このコラムの内容にご意見,ご感想がありましたら,右のポストをクリックして,メールでお寄せください.
行きつけの岐阜市の園芸専門店「長良園芸」を訪問しました。仕事柄チョクチョクお伺いして、会長さんや社長さんと園芸業界の情勢や販売の課題などについて語り合っています。
バラ苗コーナーを見てビックリしました。なんと、売られているバラ苗のほとんどがイングリッシュ・ローズやフレンチ・ローズに代表されるブランド品種で、バラ苗価格は1900〜3900円の高級バラ苗で、全てがポット苗でした。販売されているバラ苗には全て写真付きの品種ラベルが付いており、花型や香りなどの品種の特徴が明示されています。丁寧な栽培方法のポップも掲示されていました。数年前までは、いわゆる高芯剣弁タイプの昔からのガーデンローズ品種が主流で、苗は接木の掘り上げ苗で価格も1000円以下であったことを考えると、隔世の感があります。
世間では不景気感が漂い、マスコミでは節約志向との報道がありますが、バラ苗業界では高級バラ苗が主流になっているのは驚きでした。恐らく、このバラ苗を買った消費者はバラの花が咲く庭を夢見ていることでしょうし、バラの花が咲いた時には周囲の友人に自慢げに「この冬に買ったバラの花が咲いたの!花もかわいいし、香りもいいのよ!チョット嗅いでみて!」と言うのでしょう。花は心の満足を満たすアイテムだということをまさに物語っているのではないでしょうか。心の満足は何物にも代えられないのです!
バラの切花の世界で徐々に広がり始めた「バラらしくないバラ」の動きがガーデンローズにも波及していることを感じました。10年ほど前に、インドやケニアからの切りバラの輸入に対抗するために始めた「バラらしくないバラ」の動きが、ようやく消費者に定着し始めたことを実感すると共に、今後の切りバラ産業が着実に発展し始める予兆を感じました。
キクは中国から渡来したと言われており、その後、嵯峨菊、伊勢菊、肥後菊、江戸菊などの古典菊といわれる品種が作られています。これらのキクの魅力はまさに「和の心」であり、アジアの感性によって作られた品種群です。
先日、広島県のキクの育種会社精興園を訪問しました。私達が通常見ている輪ギクは、花が上向きに咲いている姿ですが、樹咲きの菊はまったく価値観の異なる花を咲かせていました(PDFファイル)。花の大きさは15〜20cmと通常の2倍で、大輪のポンポン咲きといった雰囲気のものに加えて、ダリア咲き、掴み咲き、管咲きなど、まさに菊花展のキクを見るようでした。精興園の方々曰く、「樹咲きで咲き切った菊の魅力は何ともいえません。しかし、この菊の本来の姿を見ることができるのは育種をしている私達だけかもしれません。」そして、「蕾で収穫した切花のキクは決して樹咲きの姿まで咲き切ることはありませんが、樹咲きで収穫したキクは満開となってもすぐに散ることはなく、満開の状態で長い切花鑑賞期間が確保できます」
何とももったいない話しです。
キクは葬儀の花の代表となっています。一度に大量に消費されるため、計画的な周年生産体系と長期間の保存が可能であることが要求されます。電照栽培の普及によって計画的な周年生産が可能となり、蕾の状態での収穫によって流通過程での過酷な環境にも耐えることができ、冷蔵すれば長期間の保存が可能になりました。しかし、この生産体系の確立と長期間の冷蔵保存によって海外からの輸入が可能になり、国際流通の大きな荒波に飲み込まれようとしています。
私は、精興園の育種圃場で「樹咲きの菊」を見てキクの本当の魅力を感ずると共に、大きな疑問を感じました。なぜ、樹咲きの菊の切花生産が広がらないのでしょうか?
樹咲きのキク切花生産には大きな問題点があります。第1に、切花収穫の日数が長くなり年間の収穫回数が少なくなることがあります。第2には、花が大きくなるため出荷箱に入る本数が少なくなり、1本あたりの輸送経費が高くなることです。第3に、満開状態に近づくために花弁が傷つきやすくなり、花にネットを着けたり和紙でくるむ等の保護作業が必要となり手間が掛かることです。
切花生産農家の方々は「手間も掛かるし、年間の切花生産本数が少なくなり、輸送経費も余計にかかるような切花は儲けが少ないので、生産するメリットがない」と言われます。本当にそうでしょうか?
今後の日本は高齢化社会になるから葬儀需要は下がらないと言われますが、本当にそうでしょうか?一昔前では葬儀の花は全てキクで占められていましたが、最近の葬儀でのキクの使用量はドンドン低下しています。さらに葬儀の形態が家族葬に移り始めて、大量にキクを飾る葬儀が減少しています。加えて、中国からの輪ギクの輸入が年々増加しており、国内で生産されキクの切花需要は減少しているのではないでしょうか。
葬儀だけに依存する閉鎖的な需要に頼る切花産業は外圧に弱く、時代の変化に対応できないのではないかと考えます。これまでのキクの需要と価値観から抜け出せない状況では、キクの切花産業は衰退するのではないかと危惧しています。
もう一度、菊が本来持っている魅力に立ち返り、キクの新しいマーケットの開拓をすることで、キク切花産業は再び新たな世界を作り出すことができるものと考えます。一部のキク生産者の中には「フルブルーム・マム」という名前で樹咲きのキクを出荷し始めていますし、「ネオ輪ギク」も生産され始めていますが、多くのキク生産地では「こんなもの」といった扱いです。確かに現在の需要と供給を考える限りでは、樹咲きのキクを生産するメリットを見いだすことはできないかもしれませんが、新しいマーケットだからこそ海外からの輸入に対抗できるはずですし、消費者も「いわゆる輪ギク」とは異なる新しい価値観に気付くことで販売価格も確保され始めるのではないでしょうか。
10年前に切りバラで始まった「バラらしくないバラ」の育種と生産が、新たなバラの需要を作り出したのと同じように、「キクらしくないキク」の取り組みが必要になっているのだと思います。
★中国で販売されるバラの花色の変化 (2010/12/18)
中国には1990年頃から毎年のように出掛けて、北京や上海の花き市場を訪問してきました。この20年間で中国の花は大きく変化してきています。1990年代前半は「これが商品かしら?」と思う鉢花が売られており、切花はほとんど見かけることがありませんでした。1990年代後半になると、急速にコチョウランの鉢物が花き市場を占有するようになり、バラとカーネーションの切花が急激に増加し始めました。
2000年代になるとシンビジウムやグズマニアの鉢物が増加し、日本で流通している商品と品質で差がないものも見受けられるようになりました。2000年代当初の切花はバラ、カーネーション、キクなどが主流で、バラの花色は赤が多く、オレンジや白が見受けられる程度でした。
2010年9月に上海の曹家渡市場と双季花芸を2年ぶりに訪問しました。バラの花色がそれ以前のものに比べて大きく変化し始めており、赤色のバラの割合が20%程度にまで減少し、白色のバラも少なくなっていました。これに対してパステル系の花色のバラ品種が増加しており、ピンクでも濃いものから薄いものまで、ショッキングピンクからサーモンピンク、紫色や薄いクリーム色などの中間色のバラが店先を占有していました。
この変化には2つの理由があると考えます。1つは中国消費者嗜好の高まりがあります。中国人の好きな色は、五星紅旗(国旗)に代表される赤色と黄色(金色)といわれ、以前の街中ポスターはこの2色で占められていました。しかし最近の街はカラフルになり、落ち着いたシックな配色のポスターも増えてきています。このような消費者指向の変化の中で切りバラの花色が変化してきていると考えられます。
第2には、育種会社の中国ビジネスに対する考え方の変化です。2000年頃までは、中国国内での無断増殖を警戒して、一部の育種会社を除いて、ヨーロッパの育種会社が中国に進出することはほとんどありませんでした。その結果として、中国国内で生産されるバラ品種はカーディナルなどパテント権利の切れた古い品種が主体で、パステル調の最新品種の栽培は不可能でした。2001年に中国はWTOに加盟し、知的財産権の保護に対する姿勢を強化しました。それを受けて2000年代半ばからヨーロッパの育種会社が昆明に営業拠点を置き始め、その成果として最新品種の切りバラが上海に出荷され始めました。
日本国内では、依然と「中国は無断増殖がひどくて進出に値しない」といった話を聞きます。確かに知的財産権が充分保護されているとは言えない状況であることは確かですが、ヨーロッパの育種会社は中国全体の流れを読み切って世界的切花大産地の昆明に進出していることを考えると、「石橋を叩いてでも渡らない」姿勢が世界情勢に乗り遅れる原因となるのではないかと懸念しています。
シクラメンの価格低迷がこの10年続いています。シクラメンはシンビジウムと共に冬の鉢物の定番商品としての地位を確保していました。
シクラメンが低迷した原因として、室内鑑賞植物(インテリア商品)としてのシクラメンに対する消費者の興味が、ガーデンシクラメンの登場によってガーデニング植物(アウトテリア商品)に変化してしまったことが挙げられます。しかし、これだけではありません。
シクラメンは花鉢物のなかでは少々栽培管理技術が要求される植物です。暖房機の近くや、エアコンの風が直接当たる場所では蒸散と吸水のバランスが崩れて生育が悪くなり、花が上がってこなくなります。さらに、太陽の光を必要とする植物なので、室内に置き続けると株が次第に衰弱するので、明るい窓際で鑑賞するか、2鉢を交代で窓際と室内を置き換えるといった心遣いが必要です。また、最近の底面吸水鉢の普及で潅水管理こそ簡単になりましたが、液肥についての情報がほとんどありません。
実は、シクラメンを育てるということは結構高度な花鉢物管理知識が要求されるのです。したがって、この10年間のシクラメンの低迷は、消費者の花鉢物の管理知識の低下とも関係していると考えます。10年前のシクラメンの消費を支えていたのは当時40〜50歳代の女性であったと考えられ、これらの女性が50歳半ばを過ぎた現在、シクラメン以外の植物、あるいは旅行など植物以外の楽しみに興味を示していると考えます。
シクラメンの消費拡大にあたって、再度40歳代の女性の心をつかむ方法を考えることが大切です。40歳代の女性はインテリアには強い興味を持っています。40歳代の女性が引きつけられる花色や花形の育種に加えて、品種のネーミングも大切です。ただし、40歳代の女性の栽培管理技術と知識はそれほど高くありません。様々な情報提供を的確に行うことに加えて、例えばLED照明装置など簡単に栽培管理できるような装置の活用なども大切でしょう。
切花に対して鉢物市場が著しく低迷しています。鉢物市場のなかでも、苗物は堅調に流通しているようですが、花鉢物は消費が冷え込んでいます。同じ花なのにどうしてでしょうか。
花鉢物には2種類あると思います。いわゆるインテリア商品としてのシクラメンやラン類などの花鉢物と、ミニバラなどに代表される軒先などに飾って楽しむアウトテリア商品です。インテリア商品としての鉢物はまさに切花と競合し、アウトテリア商品としての鉢物はガーデニング苗物と競合します。
切花の消費が堅調に推移しているのに対して、インテリア商品としての花鉢物が低迷していることについて考えてみましょう。
切花のメリットとして、鮮度保持剤を利用すれば1週間以上の鑑賞期間が確保され、水替えなどの手間もほとんど不要です。また、色々な花を組み合わせて部屋の雰囲気に合わせることが可能です。葉物やかすみ草を組み合わせることもできます。
花鉢物のメリットとして、1ヶ月以上鑑賞することができ、蕾から開花までの変化を楽しむことができます。植物によっては適切に肥料管理をすれば、成長して次々と花を咲かせ、「自分が育てた」という充実感を味わうことができます。大きな観葉植物と花鉢を組み合わせることで、部屋の雰囲気をコーディネートすることもできます。空気清浄効果も期待できます。
最近の花鉢物をみていると、販売されている状態が満開で、新たに咲き始める蕾が見あたらないものがあります。室内に飾っても次第に花が終わっていくだけで、まさに花鉢物の切花化が進んでいるように感じます。また、「消費者の住宅事情を認識できていないのでは?」と感じるような背の高い観葉植物や置き場所に困るような大きな鉢物も見かけます。大きな鉢物を生産するためには職人技といわれるような高度な生産技術と長期間の栽培期間が必要ですが、購入者である消費者のニーズとミスマッチした商品は評価されないのは当然です。生産者の口からは「手間と時間を掛けてもそれに見合う価格が出ない」という愚痴が聞かれますが、本当はそうではなく、手間と時間の掛け方が消費者のニーズにあっていないのではないでしょうか。バブルの頃のニーズにとらわれて、消費構造が変化し始めたにもかかわらずその変化に対応できていない状況が今の鉢花物の市況の低迷を招いていると思います。
「恐竜が絶滅したのは変化に対応できなかったから」という言葉に象徴されるように、そして「ほ乳類が全盛期を迎えているのは多様に分化できたことによる」ように、花鉢物生産者は生産する商品に対する大きな発想の転換を迫られているのではないかと考えます。
★岐阜花き流通センターがMPS-Florimark TraceCert認証を取得 (2010/11/04)
岐阜県内の鉢花物生産者で組織される集出荷組織の岐阜花き流通センター農業協同組合は、2010年9月16日に生産者集出荷組織として始めてMPS-Florimark TraceCert認証を受け、授与式が10月5日に行われました。
MPSは花き業界の認証制度です。花き生産者を対象とした認証制度としては、環境に対する配慮と経営分析が可能なMPS-ABCと、鮮度などの品質保証に対する取り組みを認証するMPS-Qがあります。これに対して、花き市場や仲卸などの流通業者を対象に商品管理システムを認証する制度としてMPS-GPAやMPS-Florimark TraceCertなどがあり、全国の主要花き市場や仲卸会社が認証を受けています。今回、岐阜花き流通センターが認証を受けたのは、この流通業者を対象とした認証制度「MPS-Florimark TraceCert」です。近年は運輸会社も認証取得に興味を示しています。
さて、生産者の集出荷組織がMPS認証を取得する意味は何でしょうか。
近年、消費者の花の鮮度に対する関心は一層高まってきており、花の品質が注目されています。その結果として、消費者からのクレームが以前にも増して多くなっています。これまでは、消費者からのクレームは園芸店から花き市場に寄せられていました。しかし、「買ってすぐに葉が黄色くなってきた」といったクレームの原因がどこにあるのかがはっきりしなかったため、花き市場としては園芸店から届いたクレームを直接生産者に伝えることを躊躇する傾向がありました。
「買ってすぐに葉が黄色くなってきた」という原因としては、『生産者が出荷する段階で肥料切れを起こしていた』や、『流通過程で一時的に高温になり、高温障害が発生した』、あるいは『流通段階で一時的に水切れが発生して、根の機能が低下した』、『園芸店での仕入れから販売まで日数が長く、老化した』など様々な原因が考えられます。したがって、「買ってすぐに葉が黄色くなってきた」というクレームに対しては、生産から流通の全ての段階で障害が起こりうる可能性があり、生産から流通の全ての段階で一つ一つ原因を検証しなくてはいけませんでした。しかし、現実的にはこの原因を明らかにすることは難しかったと思います。
この数年間で、MPS認証を受ける花き市場が多くなり、花き市場内での保管環境のチェックや入荷時および出荷時の品質チェックが徹底され始めました。ここで、生産者の集出荷組織である岐阜花き流通センターがMPS認証を受けたことによって生産者から花き市場までの品質管理が徹底して行われることになり、消費者の様々なクレームに対して迅速に自信を持って対応ができる体制が整ったことになります。
これまで花き市場は、園芸店(実は消費者)からのクレームに対して、自信のなさが理由で正面から対応できず、その結果として消費者の花の品質に対する失望感を助長していたと思います。しかし、これからは岐阜県から出荷される鉢花物に対しては自信を持ってクレーム対応ができると共に、岐阜県の生産者は園芸店(消費者)から寄せられるクレームを通じて多くの生産流通改善策に関するアイデアを受け取ることができるようになります。まさに、園芸店(消費者)に対して、生産者が花き市場と共に緊密なチームワークを持って『よりよい花き商品』を提供できる体制が整ったということができます。
現段階では、運輸会社のMPS認証はまだ進んでいませんが、運輸会社がMPS認証を取得すると完璧な品質保証販売が可能になってくると考えています。是非、今後多くの生産者の集出荷組織がMPS認証を受けると共に、運輸会社と花き市場が一体となってMPS認証を進めることで、消費者の花の品質に対する満足度を高めて、花の消費拡大が進むことを期待しています。
★IFEX2010 国際展示会とは? (2010/11/01)
IFEX2010に行ってきました。昨年は大学の行事が重なって行くことが出来ませんでしたので2年ぶりのIFEXでした。GARDEXやEXTEPOが併設されていたこともあって、ブースの数自体は前年を上回っていたそうです。しかし、IFEX自体は規模縮小で大変ガッカリしました。
展示ブースとしては、韓国、中国、コロンビア、ケニア、エチオピアなどの海外輸出国からのブースが目を引きました。また、プリザーブドフラワーや花束装飾品に加えて、園芸用品やガーデニング資材などがたくさん出展されていましたが、肝心の新品種や産地の花などの植物が少なく、何か違和感を感じました。国際花き展示会とはどのようにあるべきなのでしょうか?
IFEXは国際花き商談会と銘打っていますが、来場する方々は何を目的に来場されるのかを考える必要があります。私は業者ではありませんので商談を目的に行くわけではありません。IFEXを見ることで日本の花き産業のトレンドや近い将来の動きを予測することを目的としています。しかし、国内種苗会社の展示が大幅に減少し、日本を代表する大手種苗会社であるサカタのタネもタキイ種苗も展示がありませんでした。以前は花き市場が全国の優良産地の紹介を積極的に展開していたのですが、今回は花き市場の産地紹介ブースはまったく見あたりませんでした。
日本の人口は今後毎年減少し、景気も復興の兆しがなかなか見えない状況で、国内マーケットだけを考えた花き産業の行く末は見えています。輸出を踏まえた国際化を真剣に考えなければいけない状況です。国内の花き産業を支える種苗会社や花き市場は日本の花き産業の将来を見据えた取り組みが必要かと思いますが、今年のIFEX2010の対する花き業界各社の姿勢は情けないの一言でした。
農水省は国産花きの輸出を積極的に進めようと考えているようですが、海外からのバイヤーがIFEX2010に来場したとして、何か日本の花に関する情報が得られたのでしょうか。農水省は、ドイツで開催されるIPM(エッセン国際園芸専門見本市)に補助金を出して日本ブースを出展しています。確かにそれも重要ではありますが、一部の展示ブースでの出展が日本の花き輸出を振興するとは思えません。日本で開催される国際花き展示会だからこそ、日本で育成された新たな品種や主要な花き産地をプロモーションし、海外からのバイヤーを展示会に呼び込むこと重要だと考えます。そして、そのことこそ本当の意味での花き輸出戦略ではないでしょうか。実際に、数年前まで日本バイヤーはオランダのホルティフェアーに出かけ、ドイツのIPMに毎年通っていたのではありませんか?
