https://www.jspn.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=222
日本精神神経学会の英文機関誌であるPsychiatry and Clinical Neurosciences (PCN)は、1933年創刊の歴史ある精神医学専門誌になります。PCNの世界的な評価は年々高まり、2021年のImpact Factorは12.145に達しています。大井一高 准教授はPCNに投稿された論文の査読者としての貢献が評価されPCN Reviewer Awards 2022を受賞されました。
https://www.med.gifu-u.ac.jp/alumni/about/history.html#rekidai4
2023年5月20日に開催された岐阜大学医学部同窓会総会にて、大井一高 准教授が令和5年度岐阜医学奨励賞を受賞し、「生殖行動と不安関連疾患間に共通する遺伝基盤の解明」という演題名で受賞講演を行いました。
Wuらの論文「Investigating the relationship between depression and breast cancer: observational and genetic analyses. BMC Med. 2023;21(1):170.」に対するCommentaryとして、うつ病と乳がん間の遺伝的共通性や因果関係についてまとめた論文である。
疫学的にうつ病患者は乳がんを罹患しやすい一方で、乳がん患者もうつ病を罹患しやすいことが知られている。遺伝学的には、うつ病、乳がんともに中等度の遺伝的な素因(遺伝率4割程度)が関わっており、うつ病と乳がん間の遺伝的相関は軽度(rg = 0.08)であることを示している。因果関係については、うつ病が乳がんに対する因果関係があるのに対して(オッズ比 = 1.09–1.12)、乳がんはうつ病に対する因果関係を認めなかった(オッズ比 = 1.00–1.01)。これらの研究結果は、乳がん患者がうつ病を併存するメカニズムは環境要因に寄与するものが大きく、うつ病患者が乳がんを罹患しやすいメカニズムには慢性炎症など生物学的要因が関わっている可能性を示唆している。
https://onlinelibrary.wiley.com/page/journal/2574173x/homepage/reviewer_awards
Neuropsychopharmacology Reports (NPPR)はJSNP機関誌・日本神経精神薬理学雑誌をリニューアルした英文オープンアクセス誌になります。大井一高 准教授はNPPRに投稿された論文の査読者としての貢献が評価されNPPR Reviewer Awards 2022を受賞されました。
生殖行動は、精神疾患のリスクとの関連がある。生殖行動と関連する表現型は中程度の遺伝性を呈し、精神疾患のリスクと遺伝的に重複する部分が認められている。しかし、不安関連障害や特定の不安症と生殖関連行動間における遺伝的関連や因果関係はよく分かっていなかった。
本研究では、5つの生殖関連行動(初潮年齢、初性交年齢、初産年齢、生涯出生児数、閉経年齢)および5つの不安関連障害 [パニック症、ANGSTおよびUK Biobank (UKBB)の不安症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、強迫症]の大規模ゲノムワイド関連解析(GWAS)結果を利用した。これらの表現型間における遺伝的相関や因果関係をそれぞれLD Score Regression解析とメンデルランダム化解析にて評価した。
初性交年齢と初産年齢は不安症ANGST、不安症UKBBおよびPTSDのリスクと遺伝的に負の相関を示し、強迫症のリスクと遺伝的に正の相関を示した。その一方で、生涯出生児数は強迫症のリスクと遺伝的に負の相関を示した。さらに、メンデルランダム化解析により、初性交年齢と初産年齢が早期であることと、不安症の発症リスク間には双方向性の因果関係があることを明らかにした。一方、強迫症の発症リスクに対しては、初性交年齢と初産年齢の遅さが強迫症の発症リスクに一方向性の因果関係があることを明らかとした。
本研究結果は、性交体験や出産が早期の人は不安症のリスクを抱えやすく、逆に、性交体験や出産が遅い人は遺伝的に強迫症のリスクを抱えやすいことを示唆している。本研究結果は、強迫症は不安症とは独立した疾患であるという精神科診断基準の改訂(DSM-IVからDSM-5への改訂)をさらに支持するものである。
統合失調症患者における統合失調症薬物治療ガイドラインに基づく治療適合度(individual fitness score)と精神症状との関連
