岐阜大学医学部附属病院|精神科

食習慣は、統合失調症(SCZ)および双極症(BD)の予防および疾患管理に影響を与える可能性があり、遺伝的および環境的要因がこれらの習慣と疾患の両方に影響を及ぼすことが考えられます。本研究では、生活習慣病を持つ高齢者における現在の食習慣に対するSCZおよびBDの遺伝的素因の影響を検討しました。何らかの生活習慣病と診断された、もしくはその疑いのある高齢患者730名を対象に、味噌汁、緑茶、緑黄色野菜、淡色野菜、果物、漬物、肉、大豆の8つの食事カテゴリーについて現在の摂取頻度を評価しました。さらに、同時に採取した血液から、SCZおよびBDのリスクに対するポリジェニックリスクスコア(PRS)、BDのタイプIおよびII、SCZとBDの共有リスク、SCZとBDの判別に関するPRSを、大規模なゲノムワイド関連研究(GWAS)のデータを利用して算出しました。
結果、SCZおよびBDのリスクに対するPRSが特定の食習慣に大きく影響を与えることが明らかになり、特に淡色野菜や大豆などの栄養価の高い食品の摂取量の減少していることが確認されました。また、BD IとBD IIのPRSにおける食事への影響には顕著な差異が見られ、BDではより強い影響が認められました。さらに、SCZとBDの共有遺伝的要因は、味噌汁、緑茶、淡色野菜、大豆の摂取量の減少と相関していました。一方、SCZとBDの区別に関するPRSと食事パターンとの間には有意な相関は認められませんでした。
本研究結果は、個人が保有しているSCZおよびBDに対する遺伝的リスクが高齢者の食習慣に影響を及ぼす可能性を示唆しており、食習慣の見直しが、SCZおよびBDの発症予防や、これらの疾患を持つ、またはリスクを有する個人の治療に有効かもしれないことを示しています。

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統合失調症とアルツハイマー病(AD)は、進行性の認知機能障害と脳の構造的変化を特徴とする異なる精神神経疾患です。統合失調症は通常、思春期や青年期に出現し、幻覚や妄想、認知機能障害などの症状を伴いますが、ADは主に高齢者に発症し、進行性の記憶障害、認知機能の低下、行動変化を引き起こします。妄想症は、しばしば後年に発症し、統合失調症といくつかの特徴を共有しているため、統合失調スペクトラム症と見なされています。統合失調症や妄想症の患者、特に女性や65歳以上の高齢者は、後にADを発症するリスクが高いとされています。一方で、AD患者のおよそ30%が精神病症状を示し、これが認知機能の低下を加速させ、さまざまな健康状態の悪化を引き起こします。
本総説では、統合失調スペクトラム症とADの間に存在する遺伝的重複を探り、共有される可能性のある遺伝的要因を特定することを目的としました。統合失調症とADの遺伝的相関は弱いながらも正の相関を示し(rg=0.03–0.10)、統合失調症とADに対するポリジェニックリスクスコア(PRS)は、いくつかの遺伝的素因を示しているものの、研究間で結果が一致していません。例えば、統合失調症やADに対するPRSは、AD患者における精神病発症リスクと関連していることが報告されています。また、さまざまな神経発達症や精神疾患に対するPRSが高いことは、統合失調症の発症年齢の早期化と相関していました。今後の研究課題としては、統合失調症に対するPRS-ADの影響、晩発性の妄想症とADの遺伝的相関、そしてADへの進行リスクが高い遅発性統合失調症(LOS)とADの遺伝的関連に関する研究が挙げられます。これらの遺伝的重複に関するさらなる研究が、両疾患患者の予防、治療、予後の改善に重要であることが示唆されます。

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日本精神神経学会の英文機関誌であるPsychiatry and Clinical Neurosciences (PCN)は、1933年創刊の歴史ある精神医学専門誌になります。PCNの世界的な評価は年々高まり、PCNの世界的な評価は年々高まり、2023年のImpact Factorは5.0と、Psychiatry分野においてトップ12.5%で、4年連続してトップランクのQ1に位置づけられています。大井一高 准教授はPCNに投稿された論文の査読者としての貢献が評価されPCN Reviewer Awards 2023を受賞されました。

社交不安症(SAD)およびパニック症(PD)は、遺伝的要因と環境的要因の複雑な相互作用によって特徴づけられる一般的な不安症です。両疾患は共通する特徴を共有しつつも、異なる特性を持ち、しばしば併存します。幼少期の逆境体験、全般的なストレスの多い生活出来事、および遺伝的要因がこれらの疾患の発症に寄与すると考えられています。さらに、DNAメチル化というエピジェネティックな修飾が、これらの疾患の病因に関与していると考えられています。

本研究では、SADのリスク、社会不安の重症度、幼少期の逆境体験、PDのリスク、および全般的なストレスの多い生活出来事に対する全ゲノムDNAメチル化リスクスコア(MRS)が、SADまたはPDのcase-control状態と関連しているかどうかを検討しました。SADのリスク、社会不安の重症度、幼少期の逆境体験に対する予備的なエピゲノムワイド関連解析(EWAS)は、SAD患者 66名および健常対照者(HC) 77名で実施しました。同様に、PDのリスクおよび全般的なストレスの多い生活出来事に対するEWASは、PD患者 182名およびHC 81名で実施しました。これらのEWASからMRSを算出しました。SADのリスクおよび社会不安の重症度のEWASから得られた社交不安に関わるMRSは、PD患者においてHCよりも高い値を示しました。また、PD患者における全般的なストレスの多い生活出来事のEWASから得られたPD患者のストレス体験に関わるMRSは、SAD患者ではHCよりも低い値を示しました。

本研究結果は、両疾患に共通するエピジェネティックな特徴と、SAD患者における社会的回避に関連する特有のエピジェネティックな特徴を示唆しており、不安症のエピジェネティックな基盤を解明するのに役立つ可能性があることを示唆しています。

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適応障害には、抑うつ気分を伴う適応障害、不安を伴う適応障害、および行動の障害を伴う適応障害の3つの主なサブタイプがあります。この障害は遺伝的に中程度の遺伝性があり、一生涯にわたってうつ病(MDD)、不安症、リスク許容性性格傾向と併存することがあります。しかし、適応障害と他の精神疾患や中間的表現型との遺伝的相関の程度が、MDD、不安症、リスク許容性性格傾向とこれらの他の精神疾患および中間的表現型との遺伝的相関の程度と類似しているのか異なっているのかは、依然として不明でした。
遺伝的相関のパターンを比較するために、適応障害関連の疾患と性格特性、他の11個の精神疾患、15個の中間表現型に関する大規模なゲノムワイド関連研究(GWAS)の要約統計量を利用しました。その結果、適応障害は、MDD、不安症、リスク許容性と高い正の遺伝的相関を示しました。他の精神疾患においては、適応障害、MDD、不安症、リスク許容性性格傾向は、統合失調症(SCZ)、双極症(BD)、SCZ+BD、注意欠如多動症、Cross-disordersとのリスクと正の相関がありました。しかし、適応障害は、MDDや不安症と有意な遺伝的相関があるにもかかわらず、強迫症、トゥレット症候群、心的外傷後ストレス障害のリスクとは、有意な相関が見られませんでした。中間表現型に関しては、適応障害、MDD、不安症、リスク許容性性格傾向は共通して、初性交、初産、閉経の年齢が若いこと、認知能力が低いこと、喫煙開始率が高い遺伝的相関を示しました。適応障害は外向性とは遺伝的相関がありませんでしたが、適応障害と関連する疾患やリスク許容性性格傾向は外向性と相関していました。喫煙量が多いことについては、適応障害だけが遺伝的に相関していました。
この研究結果から、適応障害はMDD、不安症、リスク許容性パーソナリティ特性と遺伝的病因を共有している可能性がある一方で、適応障害に特異的な遺伝的病因も持っている可能性を示唆しています。

