日で日常生活に戻ることが可能です。
  3. 腹腔鏡下子宮全摘術
    子宮筋腫のみ摘出した際は、子宮筋腫の再発という問題があります。今後、妊娠や出産を希望なされない方には、子宮を全摘する根治手術が選択されることがあります。腹腔鏡下子宮全摘は、1000gを越える子宮にも適応を拡大しており年々手術件数が増加しております。
  4. 腹腔鏡下筋腫核出術

    子宮の内側に飛び出した筋腫を粘膜下筋腫とよびますが、この粘膜下筋腫は子宮鏡という内視鏡を腟の方から子宮内に挿入して筋腫を削り取る手術が可能です。この手術は、お腹はもちろんどこにも傷をつけずに手術が可能です。また通常全身麻酔は必要とせず、腰椎麻酔といって、背中から針をさして下半身の痛みをとる局所麻酔にて手術が可能で、腹腔鏡下手術と比較しても術後の回復はさらに早まります。子宮の筋肉の中にできている筋腫には行うことができません。通常は3cmくらいまでの筋腫に対して手術が行われます。粘膜下筋腫でも5~6cm以上になると、一回では取りきれず数回にわけて切除が必要になることがあります。 子宮鏡下手術は、手術の翌日には退院が可能です。退院後数日で日常生活に戻ることが可能です。

  5. 開腹手術
    筋腫の大きさが10cmを超えるようなものや、数が多いものは内視鏡での手術が難しいため、お腹を切る手術(開腹手術)が行われます。 開腹手術でも筋腫核出術が可能ですが、もうお子さんをもうける予定がない場合には子宮を全てとる手術(子宮全摘術)が行われることもあります。 開腹手術の場合には、術後8から9日間の入院が必要になり、退院後も日常生活に戻るまでには1~2週間を要します。

子宮内膜症

子宮内膜症は、子宮内膜が本来あるべき場所(子宮の内側)以外の場所で増えてしまう病気です。卵巣に子宮内膜症が起こると卵巣内に血液がたまり腫瘍となります。これをチョコレート嚢腫と呼びます。子宮の筋層内に子宮内膜症が起こると、子宮筋層が厚く肥厚し、子宮が腫れ上がった状態になります。これを子宮腺筋症と呼びます。いずれも、病状が進むと激しい月経痛がおこります。月経の時以外でも腹痛が起きたり、排便痛や性交時痛の原因となります。 これらの痛みに対しては、症状が軽い場合は鎮痛薬を使用した対症療法が行われますが、症状が強い場合には排卵を止める薬物を使用した内分泌療法がより効果的です。

子宮腺筋症

子宮内膜症の薬物療法

  1. 低用量ピル

    微量のエストロゲンとプロゲステロンが一錠になったものを内服して、排卵を止めます。月経は毎月ありますが、子宮内膜が薄くなるため、出血量が少なく、出血時の痛みも軽くなります。子宮内膜症の症状コントロールや再発予防に有効で、これまでの中用量ピルよりも副作用が少ないことから注目されています。長期間の内服が可能ですが、子宮内膜症自体を治療するものではないため、内服を行っていても病変が進行する場合もあります。

  2. プロゲスチン
    合成プロゲステロンを内服して、排卵を止めます。月経も止まりますが、やや不正出血の頻度が高いといわれています。痛みを抑える効果と内膜症病変の縮小効果があるといわれています。この薬も長期間の内服が可能です。
  3. GnRH作動薬
    月経を止める薬物療法が行われます(GnRHアナログ製剤)。GnRHアナログ製剤にはアゴニスト(受容体作動薬)とアンタゴニスト(受容体拮抗薬)が存在します。GnRHアゴニスト製剤は一月に一回の注射剤や連日使用する点鼻薬です。GnRHアンタゴニスト製剤は連日内服する薬剤です。治療開始後、2ヶ月目にはほとんどの方の排卵が止まり、月経も止まります。内膜症病変の縮小効果が最も高い薬剤ですが、更年期症状や骨の量の減少をきたすことがあり、通常半年以上は使用されません。 子宮内膜症により生じる痛みに対する効果は、どの薬剤を使用しても8割から9割の方で痛みが軽減するといわれています。しかし、薬物の効果は使用をやめるとなくなってしまうため、終了後にプロゲスチンを内服することもあります。