実証度の高い統合失調症の薬物治療を行うには、精神科医は治療ガイドラインを遵守する必要があります。私たちは、これまでに精神科医がどの程度統合失調症薬物治療ガイドラインを準拠しているかを患者さんごとに評価することができるindividual fitness score(IFS)を開発しています。本研究では、IFSを用いて統合失調症患者さん400名の精神科医「ガイドライン準拠度」と陽性陰性症状評価尺度(PANSS)を用い評価した精神症状との関係を調べました。その結果、精神科医の「ガイドライン準拠度」が高いほど精神症状が軽いことがわかりました。また、一部の患者さんでは2年間以上の経過の中で「ガイドライン準拠度」の改善度と精神症状の改善度との間に正の相関関係があることがわかりました。本研究結果は、精神科医の「ガイドライン準拠度」の改善が精神症状の改善に影響することを示唆しています。
双極性障害(BD)と統合失調症(SZ)は複雑な精神病性の疾患(PSY)であり、環境要因と遺伝的要因の両方が関与している。これまでに、いくつかの先行研究では、ミトコンドリア染色体上の遺伝子多型がBDやSZと関連するかどうかが検討されている。しかし、BDやSZとの関連が確認された遺伝子多型は先行研究間で同一ではなく、さらに対象者は欧米人に限られていた。本研究では、BD患者(n=51)、SZ患者(n=172)、健常対照者(HC,n=197)からなる日本人420人を対象に、ミトコンドリア染色体上の遺伝子多型(マイナーアレル頻度(MAF)>0.01,n=45多型)とBD、SZ、PSYとの関連をゲノムワイドに検討した。
ミトコンドリア遺伝子多型のうち、3つ(rs200478835、rs200044200、rs28359178、NADH脱水素酵素またはその近傍)と1つ(rs200478835)は、それぞれBDとPSYに有意に関連していた。特に、rs200044200のマイナーGアレル(ミスセンス変異)を持つ個体は、BD患者(MAF=0.059)のみに観察され、HC(MAF=0)では観察されなかった。3名のBD患者には共通して神経精神疾患の家族歴を認めた。本研究結果より、NADHデヒドロゲナーゼ関連遺伝子のミトコンドリア遺伝子変異が、エネルギー産生の機能障害を通じて、日本人のBDおよびPSYの病態に寄与している可能性を示唆している。
これまでのトランスジェンダーの脳科学は、トランスジェンダー女性の研究に偏る傾向がありました。
本研究では、トランスジェンダー男性21人が、同じ生物学的女性であって性別違和感のないシスジェンダー女性21人に対して、どの領域に灰白質体積の差異を有するのかを、MRIのvoxel-based morphometry(VBM)解析を用いて全脳レベルで探索しました。
トランスジェンダー男性の灰白質体積は、シスジェンダー女性と比較して右後部帯状回と左後頭極において増大し、左中側頭回において減少していました。ここで、灰白質体積に影響を与えると言われる性ホルモン値で統制すると、それでもなお右後部帯状回から右舌状回に至る領域の有意差が残存しました。
後部帯状回とその周辺は大脳皮質正中内側部構造と呼ばれ、感情、顔面、社会領域における自己言及過程に関与すると言われています。また、内的自己知覚と外界知覚の間の不均衡にも、自己言及過程の変調が関与していることが指摘されています。今回の所見である大脳皮質正中内側部構造の後部における灰白質増大は、トランスジェンダー男性が自らを男性だと感じるという内的自己知覚と、現実の自己身体が女性であるという視覚による外界知覚との不均衡、すなわち自己言及過程の変調に関わっている可能性がある、と考えられました。
オシレーションは、一定の周期で発火する神経細胞の律動的な活動ですが、特にガンマ帯域(20-80Hz)の活動であるガンマオシレーションは、認知機能や様々な神経精神疾患との関連性が指摘されており、研究者の注目を集めています。しかし、ヒトにおけるガンマオシレーションの相互作用については知られていませんでした。
本研究では、生理学研究所 乾 幸二客員教授の指導の下、脳磁計(MEG)を用いて、21名の健常者を対象に、20Hz、30Hz、40Hz、50Hzの聴覚刺激を与え、それぞれの周波数のオシレーションが出現したときの他の周波数帯のオシレーションの変化を調べました。その結果、40Hzのオシレーションが活性化しているときに、約30Hz(低ガンマ)のオシレーションが抑制されることが分かりました。また信号源推定によって、活性化した40Hzオシレーションと抑制された低ガンマオシレーションの活動源が異なることが示されました。それぞれの活動の分布を詳細に把握するために全センサー解析を行ったところ、抑制領域は40Hzオシレーションの活動の中心(一次聴覚野)を取り囲み、頭頂に向かって分布する傾向を示しました。このことは、これら2つのガンマオシレーションを担う神経細胞群が異なること、40Hzオシレーションの回路が低ガンマオシレーションの回路に対して特異的な抑制性神経支配を行っていることを示しました。