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統合失調症(SZ)と双極症(BD)の発症には遺伝的および環境的要因が関与しています。SZ、BD、SZ対BDのポリジェニックリスクスコア(PRS)の十分位数の組み合わせで層別化された遺伝的リスクグループの中で、遺伝的SZリスク群はSZのリスクが高く、顕著な認知障害が見られています。一方で、これらの疾患にはエピジェネティックな変化も関与していることが示されています。しかし、血液や脳組織から得られたSZリスクのDNAメチル化リスクスコア(MRS)が、PRSで層別化された遺伝的SZリスク群のSZリスクと関連しているかどうかは明らかではありませんでした。
本研究では、SZ、BD、及びSZ対BDのPRSの組み合わせで層別化したSZとBDの遺伝的リスクが低い健常者(HC)30例とSZ患者11例、遺伝的BDリスクが高いSZ患者25例、遺伝的SZリスクの高いSZ患者30例のグループの間で、全血におけるSZリスクに関するエピゲノムワイド関連研究(EWAS)を予備的に実施しました。次に、全血、死後の前頭皮質(FC)および上側頭回(STG)でのSZリスクのEWASに基づくMRSの差異を、ケースコントロール(SZ 66例対HC 30例)およびPRSで層別化した遺伝的リスク群間で検討しました。
ケースコントロール群および遺伝的リスク群間で、それぞれ33個と351個のゲノムワイド有意なメチル化部位(DMP)がSZと関連して同定され、その多くは高メチル化されていました。遺伝的リスクの低いHC群と比較して、遺伝的SZリスク群のSZ患者では39個のゲノムワイド有意なDMPが確認されましたが、遺伝的BDリスク群のSZ患者では6個のみでした。全血、FC、STGから得られたSZリスクのMRSは、抹消血においてHCよりSZ患者で高く、特に遺伝的SZリスク群のSZ患者では、低遺伝的リスク群のHCや遺伝的BDリスク群のSZ患者より高い値を示しました。また、遺伝的リスク群間の末梢血のEWASに基づくSZリスクのMRSは、FCおよびSTGのSZリスクとも関連していました。MRSとPRSの間には相関は認められませんでした。
この研究結果から、MRSが統合失調症を理解する上で、特に遺伝的SZリスクを有する患者において潜在的な遺伝的マーカーである可能性が示唆されます。

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パニック症は30‐40%の遺伝率を示す精神疾患です。現在、診断は臨床症状のみに基づいて行われており、客観的なバイオマーカーを同定とより信頼性の高い診断手順を確立が望まれています。
この研究では、機械学習技術を活用し、精神疾患とその中間表現型に関する単一のポリジェニックスコア(PGS)と比較し、複数のPGSの組み合わせがパニック症患者の信頼性の高い診断に役立つかを検討しました。大規模ゲノムワイド関連研究(n=7556–1,131,881)に基づき、48種類の精神疾患および中間表現型のPGSを、パニック症患者718例と健常対照者1,717例で算出しました。パニック症患者と健康者の判別は、ロジスティック回帰、ニューラルネットワーク、二次判別分析、ランダムフォレスト、サポートベクターマシンの5つの判別器を使用し、48種類のPGSに基づいて行いました。PGSの組み合わせ数を増やすことによる判別精度(曲線下面積;AUC)の差と、5つの判別器間の精度の違いを検討しました。
5つの判別器はいずれも、PGSの数を増やすことにより、パニック症患者と健常者の判別する機能が比較的良好でした。48のPGSの中で、特にUK Biobank(UKBB)に基づく不安症のPGSが判別に最も有用でした。2つまたは3つのPGSの組み合わせにおいても、すべての判別器においてUKBB不安症のPGSが含まれていました。全48のPGSを組み合わせた場合、5つの判別器間で有意に異なるAUCが得られました。サポートベクターマシンとロジスティック回帰は、2次判別分析とランダムフォレストよりも高い精度を示しました。それぞれの判別器において最大のAUCは、ロジスティック回帰(PGSの組み合わせ数 N=14)で0.600±0.030、ニューラルネットワーク(N=9)で0.591±0.039、2次判別分析(N=10)で0.603±0.033、ランダムフォレスト(N=25)で0.572±0.039、サポートベクターマシン(N=11)で0.617±0.041でした。最良のPGSの組み合わせでのAUCは、5つの判別器間で有意に異なりました。ランダムフォレストは判別器の中で最も低い精度を示し、サポートベクターマシンはニューラルネットワークよりも高い精度を示しました。
本研究結果から、PGSの組み合わせ数を約10まで増やすことが判別精度を効果的に向上させること、またサポートベクターマシンが判別機の中で最も高い精度を示すことを示唆しています。しかし、パニック症の診断においてPGS組み合わせだけに基づく判別精度は限定的であることが明らかになりました。

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日本精神神経学会の英文機関誌であるPsychiatry and Clinical Neurosciences (PCN)は、1933年創刊の歴史ある精神医学専門誌になります。PCNの世界的な評価は年々高まり、2021年のImpact Factorは12.145に達しています。大井一高 准教授はPCNに投稿された論文の査読者としての貢献が評価されPCN Reviewer Awards 2022を受賞されました。

https://www.med.gifu-u.ac.jp/alumni/about/history.html#rekidai4
2023年5月20日に開催された岐阜大学医学部同窓会総会にて、大井一高 准教授が令和5年度岐阜医学奨励賞を受賞し、「生殖行動と不安関連疾患間に共通する遺伝基盤の解明」という演題名で受賞講演を行いました。

Wuらの論文「Investigating the relationship between depression and breast cancer: observational and genetic analyses. BMC Med. 2023;21(1):170.」に対するCommentaryとして、うつ病と乳がん間の遺伝的共通性や因果関係についてまとめた論文である。
疫学的にうつ病患者は乳がんを罹患しやすい一方で、乳がん患者もうつ病を罹患しやすいことが知られている。遺伝学的には、うつ病、乳がんともに中等度の遺伝的な素因(遺伝率4割程度)が関わっており、うつ病と乳がん間の遺伝的相関は軽度(rg = 0.08)であることを示している。因果関係については、うつ病が乳がんに対する因果関係があるのに対して(オッズ比 = 1.09–1.12)、乳がんはうつ病に対する因果関係を認めなかった(オッズ比  = 1.00–1.01)。これらの研究結果は、乳がん患者がうつ病を併存するメカニズムは環境要因に寄与するものが大きく、うつ病患者が乳がんを罹患しやすいメカニズムには慢性炎症など生物学的要因が関わっている可能性を示唆している。

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https://onlinelibrary.wiley.com/page/journal/2574173x/homepage/reviewer_awards
Neuropsychopharmacology Reports (NPPR)はJSNP機関誌・日本神経精神薬理学雑誌をリニューアルした英文オープンアクセス誌になります。大井一高 准教授はNPPRに投稿された論文の査読者としての貢献が評価されNPPR Reviewer Awards 2022を受賞されました。

生殖行動は、精神疾患のリスクとの関連がある。生殖行動と関連する表現型は中程度の遺伝性を呈し、精神疾患のリスクと遺伝的に重複する部分が認められている。しかし、不安関連障害や特定の不安症と生殖関連行動間における遺伝的関連や因果関係はよく分かっていなかった。
本研究では、5つの生殖関連行動(初潮年齢、初性交年齢、初産年齢、生涯出生児数、閉経年齢)および5つの不安関連障害 [パニック症、ANGSTおよびUK Biobank (UKBB)の不安症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、強迫症]の大規模ゲノムワイド関連解析(GWAS)結果を利用した。これらの表現型間における遺伝的相関や因果関係をそれぞれLD Score Regression解析とメンデルランダム化解析にて評価した。
初性交年齢と初産年齢は不安症ANGST、不安症UKBBおよびPTSDのリスクと遺伝的に負の相関を示し、強迫症のリスクと遺伝的に正の相関を示した。その一方で、生涯出生児数は強迫症のリスクと遺伝的に負の相関を示した。さらに、メンデルランダム化解析により、初性交年齢と初産年齢が早期であることと、不安症の発症リスク間には双方向性の因果関係があることを明らかにした。一方、強迫症の発症リスクに対しては、初性交年齢と初産年齢の遅さが強迫症の発症リスクに一方向性の因果関係があることを明らかとした。
本研究結果は、性交体験や出産が早期の人は不安症のリスクを抱えやすく、逆に、性交体験や出産が遅い人は遺伝的に強迫症のリスクを抱えやすいことを示唆している。本研究結果は、強迫症は不安症とは独立した疾患であるという精神科診断基準の改訂(DSM-IVからDSM-5への改訂)をさらに支持するものである。

