適応障害には、抑うつ気分を伴う適応障害、不安を伴う適応障害、および行動の障害を伴う適応障害の3つの主なサブタイプがあります。この障害は遺伝的に中程度の遺伝性があり、一生涯にわたってうつ病(MDD)、不安症、リスク許容性性格傾向と併存することがあります。しかし、適応障害と他の精神疾患や中間的表現型との遺伝的相関の程度が、MDD、不安症、リスク許容性性格傾向とこれらの他の精神疾患および中間的表現型との遺伝的相関の程度と類似しているのか異なっているのかは、依然として不明でした。
遺伝的相関のパターンを比較するために、適応障害関連の疾患と性格特性、他の11個の精神疾患、15個の中間表現型に関する大規模なゲノムワイド関連研究(GWAS)の要約統計量を利用しました。その結果、適応障害は、MDD、不安症、リスク許容性と高い正の遺伝的相関を示しました。他の精神疾患においては、適応障害、MDD、不安症、リスク許容性性格傾向は、統合失調症(SCZ)、双極症(BD)、SCZ+BD、注意欠如多動症、Cross-disordersとのリスクと正の相関がありました。しかし、適応障害は、MDDや不安症と有意な遺伝的相関があるにもかかわらず、強迫症、トゥレット症候群、心的外傷後ストレス障害のリスクとは、有意な相関が見られませんでした。中間表現型に関しては、適応障害、MDD、不安症、リスク許容性性格傾向は共通して、初性交、初産、閉経の年齢が若いこと、認知能力が低いこと、喫煙開始率が高い遺伝的相関を示しました。適応障害は外向性とは遺伝的相関がありませんでしたが、適応障害と関連する疾患やリスク許容性性格傾向は外向性と相関していました。喫煙量が多いことについては、適応障害だけが遺伝的に相関していました。
この研究結果から、適応障害はMDD、不安症、リスク許容性パーソナリティ特性と遺伝的病因を共有している可能性がある一方で、適応障害に特異的な遺伝的病因も持っている可能性を示唆しています。
統合失調症(SZ)と双極症(BD)の発症には遺伝的および環境的要因が関与しています。SZ、BD、SZ対BDのポリジェニックリスクスコア(PRS)の十分位数の組み合わせで層別化された遺伝的リスクグループの中で、遺伝的SZリスク群はSZのリスクが高く、顕著な認知障害が見られています。一方で、これらの疾患にはエピジェネティックな変化も関与していることが示されています。しかし、血液や脳組織から得られたSZリスクのDNAメチル化リスクスコア(MRS)が、PRSで層別化された遺伝的SZリスク群のSZリスクと関連しているかどうかは明らかではありませんでした。
本研究では、SZ、BD、及びSZ対BDのPRSの組み合わせで層別化したSZとBDの遺伝的リスクが低い健常者(HC)30例とSZ患者11例、遺伝的BDリスクが高いSZ患者25例、遺伝的SZリスクの高いSZ患者30例のグループの間で、全血におけるSZリスクに関するエピゲノムワイド関連研究(EWAS)を予備的に実施しました。次に、全血、死後の前頭皮質(FC)および上側頭回(STG)でのSZリスクのEWASに基づくMRSの差異を、ケースコントロール(SZ 66例対HC 30例)およびPRSで層別化した遺伝的リスク群間で検討しました。
ケースコントロール群および遺伝的リスク群間で、それぞれ33個と351個のゲノムワイド有意なメチル化部位(DMP)がSZと関連して同定され、その多くは高メチル化されていました。遺伝的リスクの低いHC群と比較して、遺伝的SZリスク群のSZ患者では39個のゲノムワイド有意なDMPが確認されましたが、遺伝的BDリスク群のSZ患者では6個のみでした。全血、FC、STGから得られたSZリスクのMRSは、抹消血においてHCよりSZ患者で高く、特に遺伝的SZリスク群のSZ患者では、低遺伝的リスク群のHCや遺伝的BDリスク群のSZ患者より高い値を示しました。また、遺伝的リスク群間の末梢血のEWASに基づくSZリスクのMRSは、FCおよびSTGのSZリスクとも関連していました。MRSとPRSの間には相関は認められませんでした。