さらに興味深いのが、動物モデルにおいて、同様の低ガンマオシレーションの抑制がNMDA受容体を介して調節されるという報告があります。本研究で初めて得られた、ヒトにおける低ガンマオシレーションの抑制メカニズムの発見によって、NMDA受容体機能を非侵襲的に測定でき、NMDA受容体の機能低下と関連する様々な神経精神疾患の解明に繋がる可能性が示唆されます。
統合失調症患者では、中脳、橋、上小脳脚、延髄など脳幹体積の減少が報告されている。また、研究間で結果のばらつきを認めるが、男性は女性よりも脳幹体積が大きいとの報告がある。しかし、これまで統合失調症患者における脳幹体積変化を男女に分けて検討した研究はなかった。本研究では、統合失調症患者と健常対照者の脳幹体積の変化を性別で層別化し検討した。さらに、脳幹体積と臨床指標との相関を検討した。統合失調症患者156名(男性61名/女性95名)と健常者205名(133名/72名)のT1強調MRI脳画像をFreeSurfer v6.0を用いて処理し、中脳、橋、上小脳脚、延髄体積を抽出した。
脳幹構造のうち、特に男性の統合失調症患者において、健常者男性と比べて橋の体積が有意に減少していた。男性患者の橋体積の減少は、教育年数の低さと相関していたが、罹病期間との相関は認めなかった。
本研究結果より、男性の統合失調症患者の橋体積の減少は、発症後の進行性変化ではなく、統合失調症の発症前または発症前後に生じる可能性を示唆している。
統合失調症患者では、中脳、橋、上小脳脚、延髄など脳幹体積の減少が報告されている。また、研究間で結果のばらつきを認めるが、男性は女性よりも脳幹体積が大きいとの報告がある。しかし、これまで統合失調症患者における脳幹体積変化を男女に分けて検討した研究はなかった。本研究では、統合失調症患者と健常対照者の脳幹体積の変化を性別で層別化し検討した。さらに、脳幹体積と臨床指標との相関を検討した。統合失調症患者156名(男性61名/女性95名)と健常者205名(133名/72名)のT1強調MRI脳画像をFreeSurfer v6.0を用いて処理し、中脳、橋、上小脳脚、延髄体積を抽出した。
脳幹構造のうち、特に男性の統合失調症患者において、健常者男性と比べて橋の体積が有意に減少していた。男性患者の橋体積の減少は、教育年数の低さと相関していたが、罹病期間との相関は認めなかった。
本研究結果より、男性の統合失調症患者の橋体積の減少は、発症後の進行性変化ではなく、統合失調症の発症前または発症前後に生じる可能性を示唆している。
統合失調型パーソナリティ特性、自閉症スペクトラム特性、感情知能は、様々な精神疾患のリスクと関連している。しかし、これまでに、大学生において何らかの精神疾患既往歴のあるヒトや精神疾患家族歴のあるヒトをどのように予測するかは確立されていなかった。
本研究の目的は、大学生において、統合失調型パーソナリティ特性、自閉症スペクトラム特性、感情知能を用いることで、何らかの精神疾患に罹患したことのあるヒトや第2親等以内に精神疾患既往のある親族がいるヒトを予測できるか検討することである。対象者は、医学生と看護学生からリクルートした237名である。自己申告に基づき、これらの学生を何らかの精神疾患に罹患したことのある18名、第2親等以内に精神疾患既往のある親族がいる36名、健常対照者183名の3つの診断群に区分した。統合失調型パーソナリティ特性、自閉症スペクトラム特性、情動知能を評価するために、統合失調型パーソナリティ特性質問票(SPQ)、自閉症スペクトラム指数(AQ)、特性情動知能質問票(TEIQue)を用いた。これらの特性が診断状態と直線的に相関するかどうか、またどの特性が診断状態を最もよく予測できるかを検討した。
統合失調型パーソナリティ特性および自閉症スペクトラム特性は精神疾患既往歴のあるヒトや精神疾患家族歴のあるヒトと有意に正の相関がある一方で、感情知能は診断状態と負の相関を認めた。これらの特性のうち、診断状態と最も有意に関連したのは、統合失調型パーソナリティ特性であった。SPQの下位尺度のうち、認知知覚特性が診断状態と最も有意に関連していた。
本研究結果より、統合失調型パーソナリティ特性、特に認知知覚特性は、大学生における精神的な不調や精神疾患のリスクがあるヒトを予測するために有用である可能性が示唆された。