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統合失調症(SCZ)および双極性障害(BD)では、共に認知機能の障害が認められるが、SCZリスクと認知機能障害間の遺伝的共通性から支持されるように、認知機能障害の程度はSCZの方がより顕著である。しかし、SCZやBDの遺伝的リスクの高い人と低い人の間で、認知機能に違いがあるかどうかは、これまで不明であった。
本研究では、最新のPsychiatric Genomics Consortium(PGC)データを用いて、SCZ患者173名、非罹患第一度近親者70名、健康対照者196名のPGC3 SCZ-, PGC3 BD-, SCZ vs. BD- polygenic risk score(PRS)を算出した。3つのPRS十分位の組み合わせに基づき、遺伝的SCZ高リスク群、遺伝的BD高リスク群、遺伝的SCZ・BD低リスク群のヒトを同定した。認知機能は、Brief Assessment of Cognition in Schizophreniaを用いて評価した。
SCZ-、BD-、SCZ vs. BD-PRSはSCZと関連し(R2 = 0.020-0.061)、さらにSCZ-PRSは非罹患第一度近親者とも関連していた(R2 = 0.023)。SCZ-PRSの最高十分位のヒトは、最低十分位のヒトと比較して、BD-PRS[オッズ比(OR)=6.33]およびSCZ vs. BD-PRS[OR=1.86]が上昇した。3つの遺伝的リスク群のうち、遺伝的SCZ・BD低リスク群にはより多くの健康対照者が含まれ、遺伝的BD高リスク群とSCZ高リスク群にはより多くのSCZ患者が含まれていた。SCZ患者は広範な認知機能障害を認め、非罹患第一度近親者はSCZ患者と健康対照者の中間の認知機能障害を認めた。遺伝的低リスク群の健康対照者と遺伝的BDまたは遺伝的SCZ高リスク群のSCZ患者との認知機能の差は、どの遺伝的リスク群にも属さない健康対照者とSCZ患者との差よりも顕著であった(Cohen'd>-0.20)。さらに、遺伝的SCZ高リスク群のSCZ患者は、遺伝的BD高リスク群のSCZ患者と比較して、言語流暢性と注意機能が低かった(d>-0.20)。
本研究結果は、SCZにおける認知機能障害は、BDではなくSCZの遺伝的要因が部分的に介在していることを示唆している。

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2022年6月16日~18日に福岡国際会議場 (現地・WEB)にて開催された第118回日本精神神経学会学術総会において、優秀発表賞、精神神経学雑誌投稿奨励賞、2021 PCN Reviewer Awardsの3賞を同時に受賞しました。
優秀発表賞は、学術総会時にすぐれた演題を若干数選考し授与する賞であり、精神神経学雑誌投稿奨励賞は、学術総会の一般演題の中から優秀な発表を顕彰し、精神神経学雑誌への投稿を促し、精神医学の発展に寄与することを目的とするもの、PCN Reviewer Awardsは、学会英文機関誌Psychiatry and Clinical Neurosciences(PCN)誌において、専門的な知識と経験を活かしてPCN誌の査読に尽力し、その発展に著しく貢献した査読者を表彰するものになります。
第118回日本精神神経学会では、「ポリジェニックリスクスコア、海馬体積および認知機能に基づく統合失調症と双極症の鑑別手法の開発」というタイトルにて講演を行いました。

2022年3月20日~3月21日に東京大学(Web)にて開催された第16回日本統合失調症学会において、国際学会発表奨励賞を受賞しました。
国際学会発表奨励賞は、Schizophrenia International Research Society(SIRS)の年次大会などにおいて研究発表を行う研究者を対象に選考される賞です。対象となった2020 Congress of the Schizophrenia International Research Society(2020年4月4-8日、フィレンツェ)は、世界的なCOVID-19流行により残念ながら中止となってしまいましたが、発表内容はwebで公開されました。第16回日本統合失調症学会では、国際学会発表奨励賞受賞者セッションにて「Polygenetic Risk Scores for Major Psychiatric Disorders Among Schizophrenia Patients, Their First-Degree Relatives and Healthy Subjects」というタイトルで受賞講演を行いました。

統合失調症と双極性障害の患者は、臨床的・遺伝的な類似性はあるものの、2つの疾患は臨床的な非類似性を持つ異なる診断名である。統合失調症と双極性障害の間で皮質下体積に特異的な違いがあるかどうか、また皮質下体積の差異に何らかの臨床的特徴が影響しているかどうかについては、不明であった。
本研究では、統合失調症患者157名、双極性障害患者51名、健常対照者205名における皮質下体積の差異を検討した。また、患者群における特定の皮質下体積変化に対する臨床的特徴の影響についても検討した。3T T1強調画像を、FreeSurfer v6.0を用いて処理し、視床、尾状核、被殻、淡蒼球、海馬、扁桃体、側坐核の皮質下体積を抽出した。
皮質下7領域のうち、統合失調症患者は健常者と比べ、左視床、両側海馬、左扁桃体の体積が有意に減少していた。双極性障害患者では、健常者と比較して、両側の海馬体積のみの減少を認めた。さらに、統合失調症患者は双極性障害患者に比べ、両側の扁桃体積が有意に減少していた。左扁桃体積の小ささは、統合失調症患者においてのみ発症年齢の若さと有意な相関を示した。
本研究結果より、統合失調症患者と双極性障害患者における扁桃体体積の差異は、臨床的・遺伝的に類似した2つの診断を区別するための有用なバイオマーカーとなりうる可能性を示唆している。

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双極性障害患者(BD)では、タバコの喫煙が多くみられる。喫煙行動と双極性障害のリスクに関連する脳の構造変化は、磁気共鳴画像法(MRI)研究によって示されている。しかし、喫煙行動と双極性障害に共通する脳皮質変化については、不明であった。
本研究では、喫煙行動と双極性障害に共通する脳皮質変化を明らかにすることを目的とした。FreeSurferを用いた3T MRIによる脳皮質の厚さと表面積の指標を、健常非喫煙者(HC)166人、健常喫煙者39人、双極性障害非喫煙者33人、双極性障害喫煙者18人から取得した。双極性障害患者を非喫煙者と喫煙者に分類するために、脳皮質構造を予測因子とするステップワイズ判別関数分析を行った。次に、抽出した脳皮質構造を予測因子とする判別関数分析を行い、喫煙の有無または双極性障害診断の有無を判別した。4群間において選択された脳皮質構造の差異を検討した。
最初の判別分析の結果、双極性障害患者において6つの脳皮質特徴によって非喫煙者と喫煙者を判別可能であることが示された。また、双極性障害の喫煙状況と関連する6つの脳皮質構造は、健常者と双極性障害患者間、健常非喫煙者と双極性障害喫煙者の間でも判別可能であった。6つの特徴のうち、左島皮質厚は喫煙の有無と双極性障害診断の相加効果を示した。
本研究結果は、喫煙行動と双極性障害リスクに島皮質厚が共通して神経生物学的に関与していることを示唆している。

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統合失調症と双極性障害は、臨床的に類似点と非類似点を示す。本研究では、統合失調症と双極性障害を区別する遺伝的要因が、認知機能や海馬体積と遺伝的に関連しているかどうかを検討した。統合失調症と双極性障害を区別する遺伝的因子と、全般適認知機能、小児期IQ、教育達成度、海馬体積との遺伝的相関を明らかにした。全般的認知機能の低さおよび海馬体積減少との遺伝的相関は統合失調症のリスクと関連し、小児期IQの高さおよび教育達成度の高さとの遺伝的相関は双極性障害のリスクと関連していた。本研究結果は、これらの疾患には臨床的表現型に関連した疾患特異的な遺伝的要因があることを示唆している。

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統合失調症患者は、健常者と比較して特徴的な性格特性を有している。健常者において神経症傾向のゲノムワイド有意な遺伝子多型がいくつか報告されているが、これらの神経症傾向関連遺伝子多型と統合失調症患者における5因子性格特性との関連は、明らかではなかった。本研究では、統合失調症患者107例と健常対照者119例を対象に、神経症傾向と関連する9つの独立したゲノムワイド有意な遺伝子多型が、NEO Five-Factor Inventory(NEO-FFI)で評価した5因子性格特性(神経症傾向、外向性、開放性、調和性、誠実性)に対してどのような影響を及ぼすかを検討した。
これまでの報告の通り、統合失調症患者は健常者に比べ、神経症傾向が有意に高く、外向性、開放性、調和性、誠実性が低かった。神経症傾向と関連する9つの遺伝子多型のうち、低い神経症傾向と関連するrs4653663のTアレルは、統合失調症患者および全被験者で低い神経症傾向と有意に関連していた。さらに、他の性格特性のうち、この遺伝子多型は、全被験者においてより高い調和性、統合失調症患者においてより高い誠実性、健常者ではより低い誠実性、統合失調症患者と全被験者では高い外向性と関連していた。
本研究結果より、ゲノムワイド有意な神経症関連遺伝子多型が、統合失調症における神経症傾向だけでなく、他の性格特性とも関与している可能性を示唆している。