IFEXはJFMA(日本フローラルマーケティング協会)とリードエグジビションジャパン(株)が共同して主催しています。私もJFMAの顧問を務めていますので、あえて水戸黄門ならぬ「岐阜顧〜問」として一言述べさせていただきます。
JFMAとリードエグジビションジャパンの皆さん。日本の花き生産業の魅力を前面に出してこそ、日本で開催する国際花き展示会ではありませんか?海外の輸出産地を紹介するだけであれば、中国の展示会に行っても良いし、ヨーロッパに行っても良いと思います。IFEXは資材展ではありません。剪定ハサミやノコギリも良いですが、本来の園芸植物の展示が主役ではないでしょうか。中国や韓国の資材会社が日本に売り込みをかけるための展示会ではありません。日本で開催するIFEXだからこそ、海外のバイヤーにとって、日本の先進的な花き商品を見ることができ、同時に海外の商品も見られることに魅力があるのではないでしょうか。
IFEXで日本の花き産業を世界に発信し、日本の花の魅力をアピールすることは、直接日本産の花の輸出促進に繋がると思います。もし、農水省の方がこのコラムを見ておられるのであれば、IPMの補助金の一部をIFEXでの国内産地紹介展示に回していただけませんでしょうか。花き市場の皆さん。目の前の利益に繋がらないから出展を無駄だと思わないでください。花き種苗会社の皆さん。IFEXでは商談が成立しないから出展を取りやめるという近視眼的な発想を持たないでください。日本の花き産業が縮小すれば、農水省も花き市場も種苗会社も困るのではありませんか?
このままでは国内のバイヤーにとっても魅力が半減ですし、ましてや海外のバイヤーに来場を呼びかけることなど失礼でしょう。このような情けない国際花き展示会であれば日本の花き産業界にとって必要であるとは思えません。来年のIFEX2011が日本の花き産業のソコジカラをアピールする真の意味での国際展示会となることを大いに期待しています。
★園芸商品に対するホームセンターの大きな変化 (2010/10/27)
ホームセンターの全国系列化がちまたの話題となって久しくなります。ようやく様々な変化がホームセンター業界に見られ始めています。DIYブームが去り、ホームセンターを訪れる顧客は「とりあえずホームセンター」という顧客と「あのホームセンターだから」というこだわりの顧客に分化し始めているようです。
園芸業界に関しては、以前からの価格破壊こそが量販店の使命であるという戦略を継承して「安い花苗や野菜苗を目玉商品にすれば必ず顧客が増加する」という店と、「品種のレパートリーを増やし、少々価格は高めでも品質を上げることで園芸マニアを取り込もうとするリピーター指向の専門店化戦略を目指す店」に分かれ始めています
当然、花き市場での対応も大きく分かれ始めており、セリ(競売)を中心に全国の市場から安値で買いあさるホームセンターと、あえて価格の高い予約相対や注文での取引が中心でセリでの購入割合が30%というホームセンターも出始めています。米村花きコンサルタント事務所の米村浩次氏の調査によると、予約相対価格はセリ(競売)価格に比べて50%高いとのことです。品質を重視してあえて価格の高い商品を購入しているホームセンターが出始めているということは、私にとって少々驚きでした。
10年前にはパンジーを60円/鉢で市場購入して40円/鉢で販売しているホームセンターを見かけました。担当者が「1万鉢販売したところでたかが20万円の損です。プランターや培養土の販売を考えたら充分な効果があります」と堂々と言ってのけるような「客寄せパンダとしてのパンジーの販売」を考えるホームセンターが少なくなってきたということはうれしい限りです。これまで私はホームセンターを敵対視してきた所がありますが、このようなホームセンターとは是非協調していきたいと考えています。
6年前から義父からプレゼントされたセイコーウォッチ社のグランドセイコー(GS)を愛用しています。グランドセイコー(GS)はセイコーウォッチ社の最高級ブランド商品で、20万円以上します。時計本体の性能やデザインは極めて良く大変気に入っているのですが、ベルトの留め具の品質が悪く、半年に1回必ず故障して修理に出しています。先日も行きつけの時計店に修理に出した際に「ベルトを他のものに替えたいんですが」と言ったところ、「グランドセイコー(GS)はブランド商品です。市販のベルトでこの時計に合うものはないので、できれば純正のベルトを修理してでも使われることをお薦めします」と言われてしまいました。しかし、この6年間に10回以上修理に出して、まったく改善されないことにガッカリしています。
セイコーウォッチ社は世界に誇る時計メーカーです。時計としての機能を評価する限り、ブランド商品であるグランドセイコー(GS)の機能は素晴らしく、大学入試センター試験の監督の際に秒針を合わせると、1年間ほとんど狂いがありません。時計としてのデザインも洗練されており、秒針などのレイアウト、曜日・日付の見やすさ、本体とベルトのデザインなど大変優れています。唯一ベルトの留め具を除いて・・・・。
セイコーウォッチ社は世界に名だたる時計メーカーですので、時計の性能や機能は自信を持って追求しているものと思いますが、恐らくベルトの留め具は「どうでも良い機能」なのかもしれません。というより時計の機能としての観点から見ると専門外の機能なのかもしれません。しかし、ブランドは総合的価値の中で生まれるものだと思います。自社の最高級ブランド商品に対して、本来の機能ではないという観点でおろそかにすることは、近い将来大きな問題となってくるのではないでしょうか。
花き生産についても同じことがいえると思います。鉢物であれば、開花や植物の元気さの保証だけに気が向いて鉢の色や形などのデザインに無頓着な生産者を見かけます。切花では花の大きさや品種の特徴、長さなどに気を取られて、下葉やトゲの処理、花保ち保証をおろそかにするバラ生産者はおられませんか。ブランドとは、そのすべてに気を配らせて消費者に安心と保証を提供することであると思います。
9月28日〜101日まで岐阜大学と学術協定を締結している広西大学を訪問しました。広西大学は広東省の西の広西省南寧市にあります。広西省は正確には広西壮族自治区で、多くの少数民族からなる地域です。
私が最初に広西省を訪問したのは1990年で天安門事件直後でした。当時の中国は外国人に対する完全な解放を行っておらず、外国人が使用できる通貨は特定の友誼商店でしか使えない「兌換券」で、広西省には外国人の立ち入りが禁じられた多くの未解放区が残っていました。20年前の北京の王府井は現在のようなファッショナブルな店が建ち並ぶ通りではなく、漢方薬店や書店、友誼商店などが立ち並ぶ古い通りでした。東長安街の角にマクドナルドがあって、マクドナルドのピエロの人形と記念撮影する名所となっていました。
首都北京でも車で20分も走ると舗装されていない道になり、馬車や農機具を改造したトラック、自転車が通りを埋め尽くしていました。この時代の広西省南寧市はのどかな田舎町の面影を強く残しており、私が幼稚園児だった頃の子供の姿(ランニングシャツを着てゴム草履で走り回る30年前)があちらこちらで見かけられ、懐かしい思いをした記憶があります。すなわち、当時の日本と中国には30年程度の経済格差があったということができます。
20年経った南寧市は高速道路網とそれに繋がる環状自動車道が整備され、高層ビル群が建ち並び、街は縦横に計画的に整備された道路と商店街で賑わっています。道路にはベンツ、BMW、アウディ、豊田、ホンダ、日産などの車がひっきりなしに走り回り、あちこちでは渋滞も発生していました。一見すると現在の日本と中国との間には大きな経済格差は見あたりません。30年程度の経済格差をこの20年間で一気に縮めたといえます。中国全土の都市を知る広西大学の教授いわく、「北京や上海は別として、沿海都市と内陸部の経済格差は着実に縮まってきています。」
広西省全体の人口は5000万人で、南寧市の人口は2000万人です。広西省だけで日本の半分の人口があり、東京首都圏に相当する人口が南寧市に済んでいると考えると、これからの中国地方都市の将来の発展能力を想像することが出来ます。
日本で地方都市が首都東京の便利さを求めて突き進んできたように、中国の地方都市は北京や上海を目指して発展していくことでしょう。現在の日本には経済的な発展を求めることは出来ませんが、むしろそれは正常なことで、一定の経済的な発展を遂げた後は精神的な充足を求める時代となるのでしょう。過去の日本の経済発展期にヨーロッパやアメリカの商品がジワジワと進出してきたように、中国の経済発展期をチャンスと考える経営者が花き産業にも欲しいものです。そして、中国が日本と同様に精神的な充足を求め始めた時に、アジア共通な感性が大きく花開くことになるのではないかと考えます。
尖閣列島問題で日中関係が揺れる最中の9月下旬に中国を訪問しました。
上海は2年ぶりの訪問ですが、万博開催で賑わっており、高速道路、地下鉄などの交通網が一段と整備されていました。入国した上海浦東国際空港はターミナルが2年前の倍に広がっており、国際都市上海を象徴する空港に発展していました。今回の中国訪問は岐阜大学の協定大学である広西大学での交流打ち合わせが目的のため、浦東国際空港から国内線が主体の上海虹橋空港に移動しました。上海虹橋空港はかなり以前に利用した記憶があり、少々さびれた地方空港というイメージがあったのですが、まったく新しく変わっていました。第2ターミナルまであり広々としたフロアーで、日本を出発した中部国際空港の4倍くらいの規模がありました。各登場口は多くの人で賑わっており、上海−南寧行きの飛行機も満席で、経済大国として発展し始めた中国の力をまざまざと実感しました。
上海は経済都市で、日本でいえば大阪に相当します。日本が首都東京でオリンピックを開催し、経済都市大阪で万博を開催したこととまったく同じパターンで北京オリンピックと上海万博が開催されています。日本が東京オリンピックと大阪万博の開催を契機として高度経済成長を遂げ、国際社会に躍り出たのと同じように、間違いなく中国は政治的にも経済的にも国際的な力を発揮し始めています。
日本が高度経済成長を遂げていた時代の私は子供でしたので、アメリカやヨーロッパ諸国が日本に対してどのような感情を持っていたのかは判りませんが、その当時のアメリカの漫画で表されていた日本人は、旗を持ったガイドに導かれる出っ歯でメガネを掛け、肩から鞄を斜めに掛けた男性の姿からみて、かなり馬鹿にされていたのは間違いないのでしょう。恐らく、経済大国となり始めた日本に対してアメリカやヨーロッパ諸国は苦々しく思っていたのではないでしょうか。その感情は、現在の日本人が中国に対して抱いている感情と重なり合うものかもしれません。
今回の尖閣列島騒動では、中国側も日本側も国粋主義的な感情の高ぶりがぶつかり合っており、特に中国の高圧的な姿勢に対して多くの日本人は苦々しく思っています。しかし、領土問題は感情論で解決する問題ではなく、ケ小平のように国粋主義的感情をはぐらかす政治家が必要なのかもしれません。
領土問題はさておき、日本にとって中国は重要な貿易相手国です。輸入相手国ではアメリカを抜いて第1位で、輸出相手国としてはアメリカに次いで第2位です。改革開放後の中国の経済発展をこの20年間みてきた者として、急速に発展する中国の大きな力を感じてきました。特にこの10年間は、生産輸出国から世界の巨大マーケットとして成長し始めた中国は、資源のない輸出立国日本として欠くべからざる存在となってきています。
日本は高齢化社会をむかえて人口減少期に達しており、国内市場を対象としている限り産業が発展する要因は見あたりません。国粋主義的な感情論にとらわれることなく、国際社会の中での日本のあり方を正面から捉えて考える時期が来ていると思います。中国に切花を輸出しようと考える生産者は出てこないものでしょうか。中国で切花生産をしようと考える生産者は出てこないものでしょうか。
生産者の所に行くと「良い品質の切り花生産が目標です」という言葉をよく聞きます。「良い品質」とは誰にとって良いのでしょうか?
バラでいえば、良い品質のバラとは70cm以上の長さのある切花といえるかもしれません。しかし、これが本当に良い品質なのでしょうか?生花店では、長い切花であれば毎日少しずつ切り戻しをしながら鮮度を維持できることから、長い切花は良い品質かもしれません。しかし、生花店で長期間ストックされて切り戻しを何度もされた長い切花は消費者にとって必ずしも良い切花とは言えません。消費者にとって良い切花とは、しっかりと水揚げされた鮮度の良い切花でしょう!
私の家には大きな花瓶がありませんので、いつも家内は「80cmのバラを飾る花瓶がないので、そんなに長いバラはいらない。むしろ50〜60cmのB級品のバラの方が茎がしなって、真っ直ぐなバラより風情が感じられる」といっています。2005年3月のコラムで書いたように(コラム、写真)、品評会で金賞を受賞した真っ直ぐで太いバラよりも、自然にしなったバラを消費者が好んでいるという傾向があります。しかし、曲がったバラは真っ直ぐな規格品用に作られた出荷箱には入りきらず、かさばって輸送コストも高くなるので生産者にとっては良い品質とは言えません。同様に花き市場にとっても規格に従わない品質を評価することが難しいために「規格外品」というレッテルを貼ってしまいます。しかし曲がったバラは消費者だけではなく生花店にとっても結構な需要が存在するのですが、品質が悪いバラとして生産・出荷されることはありません。
エクアドルのバラは超巨大輪で、花径が10cm、切花長100cmのバラもあります(実は200cmもあります:NEVADO ECUADOR社)。日本の花き市場の規格に従えば、極めて優良な品質のバラといえますが、最高品質のバラと評価する生花店はほとんどいません。ホテルのロビーに飾る場合には最高品質かもしれませんが、家庭での装飾にはあまりにも大きすぎるからです。同様に、切花長が短いバラは70cmのバラに比べて品質が悪いといわれますが、フラワーアレンジメントなどの商品を販売する生花店にとって、70cmのバラは大きすぎて、むしろ50cm程度の可愛いバラの方がバランスが取れて向いています。
このように、「品質」とは消費する場面ごとで価値観が変わるものであり、一言で表現することができないものではないかと思います。「欲しい人に、欲しいものを、欲しい時に」の観点から考えると、フラワーアレンジメントの商品を販売する生花店にとっては50cmのバラが「欲しいバラ」であり、ホテルのロビーの装飾を担当する生花店にとって100cmの超巨大輪のバラが「欲しいバラ」です。
生産者が目標とする「良い品質の切り花生産」とは、的確に欲しい人(生花店)を見つけ出して切花を供給し、高い評価を受けることではないでしょうか。
日本一の生産量を誇る農協組織の共選切花部会を訪問しました。数十年の歴史があり、100名近くの部会員で生産が行われており、全国の主要市場に出荷しています。これまでの目標は市場占有率を取ること、とにかく他産地を圧倒する生産・出荷量を確保することを目指してきました。国内の切花消費量が増加していた2000年頃まではこの戦略に大きな問題はなかったのですが、切花消費量が減少傾向にあるこの10年間で様々な問題が生じてきています。
生産者においては、高い生産技術を持つ専業農家と零細な兼業農家が混在する100名の農家組織がとにかく生産量の確保に力を注いだ結果、日本一の生産・出荷量は確保できたものの品質に大きなばらつきが出てきています。生産技術の高い専業農家は、新たに開発される生産資材を次々と導入して高単価が期待できる高品質な切花生産に取り組みますが、零細な兼業農家では的確な生産投資ができず、出荷する切花品質の向上に対応できません。農協組織であるために、技術レベルの低い零細な農家であっても差別することができず、販売額の配分は生産技術の高い大規模専業農家を含めたプール計算をせざるを得ません。当然高い技術を持つ生産農家にとっては、土作りや生産管理資材の投入などを行って高品質の切花を生産してもそれに見合う販売金額が確保されないことに不満が高まり、部会を離脱する農家も出てきています。高い技術を持つ農家の年間収入は高く後継者就農率も高いのに対して、技術レベルの低い零細農家は後継車がつきにくく平均年齢は高いため、部会構成員の平均年齢は年を追って高くなり、次第に組織の活性も低下していきます。
部会をとりまとめる農協にも問題が出てきます。毎週出荷されてくる膨大な量の切花をとにかく花き市場に捌ききることが仕事の中心になって、産地としての将来展望を考える余裕がなくなります。市場対策は、市場担当者との人間関係を深めることが重視され、担当者や買参人との正面切っての意見交換は二の次に回されます。また出荷量の確保が大命題であり、部会員の離脱は出荷量の減少を招くために組織の維持が優先されます。零細な農家に過度な技術向上義務を科せられなくなり、品質向上対策が後手に回ってしまいます。また、これまでの業務を着実にこなすことが重要で、新しい生産方法の導入や販売戦略の構築は後回しにされる傾向が出てきます。
花き市場にとっては、出荷される切花の品質のばらつきは取引価格の高単価保証に繋がらないことを理解していながら大量の生産・出荷の魅力に勝てず、強い改善指針を産地に提言できなくなってきます。
日本国内に限られた生産消費市場だけを考えた場合には、「日本一の生産量」という戦略は大きな効果を現しました。しかし、十年前から急速に増加し始めた海外からの切花輸入量の増加によって大きな戦略変更を余儀なくされています。ケニアやコロンビアの生産農場の面積は平均でも数十haで、大規模農場ですと数百haに及びます。国内産地間の競争では総生産面積が50haの大産地は有利性があったのですが、海外の大規模農場が相手ではまったく歯が立ちません。量の勝負から「ブランド化」への大きな方向転換が必要とされていますが、これまで生産量でしか勝負してこなかったために、何をしたらよいのかを生産農家も農協職員も見えなくなってしまっています。
「量の勝負」から「ブランド化」への早急な方針転換が必至な状況の中、「日本一の大産地」という代名詞を一度捨てて、再度産地の将来構想を探し出す必要あるのでしょう。
生産される切花の品質がばらついていることを逆手にとって、最上級品質の高級切花ブランド、大量に上級品質の切花供給が可能なブランド、あえて短い切花を選んで出荷する特殊ブランドなどに区分化することで、切花ニーズを細分化して的確な供給体制を作ることができます。これまで低品質な切花として仕方なく出荷していた短い切花であっても、フラワーアレンジメントを主体とする生花店にとってはゴミが出ない最適な切花であり、一定量の切花が毎週確保できるのであればニーズがある商品といえます。ブランド化のキーワードは、「欲しい人に、欲しいものを、欲しい時に」です。
(有)フローラトゥエンティワンの坂嵜潮氏は北大時代の友人で、5月に泊まりがけで訪問しました。その時に話題になったことです。家庭園芸では培養土の解説については詳しく説明が行われますが、肥料についてはほとんど話題として取り上げられていません。何故でしょうか?
