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バラの国内流通量が年々低下しています。そして市場価格も低迷しています。バラの人気が低下しているのでしょうか?
最近、生花店で「こんな鮮やかな青いバラ品種があったのかしら?と思って近づくと、なんとトルコキキョウだった」という経験をします。バラ関係者にとって見ると、「ここまでバラそっくりの育種をしなくても・・・」と思うのですが、トルコキキョウ以外にもラナンキュラスなど、バラと見まごうばかりのバラそっくりの花が次々と出てきています。
バラそっくりのトルコキキョウは花保ちが良く、単価もほどほどで、切花におけるバラのシェアが冒されているのは間違いない事実といえます。
しかし、バラそっくりのトルコキキョウにはない「バラの魅力」があります。『香り』です。バラには「ダマスククラシック」「ダマスクオールド」「ティー」「フルーティー」「スパイシー」「ブルー」「ミルラ」のまったく異なる香りがあり、品種毎に特徴があります。
もう一つは『花開く変化』です。開き始めの清楚な姿から、豪華に開ききった花姿まで、まさに大人の女性の成長を見るような魅力的な変化を楽しむことができます。
バラの花は蕾から開花し始めまでの期間に細胞分裂が盛んに行われます。またその同じ時期に炭水化物が主体の「香り成分」が生合成されます。細胞分裂や香り成分の生合成には多量の糖が必要です。蕾の段階で収穫されたバラは切花の中に含まれている糖だけで細胞分裂と香り成分の生合成を行うため、開花した段階で切花の中に含まれる糖を使い切ってしまい、どうしても花保ちが悪くなります。鮮度保持剤の中には糖が含まれていますが、とてもこの量ではまかない切れませんし、これ以上糖濃度を高めると障害が発生してしまい、鮮度保持剤での糖の供給には限度があります。
この問題を解決できる唯一の方法は「切花収穫段階(切り前)を遅くする」ことです。咲き始めまで切り前を遅らせることで、植物体からの光合成による養分(糖)の供給を十分受けた切りバラは、充分な細胞分裂が完了し、香り成分の生合成も行われます。咲き始めから満開まではいっさい細胞分裂は行われず、細胞肥大(水ぶくれ?)だけで花弁が成長するため、鮮度保持剤の糖だけでも充分に開ききることが可能です。
すなわち、切り前を遅くすることで、香りを楽しみながら長期間の花保ちが確保でき、開き始めの清楚な姿から豪華に開ききった花姿までの魅力的な花の変化を楽しめます。
間違った常識として、「咲き始めまで切り前を遅らすと、鑑賞期間が短くなる。蕾のうちに収穫した方が鑑賞期間が長くなる。」と信じている流通関係者が多いのが残念で、花き市場で「開き過ぎ!もっと切り前を早くしないと売れないよ!」という言葉を何度も聞かされました。是非一度試してみてください。
消費者にバラの本当の魅力を伝えることこそが、バラの人気を高めることに繋がります。
国内のバラ生産量が1997年を境に4億8,800万本から2010年には3億1,600万本に減少しています。この原因として様々な要因が関係していると考えられます。
まず第一にはバラ生産者の減少です。この10年間のバラの市場価格が低迷し、葉菜類などバラ以外の作物に転向する生産者が出てきています。同様に後継者不足で廃業した生産者もいます。当然バラ生産も産業ですので、経営上バラを凌ぐ生産品目があれば切りバラ生産にこだわる必要はなく、作目の変更は当然でしょう。まさに栄枯盛衰のことわりそのもののを示す動きといえます。
第2に考えられる理由として生産本数の減少があげられます。この10年間で生産されるバラ品種が大きく変化し始めました。10年前の京成バラ園芸の品種カタログをみると、いわゆる高芯剣弁のスタンダード品種やスプレー品種がほとんどを占めていたのに対して、2011年の品種カタログのうち高芯剣弁のスタンダード品種の割合は7割に減少し、カップ咲きやクウォーター咲きなどのオールドローズタイプの品種が増加しています。これらのオールドローズタイプの品種は花弁数が多いため、ある程度開花した状態で収穫する必要があり、採花日数が長くなります。その結果として年間の収穫本数が減少することになります。またこれらの品種は芳香性であり、香りのない品種に比べて開花するのに多くのエネルギーを必要とします。その結果として株基に貯蔵される貯蔵養分が少なくなって、切花収穫後に成長し始めるシュートの本数が少なくなったり、細く短くなったりして面積あたりの生産本数が少なくなる傾向があります。
熱帯高地で生産された輸入切りバラに対抗するために「バラらしくないバラ」が注目され、、灰色カビ病に弱く花弁が柔らかいために長距離輸送に向かないオールドローズタイプの品種が増加したことで、高芯剣弁の「バラらしいバラ」のマーケットに「 バラらしくないバラ」が加わり、バラのマーケットは拡大しているはずです。しかし、この10年間国産と輸入を合わせたバラ流通量は減少し続けています。
適正な供給が滞ったことで需要が低下した事例として自動車があります。バブルの時期に乗用車が大型化し、カローラやサニーなどに代表される大衆車も高級車仕様になり、手頃な価格帯の自動車がなくなり、その結果として20歳代から30歳前半の若年層の車離れが始まりました。ようやく最近になって、再びコンパクトカーが生産販売されるようになりましたが、若年層の車離れに歯止めが掛かりません。適正な供給のアンバランスによって一度離反した消費は戻ることはありません。
輸入商社の皆さん。価格の安い輸入のバラをドンドン輸入してください。
育種会社の皆さん。生産性の高いオールドローズタイプのバラの育種を一層進めてください。
バラ生産者の皆さん。オールドローズタイプの品種の生産量を増やしてください。生産者の減少で国内供給量が減っています。できれば生産面積の拡大を検討してください。
国産と輸入を合わせたバラの国内流通量の低下によって、バラの需要が縮小することは絶対に避けなければなりません。
★岐阜大学応用生物科学部の駐輪対策 (2011/11/22)
岐阜大学は田舎の地方大学です。下宿学生の多くは大学周辺の田んぼの中に立てられたワンルームマンションに住んでいます。自動車での通学は学内の駐車場確保の問題もあって厳しく規制されており、通学手段の多くは自転車です。極めてのどかな大学です。
このため、近年岐阜大学では駐輪対策に悩まされていました。学生は講義開始ぎりぎりに到着するため、自転車の特性上できるだけ講義棟の近くに止めたいという気持ちがはたらき、講義棟周辺の通路は乱雑に止められた自転車で埋め尽くされ、歩行者の通行もままならない状況でした。
災害対策の観点や外来者への見栄えなどから、指定駐輪場への強制移動や事務職員総出で毎朝の駐輪指導が行われたのですが、いっこうに改善されることがなく、岐阜大学生のマナーの悪さだけが印象付けられる事態に至っていました。
今年の10月に、授業前の一斉ガイダンス(授業説明会)で学部長からの一通の提案書が読にあげられました。
---------提案書原文---------
学生の皆さんへ。“ほんのちょっとした気持ちのゆとりを持とう”
皆さんが学ぶ応用生物科学部は自然との共存を探求することを通して社会に貢献することを目標としているのはご存知の通りです。その自然との共存を探求するために求められる最も基本的な姿勢の一つは環境への配慮です。
グローバルな視点からの生物多様性の保存といった視点はもちろんですが、日々の生活環境を少しでも美しく保つことで気持ちのよい日常をすごそうとすることもまた大切な環境への配慮です。
環境への配慮の中にはゴミを捨てないことと同様、駐輪マナーを守ることもあります。小さな気配りの積み重ねが快適な環境を実現するのです。そして、そういった小さな気配りはほんのちょっとした気持ちのゆとりから生まれます。
授業に遅れそうだから校舎に一番近い場所を無理矢理見つけて乱雑に駐輪するのではなく、ほんの数分でいいから早く大学に到着し、指定されている駐輪スペースから教室まで歩くように心がけること、これがちょっとした気持ちのゆとりです。応用生物科学部で学ぶ皆さんにはこのほんの少しの気持ちのゆとりをいつも持っていて欲しいのです。
もちろん、乱雑な駐輪は救急車両の進入を妨げ、緊急退避時の退路を絶ち、最悪の場合人命を損なうことにもつながることも考えなければなりません。
岐阜大学が“環境ユニバーシティー”宣言をしていることを知っていますか。駐輪マナーを守るというキャンパス環境への配慮を通して、真の“環境ユニバーシティー”実現のために先頭に立とうではありませんか。それにはほんのちょっとした気持ちのゆとりを持つことが大切なのです。皆さんの協力を心から期待します。
----------ここまで--------
驚いたことに、10月以降、応用生物科学部講義棟の周辺から乱雑に止められる自転車がなくなりました。あれだけ何年も続けて駐輪規制を行っても改善されなかった乱雑な自転車が、今は誰も駐輪指導をしなくても駐輪場に整然と自転車が止められるようになりました。
応用生物科学部は「生物と環境」を学ぶ学部です。応用生物科学部の学生が学部長からの提案書に心を動かされたことを嬉しく思うと同時に、誇りを感じました。いつの時にも語られる言葉に「今時の若者は!」がありますが、我が学部の学生達はまんざらでもないなぁと感じました。東日本大震災の時に日本人の倫理観や行動規範が海外から注目されたように、岐阜大学応用生物科学部の学生諸君も同じ心が備わっていることを実感し、これからの日本の将来が明るく感じました。
★宅配便の便利さは花き業界でも通用する? (2011/11/15)
北海道の生産者との話題の中で出てきたのですが、花専用の輸送業者より宅配便を使った方が便利だそうです。本当なのでしょうか。
最近の切花は縦箱輸送やバケット輸送が主体になりつつあり、それなりの輸送技術が必要とされます。同様に鉢物も強い振動や落下は鉢土がひっくり返るため繊細な取り扱いを必要とされ、一般の運送業者では対応できない技術を必要とします。また、集出荷場が完備されていないために生産者の所を巡回して集荷して貨物室を満杯にする必要があり、一般の運送業者では対応できない点もありました。このような状況を基に花を専門に輸送する業者が現れました。当然、花専門の輸送業者は花の輸送中の取り扱いを熟知しており、生産者の所で入荷した最適な状況を維持して花き市場まで正確に届ける技術と知識を持っているものと信じていました。
しかし、現実には必ずしもそうではないようです。花専用の輸送車の荷物室は花をギッシリ積み込むことで輸送経費の節約が図れるため、荷物室の空気の循環が悪くなって高湿度となり、輸送中に灰色カビ病が発生します。保冷車であれば灰色カビ病の発生は抑えられるのですが、保冷車の割合は高くありません。
これに対して宅配便の同送品は水分を含まない乾燥品がほとんどです。貨物室一杯になっても湿度が高くなることはありません。効率的な集荷配送センターを経由する集荷システムが完備されているため集荷経費が少なく、運賃を比較すると花専用輸送業者より安くなるそうです。
これまでの市場流通では、必ず商品としての植物が市場に出荷されて価格が決定され、分荷・配送される必要がありました。その結果として、市場の集荷スペースは市場規模が大きくなればなるほど広大な集荷スペースが必要とされるジレンマがありました。しかし、商物分離が進むと必ずしも市場に商品を集める必要がなくなり、伝票だけが市場を経由して、商品は生産者から直接販売店に配送することがで可能になってきています。
このようなシステムが進むと状況は一変します。花専門の集荷・輸送業者よりも効率的な集荷配送システムが完備されている宅配業者の方が有利になり、さらに湿度コントロールが可能であれば商品性を維持した輸送も可能になってきます。
植物専門の輸送業は本質的には必要な業態であると思いますが、独占的な業務に甘んじて輸送システムの改革が遅れてしまったように思います。また、市場流通が大きく変化し始めているにもかかわらず、その変化に対応し切れていないのも事実です。
そろそろ生産者・輸送業者・市場・仲卸・販売店が同じテーブルについて、これからの日本の花き流通をどのようにしていかなければいけないのかを考える時期に来ているのではないでしょうか。
岐阜県は花鉢物生産で有名な県です。最近の花鉢物には必ずといって良いほどラベルが付けられています。ラベルのなかには、種苗登録された品種であることを示す品種ラベルと生産者が独自に作った生産者ラベルがありますが、品種ラベルは登録品種識別ラベルですので、ここでの話題の対象外とします。
生産者ラベルには様々な情報が記載されています。「福井園芸」などの生産者の屋号、植物の学名、簡単な管理方法や鑑賞方法、植物の特性、なかにはホームページアドレスを示すQRコードが付いているものもあります。
さて、この生産者ラベルは誰のために、何を目的として付けられているのでしょうか。生産者ラベルの目的として、「花き市場で買参人が生産者を識別でき、高く買ってもらうため」、「園芸店の店頭で目立つため」、「購入した消費者に対して製造者責任を明示して安心してもらうため」、「購入後の消費者の管理の手助けをするため」、「消費者のリピート購入を目的として」などがあります。
ラベルの製造原価は予想外に高く、数円前後しますし、ラベルを付けるための人件費も馬鹿になりません。20年前は、ラベルを付けた商品は競売で高値で取引された時期もありましたし、ラベルを付けることで様々な情報発信が可能となるため、ラベルを付けること自体に異存はありません。しかし、ほぼすべての花鉢物にラベルが付けられている現状から、費用対効果を考える時期に来ているのではないでしょうか。
「市場で、園芸店の店頭で目立つ」。これは重要なラベルの役割の一つです。食品業界では目立つパッケージは重要なマーケティング戦略です。コンビニののど飴コーナーにはグリーン・オレンジ・黄色など派手なパッケージで消費者の目を引いています。当然デザインも重要ですが、目立つ配色でも印象が下品になってはいけません。商品としての価値を考えると、鉢の色や植物の花色などとのカラーバランスも考慮する必要があります。
