(1)「不自然」な水辺の生物 (2012年3月14日掲載) |
岐阜大学には,構内の北の端に「ばんが池」と呼ばれている自然保存地があり,そこから南北に小川が流れている。この川は,大学の外の新堀川という一級河川に合流し,さらに伊自良川へとつながっていく。大学構内や新掘川では,ヌートリア,ブラックバス,ライギョ,ミシシッピアカミミガメ,ウシガエルなどたくさんの水辺の生物を見つけることができる。しかし,これらはすべて,環境省が指定する特定外来生物か要注意外来生物だ。今のこの環境は「自然」ではなく,「不自然」というべきか。
春から夏の天気の良い日には,ミシシッピアカミミガメ(大きなものでは25センチ程)が一つの石の上に重なり合って甲羅干しをしている光景がよく見られる。北米原産のこのカメは商品名をミドリガメといい,500円玉サイズの幼体がペットショップやホームセンターなどでたくさん売られている。構内で普通に見るカメは全部ミドリガメと言っても過言ではない。私が大学院生として初めてこの地にきてから約10年になるが,この光景は毎年変わらない。ここで在来のニホンイシガメを見たことは一度もない。
探せばニホンイシガメはいるのか?もういなくなってしまったのか?外来のミドリガメをこのまま放置していてよいのか?そんなことが頭の片隅にずっと引っかかっていた。教員になって3年目の2010年の夏,実態を把握するために本格的な調査を始めた。その前年に岐阜大学は「環境ユニバーシティ宣言」を行っている。このことも,私にとって契機になった。・・・・・カメの調査から明らかになってくる実態に愕然とした。それが「在来水生生物保全池」造成への思いにつながっていく。今や全国的に減少しているとされる日本固有のニホンイシガメを岐阜からも失わないために。続きは次の機会にご紹介したい。 |
岐阜大学構内の小川でみられるヌートリアと
甲羅干しをしているミシシッピアカミミガメ
(2011年6月の様子)
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(2)人が壊すカメの生態系 (2012年7月18日掲載) |
2010年8月から,岐阜大学構内や西側を流れる村山川〜新堀川でカメの捕獲調査を学生たちと始めた。ミシシッピアカミミガメ(北米原産)がどれほど広がっているのかを詳しく調べること,そして日本固有のニホンイシガメを探すことが目的だ。2011年11月までの約1年ちょっとの間に計4種453匹を捕獲した。ミシシッピアカミミガメが64%(約300匹)と大半を占め,クサガメが31%,ニホンイシガメは僅か3%で,残り2%がスッポンだった(※スッポンは捕獲ワナの形状が生態にあわないのか,実際の生息数を反映していないと思われる)。今も調査は続けているが,アカミミガメが多いことに変わりはない。調査の数字から,この辺りのイシガメが絶滅に近い状況にあることも分かってきた。この調査とあわせて,イシガメの保護増殖の試みも始めている。このことはまた次の機会に紹介したい。
ミシシッピアカミミガメは,外来種の中でも特に生態系等への影響が大きい生物とされ,IUCNという世界最大の自然保護機関が2000年に「世界の侵略的外来種ワースト100」に,また日本生態学会が2002年に「日本の侵略的外来種ワースト100」に選んでいる。2005年には,環境省が「生態系に悪影響を及ぼしうることから,適切な取扱いについて理解と協力をお願いするもの」として,要注意外来生物に指定した。しかし,これらは注意喚起であって,今のところ日本ではこのカメを飼育したり販売したりすることにほとんど規制がない。当たり前だが,飼ったら(買ったら)最後まで飼育する。絶対に逃したり,捨てたりしてはいけない。
今,日本中,いや世界中で外来種が問題となっている。忘れてはならないことがある。アカミミガメが悪いのではない。私たち人間が引き起こした問題なのである。 |
岐阜大学とその周辺に生息しているカメ
左上:ニホンイシガメ,左下:クサガメ,
右上:スッポン,右下:ミシシッピアカミミガメ
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(3)増殖する外来種カメ 岐阜大構内,駆除へ本腰 (2012年11月29日掲載) |
岐阜大学では,毎年春先に構内の道路をミシシッピアカミミガメの小亀が歩いていたり,車にひかれているのが発見されている。2004年と2009年には,構内で産卵真っ最中の個体も発見されている。発見者がその場所を掘って回収した卵をかえしたところ,ほぼ受精卵で,そこから小亀が孵化したそうだ。構内の川での捕獲調査でも,孵化後1〜2年と思われる幼体が多数捕まっている。