家庭園芸、とりわけ鑑賞鉢物では水やりと施肥は極めて重要な課題です。特に、多くの鉢物生産では出荷した時がベストの状態となるように仕立てられており、消費者が購入した後の鑑賞期間のことを考えて追肥を行って出荷されている事例は多くありません。このようなことが原因かとも思いますが、鑑賞鉢物を購入した消費者からの問い合わせとして「花が咲かなくなってしまった」とか「葉が黄色くなって病気ではないか」と言った相談が私の所にも頻繁に寄せられます。
鑑賞鉢物は、切り花とは違って、消費者が購入後に「育てる楽しみ」を提供するものと思います。当然、「育てる楽しみ」を味わうためには肥料を与えなければ達成できないはずです。先日もミモザを購入された方から「4号鉢でミモザを育てているのだけれども、ちっとも大きくなりません。枝が少し伸びると止まってしまって花もあまり咲きません。日本の気候はミモザには合わないのでしょうか」といった質問が届きました。お電話でしたが「下葉が枯れ上がっていませんか?」との問いかけに対して「見てもいないのによく判りますねぇ」。「購入されてから肥料を与えていますか?」の問いかけに対して「大きくしたくなかったので肥料はあげないようにしていました」。ムムム・・・。「4号鉢でしたら、春と秋口に化成肥料を小さじ半分程度与えてください。大きくなるようでしたら、秋に間引き剪定してください」と答えました。
犬や猫などのペットを育てる時に餌をあげないで育てている人はいないと思いますが、植物を育てるにあたっては食事に相当する肥料についての知識がまったく欠けているのはおかしな現象ではないでしょうか。肥料の与え方は結構難しいことは理解できますが、消費者が「育てる楽しみ」を実感して園芸が大好きになってもらうためには肥料の与え方に関する正確な知識を適切に普及させる必要があると考えます。
鑑賞鉢物生産者の中には「お客さんのところで適当に枯れてもらわなければ消費が伸びない」という方もおられますが、大きな間違いです。「育てる楽しみ」を実感できた人は次々と鑑賞鉢物を購入するヘビーユーザに成長していきますが、育てることに失敗した消費者は「植物なんて二度と買いたくない」と思うようになってしまうでしょう。
NHKの趣味の園芸や趣味の園芸雑誌などで、もっと肥料に関する知識を積極的に提供していただきたいと思いますし、鑑賞鉢物生産者も購入者に対して積極的な管理情報を提供していただきたいと思います。このままでは鑑賞鉢物業界はドンドン縮小しかねません。
3年前からキクの花芽分化に及ぼすLED波長の影響について研究しています。これは、電照栽培に用いられる白熱電球が地球温暖化防止対策から製造販売中止になるのを受けて、キクの切り花生産が大きな打撃を受けることを防ぎたいとの思いから始めたもので。白熱電球に代替できるLED電照装置の開発研究を行っています。今まではバラの関係の生産者や育種会社との交流が多かったのですが、このLED電照装置の開発研究が契機となって、キク生産者や育種会社の方々ともお話をする機会が出てきました。
当然のことですが、私はキクに関してはズブの素人です。輪ギクの新品種選抜圃場での会話です。「この白菊とあの白菊はどこが違うのですか?」「葉の照りが違います。それとこちらの品種では蕾から開き始めの時に花弁が乱れる傾向があるので、余りよい品種とは言えません」。「品種特性として蕾の時の形は重要なのですか?」「当然です。菊は蕾で出荷されるので、蕾の形は重要です」。「花き市場や需用者が新品種を認識するためには何が重要ですか?」「生産出荷量です。私達がいくら良い品種だと思っても、一定以上の生産量が確保されて流通されなければ品種名は認識されることはありません。」
ムムッ・・!誰のために新品種の育種が行われているのでしょうか。何か大きな違和感を感じたのですが、実はバラの育種業界でも同じようなことが行われていることに気付きました。素人にとって区別性が判らない白菊の新品種。どこが違うのか判らない赤いバラの新品種。生産している農家にしか判別できない専門的な特徴のある新品種。そんなに重要とは思わない形質にこだわる育種家。
育種会社にとって顧客は切り花生産者です。そして切り花生産者にとっての顧客は市場あるいは直接取引会社です。したがって、生産者にとって良い品種とは、花き市場や直接取引会社が良いと評価する品種であるために、育種会社もその価値概念で育種を行うことになっているようです。しかし、本当にそれで良いのでしょうか。
キクは花きの中で最も生産量の多い切り花品目ですが、輪ギクはその用途は葬儀に限られており、将来の需要の減少が危惧されています。新たな消費拡大が必要となっているのではないかと思います(以前のコラム)。
先日、LED電照装置の共同研究者である(株)精興園を訪問し、まさにピッタリの品種を見つけました。「ネオ輪菊」です。一般家庭での観賞用に開発された輪ギクで、蕾での出荷ではなく開花しはじめた状態で出荷し、開花した菊の花を鑑賞することを前提に開発した菊です。しかし、従来の輪ギク市場しか見えていない生産者からは必ずしも評価が高くないとのことでした。精興園は世界屈指のキクの育種会社で、その育種力は国際的にも定評があります。必ずや新しいキクの消費を作り出していただけると思いますが、キク生産者が現状のマーケットしか見ていないと折角の新品種も「豚に真珠」でしょうか?輪ギク業界は、今の目の前のことしか考えられない生産業界なのでしょうか?
ただネオ輪菊を見ていて感じたことです。精興園はこれまでの輪ギク業界をリードしてきた専門の育種会社です。その「キクの専門家」の感性に偏り過ぎているよう気もしました。もっと大胆な菊の新しいマーケットの創出を期待しています。キーワードは、バラ業界では一般的となっている「バラらしくないバラ」。「輪ギクらしくない菊」でしょう。
卸売市場は生産者から商品の販売を委託されて販売を行っています。「販売を委託された者」は商品の品質や価値を正当に評価して価格を付け、できれば1円でも高く販売することが仕事だと思います。しかし、最近の不景気の影響を受けて市場取扱金額が毎年数%減少しており、花き市場では高単価による取扱金額の増加ではなく、低単価であっても取扱量を増加させることで取扱金額を増やすことが重要な課題となっています。
先日開催された花き生産者の総会の懇親会で、大手花き市場の関係者が述べられた言葉です。「もう少し花の値段を安く販売したい。低価格の花が出てこればもう少し消費が伸びるはずで、市場の売上金額も増えるはずです。生産者の皆さんに是非ご協力とご理解をいただきたい。」
現在、切り花も鉢花もこれ以上価格が低下すると経営が成り立たないところまで来ています。これ以上花の値段を安くした場合に、まさに再生産価格を下回って日本から花生産者がいなくなってしまうことも予想されています。このような生産現場の現状を認識しているにもかかわらず、「もう少し花の値段を安く販売したい」という発言には驚きました。
花き市場の取扱金額に占める量販店の割合は年々増加しており、取扱額の50%を超える市場も多数見られます。市場としては、零細な生花店や園芸店の声よりも、大口取引を安定して継続してくれる大手量販店の声の方が重要性を増してきているのでしょう。しかし、大手量販店の言葉を鵜呑みにして、「低価格戦略こそが消費拡大の牽引役である」という論理を生産者に押しつけることが市場の役割といえるのでしょうか。安く手に入れられる輸入切り花だけでは品揃えに問題が出てくるので、同じような価格で国内の切り花を市場から大量に安定して仕入れたいという量販店の思惑に、まさに花き市場が翻弄されているのではないでしょうか。
現在でも市場流通量の20%程度を占めていると思われる輸入の切り花の取り扱い割合をもっと増やせば、「低価格の切り花の販売」は可能であると思います。しかし、アメリカのように国内の花生産業が崩壊して輸入切り花が主体となれば、花き市場は不要になります。輸入業者が切り花の流通を担うために委託販売という制度が不要となり、花き市場の存在価値がなくなります。
今、花き市場がするべき仕事は、国内の花き生産者が将来にわたって生産を継続し、発展させるための指針を提示することであり、量販店の論理を代弁して生産者に押しつけることではないと私は思います。
確かに、市場法改正への本格対応がこの数年急速に進み始め、従来の花き市場の役割が大きく変化し始めていることは良く理解しています。しかし、現実の市場販売実績だけに目を奪われ、量販店が流通を支配していると思いこんで量販店の論理を生産者に押しつけることが将来の花き市場の発展に繋がるとは思えません。花き市場は花生産業と共に発展する業界であると思います。
ただし、そのような花き市場ばかりではありません。静岡県のS市場では「最近の生花店は低価格の輸入切り花に馴染みすぎて、国産の切り花の魅力を理解できなくなってきている。国産の切り花の魅力を生花店に是非伝えたい」といっておられました。私は、このような花き市場と協調して仕事をしたいと考えています。
朝日新聞(6/23)に食品スーパーに翻弄される豆腐屋さんの記事が掲載されていました。
食品スーパーでは消費の低迷を前面に出して「価格破壊こそが消費拡大の原動力である」という論理の基に激安チラシ広告を展開しています。豆腐は食品スーパーの安売りの定番商品です。1丁10円なんて、とても利益が上がるとは思えない価格ですが、豆腐屋さんとしては大口注文の魅力に負けて、対応せざるを得ない状況に陥っています。
豆腐の原料の大豆は輸入がほとんどで、国際相場の影響を受けやすい農産物です。豆腐屋さんは原料の大豆の年間必要量を確保する必要がありますが、商品としての豆腐販売量が確定しないと経営が成り立ちません。豆腐は生鮮品です。保存が利かないので、見込み販売で豆腐を生産すると大きな損失を招いてしまいます。食品スーパーから大口の定期的な注文が入った場合には、利益が小さくても確実な販売が確保できるのであれば、ついつい乗ってしまいます。当然のことながら薄利多売が原則ですから、経営上の利益を確保するためには大量に生産する必要があり、大量の生産量を確保するために生産ラインを増設して生産規模拡大につとめます。
食品スーパーからの大口注文が未来永劫続くのであれば、経営として何も問題はありませんが、食品スーパーからの注文が減少すると大問題となります。大量の生産能力を発揮するためには、どうしても大量の販売先を確保する必要があり、交渉は買い手市場となって低価格を強いられることになります。
新聞記事では「食品スーパーとの取引割合が30%を超えてはいけない」と書かれていました。取引割合が30%を超えた時、私が食品スーパーの仕入れ担当者であれば必ず優位に交渉し始めます。「さらに10%価格を下げられないのだったら取引をやめる」といえば、必ず乗ってこざるを得ないからです。
さて、同じような話を量販店と取引している鉢物生産者からも良く聞きます。量販店の商取引論理は豆腐も鉢花物も同じです。「買い取り価格は安いけれども、こんな時代に大量に買ってくれる量販店はありがたい」。「量販店との信頼関係は充分に作ってあるので、取引が急に停止されることなんかあるはずがない」。「こちらが量販店のために生産施設を整備して対応していることは向こうも良く知っているので、そんな無責任なことをするはずがない」。
新聞に書かれていた豆腐屋さんの言葉です。「朝早くから人一倍働いても、人間らしい暮らしができない」。「スーパーにはこちらの意見が通らない。奴隷になるのはいやだから」。「規模を拡大し続けるか、質の良さで勝負するのか。二つに一つしかない」
食品スーパーで売られている安売り豆腐だけが豆腐ではありません。品質で勝負するブランド豆腐もあれば、料理屋さんがこだわって使用する特別な豆腐もあります。「たかが豆腐(花)」といわれる大量生産で薄利多売の「安売り豆腐(花)」を生産する道を選択しますか?それとも「されど豆腐(花)」といわれる「高品質の特別な豆腐(花)」を生産する道を選択しますか?
先週、岐阜大学応用生物科学部卒業生の会「各務同窓会」の石川県支部総会に出席し、帰りに輪島塗の箸をおみやげにいただきました。7/18に「職人の技とは何か?」というコラムを書いた直後でしたので、ヒョッとしてコラムを読んでいただいたのかとも思いましたが、私のコラムの読者はそれほど多くありませんので、偶然だったのかと思います。
高級品です。家内が「折角いただいたのだから使いましょう」というので翌日から使い始めました。素晴らしく手触りがよいのです。軽さ、バランスのいずれも最高の使い良さです。特に、手に吸い付くような漆塗りの感触は使っていて気持ちが良くなりました。さすが伝統の技というものが今日まで営々と続いている理由を実感いたしました。
さて、私のように偶然に伝統の技を実感した人は、それ以降その価値を認めるファンになることができます。しかし、なかなか最初に手にするきっかけがなくて、その良さを実感できないのが現実です。実際に私も総会の前に金沢駅の名店街で輪島塗のお椀や箸を「眺め」ましたが、値段とお手入れの注意書きを読んで「これはチョット・・・」と買うのを躊躇してしまいました。
このような状況は花業界でも同じではないでしょうか。植物を育てると心が豊かになります。花をテーブルに飾ると気持ちが和らぎます。しかし、「植物を育てるなんて難しそう」、「わざわざ花屋さんに行って花を買うのは面倒くさい」と、最初の手掛かりがつかめないまま、花の魅力を理解されない状況が続き、消費が低迷しているのではないでしょうか。一度バラの魅力を感じると、ついついのめり込んで「バラマニア」まで突っ走ってしまうのに、もったいないことです。
私が輪島塗の箸をお土産でいただいてしまったように、飲食店の開店祝いや周年記念の手土産として花を使ってもらったり、銀行で優良顧客に配ってもらったり、あるいは自動車のTOYOTA New Mark X「サムライ」の契約者に赤いバラ100本の花束を贈ってもらったり(2010/02/01)など、できるだけ花業界とは異なる業界で花を使ってもらうことも方策です。あるいは住宅展示場やマンションのモデルルームで花や観葉植物を一緒に展示してもらうことも良いと思います(2001/02/15)。また、花業界が一致団結して日本花き協会を立ち上げて、花の消費宣伝などの消費促進事業を積極的に展開することも方法かもしれません(2007/02/08)。
とにかく、一度花に触れて楽しんでいただく機会を増やすことから消費拡大は始まるのではないでしょうか。
★★量販店に挑んだ電器店・でんかのヤマグチ (2010/07/23)
テレビ東京「ルビコンの決断」で6月17日に「家電戦争!驚きの高値売り−仰天サービスで量販店に挑んだ電器店」が放映されていました。「でんかのヤマグチ」は創業45年の東京・町田にある地元密着型の電器店です。町の電気屋さんが次々と廃業に追い込まれる中、独自の営業戦略で大型電気店に対抗している有名店です。
私の住んでいる岐阜でも「町の電気屋さん」は大型量販店との安売り競争で次々と廃業に追いやられ、絶滅危惧種といっても良い状況です。この情景は電気屋さんに留まらず、八百屋さん、魚屋さんといった町に根ざした個別店が大型スーパーとの競争に敗れて廃業していったことと同じ現象です。園芸業界でも同じような波が押し寄せ始めており、スーパーのパック花束販売展開によって生花店が大きく売り上げを減少させており、ホームセンターの花壇苗や鉢花物販売で園芸店が苦境に立たされています。「でんかのヤマグチ」の独自の営業戦略は園芸業界に活用できないのでしょうか?