「製造者責任の明示」については、生産者の自己満足で、ほとんど役に立っていない場合があります。例えば『福井園芸』という屋号が書いてあっても、それ以外の情報が記載されていません。食品業界では、会社名・住所・お客様相談電話番号とe-mailアドレス・ホームページなどの記載は当然です。確かに、何も書いていないよりは安心感があるのかもしれませんが、何かトラブルが生じた時には消費者はどのように連絡すればよいのでしょうか?あるいは、クレーム情報は面倒くさくて受けたくないから明記していないのでしょうか?これでは「製造者責任の明示」とはいえないと考えます。
むしろ、消費者は鉢物のクレームを生産者に直接届けることはまれで、購入した園芸店に申し出ます。市場で購入してくれた園芸店に生産者の連絡先を伝えて情報交換ができる体制を取る方が的確ではないでしょうか。
「購入後の消費者の管理の手助けをするため」に、小さな文字で『乾いたら水をあげてください』とか『時々液肥をあげてください』では何も情報を提供していないのと同じです。消費者に直接管理情報を提供しようとすると、多くの情報をラベルに書き込むかで悩むところですが、購入した消費者は、管理情報を購入した園芸店で聞くことが普通だと思います。園芸店に的確な管理情報を提供することでこの問題は解決できるのではないでしょうか。
★生産者と販売店をつなげる花き市場の役割 (2011/10/25)
花き市場は生産者と販売店を結びつける重要な役割を持っています。しかし、現実にはその役割を充分に果たしていないのも事実です。例えば、各市場には生産出荷者の親睦組織があるのと同時に買参者の親睦組織が別々にありますが、それぞれの組織の交流は活発ではありません。また、生産者からは「販売店の意見は一人一人違って何が本当の需要なのかが分からないので、販売店の意見は参考にならない」といった声が聞かれますし、販売店からは「生産している物が一人一人違うので生産者の意見は当てにならない」といわれます。
この問題を解決する仕事こそが市場の役割だと思います。例えば、ほとんどの生花店ではバラを販売していますが、イヴピアジェを販売する生花店は限られます。恐らくイヴピアジェを販売している生花店の雰囲気、客構成、販売している花の種類など共通する点が多いのではないかと思います。同様に、イヴピアジェを生産している生産者も限られます。イヴピアジェの生産者が栽培しているバラの品種構成は恐らく良く似ているでしょうし、経営方針や目標も類似していると思います。
同様に、母の日などの物日以外で日常的にスタンダードのカーネーションを販売している生花店は少ないと思いますが、カーネーションを日常的に扱うことができる生花店には共通点があります。当然スタンダードのカーネーションを生産出荷している生産者も限られますが、カーネーションへの思いは共通していると考えます。
市場は、イヴピアジェを出荷している生産者やカーネーションの生産者を認識していますし、同様にイヴピアジェを購入している生花店やカーネーションを日常的に仕入れている生花店も認識しています。
無作為にすべての生産者と販売店の交流を行っても何も得られるものはありません。しかし、イヴピアジェやスタンダードのカーネーションというキーワードを使えば、一定の共通性のある目的を持った生産者と販売店を選び出して両者の意見交流会を開催することが可能になります。
市場は、このようなデータを持ちながらそれを活用できないのは、両者を交流させる意志がないのか、あるいは日常の仕事に追われて考えることができないでいるかのいずれかだと思います。恐らく後者だと思いますが・・・。
これからの日本の花き産業を活性化させるためには、生産者と販売店の情報交換が最も重要な鍵になります。『欲しい人に、欲しい物を、欲しい時に』のキーワードを満たすために、花き市場は是非生産者と販売店をつなげる役割を強化して頂きたいと願っています。
★フロリアード2012のターゲットは中国 (2011/10/19)
日本政府はフロリアード2012に出展します。メイン展示館「グリーンエンジン」の250uに日本コーナーを常設し、毎週のように常設展示を行うとともに、週ごとに日本で育成された新品種を出品してコンテストでの金賞受賞を狙います。日本で育成された花の新品種をヨーロッパに紹介して知的財産としての植物育成者権をアピールし、EU消費圏でのロイヤリティー収入を目論んでいます。
10年に一度の今回のフロリアードのターゲットはEU諸国なのでしょうか?私は中国が主要対象国ではないかと考えます。
中国は海賊版のCDや偽ブランド商品など知的財産権を守らない国と言われており、同様に植物育成者権としての登録品種の無断増殖が危惧されています。5年前までは、ヨーロッパのバラ育種会社は中国に新品種を導入することを躊躇していました。しかし、昨年12月18日のコラム「中国で販売されるバラの花色の変化 (2010/12/18)」で書いたように、育成者権保護の姿勢はかなり改善され始め、ヨーロッパのバラ育種会社は積極的に新品種を中国に導入し始めています。
中国の花き生産・消費量は急拡大しており、現段階でも日本からの輸出相手国として急成長し始めています。ヨーロッパの育種会社は的確にこの状況を判断して中国への積極進出に舵を切り始めています。20年以上中国を見てきた者としての私の考えですが、中国の知的財産権としての植物育成者権の遵守は5年が目途と思います。
フロリアードの次回の開催は11年後の2022年です。その時には既に中国は世界最大の花き消費国となっていると思いますし、ヒョッとすると花き育種国となっているかもしれません。
中国はフロリアード2012で日本がこれまでできなかった単独パビリオンを建設し、恐らくフロリアード最大の入場者を本国から引き連れてくる者と思います。フロリアード2012は、中国の来場者に東洋の花の新品種の魅力、日本の育種力と高度な生産技術力を見せつけて、日本からの花の輸出を加速させる最高のチャンスではないかと思います。
日本の住居は畳の間の歴史で、部屋をフレキシブルに利用することが行われてきました。時代劇をみていると、畳の間に座布団が敷かれれば来客をもてなす応接間になり、お膳が並べば食事の部屋に、お膳が片づけられると一家団らんの居間に変わります。そして布団が敷かれれば寝室にも変化します。
このように日本の住居はヨーロッパのように部屋が機能分化せず、多目的に使用する歴史を歩んできました。これが「ウサギ小屋」と酷評される原因にもなっていますが、空間の多機能利用という観点からはエコ文化の象徴ということもできます。
ヨーロッパでは、食堂には食卓があり、居間にはダイニングテーブルがあります。近年になって、日本の住居にも食堂やダイニングといった機能分化した部屋の構成が広がりつつありますが、多機能利用の考え方は変わっていません。私の家でも食卓はいつの間にか仕事机になったり、家族団らんのためのダイニングテーブルにも使われます。
ヨーロッパのように機能分化した部屋の家具は常時固定されており、使用目的もはっきりしていますので、テーブルの花飾りは簡単です。食卓用の花飾り、ダイニングテーブルの花飾り、ダイニングの壁際の花飾りなど鑑賞方法が固定しています。
日本では古来からテーブル飾りという感覚がありません。何故なら昔の家には必ずあったチェブ台は、食事の時だけ広げられて食卓として使い、食事が終わると部屋の隅に片付けられていました。花を飾る場所はテーブルではなく床の間や柱あるいは玄関先でした。これらの場所はすべて壁際で、生け花には必ず正面と裏があるように、全方向から花を観賞するという感覚が日本人にはありません。
フラワーアレンジメントが日本に伝わって40年になりますが、未だにそれが定着しない理由の一つに、全方向から鑑賞するテーブル飾りという感性が日本人にはないことが理由となっていると考えます。住居や生活スタイルが変わっても、日本人の 心の中に花はテーブルの中央に置いて飾るものではなく、壁際のテーブル(床の間からの変化?)に飾るという感性が残っているのではないでしょうか。また、テーブルの機能を固定するという感性がないため、テーブルの中央に花飾りがあると「ジャマくさい」という感覚を持つのかもしれません。
家庭の中での花飾りをもう一度考え直して、日本の住居、日本人の感性にあった花飾り、そしてそれに適した花の種類を選び直す時期に来ているのかもしれません。
★スーパーでの花束販売を活性化させる! (2011/09/26)
花屋さんの雰囲気として良く言われることは、「高級鮨屋と同じで値段が分からない」、「3,000円の花束を頼んだ時に、気に入らなくても文句が言いにくい」、「ふらっと立ち寄りにくい」などがあります。これに対して、回転寿司が家族連れで賑わう理由には「値段が分かりやすい」、「内容を見て選べるので分かりやすい」、「雰囲気が気楽で良い」があります。最近の回転寿司の中には、ネタのレベルが高いことを売りにしているお店も出てきています。鮨は日本が誇る食文化ですが、回転寿司がその食文化の底辺を広げていることは間違いありません。しかし、回転寿司で寿司を食べた人達が高級鮨屋に足を運ぶかどうかは分かりません。
切り花の生産と消費は年々減少しています。花き市場の切り花卸売金額は1998年をピークに減少し、生産量も1996年を境に25%減少しています。この切り花消費を増加させる原動力として、スーパーマーケットでのパック花束の販売を強化していただきたいと考えています。
スーパーで購入したパック花束は間違いなく自宅で消費されます。月2回スーパーで花束を購入して自宅で飾った人は次第に花が好きになります。母親の誕生日に花を贈りたいと考え始めます。友人にも花を贈りたいと考えます。この時に花を購入する場所はスーパーではありません。スーパーで買った花束を贈り物にする人はいませんから、生花店で季節感を感じさせるセンスの良い花束を買って贈りたいと思うはずです。
さて、ここで重要なことがあります。花屋さんの雰囲気です。「高級鮨屋と同じで値段が分からない」、「3,000円の花束を頼んだ時に、気に入らなくても文句が言いにくい」、「ふらっと立ち寄りにくい」という評価では、スーパー常連客のお客さんは気勢をそがれてしまいます。もう少し開かれた生花店を目指すことはできないのでしょうか?
もう一点は、「季節を感じさせる花」や「魅力を感じさせる花」の品揃えです。今までしていなかったことを急にしたからといって客が増えるわけではありませんし、客層が変わるわけでもありません。最初はロスも多く、経営を圧迫するかもしれません。しかし、変えなければ何も変わらないのです。「種子を播かねば収穫できない」という諺のとおり、スーパーが頑張って花の購買層の底辺を拡大してくれても、生花店がそれを支えなければ、花の購買層の三角形は大きくならないのです。
回転寿司の顧客層は子供連れの家族で、高級鮨店の顧客層との間にはほとんど関連はありません。しかし、スーパーでの花束販売と生花店での花の販売との間には密接な関係があります。スーパーと生花店は競合するものではなく、ともに発展していく関係にあると考えます。
★スーパーマーケットが切り花販売の主体になって良いのか? (2011/09/22)
経済産業省の商業統計によると、国内の切り花販売額のうち生花店が65%を占めており、スーパーマーケットは12%に過ぎません。これに対してアメリカではスーパーマーケットが切り花販売の主体を担っています。イギリスの事例として「スーパーマーケットで切り花が鮮度保証販売されたことで切り花消費量が3倍に増加した」ことが良く紹介されますが、本来の「鮮度保証が」という意味ではなく、「スーパーマーケットでの切り花販売が花の消費が増加する」という間違った解釈が一人歩きしているようですが、もう一度このことを考える必要があります。
スーパーマーケットでの花束販売では、大量の花束製造を行う花束加工業という業態が発展し始めます。スーパーマーケットは全国に店舗展開をしています。店舗で販売する商品は全国ほぼ同じ規格・価格で販売するため、スーパーマーケットから花束納入の注文を受けた花束加工業者は、大量の同じ規格の花束を製造するために、購入する切り花に対して大量ロット・同一規格を要求することになります。
これまで訪問したケニア・エクアドル・コロンビア・エチオピア・インドなどの切り花輸出国の生産会社の規模はとんでもない大きさで、例えばケニア最大といわれたShare社のバラ生産面積は300haです。国内のバラ総生産面積は432haですので、Share社だけで日本全体の70%の生産面積を持っていることになり、年間生産能力は2億5000万本、毎日70万本のバラを生産しています。このような大規模生産会社の生産能力は、大規模スーパーマーケットの大量ロット・同一規格の需要を充分に満たすことが可能であるため、スーパーマーケットは自然と輸入切り花に依存することになります。
年中同じ気候で周年生産が行われる熱帯高地の切り花には季節感はありません。航空輸送を基本としている切り花輸出国では、ユリやガーベラ・チューリップに代表される航空輸送に向かない切り花品目は生産されません。当然、開花後に収穫されるフルブルームマムやオールドローズ、国際的な評価が低い半八重のバラや古典ギクなどの特殊な品種も生産されないため、スーパーではありきたりの「規格品花束」ばかりが販売されることになります。
花き市場関係者から「最近の生花店主は、安直に輸入の切り花を仕入れる傾向がある」という嘆きを聞かされます。
切り花輸出国の商売相手は生花店ではありません。スーパーマーケットに花束を納入する花束加工業の残り物を生花店が有り難がって購入していて良いのですか?仏花に代表される輸入切り花のパック花束をスーパーと競合販売して勝ち目がありますか?