そもそも,大学構内を流れる川やそれに繋がる新堀川・村山川のカメは6割以上がミシシッピアカミミガメである。一方,岐阜市役所の調査では,大学東側を南北に流れる伊自良川には,ミシシッピアカミミガメはそれほど多くはなく,ニホンイシガメが比較的多く生息しているようである。
岐阜大学構内の川は,大学の南側(下流側)で新堀川に繋がり,そしてさらに下流では伊自良川とも繋がっている。現状のままでは,大学構内で増殖したミシシッピアカミミガメの小亀が広がっていく。いや,すでに拡散してしまっているのではないか,そんな不安が頭をよぎる。岐阜大学の自然環境が外来生物であるミシシッピアカミミガメの生産源になっている可能性があるのだ。
実は,岐阜大学は2009年11月に,「環境に配慮した大学を創り出す」ため,「環境ユニバーシティ」宣言を行なっている。その岐阜大学で,この外来生物の現状は「環境ユニバーシティ」の一員としても放ってはおけない。この現状を学内にも訴え,対策を講じなければならないと考えた。幸いすぐに認知され,ミシシッピアカミミガメの駆除活動や在来種のニホンイシガメの保護増殖にむけた活動への支援が始まった。この続きはまた次の機会に紹介したい。
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岐阜大学構内で産卵中に発見された
ミシシッピアカミミガメと回収された卵 |
(4)ニホンイシガメ 岐阜大に保護増殖池造る (コラム番号59,2013年4月18日掲載) |
岐阜大学周辺のカメは,大多数が外来のミシシッピアカミミガメで,日本固有のニホンイシガメは僅かである。日本全国で同様の状況が明らかになりつつある。本来の日本の生態系を取り戻すためにも,イシガメを守るためにも積極策が必要である。まずは直接的な方法として,@アカミミガメの防除とAイシガメの保護増殖を考える必要がある。
アカミミガメはただ防除し処分するのではない。様々な研究を行い,増殖の実態や理由を探っている。元々カメの生理学はあまりわかっていないので,このデータはイシガメの保護増殖にも活かせるかもしれない。
私たちは,イシガメは実際に繁殖させて,個体数を増やそうとしている。保護増殖池を岐阜大学構内に造成することにした。2010年9月,空き地を確保し,資金もないまま学生たちとスコップを握った。頭の中に図面はあったがどこまでできるのか全くわからないままスタートした。偶然知り合うことになった地元の工務店「マルヤス建材」さんがこの活動に賛同し,協力してくださった。その協力なしには実現し得なかった。
2011年6月に一応の完成にこぎつけた。思い描いたものが『淡水生物園』として動き始めた。そして,造形作家の守亜さんの協力を得て,この1月には淡水生物園に立派な看板が設置できた。淡水生物園には自然な状態でカメを飼育できる池と研究用の区画池がある。しかし,岐阜大学周辺のイシガメは絶滅寸前の状況で,親亀の確保が思うように進んでいない。イシガメの危機に気が付くのがやや遅かったのかもしれない。しかし,成果も出始めている。その成果については次の機会に紹介したい。
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岐阜大学の淡水生物園とニホンイシガメ |
(5)ニホンイシガメ 保護増殖へ8匹が孵化 (コラム番号72,2013年7月18日掲載) |
外来のカメが目立つ岐阜大学周辺で,ニホンイシガメを守ろうと,岐阜大学に『淡水生物園』が2011年6月に完成した。ここではニホンイシガメの保護増殖を行うことが目的だ。当初,アカミミガメの捕獲数が百数十匹に対して,ニホンイシガメが10匹にも満たない状況だった。2010年の調査開始から,今もアカミミガメの数字は増え続け,数百匹に達したが,イシガメは10匹程度に留まっている。大学周辺(構内,村山川,新堀川)には,もうイシガメはいないのかもしれない。
保護増殖を進めるには,最初に種ガメを確保しなければならない。この数では正直無理だと考えていた。しかし,なんと淡水生物園が完成した年の9月に,イシガメが8匹孵化したのである。誰も予想しない出来事に驚きと喜びで沸き立った。