でんかのヤマグチのポリシーは、お客様の様々なお困り事やニーズにスピーディかつ丁寧にお応えし、心で結びつく“商い”でお客様に「満足と感動」をご提供することです。モットー[1]「お客様に呼ばれたらすぐにトンデ行くこと」。モットー[2]「お客様のかゆいところに手が届くサービス」。モットー[3]「お客様に喜んでいただくこと」、「お客様に遊びに来てもらう」、「ワクワクしてもらう」。モットー[4]「お客様によい商品で満足していただくこと」。そして、ヤマグチが目指す究極のサービスは『かゆくなる前に手が届くサービス』です。営業スタッフのお客様宅への巡回訪問で、エアコンの空気清浄フィルターや浄水器カートリッジの取替え時期が近づいた時、前もってお知らせし、交換訪問に出かけることに取り組んでいます。
でんかのヤマグチの粗利は37.8%です。家電量販店の粗利は5〜15%に比べてかなり高く設定されています。当然のことですが、店頭価格は家電量販店とは比較にならない高額になりますが、お客さんは「心の満足」に対してお金を支払って家電製品を購入しています。この「心の満足」を満たすための逸話として、購入した商品に欠陥があった場合、「お客様の期待を裏切ったのは事実。壊れた製品を修理する前に、まずはお客様の『心の修理』が不可欠だ」と社長が語っています。まさに「顧客管理」ではなく「個客管理」に徹することで大手量販店に対抗しています。
そういえば、私が子供の頃の魚屋さんは父親の給料日を知っていました。母と一緒に買い物に行って魚屋さんの店先を通ると、「奥さん。今日は旦那の給料日だろ!刺身のいいところが入ってるよ。熱燗で一緒にどうだい!」と言っていたことを思い出しました。6月26-27日に開催された花葉会セミナーで、札幌のフローレン花佳の薄木健友氏が「お得会員制度を導入し、住所や家族構成、誕生日、購入前歴などを把握したことで、お客様の名前を呼んで対応し、『この前購入いただいたお花はどうでしたか?』とお声掛けでき、住所が把握できたことで坂道を上ってこられたお客様には『今日は道が悪いのにご来店いただきありがとうございます』とお話しするきっかけができました」と言っておられました。まさに「個客管理」です。
生花店や園芸店の皆さんも何かできませんか?MPSジャパン花き産業の流通コストに関する調査によると、スーパーやホームセンターと比較して花き専門店の販売経費、管理経費、人件費は5〜7倍です。しかし、スーパーでは人件費削減のために会計(レジ)はすべての食品と同じに行うために、花だけの個客管理は不可能です。高い人件費をかけているからこそできる個客管理、「心の満足と感動」が提供できるのではないかと考えます。量販店にはできない「心の満足と感動」を提供できることこそが生花店、園芸店の最大のメリットでしょうし、彼らに情報を提供することこそが生産者の義務ではないでしょうか。
日本の花き生産者の皆さんは、「低価格戦略で大量販売を目指す」販売店をパートナーとして選びますか?それとも「心の満足を提供することを目指す」販売店をパートナーとして選択しますか?今、その選択を迫られているのではないでしょうか。
日本には伝統工芸といわれる匠の技術が残っています。鎌倉彫の茶托、輪島塗の漆器、若狭塗の箸など、いずれも日本の伝統技術として残さなければいけない物ばかりです。これらの匠の技術を歴史的にみると、いずれも藩主や寺社、公家などがスポンサーとなって保護し、発展させた技術です。しかし、現代日本では生活様式の変化と共にこれらの技術を保護するスポンサーがいなくなり、一般商品と競争せざるを得ない状況となって伝統技術の維持すら難しい状況となっています。洋風化された一般生活のなかで茶托を使う機会はほとんどなくなりました。食器洗い機が普及し始めたことで、普段使いし易い漆器もどきのプラスチックのお椀や箸などに置き換わってきました。このまま日本の伝統工芸文化は廃れてしまうのでしょうか。
職人といわれる方たちは伝統工芸に限りません。バラ生産者の中にもいます。職人の技術を駆使して素晴らしいバラを生産している方達で、品評会でも大臣賞や知事賞などを受賞されています。品評会では真っ直ぐでがっしりと直立した大輪のバラが評価され、柔らかく曲がったバラは評価されません。同様な評価は花き市場でも行われています。しかし、バラを愛する消費者は品評会で金賞を受賞するバラを望んでいるのでしょうか。
近年の伝統工芸は次第に時代に適応し始めており、輪島塗のペンダントや髪飾り、輪島塗のパソコンマウスや携帯ストラップ、鎌倉彫のブレスレットの製作などもチャレンジし始めています。
バラ職人も時代のニーズに適応した変化が必要な時期に来ているのではないでしょうか。職人の技術を「まっすぐでがっしりと直立した大輪のバラ」の生産ではなく、しなやかに咲ききる香りのオールドローズの生産に活かしませんか?香りのバラは日保ち性に難がありますが、樹勢の良いバラから収穫された切り花は香りと日保ち性を併せ持っています。樹勢を維持しながらたくさんの切り花を生産する技術は職人の技を持ってしか成り立ち得ません。
鎌倉彫は茶托やお盆、輪島塗はお椀や重箱、若狭塗は箸とこだわることで時代のニーズと乖離して消費が低迷し、後継者がいなくなり、技術の伝承自体が難しくなってしまいます。それよりも、時代に適応しながら技術の向上を図り、技術の伝承を行うことが重要ではないでしょうか。匠の技を持つバラ生産者も「最近の若い者は作ることより売ることに熱中しすぎている」と愚痴をこぼさず、職人の技を伝え、時代に即したバラ作りを目指していく必要があります。
最近、切り花の鮮度が重視されています。しかし、「鮮度」という単純な発想で、生花販売店や花き市場では「朝穫り(朝摘み)のバラ」の販売企画があちらこちらで聞かれるようになってきました。「朝穫り(朝摘み)のバラ」。『朝まで温室で咲いていたバラが収穫されてそのまま店頭に並んでいる。花びらに朝露が付いているのではないか』と錯覚を覚えるほど耳障りが良く、魅力的です。
さて、「朝穫り(朝摘み)のバラ」は切り花を楽しむ消費者にとって本当に魅力的なのでしょうか。
バラは葉からの蒸散力が強く、茎の中の維管束(樹液が流れる道管)は常に負圧状態となっていて、根から吸収された樹液が常時切り花の茎を流れています。従って、切り花として収穫すると切口から必ず空気が入り込み、道管の中の水が切れた状態となります。
一般に、バラは収穫直後に水の入った容器に入れて道管の中の水切れを防ぐと共に、深水を行って充分な水揚げを行ってから出荷しています。この水揚げが充分ではないと、消費者の手に渡ってから水揚げが悪くなってベントネック(バラの花首が曲がってしまう現象)が起きやすくなります。
「朝穫り(朝摘み)のバラ」は一見新鮮に感じます。しかし、切り花を収穫してすぐに水の入った容器に入れられていないと水切れが生じやすくなりますし、さらに充分な水揚げ処理がされていないとベントネックが必ず発生します。「朝穫り(朝摘み)のバラ」のイメージにとらわれ過ぎると、消費者から「新鮮なはずなのに花保ちが悪いわ!やっぱりバラは・・・」と思われかねません。生産者の切り花管理と、販売店での「しっかりした水揚げの徹底」、「消費者への十分な説明」が必要です。単なるイメージ戦略での「朝穫り(朝摘み)のバラ」ではなく、『鮮度の高い、充分な水揚げ処理済みの産地直送のバラ』の方がより適切な販売キャンペーンではないでしょうか。単純な素人的な発想での「朝穫り(朝摘み)のバラ」キャンペーンはバラの消費減退を助長することになりかねないので、十分に配慮をお願いいたします。
杉山フルーツ店(静岡県富士市吉原)の生フルーツゼリーが大人気と2010/6/11のワールドビジネスサテライト(WBS:テレビ東京)で紹介されていました。
杉山フルーツでは高品質のフルーツと海藻からつくられたゼラチンを使用した生フルーツゼリーを季節ごとに10種類販売しています。価格は300円〜1000円と高額ですが、一つ一つ手作業でフルーツを立体的に散りばめたゼリーは女性客に人気で、行列ができるほどです。平日で約500個、休日で約700〜800個が販売されており、その相乗効果で高級メロンなどギフト用フルーツの売り上げも伸びたといいます。たかがゼリー、されどゼリーです。
大手メーカーが作るフルーツゼリーは、缶詰入りの桃や梨、さくらんぼなど加工用フルーツを使っていますが、杉山フルーツ店の生フルーツゼリーはあえて季節ごとの旬のフルーツを使い、防腐剤を使っていません。賞味期限は3日間と短く、買ったらすぐに食べなければいけません。「フルーツゼリーごときに1000円を支払うのは勇気がいる」と思うのは消費者心理が判らない無粋なでくの坊でしょう(私のこと?)。自分で食べるのではなく、「買って人に見せたい」という消費者の気持ちを生フルーツゼリーが提供しているのです。3日間の賞味期限が消費者の気持ちを高ぶらせているのだと思います。
切り花は日持ちが重要といわれていますが、すべての花が日持ちを要求されているのでしょうか?
確かに生フルーツゼリーの需要は、たかが1日500個です。大手メーカーのフルーツゼリーの販売量に比べれば1/1000かもしれません。同様に、香りのあるオールドローズの需要は高芯剣弁の普通のバラの1/1000でしょう。
香りのあるバラは日持ち期間が短いから、消費者のニーズに合わないので生産するのをやめようと考えている生産者は考え方が間違っています。差別化できる特性を持った香りのバラだからこそ、日持ち期間が短くても需要があることを理解しましょう。輸入のバラはまさに大手メーカーの賞味期限の長い低価格のフルーツゼリーです。日本のバラ生産者のなかで、大手メーカである輸入のバラと対抗できる生産者や産地は、日持ち保証を大切にしましょう。しかし、大手メーカーの輸入のバラと対抗できない小面積の生産者は、杉山フルーツ店の生フルーツゼリーやデパート地下売り場の特別なフルーツゼリーを目指す必要があるのではありませんか?
自分のバラ生産規模と出荷状況を考えて、自分が何を目指さなければいけないのかを考える必要があります。一律な規格保証の流れに乗ることだけが、これからの日本のバラ生産の発展の方向性であるとは思いません。
コロンビアやエクアドルに対抗し続けているアメリカのパジャ・ローザをもう一度見直してみてください。
★エチオピアの通貨ブル(Birr)の不思議 (2010/06/30)
2008年11月にバラ生産調査のためにエチオピアを訪問しました。ドバイからエチオピア・ボレ国際空港に到着して、入国手続きを終えたところに銀行カウンターがありました。7日間の滞在でしたので、1万円を両替して空港を出ました。しかし物価は安く、ホテルでもクレジットカードが使用できたことから、結局3000円程度しか使用できずに帰国することになりました。
空港で出国手続きをしたのですが、出国カウンターの周辺には銀行の窓口がありません。入国の時には銀行があったのに変だなぁと思いながらも、「まぁドバイで両替すればいいか」とも思いドバイに到着しました。ドバイ空港の銀行カウンターでエチオピアのお金を両替してもらおうとしたところ、係員が「このお金は両替できません」というではありませんか。思わず「エミレーツ航空の飛行機に乗って来たのになぜ両替できないのか?ここはエミレーツ航空のハブ空港ではないのか。」と食い下がったところ、「エミレーツ航空は世界中の国に飛んでいます。しかし、私たちは全ての国の通貨を網羅しているわけではありません。」とのたまいました。私の英語力に自信があるわけではないので、日本で両替するしかないなぁと諦めました。中部国際空港に到着し、意気揚々と銀行カウンターに行って両替を申し込んだところ、「こんなお金は見たことがありません。どこのお金ですか?」と聞かれてしまいました。結局、現在も7000円相当のエチオピア通貨ブル(Birr)は私の手元に残ったままです。
さて、このことは何を意味しているのでしょうか。エチオピア通貨(Birr)は国際通貨ではないということです。日本人は、どこのお金でも為替レートが公表されている限り双方で両替可能だと思いこんでいますが、それは実は一部の通貨についてのみ成り立つということです。
エチオピア政府は、バラ生産会社に対して補助金を出し、資材購入や法人税などの免除を行ってバラ生産を奨励しています。このときのお金はエチオピア通貨(Birr)です。補助金を受け取ったバラ生産会社はバラを生産してヨーロッパなどに輸出し、国際通貨ユーロを手に入れることになります。すなわち、国際通貨として評価されていないエチオピア通貨(Birr)が「バラ」を経由することで国際通貨ユーロに変換されるわけです。
エチオピアでのバラ生産は近年急速に成長し続けており、その経済効果として多くの雇用を生み出しているといわれていますが、実はそれ以上の効果として「バラを経由した国際通貨の獲得」をあげることが出来るのです。
エチオピアのバラ生産会社からエチオピア・ボレ国際空港までの道路は驚くほどきれいに舗装され整備されています。その道路工事はエチオピア労働者によるもので、エチオピア通貨(Birr)が労働者に支払われます。国際通貨ではないエチオピア通貨(Birr)によって道路整備が行われ、その国内のインフラ整備が国際通貨ユーロの獲得に繋がる。まさに効率的な金融マジックがエチオピアのバラ産業の原点にあることを理解する必要があります。
このように考えると、国内のバラ生産者が何も戦略を持たずに輸入のバラに立ち向かうことが、いかに無謀なことであるかが理解できると思います。日本では国がバラ産業を支えてくれることはありません。全てが自己責任です。これに対して相手は単なるエチオピアの生産会社ではなく、エチオピア政府であることをよく理解しましょう。
★花の価格が安くなれば消費は伸びる? (2010/06/17)
日本フローラルマーケット協会(JFMA)の国際セミナーに参加しました。フランスのアクアレル・ドットコム社(AQUARELLE.com)のCEOアンリ・デュ・モーブラン氏(Henri de Maublanc)の講演で、切り花の価格が安くなれば消費が伸びる。これはイギリスやアメリカのスーパーで低価格の切り花販売が始まったことで消費が急速の伸びたことでも実証されており、フランスでも同じような現象が起きた。という話がありました。そして、「太田花きを視察したが、日本の切り花価格は高すぎる!これでは日本の切り花消費は伸びない!」という警鐘もいただきました。果たして本当に低価格の切り花販売が日本の花き産業を救えるのでしょうか?
講演の中では、アクアレル・ドットコム社では低価格でブーケを販売して消費者の需要を喚起し、市場規模を10倍以上に伸ばしたとありましたが、その切り花のほとんどはケニアやエクアドル、エチオピアなどからの輸入切り花です。同じようにイギリスのスーパーマーケットでの切り花販売はイギリスの切り花需要を5倍に増加させたといわれますが、そのほとんどが同様に低価格のケニア産です。流通販売業界に限れば花き産業は急成長したと思います。しかし、イギリスやフランスの花き生産業界は壊滅的な打撃を受けて崩壊してしまっています。花産業はその国の花文化を担っていますが、その根元の花の生産が海外依存の花産業では「花文化」を担っている産業として自負できるのでしょうか。
会場との質疑応答の中でもありましたが、低価格の切り花販売が声高に唱えられる時には、常に生産者は生産コストの削減を迫られます。「70cmのローテローゼ(赤バラの主力品種)はブーケには適していないので、40cmの切り花を30円で出荷して欲しい」。日本の生産者の技術能力は国際レベルでもトップクラスですので、単純にケニアなどとの価格競争を迫られればそれをクリアできる能力を持っています。しかし、生産者に70cmの切り花を40cmに切り詰めて30円で販売させることにどのような意味があるのでしょうか?
赤バラの主力品種のローテローゼやサムライは長い切り花を生産するために育種された品種です。本当に40cmの切り花が望まれているのであればローテローゼやサムライを生産してはいけません。フロリバンダ系の短径多収品種(A品種)を選択して生産すれば40cmの切り花で30円の販売も可能だと思います。
しかし、ここで問題が生じます。アクアレル・ドットコム社がA品種を年間1本30円で全量買い取ってくれるなら問題はないのですが、スポット的な購入しかしてくれない場合には、残りは花き市場に出荷せざるを得ません。恐らくネームバリューのない無名の40cmの赤バラはセリ(競売)で1本10円でも買う人のいない「ゴミ」として扱われるでしょう。
そうです。この点が問題点なのです。バラは周年生産ですから、ケニアと対抗して40cm・30円を目標に適切な品種を選択して生産体系を整えた場合には充分に対応が可能ですが、1本10円では経営は成り立ちません。
アクアレル・ドットコム社の価格の論理を否定するわけではありません。むしろその通りだとも思います。しかし、生産者のバラを安く買い叩いて、あるいは高人件費で暖房が不可欠な日本国内のバラ生産者に,輸入のバラの低価格の論理を押しつけて発展する量販店の論理には納得がいきません。
アンリ・デュ・モーブラン氏は「この低価格競争の後に、本当の花の価値を求める世界が広がっている」と講演されましたが、必要な時だけに需要を求める単純な国際競争のなかでの低価格戦略に対して、販売側のエゴを垣間みた気がしました。
私は量販店の花き販売能力を否定もしませんし無視もできません。しかし、信頼関係のないところには技術革新はありません。本当の意味での日本の花き産業の発展を考えておられる量販店の皆さん。生産者は充分に信頼に値する技術力を持っています。ただ、信頼関係のないところには、技術力ではなく適当な処置で対応せざるを得ない状況にあることも十分にご理解下さい。
生産効率を第一に考えれば、零細な小規模生産は絶対にあり得ません。小規模生産でしっかりした経営を考えるためにはそれなりの戦略が必要です。
2009年7月に日本花き生産協会デンドロビウム部会研修会で岡山県を訪問し、産地見学に参加しました。視察先としては、2,880坪の大規模生産施設に加えて、220坪で生産しておられる「デンドロビウムさとう」佐藤誠氏の農場(岡山市北区)が視察先として設定されていました。視察資料を最初にみた時には、「220坪の生産施設を視察する意味があるのか?」と思いましたが、同行した方に伺うと、「全国でも有名な生産者で一見の価値があると思います」とのことでした。
実際に220坪の生産施設を拝見して、目から鱗がはがれ落ちる思いをしました。素晴らしい生産者でした。品種は、2品種に絞りこんで、育苗から鉢上げ、仕上げまで職人的な技術を駆使して、まさに芸術的なデンドロビウムの生産が行われていました。デンドロビウムは偽茎と呼ばれるバルブを節ごとに切って挿し木繁殖します。当然、バルブの状態によって、あるいはバルブの節位によって芽が吹く時期が異なってきます。通常は一定の期間を経過した時点で一斉に鉢上げしますが、佐藤氏の施設では、芽が吹いた時点で同じ大きさの苗を集めて3cmポットに鉢上げし、トレーごとに大きさをまとめて管理していました。また、鉢上げした3cmポットには苗の大きさに応じて2mm径の肥料が正確に2粒、4粒というように施肥されていました。
当然のことですが、その後の苗の成長はきれいに揃っており、成長に応じて的確に鉢上げ、仕上げ鉢への移植が行われていました。デンドロビウムの着生葉序は1/2葉序ですが、成育中の苗のはすべてが同じ方向を向いて並べられていました。思わず「几帳面に苗の方向が揃えられていますねぇ」と伺ったところ、「葉の付き方が同じだと、株の周りを空気が良く通って、病気にかかりにくいし、成育も良くなります」という答えが返ってきました。苗の成長が揃っているので開花時期も良く揃い、出荷も計画的に行うことができます。当然、出荷予定日の計算を確実に行うことができます。デンドロビウムの出荷形態は、4株程度を寄せ植えして豪華さを確保しますが、生育状態が良く揃い、寄せ植えした株の開花が揃っていることから、市場での評価は著しく高いものと思われます。坪当たりの生産収益は、恐らく大規模生産会社の3倍以上ではないかと推定できるほどでした。ちなみに佐藤氏の経営目標は「高品質な作品づくりに心がけています」でした。
これに対して、次の視察先であった2,880坪の橋本洋らん園は典型的な大規模生産施設で、良く整備された施設が機能的に配置されており、小鉢や中鉢を中心に大量生産が行われていました。資材の大量購入によって生産コストの低減を図り、ローラーコンベアを使ってパートさんが流れ作業で寄せ植えを行い、最終出荷調整を行っていました。まさに生産効率を追求した大規模生産でした。
デンドロビウムの生産は40鉢/坪程度と推定されるので、生産効率の観点からみると220坪の生産面積では9,000鉢程度の生産量ですので、とても経営が成り立つとは思えませんが、高付加価値商品生産であれば市場価格は数千円を確保することが可能で、充分に経営が成り立ちます。当然、少量多品種生産では需要を満たすことはできないために、限定2品種ということになります。
バラ生産では、800坪の小規模生産者であっても大規模生産者と同じ品種を生産し、同様に少量多品種生産を目指しています。特別な生産方法で高付加価値商品生産が行われているわけではありません。小規模生産者が設定する目標は大規模生産者とはまったく異なるものと思いますが、そのような経営戦略は徹底されていません。これでは経営が成り立つとは思えません。経営規模に応じた的確な経営戦略を作ることから始めなければ、生産効率の波にのまれて、淘汰されてしまいかねません。
★限られた地方の花き市場にしか出荷しない切りバラ生産者 (2010/06/01)
バラ生産者の多くは近くの花市場にしか出荷しません。大きな共選共販産地であっても、出荷する花市場はなぜか首都圏の、あるいは関西圏の大手花市場にしか出荷せず、10以上の市場に出荷している生産地(生産者)は極めてまれです。なぜなのでしょうか?