子宮内膜症の腹腔鏡下手術

  • チョコレート嚢腫核出~癒着剥離~内膜症病変焼灼

    卵巣に子宮内膜症が起こると卵巣内に血液がたまり腫瘍となります。これをチョコレート嚢腫と呼びます。お腹の中を覆っている膜(腹膜)に内膜症が起こると、お腹の中で癒着がおこります。チョコレート嚢腫が6~7cm以上に大きくなる、癒着がひどくなると、痛みの程度も強くなります。また不妊症の原因になることもしばしばです。 このような患者様には、腹腔鏡による手術を行っています。 手術は、腹腔鏡により嚢腫だけを切除する嚢腫核出術、癒着を剥離する癒着剥離術、腹膜の病変を電気メスやレーザーメスで焼いてしまう焼灼術があり、患者様のお腹の中の状態により、こられを組み合わせて手術を行っています。 腹腔鏡下手術をした場合、手術後3日くらいで退院ができます。退院後数日で日常生活に戻ることが可能です。

卵巣嚢腫

卵巣嚢腫に対する腹腔鏡下手術

卵巣嚢腫(良性の卵巣腫瘍)のほとんどは(かなり大きなものでも)腹腔鏡での腫瘍をとることが可能です。手術の方法も卵巣を全部取ってしまうのではなく、腫瘍の部分だけを取って、正常卵巣の部分は残すことができますから手術後も卵巣は正常に機能します。 腹腔鏡下手術をした場合、手術後3日くらいで退院ができます。退院後数日で日常生活に戻ることが可能です。
腹腔鏡に関する情報は、低侵襲手術の項目を御覧ください。

低侵襲手術について

産婦人科領域では大きく分けて「腫瘍」「周産期」「生殖」「女性医学」4つのサブスペシャリィがあります。そして、そのすべての領域においての外科的治療(≒手術)の技術・知識が必要です。また、その領域および疾患によって適する手術方法は大きく変わってくるため、すべての領域において最低限の幅広い知識が求められます。昨今は、患者さんにとってより侵襲が低いだけではなく、効果的な手術というのが日々模索されています。

低侵襲手術

鏡視下手術の普及および拡大に伴い、根治性を担保しながらも身体的負担を軽減した術式を積極的に取り入れています。さらに、当院は日本婦人科腫瘍学会 婦人科腫瘍専門医と日本産科婦人科内視鏡学会 腹腔鏡技術認定医が在籍しています。そのため、悪性腫瘍に対する鏡視下手術の施設基準を満たしており、適応を満たしている悪性腫瘍の手術も積極的に低侵襲な鏡視下手術を実施しています。もちろん従来通り、良性疾患に対しても積極的に腹腔鏡手術を行っています。 以下に、鏡視下手術の適応となる代表的な婦人科疾患とその術式について提示します。 (代表例であり、症例毎に術式を検討しています。)

子宮内膜癌(子宮体癌) IA期 類内膜癌G1もしくはG2 ロボット支援下手術
子宮頸癌 IA2期、I B1期、I B2期の一部 腹腔鏡下手術
子宮内膜増殖症 子宮温存希望なし ロボット支援下手術、腹腔鏡下手術
子宮筋腫・子宮腺筋症 子宮温存希望なし 腹腔鏡下手術
子宮筋腫 子宮温存希望あり 腹腔鏡手術、腹腔鏡補助下手術
良性卵巣腫瘍 腹腔鏡手術、腹腔鏡補助下手術
子宮粘膜下筋腫 子宮温存希望あり 腹腔鏡手術、子宮鏡手術
子宮内膜ポリープ 子宮鏡手術

コロナ禍では緊急性の乏しい良性疾患の手術を待機していたため手術件数が減りましたが、徐々に手術件数が増えてきています。また、ロボット支援下手術の導入に伴い、腹腔鏡手術が減少しているようにも見えますが、両者を合わせた手術件数は例年変わりありません。従来開腹手術で行っていた症例も適応を拡大し、積極的に鏡視下手術で行っていこうと考えていますので、今後手術件数の増加を見込んでいます。 当院での低侵襲鏡視下手術のお話を聞いてみたい患者さんは是非お気軽に紹介受診してみてください。