ニホンイシガメは,本州から九州に広く分布しているが,生息地の減少,環境の悪化,ペット用の乱獲等で,各地で数を減らしているようだ。環境省が日本の野生生物について「レッドリスト」という,絶滅危機の程度を定めた一覧を公開している。これまで,ニホンイシガメは情報が不十分として,絶滅の危険度が評価されていなかった。しかし,近年では外来生物のアライグマによる捕食やクサガメとの交雑等の新たな問題が明らかになり,2012年に発表された最新版のレッドリストで,初めて準絶滅危惧種に指定された。
イシガメと雑種を形成するクサガメは,日本の在来種だと思われてきたが,最新の研究では,そうではない可能性も指摘されている。このことについては別の機会に紹介したい。日本にしかいないカメ,ニホンイシガメを,それぞれの地域ごとに大切に守っていってほしい。
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淡水生物園で産卵し初めて
孵化したニホンイシガメ(左)と
クサガメ(右)の幼体
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(6)淡水生物の保全,関係機関の連携進む (コラム番号79,2013年9月12日掲載) |
現在,岐阜大学周辺のカメの生息調査,絶滅の危機にあるニホンイシガメの保護増殖,外来ミシシッピアカミミガメの防除,そして関連の研究を進めているが,その中で様々な機関との協力・連携が始まった。絶滅危惧種の保全や外来種問題は世界的な課題で,カメに限った話でも日本全国で起こっている問題である。
私たちがニホンイシガメを守る活動を行う中で,淡水生物(特に爬虫両生類)の保全に関わる人たちと自然につながるようになった。岐阜では,絶滅の危機に瀕する淡水生物の飼育下繁殖や保全に専門的に取り組んでいるのが世界淡水魚園水族館アクア・トトぎふ,小型サンショウウオの保護を中心にフィールド活動を展開しているのが岐阜高校自然科学部生物班,そしてこれらの活動を支援しているのが岐阜市自然共生部自然環境課である。私たちは,これらの活動に遅ればせながら参加し,様々な助言・指導をいただいている。地域の生物を守るためには,それぞれの得意な部分を生かしながら連携を図ることがとても大切だ。ニホンイシガメと共に,岐阜のカスミサンショウウオを守る取り組みについても進めている。このことについては次の機会に紹介したい。
2011年6月,淡水生物園の完成を記念して,岐阜大学で公開セミナー「岐阜市の在来水生生物の保全」を開催した。先述の関係者や学生などが集まり,それぞれの活動を紹介した。多くの人に現状を伝えることも大切である。2011年夏には,アクア・トトぎふで企画展「カメペディア」が開催され,私たちの活動が紹介された。このコラムも情報発信のひとつ。淡水生物園のホームページもある。多くの人に向けて正しい情報を発信し,一人でも多くの人が足元の自然に目を向けて欲しいと願っている。
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アクア・トトぎふの企画展「カメペディア」でも
岐阜大学「淡水生物園」での活動が紹介された
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(7)カメ好きな日本人 身近な存在よく知らず (コラム番号116,2014年6月5日掲載) |
日本全国で,いや全世界的に生息域を広げている北米原産のミシシッピアカミミガメは,外来生物としての知名度とともに,カメの中で超有名種である。日本人にとって亀は昔から身近な存在で,浦島太郎に代表されるように不老長寿の象徴でもある。私の曽祖母は実は「カメ」という名前で,とても長生きした。また各地で亀は神使または神として奉られているし,置物や土産品などにも多い。そしてペットとしての輸入量も日本は世界で群を抜いて多い。密輸も後を絶たない。日本人はカメが大好きな国民だが,カメのことをほとんど知らない。
数年前から大学生に日本のカメや日本で多く見られるカメの実物を見せて,名前を問うアンケートを行っている。多くは生物系の学生だが,カメの名前をほとんど知らない。出てくる名前は,ミドリガメ(ミシシッピアカミミガメの幼体の商品名)とスッポンくらい,そしてポケモンの名前を書いてくる始末。あとは,ウミガメという言葉が出るくらいだろうか。