個人のバラ生産者は、「少量多品種なので、そんなに多くの市場に出荷できる本数がないから」、あるいは「輸送費が高くて、遠い市場に出荷しても割に合わないから」といいます。共選共販の大産地では、「首都圏の大きな花市場に出荷して、取引をしているというプライド」や「市場占有率を高めて営業力を発揮する」といった論理で多数の市場への出荷が避けられています。
個人のバラ生産者が地元の花き市場に出荷すること自体に問題がある訳ではありませんが、そのメリットを活かし切れていないのではないでしょうか。少量多品種生産をしているバラ生産者は地元の花き市場に出荷しているのに、その買参人である生花店と強いつながりを持った生産者はほとんどいません。品種選定にあたって買参人の意見を聞いている生産者は極めてまれです。大規模産地が「市場占有率」を目標にしていますが、海外からの輸入のバラ生産会社は1社で360haの栽培面積を持ち、1品種で20ha(60,000坪)を栽培しています。市場占有率を主張する国内の大産地であっても、輸入のバラの出荷量にはとても太刀打ちできません。
最近、少量多品種生産が進み、オールドローズタイプの「バラらしくないバラ」の生産が始まっていますが、「バラらしくないバラ」を欲しがる顧客数は少ないため、ひどい場合には1列25mだけ植栽し、温室の中に20品種が混在して栽培されていることもあります。きっと栽培管理は繁雑を極めているのではないでしょうか。1市場の需要が毎日1ケースであっても、10市場に出荷することが出来れば毎日10ケースを出荷することが出来ます。そうすれば温室すべてを1品種で管理することが出来ます。生産効率は極めて向上するものと思います。
特定の「バラらしくないバラ」品種を大量に生産して、全国に出荷できれば、「あの品種については福井バラ園に注文すればいつでも手に入る」状況を作り出すことが出来、独占して生産することによって安定した価格で取り引きが行われると思います。
バラ生産者の皆さん、多市場に出荷してみませんか?色々と人間関係もあるかと思いますが、現在の少量多品種の生産は一層の生産効率の低下を招き、マーケティング(販売)戦略の低下を招くことに繋がるのではないでしょうか。
★花き業界の皆さんへ。サントリーサポーターズへのお誘い (2010/05/24)
皆さんご存じのように私は飲んべえですので、毎日欠かさずお酒をたしなんで(?)います。これまでビールを飲む時には、銘柄はキリンかサントリーと決めてきました。その理由は「どうせビールを飲むならば、花き業界に貢献してくれている会社のビールを飲もう」と考えたからです。その結果として、「スーパードライ」を飲む機会を逸していたことにはなりますが・・・。
残念ながらキリンは2010年4月から花事業から完全撤退をしてしまいました。キリンアグリバイオは、花き育種会社として、そして花き種苗会社として大きな影響力があり、日本の花き産業の発展に大きく貢献してくれていたので残念でした。育種は花き業界の発展に極めて重要な役割を果たしており、特に国際化の中で日本の花き産業が成長し続けるためには不可欠な分野です。キリンアグリバイオは業績としては黒字であったと思いますが、親会社の方針には逆らえない事情での撤退です。そして、酒類飲料会社ではとうとうサントリーだけになってしまいました。
サントリーは、1989年にサフィニアを販売し始めて、まさにガーデニングブームを巻き起こしました。その後、花手鞠、タピアン、ミリオンベルを育種してガーデニングの楽しさを広げました。1997年には青いカーネーション「ムーンダスト」を育種し、2004年には「青いバラ」を開発して昨年には「アプローズ(APPLAUSE)」の販売を開始しています。まさにサントリーの花事業は花業界と共に成長してきたともいえます。
企業の方針はどの様に立てられるのかは判りませんが、少なくとも本業が揺らがない限り大丈夫なのではないかと考えます。
花業界に従事される皆さん。育種事業は日本の花業界が今後の国際化の中で大きく発展していくためには是が非でも保持し続けなければいけない分野です。サントリーが花事業から撤退しないためにも「サントリーサポーターズ」を勝手に結成しませんか?行動規範は単純です。「ビールを飲む時にはサントリー。お茶を飲む時には伊右衛門」を選択することだけです。直接的な恩恵は必ずしもないかもしれませんが、花業界に従事している限り、なにがしかの見返りはあるのではないでしょうか。一緒にサントリーを応援しましょう!
一昨年12月上旬に中部国際空港から広州を経由して岐阜大学との協定大学である広西大学を訪問しました。広州はアメリカへの輸出企業が多く、訪問前のテレビでは世界金融危機の影響を受けて工場の閉鎖が相次ぎ、多くの失業者が発生して経済状態が悪化していると報道されていました。広西大学のある広西壮族自治区は広東省に隣接しており、広州への出稼ぎ労働者の供給地域といわれており、世界金融危機の影響を直接的に受けているのではないかと推察しながらの訪問となりました。ところが、乗り継ぎ便の調整で8時間ほど広州市内を視察し、広州東方賓館で夕食を楽しみましたが、世界金融危機の影響は全く感じることはできませんでした。広州市のホテルのレストランは5時過ぎから行列ができるほど繁盛しており、広西大学のある広西壮族自治区の南寧でも観光地は人であふれ、スーパーマーケットは人混みで一杯で、日本でのテレビ報道と大きな違和感を感じました。
日本では、この1年、新聞を読めば必ずと言っていいほど企業の経営悪化や内定取り消し、雇用契約停止の記事がどこかに掲載されており、実際の給与が下がっていなくても不安に思う気持ちが先行しがちな状況です。まさに景気の「気(気持ち)」が下がっている状況です。思い起こすと中国広州市での工場閉鎖のテレビ報道は、一部の企業の状況に限った内容であるにも関わらず、広州市のすべての企業が同じ状況のような錯覚を感じていたことに気がつきました。
今回の広西大学訪問では岐阜大学と高速インターネット回線を通じてハイビジョン画像を用いた講義の実施や大学院入学試験の面接を試行するための回線調査が目的でした。巷の噂では、中国では海外とのインターネット接続で回線制御が行われているのではないかと言われていましたので、本当にそのようなことができるのか少々不安がありました。案の定、大学の情報センターに伺って作業を始めたのですが、なかなか一筋縄ではいかず、午前11時から午後6時過ぎまで苦戦を強いられました。色々と回線を繋ぎながら試行錯誤をして判ったことですが、広西大学には学外との交信に5回線があり、その5回線は一つずつ複雑な接続許可が与えられていたようです。最終的に判ったことですが、IPアドレスによって海外接続状況が異なっているようで、必ずしもすべての回線が自由に海外接続できる訳ではないということでした。
国家の情報管理の問題は色々な人権問題などの関係を含むことは承知の上です。この点で中国では予想していたように一定の情報制限が行われていたことになります。では、日本は本当に自由に情報が提供されているのでしょうか。報道の自由の名の下に行われている報道内容が公正な内容となっているのでしょうか。中国広州での工場の閉鎖と多くの失業者の発生など、一般受けし易い情報だけが過剰に選ばれて報道され、世論が恣意的に形成されていく可能性を感じました。中国の情報管理の姿勢が本当に悪いのかは兎も角として、日本人は世界金融危機を実際の所得変化ではなく報道に伴った景気の低迷として感じ取り、中国では実感のない世界金融危機に左右されることなく堅実な国内消費が中国の景気を支えています。どちらが良いのかはここでは結論付けられませんが、景気の「気(気持ち)」を実感させられた中国訪問でした。
花の販売が景気の低迷の影響を受けて減少していますが、花業界の皆さん。景気は「気(気持ち)」が引き起こすものであって、気持ちを高揚させる情報宣伝が実は最も有効な花き産業振興策なのではないでしょうか?
生花市場ではセリ(競売)が行われて切り花や鉢物の価格が決まります。需要が供給を上回っている時には、買いたい人(買参人)が次々と手を挙げて花を競り落としていきます。威勢の良い市場の雰囲気を作り出すセリ(競売)は市場の花形です、というのは一昔前の状況です。時代の変化によって、生花市場ではネット取引、予約相対、注文取り引きの割合が増加し、セリ(競売)での取扱量は大きく減少しています。
一昔前の生花店や園芸店はどんな花であっても仕入れた花は次から次へと売れていきましたが、今はそのようなことはありません。お客さんが欲しがるものを仕入れないと売れ残ってしまいます。また、欲しがる花を店頭に並べていないとお客さんは逃げていってしまいます。今や買参人である生花店や園芸店にとって、セリ(競売)は魅力ある場所ではなくなってきたということでしょう。
すなわち、前もって必ず買いたい花がある買参人(生花店や園芸店)はセリ(競売)ではなく、予約相対やネット取引で購入しようと考えます。数量・品種・品質が決まっている場合には、生花市場に予め注文して確実に入手できる方法を選択しようと考えます。何故ならセリ(競売)に出てこなければ欲しい花は買えませんし、他の人に先に買われてしまうと困ってしまうからです。このような状況では、当然セリ(競売)以外の取引の割合がどんどん上昇しており、花き市場によっては70%以上がセリ(競売)以外のネット取引や予約相対、注文取引で占められているのが現状です。当然のことですが、需要のあるものの価格は高くなり、セリ(競売)より予約相対や注文価格は高く推移します。第53回日本花き生産者大会で米村花きコンサルタント事務所の米村浩次さんが競売価格と予約相対価格を比較しておられましたが、予約相対の平均価格はセリ(競売)価格の1.5倍とのことでした。高くても必ず買いたいものは手に入れなければ!という当然の論理といえましょう。買参人によってはセリ(競売)で購入する割合が10%以下の場合もみられます。
今やセリ(競売)は価格形成機能を果たしている場所ではなく、「余り物の処分場」と化してしまっています。
一方生産者と話しをしていると、いまだにセリ(競売)に頼っている生産者の多いことに気が付きます。何故なのでしょうか?セリ(競売)に集まっている買参人は、計画的に購入を考えている人達ではなく、無計画な衝動買いの人達ではないのですか?あるいは品質が悪い「余り物」であっても、安く買い叩いて客寄せバーゲンで販売できるならそれでもいいと考えている人達ではないですか?こういう人達を対象に行われるセリ(競売)にいくら良いものを出荷しても「猫に小判」状態で、当然高い値段が付かないのは当たり前でしょう。
「欲しい人に」、「欲しいものを」、「欲しい時に」提供してこそ正当な評価が得られるのであって、現状のセリ(競売)にその評価をゆだねるのは間違っています。花の生産者の皆さん!自分が生産した商品を欲しがっている人達を見つけましょう!良いものであれば正当に価格が付けられる機能はセリ(競売)には存在していないのではありませんか?
町の生花店のご主人とお離しをすると「花が売れない!いつ廃業してもおかしくない状況で後継者なんていない!」とぼやきを聞くことが多くあります。生花店の花が売れなければ切り花生産者が生活できる訳ないですよね。
生花店が儲からない理由の一つに「ロス率」があります。市場で切り花を仕入れても売れ残ればゴミになってしまい、仕入れ代金が負債となってしまいます。切り花は生鮮品です。在庫ができないため、売れ残りができると経営を圧迫します。ところが売れる花しか置いてないと店頭が寂しくなってお客さんが寄りつかなくなります。お客さんに魅力的に思ってもらうためには、ある程度の品揃えが必要になります。ところが、品揃えをすればするほど売れ残りも増えてきてしまう・・・。ジレンマに陥ってしまいます。
コンビニはPOSシステムの徹底管理によって品揃えと在庫・欠品の解消を両立している業界といえます。各地のコンビニに行くと、店によって置いてある品物が結構違っていることに気がつきます。ビジネス街にあるコンビニと駅前のコンビニ、大学周辺のコンビニ、一見並んでいる商品は同じように見えますが、客層と需要を把握して品揃えに特色を持たせ、お客さんを呼び込んで経営しているように感じます。
在庫ができない切り花を扱っている生花店であればこそ、まず現在の顧客層を把握し、お客さんが魅力を感じる品揃えを充実させることが大切でしょう。店の特色を宣伝して、口コミで顧客数を拡大し、売れ筋の切り花を徐々に増やしていくことが重要です。まずはターゲットを絞って魅力ある店作りに努め、リピーターを徐々に増やし、口コミによるお客さんの増加を図りましょう。徐々に品揃えを豊富にしながら新たな客を呼び込み、集まる仕組み作りが必要だと思います。
最初はロスリスクの少ない安い花を豊富に揃えることでも構わないと思います。お客さんは数百円の花束を何度も買ううちに、少々高いけれどもチョット変わった花に惹かれ始めるでしょう。こうなれば次々と珍しい花を提案し続けることで、お客さんは間違いなくリピータとなります。リピーターは必ず口コミで新しいお客を連れてきてくれます。次第にお店の顧客層が少しずつ変化し始めると思います。ここからは正の歯車が回り始めるのではないでしょうか。
山形県は愛知県、静岡県、福岡県に次ぐ全国第4位のバラ生産県で、バラの生産地の中で全国一元気の良い伸び盛りの産地です。
山形県のイメージは「雪が多く冬季は低日射」で、バラを生産する場合には多大な暖房経費を要するため、バラを生産する適地とはいえないと言われてきました。しかし、10年ほど前に寒河江市の沖津嘉宏(オキツローズナーセリー)さんとお話しした内容は大変興味深い内容でした。
私が沖津さんに「山形県は日本海気候で雪が多く、日射量も少なく、暖房経費がかかってバラ作りは大変でしょう」と言ったところ、「福井先生。山形ほどバラに適した地域はないよ!岐阜や愛知では夏が暑くてバラは生産できず、冬は暖房経費をかけなければバラの生産が出来ません。これに対して山形県の生産の主力は夏切りです。夏は暖房経費はいらないし、生産コストをほとんどかけなくてもバラが切れます。冬は暖房コストが回収できる程度の収穫が出来れば良いので、問題ありません。冬に暖房すれば、春から秋までの生産量はとんでもなく多くなり、バラ生産の最適地と言っていいでしょう!」といわれて、「なるほど」と納得しました。
以前にエアリッチ・アーチング栽培研究会の初代会長横田禎二氏との話しの中で、「日本でバラ生産に最も適した地域はどこだろうか?」という話題の中で、「夏の気温が低く、冬が暖かく、冬季の日射量が高い」という条件で検索したところ、福島県いわき市周辺の福島県の太平洋沿岸地域が最も適地であるとの結論になりました。しかし、福島県いわき市ではバラはほとんど生産されていません。バラ以外の施設園芸も有名ではなく、野菜と花の産出額も30億円程度です。「何でも作れる地域」は「何も作れない」といわれますが、福島県いわき市はバラ生産の適地でありながら、バラの生産がほとんど行われていないのはなぜでしょう。
物事を後ろ向きに考えるのは簡単なことですが、何も産まれることはありません。物事を前向きに考えるためには必ず第一歩を踏み出さなければいけません。勇気も必要ですが、必ず自分が満足できる成果も見えてきます。その事例を山形県は提唱しているのではないでしょうか。
3/6に開催された豊明花き市場のトレードフェアに行きました。このトレードフェアは毎年春と秋に開催されるもので、豊明花き市場に出荷している生産者が直接買参人と予約販売交渉をするための会です。生産者側は、いかに自分の商品を魅力あるように見せて春・夏商戦に向けての交渉をしていましたし、当然買参人も春・初夏の企画を想定するために、予め目にすることが難しい新商品を見定めていました。
鉢物はこの数年間市場価格が低迷しており、打開策が見つからない状況です。朝日新聞の「be on Saturday」で見つけた言葉です。「納得しなければ安くても買わない。高くても、なるほどと思えば買う。」まさに鉢物業界が直面している状況を言い当てているのではないでしょうか。今回参加した豊明花き市場トレードフェアでもそれを感じました。出店ブースは高度にデザイン企画されていて、IFEXなどでの出展で鍛えられた生産者の企画力を感じました。しかし、いざ出店ブースの商品を見ると目新しい商品はそれほど多くはありませんでした。新しい品種や海外から導入した新規植物を展示している展示ブースもありましたが、仕立て方は従来の枠を超えない相変わらずの鉢花となっていました。
豊明花きトレードフェアは確かに名前の通り商談会ですが、開催者の本当の思いは違う所にあるのではないかと思います。生産者が思いを込めた商品を園芸店などに売り込むことだけが目的ではなく、販売側からの商品化に対する提案やアイデアなどの意見を収集する場として活用することも大きな目的ではないかと思います。観葉植物は全国一律に角鉢・長鉢では、園芸店も販売に苦しむのではないでしょうか。
「納得しなければ安くても買わない。高くても、なるほどと思えば買う。」
生産者から良く聞く言葉ですが、「園芸店の話を聞いても一軒一軒言うことが違うので参考にならない」。本当にそうでしょうか?園芸店は一軒一軒店作りも客層も異なっています。自分の商品はどのような園芸店を対象とした商品なのか?自分の商品を評価してもらえる園芸店に焦点を当てて、その声を聞くことこそが重要です。市場に出荷した商品は、恐らく特定の園芸店が定期的に購入してくれているのではないでしょうか。自分の定期的に購入してくれている園芸店を市場に問い合わせて特定し、直接商品に対する情報を得ることが重要だと考えます。生産者の勝手な思いで生産した商品を押し売りのように陳列することは、トレードフェアの真の意味とは異なるのではないかと感じました。せっかくトレードフェアに出店しているのですから、販売店の意見を真摯に受け止めて、共に商品開発する考え方を持たない限り、お祭りのような単なる展示会に参加していることになりかねないと思います。
「納得しなければ安くても買わない。高くても、なるほどと思えば買う。」販売店がどの様なものに対して「なるほど」と思うのかを探り、パートナーとして巻き込むかが重要です。
★生産効率を追求したバラ生産の将来 (2010/04/18)
切りバラ生産は、趣味や興味ではなく、当然のことながら産業としてバラの栽培を行っています。経営の中で利益を追求するためには、自分の立ち位置を見定めて、身の丈にあった戦略を立てて展開することが必要です。800坪の生産者の戦略は、3,000坪の生産者の戦略とは異なっているはずです。しかし、全国のバラ生産者の温室をみていると、はっきりした経営戦略があるようにはみえません。生産している品種はどの温室をみても代わり映えせず、赤いバラはローテローゼかサムライ08、レッドスターが必ずといって良いほど生産されており、70cmのL・2Lの規格のバラ生産を目標としています。いわゆる花市場で売れる品種が栽培されて、生産地周辺の市場に出荷されています。
当然、800坪の生産者も3,000坪の生産者も生産品種に違いがなく、規格も同じであれば、生産規模=収入という図式が当てはまることになります。というより、800坪の生産者の生産効率は3,000坪の生産効率に比べて低いので、単位面積あたりの収入は800坪の生産者は低くなります。
このように生産規模が経営を左右する要因である場合には、より大規模な生産者の方が生産効率は高くなり、小規模生産者が淘汰されることになります。1980〜1990年のオランダのバラ生産業界は、まさにこの生産規模に基づく生産効率が主要因となって、小規模生産者が淘汰され、1980年の経営規模別生産面積占有率をみると、2/3が1ha未満の生産者で占められていたものが、1998年には小規模生産者は1/3に減少し、1ha以上の大規模生産者が2/3を占めていることが判ります【図参照】。このように、世界のバラ生産をリードし続けたオランダのバラ生産業界は、自らが選択した生産効率の向上という目標に従って国内の小規模バラ生産農家が淘汰され、大規模生産企業によるバラ生産が進められてきました。この戦略は、バラ育種会社(苗生産会社)にとっても効率よくビジネス拡大が可能であったことから、数多くの育種会社が設立されました。
生産効率の向上という目標を追い求める欲求は留まることを知りません。そして、より高い生産効率を求める結果として、人件費が安く、社会インフラが整備され、生産環境に適した熱帯高地への生産拠点農場の移転が始まり、2000年以降の10年間で、とうとうオランダのバラ生産面積は1/4以下にまで減少し、オランダのバラ生産は国際化の中で淘汰されてしまいました。バラ育種会社もケニアなどに拠点を移し、オランダ本社の売却が始まっています。2010年2月にはOlij Rosenのオランダ本社が倒産しました。生産効率を求めるビジネス淘汰が、国内だけに留まった事例は他の産業界でもありません。必ず国際的な淘汰が始まり、より生産効率の高い海外への生産工場の移転が始まります。繊維業界しかり、家電業界でも同じようなことが過去にみられています。
「日本は先進国の中でも花の価格が高い国で、花の価格と文化の先進性の間には負の関係がある。この観点からみると、日本は先進国でありながら文化度が低い」という説が、結構多くの花業界コメンテーターに支持されています。果たしてそうでしょうか。アメリカの切り花価格が安いのは、その全量を生産効率が高いコロンビアに依存しているからであり、イギリスの切り花価格が安いのも、その全量を生産効率の高いケニアに依存しているからです。「花は文化」であることは、それを支える産業が国内に存在することです。アメリカやイギリスの花文化が本当にその国の文化なのでしょうか。
10年ほど前に、農水省から「カジュアルフラワーの生産推進」が提唱されました。生産・流通コストを下げて低価格の花を日本の消費者に提供し、もっと多くの花を消費者に楽しんでいただこうという取り組みでした。しかしこの「カジュアルフラワー」こそ、生産効率の向上を目指す生産であり、国際的な淘汰を助長して国内花き生産業の崩壊をもたらすのではないでしょうか。日本が目標としてきたオランダの花き生産業界が、現在まさにその事例を提供してくれています。
私は、スーパーマーケットでの10本380円のバラの花束販売を否定しているわけではありません。低価格の花束の販売が増えることは、必ず「花好き」の消費者層の拡大に繋がります。しかし、販売価格が1本38円のバラの生産者価格はいくらなのでしょうか。生産効率を徹底して追求しなければ成り立たない価格です。この価格を目標に生産効率を追求することは、まさに上述の国際的な淘汰を招くことを意味しています。
日本は文化を大切にしている国であると確信しています。「和の文化」という言葉は日本の文化的プライドを表している言葉だと思います。
バラ生産者の皆さん。もう一度、「なぜバラを生産しているのか」を問い直してみませんか?