不安症は、遺伝的寄与が中程度で不均一な精神疾患であり、本疾患に関連する皮質構造の変化は、研究間で一貫性がない。今回、当研究では不安症の遺伝的要因が大脳皮質の変化に寄与しているかどうかを、ポリジェニックリスクスコア(PRS)解析により検討した。
精神的・身体的に健康な被検者群(n=174)を用い、英国バイオバンク(症例数25,453、対照群58,113)の不安症の最新の大規模ゲノムワイド関連研究に基づいて、不安症のPRSをいくつかのp値の閾値(PT≦5.0×10-8からPT≦1.0まで)にて算出した。
FreeSurferで抽出した両側脳34部位の表面積や皮質厚を年齢、性別、頭蓋内容積などの交絡因子を調整し、不安症のPRSとの関連を検討した。
PT≦1.0における不安症PRSの高さは、右尾状前帯状領域の減少(β=-0.25、p=9.51×10-4)、右吻状前帯状領域の減少(β=-0.23, p=2.56×10-3)、右弁蓋部領域の減少(β=-0.19, p=0.012)、右舌状回領域の減少(β=-0.15, p=0.047)、左嗅内野領域の増加(β=0.16, p=0.041)、左外側眼窩前頭葉厚の増加(β=0.15,p=0.051)と有意に関連していた。より多くのSNPsに基づくPRSは(すなわちPT≦0.01からPT≦1.0にかけて)、これらの皮質構造と関連していた(右尾部前帯状面積,PT≦0.5で最大、R2=0.066, β=-0.27, p=3.81×10-4)。さらに、不安症PRSが最高四分位の健常者は、最低四分位の健常者に比べ、右前帯状回面積が有意に減少していた。
不安症のリスクと前帯状回体積間に共通の遺伝的素因があることが示唆された。さらに、不安症病態の異種性を低減するための1つの手段としてPRSの有用性が示唆された。
2023年12月21日
情報提供に「精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの
効果に関する研究」を掲載しました。
2023年12月21日
「論文発表」を掲載しました。
2023年8月3日
「受賞」「論文発表」を掲載しました。
2023年4月19日
「論文発表」を掲載しました。
2023年4月3日
「論文発表」を掲載、「スタッフ紹介」を更新しました。
2023年3月2日
「論文発表」「受賞」を掲載しました。
2022年9月13日
「大井一高准教授らの論文発表」を掲載しました。
2022年9月7日
2022年8月3日
「大井一高准教授の受賞」を掲載しました。
2022年6月17日
「医局説明会のお知らせ」を掲載しました
2022年5月10日
「大井一高准教授らの論文発表、受賞」を掲載しました。
2022年5月10日
「スタッフ紹介」 「入局実績」 「教室の業績」を更新しました
2022年2月17日
岐阜大学医学部寄附講座「妊産婦と子どものこころ診療学講座(岐阜県)」の設立を求める請願署名ページを掲載しました
2022年2月1日
「大井一高准教授らの論文発表、受賞」を掲載しました。
2021年11月16日
「深尾 琢助教らの論文発表」を掲載しました。
2021年11月16日
2021年11月10日
「杉山俊介助教らの論文発表」を掲載しました。
2021年10月25日
「スタッフ紹介」を更新しました
2021年10月25日
「入局実績」を追加しました
2021年7月16日
「医局説明会のお知らせ」を掲載しました
2021年7月16日
「教室の業績」を更新しました
2021年4月1日
トップページに「論文発表」を掲載しました
2021年4月1日
「スタッフ紹介」を更新しました
2021年3月18日
トップページに「論文発表」を掲載しました
2020年12月23日
トップページに「採択」「論文発表」を掲載しました
2020年10月15日
「スタッフ紹介」を更新しました
2020年7月16日
「医局説明会のお知らせ」を掲載しました
2020年2月21日
「【受賞】 大井一高 准教授が第49回日本神経精神薬理学会年会において2019年度学術奨励賞および第6回アジア神経精神薬理学会大会においてJSNP Excellent Presentation Awardを受賞しました。」を掲載しました。
2019年10月11日
「スタッフ紹介」を更新しました
2019年7月5日
「平成31年度 第2回医局説明会のお知らせ」を掲載しました
2019年7月5日
「入局実績」を更新しました
2019年7月5日
「教室の業績」を更新しました
2018年7月5日
「スタッフ紹介」を更新しました
2019年2月19日
「第11回 日本不安症学会学術大会」の案内を掲載しました