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知的機能(知能)は統合失調症(SCZ)および双極性障害(BD)のリスクと逆相関しているが、知能低いことが発症の原因なのか、発症後の結果なのかはこれまで不明であった。本研究では、知能とSCZリスク、BDリスク、SCZとBDの共有リスク、SCZ特異的リスクとの因果関係について検討した。因果関係を推定するために、5つのGWAS[知能、SCZ vs. 健常者(CON)、BD vs. CON、SCZ+BD vs. CON、SCZ vs. BD]の要約データセットを活用して、一般化要約データに基づくメンデルランダム化解析を行った。
SCZとBDのリスクには強い双方向の関連が認められた。知能の低さとSCZリスクの高さは双方向に関連したが、低い知能がSCZリスクに及ぼす効果の方が、SCZ発症が知能低下に及ぼす影響よりも強かった。さらに、知能の低さは、SCZとBDの共有リスクおよびSCZ特異的リスクに影響を及ぼしたが、SCZとBDの共有リスクとSCZ特異的リスクでは、共有リスクのみ知能低下に弱く影響を及ぼしていた。一方、知能とBDリスク間には有意な因果関係は認められなかった。
本研究結果は、SCZ患者が病前知能より障害を認め、さらに知能の低下を呈するという観察研究を支持するものである。さらに、SCZとBDに共通する因子は、病前知能障害と知能低下の両方に寄与している可能性があるが、SCZに特異的な因子は病前知能障害の影響を受けている可能性があることを示唆している。我々は、これらの遺伝的要因をもとに、統合失調症患者を認知機能障害SCZまたはBDサブタイプに分類する意義を提唱している。

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ブロナンセリンは、統合失調症の第2世代抗精神病薬である。ブロナンセリンには、経口錠剤・散剤と経皮吸収型テープ製剤の2種類の投与経路がある。本研究では、52週非盲検試験のpost-hoc解析として、統合失調症患者においてブロナンセリン経口錠剤・散剤から経皮吸収型テープ製剤への切り替えが、血中薬物動態の安定に基づき錐体外路症状(EPS)や抗パーキンソン薬の投与量の軽減に寄与するかを検討した。統合失調症患者155例をコホート1または2のいずれかに登録した。コホート1(n=97)では、ブロナンセリン錠剤8~16mg/日を6週間服用後、錠剤の服用量をもとにテープ製剤の用量を決定して、40~80mg/日の経皮テープ製剤を1年間服用した。コホート2(n=58)では、ブロナンセリン錠剤/粉末を服用後、全例がブロナンセリンテープ製剤40mg/日から開始し、テープ製剤40~80mg/日を1年間使用した。経皮吸収型テープ製剤治療開始から3、6、12ヵ月後のEPSの変化と抗パーキンソン薬の投与量は、それぞれDrug-Induced EPS Scale(DIEPSS)およびBiperiden equivalents of total antiparkinsonian drugs(BPD-eq)を用いて評価した。
155名の統合失調症患者のうち、テープ製剤期間中にEPSのために治療を中断した患者は、コホート1の4名のみであった。DIEPSSの総スコアは、テープ製剤を開始からどの時点でも改善を認めた。一方、BPD-eqは、いずれの時点においてもテープ製剤開始時からの有意な変化を認めなかった。
本研究結果より、ブロナンセリンの経皮吸収型テープ製剤は、経口錠剤・散剤よりもEPSを減少させる効果的な投与経路であることを示唆している。

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2021年5月22日~6月21日に北海道大学(Web)にて開催された第13回日本不安症学会 学術大会において、第1回日本不安症学会学術賞を受賞しました。
日本不安症学会学術賞は、不安症、強迫症、ストレス関連障害など関連領域の医学の進歩に最も貢献した、賞の名にふさわしい研究論文を執筆した筆頭著者に授与されるもので、European Neuropsychopharmacology誌に掲載された論文「Shared transethnic genetic basis of panic disorder and psychiatric and related intermediate phenotypes」が評価され受賞しました。学術大会では、「日本人パニック症と欧米人精神疾患や中間表現型間における民族間差異を超えた遺伝的要因の共通性」というタイトルで受賞講演を行いました。

うつ病、双極性障害、統合失調症は、知的機能の障害を認める。知的機能障害は、不良な機能的転帰の予測因子となり得るとことが示されている。しかし、これまで、各疾患間における知的機能低下(病前推定IQから現在のIQへの低下)の程度や、知的機能低下に影響を及ぼす臨床の要因はよく知られていなかった。
本研究では、うつ病患者45例、双極性障害患者30例、統合失調症患者139例および健常者135例において、病前推定IQ、現在のIQおよび知的機能低下の程度の比較検討を行った。さらに、各疾患において、知的機能低下に影響を及ぼす臨床的な要因の検討を行った。
うつ病、双極性障害、統合失調症、健常者間で病前推定IQ、現在のIQおよび知的機能低下の程度に群間の差異を認めた。健常者と比較して、どの疾患群においても病前推定IQと現在のIQの低下や、より強い知的機能の低下を認めた。疾患間の比較では、統合失調症患者は、うつ病や双極性障害患者と比較して、病前推定IQと現在のIQの低下およびより強い知的機能の低下を認めたが、うつ病と双極性障害患者間では、それらの知的機能の差異を認めなかった。双極性障害を、双極Ⅰ型障害と双極Ⅱ型障害に分けた場合、知的機能低下の程度は、双極Ⅰ型障害は統合失調症と、双極Ⅱ型障害はうつ病と類似していた。統合失調症と双極性障害患者では、教育年数の低さが知的機能低下の強さと相関していたが、うつ病患者はそのような相関を認めなかった。
本研究結果より、うつ病、双極性障害、統合失調症全ての精神疾患で知的機能の低下を認めるが、疾患間で知的機能低下の程度に差異があることを明らかにした (統合失調症、双極Ⅰ型障害>双極Ⅱ型障害、うつ病>健常者)。また、双極性障害と統合失調症患者において、教育年数の高さは認知的予備力として、知的機能低下に対して保護的に働くかもしれないことを示唆している。

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睡眠障害は、精神疾患や神経発達症において共通する症状であり、特に小児期において、精神症状に先行して出現する。しかし、これまでに精神疾患や神経発達症に関わる遺伝因子が同定されつつあるが、各疾患に関わる遺伝要因が小児期の睡眠障害に及ぼす影響はいまだ解明されていなかった。
本研究では、ポリジェニックリスクスコア解析を用いて、精神疾患や神経発達症に関わる遺伝因子が幼少期の睡眠障害と関連するかを検討した。ポリジェニックリスクスコアを算出するために、自閉スペクトラム症、統合失調症、注意欠如多動症、うつ病、双極性障害といった5つの疾患の大規模全ゲノム関連解析 (GWAS)データと、さらに追加で不安症の大規模GWASデータを用いた (n = 46,350-500,199)。米国のAdolescent Brain Cognitive Development (ABCD)研究より9歳から10歳の小児から (n = 9683)、各疾患に起因するポリジェニックリスクスコアを算出した。Sleep Disturbance Scale for Children (SDSC)という質問紙を用いて、小児期の睡眠障害の程度を評価した。9歳から10歳の小児において、各疾患に起因するポリジェニックリスクスコアが、SDSCの総スコアや6つのサブスコアに及ぼす影響を検討した。
5つの疾患に起因するポリジェニックリスクスコアの中で、注意欠如多動症とうつ病に起因するポリジェニックリスクスコアは、小児期の睡眠障害と関連していた。SDSCの6つのサブスコアのうち、注意欠如多動症に起因するポリジェニックリスクスコアは、入眠・睡眠維持障害と過眠症の2つと関連していた。うつ病に起因するポリジェニックリスクスコアは、主に入眠・睡眠維持障害、続いて過眠症や睡眠時多汗症と関連していた。不安症はうつ病と遺伝的共通性が強いにも関わらず、不安症に起因するポリジェニックリスクスコアは、うつ病とは異なり、覚醒障害・悪夢と関連していた。
本研究結果は、注意欠如多動症、うつ病、不安症など特定の疾患に罹患しやすい遺伝素因を保有していると、小児期に特定の睡眠の問題を来たし易い可能性を示唆している。