季節感を感じさせることができる花専門店であるからこそ、花の本当の魅力を伝えられる花専門店だからこそ、日本国内の生産者と密接に連携して切り花生産を活性化させる必要があるのではないでしょうか。日本国内の切り花生産者が衰退したその先の生花店自身の行く末をもう一度ジックリと考えてみましょう。
東京のスズキフロリストの鈴木昭氏曰く「アメリカのフラワーアレンジの水準はお世辞でも高いと言えません」。
アメリカは切り花生産をコロンビアやエクアドルに依存しており、バラ、キク、カーネーションの国内自給率はいずれも数%以下です。その結果、価格や輸送性など輸出国の経済性が優先されて、アメリカ国内で流通している切り花は品目が限定されてしまい、種類が極端に少なくなっています。2006年のデータですが、アメリカで流通している切り花は主要3品目のバラ、キク、カーネーションだけで80%を占めており、国際流通しにくいアメリカ国産のチューリップ、ガーベラ、ユリの3品目を合わせると90%に達します【pdf file】。このようにアメリカでは流通販売している花材が限定されているため、季節感を感じさせるようなフラワーアレンジや、立体感や曲線を感じさせるようなアレンジメントを作ることが出来ません。
これに対して日本ではキク、バラ、カーネーションが占める割合は53%に留まり、国内流通している切り花の種類は極めて豊富です。月毎に季節感を感じさせる切り花が日本各地で生産されており、岐阜の田舎に住んでいる私としては「そこいらにあるススキやハギ」や、流通が難しいダリアも切り花として流通できる基盤が日本にはあります。まさに国内の花き生産業という業態が維持され、活性化しているからこそ成り立っている切り花業界だと言えます。
「輸入切り花は価格が安定して便利だ」とか「輸入切花の品質は悪くない」という意見を否定する気はありませんが、国産の切り花生産業が崩壊して本当に困るのは生花販売業の皆さんではないでしょうか。
★バラの魅力は花を見てるだけでは判らない? (2011/09/14)
5月上旬に、研究室の産地視察で愛知県一宮市のアイチローズファクトリー(ARF)の三輪真太郎氏の生産施設を訪問しました。三輪氏は長年イングリッシュローズの切花生産をしてこられ、ディビッド・オースチン社から切花用イングリッシュローズ品種の生産許諾を最初に受けられた生産者で、魅力ある様々なイングリッシュローズが生産されていました。
イングリッシュローズの魅力は満開時の独特の花形と魅力的な香りです。この魅力に取り憑かれた人は値段が高くても買いたいと思いますし、イングリッシュローズでなければバラではないとまで言い切ります。しかし、この魅力的なイングリッシュローズであっても蕾の時には一見ハイブリッドティーの高芯剣弁の品種とほとんど区別がつきませんし、香りもしません。したがって、通常のバラの切り前(収穫ステージ)で収穫すると、イングリッシュローズであることを知らない人は「なぜこのバラはこんな高いのだろうか」と不思議に思うでしょう。
バラ生産者はバラを生産して出荷しています。しかし多くのバラ生産者は、生産しているバラの魅力を伝えることを怠っているのではないでしょうか。
三輪氏の経営形態は典型的な家族経営であり、パートを含めて従業員をまったく雇用していません。また、出荷は形式的に花き市場を通しているものの、直接特定の生花店からの注文に応じて出荷しており、三輪氏自らが営業マンとして日本中を回ってイングリッシュローズの魅力を語る伝道師として活躍しておられます。三輪氏曰く、「自分で営業をしてみて、本当に営業の難しさと大切さを実感しています。私は生産者であるので、こだわりの生産方法やイングリッシュローズの魅力を知っていますので、それを語ることが出来ます。しかし共販で出荷している生産者は営業活動を農協に任せきりになります。しかし、農協職員は生産現場でのこだわりも知りませんし、自分で作ったものではない物を熱く語るのは難しいのではないでしょうか。ましてや数年ごとで職場を移動する担当者に高度な営業活動を期待するのは無理だと思います。」
バラは多くの魅力を持っています。その魅力を伝えなければ単なる切花です。物と一緒に情報を付けて出荷することが重要で、この情報が大きな付加価値を産み出すことは間違いありません。
生花店の皆さんも、キーパーの中で品種名しか書いてなければ、イングリッシュローズの魅力を伝えることはできません。ポップの作成や口頭での説明など、様々な情報伝達方法があります。消費者に的確に情報を伝えることは必ず販売促進に繋がります。
中国からのお客さんからお土産に中国茶をいただきました。大きさが35cm×20cm×10cmの大きな箱入りで、中国では有名な緑茶・龍井茶でした【pdfファイル】。研究室に戻って中を開けてみてみると、箱の中から出てきたのは12cm×6cm×5cmの金属缶が3つで、さらにその中には1回分4g入りのお茶が10パックが入っていました。すなわち、大きな箱の中に入っていたのは120gのお茶でした。普通のお茶缶が150〜200g入りなので、大きな箱の中身がお茶缶1本にも満たない内容量だったことになります。
日本でも高度経済成長期の30年ほど前は過剰包装全盛期で、デパートの贈答品売場には豪華な化粧箱に入った商品が並んでいて、年配の方はご存じですが、通称「上げ底」とか「十二単衣」といわれる過大包装が横行していました。子供の私は、時代劇の見過ぎだったのかもしれませんが、上げ底のお菓子の下にはお札が入っているのでは?と思いました。(越後屋、お前も悪よのぉ〜。いえいえお代官様ほどでも。うぉっほっほ)
恐らく今の中国はまさに日本の30年前を走っているといえるでしょう。日本では20年ほど前から、資源保護や無駄使い防止などの観点から過剰包装に対する世論の批判が高まり、各自治体の消費生活条例などで包装の基準が定められ始め、例えば空間率(外箱の容積から内容品の体積を差し引いた「空間」の割合)が20%を超える場合は過剰包装として規制が行われています。
包装の意味には商品の保護や差別化などの意味があります。前回のコラムで「イチゴの包装(2011/08/28)」について書きましたが、一度歩み始めた差別化を目的とした過剰包装は、『消費者も望んでいる』と思いこんだが最後、トコトンまで突き進んでしまう傾向にあります。事実として消費者が見栄えを優先した商品選択をするために一層拍車が掛かることになります。その結果として商品価格は適正な範囲を超え、消費者は過剰な包装にかかる経費も負担することになると同時に、包装経費を生産者が一部負担することで収益が減少し始めます。
エコやロハスといった環境に対する関心が高くなっているにもかかわらず過剰包装がなくならないのは、東洋人の特性なのでしょうか。しかし、もうそろそろ消費者も生産者も過剰包装文化からの脱却が必要なのではないでしょうか。一定の見栄えは大切ですが、本当に良いものとは何かが問われているのではないでしょうか。
★生産経費のなかで出荷経費は適切か? (2011/08/28)
イチゴの販売パッケージは国際的にみても最高水準といえます。透明プラスチックパックにイチゴが行儀良く1個ずつきれいに並んでいて、表面には品種名や特徴、生産者名などが記載されたPPシールが巻いてあります。イチゴの出荷調整にはかなりの労働時間を要し、人件費のかなりの割合を占めていますし、販売パッケージの諸材料費もかなり高額で、これらの出荷経費は変動費全体の60%程度を占めているものと思います。イチゴの経営収支をあげるためにはこの出荷経費の削減が不可欠です。しかし、全国いずれの産地でも同じような出荷形態が取られており、スーパーに並んでいるイチゴはどの産地のものでも同じような販売パッケージとなっている状況では、1産地だけが単独で販売パッケージを簡略化することができず、経費の削減が出来ない状況です。
販売パッケージは本来消費者に対する区別性を目的に行われるものですが、すべての産地が横並びの状況になると、さらなる区別性を求めて過剰なパッケージを追い求める「いたちごっこ」が始まってしまいます。果たしてスーパーで販売されているイチゴのパッケージについて、消費者はどのような感想を持っているのでしょうか?
品種名と生産出荷農協名が記載され、イチゴが一粒ずつきれいに並んでいる姿は確かに美味しそうなイメージを受けますが、購入後の家庭ではプラスチックゴミが増えてしまい、過剰包装の感は否めません。ヨーロッパで見かけたイチゴの販売パッケージは、紙製やリサイクル成形紙のパックなどが主流で、エコやオーガニックの印象を前面に出したパッケージとなっていました。また、日本のようにきれいに一粒一粒が並べられていませんでした【pdfファイル】。
単純な出荷経費の削減という発想ではなく、「安心・安全・エコ」のイメージを前面に出してアピールすることで消費者の共感を得て差別化を図り、同時に出荷経費を削減するという考え方もできるのではないでしょうか。出荷経費削減という発想では出荷形態が貧相なイメージとなってしまいますが、消費者との感性の共有という前向きな発想で仕掛けることが重要だと考えます。
ただし、従来のパッケージ納入業者やそれを取り扱う農協にとっては既得権益を失うことに繋がり、大きな抵抗があるかもしれませんが・・。
3月末に岐阜大学の協定校である中国広西大学との大学院修士学位共同授与協定調印のために中国を訪問しました。協定書調印者である副学長と学部長は北京を経由して広西省の南寧に向かいましたが、私は少々のトラブルの影響で上海を経由して南寧に向かいました。
上海浦東国際空港に到着し上海虹橋空港に移動しました。これまでは、空港からのシャトルバスかタクシーでの移動、あるいは電磁誘導電車に乗った後にタクシーを乗り継ぐしか方法はなかったので、仕方なくタクシーを予約して虹橋空港に向かいました。
出発時間の2時間前に虹橋空港に到着したので空港ビルを散策しました。虹橋空港は2010年3月に羽田空港並みの大きな第2ターミナルが完成し、昔の国内線の地方空港のイメージとは様変わりしていました。地下鉄駅が地下1階にあるとの案内に導かれていってみると、なんと上海浦東国際空港から地下鉄2号線が虹橋空港まで伸びており、それ以外にも合計11路線の地下鉄が完成して運行していました。昨年の上海万博の時にはもう既に運行していたのだとは思いますが、東京の13路線に匹敵する地下鉄網が完成していました。高速道路網と地下鉄網を比較する限り、上海は世界のトップに立つ大都市になったと感じました。
このように中国は日本に匹敵する高度経済成長を遂げており、日本の切花消費国として成長し始めています。しかし、多くの切花生産者や花き市場関係者の意見は「中国は信用できない。無断増殖の危険性があり輸出を躊躇する。」といった後ろ向きの考え方です。私自身も5年前には同じような考え方を持っていました。しかし、今回の上海の状況を見て、大きく変化し始めていることを実感しましたし、昨年のコラム「中国で販売されるバラの花色の変化(2010/12/18)」でも述べたように、中国の花き市場は大きく変化し始めています。社会の変化についていけないとビッグチャンスを逸してしまうかもしれません。常にアンテナを張り巡らして、チャンスをつかみ取る気持ちを持ち続けることが大切です。
景気の後退や社会不安などから花の市場価格が低迷し、加えて重油価格の高騰などから、収益性の向上の観点から生産コストの低減に関する関心が高まり、今年に入って生産コストの低減に関する複数の講演依頼が来ています。
原発事故の影響を受けた節電や地球温暖化対策でのCO2削減などの省エネに関心が高まっていることもあって、生産コストの低減といった場合にすぐに思いつくのが暖房費などの高熱動力費です。バラ生産では3〜4年前の重油高騰を受けてヒートポンプが急速に普及し、全生産面積の80%にヒートポンプが設置されています。バラの場合には冬季の夜温を18〜20℃前後で維持するために、変動費のなかで高熱動力費が占める割合は高く27.2%に達します。しかし、比較的低温で維持されるイチゴの場合には4.2%に過ぎません。
バラでもイチゴでも、変動費のなかで最も高い割合を占めるのが出荷経費です。出荷箱やケース、運賃などの出荷販売経費や市場あるいは農協への出荷手数料を加えると、バラでは47.3%、イチゴでは39.9%に及びます。出荷経費の削減は実は最も大きな経費削減なのかもしれません。出荷経費については後日提案しましょう。
さて、発想を変えて生産コストの意味を問い直してみましょう。生産コストの低減を考える真意は「所得(率)を上げる」ことです。所得(率)を上げるためには粗収益に対する変動費と固定費の割合を下げることも方法の一つですが、粗収益を上げることによっても相対的に生産コストは低減して所得(率)が向上します。
等級外の割合を少なくして販売ロスを下げたり、病害虫による生産性の低下を防いだり、あるいは積極的な販売戦略によって単価を向上させることも生産コストの低減に繋がります。ヒートポンプや炭酸ガス施与装置が設置されている場合には、これらの装置を積極的に効率よく稼働させて生産性や品質を高めることは出荷量や販売単価の向上に繋がり、実質的に生産コストを低減させることになります。同様に、販売戦略に基づいて「欲しい人に、欲しいものを、欲しい時に」提供することで販売単価を上げることが可能となり、実質的な生産コスト低減に繋がります。
生産コストは粗収益に対する生産経費(変動費と固定費)の割合です。分子の生産経費(変動費と固定費)の低減を考える「引き算の発想」から、分母の粗収益を増加させる「足し算の発想」を持つことが重要ではないかと考えます。
不景気のなかでは、生産性と品質を維持しながら生産経費を節減して「じっと我慢の子」を決め込むことも選択肢の一つではあると思いますが、引き算の発想を突き詰めるといつしか品質も生産性も低下して「負のサイクル」が回り始める可能性が高まります。
適切な程度での節減対策を講じるとともに、あえて積極的な投資をも厭わない生産性や品質の大幅向上、あるいは効果的な販売経費の活用による単価の向上などに取り組んで「雪だるま式の加速サイクル」を回す発想も大切だと考えます。
★腐葉土の放射線検出と「安心と安全」 (2011/08/01)
福島原発事故の影響を受けて様々な風評被害が発生しており、農産物の安心・安全の確保が重要な課題となっています。安心と安全は常に同列で語られることが多く、必ずといって良いほど対応語として使用されています。
しかし、よく考えると「安全」を保証することは可能であるのに対して、「安心」は精神的な問題を含むために保証をすることが困難です。「安全」は論理的に証明されるものであり、一定の基準での安全を保証することが出来ます。当然基準が変化すれば過去に安全といわれてものが安全でなくなることが起きてきますが、一定の基準という価値観を共有することが可能で、その基準の下での安全を保証することが出来ます。
これに対して「安心」はやっかいです。受け取る側が理解し納得するという主観的問題であり心の問題を含んでいるために、基準に対して不安を感じた時点で「安全であるかもしれないけれども安心ではない」ということになります。具体的な事例としては枝野官房長官がいくら安全を力説しても多くの人が信用しなかった福島原発の安全性をあげることが出来ます。安心とは信頼関係に基づいた安全性の保証とその容認であり、作り手が一方的に保証することで済むことではないことが理解できます。
同様に、信頼関係の構築は長年の日常的で地道な努力とその行為の適切な伝達によってしか生まれないこと、そして産地偽装事件などでも判るようにその信頼関係はいとも容易に崩れ、一度失った信頼を再び獲得することの難しさは誰もが良く理解していることです。
腐葉土からの放射能検出で花生産業界は大きく揺れています。堆肥を用いた土作りにこだわった生産者ほど影響が大きく、一部の生産者のなかには、安全性の観点から消費者段階での多くの問題点を持つピートモスの使用に戻ろうという人達も現れ始めています。とは言え、農水省が率先して安全性の基準を作成していますので、近々に堆肥の安全性は保証されるものと思われます。しかし「安心」の確保はどうしたらよいのでしょう。
安心は消費者の心の問題です。
使用する培養土の生産会社からの放射線測定データを添付したり、生産者自身も出荷段階の放射線を測定することも可能です。花き市場や園芸店でも放射線測定機で測定して消費者に示して理解を得る方法もあります。愚直といわれようが日常的で地道な努力を重ねることで消費者に安全性を理解していただく取り組みです。不特定多数の消費者の安心を得るためにはこのような方法が適切であり、業界全体として取り組む方向性であることは間違いありません。
しかし、生産者が生産した商品を購入してくれる消費者がある程度特定される場合には必ずしも得策とはいえません。ある程度の信頼関係が出来はじめている状況で、細かいデータを提供しすぎると言い訳のように思われてしまうことがあります。安心とは信頼関係に基づいた安全性の保証とその容認であることから、信頼関係を深める方法、すなわち消費者が共感できる生産者の思いやこだわりを伝えることで消費者が精神的に生産者との一体安心を感じていただく方法で、一種の情緒的訴求法といえます。理屈ではないので、テレビコマーシャルのようなキャッチコピーも重要です。実際には顔を見たことはないけれどもこの人の鉢花なら間違いないと感じてもらうことが大切でしょう。この方法であれば、個々の生産者でも対応が可能だと思います。
安心を勝ち取るためには、業界が一体となって取り組む方法と、個々の生産者が対応できる方法の両面からの対応が不可欠なのだと考えます。
★スプレーマムも輸入割合が4割を超えた! (2011/07/25)
2011年2月22日のコラムで「カーネーションの輸入割合が45%に達した」を書きましたが、スプレーギクも2009年には38.5%で留まっていたものが2010年に4割を超えた模様です。(pdf file)
スプレーギクの主な輸出国はマレーシアで、2000年以降急激に輸出量を増加させています。しかし、国産のスプレーギクの出荷量は減少しておらず、2億8000万本前後で一定に留まっています。その結果、国内のスプレーギク消費量は2000年が3億1600万本、2005年が4億1600万本、2009年が4億6000万本と年々着実に増加しています。
アメリカでは1990年までコロンビアからのバラの輸入に伴って国内消費量が増加したものの、1990年に輸入割合が4割に達した後に国内生産が崩壊しました。このことを考えるとスプレーギクも極めて危険なゾーンに達していると考えられますが、スプレーギク生産者から危機感をうかがう機会がありません。大丈夫なのでしょうか?