少し知っている人だと「クサガメ」という名前が出る。出てくる名前は外来種のミドリガメと近年外来性を指摘されているクサガメで,日本にしかいない固有種の「ニホンイシガメ」が分かる人は限りなくわずかだった。ニホンイシガメの他に,日本固有種にリュウキュウヤマガメ(沖縄本島などに生息)がいる。国指定の天然記念物でもある。亀好きなはずの日本人として,この2種くらいは知っておきたいものである。
リュウキュウヤマガメは,以前は中国やベトナムに生息するスペングラーヤマガメの亜種とされていたが,1992年から種として独立した。あとは,ヤエヤマセマルハコガメとヤエヤマイシガメというカメも日本にしかいないが,これらは「亜種」で,それぞれセマルハコガメとミナミイシガメという「種」としては中国などにもいる。
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動物園で保護飼育されていたリュウキュウヤマガメ。
天然記念物なので原則捕獲や飼育はできない。
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(8)クサガメ 外来種か否か議論二分 (コラム番号139,2014年11月13日掲載) |
日本に広く分布する淡水ガメに,ニホンイシガメ,クサガメ,ニホンスッポン,そして外来種のミシシッピアカミミガメがいる。アカミミガメのことは以前にも触れたが,最近のカメ界の話題は,クサガメの外来性についてである。
クサガメは,本州・四国・九州などに自然分布し,北海道やいくつかの島のものは人為的な持ち込みと考えられてきた。日本以外には,中国や朝鮮半島に自然分布している。ペットとしての輸入も多く,日本の集団には大陸由来と日本固有のものが混在すると思われてきた。そして,同じ流域にイシガメとクサガメがいるが,前者は上流に,後者は下流に棲み分けていると考えられてきた。これらの定説が覆されようとしている。
化石・遺跡や江戸時代の本草学の文献の調査,遺伝子研究などから,クサガメの日本集団は18世紀末に朝鮮半島から九州へ持ち込まれたというのだ。国立環境研究所の侵入生物データベースにも外来種として掲載されたが,未だ議論が分かれるところである。クサガメが外来だとしても,導入された時期が古く,日本の生態系の一部になっている可能性が高い。安易な防除は未知の問題を引き起こすかもしれない。外来種であることと防除することは別に考えなければならない。
侵略性という面では,日本固有のニホンイシガメとリュウキュウヤマガメへの脅威がある。クサガメとの間で雑種が発見されている。少なくともイシガメとクサガメの雑種は繁殖能力をもつ。イシガメは全国的に減り2012年に準絶滅危惧種に指定された。クサガメを防除するか否かはこれからの課題であるが,イシガメが多く残る貴重な聖域では,クサガメの防除は必要になるかもしれない。しかし,日本以外のクサガメは絶滅の危機にひんしているそうだ。ややこしい問題である。
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日本固有のニホンイシガメとリュウキュウヤマガメは,
クサガメとの間で雑種が見つかっている |
(9)カミツキガメ 県内各地に広がる危険 (コラム番号151,2015年2月12日掲載) |
日本全国で,ミシシッピアカミミガメが大増殖し,レンコンの食害や観光名所であったハスの生育地が消えるなどの問題も最近話題になっている。岐阜市内での被害状況は不明だが,ミシシッピアカミミガメが増えていることは疑いの余地がない。環境省が規制に向けての検討を始めようとしている。
ミシシッピアカミミガメだけでなく,他のカメが大増殖して問題になっているところもある。千葉県の印旛沼水系では,カミツキガメが定着しているというのである。千葉県では,2007年から防除事業を進めているが,毎年300匹前後、多い年には600匹を超える捕獲があり,減少のきざしがない。背甲長が50センチにも達し,1回の産卵数は20〜30個、100個を越えることもあるらしい。もともとペット飼育されていたものが遺棄され,繁殖しているようだ。外来生物法における特定外来生物に指定されている。身近に増え始めれば,怖くて川遊びもできなくなる。
岐阜県内では,知る限りでは2004〜2012年までほぼ毎年1〜3匹が収容されている。岐阜市,各務原市,山県市,可児市,土岐市で捕獲されており,私の勤務する岐阜大学構内の池でも,2007年に全長40センチのものが捕まっていた。見つけ次第すぐに対応しなければ,大変なことになる。