★PTAのお母さんを対象とした花普及活動 (2010/04/12)
2008年6月にMPSフローラルマーケティング株式会社が実施した「花と環境に関する調査(アンケート)」があります。
子供のころの花の経験に関する質問で、「家の室内に定期的に花が飾られていた」と回答した人の80.4%がこの1年に花を購入していました。「家の室内に時々花が飾られていた」と回答した人も72.4%がこの1年に花を購入していましたし、同様に「庭に花が咲いていた」と答えた人も72.8%がこの1年に花を購入しています。これに対して、「身近に花がなかった」人は38.5%しか花を購入していませんでした。
また、「家の室内に定期的に花が飾られていた」と回答した人は86.2%が「花は生活に必要である」と感じているのに対して、「身近に花がなかった」と答えた人は36.5%しか「花は生活に必要である」と感じておらず、逆に55.8%の人が「花は生活に必要ない、どちらかというと必要ない」と回答していました。同様に、「家の室内に定期的に花が飾られていた」と回答した人の89.1%は「花をもらってうれしい」と感じるのに対して、「身近に花がなかった」と答えた人は「花をもらってうれしい」と感じる人が55.8%に減少しています。
このデータが示す重要な意味を考えてみましょう。「子供の頃の花体験」とは「お母さんやおばあさんが花好きであった」ことを意味していることです。実は、大人になって花を買って楽しみたいという気持ちは、子供の頃に「自分自身が花を楽しんでいる」ことではなく、「お母さんが花を楽しんでいた」ことに深く関係するということです。
花育活動では、もっぱら子供の情操教育の一環として「花に親しむこと」が重要視されていますが、これはこれで良いとしましょう。子供達が「心のゆとりを楽しみ人間的なつきあいを大切に感じる」教育として、花育は最適な方法の一つであると思います。
しかし、MPSフローラルマーケティング株式会社の「花と環境に関する調査(アンケート)」が示す意味は、子供が花に触れることを意味しているのではなく、「お母さんやおばあさんが花を楽しんでいた」ことが重要であり、お母さんが「花を育て、飾ること」を大切に思っていることが重要です。PTA活動の一環として「簡単に楽しめるガーデニング講座」や「思いを伝える楽しいブーケアレンジ講座」を園芸店や生花店が開講して、花の生産者はその教材を無償で提供してはいかがでしょうか?
園芸店や生花店にとっても、目の前の顧客層を広げてリピーターを増やすことにも繋がりますし、生産者にとっても現実的な消費拡大に加えて、将来的な消費者である子供達の花への理解度を高めることにも繋がります。日本園芸商協会や日本生花商協会、日本生花通信配達協会(JFTD)の皆さん、日本花き生産協会の皆さん、花き業界として一緒に取り組んでみませんか?子供への花育活動よりもターゲットが明確な点で取り組みやすいと思います。
★北海道当麻町のバラ生産者への手紙 (2010/04/07)
2009年8月に北海道旭川市の東にある当麻町のバラ生産地を視察しました。25年前に6年半北海道に住んでいた経験から、旭川の北にある当麻町というだけで「冬の気候が大変なのでバラ生産には不向きな地域」と勝手に思いこんでいました。訪問したのは8月下旬でした。この時期に岐阜県で生産されるバラは夏の暑さで夏バテして親指ほどのバラしか咲きませんが、当麻町のバラは握り拳ほどの大きさで、あたかもエクアドルのバラを彷彿とさせる品質を誇っていました。
夏の当麻町は、最高気温が32〜33℃以下で最低気温は15℃前後と、まさにケニアやエクアドルに近い気候です。加えて緯度が高いので、7月の日の出時刻は午前4時、日没は午後7時過ぎで日照時間は15時間を超えます。また、梅雨がないので6月以降の日射量は強く、バラの生育には最適な条件といえます。
日本のバラは海外からの輸入の影響を受けて大きな打撃を受けていますが、日本のバラは決して品質面で負けているわけではありません。ましてや5月から9月までの当麻町の気候はバラの生育にとって最高の状況で、国内で生産されるバラの中でも品質はトップクラスだと思います。是非、「大雪の薔薇」のブランドを持つ高品質なバラを全国のバラ好きの消費者の皆さんに提供してあげてください。バラを生産するのは生計を成り立たせるためだけではありません。バラを愛する消費者にバラを楽しむ喜びを提供することは大切な役割だと思います。
当麻町のバラ生産者の皆さん。全国どこでも生産されている一般の高芯剣弁のバラ品種だけではなく、当麻町の気候にあった特別なバラ品種を選択し、全国でも特異的なバラ産地として発展していただきたいと思います。
最後に、前回の「北海道当麻町のバラ生産」の記載内容にあたっては、当麻農業協同組合および関係の皆様にご心配をお掛けいたしましたことお許しください。
3月31日に愛知名港花き地方卸売市場が開場し祝賀会が開かれました。愛知県は1962年以降花き生産額全国1位を維持し続ける花き生産王国ですし、静岡県西部、長野県伊奈地方、岐阜県、三重県などを含めると、全国有数の主要な花き生産地域です。また、東海圏は1,500万人の人口を持つ大消費地でもあります。これまでの愛知県の花き市場は豊明花き地方卸売市場が断トツの地位を占めていましたが、名港花き地方卸売市場が開場したことで市場間の特色が顕著に見えてくるものと大いに期待しています。
愛知県(東海圏)はこのように花の大産地であり、名港花き市場はいわゆる産地市場として位置づけられます。しかし、日本の花き市場の多くは消費地に立脚する消費地市場です。愛知県の切り花生産地は、これまで選花場や分荷場を設置して首都圏や関西圏の消費地市場に向けて出荷しており、意外と地元の市場に出荷する体制ができていませんでした。名港花き市場が開場したことによって、この物流が大きく変化する可能性があります。とはいえ、名港花き市場が解決しなければいけない問題も山積しています。
(1)生産出荷量が多い愛知県(東海圏)の切り花を捌ききれるのか?
愛知県(東海圏)の生産出荷量に比べると、東海圏の花の消費量は圧倒的に小さすぎます。東海圏の消費量が少ないために、愛知県の生産者はこれまで首都圏や関西圏など全国に出荷する体制を取ることで成長し続けてきました。この大生産地の生産出荷物を扱うためには東海圏の花き消費を活性化させ、消費量の拡大を図ることが必要です。愛知県の県民性である見栄っ張りな所をいかに花の消費につなげることができるかは花き販売業界の活性化と密接にリンクしています。幸い名港花き市場は愛知県の生花店の強い要望によって作られた経緯があります。この生花店との強い連携を基盤として、花き販売業界の活性化を図って消費の拡大を図れるかが鍵となります。
(2)愛知県(東海圏)の切り花物流拠点となることができるか?
産地市場としての最も重要な機能は配送センターとしての機能です。典型的な事例としてオランダのFloraHolland市場を挙げることが出来ます。オランダは花の大生産国ですが、消費量はそれほど多くありません。FloraHolland市場にはヨーロッパ各地の消費需要を担う仲卸会社が買受人として集まり、FloraHolland市場はオランダで生産される花の配送センターとしての機能を持っています。名港花き市場が産地市場としての役割を果たすためには、全国の花き市場や仲卸業者との緊密な関係を深め、需要情報を収集・把握して愛知県(東海圏)の切り花を速やかに配送することが重要です。この点で、名港花き市場の特徴である自動搬送システムが効力を発揮することと思います。ただし、既に配送センターとしての機能を持っている農協の集出荷場との調整、すなわち愛知県経済連(JAあいち)との調整が鍵になると考えます。
(3)切り花流通販売業界が切り花の鮮度を正当に評価できるか?
名港花き市場の大きな特色として全館空調設備の完備やELFバケット流通の推進などの徹底した鮮度管理があります。名港花き市場に出荷する生産者に対して徹底した鮮度管理の遵守を依頼することは可能です。しかし、物流業者のトラックが保冷車ではない場合や買受人の切り花の温度管理が不十分な場合にはこの鮮度管理は意味を持ちません。あくまでも生産から消費者の手に渡るまでコールドチェーンが途切れることなく繋がる必要があります。これまで生花店では鮮度を評価して販売するシステムがありません。これまでも切り花の鮮度は国産花きの重要な評価要素といわれながら、鮮度保持を前面に出して営業できた市場はほとんどありませんし、流通業界も販売業界もあえて鮮度保持には目をつむってきた経緯にあります。このような流通・販売業界の状況を名港花き市場がどのように改善していけるかが重要な鍵といえます。
(4)買受人は切り花の価値を正当に評価できるか?
名港花き市場では「価格入力方式の機械セリ」という競り上げ方式に近い新しい競売システムを導入しました。このシステムが有効に機能するためには買受人の「目利き能力」が必須です。生花販売業界はちょうど世代交代の時期をむかえています。年配の生花店主の方々は「良い物と悪い物」を見分ける目利き能力がありました。しかし、残念ながら後継者の中には花持ちを含めて切り花品質を見分ける能力が低い傾向にあり、加えて景気の低迷も一因となって「見栄えが良ければ安い方が良い」という観念が広がりはじめています。その結果として輸入切り花が大量に花き市場に流入し始めています。このような状況の中で、買受人の切り花の価値を正当に評価できる能力が低ければ、「価格入力方式の機械セリ」という競り上げ方式に近い新しい競売システムはまったく意味をなしません。新しい競売システムを機能させるためには、切り花の価値を正当に評価できる買受人の目利き能力をどのように向上させられるかが鍵になると考えます。
私は名古屋市松原町にあった卸売5社が努力をされて名港花き市場を開設されたことを高く評価していますし、愛知県(東海圏)が花き生産地として今後一層発展するためにも是非大きな成果を挙げていただきたいと考えています。経営理念が異なる5社が一つの経営体となるためには色々な軋轢もあるかと思いますし、これまで経験したことのない大きなビジネスをこなしていくことについても色々な障害が発生することと思います。是非とも名港花き市場の社員の皆さんが一丸となって5つの鍵を開けていただけることを期待しています。
★国際化に対抗するための生産コストの低減? (2010/03/29)
日本花き生産者大会に出席し、「輸入切り花の増加に対抗し、国際競争力を高めるための生産コストの低減」といった話題に対して疑問に感じました。私はこの3年間ケニア・エチオピア・インド・エクアドル・コロンビアといった熱帯高地の国際的な切り花輸出国を視察しましたが、その間に感じたことは「生産コストで考える限り、日本は彼らには勝てない!」という絶望的な感想です。
エチオピアの人件費は1日0.7$(60円)で労働者は勤勉です。生産施設内の最高気温30℃・最低気温10℃の気候が一年中続き、無暖房で最高のバラが生産できます。施設は軽量設備で木造のハウスもあります。日射量が強く、水質の良い水が豊富に確保できます。物流インフラは国策として整備され、航空輸送もナショナルフラッグの国営航空会社によって行われるため航空運賃は格安です。
これに対して日本では、人件費はパートタイマーであっても1時間800円の雇用経費がかかります。2年前に比べて重油は下がったといっても2000坪の温室の暖房費は毎月200万円を超えます。施設温室建設費は最低でも坪あたり10万円はかかり、栽培管理装置は高額です。冬は日射量が少なく夏は高温で、年間の生産効率は高いとはいえません。国内輸送経費は国際水準からみても格段に高く、景気低迷の影響を受けて販売価格も低迷しています。
このような大きなハンディを乗り越えて、日本の切り花生産者は生産コストの低減で切り花輸出国と対抗することが可能でしょうか?
自動車産業しかり、家電産業しかり、価格競争で国際競争を勝ち残った産業は日本にはありません。いずれの産業でも国際競争力は価格競争力ではなく、ユーザーのニーズに的確に対応した品質保証ではありませんか?切り花の品質保証というと、すぐ短絡的に「切り花の鮮度保証」といわれそうですが、そうではありません。
バラの消費者である女性が望む品質とは何かを考えましょう。「花保ち」ではなく、バラ品種の花形の魅力や香り、蕾から満開までの変化だと思います。キクに関していえば、葬儀用のキクの長さや花保ち品質ではなく、消費者が魅力を感じる可愛いスプレーギクの草姿であり、豪華で華麗な輪ギクの花形が望まれる品質ではありませんか?カーネーションを買ってくれている消費者は何を求めてカーネーションを買ってくれているのですか?
生産コストでは到底勝負ができない日本の切り花生産者が「国際競争力を高める」ということは何を意味しているのでしょうか?アクセルペダルとブレーキシステムで少々躓いてしまいましたが、トヨタは何故世界のトップの自動車会社になれたのでしょうか?ニッサンやホンダは何故国際競争力があるのでしょうか?パナソニックやソニーも同じです。価格競争力を持っていたから国際化の中で生き残れたわけではないと思います。
★シクラメンをホームセンターで販売することの意味 (2010/03/26)
シクラメンは冬の鉢花として素晴らしい商品性を持っています。しかし、この数年間シクラメンの市場価格は低迷をし続け、そろそろ継続生産可能な価格が維持できなくなり始めています。このような中でホームセンターのバイヤーから買い付けの声が掛かり始めています。ホームセンターのバイヤーが生産者と交渉する時には、まず仕入れ価格から始まります。例えば「200円の4号サイズのシクラメンが欲しい。この価格であれば5000鉢の契約ができる」と。
4号サイズのシクラメンの生産費を考えると200円の価格は極めて厳しい価格ですが、花き市場の最低価格はこれを下回る場合もありますし、予め生産費を計算して原価200円以下で生産すれば経営的には成り立ちます。原価200円以下で生産するためには、ブランド品種の種子は使用できませんし、プラグ苗の購入ではなく自家播種を行います。培養土は高品質を求めず、できる限り低価格の培養土を使用し、栽培途中の鉢上げ(鉢換え)も最低限とし、花数を増加させて均等に開花させるための葉組み作業も最低の1回にとどめることになります。
ここまで書いてきて、非常にむなしくなってきました。何のためにシクラメンを作るのだろうか?シクラメンの生産者はお金を稼ぐためだけにシクラメンを作っているのですか?より高い品質のシクラメンを生産し、それを購入してくれたお客さんの満足した顔を想像して生産しているのではないですか?