特に問題なのが、国産のスプレーギクに比べてマレーシアからの輸入スプレーギクの市場価格の方が高いことです。一般に、輸入切花は国産に比べて低価格で取り引きされているのですが、輸入スプレーギクは高品質として高い評価を受けています。マレーシアのスプレーギク産地であるキャメロン高原は夜間温度が年中15℃と安定しており、キクの生産に適していることもあって切り枝がしっかりしており着蕾数が多いのが特長です。また、スプレーギクの消費がパッケージ花束が主体であることから安定した品質の切花が大量に供給できるということも特長です。これに対して国内のスプレーギク生産者は「柔らかい草姿がスプレーギクの特徴だ」と主張していますし、品種毎に消費者の需要に的確に対応していると言っています。
切花の品質に対する評価は誰がするのでしょうか?スプレーギクに関していえば、市場価格が示しているように、国内のスプレー生産者の品質に対する主張は生花店には理解されていないことになります。もう一度スプレーギクの消費を根本から考え直して、「消費者が望むスプレーギクの品質とは何か?」、「消費者が望む品種とは何か?」、「消費者はスプレーギクをどのように楽しみたいのか?」の基本に立ち返る必要があると考えます。
このまま推移すれば、国内のスプレーギクは間違いなく消費者から顧みられなくなり、マレーシアからの輸入スプレーギクが「本当のスプレーギク」という評価が定着しかねないと危惧しています。
新潟に住む息子の車に同乗して岐阜から新潟に向かいました。長岡ジャンクションを過ぎると見渡す限りの水田が広がっていました。大規模稲作地帯です。これだけの広大な水田であれば効率的な稲作経営が可能だろうと思います。これに対して岐阜周辺の水田は虫食い状態に住宅が建っています。水田の真ん中に住宅が建てば、それを避けるように農作業をせざるを得ず、ましてや大型機械で作業をすれば騒音問題も発生し、病害虫防除も簡単には出来ないため、効率的な稲作経営が難しくなります。
以前に農業経済学の学生と討論をしたことがあります。「歴史的にみて、戦後に取得した農地は農家のためにあり、家族のために農地に家を建てるのは農家に認められた権利だ」というのに対して、私はあえて反論しました。「農業は産業であり、農家は産業経営者として農地の効率的な使用を義務とされるはずです。会社経営者が会社の資産を私物化すればその行為は経営者として批判されることであり、同様に農地を私物化して農地の真ん中に家族の住宅を建てて生産効率を低下させるのは許される行為ではない」
農地の転用に関しては各地の農業委員会が厳しく監督しているはずですが、農地は農家個人の所有であることや地域のしがらみなどが複雑に絡み合い、都市開発が進んだ農業地帯では野放図とも思える農地の転用が進んでしまっています。
昔の地図をみると農地と集落はきれいに分離されています。新潟県の大穀倉地帯の風景を見て、農業が食糧供給を是とする産業であることと、その生産工場である農地の確保と効率的な利用の重要性を改めて考えさせられました。
★買ってもらってから始まる「でんかのヤマグチ」・大学版 (2011/07/08)
「でんかのヤマグチ」営業ポリシーは「買ってもらってから始まる」です。普通の営業ポリシーは「良いものを売る」ことだと思いますが、アフターケアを重点に置くことで生き残り戦略を展開しています。
大学も受験生激減の影響で大きな影響を受けています。最も受験生人口が多かった1991年は第2次ベビーブームの時代で受験生人口は210万人に達しました。多くの大学が新規に開学し、国立大学でも臨時の募集定員の増加が行われました。その後急激に受験生人口は減少し、2010年には120万人、2023年には106万人にまで減少すると予測されています。ほとんどの私立大学では入学定員を満たすことができず、大学を選ばなければ必ずどこかの大学には入学できる状況です。国立大学でも同じで、全国で複数の大学(かなりの数)で定員割れが起きています。
以前のコラム「大学にとって学生とは? (2008/01/25)」で、大学には3種類の顧客がいることを書きました。(1)授業料を支払ってくれる学生の保護者、(2)卒業する学生を採用してくれる企業、(3)教員の研究成果に対して研究費を支払ってくれる企業です。授業料を支払ってくれる保護者は、大学の教育力と就職保証能力に対して対価を支払ってくれるのであり、卒業生を採用してくれる企業は、大学の教育力の成果としての商品(?)に対して生涯賃金という対価を支払ってくれるものです。また、研究費を支払う企業は大学の研究能力に研究費という対価を支払います。
大学淘汰の時代をむかえ、文部科学省は大学の数を削減する施策を行おうとしていますが、社会経済の法則から見れば当然の方向性であると考えるのが妥当でしょう。
大学間競争の中で、「良い学生を教育して社会に送り出す」ことは、まさに「良い商品を生産する」ことです。しかし、この戦略を取る限り大手量販店に相当する大規模総合大学に対して地方大学の勝ち目はありません。「でんかのヤマグチ」の「買ってもらってから始まる」は何を意味するのでしょうか。
私達大学教員は、より高い能力を持つ受験生を入学試験で選抜し、入学した学生に対してよりよい教育を行って高い能力を付与して社会に送り出すという「入学してから始まる」戦略を取ってきました。しかし、入学試験の段階から名古屋大学を受験する受験生に岐阜大学受験生はかないません。当然、高い能力を持った学生の方が教育効果も高く、社会人として活躍する確率も高くなり、社会の岐阜大学に対する評価は名古屋大学を必ず下回ってしまいます。
「でんかのヤマグチ」に見習って発想を転換してみましょう。「卒業してから始まる」戦略です。母校の面倒見が良い岐阜大学卒業生は、入社して社会のことを理解してからの成長が期待でき、役に立つ。だからこそ、岐阜大学卒業生を採用したい!そういう岐阜大学に入学させたい!ここでも『欲しい人に、欲しい物を、欲しい時に』が成り立ちます。
でも、私のコラムは岐阜大学の教職員は読まないだろうなぁ・・・。
★花き産業とインテリア業界との融合 (2011/06/28)
東京丸ビルのザ・コンランショップ(The Conran Shop)というおしゃれなインテリアショップがあります。花瓶のコーナーには花や切葉が綺麗に活けられていて、「花瓶を買うことが花を買うことに繋がっていく」と感じました。最近、40歳代の女性を中心としてニトリやウォルマートなどのインテリアショップが活気を帯びています。しかし、店の中を見る限りはザ・コンランショップのように植物が豊富に飾ってあるわけではありません。
インテリア商品を購入する時には、それを家の中に置いた時の状況を想像しながら購入します。家具の形や配色によって適した花のタイプが異なります。
花き生産業界は、家具などのインテリア業界を含めた色々な業態の融合を考える必要があるのではないでしょうか。例えば、以前のコラム(園芸店と住宅展示場)で紹介したように、住宅展示業界と連携して、住宅展示場の住宅に観葉植物や鉢花をふんだんに飾って、花のある生活空間を提案することは花きの消費に必ず貢献できるのではないでしょうか。
花を楽しみたいと考える消費者はまだまだたくさんいます。しかし、どの様に花を飾ったらよいのかが判らない未開拓の消費者がその多くを占めていることも事実です。女性がバラの花束をもらった時の笑顔は何物にも代え難い魅力的な顔ですが、日本の男性はその顔を想像することができていません。ヨーロッパでは、テレビで花のCMが流れます。花束をもらった時の女性の顔がアップで映し出され、男性はその顔を自分の彼女や奥さんに置き換えて、花束を贈る気持ちになります。
「バラを生産すること」、「バラを売ること」に重きを置くのではなく、「バラを使って楽しんでもらうこと、満足してもらうこと」に意識を変えない限り、バラの将来を見いだすことはできません。
福島原発事故の影響での計画停電や節電に対する意識の高まりの影響を受けて、園芸店とホームセンターでは今年の5月に一番売れた商品の筆頭はツル植物です。なかでもゴーヤ(ニガウリ)はどこの園芸店やホームセンターでも品切れになるほどの売れ行きでした。苗生産農家やホームセンターのバイヤーのなかには「さぁ来年もゴーヤが売れるぞ!」と考えておられる方もいるようですが、私の考えはまったく逆です。「来年はゴーヤは売れない」!
ゴーヤは成長が早く、グリーンカーテンには最適な植物です。しかし大きな欠点があります。それは果実が実ることです。1株のゴーヤの苗を育てると、最盛期には毎週5〜6個の果実が収穫できます。グリーンカーテンとしてゴーヤを育てる人は、園芸番組や園芸雑誌の影響もあって、プランターで3〜5株を育てているようですが、恐らく7〜8月には毎週20〜30個のゴーヤが収穫できることでしょう。
はじめの頃は「まぁゴーヤがなった!」といって喜んで収穫した人も次第に消費しきれなくなり、ご近所に配ることでしょう。しかし、ゴーヤを食べ慣れている沖縄県の人でない限り、毎週数本のゴーヤを消費できる家庭は多くありません。収穫されたゴーヤの果実を前にして途方に暮れることでしょう。
生産農家であっても、収穫物をゴミ箱に捨てることには大きな抵抗があります。園芸が大好きな人が、収穫できた果実、ましてやスーパーでも売っているゴーヤの果実を食べきれないと言ってゴミ箱に捨てられる度胸を持っている人は多くありません。とは言っても次々と成り続ける果実の処理に悩みながら、ゴミ箱に捨てざるを得ない状況を数ヶ月間体験することになります。
来年は、もうゴーヤは作らない!
ゴーヤが豊産性の果菜類であることは園芸に携わっている人にとっては良く知られている事実です。しかし、グリーンカーテンを勧めている園芸教室の講師はこのことに一言もふれることなく、「ゴーヤは成長が早いので、グリーンカーテンに最適な植物です」としか言わないのは大きな問題だと考えます。
「売れているのだから別にいいんじゃない?」という声を聞きますが、園芸業界人として本当にこれでよいのでしょうか?ゴーヤを「売りたい」のであれば責任を持って消費者に適切な情報を提供する義務があるのではないでしょうか?
たかがゴーヤにそれほどムキになることはないんじゃないですか?という意見もあるかもしれませんが、消費者の気持ちや意欲を損なうチョットしたことが、折角園芸に目覚め始めた消費者のそれ以降の園芸離れに拍車をかける可能性があることを良く理解してください。
NHKの「日本人の好きな花ランキング(2007年)」によれば、バラは1983年の第2位から順位は下がったものの第3位に位置し、カーネーションの10位から11位、キクの3位から14位への低下に比べて、依然と人気が高い花の代表です(pdfファイル)。同様に、消費者がもらってうれしい花でもバラは断トツの第1位です。このように、バラは花の女王で消費者にこよなく愛されていると思われていますが、バラ生産者は今悩んでいます。
バラの生産をやめてしまった生産者や野菜の生産に移った生産者が年々増えています。その結果として国内のバラ生産量は急激に低下し、1997年の4億8820万本から2009年には3億3070万本と68%に落ち込んでいます(pdfファイル)。バラの生産をやめてしまった理由には、重油価格の高騰や市場価格の低迷で収益が低下したことに加えて、バラ生産に魅力を感じなくなってしまったことがあると思います。消費者はバラに魅力を感じ、交通費に加えて2000円の入場券を買ってでも国際バラとガーデニングショウに出かけ、花束をもらうならバラ!と言っているにもかかわらず、生産者は何故バラに魅力を無くしてしまっているのでしょうか?
インドやケニア、エチオピアなどからの輸入バラの影響を語る方もおられますが、輸入と国産のバラの推移をみると、バラの輸入量はそれほど大きく増加していないにもかかわらず、国産のバラ生産量は急激に低下しています。その結果として1999年以降は総流通量が年々低下して、2009年の総消費量は1999年の2/3に落ち込んでいます。また、国内の生産量が低下してしまった結果として、輸入バラの占有率は21.7%まで増加しています。まさに、国内のバラ生産者の一人負けの状況に陥っています。
バラは世界的にも人気の高い切り花で、どの国でも切り花流通量の3位以内に入っています。アメリカやヨーロッパでは、国内生産量が減少するとそれを補填するように輸入バラの本数が増加し、総流通量の低下はみられていません。これに対して日本国内では、国内生産量が低下しても輸入が増加せず、総流通量が減少する現象がみられています。間違いなく、輸入商社が「バラの人気が落ちてきている」と判断して、国内生産量の減少を補填することを控えているのだと思います。
20年前のバラ生産者は、消費者の人気の高いバラを生産していることに誇りを持ってバラを生産していました。バラ生産者は切り花生産者の中でも高いプライドを持ち、ロックウール栽培をいち早く導入しました。また、世界でも例のないアーチング栽培技術を特許化して研究会を立ち上げ、世界の先進産地を訪問してオランダの補光技術を導入したり、ヒートポンプを導入するなどの技術革新に努めてきました。
私自身この20年間、バラの生産者と共に歩んできたことで園芸生産に対する様々な意識改革ができ、日本の園芸産業の将来を考えることができる研究者に成長することができました。しかし、最近のバラ生産者と話しをしていると次第に意識が下がってきている自分に気が付きます。バラ生産者との話しは「生産コストを下げるにはどうしたらよいか?」、「市場で高い価格の品種は何か?」、「どこの市場の価格が高いか?」、「市場出荷ではなく庭先販売だと良く売れる」、「最近の農産物直売所ではバラは人気がある」などの目の前の話題や「バブルの頃は良かった」などの懐古的な話題に終始し、日本のバラの将来の夢を語ることができなくなってきています。情けない!
バラの生産者の皆さん。バラは消費者の人気が最も高い切り花です。もう一度、日本のバラの将来の夢を語る元気を出しませんか!花の女王を生産しているプライドを持ちませんか!
日本の女性は「バラが大好き、バラをこよなく愛している」と言っています。「バラの花束をもらったら嬉しい」と言っています。『欲しい人に、欲しい物を、欲しい時に』。これが崩れて見失っているだけのことではないでしょうか?バラ生産の原点に立ち返りましょう!