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統合失調症と双極性障害は、疾患間における臨床的および遺伝的な類似性を認めるにも関わらず、知的機能の障害は双極性障害患者よりも統合失調症患者で顕著である。これまでに、統合失調症から双極性障害を鑑別可能な遺伝因子(統合失調症に特異的な遺伝因子)が同定されている。我々は、これまでに、その統合失調症に特異的な遺伝因子に起因するポリジェニックリスクスコアが、健常者よりも統合失調症患者で高いことを示している。しかし、その統合失調症に特異的な遺伝因子が知的機能に及ぼす影響はよく分かっていなかった。
本研究では、統合失調症患者と健常者において統合失調症に特異的な遺伝因子が知的機能障害と関連しているかを検討した。ポリジェニックリスクスコアを算出するために、統合失調症と双極性障害の比較、小児期の知的機能および成人期の知的機能の大規模全ゲノム関連解析 (GWAS)データ (n=12,441-282,014)を用いた。これらGWASに起因するポリジェニックリスクスコアを130例の統合失調症患者と146例の健常者において算出した。病前推定IQ、現在のIQおよび知的機能低下の程度を、統合失調症患者と健常者において測定した。さらに、ポリジェニックリスクスコアと知的機能の相関を検討した。
統合失調症に特異的な遺伝因子に起因するポリジェニックリスクスコアが高いと、統合失調症患者と健常者共に、病前推定IQが低かった。統合失調症に特異的な遺伝因子に起因するポリジェニックリスクスコアは、現在のIQや知的機能低下の程度とは有意に相関していなかった。一方で、小児期のIQに起因するポリジェニックスコアは、健常者に比べて統合失調症患者で低かったが、小児期のIQに起因するポリジェニックスコアは病前推定IQ、現在のIQ、知的機能低下の程度や統合失調症に特異的な遺伝因子に起因するポリジェニックリスクスコアとは有意に相関していなかった。
本研究結果より、統合失調症から双極性障害を鑑別可能な遺伝因子は、統合失調症の病態だけでなく、病前IQの低さを介して統合失調症と双極性障害間の病態の違いに寄与している可能性を示唆している。また、小児期のIQに関わる遺伝因子は、成人期以降のIQの程度には関係なく、統合失調症の病態に関与している可能性を示唆している。

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不安症の1つであるパニック症は、家族集積性を認め、遺伝率30‐40%の多因子遺伝を示す精神疾患である。我々は、これまでに、ポリジェニックリスクスコア (PRS)解析を用いて、欧米人不安症 [Anxiety NeuroGenetics STudy (ANGST)、iPSYCH; n<25,000]と日本人パニック症間における遺伝的要因の共通性を検討し、iPSYCHの欧米人不安症と関連するPRSが、日本人健常者よりもパニック症で高値であることを示した (R2=0.0035)。最近、UK Biobank (UKBB; n=83,566)は、さらに大規模な欧米人を対象とした不安症の大規模全ゲノム関連解析 (GWAS)や、ANGST、iPSYCH、UKBBのメタ解析 (META)を報告している。
本研究では、東京大学、三重大学、岐阜大学らとの多施設共同研究にて、日本人パニック症と欧米人不安症 (UKBB、META)間の民族差異を超えた遺伝要因の共通性を、PRS解析にて検討した。欧米人における不安症の大規模GWASデータ (UKBB、META)を、PRSを算出するためのDiscoveryサンプルとして利用した。また、これらのGWASに基づくPRSを、日本人パニック症患者718例および健常者1,717例をTargetサンプルとして算出した。UKBBの欧米人不安症に起因するPRSは、日本人の健常者よりもパニック症で高かった (R2=0.0078)。さらに、METAの欧米人不安症に起因するPRSも、日本人の健常者よりもパニック症で高かった (R2=0.0062)。
本研究結果より、Targetサンプルの表現型を予測するためには、より大規模なDiscovery GWASに基づくPRSを用いることで、予測精度が向上することを示した。さらに、欧米人不安症と日本人パニック症間に民族間差異を超えた遺伝的要因の共通性があることを示唆している。

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統合失調症患者では、海馬の体積減少が特徴的である。これまでに、統合失調症患者の非罹患第1度近親者と健常者間で海馬の体積変化を検討した研究はいくつかあるが、それら研究結果は一致したものではなかった。さらに、非罹患第1度近親者に特徴的な海馬サブフィールド体積変化があるかどうかは、よく分かっていなかった。
本研究では、3T 頭部T1強調MRI画像を撮像した被検者347例 (統合失調症患者、非罹患近親者、健常者)において、T1強調画像をFreeSurfer v6.0を用いて処理し、12領域の海馬サブフィールド体積を得た。そして、統合失調症患者、非罹患近親者、健常者間における12領域の海馬サブフィールド体積の差異を検討した。
統合失調症患者では、非罹患近親者や健常者と比較して、左右海馬の総体積の低下を認めた。一方、非罹患近親者と健常者間においては、海馬の総体積の差異を認めなかった。12個の海馬サブフィールド領域の中では、CA1、海馬溝、前海馬台、歯状回分子層、海馬采、海馬-扁桃体移行領域において3群間の体積の差異を認めた。これらの差異は、主に、統合失調症と非罹患近親者あるいは健常者間における海馬サブフィールド体積の違いに起因するものであった。しかし、右側の海馬溝のみ、健常者、非罹患近親者、統合失調症患者の順に体積の拡大を認めたが、他の海馬サブフィールドでは、非罹患近親者と健常者間において体積の差異を認めなかった。また、統合失調症において、各海馬サブフィールド体積は、罹病期間、精神症状、抗精神病薬服用量などと有意な相関を認めず、臨床指標の海馬サブフィールド体積への影響は最小限であることが分かった。
本研究結果より、統合失調症における海馬溝以外の海馬サブフィールド体積変化は、発症時に起こり、抗精神病薬の内服量などによってもほとんど影響を受けない安定した変化である可能性を示唆している。

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研究課題名「ポリジェニックリスクスコア、海馬体積および認知機能に基づく統合失調症と双極症の鑑別手法の開発」
統合失調症と双極症は、共に遺伝率80%の多因子遺伝を示す精神障害であり、その病態には双方に共通する遺伝素因と疾患特異的な遺伝素因の関与が示唆されています。また、両疾患の臨床的・遺伝的異種性を軽減するための有望な中間表現型として、遺伝素因が関わり双極症と比べて統合失調症で特に強く障害される海馬体積や認知機能が候補として挙げられます。本研究では、全ゲノムに渡る多数の遺伝子多型を用いて算出したポリジェニックリスクスコアと海馬体積および認知機能を用いて、機械学習による統合失調症と双極症の鑑別手法を開発することを目的としています。

統合失調症患者は、喫煙開始年齢は遅いが、喫煙者が多く、喫煙本数も多く、禁煙率が低いといった特徴的な喫煙関連行動を呈することが知られている。欧米人においては、喫煙関連行動と統合失調症のリスク間に遺伝的な相関が示されている。
本研究では、ポリジェニックリスクスコア(PRS:多遺伝子リスクスコア)解析を用いて、日本人統合失調症と欧米人喫煙関連行動間の民族差を超えた遺伝要因の共通性を検討した。欧米人における4つの喫煙関連行動[(ⅰ) 喫煙歴、(ⅱ) 喫煙開始年齢、(ⅲ) 喫煙本数、(ⅳ) 禁煙歴]の大規模全ゲノム関連解析 (GWAS)データ (n=24,114–74,035)を、PRSを算出するためのDiscoveryサンプルとして利用した。また、これらのGWASに基づくPRSを、日本人332例(統合失調症患者、非罹患近親者、健常者)をTargetサンプルとして算出した。これらDiscoveryとTargetサンプルを用いて、欧米人喫煙関連行動に基づくPRSが、日本人の喫煙関連行動や統合失調症のリスクに及ぼす影響を検討した。
4つの喫煙関連行動の中で、欧米人喫煙開始年齢と関連するPRSは、日本人喫煙者における喫煙開始年齢と、欧米人禁煙率と関連するPRSは、日本人喫煙者における禁煙率と関連していた。さらに、欧米人喫煙開始年齢と関連するPRSは、日本人統合失調症のリスクと関連していた。健常者よりも統合失調症患者は、欧米人喫煙開始年齢と関連するPRSが高く、非罹患近親者は患者と健常者の中間であった。本Targetサンプルにおいて、統合失調症患者は健常者と比べて、平均喫煙開始年齢や20歳以降の喫煙開始率が高いことを示した。統合失調症患者の60.6%が、発症以前に喫煙を開始していた。本研究結果は、喫煙開始年齢が遅いことに起因する遺伝要因が、統合失調症の病態においても寄与することを示唆している。また、統合失調症は喫煙開始年齢が遅いにも関わらず喫煙本数が多いことから、短期間に多くの喫煙をすることが統合失調症のリスクを高めている可能性を示唆している。