この研究結果から、MRSが統合失調症を理解する上で、特に遺伝的SZリスクを有する患者において潜在的な遺伝的マーカーである可能性が示唆されます。
パニック症は30‐40%の遺伝率を示す精神疾患です。現在、診断は臨床症状のみに基づいて行われており、客観的なバイオマーカーを同定とより信頼性の高い診断手順を確立が望まれています。
この研究では、機械学習技術を活用し、精神疾患とその中間表現型に関する単一のポリジェニックスコア(PGS)と比較し、複数のPGSの組み合わせがパニック症患者の信頼性の高い診断に役立つかを検討しました。大規模ゲノムワイド関連研究(n=7556–1,131,881)に基づき、48種類の精神疾患および中間表現型のPGSを、パニック症患者718例と健常対照者1,717例で算出しました。パニック症患者と健康者の判別は、ロジスティック回帰、ニューラルネットワーク、二次判別分析、ランダムフォレスト、サポートベクターマシンの5つの判別器を使用し、48種類のPGSに基づいて行いました。PGSの組み合わせ数を増やすことによる判別精度(曲線下面積;AUC)の差と、5つの判別器間の精度の違いを検討しました。
5つの判別器はいずれも、PGSの数を増やすことにより、パニック症患者と健常者の判別する機能が比較的良好でした。48のPGSの中で、特にUK Biobank(UKBB)に基づく不安症のPGSが判別に最も有用でした。2つまたは3つのPGSの組み合わせにおいても、すべての判別器においてUKBB不安症のPGSが含まれていました。全48のPGSを組み合わせた場合、5つの判別器間で有意に異なるAUCが得られました。サポートベクターマシンとロジスティック回帰は、2次判別分析とランダムフォレストよりも高い精度を示しました。それぞれの判別器において最大のAUCは、ロジスティック回帰(PGSの組み合わせ数 N=14)で0.600±0.030、ニューラルネットワーク(N=9)で0.591±0.039、2次判別分析(N=10)で0.603±0.033、ランダムフォレスト(N=25)で0.572±0.039、サポートベクターマシン(N=11)で0.617±0.041でした。最良のPGSの組み合わせでのAUCは、5つの判別器間で有意に異なりました。ランダムフォレストは判別器の中で最も低い精度を示し、サポートベクターマシンはニューラルネットワークよりも高い精度を示しました。
本研究結果から、PGSの組み合わせ数を約10まで増やすことが判別精度を効果的に向上させること、またサポートベクターマシンが判別機の中で最も高い精度を示すことを示唆しています。しかし、パニック症の診断においてPGS組み合わせだけに基づく判別精度は限定的であることが明らかになりました。
自殺企図は中程度の遺伝性形質であり、精神医学的表現型や関連する中間的表現型との遺伝的相関が報告されている。しかし、大うつ病性障害(MDD)だけでなくいくつかの精神疾患が自殺企図と強く関連していることから、これらの遺伝的相関は精神疾患によって媒介されている可能性がある。ここでは、精神障害を調整した場合と調整しない場合について、自殺企図と精神医学的表現型および関連する中間表現型との遺伝的相関を検討した。
遺伝的相関を調べるために、精神障害を調整した場合と調整しない場合について、自殺企図と9つの精神疾患、15の中間表現型に関する大規模ゲノムワイド関連研究の要約統計量を利用した。
精神障害を調整しない場合、自殺企図は、注意欠陥/多動性障害、統合失調症、双極性障害、MDD、不安障害、心的外傷後ストレス障害のリスクと有意な正の遺伝的相関があり、リスクの許容度が高く、初性交、初産、閉経の年齢が早く、分娩数が多く、小児期の IQ、学歴、認知能力が低く、禁煙率が低かった。精神障害で調整すると、自殺企図は MDD のリスクと有意な正の遺伝的相関を示し、初回性交渉、初回出産、閉経の年齢が早く、学歴の低さと有意な正の遺伝的相関を示した。精神障害で調整すると、精神障害との遺伝的相関のほとんどが減少し、中間の表現型とのいくつかの遺伝的相関は増加した。