カミツキガメに近い仲間で,ワニガメというのがいる。最大80センチにもなり,野外での繁殖の報告はあるが,カミツキガメのような状況ではまだない。ワニガメは動物愛護管理法で特定動物(危険動物)に指定されている。本来の生息地では絶滅危惧種でもある。岐阜県では2009年と2012年に捕獲例がある。
両種とも見つけたら,すぐに通報してほしいが,カメが悪い訳ではないことは忘れないでもらいたい。
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岐阜市岩崎の用水路で発見されたカミツキガメ
(岐阜大学 原口句美撮影) |
(10)ニホンイシガメ 希少種の卵「守りたい」 (コラム番号156,2015年3月19日掲載) |
日本固有のニホンイシガメは,ペット取引目的での大量捕獲,生息環境の減少・悪化,外来種のアライグマによる捕食やクサガメとの交雑等により,絶滅の恐れが高まっているとして,環境省の2012年のレッドリストで初めて準絶滅危惧種に指定された。
岐阜県版(2009)でも準絶滅危惧に指定され,岐阜市が現在作成中の市版レッドリストでも準絶滅危惧種として掲載される予定である。
ニホンイシガメは大学エリアでも(おそらく市内・県内全域で)減少している可能性が高いため,まずは大学エリアの個体を捕獲し,構内に設けた淡水生物園で,2011年より保護増殖に取り組んでいる。2011年には園内で8匹の孵化後幼体を発見し,2012年は4匹,2013年は13匹,2014年は20匹を発見し,着実に繁殖数は伸びている。しかし,新たな問題も抱えている。2013年には多くの産卵を確認したが,そのほとんどの卵は何者かに食べられしまった。
園内にセンサーカメラを仕掛け,侵入動物を調べたところ,日中にはカラスが,夜間にはネコが侵入していることが分かった。食害現場を確認できたわけではないが,写真には,産卵中と思われるニホンイシガメのそばに立っているカラスの姿が写っていた。卵の壊され方には少なくとも2種類あり,カラスとネコによる可能性が高いと考えている。
子ガメも,毎年生き残るのはわずかである。子ガメが捕食されている可能性も否定できない。淡水生物園をさらに整備し補修する必要も出てきているが,こういった活動にはなかなか予算がつかない。
支援してくださる個人や企業があれば,ぜひご連絡いただきたい。今後も岐阜市の希少種ニホンイシガメを守っていきたい。
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産卵中と思われるニホンイシガメのそばで,
カラスが卵を狙っている
(岐阜大学野生動物管理学研究センター撮影) |
(11)カスミサンショウウオ 岐阜市の集団,絶滅危機 (コラム番号84,2013年10月17日掲載) |
カエルやサンショウウオなどの両生類は,脊椎動物の中で世界的に最も危機が迫っている。生息環境の破壊,水田環境の変化,温暖化,ツボカビ症の猛威など,両生類を減少させる要因は様々ある。特に両生類が生きていくには多様な環境が必要だ。産卵や幼生時の成育に必要な水環境,変態して上陸し成育するための湿った陸環境,さらに両者をつなぐ移動路が必要で,1つでも欠ければ急速に絶滅に向かう。
岐阜県のカスミサンショウウオも危機にある。本種は西日本に広く分布する10センチほどの小型サンショウウオである。岐阜県(と愛知県)は本種の分布東限にあたり,生物地理学的に貴重な場所だ。分布域が広いとはいえ,個々のサンショウウオは,移動距離が小さいため,淡水魚もそうだが,両生類はその地域や河川ごとに固有の遺伝子が残されている。同じカスミサンショウウオが他地域にいるといっても,地域ごとに守っていくことが大切なのである。岐阜高校による遺伝子解析の結果から,岐阜の集団は名古屋市周辺や滋賀に生息するものとは系統が異なることもわかっている。
岐阜県内の自然生息地は現在,岐阜市と揖斐川町の,ある限定された2箇所しかない。周りにも自然が残された場所はあるが,発見されていない。
カスミサンショウウオは,環境省のレッドリスト(2012)で絶滅危惧II類に,岐阜県版(2009)では絶滅危惧I類に指定されている。特に岐阜市の集団は絶滅寸前で,条例で「貴重野生動植物種」に指定され,捕獲や採集等が原則禁止されている。
このような危機から,岐阜高校,アクア・トトぎふ,岐阜市役所が積極的に保全活動を展開してきた。そして岐阜大学も2011年からこの活動に参加している。高校・水族館・市役所・大学が協働して,地元の希少種カスミサンショウウオを守ろうとしている。その取り組みや成果は次回紹介したい。