★園芸店の「でんかのヤマグチ」戦略 (2011/06/06)
3月から5月の園芸店はまさにかき入れ時です。今年は東日本大震災の原発事故の影響で節電志向が高まり、ゴーヤやアサガオが大いに売れたとのことです。しかし、6月から8月の園芸店は梅雨や暑さの影響で売り上げが落ち込み、開店休業状態になるところも見られます。さて、ゴーヤやアサガオを買ってくれた消費者は果たしてうまく育ててグリーンカーテンを作っているのでしょうか?これらのツル植物はプランターに植えてそのまま成長させると、頂芽優勢が強くて親蔓がグングン成長して1本仕立てになってしまい、寂しいグリーンカーテンになってしまいます。途中でピンチと施肥を積極的に行うことで脇芽が伸びて、緑陰を作ることができます。
多くの園芸店では植物の仕入れと販売が主な仕事です。消費者は園芸店から植物を購入してプランターや庭に植えて楽しむのですが、購入後はもっぱら自己責任で情報を入手し、手入れを行っています。確かに園芸店で植物を見ながら、気に入った植物を購入すること自体も楽しいとは思いますが、本当の園芸の楽しみは植えてから成長する過程を実感することだと思います。
「でんかのヤマグチ」営業ポリシーは「買ってもらってから始まる」です。多くの園芸店では「友の会」などの顧客リストを把握しているところが多くあります。嵐のような3月から5月は仕方がないとしても、販売業務が一段落した時に顧客リストをもとにお宅を回って栽培アドバイスをしているという話はあまり聞いたことがありません。
園芸は「育てて楽しむ産業」だと思います。購入した植物がうまく成長すれば、必ず次のシーズンも植物を買って育てたいと思います。しかし、購入したゴーヤやアサガオが思ったように成長しなければ、「やっぱり私は植物を育てるのに向いていないわぁ」と思って二度と園芸店を訪れることはなくなるのではないでしょうか。園芸店では、ついつい売ることに力をつぎ込んでしまいがちですが、園芸の魅力を消費者に感じてもらうことこそが本当は重要なのだと思います。
園芸店だからこそホームセンターにはできないアフターサービス、「買ってもらってから始まる」のではないでしょうか。
九州日観植物(株)の日観会の講演で福岡県に伺い、ゆくはし植物園、井上農園、久山植木の3件の園芸店を訪問しました。6月3日(木)の午後にもかかわらず、いずれの店も多くの人で賑わっていました。
ゆくはし植物園(福岡県行橋市)はお店のレイアウトが楽しく、生産者に委託生産した見事な見本鉢が至る所に飾ってあります。お客さんの質問にも店員さんが丁寧に答え、店員さんの説明が始まると周りのお客さんも集まってきて聞き耳を立て始めます。お客さんはあたかもウィンドウ・ショッピングを楽しむような感じで見本鉢を見ながら店内を一周し、恐らく自宅の玄関を庭を想像しながら花苗を買い物カゴに入れていました。価格は決して安くありません。通常の園芸店よりやや高めの値段付けがされていました。しかし、豊富な品揃えと提案型の商品展示、鮮度にこだわった仕入れ販売や店員との園芸談話など、お客さんに満足を提供することに徹した店舗展開です。店舗の場所は幹線道路から1本道路を入ったところにあり、幹線道路には看板もありませんので、知っている人しか来店しません。しかし、木曜日の午後にもかかわらず50台以上の車が駐車していました。1時間から1時間半をかけて来店されるそうです。
次に伺った井上農園は、とにかく価格破壊を追求した園芸店でした。このお店も幹線道路から細い道を入ったところにあり、看板などはいっさいありません。知っている人だけが来店しています。切花・鉢花・花苗・鉢などの園芸資材を中心に販売していますが、とにかく驚くほど安いのが特徴です。花苗などは100円以下、切花は10本のスプレーバラが480円でした。市場のネット販売価格より安い価格です。花き市場の競売(セリ)専門で仕入れをし、恐らく3割ほどしか掛け値をしていないと思われます。店員は必ずしも親切ではなく、ぶっきらぼうで「欲しいんだったら勝手に買ってきな!」といった雰囲気すら感じました。しかし、多くのお客さんで賑わっていました。
久山植木は幹線道路に面した所にある園芸店で、駐車場は150台以上のスペースがあります。何でも揃える園芸店の形態ではなく、店の特徴を前面に出して園芸の楽しみ方を提案するお店でした。井上農園ほどではありませんが価格はかなり安く、ここの価格も市場のネット販売価格より安い価格で、やはり競売(セリ)中心で仕入れて6割ほどの掛け値で販売しています。仕入れた商品は完売することを目標にしており、ロス率が極めて少ないことが鮮度とこの低価格を維持できる理由と思います。コチョウランや切花などは生花店が買い付けに来ていました。6月に入って早々と梅雨入りしたこともあって、店には室内で楽しむ観葉植物を中心に品揃えがされていました。なかでもスパティフィラムの販売量が半端ではないほど多く、「梅雨時の室内で、白い花を見てすっきりした気持ちになって頂きたい」という明確な提案の基に品揃えが行われていました。
1990年代のガーデニングブームが去って園芸氷河期と言われるほど園芸業界が低迷していますが、福岡県にはこんなに元気な園芸店があるのだということを知って、楽しくなりました。
★カーネーションは消費者の人気が高い切り花 (2011/06/01)
バラに関係していると「バラは花の女王」という意識が強くなり、他の切り花を同等に見ない傾向があります。特に、生産量がほぼ同じカーネーションに対して「バラの方が高級品」という気持ちを持っています。実際に、消費者がもらってうれしい花はバラが第一位で、チューリップ、ガーベラ、ユリと続き、カーネーションは意外にも10位外です。
バラとカーネーションの国内生産量を見ると(pdfファイル)、1997年以降どちらも右肩下がりで減少しており、国内の生産体制が崩壊し始めていることが判ります。しかし、輸入と国産を合わせた総消費量を比較すると、バラは1999年以降毎年低下し続けており、バラの人気が減退しているように見えます。これに対して、カーネーションでは輸入量が増加しているために2002年以降の国内総消費量は増加しており、カーネーションの人気が年々高まって、日本の消費者はカーネーションがなくてはいけない切り花として認識していることが判ります。
カーネーションとバラの消費者の動向を判断しているのは、実は輸入商社です。輸入商社は「カーネーションはまだまだ売れる」と判断し、国内生産量の減少に見合う切り花を輸入し、2002年以降は「もっと売れる」と判断して輸入本数を増加させています。これに対して「バラは消費が頭打ち」と判断し、国内生産量が減少しても輸入を増加させることをあえてしていないものと考えます。
このように考えると、「バラは消費者に愛されている」と思うのは幻想で、「むしろカーネーションの方が消費者に人気が高い」と考える方があたっているのかもしれません。
しかし、2011/05/18のコラム「第13回国際バラとガーデニングショウに参加して」で述べたように、13年間20万人を大きく超える入場者が続き、毎年新たなバラ好きが補充されて新陳代謝が行われていることから、決してバラの人気に陰りが出ているとは思えません。
ケニアやインドで生産されて輸出されるバラは高芯剣弁の大輪の花であり、同様に国内で生産されているバラの多くも高芯剣弁のバラ品種です。すなわち、人気が低下しているのは高芯剣弁の「バラらしいバラ」であって、消費者が望んでいるバラは「国際バラとガーデニングショウ」で展示されているようなオールドローズに代表される「バラらしくないバラ」なのではないでしょうか。
研究室の卒業旅行で韓国に行ってきました。私は不良教授で、岐阜大学はキャンパス全面禁煙なのにタバコを吸う喫煙者です。
中部国際空港で出国検査をし、免税店でタバコ(KENT ultra 1)を購入しました。コンビニで1カートンの価格は4,100円ですが、2,500円でした。購入価格の39%が税金とは、いかに税金が高いかを実感し、なんだか得した気分に浸りました。さて、帰国の際にソウル仁川国際空港の免税店で同じタバコを購入しました。驚いたことに1カートンの価格が1,600円でした。KENT ultra 1はアメリカで作られているタバコですので、世界標準価格だと思っていたのですが、日本と韓国の免税店で価格が大きく違うことに驚きました。確かに中部国際空港で買ったKENT ultra 1には日本語で「喫煙は・・・」と警告文が書いてありましたが、韓国で買ったKENT ultra 1には韓国語で警告文が書いてあり、何かが違うのは理解できたのですが、免税価格が違うのはよく判りませんでした。さらに驚いたことに、5月上旬に中国瀋陽市を訪問した時の帰りの免税店では1,210円とさらに低価格でした。
パッケージがそれぞれ日本語、韓国語、中国語になっていることから、ヒョッとするとタバコの中身をアメリカから輸入し、日本と韓国、中国の各々で包装をしているとすれば人件費や設備費などで価格差が出るのかもしれません。しかし、韓国の人件費はそれほど安くありませんし、物価もやや安い程度で、パッケージの違いだけで36%も安くなる理由が理解できませんし、中国の物価や人件費を考えると逆にもう少し安くなってもおかしくありません。
もしアメリカでパッケージも作っているのであれば、輸入交渉術が韓国人や中国人の方が長けているということになりますし、日本人はぼられているのでしょうか?あるいは関税の問題が関係しているのかもしれませんが、中国の関税はかなり高いとも聞いています。どなたか理由をご存じの方はおられませんか?
よく香港やソウルの免税店ショッピングツアーに出かける女性をみてきましたが、てっきり香港やソウルの免税店は品揃えが豊富なので魅力があると思っていました。しかし、今回の経験で、ひとくくりに「免税店」と言ってはいけないということが判りました。国際流通の不思議さを感じた経験でした。
★第13回国際バラとガーデニングショウに参加して (2011/05/18)
5月12日に第13回国際バラとガーデニングショウに行ってきました。朝からの雨模様にも関わらず相変わらずの盛況で、多くの中高年の女性でにぎわっていました。今年の大きなテーマは「バラの香り」で、多くの方々がバラの香りを存分に楽しんでおられました。バラの香りは7種類といわれていますが、私は未熟者でダマスク・フルーティ・スパイシー・ブルー・ミルラの5種類しか識別できません。
バラの香りに関する情報は今から10年ほど前から話題になり始めました。当初は、香りのあるバラは日保ちが悪いとか、日本人は強い香りを好む人種ではないなどの色々な意見が語られ、さらには生花店からは香りの強い花をキーパーに入れると色々な香りが混合して好ましい香りではなくなり販売しづらいなど、大きな抵抗がありました。このような状況から、バラの香りの育種自体も積極的に取り組まれるような段階ではありませんでした。しかし10年を経て、香りのバラが大きな動きとして消費者の方々に受け入れられ始めたことを実感しています。とはいうものの、国際バラとガーデニングショウに参加する人達は三角形で表現できるバラの消費構造の上位に位置する人達であることを考えると、バラの文化としてバラの香りが定着するにはさらに数年間の時間を必要とするのかもしれません。
国際バラとガーデニングショウは今年で13回を数えます。2年前に会場でアンケート調査を行いましたが、入場者は概ね50〜60歳代の女性で構成されており、この13年間毎回20万人を大きく超える入場者が続いていることを考えると、13年前には40歳だった女性が今年の入場者に加わっているものと推定されます。すなわち、バラ好きは50歳以上といわれていますが、この数字を見る限りは毎年新たなバラ好きが補充されて新陳代謝が行われていることが実感できます。
バラ生産者の皆さん。新たにバラ好きとなるバラ愛好者に方々に、新たなバラの魅力を提供し続けることが重要であることを理解しましょう。
大学生の息子がゴールデンウィーク中にボーイスカウトの東日本大震災の救援ボランティアに出掛けました。水産加工会社の冷凍庫で腐敗した魚の処理や住宅の泥の除去など、様々な経験をしたようです。彼から聞いた被災者の言葉です。「ボランティア活動に来てくれるあなた達には本当に感謝しています。私達が今不安に感じていることの一つは、大震災が次第に忘れられるのではないかと言うことです。4月になると、東北の津波被害は終わったこと、福島の原発事故が現在進行形の被害という観点で、次第に東北地方のテレビ映像が少なくなっています。しかし私達の被害は終わっていません。長い目での支援を期待しています。」
日本人は熱しやすく冷めやすいと言われますし、私もそう感じます。花き業界では、一時中国からの菊の切花輸入が注目され、パテント管理などの対策が講じられました。しかし1年も経つとマスコミの興味が移り、現在でも輸入量の増加に歯止めが掛かっていないにも関わらずまったく話題にもなりません。
ブームはいつかは去っていきます。熱気も冷めてきます。20年前に日本中の女性を熱狂させたガーデニングブームは一体何だったのでしょうか。そして、そのブームが去った後の園芸不況に花き業界は何を学んだのでしょうか。
大切なことはブームを作ることではなく、ましてやブームに乗ることでもありません。花から心の安らぎや満足を感じる心を定着させることであり、花を楽しむことを文化として定着させることではないかと思います。
先日、ガーデニングを考える会会長の水野隆さんからメールが届きました。「ガーデニングを考える会の会員には園芸資材や種苗生産会社がいます。避難所にプランターと培養土、花苗を贈って心の安らぎを感じてもらおうと考えています。プランターなどの配布や植え込み、あるいは定期的な巡回管理を手伝ってくれる大学生のボランティアを頼めないでしょうか」
大切なことは多くの人達が忘れかけてしまった時でも継続して取り組み続ける強い意志と信念だと思います。そしてそのような取り組みこそが「花の文化」を定着させる原動力になるものと信じています。
★岐阜大学祭の「花売り」大盛況の不思議 (2011/04/24)
岐阜大学では毎年11月の大学祭で「花売り」をしています。園芸学研究室の大学祭での花売りの歴史は古く、私が学生だった1970年代には既に開催されていました。私が岐阜大学に赴任した25年前から大学祭での花売りが大きなイベントとなりました。研究室の学生が農場で生産したものだけではなく、研究上での交流やそれ以外での交流を深めた生産者の協力を受けて、岐阜県内の鉢花物生産者から仕入れた商品も加えた豊富な品揃えのなかでの販売形態となりました。
最近は、1万枚の広告チラシを周辺の家の玄関先に個別に配ったり、1万枚を新聞チラシに入れたりなど、チョットしたスーパーマーケット並みの広告宣伝も怠りありません。店頭での商品選択の参考になるように、植物の特徴や生産者の顔写真入りのポップを作成したり、販売する植物ごとに「栽培虎の巻」を作成して購入したお客さんに配ったりしています。販売当日は研究室の学生全員がお揃いのユニフォームを着てお客さんの相談に乗ります。大学祭での花売りは概ね2日間で行われますが、この15年間の2日間の平均売上金額は100万円前後です(当然収益率は低く20〜30%程度ですが・・)。
花き業界ではこの数年間年々市場価格が低下し、生産者・花き市場の経営が厳しい状況が続いています。「景気が悪いのだから仕方がない」。「花は食べ物ではないので、いち早く節約される対象だからねぇ・・!」。いかにも説得力のある説明です。
しかし、岐阜大学祭の花売りではこの数年間年々売り上げが増加しており、昨年の売り上げは2日間で170万円に達した模様です(実は大学祭の花売りは学生が主体で、私は詳しいことには関与していないのが実状です)。単発のイベントですから、岐阜大学祭の売り上げが日本を代表できるなどとは思ってもいません。しかし、ヒントはたくさん見つかります。
一例を紹介しましょう。岐阜花き流通センター組合長で、ハイタックス今木の今木邦彦氏がこの数年毎年生産している植物に「シソアオイ(Hybiscus canbinus)」があります。東南アジアに自生するハイビスカス属のケナフの仲間と思われる短日植物で、鮮やかなエンジ色の葉色が特徴です。短日植物ですので、大学祭が行われる11月ではまだ花は咲いておらず、ようやく小さな蕾が見え始める時期ですので、全体の雰囲気はカラーリーフの寄せ植え素材といった感じです。葉の色はきれいなのですが、これから寒くなる11月にハイビスカスの仲間を販売するのは大変難しく、何も説明をしなければほとんど売れることはありません。花売り2日目の昼になっても仕入れた2ケースのシソアオイは1鉢も売れていませんでした。さてこれからが重要です。販売重点項目となったシソアオイの前に専属担当者が配備されました。
「この植物はハイビスカスの仲間ですよ!姿からは想像できない驚きの花が咲きます。一度試してみませんか?」
『エッ。この植物は花が咲くの?でもハイビスカスだから、これからの時期では外で管理できないんでしょ!』
「外に出していて花が咲いたら、寒い冬の間に花が咲いても見られないじゃないですかぁ。室内で管理して、咲いていく花を毎日見てやって下さい。」
『確かにそうねぇ。でも本当にハイビスカスの花が咲くの?』
「間違いありません。もう既に蕾が見えていますから、もし咲かなかったらいつでも岐阜大学園芸研究室に連絡して下さい。」
このようなトークが功を奏して、2時間もしないうちに、値引きをすることなく2ケース48鉢が売り切れました。出荷いただいたハイタックス今木では、出荷するシソアオイのためのポップもチラシも用意されています。しかし商品に興味を示さない状況では、顧客は余程のことがない限りポップやチラシを熟読することはありません。しかし通りかかった人に声掛けして、立ち止まった人に説明を始めると購入率は著しく高まります。特に、思いもかけない情報が提供された時には驚きと感動が購入意欲を高める原動力となるようです。
園芸専門店の皆さん。来店したお客さんを黙って観察していても売り上げアップに繋がりません。園芸店に来店した人達は、何か新しい情報が欲しくて来店しているのではないでしょうか?来店した顧客が知らない植物にまつわる情報を提供することこそが専門店の仕事ではないですか?