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パニック症は不安症の1つのであり、30-40%程度の遺伝率を示す精神疾患である。我々は、これまでに、欧米人において不安症とうつ病などの精神疾患間や神経症傾向などの中間表現型間における遺伝的要因の共通性を報告している。
本研究では、東京大学や三重大学らとの多施設共同研究にて、ポリジェニックリスクスコア(PRS:多遺伝子リスクスコア)解析を用いて、日本人パニック症と欧米人精神疾患やその中間表現型間の民族差を超えた遺伝要因の共通性を検討した。欧米人における10個の精神疾患や7個の中間表現型の大規模全ゲノム関連解析(GWAS)データ(n=7,556–1,131,881)を、PRSを算出するためのDiscoveryサンプルとして利用した。また、これらのGWASに基づくPRSを、日本人パニック症患者718例および健常者1,717例をTargetサンプルとして算出した。これらDiscoveryとTargetサンプルを用いて、欧米人精神疾患や中間表現型に基づくPRSが、日本人パニック症のリスクに及ぼす影響を検討した。
欧米人不安症と関連するPRSは、日本人健常者よりもパニック症で高値を示した。不安症以外の精神疾患においては、欧米人うつ病と関連するPRSは、日本人健常者よりもパニック症で高かった。中間表現型の中では、欧米人孤独感(特に孤立感)や神経症傾向と関連するPRSは、日本人健常者よりもパニック症で高く、欧米人教育年数や認知機能と関連するPRSは、日本人パニック症で低かった。本研究結果より、パニック症とうつ病等の精神疾患や神経症傾向などの中間表現型間に民族差を超えた遺伝的要因の共通性があることを示唆している。

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2019年10月12日~13日に福岡・福岡国際会議場にて開催された第49回日本神経精神薬理学会・第6回アジア神経精神薬理学会・第29回日本臨床精神神経薬理学会 合同年会において、2019年度学術奨励賞およびをJSNP Excellent Presentation Awardを受賞しました。
学術奨励賞は、将来性のある優れた若手の神経精神薬理学研究者を表彰するもので、「精神疾患の中間表現型を用いたゲノム研究 Genomic research using intermediate phenotypes for psychiatric disorders」というタイトルで受賞講演を行いました。
また、第6回アジア神経精神薬理学会において、Psychological Medicine誌に掲載された論文"Shared Genetic Etiology between Anxiety Disorders and Psychiatric and Related Intermediate Phenotypes"の内容についてポスター発表をして、JSNP Excellent Presentation Awardを受賞しました。

統合失調症(SCZ)、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)は、国際的な診断基準により別々の疾患として区別されていますが、臨床症状や遺伝的要因に部分的な重複を認めており、SCZが臨床的にも遺伝的にも異種性であることを示唆しています。本研究では、ASDとADHDを区別する大規模ゲノムワイド関連研究(GWAS)に基づくPolygenic risk score (PRS)が、SCZ患者の認知機能や皮質構造と関連するかどうかを検討しました。

168名のSCZ患者(45.1±13.6歳,男性76名,女性92名)を対象とし、公開されているGWASデータセット[ASDvs.ADHD]をDiscoveryサンプルとして、PRS解析を行いました。認知機能評価は、WAIS-Ⅲ(Wechsler Adult Intelligence Scale, third edition)を実施し、言語理解(VC)、知覚統合(PO)、作業記憶(WM)、処理速度(PS)の4項目を測定しました(n=145)。脳形態評価は、頭部MRIを用いて全脳の3次元撮像を行い、脳画像データはFreeSurfer v6.0を用いて、34の脳領域における皮質表面積および皮質厚を抽出しました(n=126)。

PRSが低い(ASDリスクが高いことを示す)ことは、特に左内側眼窩前頭領域の皮質表面積と有意な負の相関を示し、PRSが高い(ADHDリスクが高いことを示す)ことは、WMの障害と有意に関連していました。一方、左内側眼窩前頭領域の皮質表面積とWMは、有意な相関関係にはありませんでした。

本研究結果は、ASDとADHDを区別するPRSが、左内側眼窩前頭領域の皮質表面積の減少を介して社会的機能障害に寄与している可能性を示唆しています。SCZは、SCZ以外の他の神経発達症や精神疾患に関連する遺伝的要因に由来する可能性があります。

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うつ病(MDD)は、臨床的および遺伝的に異質な疾患である。異質性を減少させるため、最近の大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS)において、7つのMDDサブタイプ(1.非定型的特徴を持たないMDD、2. 早期発症型MDD、3. 再発性MDD、4. 自殺念慮を伴うMDD、5. 自殺念慮を伴わないMDD、6. 中等度の機能障害を伴うMDD、7. 産後うつ病)に関連するゲノムワイド有意な遺伝子座が同定されている。しかし、それらの遺伝子座近傍の遺伝子がどの組織で特異的に発現しているかは不明であった。

本研究では、特定のMDDサブタイプに関連する遺伝子が特定の組織で特異的に発現するかどうかを検討した。7つのMDDサブタイプに関連する新規の14個のサブタイプ特異的遺伝子座において、22個のゲノムワイド有意な遺伝子多型にマッピングされた遺伝子が、GTEx対象者において脳、女性生殖、男性生殖、心血管、消化器、または尿路組織で組織特異的に発現しているかを検討した。その結果を独立したHuman Protein Atlas (HPA) RNA-seq対象者でも確認した。22個の遺伝子のうち、9つの遺伝子は脳組織で、5つの遺伝子は女性生殖組織で組織特異的に発現していた。RTN1、ERBB4、AMIGO1は、早期発症型MDD、再発性MDD、自殺念慮を伴うMDDに関連し、脳組織で高く発現していた。一方、OAS1、LRRC9、DHRS7、PSMA5、SYPL2、GULP1は、非定型的特徴を持たないMDD、早期発症型MDD、自殺念慮を伴うMDD、産後うつ病に関連し、脳組織で低く発現していた。DFNA5、CTBP2、PCNX4、SDCCAG8、GULP1は、早期発症型MDD、中等度の機能障害を伴うMDD、または産後うつ病に関連し、女性生殖組織で高発現していた。脳および女性生殖組織での組織特異的発現は、HPA RNA-seq対象者においても確認された。

本研究結果は、脳および女性生殖組織での組織特異的発現が、MDDサブタイプの病態に寄与する可能性を示唆している。

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自殺企図は中程度の遺伝性形質であり、精神医学的表現型や関連する中間的表現型との遺伝的相関が報告されている。しかし、大うつ病性障害(MDD)だけでなくいくつかの精神疾患が自殺企図と強く関連していることから、これらの遺伝的相関は精神疾患によって媒介されている可能性がある。ここでは、精神障害を調整した場合と調整しない場合について、自殺企図と精神医学的表現型および関連する中間表現型との遺伝的相関を検討した。
遺伝的相関を調べるために、精神障害を調整した場合と調整しない場合について、自殺企図と9つの精神疾患、15の中間表現型に関する大規模ゲノムワイド関連研究の要約統計量を利用した。
精神障害を調整しない場合、自殺企図は、注意欠陥/多動性障害、統合失調症、双極性障害、MDD、不安障害、心的外傷後ストレス障害のリスクと有意な正の遺伝的相関があり、リスクの許容度が高く、初性交、初産、閉経の年齢が早く、分娩数が多く、小児期の IQ、学歴、認知能力が低く、禁煙率が低かった。精神障害で調整すると、自殺企図は MDD のリスクと有意な正の遺伝的相関を示し、初回性交渉、初回出産、閉経の年齢が早く、学歴の低さと有意な正の遺伝的相関を示した。精神障害で調整すると、精神障害との遺伝的相関のほとんどが減少し、中間の表現型とのいくつかの遺伝的相関は増加した。
これらの知見は、自殺企図に関連する遺伝的相関の解析において精神障害を考慮することの重要性を強調するものであり、精神障害を調整した後では、MDD への感受性、生殖行動、教育レベルの低さが自殺企図と遺伝的基盤を共有していることを示唆している。