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岐阜市に生息する
カスミサンショウウオ |
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(12)カスミサンショウウオ 希少種の保全,成果着々 (コラム番号89,2013年11月22日掲載) |
岐阜県に残されたカスミサンショウウオの生息地は2箇所しかない。岐阜市内の生息地は住宅地に隣接し,産卵地はなんと駐車場沿いにあるコンクリート製のU字溝である。住宅地からの生活排水や農薬等が流入したこともある。県内のもう1つの揖斐川町内の産卵地は水涸れが起こることがあり,さらにアカハライモリによる卵嚢の食害も確認されている。いずれの生息地も危機的な状況にある。
このような状況から,岐阜市が2003年より繁殖確認調査を,2006年から岐阜高校が加わり生息実態調査,卵嚢の保護と水槽内での孵化,孵化幼生の育成と生息地への再放流,生息地の環境対策などを実施し,さらに2007年からはアクア・トトぎふが飼育・展示を開始し,飼育繁殖技術の確立・生息地への放流・普及活動等を行っている。これらの積極的な保全の取り組みにより現地の生息数は回復傾向にある。
岐阜市の生息地では2005年の調査開始当初,大型の老齢個体が数匹見つかっただけだったのが,毎年発見数が増え,各サイズの亜成体や成体が見つかるようになってきた。さらに,2007年の調査時には6対の卵嚢しか見つからなかったが,卵嚢発見数も年々増え,2013年には40対にまで増えた。特に,2011年の発見数は前年から倍増しており,おそらくこれは放流した幼生・幼体が成熟して繁殖に参加し始めたためだろう。このように着実に成果が表れてきている。
しかし,依然として岐阜市の生息地は1個所しかないため,予期せぬ災害が起こったり,開発や違法採集などがあったりすれば,一瞬にして絶滅してしまう。そこで,こういった危険を分散させ,もしものときに備えるために,新たな取り組みとして2011年から県内3ヶ所に新たな保全地(うち1ヶ所は岐阜大学構内)を確立しようとしている。
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岐阜市最後の産卵地(駐車場沿いのU字溝)と
カスミサンショウウオの卵嚢 |
(13)カスミサンショウウオ 岐阜大内でも放流,保護 (コラム番号97,2014年1月23日掲載) |
岐阜大学の構内に『淡水生物園』というニホンイシガメの保護増殖地を造ったことは以前紹介した。その工事の過程で,カスミサンショウウオの保全活動に関わっている岐阜市や岐阜高校,アクア・トトぎふの方々から,「ここにカスミサンショウウオの保全地も!」というご提案をいただいた。それが,私がこの活動に関わるようになるきっかけだった。
実はそれまで,岐阜にカスミサンショウウオがいることも,その危機や保全の状況についても全く知らなかった。
カスミサンショウウオの保全活動の一環として,岐阜高校と岐阜市役所が,市内唯一の生息地を毎年調査し,全ての卵嚢を回収(避難)している。岐阜高校の実験室内で孵化させ,変態して上陸する直前まで丈夫に育て,それを現地へ再放流するという活動を2007年から継続して行ってきた。この活動により,着実に発見個体数や産卵数が増加してきている。
2011年からは,現地へ再放流する幼生・幼体の一部を岐阜大学の淡水生物園と,従来の生息地に近く,環境が類似した市有地にも放流している。現地生息地に万一のことがあった場合の保険の場所を確保しておくためだ。岐阜大学の淡水生物園には2011年6月に90匹,2012年4月に1126匹(このうち147匹を7月に現地生息地へ移動),2013年6月に300匹を放流し,毎年継続してきた。もちろん全部は生き残れない。弱いものは自然淘汰されていく。
この新たな活動は始まったばかりである。これらの個体がここで成長し,強く生き残った個体がここに定着してくれることが当面の目標だ。同様に,アクア・トトぎふでは,2010年から飼育個体の一部を屋外で自然管理し,2012年からは産卵がみられている。こうした多くの取り組みと新たな挑戦によって,岐阜市のカスミサンショウウオは守られている。 |
岐阜大学「淡水生物園」にカスミサンショウウオの幼生を放流