私は花は日用品ではないと考えています。日用品であれば「良いものを安く」という論理は成り立つかもしれませんが、花は心の豊かさ・満足を与える商品であり、花が持つ価値に共鳴してお客さんはシクラメンを購入しているのであるからこそ、低価格である必要は必ずしもないと考えています。
培養土や肥料などの品質を下げ、生産の手間を抜いて生産したシクラメンと、最高の品種を高品質な資材で充分な手間をかけて生産したシクラメンの違いは何でしょうか?花保ちです。シクラメンは切花ではないので、シクラメンの花保ちは次々と花を咲かせる株の元気さといえます。購入したシクラメンが1ヶ月で枯れては満足は得られません。大切に育てて、翌年の連休まで咲けば、シクラメンを買ったお客さんは充分に満足するでしょう。そして、もう一度来年も買いたいという気持ちにさせられます。これに対して、200円以下の原価で作られたシクラメンは当然長い花保ちは期待できません。購入時の見た目は手間をかけたシクラメンに比べてそれほど貧弱には見えないかもしれませんが、1ヶ月以上の花保ちは保証できないでしょう。
ホームセンターでシクラメンを購入したお客さんは、果たして次の年も買いたいと思うのでしょうか?200円の原価で生産したシクラメンは、それなりの品質を持った商品ですから、「良いものを安く」ではなく「それなりの品質で安く」となります。ホームセンターにとってシクラメンは一つの商品アイテムかもしれませんが、使い捨ての園芸は将来の園芸業界の発展には繋がらないと考えます。単純な価格競争を仕掛けるのであれば、中国からシクラメンを輸入してはいかがですか?中国のシクラメン生産会社はIFEXにも出店し、日本への輸出を希望しています。
★ユニクロのヒートテックの戦略は花き産業の手本になるか? (2010/03/17)
日本花き生産者大会でホームセンターの担当者から「日本の経済状況は大変な状況になっている。消費が落ち込む中でユニクロのヒートテックは売れている。良いものを安く消費者に提供できるかが重要で、生産者は生産コストをもっと下げる努力をするべきではないか」というの意見が述べられました。私はこの意見には反対です。
確かに日用品を販売するユニクロは「良いものを安く」をポリシーとしてビジネス展開を図っていますし、それは消費者に支持されていると思います。しかし、ヒートテックはどのような品質が消費者に評価されているのでしょうか?珍しい、新しい商品性が評価され、大きな販売力となっているとは思います。ユニクロが以前仕掛けたフリースも同じです。フリースを高級品と思っている人はいません。普段着で、1シーズン限りの商品だからと納得した商品価値として「良いものを安く」が理解されていると考えます。
ユニクロでヒートテックを買ったお客さんは、次の年もヒートテックをユニクロで買うでしょうか?恐らく中国で作られた別の商品がユニクロ以外でも販売されて、ユニクロの価格よりさらに安く販売されることになり、いつしか「ユニクロのヒートテック」は忘れられることになるでしょう。すなわちユニクロの戦略は使い捨ての戦略であり、毎年次々と新しい話題性のある商品を低価格で投入し続けることで成長を維持する戦略といえます。
ユニクロで販売しているヒートテックやフリースが日本で生産されているのであれば、このユニクロ戦略は国内の花き生産業界にとって大きな指標となるかもしれません。しかし、ヒートテックは中国の委託工場で生産されています。ユニクロの大ブームのなかで、国内の繊維生産業界はまったくの蚊帳の外に置かれており、国内生産業の振興には役に立っていません。
このようにユニクロの戦略は、海外からの輸入攻勢に対抗して、毎年継続して生産を継続しなければいけない園芸業界ではとって、とても受け入れられない戦略です。ホームセンターの園芸担当者がユニクロの戦略を信奉していることは、ホームセンターにとって園芸は使い捨て品目であり、目新しい商品が海外から安く大量に輸入できれば、それも可であることを意味しています。確かに園芸販売数量のなかでホームセンターの割合は大きくなってきていますが、園芸業界にとって信頼に値する販売業界なのか疑問を感じます。
1年生を対象に教養科目で「世界の農業事情」という講義を担当しています。日本への切花輸入の増加とそれに伴う国内生産への影響について講義し、レポートを課しました。
講義の中で、花の購買層には大きな歪みがあり、若い人達への花の消費拡大が重要であることを説明したため、「なぜ若者は花を買わないのか」の理由を色々と提起してくれました。最も多かったのは、「花を意識したことがない」、「花を観賞する習慣がない」という指摘でした。岐阜大学に入学した1年生は、これまで大学受験のために忙しい高校生活を過ごしてきたのでしょうし、精神的なゆとりを感じる余裕もなかったのかもしれません。
「プレゼントする機会がない」という内容もありました。これは花だけでの問題ではなく、人間的なつきあいが希薄になっていることを意味しているのかもしれません。恐らく、お母さんやお父さんの誕生日にプレゼントをあげることや、ましてや友達の誕生日にプレゼントをあげることもないのかもしれません。プレゼントをあげる習慣のない若者はプレゼントを貰うこともないでしょう。「花の美しさを知らなかった」という指摘は「花を貰ったことがない」ことを意味しているように思います。花束を貰った人は自然に顔がほころびますし、花の美しさを実感できるはずです。
「花の楽しみ方を知らない」や「花は水替えをしなくてはいけないので面倒くさい」といった技術的な問題を指摘した学生も一部ではいましたが、若者が花を買わない理由を考える上で、「心のゆとりを楽しむ余裕がない」ことや「人間的なつきあいが希薄になっている」ことが最も重要な課題ではないかと感じました。
若い人達に花に親しんでもらい、将来的な花の消費需要を高めるための「花育」活動の大切さが至る所で提案されていますが、実は本当に大切なことは、若者が育つ過程での心の問題に行き着くような気がしています。花を育てることも大切ですが、「花束をもらってうれしい気持ちになる」ことは、花の魅力を実感する一番の方法だと思います。花とふれあうことだけに花育を限定することではなく、花をプレゼントしあって若い人達が心安らぐ精神を実感し、他人の気持ちを思いやる人間関係を大切にすることが、将来の花の消費を高めることに繋がるのではないでしょうか。
★輸入切り花に対抗するための最低限の生産者の義務 (2010/03/09)
「鮮度保証を前面に出した国産切り花キャンペーンは戦略として好ましくない」というコラムに対して、「国内の切り花は鮮度を無視しても構わないのか?」とのご意見をいただきました。誤解のない様にと思い、コメントを追加させていただきます。
輸入切り花の戦略は、「大量ロットの需要に対して即座に均一の商品を供給できる能力」であり、安価で勤勉な労働力のに基づいた「収穫から出荷までの徹底した品質管理」を行い、「コールドチェーンの徹底」によって、「輸出先の顧客を満足させる」企業的な切り花生産です。
これに対して、国産切り花の優位性は何でしょうか?「消費者との距離が近く、コミュニケーションが可能で的確にニーズを把握」しやすく、「少量であっても的確に需用者の要望に応えるきめ細やかさ」だと考えます。国産切り花がターゲットとする消費者は、バラをほとんど買ったことのない初心者ではなく、バラの消費ピラミッドの上部に位置する「バラ好き」の消費者であり「バラマニア」とも言える消費者だと思います(pdfファイル)。このバラ好きやバラマニアの消費者のバラ観賞技術は高く、購入するバラも一般の高芯剣弁の「バラらしいバラ」ではなく、オールドローズタイプやシャクヤク咲きなどを始めとする「バラらしくないバラ」で切り花の価格も少々高い高級切り花です。高価な切り花を購入したのですから、「ベントネック(バラの花が首の所で曲がってしまう現象)」などは到底許しません。
国産切り花は「鮮度保証を前面に出したキャンペーン」では何も優位性は得られませんが、逆に「鮮度保証は当然の資質保証項目」であると言えます。
私がケニア、エチオピア、インド、エクアドル、コロンビアなどの生産輸出国でみてきた鮮度保障管理として、以下のことが徹底されていました。
(1) 収穫後すぐに鮮度保持材が入った活け水に浸ける
(2) 直射日光に当てない
(3) 出来れば活け水の温度は10度以下にする
(4) 収穫後30分以内に冷蔵庫に搬入する
(5) 切り花の温度が下がったら、出来るだけ早く下葉の除去を行い、葉が活け水の中に浸かった状態になる時間を短くする
(6) 輸送はコールドチェーンを徹底して管理する
日本のバラの生産者の皆さん。鮮度保証は国内のバラの優位性にはなりませんが、生産者の段階でできることとして、切り花を購入してくれたお客様への満足の保証のために、最低限これ位の鮮度管理は行って下さい。必ずそれが、「バラ好き」の人数を増やすことに繋がります。そして、さらに上の「バラマニア」の人数を増加させ、切り花の単価アップに繋がることは間違いありません。
教養教育の「世界の農業事情」の授業でのレポートで、若い人達への花の消費拡大の障害となっている原因の一つに「花は水替えをしなくてはいけないので面倒くさい」という答えが結構ありました。アレッ。バラの花保ち剤を知らないのですか?
既に一般的なバラの花保ち剤として「美咲(大塚化学)」、「エバーローズ(パレス化学)」、「キープ・フラワー(フジ日本精糖)」などがありましたが、少し調べてみると「切花長もち剤・バラ用(ハイポネックスジャパン)」、「開花美人(三菱ガス化学)」、「花当番(クミアイ化学工業)」など次々と新しい資材も販売され始めています。
国産切り花の品質向上対策として「切り花の品質保証」が唱えられていますが、その前に「花保ち剤」の普及を徹底する方が先決ではないでしょうか。花の消費が低迷している中で、切り花を簡単に楽しむ技術の普及は,花が咲き切ることに対する消費者の期待を裏切らないことに繋がります。そして,花保ち剤の普及は必ずバラの消費に直結することは間違いありません。
切りバラ生産者の皆さん。日本生花商協会や日本生花通信配達協会(JFTD)の方々と連携して花保ち剤の普及を進めませんか?バラを買ってくれた消費者が、最後まで咲き切る姿を鑑賞して満足してもらえることが、さらなる消費の拡大に繋がるものと考えます。
切花の消費拡大の方法として切花の花保ち保証が話題になっています。バラの生産者から「保証期間を何日にしたらよいでしょうか?」と質問をいただきました。一般には7日間の保証が一般的ですが、品種によっては5日間で咲き切ってしまうものがあり、夏には3日で咲き終わってしまいます。保証期間を7日に限定すると、生産している一部の品種しか適用できなくなりますし、生産しているすべての品種を保証しようとすると日数の設定が難しくなってしまいます。
花保ち保証の原点に戻って考えてみましょう。消費者は切りバラの鑑賞において何に不満を持っているのでしょうか?実は日数ではなく、鑑賞途中にベントネックで花首が曲がり、咲き切る前に萎れてしまうことではないでしょうか。バラの花の魅力は、蕾から満開までの花の変化と、咲き切る直前の馥郁と漂う香りです。開花前に萎れてしまうと、バラの花を買った消費者はこのバラの魅力を楽しめずガッカリしているのであって、花保ち日数が短かったことに不満を持っているわけではありません。
オランダやイギリスの夏は日本と違って涼しく、25℃を超えることはありません。家の中は20℃前後と快適です。当然冬は暖房していますので、夏でも冬でも室内の温度はほぼ同じ条件ですので、年中同じ期間の花保ち保証が可能です。実際にオランダの花保ち検査基準は20℃ですが、日本の基準は25℃です。開花までの日数は気温と密接に関係しています。7〜8月の高温期には、品種によっては5日で咲き切ってしまう品種もありますし、ストッカーに入っていた場合には3日で咲き切ってしまう場合もあります。しかし、バラの花が最後まで咲き切った時にはその美しさを堪能できるので、不満を感ずることはありません。
バラは品種によって咲き切るまでの日数大きく異なり、数日から3週間までばらつきます。また日本の夏の高温条件を考えると、年中一律の花保ち期間を保証することは難しい状況です。私は、バラの魅力を考えると日数を指定した「花保ち保証」ではなく、『咲き切り保証』ではないかと考えます。
2/19にキリンホールディングスが3月末に花き・種苗事業から完全撤退するという報道が行われました。キリンは1980年代にアグリバイオ分野に参入し、花だけでなくトキタ種苗と共同で野菜の育種にも取り組み、千宝菜などの新ジャンルの野菜品種を開発してきました。特に花事業ではカーネーション育種会社のバルブレ&ブラン社、キクの育種会社のフェイデス社を積極的に買収すると共に、国内では第一園芸から育種・種苗販売部門を買い取り、バラ、ガーベラの種苗販売を行ってきました。キリンの花き種苗からの完全撤退は日本における花き育種ビジネスの難しさを現しています。
第一の問題点は、日本マーケットを主体とした種苗ビジネスの経営上の難しさがあります。日本は北米・欧州と共に3大消費地域といわれていますが、実はそれほど大きな消費国ではありません。育種は交配に加えて、育種母本や過去の育成品種の維持などのために人件費、施設・農場の維持管理経費がかかります。この経費を国内で消費される種苗のパテント料だけで賄うことは極めて難しいことです。すなわち、種苗ビジネスは国際ビジネスが不可欠です。ところが、花き育種会社で国際展開をしているのは極めて少なく、多くが日本国内を主なマーケットとして営業しています。キリンに限らず、今後いくつかの育種会社が事業見直しに向かうことが予想されます。
第二の問題点は、育種会社の買収の難しさです。育種を行う研究者はこだわりとポリシーを持っており、それぞれの育種会社から発表される品種は育種担当者の感性にゆだねられています。育種会社を買収すると一気に育種ビジネスに参入できる錯覚を覚えてしまいますが、実際には思うような育種を進めることはできません。特に、新たな消費マーケットを把握していればいるほど歯がゆさを覚え、ビジネスとしての難しさを実感することになります。
キリンに限らず、今後花き育種事業から撤退する会社が出てくると予想されますが、最も恐ろしいことは育種の空洞化です。育種は花きビジネスの根幹を担っていますが、それをヨーロッパやアメリカの育種会社にゆだねてしまうと大きな問題が生じてきます。海外の育種会社は「世界で売れる花」を育種する会社であって、「日本やアジアで売れる花」を育種することはありません。例えば、日本人の感性では「ナデシコのようなカーネーション」は高い評価を受けますが、ヨーロッパではまったく評価されません。カーネーションの育種を海外にゆだねた結果、日本で生産・販売されるカーネーションの品種はすべて世界標準のカーネーションとなってしまい、コロンビアなどからの輸入攻勢に巻き込まれて国内のカーネーション生産は瀕死の状態となっています。
国内の花き産業を大切に考える育種会社には、新たな東洋の感性を持った育種を発展させ、中国マーケットを睨んでビジネス展開を進める意欲を持っていただきたいと考えます。この点ではキリンは大変残念な結果となってしまいました。
中国のバラ生産会社と話をしていた時に、総経理(社長)が「ヨーロッパの最新品種のバラを栽培したいと思うのだが、品種栽培許諾料(パテント料)が高過ぎて支払えない。」と言っていました。パテント料は知的財産権として国際的に保護されている品種育成者の権利で、特許や著作権などと同じように、新品種を栽培しようとする人は支払う義務があります。
日本ではすべてのバラ生産者は苗1株100円(約1$)の正規のパテント料を支払って新品種を栽培しています。苗1株から1年間で収穫できる切り花は15本程度で、市場の平均価格を80円とすると、バラの苗1株から得られる収入は1200円/年/株です。3年間栽培すると3600円の収入が得られ、100円(約1$)のパテント料を支払うのは大きな障害にはなりません。これに対して中国では、花き市場の平均価格は需要期でも15円程度で、平常期では5円前後です。したがって、日本と同じような生産効率であったと仮定しても、バラの苗1株から得られる収入は80円/年/株とパテント料を下回ってしまいます。5年間栽培してもバラの苗1株から得られる収入は400円/年/株で、とても100円(約1$)のパテント料を支払える状況ではありません。
中国の経済発展を支えている上海では富裕層が豊かな生活を満喫しています。花に対する需要も急速に高まっており、珍しい花・特徴のある花は日本を上回る価格で販売される事例も見られています。今、日本で評価が高まっているシャクヤク咲きやカップ咲きの「バラらしくないバラ」は共通のアジアの感性を持っている上海の富裕層も高く評価します。上海人は「日本製が欲しい」のではなく「日本で評価が高い商品が欲しい」のです。
博多から上海へは高速フェリーで32時間で到着します。当然船便ですから水を入れたバケットで切りバラを輸送できるので、横箱に詰め込んで運ぶ長距離の航空便に向かない花弁が柔らかいシャクヤク咲きやカップ咲きなどの「バラらしくないバラ」にはピッタリの輸送が可能です。日本から輸出されたシャクヤク咲きのバラは、1000円でも飛ぶように売れるでしょう。というより1000円だから売れるのかもしれません。中国のバラ生産会社にとって、1000円で売れているバラであれば正規のパテント料を支払ってでも是非生産したいバラです。
中国は違法増殖が蔓延しているので、新品種を中国で販売することを躊躇する種苗会社が多いようです。しかし、種苗販売から始めようとすれば、「パテント料を支払えるほど売り上げが確保できるか心配」ですから、当然中国の生産会社は導入に躊躇しますし、違法増殖も始まってしまうでしょう。まず切り花の輸出から始めて、上海でのマーケットを確保しましょう。上海での評価が定着して一定以上の量が望まれ始めた段階で、現地生産会社と契約して種苗販売・現地生産を始めてはいかがでしょうか。当然生産できるのは限られた生産会社だけですから、それ以外の流通商品はすべて違法増殖されたものですので、知的財産権の管理も簡単です。
日本は人口減少期をむかえ、消費マーケットは縮小していきます。これからの日本の花き産業の生き方の一つの方向として知的財産はキーワードです。アジア人の感性を中国に広げるために、先進国の日本で評価される売れるバラを生産し、その後に上海に輸出する。上海での一定の評価を受けて、中国での種苗の販売を開始し、現地生産を行う。いかがですか?
★花の鮮度保証は生産者にとって重要か? (2010/02/12)
ヨーロッパやアメリカのスーパーに行くと「7日間や14日間の鮮度保証シール」が添付された花束が普通に売られています。JFMAの小川会長は「イギリスのスーパーで鮮度保証切り花が販売された結果、消費量は3倍に増加した」と言っておられます。日本でも日持ち保証をした切り花がスーパーで販売されれば、恐らく同様に切り花消費量が増加することは想像できます。しかし、このことが日本の切り花生産者にとって本当に良いことかを考える必要があります。
JFMAでは数年前から切り花の鮮度保証に取り組んでいますが、未だに日本国内で鮮度保証表示が定着した事例は見られません。何故でしょうか?
イギリスで鮮度保証を可能にした立役者はイギリスの切り花生産者ではありません。ケニアなどの東アフリカで大規模農場を持つヨーロッパ資本の切り花生産会社です。ケニアからイギリスに輸出される切り花は、ケニアの生産農場で「7日間の鮮度保証シールが張られた花束」が加工され、「イギリスのスーパーの名前が書かれたスリーブ」に入れられて輸出されています。ケニアの生産会社が花束を作成し、流通を一元化してコールドチェーンを徹底して行っているからこそ可能になったといえます。
日本ではどうでしょうか。生産者や共同選花場で花束を加工して流通する事例を私は知りません。その理由として、ケニアの生産会社と比較して生産規模が格段に小さいことが挙げられます。日本のスーパーで販売されている花束は花束加工会社が作った花束であり、生花店ではお店でお客さんの要望に従って花束を作って販売しています。当然のことながら、日本で販売される花束には色々な産地、様々な生産者が出荷した花が使われています。花束の鮮度保証は花束全体の鮮度保証です。花束の中の1本の花の花保ちが悪くても鮮度保証の対象外となってしまいます。「花束の鮮度保証」は国産の切り花販売の実情に合っていないのではないでしょうか。
流通に関してはもっとボロボロです。切り花生産者の選花場には必ず大型冷蔵庫が設置されており、生産者が収穫した切り花はすぐに冷蔵庫に入れられます。選花場にクーラーを設置している生産者もありますし、保冷車で花き市場に出荷している生産者もいます。しかし、問題はその後です。花き市場にはクーラーの効いた保管室はなく、セリ場や分荷場が温度管理できている花き市場はほとんどありません。遠方の花き市場に出荷する場合には花専門輸送業者が輸送を担っていますが、保冷車がほとんど使われていません。また、生花店で花き市場から店までの輸送に保冷車を使っているところはほとんどありません。軽トラックや貨物ワゴン車がほとんどです。切り花の鮮度保証にコールドチェーンは不可欠なのに、これを実現できる流通体系は皆無です。
このような国内の流通状況で「花の鮮度保証」は可能なのでしょうか?恐らく、「花の鮮度保証」を声高に唱えれば唱えるほど、ほくそ笑むのは海外の輸出国の大規模生産会社であり、「国内の切り花は鮮度保証ができないほど品質が悪く、輸入の切り花の方が品質が良い」といったキャンペーンのもとで輸入切り花が大手を振って流通し始めるのではないでしょうか?
一生懸命高品質な切り花の生産に努め、温度管理も徹底している国内の切り花生産者にとって、このような状況は自己責任なのでしょうか?流通・販売業界の不手際の責任を生産者が取らなければいけないのでしょうか?
日本の切り花生産業界が将来に向けて大きく発展するための戦略として、私は「鮮度保証」は適切であるとは思いません。「輸入の切り花ができることを国産の切り花ができないわけはない」という論理を通すためには、生産者ではなく、切り花流通業界がその気になってもらわなければ不可能であると考えます。むしろ、輸入の切り花と同じ品質を求めることは、輸入切り花と同じ土俵で勝負をすることであり、必ずしも国産の切り花が求められている「品質」とは異なっているのではないでしょうか?