私は、「花き園芸というのは感動と満足を提供する産業」だと考えます。
2007年にケニアの生産農場を視察した時の逸話です。
ケニア生産視察は米村コンサルタント事務所の米村浩次氏が団長で、愛知県のバラ生産者も参加しました。360haの生産面積を誇るオセリアン社を視察した時のことです。バラ生産者のO氏が施設で栽培されているピンクのバラを見て「このバラはいい色だなぁ。花も大きいし、花弁もしっかりして枚数も多い。是非日本で作ってみたいので、品種の名前を聞いてもらえないだろうか?」とのことでしたので、早速生産担当者に聞いてみましたところ、「インタープランツ社のタイタニック」でした。O氏は「いやぁ。タイタニックなら自分の温室でも作っています。しかし、こんな鮮やかなピンク色ではないし、大きさも1/3くらいで、とても同じ品種にはみえないなぁ。気候が違うとこんなに花が変わるものだとは始めて知ったよ。」
ケニアは赤道直下ですので日射量も紫外線も強く、気温の日格差も15℃以上あって、最低気温は8℃程度まで下がります。施設内の平均気温は18℃程度ですので、採花日数は80〜90日と長く、大きな日格差のために花が大きく花色が鮮やかになります。この気候条件がバラ本来の品種特性を発揮させるのでしょう。まさにケニアはバラ生産の適地ということができ、「バラが育ってしまう条件」なのでしょう。
オランダは花き園芸大国ですが、必ずしも気候環境は花生産に向いているわけではありません。緯度が高いために冬の日の出は9:00過ぎ、日の入りは午後3:00前と日照時間が短く、秋から春にかけてはナトリウムランプで補光をしなければ良い切花品質が維持できません。また気温も-5〜-10と低く暖房が不可欠です。当然日本も夏の高温がバラの生育を強く抑制しています。
日本のバラ生産適地をいくら探しても赤道直下の熱帯高地にはかないません。ヨーロッパで育成された同じ品種をケニアと日本で生産するかぎり、当然のことですが、品質でケニアにかなうわけがありません。
「日本でしか生産できない」「日本でしか流通できない」「日本でしか販売できない」。日本国内でバラ生産を続けていくためには、このことが重要です。
★東日本大震災に配慮して何でも自粛? (2011/04/13)
4月の第一週の土日に毎年行われる岐阜祭が中止となりました。3月11日の地震発生ですからやむを得ない処置かと思います。
ところが、岐阜市で毎年7月下旬と8月上旬の2回開催される中日新聞主催の全国選抜長良川中日花火大会と岐阜新聞主催の長良川全国花火大会が中止されるとの新聞報道がありました。この2回の花火大会は、岐阜が誇る全国規模の花火大会で、大阪PL花火を別にすれば全国でもトップの花火大会です。花火大会の開催には色々な準備が必要なのかもしれませんが、今の段階で花火大会を中止にする必要があるのか良く理解できません。煙火工場が東北地方に多くあるとの話は聞きますが、自粛ムードで中止という意味なのであればあまりにも過敏な反応なのではないでしょうか?
一昨日で、地震から一ヶ月が経ちました。本当は自分の体を張ってボランティア支援に駆けつけたいところですが、なかなかそれも出来ません。私自身は、岩手県二戸市の酒造会社「南部美人」の社長が「桜の花見を中止しないで下さい」というユーチューブ投稿に共感しています。早速飲んべえとして、風評被害を受けている福島県の酒蔵「高橋庄作酒造」の会津娘純米酒をネットで注文して毎晩味わっています。これを飲み終わったら次は宮城県の一ノ蔵酒造のお酒を注文しようかしら・・・。一人一人の力は小さな力かもしれませんが、出来るところから始めて東日本大震災の被害を受けておられる方を支援しましょう!
山形県の寒河江高校果樹園芸科の生徒が市内の福島県からの避難所にシクラメンをプレゼントしたニュースが流れていました。地震・津波から3週間を経て、ようやく混乱の中から一歩を歩み始めようとする動きがひしひしと伝わってきました。シクラメンを贈られた方は「とてもきれいで、生徒たちの温かい心が伝わってきた。元気が出そう」と話していたそうです。
医療分野では、地震直後の混乱の時には何よりも外科的治療が優先され、その後感染症対策、そして精神的サポートが重要になってくると聞きました。
私達花き産業界の人間は「おにぎり」のような食料提供は出来ませんし、野菜や果物のような即物的な貢献も出来ませんが、人として生きるために最も大切な心の充足感を満たすことが出来ます。植物の持つ力を借りて、心の安らぎと生きる意欲を沸き立たせることが出来ます
津波で家が流された方々は、現在の当面の避難所生活から将来を見通した避難所への移動が始まり、新たな生活の一歩を歩み出し始めるものと思います。そして、原発の影響で理不尽な避難生活を余儀なくされている福島県の方々も将来の生活にむけて歩む道を模索し始めておられます。まさにこの段階から、私達花き産業界人が復興への心の支援を担うことが出来るのだと思います。
山形県の農業高校生が花き産業が取り組むべき支援の方向を見せてくれました!私達が出来ることはまだまだたくさんあります!
★旧ラブハンターの順子ママが看護師に (2011/04/04)
私事ですが、先週、岐阜大学園芸学研究室のサポーターを長らく務めていただいたラブハンターの順子ママからメールがありました。2007年にラブハンターを閉めてから看護学校に入学し、その後高等看護学校に進学して苦節4年、3月27日にめでたく看護師の国家試験に合格したとのことです。そして、彼女が目標としていた「4年間無遅刻・無欠席」を果たしたとのことでした。
この4年間、繁華街として有名だった柳ヶ歓楽街の凋落は目を覆うばかりです。柳ヶ瀬は「昼の柳ヶ瀬」と「夜の柳ヶ瀬」として地域区分されているのですが、そのいずれも20年前の「柳ヶ瀬ブルース」の面影はありません。昼の柳ヶ瀬は典型的な地方商店街のシャッター通りと化していますし、夜の柳ヶ瀬は黒いコートを着た不気味な客引きのお兄さんだけが目立つ不健全な飲屋街となってしまいました。4年間で柳ヶ瀬歓楽街の象徴だった数々のスナックは次々と閉店し、仮に新規にお店が開店しても1年もたないで空きビルになっています。4年後になってみると、改めてラブハンターの順子ママの世の中の流れを読む能力に敬服しています。
ラブハンターのお世話になった岐阜大学園芸学研究室の卒業生の皆さんのなかで、だれか順子ママのお祝い会の発起人になる方はおられませんか?
現在、菅内閣が「平成の開国」を唱えてTPPを推進しようとしていますが、農業分野の反対で頓挫しそうな状況です。この構図は以前もガット・ウルグアイラウンド交渉の時にも同じでした。しかし、18年前のガット・ウルグアイラウンドの様々な対策によって、日本の稲作は生産体制が強化されたのでしょうか?いや、むしろ生産体制は弱体化しているのではないでしょうか?
私は農業関係者からみると特殊な考え方なのかもしれませんが、必ずしもTPP反対論者ではありません。間違いなくTPPの締結によって関税の自由化が行われると、北海道のビート(サトウダイコン)と沖縄県のサトウキビは大きな影響を受けることは間違いないと思います。私も共著者として参画した「植物の育種の世界史」を読むと、これまでの歴史からサトウダイコンは効率的に砂糖を生産する原料として適しておらず、寒冷地でも生産できる砂糖原料として位置づけられているに過ぎません。同様に、昨年11月に石垣島を訪問した際に「水の便が悪い離島ではサトウキビしかできない」ということを何度も聞かされました。しかし、亜熱帯の沖縄で生産されているサトウキビ品種は、熱帯の国々で栽培されるサトウキビ品種の高い生産性にはとても対抗できません。
現状では北海道からサトウダイコン、沖縄からサトウキビの生産を“低生産効率”の一言でなくしてしまうことはできませんが、当面は個別保証を行いながら10年あるいは20年の研究開発に投資してサトウダイコンあるいはサトウキビ以外の経営作物への転換を図っていくことが、本来のTPPに伴う政策対応ではないかと考えます。
同様に、中山間地帯の農業振興についても同じようなことがいえると思います。“生産効率”だけを考えれば、傾斜地の段々畑の水田での稲作だけで経営が成り立つ農業が出来るとは到底思えません。傾斜地農業、高齢化農業であるからこそ、可能な農業方策を見つけることこそ重要なのだと思います。
これまで農業は政治家にとって集票田であったため、現状の農業を保護することこそが重要で、情けないことに日本の農業の将来を語る政治家はほとんどいませんでした。その結果として産業としての農業は大きく衰退して農家数が激減し、中山間地では限界集落といわれる極度の過疎化が進み、政治家にとっては票田としてまったく魅力のないものとなってしまいました。
兼業が主体の稲作農家に比べると花き生産者は専業のため農家数自体が少なく、政治家の興味の対象とはなり得ませんでしたので、ほとんど保護政策の恩恵を受けることがありませんでした。昔から花には関税がなく自由貿易が前提であり、量より質を追い求める高付加価値生産で海外からの輸入攻勢に懸命に対抗してきた業界です。しかし、立場がよく似ている韓国が自由貿易協定に積極的に取り組み始め、その結果としての多額の電力費補助政策で生産コストが軽減され、バラの生産原価が25円以下とケニアやインドと同じ国際競争が可能な状況になっています。
補助政策がなければ、韓国の生産コストは日本とほぼ同じはずです。補助金が注ぎ込まれているお陰で生産コストが下がって国際競争力を備え、大量に低価格の花が日本に輸出されて国内生産者の基盤が脅かされる。何か矛盾を感じます。
多幸園芸の青山英子社長に素朴な質問をしてみました。「果たして韓国国民はこのような農業補助政策に賛成しているのでしょうか?」答えはいかにも簡単でした。「国民が納得しているかどうかは判らないけれども、大統領の決断で決まったことには従わざるを得ません」
日本の政治家に頼っていてはいけないことを実感した次第です。
ところで「TPP」って聞くと、長渕剛の「とんぼ」を思い出します。何故か「とんぼ」の「ピーピーピー」が「TPP」って聞こえるんですよね。そして、歌詞の「ねじふせられた正直さが 今ごろになってやけに骨身にしみる ああ しあわせのとんぼよ どこへ お前はどこへ飛んで行く ああ しあわせのとんぼが ほら 舌を出して 笑ってらあ」。意味深い歌詞ですねぇ。TPPを受け入れた後の誰かを象徴しているのでしょうか?
東日本大震災では、多くの犠牲者が出ており、まだ消息のつかめない方々がその10倍以上おられます。また、命をとどめられた方々も津波で家が流され、不自由な避難生活をおくられておられます。復興のためには計り知れないエネルギーが必要でしょう。
現段階では、食料、水、衣服、暖房設備、石油燃料などの必需品が不足しており、交通機関が寸断されているため支援もままならない状況ですが、着実に一歩を歩み始めておられます。前回のコラムで紹介させていただいた宮城県名取市の宮城野バラ工房梶農園の丹野敏晴氏も、エアーリッチアーチング栽培研究会事務局からの連絡によりますと、ご子息と共に残った温室でのバラ生産を再開する決意との意向を伺いました。地震によるベンチの倒壊や停電の影響を受けられた山形県のバラ生産者の方々も、輸送インフラが未だ復帰していないため出荷には至っておりませんが、電力の復帰と共に生産を再開されておられます。
東日本大震災の被害の大きさから、これからの復興には多くの時間と資金、エネルギーを要することと思いますが、岐阜大学にも義援金ポストが設置され、多くの浄財が集められています。
当面は避難施設での生活を余儀なくされるため、生活必需品の供給が最優先されるものと思いますが、精神的なケアも重要な課題です。阪神大震災の時にはバラやカーネーションなどの洋花の需要が低下したとのことです。しかし、このような時だからこそ「心が元気になる」洋花を避難施設などに送りたいものです。TVでも避難所に張られた手書きポスターに被災者が励まされた事例や、Twitterでは画家が笑顔や元気の出るの書画を多数描いて被災者に贈った事例などがありました。
毎日の避難生活で精神的にも困窮しておられる時だからこそ、命を育む花をみて、新たな復興への気持ちを大きくしていただきたいものです。今こそ花き生産業界が一丸となって、「心を元気にする花」をもって日本の復興の歩みを進めたいと思います。被災者の皆さんに元気になってもらいましょう!