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統合失調症薬物治療ガイドラインでは、抗精神病薬の単剤治療を推奨しています。我々は、それぞれの統合失調症患者さんについて実臨床における処方と統合失調症薬物治療ガイドラインの推奨内容がどの程度一致しているかを評価するツールとして、Individual Fitness Score (IFS)という計算式を開発しています。このIFSを用いて「ガイドライン一致率」を算出することによって、処方内容とガイドラインとの一致率を0~100%で示すことができます。
本研究では、統合失調症患者さんについて統合失調症薬物治療ガイドライン一致率と労働時間 (社会機能的転帰)の関係を調べました。その結果、処方内容とガイドラインとの一致率が高い患者さんほど、労働時間が長いことが分かりました。
<今回の結果を踏まえ、精神科医師のみなさまに以下の実践を提案します>
統合失調症の薬物治療では、患者さんの社会機能的転帰を改善するために、従来の心理社会的支援に加えて、ガイドラインに基づいた治療の実践を提案します。

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統合失調症患者における統合失調症薬物治療ガイドラインに基づく治療適合度(individual fitness score)と精神症状との関連

実証度の高い統合失調症の薬物治療を行うには、精神科医は治療ガイドラインを遵守する必要があります。私たちは、これまでに精神科医がどの程度統合失調症薬物治療ガイドラインを準拠しているかを患者さんごとに評価することができるindividual fitness score(IFS)を開発しています。本研究では、IFSを用いて統合失調症患者さん400名の精神科医「ガイドライン準拠度」と陽性陰性症状評価尺度(PANSS)を用い評価した精神症状との関係を調べました。その結果、精神科医の「ガイドライン準拠度」が高いほど精神症状が軽いことがわかりました。また、一部の患者さんでは2年間以上の経過の中で「ガイドライン準拠度」の改善度と精神症状の改善度との間に正の相関関係があることがわかりました。本研究結果は、精神科医の「ガイドライン準拠度」の改善が精神症状の改善に影響することを示唆しています。

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双極性障害(BD)と統合失調症(SZ)は複雑な精神病性の疾患(PSY)であり、環境要因と遺伝的要因の両方が関与している。これまでに、いくつかの先行研究では、ミトコンドリア染色体上の遺伝子多型がBDやSZと関連するかどうかが検討されている。しかし、BDやSZとの関連が確認された遺伝子多型は先行研究間で同一ではなく、さらに対象者は欧米人に限られていた。本研究では、BD患者(n=51)、SZ患者(n=172)、健常対照者(HC,n=197)からなる日本人420人を対象に、ミトコンドリア染色体上の遺伝子多型(マイナーアレル頻度(MAF)>0.01,n=45多型)とBD、SZ、PSYとの関連をゲノムワイドに検討した。
ミトコンドリア遺伝子多型のうち、3つ(rs200478835、rs200044200、rs28359178、NADH脱水素酵素またはその近傍)と1つ(rs200478835)は、それぞれBDとPSYに有意に関連していた。特に、rs200044200のマイナーGアレル(ミスセンス変異)を持つ個体は、BD患者(MAF=0.059)のみに観察され、HC(MAF=0)では観察されなかった。3名のBD患者には共通して神経精神疾患の家族歴を認めた。本研究結果より、NADHデヒドロゲナーゼ関連遺伝子のミトコンドリア遺伝子変異が、エネルギー産生の機能障害を通じて、日本人のBDおよびPSYの病態に寄与している可能性を示唆している。

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これまでのトランスジェンダーの脳科学は、トランスジェンダー女性の研究に偏る傾向がありました。
本研究では、トランスジェンダー男性21人が、同じ生物学的女性であって性別違和感のないシスジェンダー女性21人に対して、どの領域に灰白質体積の差異を有するのかを、MRIのvoxel-based morphometry(VBM)解析を用いて全脳レベルで探索しました。
トランスジェンダー男性の灰白質体積は、シスジェンダー女性と比較して右後部帯状回と左後頭極において増大し、左中側頭回において減少していました。ここで、灰白質体積に影響を与えると言われる性ホルモン値で統制すると、それでもなお右後部帯状回から右舌状回に至る領域の有意差が残存しました。
後部帯状回とその周辺は大脳皮質正中内側部構造と呼ばれ、感情、顔面、社会領域における自己言及過程に関与すると言われています。また、内的自己知覚と外界知覚の間の不均衡にも、自己言及過程の変調が関与していることが指摘されています。今回の所見である大脳皮質正中内側部構造の後部における灰白質増大は、トランスジェンダー男性が自らを男性だと感じるという内的自己知覚と、現実の自己身体が女性であるという視覚による外界知覚との不均衡、すなわち自己言及過程の変調に関わっている可能性がある、と考えられました。

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オシレーションは、一定の周期で発火する神経細胞の律動的な活動ですが、特にガンマ帯域(20-80Hz)の活動であるガンマオシレーションは、認知機能や様々な神経精神疾患との関連性が指摘されており、研究者の注目を集めています。しかし、ヒトにおけるガンマオシレーションの相互作用については知られていませんでした。
本研究では、生理学研究所 乾 幸二客員教授の指導の下、脳磁計(MEG)を用いて、21名の健常者を対象に、20Hz、30Hz、40Hz、50Hzの聴覚刺激を与え、それぞれの周波数のオシレーションが出現したときの他の周波数帯のオシレーションの変化を調べました。その結果、40Hzのオシレーションが活性化しているときに、約30Hz(低ガンマ)のオシレーションが抑制されることが分かりました。また信号源推定によって、活性化した40Hzオシレーションと抑制された低ガンマオシレーションの活動源が異なることが示されました。それぞれの活動の分布を詳細に把握するために全センサー解析を行ったところ、抑制領域は40Hzオシレーションの活動の中心(一次聴覚野)を取り囲み、頭頂に向かって分布する傾向を示しました。このことは、これら2つのガンマオシレーションを担う神経細胞群が異なること、40Hzオシレーションの回路が低ガンマオシレーションの回路に対して特異的な抑制性神経支配を行っていることを示しました。
さらに興味深いのが、動物モデルにおいて、同様の低ガンマオシレーションの抑制がNMDA受容体を介して調節されるという報告があります。本研究で初めて得られた、ヒトにおける低ガンマオシレーションの抑制メカニズムの発見によって、NMDA受容体機能を非侵襲的に測定でき、NMDA受容体の機能低下と関連する様々な神経精神疾患の解明に繋がる可能性が示唆されます。

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統合失調症患者では、中脳、橋、上小脳脚、延髄など脳幹体積の減少が報告されている。また、研究間で結果のばらつきを認めるが、男性は女性よりも脳幹体積が大きいとの報告がある。しかし、これまで統合失調症患者における脳幹体積変化を男女に分けて検討した研究はなかった。本研究では、統合失調症患者と健常対照者の脳幹体積の変化を性別で層別化し検討した。さらに、脳幹体積と臨床指標との相関を検討した。統合失調症患者156名(男性61名/女性95名)と健常者205名(133名/72名)のT1強調MRI脳画像をFreeSurfer v6.0を用いて処理し、中脳、橋、上小脳脚、延髄体積を抽出した。
脳幹構造のうち、特に男性の統合失調症患者において、健常者男性と比べて橋の体積が有意に減少していた。男性患者の橋体積の減少は、教育年数の低さと相関していたが、罹病期間との相関は認めなかった。
本研究結果より、男性の統合失調症患者の橋体積の減少は、発症後の進行性変化ではなく、統合失調症の発症前または発症前後に生じる可能性を示唆している。