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(14)カスミサンショウウオ 新たな生息地で成長中 (コラム番号104,2014年3月13日掲載) |
岐阜市の希少種カスミサンショウウオを守るため,岐阜大学構内に造成した『淡水生物園』で,生息地以外の場所での管理を行っている。2011年から毎年ここに,カスミサンショウウオの幼生や変態直後の幼体を放流してきた。まずは,大きく成長して生き残ってくれなければ,何も始まらない。
2013年7月,園内を捜索したところ,約10センチに成長した個体を発見した。また別の日にも8センチと7.5センチの個体を発見できた。よく太りプリプリに成長していた。これまでも,放流してしばらくは上陸したての4〜5センチの個体はたびたび見つけていたが,ここまで大きく成長した個体を見たのは初めてだった。2013年は放流3年目だが,1・2年目の個体が生き残り,順調に成長していた証である。数年後に成熟し,淡水生物園で繁殖し始めることを期待したい。
さらにはここで産卵・孵化した子が育ち,また次の世代の繁殖が始まる,それが毎年繰り返されていくことが目指す目標だ。現地の生息地が安定して個体数が維持されることはもちろん,淡水生物園は種の存続の保険的な場所として機能していくことが目標である。
現在,カスミサンショウウオの生息地や新たな保全地は公表していない。どうしても密漁という心無い行為が起こってしまうからだ。そんな中,淡水生物園は大学構内で警備もあることから公表している。淡水生物園での毎年の放流会は,それを育てた岐阜高校の生徒自身の手によって行われ,公開している。新聞各社が取材にやってくる。こういった活動を広く知ってもらえるようにすることも,保全を進める中で重要なことである。環境教育としてもとても大切なことだ。アクア・トトぎふでも保全活動が進められているが,水族館の展示はまさにそれである。
淡水生物園での活動はウェブサイトで情報発信している。ぜひ覗いてみてほしい。
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岐阜大学の「淡水生物園」で成長したカスミサンショウウオ
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(15)カスミサンショウウオ 域外保全地で繁殖着々 (コラム番号162,2015年4月30日掲載) |
岐阜市のカスミサンショウウオの危機や保全の取り組みについては,これまで何度か紹介してきた。市内には1ヶ所,県内で見ても2ヶ所しかないカスミサンショウウオの生息地は,岐阜高校自然科学部生物班やアクア・トトぎふ,岐阜市役所などの活動によって守られてきた。
その結果,個体数は回復しているものの,県内の生息地が2ヶ所しかないことに変わりはない。そこで,アクア・トトぎふ,岐阜大学淡水生物園,岐阜市市有地の3ヶ所に,リスク分散のための生息域外保全地が設けられた。
淡水生物園では2011年以降,毎年カスミサンショウウオの幼生が,岐阜高校の生徒たちによって放流されてきた。2013年7月には成体が3匹発見され,2011年に放流したものが順調に成長していたことが証明された。
2014年4月には,カスミサンショウウオの孵化直後の幼生11匹が発見された。初めて淡水生物園で繁殖活動が始まったことを意味し,一同大いに喜んだ。淡水生物園で2011年に放流した個体が3歳になり,繁殖活動を開始したのである。他の2ヶ所の域外保全地でも同様に繁殖が確認されている。
現地の自然生息地での個体数回復という生息域内保全の成果に加え,そのリスク分散のために設けられた域外保全地での繁殖のスタートは,カスミサンショウウオの保全活動にとって,新たなステージである。
今後は,毎年継続して繁殖が見られること,そして園内生まれの個体が次世代を作り出していくことが目標である。域外保全地で生まれ育った個体の一部も現地へ放流しながら,生息地の中と外で安定的に個体数を維持できるようになれば,最終ステージである。
これらの活動は,「ぎふの淡水生物をまもる増補改訂版」に詳しく紹介しており,この言葉をネット検索すれば,PDF版が閲覧できる。
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淡水生物園内で発見されたカスミサンショウウオの
幼生(左)と亜生体(右)(2014年4月撮影)
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