3月11日に発生した東北太平洋地震は大変な被害を出しています。先週の3月4〜5日にエアリッチ・アーチング研究会後継者交流会で宮城県名取市の宮城野バラ工房梶農園(丹野敏晴氏)を訪問したばかりでした。名取市の津波の映像がテレビで放映され、大変なことになったと心配していましたが、幸いにも丹野氏は高台に避難されてご無事とのことです。1週間前に梶農園の素晴らしい出来のバラを拝見した者として心が痛みます。
また、山形県のバラ生産者も多くの方々が地震でベンチの倒壊の被害にあわれているとの連絡も入っています。連絡をいただいた方々以外にも多くのバラ生産者が被害にあわれているものと思いますし、津波で冠水した農地は今後当分の間塩害の影響で作付・栽培ができなくなるのではと心配しています。現段階では、宮沢賢治の雨ニモマケズのようにオロオロするだけしかできませんが、なにがしかのお力になりたいと考えています。
この地震で、バラ生産において電気がいかに重要な位置を占めているかが明らかになりました。天窓が開かない、暖房ができない、井戸水が出ない、養液の潅液ができない・・・・。電気は大変便利で、環境制御や自動化など、高品質生産や生産性の向上には不可欠です。しかし、便利さ、快適さとリスクは裏表であることを改めて実感しました。
最後になりますが、現段階で1万人を超えるといわれている多くの亡くなられた皆様に心よりご冥福をお祈りすると共に、今回の地震で被害にあわれた方々が一刻も早い復興を遂げられるよう、微力ながら支援をさせていただきたいと考えております。
大学祭の花売りの収入を基に研究室の卒業旅行で韓国を訪問しました。産地視察ではソウルの多幸園芸の青山英子社長に案内いただき、良才洞のaTセンター(農水産物流通公社)の花き市場と、高陽市の花き生産団地(鉢物生産地3カ所、切花生産地2カ所)を訪問すると共に、青山英子社長に様々な韓国情報を伺いました。
高陽市の花き生産団地では、ホームセンターのケイオーが毎週1コンテナを買い付けて、釜山−下関経由で輸入しているとのことでした。いよいよ切花だけではなく鉢物の輸出も本格的に始まっているのを目の当たりにしました。韓国高陽市は北緯37度にあり、最低気温は-15℃以下になるため、暖房経費を考えると必ずしも生産適地とはいえません。しかし、このような不利な条件下でホームセンターを満足させ得る低価格での輸出が可能となっています。
韓国は、日本と同じように原油や鉄鉱石を輸入に頼る無資源国ですが、サムスン、ヒュンダイに代表される家電製品や自動車などの工業製品の輸出国です。輸出立国としての立場を最大限に発揮するためにFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)を積極的に締結し、その代償として海外からの輸入攻勢にさらされる農業分野には湯水のごとく補助金を注ぎ込んでいます。
この姿勢は1993年以降のガット・ウルグアイラウンド対策の時にも同じような対応がみられています。米の輸入を余儀なくされた韓国政府は、高付加価値農産物の生産を進めるために施設園芸を推進し、温室建設費や施設資材費に対する補助制度を導入しました。このガット・ウルグアイラウンドの施設園芸振興政策の結果として、切りバラ生産面積は680haまで増加し、日本へのバラの輸出が急増したのは記憶に新しいことです。バラ生産施設はその後パプリカの生産施設に転向したため現在は540ha程度まで減少しているようですが・・(それでも日本のバラ生産面積490haより大きいのが気にかかります)。
今回の自由貿易協定に伴う花き生産への補助政策の一つとして電力費の経費補助があり、農業用電力費は日本の1/10程度とのことです。韓国は日本と同じように原油を輸入に依存しており、訪問途中に立ち寄ったガソリンスタンドではガソリンが日本より高くて160円前後(日本では130円前後)だったことからみて、農業用電力費に対してかなりの補助政策が行われていることが判ります。その結果として、バラの生産施設にはほとんどといって良いほど高圧ナトリウムランプの補光設備が完備されていました。暖房設備はヒートポンプではありませんが、様々な電熱暖房機が設置されていました。
日本でもガット・ウルグアイラウンドの時には国から多額な補助金が支出されましたが、どこが米輸入対策なのか判らない箱もの施設や農道整備、はては農道空港整備や温泉ランドの建設など、日本の農業の基盤強化にほとんど役に立たなかったのは皆さんよくご存じの通りです。韓国は産業としての農業振興を明確に想定した取り組みをしているのに比べると、日本の政治家は農家を集票組織としかみておらず、産業としての農業の基盤強化を図ろうとは考えていません。
このような情勢の中で、韓国からバラやキク、鉢物が大量に輸出されていることを考えると、国内の花き生産は今後どのようになっていくのか、大きな不安を感じざるを得ません。
★国際流通できない品種は育種会社に利益をもたらす (2011/03/03)
切花の育種は農場の維持、育種担当者の人件費など多大な経費がかかり、日本国内のマーケットだけを対象としたロイヤリティー収入では経営的に成り立ちにくい状況です。当然、育成した品種は海外のマーケットを視野に入れて営業・販売をせざるを得なくなります。しかし、このことが国内で切花の育種をしている会社のジレンマを引き起こすことになっています。
育種した切花品種は当然まず国内で販売されます。高い評価を受けた品種を海外で販売すると、海外で生産された切花品種が日本の市場を目指して輸出され始め、国内の切花市場価格を低下させることになり、国内生産者の経営を圧迫することになります。
10年前のオランダの切花育種会社はこのジレンマを解消するために、オランダで生産される品種とケニアなどの東アフリカで生産される品種を分けて育種を行っていました。しかし、ケニアなどの東アフリカの生産量が急速に増加し、東アフリカからのロイヤリティー収入が大きくなってくると、オランダのためだけに育種をすることが難しくなり始め、当然のようにオランダで生産される品種と東アフリカで生産される品種を分けて販売することができなくなってしまいました。その結果として、オランダの切花生産は東アフリカからの輸入攻勢に勝てず、急速にオランダ国内の切花生産が崩壊し始めています。現在、オランダの切花育種会社はオランダ国内でのロイヤリティー収入に見切りを付け、本社をロイヤリティー収入の主体となっている東アフリカ諸国に移転し始めています。
日本のキクの育種力は世界に誇れる力を持っています。ヨーロッパで生産されるキク品種は同一環境で周年生産が可能な秋ギクが中心ですが、日本で育種されるキクの品種は夏秋ギクといわれる品種群です。この夏秋ギク品種は最高気温が30℃、最低気温が10℃以下の熱帯高地でも生産できますし、高温高湿の東アジア諸国でも生産が可能です。しかし、日本で育成された夏秋ギク品種を熱帯高地や東アジア諸国で販売すると、すぐに生産された切花が日本に向けて輸出され始めて、国内のキク生産者の経営を圧迫し始めてしまいます。
キク育種会社は戦後のキクの切花生産とともに成長してきた会社であるため、経営面では海外での販売をせざるを得ない状況であっても、国内のキク切花産業のことを考えると簡単には海外での販売に踏み切れない状況になっています。
現在、国内で流通しているキク切花の多くが開花前の蕾の状態で収穫されて流通しているため、輸入切花とはまったく区別することができません。しかし、JA愛知みなみで生産出荷されているブルームマムやネオ輪ギク(pdfファイル)などは開花させてから収穫されるため、目一杯出荷箱に詰め込んで輸送することができず、国際流通ができません。まさに国際的な観点でいう地産地消の切花ということができます。国際流通できない切花品種は、海外で種苗を販売しても日本に輸出されることはないため国内の切花生産者の経営を圧迫することはなく、日本で高い評価を受けた品種は中国などの生産消費国でも種苗販売量が増加して、日本国内からも海外からのロイヤリティー収入を得ることが可能です。
ヨーロッパが作り出した切花文化は効率的な長距離輸送を前提とした切花を発展させました。日本だからこそ、自然に開花した花そのものの持つ魅力を楽しむ独自の文化に根ざした育種力を発展させませんか?国際流通できない品種だからこそ、国内でも海外でも高い評価を受けると思います。
★カーネーションの輸入割合が45%に達した (2011/02/22)
(株)なにわ花いちばのテクニカルアドバイザーを務めておられる宇田明氏からの情報で、カーネーションの輸入割合が45%に達したとのことです。このことは、世界の過去のデータを基に見いだした「国内需要の40%を海外に依存した産業は崩壊する」という4割の法則にカーネーションは到達してしまったことを意味しています。
世界的にみて、消費圏であるアメリカとヨーロッパと生産圏である熱帯高地(ケニア、コロンビアなど)との間に大きな競合がこれまで生じています。その中で消費圏の切花生産は輸出の影響を受けて崩壊の道を歩んできていますが、まずその戦陣を必ず果たしてきたのがカーネーションでした。日本のカーネーションの輸入割合が45%を超えたことで、いよいよ切花産業の崩壊が始まるのでしょうか?
コロンビアなどの熱帯高地の気候は、強い日射量、最低気温8℃、最高気温25℃に示されるようにカーネーション生産に最も適した気候が一年中続きます。これに対して日本は、暑い夏と低日射量の冬があり、周年生産を目指せば目指すほど、必ず1年に一度は不利な環境での切花生産を余儀なくされます。したがって、切花品質を追い求めれば求めるほど国内生産はますます不利な状況に立たされ、加えて販売価格でも競争力はありません。
この生産の課題を解決できるのが育種力なのですが、カーネーションに最も欠けているのが育種力です。世界で、そして日本で生産されている品種のほとんどがフランセスコなどのヨーロッパの育種会社の品種です。同じ品種を作る限り、気候の良い場所で生産されたものの品質が高いのは当然です。
仮に日本国内でカーネーションの育種が大きく進展したとしても、その育種の方向がヨーロッパの育種会社の後追いである限りは育種力の向上には繋がりません。私はカーネーションが専門ではありませんので詳しくは知りませんが、日本の消費者が好む特別なカーネーションという話を聞いたことがありません。カーネーションの新品種は、どこかで見たことのあるような品種ばかりです。
ムーンダストが登録された時には驚きを感じましたが、そのような感動を味わえる新品種が少ないことは大きな問題です。しかし、日本には「伊勢ナデシコ」などのユニークな古典園芸品種が遺伝資源として眠っているように思います。「4割の法則」が法則性を持たないことを祈っています。
卸売市場法は平成16年6月に改正されました。改正の内容は様々な市場業務に関する規制緩和を含んでいます。その結果というわけではないかもしれませんが、花き市場の取扱金額のうち、競売(セリ)で販売される割合がこの10年間で70%から40%以下に急減して30%を維持するのがやっとです。それに変わって予約相対やウェブ取引、注文などの競売以外の取引が増加しています。花き市場職員が直接生産者の温室を訪問して,生産途中の鉢物を買い付けるという事例や、市場自らが特定品種を生産出荷する団体を組織して生産者を囲い込む事例などが見受けられます。
買参人のなかには「予約相対やネット取引では正当な価格形成が行われていないのではないか」といった声が聞かれます。しかし、輸入のバラの見かけの品質にとらわれて、輸入のバラの低価格に引きずられるように国内の切りバラの市場価格が低迷している現象がみられています。またシクラメンでは、丁寧に葉組みを繰り返して植物ホルモン無使用で生産した自然咲きシクラメンは長期間の開花期間が保証されていても、単に「見かけが変わらない」というだけで低価格で取引されている現状を見ると、『本当に競売で正当な価格形成が行われているのだろうか?』という疑問が起きてきます。むしろ、商品の価値観を正当に評価できない人達に価格形成を委ねるのではなく、商品の価値を評価できる人が価格を設定する標準価格制度の方が花き業界の将来にとって良いのではないかという考え方の方が正当にも思えてきます。
さて、ここで問題になるのが「商品の価値を評価できる人」とは誰かという点です。
花き業界はこの10年で世代交代が行われてきています。生産者は後継者に世代が変わりました。引退した60歳代の生産者は花き産業黎明期から花を生産してきた人達で、花産業や花文化の発展を支えてきた人達です。これに対して後継者は「花生産」を生活のための職業として捉える人達が多く、「高く売れる花」を生産することに興味があるのではないかと感じることがあります。
花き市場の職員も世代交代が激しくなっています。20〜30年前は生産者が出荷する花を市場に持ち込んで、市場の職員に生産にまつわる話や品種の特性などを伝えていました。しかし物流の分業化と合理化が進んだ結果、生産者と直接顔を合わす機会が少なくなり、直接植物の話をすることが難しくなりました。その結果、買参人との情報交流が多くなって「売れるものを売る」という価値観が主流となり、植物の魅力を語ることができない市場職員が増えてきています。
買参人の販売店も大きく変わってきています。顧客に花の魅力を語り伝える「花の伝道師」を担う能力を持つ店主が減りました。「お客さん一人一人に植物の説明なんかしていたら売り上げが伸びない」という声を良く聞きます。生産者から提供されたポップだけしか掲示していない農産物陳列販売所のような園芸専門店、フラワーキーパーの中のバラには価格だけが掲示されていて、バラの品種の魅力、生産地や生産者どころか品種名すら掲示していない生花店をみると、花を「単なる商品」としてしかみていないのではないという気持ちになります。これに加えてホームセンターなどの量販店のバイヤーが拍車をかけています。担当者が2〜3年ごとにコロコロ変わり、花の名前も判らず、前任者から引き継いだ過去の仕入れ伝票と売上伝票だけを参考に「価格第一」で花き市場から仕入れようとするバイヤー。
この10年続いている花の市場価格低迷の原因はこれらのことが絡み合って起きているのではないでしょうか。
「花育」が花き業界で盛んに語られていますが、本当に「花育」が必要なのは花き産業界の人達ではないのでしょうか?
★沖縄の小ギクは海外からの輸入の影響は受けない? (2011/02/10)
八重山農林水産振興センター(石垣島)の勝連盛憲氏と話をしている時に「沖縄の小ギク生産の将来」が話題として出てきました。
沖縄の小ギク生産は露地切花として発達しています。年末年始と3月の彼岸の需要日にむけて大量に生産出荷する体系で、草刈り機での一斉収穫など最大限の省力化を図って生産コストを下げ、1本あたりの利益は少ないものの、量を生産することで収益を上げる戦略です。当然、この低価格戦略の沖縄に対抗できる国内産地はなく、年末から3月にかけての小ギクのマーケットは沖縄の独壇場といえます。今のところ海外からこの時期に小ギクが輸入されることもなく、一見安泰に思えますが、今後も海外で小ギクが作られる可能性はないのでしょうか?
昨年にヨーロッパの切花需要調査に行かれた(株)インパックの守重知量社長から伺いましたが、ヨーロッパのスーパーマーケットでのバラの販売価格が軒並み1本30円だったそうです。ケニア・エチオピアからの輸出価格は1本15円とのことで、この価格では省力化などの生産コストの削減に努めてきたオランダでもさすがに抵抗できず、オランダの切りバラ生産は崩壊に向かっているとのことでした。
バラは種苗費、肥料、農薬に加えて収穫調整に多大な労力がかかり、他の切花に比べて生産コストが高いのですが、ケニアやエチオピアでは軽装備の雨除け施設で無暖房、1日1ドルの低人件費などの有利性があり、航空運賃も加えて1本15円で採算が取れるようです。もし、これらの国が小ギクを生産し始めた場合、輸出価格は一体いくらになるのでしょうか?