これらの知見は、自殺企図に関連する遺伝的相関の解析において精神障害を考慮することの重要性を強調するものであり、精神障害を調整した後では、MDD への感受性、生殖行動、教育レベルの低さが自殺企図と遺伝的基盤を共有していることを示唆している。
統合失調症薬物治療ガイドラインでは、抗精神病薬の単剤治療を推奨しています。我々は、それぞれの統合失調症患者さんについて実臨床における処方と統合失調症薬物治療ガイドラインの推奨内容がどの程度一致しているかを評価するツールとして、Individual Fitness Score (IFS)という計算式を開発しています。このIFSを用いて「ガイドライン一致率」を算出することによって、処方内容とガイドラインとの一致率を0~100%で示すことができます。
本研究では、統合失調症患者さんについて統合失調症薬物治療ガイドライン一致率と労働時間 (社会機能的転帰)の関係を調べました。その結果、処方内容とガイドラインとの一致率が高い患者さんほど、労働時間が長いことが分かりました。
<今回の結果を踏まえ、精神科医師のみなさまに以下の実践を提案します>
統合失調症の薬物治療では、患者さんの社会機能的転帰を改善するために、従来の心理社会的支援に加えて、ガイドラインに基づいた治療の実践を提案します。
2024年5月7日
「論文発表」を掲載しました。
2023年12月21日
情報提供に「精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの
効果に関する研究」を掲載しました。
2023年12月21日
「論文発表」を掲載しました。
2023年8月3日
「受賞」「論文発表」を掲載しました。
2023年4月19日
「論文発表」を掲載しました。
2023年4月3日
「論文発表」を掲載、「スタッフ紹介」を更新しました。
2023年3月2日
「論文発表」「受賞」を掲載しました。
2022年9月13日
「大井一高准教授らの論文発表」を掲載しました。
2022年9月7日
2022年8月3日
「大井一高准教授の受賞」を掲載しました。
2022年6月17日
「医局説明会のお知らせ」を掲載しました
2022年5月10日
「大井一高准教授らの論文発表、受賞」を掲載しました。
2022年5月10日
「スタッフ紹介」 「入局実績」 「教室の業績」を更新しました
2022年2月17日
岐阜大学医学部寄附講座「妊産婦と子どものこころ診療学講座(岐阜県)」の設立を求める請願署名ページを掲載しました
2022年2月1日
「大井一高准教授らの論文発表、受賞」を掲載しました。
2021年11月16日
「深尾 琢助教らの論文発表」を掲載しました。
2021年11月16日
2021年11月10日
「杉山俊介助教らの論文発表」を掲載しました。
2021年10月25日
「スタッフ紹介」を更新しました
2021年10月25日
「入局実績」を追加しました
2021年7月16日
「医局説明会のお知らせ」を掲載しました
2021年7月16日
「教室の業績」を更新しました
2021年4月1日
トップページに「論文発表」を掲載しました
2021年4月1日
「スタッフ紹介」を更新しました
2021年3月18日
トップページに「論文発表」を掲載しました
2020年12月23日
トップページに「採択」「論文発表」を掲載しました
2020年10月15日
「スタッフ紹介」を更新しました
2020年7月16日
「医局説明会のお知らせ」を掲載しました
2020年2月21日
「【受賞】 大井一高 准教授が第49回日本神経精神薬理学会年会において2019年度学術奨励賞および第6回アジア神経精神薬理学会大会においてJSNP Excellent Presentation Awardを受賞しました。」を掲載しました。
2019年10月11日
「スタッフ紹介」を更新しました
2019年7月5日
「平成31年度 第2回医局説明会のお知らせ」を掲載しました
2019年7月5日
「入局実績」を更新しました
2019年7月5日
「教室の業績」を更新しました
2018年7月5日
「スタッフ紹介」を更新しました
2019年2月19日
「第11回 日本不安症学会学術大会」の案内を掲載しました