手術件数の推移

腹腔鏡手術

婦人科のみならず、多くの診療科での低侵襲手術の代表例が腹腔鏡手術です。開腹手術で行われていた疾患を、徐々に腹腔鏡下で行うようになってきました。最大の特徴は手術の創部が非常に小さいことです。術後の疼痛などの患者さん負担も少ないため、当科では良性腹腔鏡手術後3日程度で退院することが多いです。 腹腔内を内視鏡で観察を行いながら、鉗子を用いて腹腔内操作をしています。一定の技術を要するため専攻医は日々ドライボックスでの鍛錬を要します。また、手術を行うにあたっては解剖の知識が必要不可欠です。開腹手術は数人の医師のみ腹腔内を覗き込むように行うため、手術を行いながら教育するのが難しいという状況でした。腹腔鏡手術はモニター数台を見ながら手術するため、一度の手術で多くの医師、研修医、学生を教育することが可能です。また動画を録画すれば、手術終わった後でも教育できるのが利点です。 当院は5名の腹腔鏡技術認定医が在籍しており、常に安全かつ確実な手術を提供できる体制を心がけていますが、同時に技術を後世に継承していくべく手術教育にも積極的に取り組んでいます。

指導を行いながら執刀する磯部教授と、その指導を受ける研修医・学生

ロボット支援下手術

婦人科では2018年4月より保険収載された、早期子宮体癌および一部の子宮良性腫瘍に対してロボット支援下手術を実施しています。当院には手術支援ロボットda Vinci Xi®(Intuitive社)を2台有しており、他の診療科と合同で運用しています。日本産科婦人科内視鏡学会では今後ロボット支援下技術認定制度が導入されます。当院では2名のロボット技術認定医が所属しております。腹腔鏡手術と比較したロボット支援下手術の利点・欠点は以下のとおりです。

利点
  • 3次元の高解像度画像
  • ズーム機能による拡大視効果
  • 自由度の高い多関節鉗子
  • 手振れ防止
  • 座って手術
欠点
  • 触覚の欠如→視覚で補う
  • 執刀医の知識・技量に大きく左右される

3D次元の高解像度の画質で関節機能のついた鉗子で操作するため、腹腔鏡手術では操作が困難だったものに対して容易に手技を遂行できるのが特徴です。しかし、腹腔鏡手術と同様に解剖の知識が必要であり、ロボット手術を安全に遂行するためには日々の鍛錬や教育はやはり必要不可欠です。

サージョンコンソール内で操作する執刀医と術野で操作する助手

腹腔鏡手術とロボット支援下手術の違い

腹腔鏡手術
ロボット支援下手術

子宮鏡手術

手術適応は限られてきますが、婦人科鏡視下手術の中で最も低侵襲と言っても過言ではないのでしょうか。子宮内膜病変を有する、不妊症・過多月経などが良い手術適応と思います。具体的には子宮粘膜下筋腫・子宮内膜ポリープが代表的な対象疾患です。手術前日もしくは当日入院し、術後1日で退院可能です。 不妊症の原因となる疾患に対する手術を行うことを「生殖外科」と近年言われるようになり、子宮鏡手術は生殖外科領域でとても重宝されています。子宮内膜ポリープが原因と考えられる不妊症症例では、退院後から生殖補助医療を開始しても問題ないとされています。(当院では術後1ヶ月経過し経過に問題なければ妊娠許可しています。) レゼクトスコープという、内視鏡(硬性鏡)に電極を装着し、生理食塩水で子宮内を灌流・観察を行いながら手術を行います。経腟的に行う手術であり、腹部に手術創部切開を一切行いません。子宮筋腫に対して開腹および腹腔鏡で手術を行うと、正常子宮筋層に切開をせざるを得ないため、術後妊娠した際は子宮破裂を回避するため帝王切開での分娩を勧めていますが、子宮鏡下で手術を行なうと正常筋層への損傷を来さないため、経腟分娩が可能なことが多いです。 子宮鏡手術特有の合併症(水中毒・子宮穿孔など)や、子宮鏡手術特有の技術・知識が必要です。当院は日本産科婦人科内視鏡学会 子宮鏡技術認定医が在籍しており、当院での子宮鏡手術の普及とともに、やはり手術教育も積極的に取り組んでいこうと考えています。

子宮鏡手術
子宮鏡手術中