勝連盛憲氏は「こんな低価格では、航空運賃をかけて生産輸出しても採算が取れないと思うので、海外での小ギク生産輸出はあり得ないのでは?」と言っておられましたが、このヨーロッパのバラの状況を見る限り可能性がないとはいえません。小ギク生産を開始する可能性がある地域は、熱帯高地の新興産地であるベトナムやインドネシアが候補地です。これらの国ではマレーシアやケニアなどの先進産地とバラやスプレーギクなどで競争することは難しく、新たな品目の開拓のなかでの生産を考えると、既に日本での販売実績のある小ギクは魅力的です。インドネシアやベトナムは既に日本国内へのキクの挿し穂供給基地として実績があり、切花生産も行われています。後は周年安定した日本国内需要の開拓を行うだけです。
国内生産を続けていこうと考える場合に、国内生産の有利性、需要とのマッチングなどを正確に評価することが重要です。そのなかで長期戦略を立てて行動し始めることの大切さを実感しています。
高齢化社会をむかえて、一見キクの葬儀需要は大きく発展しそうに思えますが、実は縮小する市場です。「葬儀は誰のためにするのか?」は良く語られる命題ですが、間違いなく残された者のために葬儀は行われます。高齢化社会をむかえて、高齢者だけの世帯が増えています。私の周囲でも高齢の両親と同居している人は極めて少なく、多くが高齢の両親と遠く離れて世帯を持っています。高齢者が家族と同居している場合には、残された家族の仕事上の見栄や近所のつき合いもあって、葬儀を簡略に済ますことができません。しかし両親と別居することが多くなり、家族制度が崩壊している現状では見栄を張る意味がなくなり、自分のために葬儀をするのではなく亡くなった本人を大切にする意識が高まり、次第に形式を重視したキクを中心とする厳かな祭壇が姿を消して、華やかな洋花を主体とした葬儀が増えてきています。さらには家族葬が一般的になり始めると葬儀としてのキクの需要は大きく減少することが予想されます。実際に、私の母は84歳ですが母の葬儀の時には家族葬で行い、母の好きな赤やピンクのバラと白とピンクのユリで飾ってあげたいと思っています。
このように考えると、輪ギク生産業界は内需の縮小問題と中国からの輸入問題の両面から攻められて、間違いなく輪ギク生産者の淘汰が始まると予想されるのですが、危機感はあまり感じられません。後継者のいない輪ギク生産者が生産をやめることで生産量が減少して全員が生き残れると考えているのでしょうか?特に30〜40歳代の後継者の方々と話をしていると、生産出荷量の話や品種の問題、計画的な周年生産の難しさなど目の前の技術的な話題に集約され、輪ギク需要の今後や海外からの輸入対策など輪ギク業界の将来についての話題を避けているようにも思えます。しかし、彼らはこれから20年以上キクを生産し続けなければいけないのですが、大丈夫なのでしょうか?それとも「そういうことは農協の考えることで、農協が要求する切花を着実に生産することが私達の仕事」と考えているのでしょうか?
今、輪ギク業界は真剣に輪ギク需要の開拓を考えて実行し始める時期に来ていると思います。
輪ギクの需要は日本が独自に葬儀用として作り出した需要で、国際的に見ると日本という閉鎖社会のなかで培われた特殊な切花消費文化といえます。したがって、キクの生産という観点で考えると、熱帯高地のケニアやコロンビアが気候的にみて絶対的に有利ですが、輪ギクは日本という限られたマーケットでの需要のため、スプレーギクやバラ、カーネーションのような国際流通商品にはなりえず、挿し穂の生産をブラジルやベトナムなどの海外に委託しても委託先で無断増殖の恐れが全くない安全な閉鎖業界でした。この点だけに関してみると、葬儀需要に輪ギクを限定したことは大いに戦略として良い選択であったように思います。現実にスプレーギク生産国のマレーシアは品質では大きく国内生産を上回っていますが、マレーシアが輪ギク生産を始めることはありませんでした。
さて、問題はこれからです。近年韓国と中国の葬儀の形式が大きく変わってきています。先日の北朝鮮の延坪島砲撃で亡くなった兵士の葬儀は、あたかも日本での葬儀と見まごう白菊祭壇でした(JPG file)。中国では富裕層を中心として菊を使った日式葬儀が流行し始めています。このように、日本に限られていた輪ギク需要が韓国そして中国という国際的に大きな力を持つ消費マーケットに拡大し始めた時、この中国マーケットを目指して熱帯高地の切花生産国のケニアやエチオピアは間違いなく輪ギクを生産し始めるしょう。輪ギクは蕾で収穫され、ギッシリ詰め込んだ横箱の輸送が可能で、水揚げが容易、低温での貯蔵が可能となると、まさに熱帯高地での生産と航空輸送に最適な商品といえます。
既にバラで経験しているように、ケニアやエチオピアの生産会社の生産規模は最低でも数十haで、100haを超える生産会社が輪ギクを生産し始めた時にどのようなことが起きるのでしょうか。ちなみに日本の第一位の生産県の愛知県のキク生産面積は1,000haですが、ケニアの最大のバラ生産会社の施設面積は360haです。ケニアが真面目に輪ギク生産を始めると日本の総生産面積は数社でまかなえることになり、輸入価格は20円以下で取引されるでしょう。
これまでも中国からの輪ギク輸出攻勢の影響をかなり受けていますが、ケニアやエチオピアの輸出攻勢は中国の比ではありません。オランダの切花生産を壊滅に追いやる程の大きな力を持っているのです。日本のバラ生産と国際流通を20年間見続けた者として輪ギク業界をみると、これまでの「閉鎖マーケットにあぐらをかいて危機感に欠ける業界」に思えます。特に、バラとは異なって共選共販産地がほとんどであるため農協依存体質で生産者の意識が低く、「大産地を背景にした量の力」で花き市場に圧力をかける戦略に終始し、「新たなマーケットの構築」に対する意欲が低いことが問題です。しかし、「国内の大産地の量の力」はケニアやエチオピアとは大人と子供のような関係で、これらの国が輪ギクを生産し始めたらひとたまりもありません。
この中国の輪ギクマーケットの拡大予測はそれほど間違っていないと思いますし、10年後にはケニアやエチオピアが輪ギクを生産し始める可能性もかなり高いと考えています。
輪ギク生産者の皆さん。そろそろ輸入輪ギクに対抗する新たな輪ギク需要の確立に目を向け始めませんか?国内のバラ業界が仕掛けた「バラらしくないバラ」戦略が実を結び始めるのに10年かかりました。10年後を見据えて今から「キクらしくないキク」戦略を始める絶好のチャンスと思います。
★(有)お花屋さんぶんご清川の小久保恭一氏が天皇杯受賞 (2011/01/21)
平成22年度農林水産祭天皇杯をキク生産の小久保恭一氏が受賞され、1月17日に大分市の全日空ホテルで祝賀会が盛大に催されました。今回の受賞では、輪ギクの大規模周年生産体系の確立に加えて、研修生の受け入れなどの生産技術の伝承と若手農業者の育成に対する取り組みが高く評価されました。
(有)お花屋さんぶんご清川は生産施設面積が9,000坪(3ha)と国内有数の切花生産施設面積を誇り、海外の生産施設にも引けを取りません。そして重要なことは、大規模生産施設によく見られる品質の低下がなく、国内最高品質の切花生産を大規模に行っていることは特筆すべき点といえます。
小久保恭一氏は全国一の輪ギク生産地の愛知県渥美半島出身で、JA渥美の周年菊出荷連合2代目の会長を務められ、高い生産技術を持った生産者として有名な方です。愛知県の意欲的な若手キク生産者をまとめて(有)お花屋さんを立ち上げると共に、中国でのキクの生産指導にも力を発揮しています。よく言われることですが、「優れた技術者は、優れた教師ではない」。しかし、小久保氏は国内第一級のキク生産技術者であり、同時に若手後継者の教師であり続けようと努力をされていられます。この成果として、9,000坪の大規模生産施設で国内トップの品質の輪ギクを生産し続けられるという形となって現れています。
小久保氏から直接うかがった言葉です。「切花には1割の法則がある。需要の1割は高級品が占め、その1割の需要は消費量の増減に関わらず一定した需要が保証される。輪ギクは8億本の需要があり、現在年間8千万本の高級品需要が存在している。しかし、10年後には需要は5億本に低下するだろうが、それでも5千万本の高級品需要は確保される。現在のお花屋さんの生産能力は年間1,500万本であるが、今後10年間に5,000万本まで生産量を増やしても、トップ10%の品質を維持し続ける限りお花屋さんの地位は揺るぎない。仮に中国からの輸入が増加してもまったく問題はない」。高い技術とそれを後継者や従業員に伝える能力を持つ小久保氏だからこそ言える言葉だと思います。
工業界の取り組みとして、省力化や自動化の導入による生産コストの削減だけがクローズアップされる傾向にありますが、実は従業員に対する教育に多大な労力を割いています。きめ細かく設定された研修制度や社内マイスター制度など、高い技術力の伝承こそが日本の産業の将来を支える原動力ともいえます。この点では花き園芸業界は数段遅れており、まだ産業とはいえない「町工場」の段階といえるのかもしれません。
花き生産者の皆さん。花生産を真の意味での「花産業」にしましょう!
★香港への輸出は中国への輸出とは別物 (2011/01/19)
岐阜県も含めて、県単位で農産物の輸出に取り組んでいる所では輸出先として香港を想定しているところが多々あります。しかし、実態をみると日本産農産物を販売しているのは一田百貨(SEIYU)や香港SOGOなどの日系デパートで、日本産農産物フェアでの購入者は香港在住の日本人が多いようです。「香港人は自分を中国人とは思っていない」とよく言われますが、ましてや香港人ではなく、日本人が日系デパートで懐かしい日本の農産物を購入している現状を、香港輸出といえるのでしょうか?さらに「香港輸出成功を足がかりに中国への輸出拡大」まで話題が大きくなると、「本当に大丈夫かしら」と不安を感じざるを得ません。
先のコラムに書いたように、中国人は日本製品を見定めています。中国の大都市には多数の富裕層がおり、高い購買能力を持っているという単純な気持ちで中国輸出を考えることは極めて危険です。海外の消費者に理解される日本の良さ、優れたものを認めてもらう気持ちこそが大切ではないかと思います。以前のコラム「シンビジウムの中国輸出」(2005/12/01)で書いたように、日本から中国に輸出されたシンビジウムは、日本では年末、中国では1月末と需要期が異なることから、日本国内の一級品の販売後の少々品質の悪い商品でした(pdfファイル)。日本国内の残り物を輸出するという考え方が原因となって中国での評価が急速に低下し、結局中国への輸出はなくなってしまいました。
日本は花き園芸生産では世界でも最も優れた国の一つです。単純に、「日本の優れた農産物を輸出」という観点ではなく、日本でトップクラスの育種、生産管理、商品生産の優れた魅力を海外で紹介し、魅力の虜になって頂くという観点が必要だと考えます。
以前、技術顧問をしている中国遼寧省農業科学院の研究所長の奥さんへのお土産に、「何が良いですか?」と尋ねたところ、返ってきた答えが「資生堂の化粧品」でした。
資生堂は日本ではごくありふれた化粧品メーカーです。DiorやESTEE LAUDERでなくても良いのかなぁと思ったのですが、答えは明快でした。「ヨーロッパ人の肌の色と中国人は違います。肌の色が同じ日本人の女性が最も好む化粧品が、中国人には最も適しています。」
現在、資生堂は中国専用の化粧品ブランドとしてAUPRES(オプレ:中国名「欧珀莱」)を立ち上げており、同様に地方都市をターゲットとしたurara(ウララ:中国名「悠莱」)を2006年に発売し始めています。資生堂の戦略は、「日本での高い評価を持って中国に展開する」ことであり、Authorized by SHISEIDOと明記することで日本の資生堂の品質保証を実感させることです。中国大都市の富裕層は、「日本製の商品が欲しい」のではなく、「日本で一番評価が高く、売れている商品が欲しい」ということを理解する必要があります。
農水省が音頭を取って日本の農産物を輸出する動きが活発になっています。しかし、過去に中国に輸出されたシンビジウムを見る機会がありましたが、日本ではB級品ではないかと思われるものが堂々と販売されており、苛立ちをおぼえたことがあります(pdfファイル)。恐らく、良い物は日本国内市場に出荷し、その次のランク商品をかき集めて輸出コンテナをいっぱいにしたのではないかと感じました。
中国への農産物の輸出で成功するのは国内でもトップブランドとなっている農産物であって、必ずしも「日本の良い品質の農産物」ではありません。このことは自動車業界でも同じで、現地生産に出遅れたトヨタが2002年以降ホンダを抜いて一気にトップに躍り出たことでも示されます。
実体はともかくとして、20年間10%の経済成長率を示し、日本を抜いて世界第2位のGDPとなった中国では、日本人以上の購買能力を持った富裕層が上海などの大都市に住んでいます。「日本の販売価格に関税を加えた値段で本当に中国人は買えるのかしら」という疑問を持つかもしれませんが、日本のトップブランドの価値は富裕層には大きな魅力に感じられるのでしょう。
さて、バラのトップブランドは何でしょうか?
★品種改良の世界史(作物編)が発売開始 (2011/01/07)
昨年末の12/28に品種改良の世界史(作物編)が悠書館から発売になりました(pdfファイル)。ほとんどがイネや小麦などの農作物ですが、唯一花として「バラ」が取り上げられ、最後の21章に掲載されています。しかし、この章だけがカラー刷りの写真付きです!
この本の構想は2年前に始まり、編者の鵜飼保雄先生から「バラ」の執筆を依頼されました。ヨーロッパのバラの歴史は色々な本にも記載されているのですが、もう一つのバラの育種の歴史を担う「中国のバラ」に関してはほとんど記載されたものがありませんでした。『バラの育種はヨーロッパが主流?(2008/12/05)』でも書きましたが、ヨーロッパの人達は中国のバラの育種の歴史に対してあえて無視しようと努めています。その理由として、大航海時代に始まる「植民地政策」に対する後ろめたい思いがあるのかもしれませんが、イギリスやフランス、オランダのプラントハンターたちが植民地から多くの植物資源を採取して母国に持ち帰り、現在のヨーロッパ園芸文化を作り出したことも事実です。その一つとして中国の古代バラがあり、四季咲き・剣弁咲き・赤色色素・淡黄色色素・ティーの香りなどの様々なバラの形質が中国からヨーロッパにもたらされ、現代バラの進化に貢献しています。当然、江蘇省林業科学研究院副院長であった王国良博士など、このことに気がついている中国国内の研究者もたくさんいますが、中国古代バラ(中国語では「古老月季」)は中国国内ではあまり高く評価されていないのが現実です。
価格は4500円と少々高めですが、バラ以外の育種の歴史も読み応えのある内容となっています。是非読んでみてください。
卯年の年頭に当たって、メール年賀状を作成いたしました。ご覧下さい
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応用生物科学部の副学部長としての仕事が4年目を迎えます。これに伴って、生産現場に出かけることが難しくなり、講演依頼をお断りすることが多くなってしまいました。
せめてもの償いにと思い、昨年は「教授の一言コラム」をかなり高頻度に更新して、私の思いを発信してきました。
花き生産業界、卸売業界、販売業界、いずれも大きな変革期を迎えていると感じます。この変革に対応できる者だけが生き残れるのではないでしょうか。「強くて大きい者が生き残れるのではなく、変化できた者だけが生き残れる。恐竜は大きくても絶滅し、ほ乳類は小さくても変化できたからこそ生き残れた!」
大産地であっても個人生産者であっても、国際化の中では等しくチャンスがあります。
大規模市場であっても、地方市場であっても、時代の流れを的確に把握して適切に対応できる市場だけが大きく飛躍できます。
この10年間大きくなった量販店も、ここに至って厳しい状況を迎えています。顧客ニーズを的確に把握することが大切だと思います。
よろしくお願いいたします。