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統合失調症患者では、中脳、橋、上小脳脚、延髄など脳幹体積の減少が報告されている。また、研究間で結果のばらつきを認めるが、男性は女性よりも脳幹体積が大きいとの報告がある。しかし、これまで統合失調症患者における脳幹体積変化を男女に分けて検討した研究はなかった。本研究では、統合失調症患者と健常対照者の脳幹体積の変化を性別で層別化し検討した。さらに、脳幹体積と臨床指標との相関を検討した。統合失調症患者156名(男性61名/女性95名)と健常者205名(133名/72名)のT1強調MRI脳画像をFreeSurfer v6.0を用いて処理し、中脳、橋、上小脳脚、延髄体積を抽出した。
脳幹構造のうち、特に男性の統合失調症患者において、健常者男性と比べて橋の体積が有意に減少していた。男性患者の橋体積の減少は、教育年数の低さと相関していたが、罹病期間との相関は認めなかった。
本研究結果より、男性の統合失調症患者の橋体積の減少は、発症後の進行性変化ではなく、統合失調症の発症前または発症前後に生じる可能性を示唆している。

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統合失調型パーソナリティ特性、自閉症スペクトラム特性、感情知能は、様々な精神疾患のリスクと関連している。しかし、これまでに、大学生において何らかの精神疾患既往歴のあるヒトや精神疾患家族歴のあるヒトをどのように予測するかは確立されていなかった。
本研究の目的は、大学生において、統合失調型パーソナリティ特性、自閉症スペクトラム特性、感情知能を用いることで、何らかの精神疾患に罹患したことのあるヒトや第2親等以内に精神疾患既往のある親族がいるヒトを予測できるか検討することである。対象者は、医学生と看護学生からリクルートした237名である。自己申告に基づき、これらの学生を何らかの精神疾患に罹患したことのある18名、第2親等以内に精神疾患既往のある親族がいる36名、健常対照者183名の3つの診断群に区分した。統合失調型パーソナリティ特性、自閉症スペクトラム特性、情動知能を評価するために、統合失調型パーソナリティ特性質問票(SPQ)、自閉症スペクトラム指数(AQ)、特性情動知能質問票(TEIQue)を用いた。これらの特性が診断状態と直線的に相関するかどうか、またどの特性が診断状態を最もよく予測できるかを検討した。
統合失調型パーソナリティ特性および自閉症スペクトラム特性は精神疾患既往歴のあるヒトや精神疾患家族歴のあるヒトと有意に正の相関がある一方で、感情知能は診断状態と負の相関を認めた。これらの特性のうち、診断状態と最も有意に関連したのは、統合失調型パーソナリティ特性であった。SPQの下位尺度のうち、認知知覚特性が診断状態と最も有意に関連していた。
本研究結果より、統合失調型パーソナリティ特性、特に認知知覚特性は、大学生における精神的な不調や精神疾患のリスクがあるヒトを予測するために有用である可能性が示唆された。

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不安症は、遺伝的寄与が中程度で不均一な精神疾患であり、本疾患に関連する皮質構造の変化は、研究間で一貫性がない。今回、当研究では不安症の遺伝的要因が大脳皮質の変化に寄与しているかどうかを、ポリジェニックリスクスコア(PRS)解析により検討した。
精神的・身体的に健康な被検者群(n=174)を用い、英国バイオバンク(症例数25,453、対照群58,113)の不安症の最新の大規模ゲノムワイド関連研究に基づいて、不安症のPRSをいくつかのp値の閾値(PT≦5.0×10-8からPT≦1.0まで)にて算出した。
FreeSurferで抽出した両側脳34部位の表面積や皮質厚を年齢、性別、頭蓋内容積などの交絡因子を調整し、不安症のPRSとの関連を検討した。
PT≦1.0における不安症PRSの高さは、右尾状前帯状領域の減少(β=-0.25、p=9.51×10-4)、右吻状前帯状領域の減少(β=-0.23, p=2.56×10-3)、右弁蓋部領域の減少(β=-0.19, p=0.012)、右舌状回領域の減少(β=-0.15, p=0.047)、左嗅内野領域の増加(β=0.16, p=0.041)、左外側眼窩前頭葉厚の増加(β=0.15,p=0.051)と有意に関連していた。より多くのSNPsに基づくPRSは(すなわちPT≦0.01からPT≦1.0にかけて)、これらの皮質構造と関連していた(右尾部前帯状面積,PT≦0.5で最大、R2=0.066, β=-0.27, p=3.81×10-4)。さらに、不安症PRSが最高四分位の健常者は、最低四分位の健常者に比べ、右前帯状回面積が有意に減少していた。
不安症のリスクと前帯状回体積間に共通の遺伝的素因があることが示唆された。さらに、不安症病態の異種性を低減するための1つの手段としてPRSの有用性が示唆された。

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最新情報

2024年10月8日

「社交不安症専門外来」のQ&Aを更新しました。

2024年10月8日

「論文発表」を掲載しました。

2024年10月8日

スタッフ紹介」を更新しました。

2024年8月29日

「論文発表」「受賞」を掲載しました。

2024年8月29日

「社交不安症専門外来」を掲載しました。

2024年8月9日

岐阜県精神科医会「秋の研究会」のお知らせ

2024年8月9日

情報提供に「社交不安症専門外来のお知らせ」を掲載しました。

2024年5月24日

「医局説明会のお知らせ」を掲載しました

2024年5月20日
 

情報提供に「「妊産婦の精神状態が母子に及ぼす影響の研究」への
協力のお願い」を掲載しました。

2024年5月20日

スタッフ紹介」を更新しました。

2024年5月20日

「入局実績」を追加しました

2024年5月7日

「論文発表」を掲載しました。

2023年12月21日
 

情報提供に「精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの
効果に関する研究」を掲載しました。

2023年12月21日

「論文発表」を掲載しました。

2023年8月3日

「受賞」「論文発表」を掲載しました。

2023年4月19日

「論文発表」を掲載しました。

2023年4月3日

「論文発表」を掲載、「スタッフ紹介」を更新しました。

2023年3月2日

「論文発表」「受賞」を掲載しました。

2022年9月13日

「大井一高准教授らの論文発表」を掲載しました。

2022年9月7日

岐阜県精神科医会「秋の研究会」のお知らせ

2022年8月3日

「大井一高准教授の受賞」を掲載しました。

2022年6月17日

「医局説明会のお知らせ」を掲載しました

2022年5月10日

「大井一高准教授らの論文発表、受賞」を掲載しました。

2022年5月10日

「スタッフ紹介」 「入局実績」 「教室の業績」を更新しました

2022年2月17日
 

岐阜大学医学部寄附講座「妊産婦と子どものこころ診療学講座(岐阜県)」の設立を求める請願署名ページを掲載しました

2022年2月1日

「大井一高准教授らの論文発表、受賞」を掲載しました。

2021年11月16日

「深尾 琢助教らの論文発表」を掲載しました。

2021年11月16日

忘年会中止のお知らせ

2021年11月10日

「杉山俊介助教らの論文発表」を掲載しました。

2021年10月25日

「スタッフ紹介」を更新しました

2021年10月25日

「入局実績」を追加しました

2021年7月16日

「医局説明会のお知らせ」を掲載しました

2021年7月16日

「教室の業績」を更新しました

2021年4月1日

トップページに「論文発表」を掲載しました

2021年4月1日

「スタッフ紹介」を更新しました

2021年3月18日

トップページに「論文発表」を掲載しました

2020年12月23日

トップページに「採択」「論文発表」を掲載しました

2020年10月15日

「スタッフ紹介」を更新しました

2020年7月16日

「医局説明会のお知らせ」を掲載しました

2020年2月21日
 
 
 

「【受賞】 大井一高 准教授が第49回日本神経精神薬理学会年会において2019年度学術奨励賞および第6回アジア神経精神薬理学会大会においてJSNP Excellent Presentation Awardを受賞しました。」を掲載しました。

2019年10月11日

「スタッフ紹介」を更新しました

2019年7月5日

「平成31年度 第2回医局説明会のお知らせ」を掲載しました

2019年7月5日

「入局実績」を更新しました

2019年7月5日

「教室の業績」を更新しました

2018年7月5日

「スタッフ紹介」を更新しました

2019年2月19日

「第11回 日本不安症学会学術大会」の案内を掲載しました