★新たな菊の魅力開拓−菊の香りと鎮静効果− (2010/02/11)
菊は奈良時代に中国から日本に渡来し、その後様々な育種が行われて嵯峨菊、肥後菊、伊勢菊、美濃菊、江戸菊などの日本独自の古典的な菊品種が発達しました。しかし、現在の菊のイメージは「葬儀花」です。もし、女性の誕生日に菊の花束を持って行こうものなら「縁起でもない!」と言われかねない状況です。しかし、なぜ葬儀で菊が使われたのかを考えると、葬儀とキクとの間には特別な理由は見あたりません。葬儀の祭壇が作られるようになったのも戦後のことで、葬儀に菊が用いらるようになったのも昭和30年以降のことです。
当然のことながら葬儀は突然訪れます。祭壇を飾るための花として必要な要素は、いつでも大量に入手でき、年中品質が安定していることです。昭和22年頃から愛知県渥美半島で始まった菊の電照栽培によって菊が年中一定量の出荷可能となり、農協としては販路拡大が重要な課題となりました。一方、葬儀業界では葬儀に適した白色や黄色の切花を求めており、菊が大量に年中供給できることに着目し、両者の思惑が一致しました。いつの間にか菊は葬儀花として定着してしまい、これが仇となって販路拡大が困難な状況を招いてしまいました。
菊は日本が誇る育種力の象徴で、まさに和のテイストを持つ切花といえます。テーブルに菊が一輪飾られると心が落ち着きます。菊の香りは爽やかなグリーンの香りを持ち、鎮静効果があり、ストレスを癒す働きがあります。恐らく葬儀の花として用いられた理由の一つとして、近親者を亡くした悲しみのストレスを癒す働きが注目されたのかもしれません。
景気が低迷する中で、多くのサラリーマンはストレスを感じて毎日働いています。日曜日にテーブルに飾られた一輪の菊は「和のテイスト」から視覚的な安らぎを与え、「爽やかなグリーンの香り」が心を癒します。「手ごろな価格」も大切な要素です。
パソコンが得意な菊の生産者の皆さん。ユーチューブ(You Tube)で動画を投稿してみませんか?『通勤電車の中でもみくちゃにされるお父さん。疲れた表情で会社から帰宅するお父さん。画面が変わって日曜日の昼下がり、和風のリビングで椅子に腰掛けるお父さん。テーブルに一輪の菊。窓の外には緑の庭。大きく息を吸い込んだお父さんが「ハァ〜」と満足そうに癒された顔に代わっていく・・・。』
菊っていいなぁ〜。という気持ちにさせる動画配信などはいかがでしょうか?菊の新たな需要開拓に適切ではないでしょうか。
★SAMURAI X(TOYOTA New Mark X)デビュー (2010/02/01)
出張の新幹線の中で読む愛読書「ビッグコミック」の裏表紙を見てビックリ。トヨタのNewマークXの宣伝で、別名が「SAMURAI X」です。佐藤浩市主演のビジネスドラマと連動したキャンペーンが掲載されていました。【pdf file】 (http://gyao.yahoo.co.jp/special/samuraix/index.html)
バラ関係者は「SAMURAI」といえば京成バラ園芸が種苗販売しているメイアン社育成の「サムライ」を思い浮かべます。「SAMURAI X」の広告は黒色を基調とした渋い雰囲気ですが、まさに深紅のバラ・サムライにピッタリの基調です。早速、1/29に静岡県掛川市で開催された日本バラ切り花協会青年部研究会に参加した数人に「Mark Xの取扱販売店TOYOPETに深紅のバラ・サムライを仕掛けてみてください」と伝えました。
連動するビジネスドラマの主演・佐藤浩市さんが本上まなみさんが演ずる女性に深紅のバラ・サムライの花束を渡すシーンは、想像するだけでもバラの消費拡大キャンペーンになることは間違いありません。
しかし、なぜ生産者はこのようなことに気がつかないのでしょうか?バラを作ることばかりに気を遣いすぎて、販売戦略を考える暇がないのでしょうか?同様に、京成バラ園芸はサムライのポスターを作って花き市場には配りますが、他業種とコラボレーションを組んで消費キャンペーンを行うことはありません。バラ生産者に種苗を販売することに気を遣いすぎて、販売戦略を考える暇がないのでしょうか?
今回のトヨタのNewマークX「SAMURAI X」と深紅のバラ「サムライ」が連動できれば、効果的に消費拡大に繋がるような気がしました。
★メルヘンローズのバラがジャパンフラワーセレクション優秀賞 (2010/01/28)
ジャパンフラワーセレクション・フラワー・オブ・ザ・イヤー2009の優秀賞にバラ品種「M-マリーアントワネット」が選ばれ、この品種は同時にモーストジョイ特別賞とモニター特別賞も受賞しました。M-マリーアントワネットは大分県の(有)メルヘンローズが育成した品種です。スプレーバラですが、中輪でカップ咲きの鮮やかなピンクが特徴のバラです。アレンジメントやブライダルブーケにもよく使われており、昨年10月の花時間の付録「切り花のバラ図鑑520」の表紙を飾ったバラです。今回のジャパンフラワーセレクション・フラワー・オブ・ザ・イヤー2009では、このM-マリーアントワネットの他にも、メルヘンローズの「M-ペルジーク」、京成バラ園芸の「レディチャペル」、國枝バラ園の「ピュールパルファン」が受賞しています。これらのバラに共通することは、オールドローズタイプ(M-マリーアントワネット、レディチャペル、M-ペルジーク)と香りのバラ(レディチャペル、ピュールパルファン)です。
15年前から始まった「バラらしくないバラ」と「香りのバラ」の流れが大きな奔流となり始めたことを実感します。
「バラらしくないバラ」であるオールドローズタイプやシャクヤク咲きのバラは,花弁が柔らかく長距離の輸送が難しい欠点を持っています。輸送性を考えて蕾が固いうちに収穫すると、花弁数が多いために完全に咲ききらせることが難しく、本来の柔らかい雰囲気の花を観賞できません。そしてシャクヤク咲きやカップ咲きはアジアの文化だからこそ高く評価できる形といえます。まさに、海外からの輸出が難しい、国内流通に適したバラです。そして「香りのバラ」は日保ち性が悪く、香りの育種は国際流通を目的としたヨーロッパの育種家達が敢えて無視してきた流れです。
この15年間で、日本のバラの育種はようやく世界の表舞台に立とうとしています。日本人が好むバラは、必ずアジアの文化を持つ人達にも好まれます。これまでは、中国への輸出の話をしてもなかなか理解されなかったのですが、中国が世界の経済をリードし始めた今こそ、日本のバラの育種力が世界に羽ばたくグッドタイミングではないでしょうか。
中国国内の知的財産権保護制度の不備を憂慮する前に、着実なマーケティングを行いましょう。世界をリードしていると言われる日本でさえ、30年前はコピー大国と呼ばれた経歴を持っています。アメリカで日本車が焼き討ちにあったのは25年前です。日本での「バラらしくないバラ」の大きなブームは、必ず中国マーケットでも高く評価され始めると考えます。バラ生産者の皆さん、「バラらしくないバラ」を日本オリジナルの大きな流れにしていきませんか!
私が子供の頃は節分といえば豆まきが一般的な行事でした。なぜかお父さんが鬼の面をかぶって鬼の役をして、煎り大豆をぶつけられていた記憶があります。私の子供が小さかった時には、後始末が楽な殻付き落花生を投げ合ったこともありました。ところが今や我が家でも節分には巻き寿司が丸ごと食卓に並ぶようになりました。一体いつ頃から恵方寿司なる風習が広まったのでしょうか?
海苔業界が企画提案し、大きな企画物がなかった2月のキャンペーンとしてコンビニチェーンがそれに乗って仕掛けたことが始まりのようです。20歳前後の若い世代が、チョットしたパーティー気分でどこでも出来るイベントとしてそれに乗って広がりました。また当時は風水ブームがあり、幸運をもたらす方角に対して若い世代が興味を持っていたことも後押ししました。また、「恵方寿司」という漢字ばかりのネーミングは、実は古くからあった忘れられかけた日本の伝統風習のような雰囲気を醸し出したことも良かったようです。
「チョットした手ごろな価格で、皆で一緒に楽しめて、何かラッキーなことに繋がりそう」という遊び心がその底流に流れているように思います。彼らが年齢を重ね、結婚して家族が出来た現在では、家族団らんの一コマを形作る「なにか日本的で、一見古くから伝わる日本の風習」のようにみえるイベントとして今後も定着していくことになるでしょう。これに対して、古来の風習である「鬼は〜外!福は〜内!の豆まきの行事」は部屋の中の掃除と後かたづけが大変なので、恐らく廃れていくのではないでしょうか。
キーワードは、若い年齢層への継続的な仕掛け、遊び心、チョットした手ごろな価格に加えて、最も重要なことは、販売業界が積極的に参画して仕掛けを行ったことではないかと思います。
花生産業界でも「いい夫婦の日(11月22日)に奥様に花を贈ろう」などのイベントを企画して、花の消費を拡大しようという動きがありますが、さっぱり広がりません。その大きな原因の一つとして、販売業界が積極的に動いていないことがあります。恵方寿司でも、最初は「何を馬鹿げたことを」といった感覚でしたが、ファミリーマートが積極的に仕掛け、セブンイレブンが追随して売り上げを伸ばし、あっという間に全国に広がって周りの人が「昨晩、家族皆で恵方寿司を食べてねぇ・・」という話を聞くようになったことで、「恵方寿司を食べないと時代遅れ?」といった気分にさせてしまったことが大きな要因です。いくら「いい夫婦の日(11月22日)」のポスターを作ろうが、生産者のホームページで掲載しようが、本当の意味でのブームを仕掛けるという方向からみると少々的がはずれているような気がします。
「いい夫婦の日(11月22日)に奥様に花を贈ろう」の主役はあくまでも「お父さん」です。花屋さんに立ち寄る機会がほとんど皆無の男性をいかにその気にさせるか?生産業界だけがキャンペーンを張るのではなく、販売業界を巻き込んで、まずは首都圏の私鉄会社やJRと連携して、男性しかみない通勤電車の中吊り広告に「倦怠を感じ始めた奥様に、お父さんからのサプライズ」といった広告を1ヶ月前から出し、男性しか読まない日本経済新聞に「福山雅治(たとえば)が花束を手に持つ広告」を掲載する。帰宅駅の出口に「自宅までの近距離しか花束を持ち歩かなくていいので、恥ずかしくありませんよ!」と 周辺の花屋さんが広告看板を立てて、当日は駅で花束販売を行う。あるいは帰宅途中の一杯飲み屋に1ヶ月前からポスターを貼ってもらって、当日は一杯飲み屋さんでも花束を販売してもらう。販売業界が様々なキャンペーンを積極的に張ることで、お父さんが「ちょっと花でも贈ってみるかなぁ」という気分にさせることが大切ではないでしょうか?
奥さんに花を贈った男性は、必ず「この前花を贈ったらスゴク喜ばれてねぇ・・」と花屋さんに報告に行くことになりますから、店としてもリピーターが増えるメリットがあります。当然鉄道会社や一杯飲み屋さんにもマージンが入ります。
販売業界を巻き込み、販売業界が積極的に乗ってくれることでブームが始まることを恵方寿司は語ってくれています。
★切りバラ品種「サムライ」が最優秀賞を受賞 (2010/01/18)
ジャパンフラワーセレクション・フラワー・オブ・ザ・イヤー2009の最優秀賞にバラ「サムライ」が選ばれました。サムライは赤色のバラで、2年前から京成バラ園芸が苗を販売している切りバラ品種です。日本国内でこれまで赤いバラの主力品種であったローテローゼに比べるとやや大振りの草姿ではあるものの、ビロードがかった深い紅色の花色はローテローゼに代わる赤バラ品種として注目され、この2年間で大量のローテローゼがサムライに改植されたものと推定されます。
ローテローゼは愛知県の浅見均氏によって育成されたバラで、1992年に品種登録された後、日本を代表する赤バラ品種として君臨し続け、2010年に登録期限となります。ローテローゼはこれまで海外で生産された経緯がほとんどなく、2年前に訪問したインドのバラ生産会社Tan Floraでも「日本へのバラ輸出を増加させるためにも是非ともローテローゼを栽培したい」との話題が出ていました。以前のコラムでも述べたように、このローテローゼという日本特有の赤バラ品種の普及が、ケニアやインドなどからの国際商品としての赤バラの輸出を阻止していたことは間違いないと思います。
これに対して、サムライはフランスのメイアン社が育成した品種で国際品種です。サムライが日本の赤バラの地位を確保し、「日本の流通販売で最も評価されている赤バラ品種」となった時、ケニアやインドは日本への輸出を目指してサムライを大量に生産し始めるのではないでしょうか。日本の赤バラの輸入障壁であるローテローゼがなくなったのですから・・!
国際金融危機でアメリカやヨーロッパの経済状況が停滞している中、ケニアやインド、エクアドルは虎視眈々と日本への輸出拡大を考えています。日本育成のローテローゼから国際流通品種であるサムライへの転換が契機となって、国際競争という巨大な渦の中に日本の生産者が飲み込まれなければと願っています。
前回のコラムで、子供の時の実体験が重要な鍵を持つことを述べました。現在の40歳代の人達にターゲットを絞って考えてみましょう。
40歳代の人達が10歳代の時、すなわち30年前の状況を思い起こすと、インベーダーゲームやディスコが流行った時期です。園芸業界では、ゴムやベンジャミン、カポックなどの観葉植物ブームが起き、ブライダルベールなどの吊り鉢が流行したインテリアグリーン全盛期の時代です。40歳代の人達は子供の頃にはマンションで生活しており、その親達は室内装飾に興味を示し、インテリアの充実を志向しており、その中でベンジャミンやカポック、ゴムの木などの観葉植物を中心とするインテリアグリーンがもてはやされていました。40歳代の人達が子供の頃には、家の中に観葉植物が必ずと言ってよいほど飾られており、お母さんと一緒に観葉植物の管理をした経験があります。
すなわち、40歳代が生活にゆとりを感じ始めた時に回帰するものはインテリアの充実であり、園芸業界としてはインテリアグリーンではないかと考えます。
実は、40歳代の女性は既に生活のゆとりを求め始めて行動し始めています。例えば家具&インテリアショップのニトリは2009年度は過去最高益を更新することが確実とのことですし、同様に家具販売のIKEAも業績を伸ばしています。オープンキッチンの販売も好調です。これらに共通するキーワードは「インテリアの充実」であり「インテリアファッション」です。近所のニトリに行くと、アラフォーの女性の後ろからカートを引いた男性がウロウロしている光景がみられます。
40歳代が子供の頃の1980年前後は高度経済成長のまっただ中で、既に農家人口は激減しており、農作業体験は皆無の状況です。40歳代の男性が50歳代になった時に、はたして経験のない野菜作りをするでしょうか?市民農園で野菜作りを10年間やってみて感じることですが、経験のない人が簡単にすぐに取り組めるほど野菜作りは簡単ではありません。恐らく、団塊の世代の高齢化に伴って野菜苗ブームは近い将来次第に衰退し始めると考えます。それに代わってインテリアグリーンが注目され始めるでしょう。同様に、室内装飾としての切花が再び注目され始めます。
15年間の氷河期を堪え忍んでこられた観葉植物生産者の皆さん!これから明るい将来が見え始めてきています!ただし、ダサイ観葉植物ではなく、ニトリやIKEAとコラボレーションできる商材の開発が重要なキーワードです。
切花生産者の皆さん!現在の市場価格は生産コストを割り始めていますが、再び注目される時が必ずやってきます!ただし、素材産業ではなく、フラワーデザイナー(生花店)と連携した商品提案が重要です。住宅展示場やTHE CONRAN SHOP (ザ・コンランショップ)などのインテリアショップとのコラボレーションが重要なキーワードです。
時代の流れを読んで、それに対して適切に対応し始めた生産者だけが、これから生き残れることだけは間違いないことだと考えます。
★野菜苗ブームと1990年代のガーデニングブームとの関係 (2010/01/07)
園芸店やホームセンターで野菜苗がブームとなっています。主要な顧客層は60歳前後の団塊の世代の男性です。岐阜の田舎にとどまらず、都市部でも市民農園が各所で開設されており、いずれも活況を呈しています。また、NHKの趣味の園芸などでも野菜作りのコーナーに力が入っています。
団塊の世代が10歳代の子供の頃は周辺は皆農家で、総人口に対する農家の割合は45%に達していました。至る所に農地があり、畑仕事を子供の頃に手伝わされた経験を持っています。
団塊の世代は、企業戦士として活躍してきた高度経済成長の中で農業から離れて生活してきましたが、実体験に基づく「農作業に対するあこがれ(郷愁)」を持ち続け暮らしてきた年代です。平均寿命が延びて、退職後の年数が長いことに加えて、企業戦士として戦ってきたことに対する精神的な疲れから「ゆとりの生活志向」が高まり、加えて、年金の目減りへの心配から自給的な生活対策や、農作物への農薬汚染問題から安心・安全な食生活への意識の高まりも「野菜作り」への関心が高まっている理由の一つかもしれません。
このように現在の野菜作りブームは、60歳前後の団塊の世代の男性が子供の頃の「農業体験」に基づいて、時間的余裕が生まれた50歳代から始まった現象といえます。
さて、団塊の世代の女性について考えてみましょう。男性が生活のゆとりを感じ始めるのは定年が目の前に見え始めた50歳代ですが、女性は子供が中学生から高校生となり子育てが一段落し始める40歳代です。団塊の世代の女性がこの年齢に達し始めたのは1990年代です。団塊の世代の女性の子供の頃の体験は男性と同じですが、さすがに野菜作りには向かいませんでした。1990年代に40歳代の団塊の世代の女性が目指したのが「ガーデニング」です。土と親しみ、ガーデニングで花を育てることで心の豊かさを感じ、玄関先を花で飾ることで見栄が満たされます。すなわち、団塊の世代の女性が人生のゆとりを求めて「子供の頃の畑仕事のお手伝い」体験に基づいて行ったものが「ガーデニング」であり、その10年後に男性が始めたのが「野菜作り」といえ、両者の間には共通した「子供の頃の農作業体験」が隠れていることになります。
このように、女性は男性よりも10年早く動き始めます。現在の40歳代の女性がどのような子供の頃の体験をしていたかを考え、その動きを見極めることが、10年後の男性の動きを探ることに繋がります。特に男性の購買行動は、女性と比べると格段に価格帯が高く、経済性を無視した購買行動が特徴です。例えば、私も岐阜市の市民農園で10年前から野菜作りをしていますが、毎年30平米の畑の借地料が12000円で、5000円の堆肥を投入し、特殊な品種にこだわって1株100円の苗を買って作った白菜をみて、家内は「お父さんが作る白菜は高くつく。スーパーで買った方が格段に安い」とのたまいますが、一向に気にするつもりはありません。もし、男性が園芸文化を支えると大きな経済行動に繋がることは間違いなく、400円のブランドトマトの苗が飛ぶように売れていく現在の園芸店やホームセンターの店頭を表しているのではないでしょうか。
では、この野菜苗ブームはいつまで続くのでしょう。その鍵は、現在40歳代の男性が50歳代になった時に野菜作りを目指すのかどうかに掛かっていますし、その動きは既に40歳代の女性が始めているといえます。
寅年の年頭に当たって、メール年賀状を作成いたしました。ご覧下さい
PDF files
昨年は、大学の業務が急増して、この「教授の一言コラム」も開店休業状態となってしまいました。
今年も大学業務が山積していますが、この「教授の一言コラム」だけは何とか維持していきたいと思います。
よろしくお願いいたします。