高陽市花き生産団地
(韓国,高陽市)
2011年2月28日に研究室の卒業旅行で韓国ソウルを訪問し、多幸園芸の青山英子社長の案内で、高陽市の花き生産団地を訪問しました。
高陽市花き生産団地は高陽市が土地を購入してハウスを建設して農家に貸与するレンタル方式の生産団地で、2007年に開設されました。1軒あたりの面積は1400uで、45農家が入っており、3年ごとに契約を更新しています。ベンチや加温施設などの装備は自前ですが、農家が高陽市に支払う土地・建物借用料は100万ウォン/月(73,000円)です。生産している作目は鉢物、バラ切花、サボテンなどです。
ホームセンターのケーヨーと輸出契約を結んでおり、毎週40フィートのコンテナ1本が船便で下関まで輸出されています。
高陽市はソウルの北にあるため冬季の温度は低く、施設栽培では完全な防寒設備が必要です。
ハウスはいずれも2重構造になっており、最低でも2重カーテン、なかには4重カーテンの設備を備えた施設もありました。
高陽市の夏の気温は高く、30〜35℃になります。高温を避けるために外部遮光装置が設置された施設が多くみられました。
アロカシアの生産
10cmポットと4号鉢のアロカシアをプールベンチで生産していました。
中国から輸入した培養苗を用いて生産しています。培養苗は培地に含まれるサイトカイニンの影響を受けて幼若性を獲得しているため、培養苗を順化して栽培した後に発生する子株を用いて生産を行っています。
ケーヨーへの輸出は10cmポットが主体です。培地は日本輸出を考えて、植物検疫上問題のないスリランカから輸入したココピートを用いています。
施設には補光を行うための高圧ナトリウムランプが設置されていました。
生産コストを下げるために、外国人労働者を雇用していました。
ポインセチアの生産
ポインセチアでは、補光と長日処理を兼ねて高圧ナトリウムランプでの照明が行われていました。訪問した日は天候が悪く雪混じりの日でしたので、ポインセチアの生産施設では昼間でも補光が行われていました。
補光の効果を高めるためにCO2施与が行われていました。CO2施与装置は日本のネポン社製でした。はCO2濃度は1000ppmで制御されていました。
カランコエの生産
カランコエはフィデス社の品種を生産し、周年生産を行っています。フィデス社とは親株からの挿し穂の自家増殖契約を結んでおり、親株維持区画では花芽分化を抑制するための蛍光灯と生育促進用の高圧ナトリウムランプが併設されていました。
日本へもカランコエは輸出されており、100〜150箱を隔週で出荷しています。
暖房は小型の送風電気ヒーターが用いられており、1400uに48台が設置されています。カランコエの周年生産では短日処理と長日処理が同時に行われるため、施設を区画ごとに分けて生産する必要があるため、小型の送風電気ヒーターを用いているとのことでした。
暖房機の能力が小さいため、施設内の温度ムラをなくするためのジェットファンが設置されていました。
ビンカ(ニチニチソウ)の生産
第一園芸のビンカの新品種を年間5万ポット生産していました。この品種については日本への輸出はせず国内販売のみの契約とのことでした。
プラグトレーを用いて挿し木を行い、発根したものをポットに移植して苗物として出荷します。挿し木は電気温床装置が用いられており、発根したものはプールベンチで栽培します。
リーガースベゴニアの生産
ベトナムからリーガースベゴニアの苗を輸入して生産しています。花芽分化を抑制するための長日処理は蛍光灯で行っていました。長日処理用の蛍光灯は日本では見かけない形の蛍光灯でした。
生産はマット吸水で行われており、残念なことに疫病が発生していました。かなり被害はひどく、病気が蔓延し始めており、防除方法のアドバイスをしました。
韓国では農業指導員制度がないとのことで、病気などの問題が生じた時には農業技術センターに直接相談して対応するしか方法がないとのことです。45農家で形成される高陽市の花き生産団地であれば、例えば毎月5千円ずつ出し合って退職された技術者を専門の技術相談員として雇用することも可能ではないかとも思いました。
アジサイの生産
成長促進を目的とした補光施設を全面に設置して生産が行われていました。補光は12〜3月の間に高圧ナトリウムランプで6:00〜9:00と18:00〜24:00に行われています。高圧ナトリウムランプからの放熱で、補光を行っている間の暖房は必要ないとのことでした。トランス(変圧器)が温室内に並んでいる様子は壮観です。恐らく、トランスから出る熱も暖房用に活用しているものと思います。
左下の写真の大型電気温風暖房機は65kWの能力があり、購入金額は1500万ウォン(110万円)です。1400uの温室で2台設置して最低気温を20℃で維持していました。
補助用に温風電気暖房機もありました(右下)。
ミニバラの生産
韓国でのミニバラ鉢物生産は比較的新しく、底面吸水マットでの生産が行われていました。培地は調整ピートモスが用いられており、日本への輸出も行われています。
切りバラ生産
すべての施設に高圧ナトリウムランプが設置されており、暖房は電気ヒーターで行われていました。電気料金の補助制度があるため電気代は極めて安く、補光や暖房経費を含めて60万円/1500u/月とのことです。電気料金の補助は、補光や暖房など様々なランクがあるようで、50〜100%の補助率とのことです。そして、輸出するとさらに補助制度が適用され、苗代も補助で購入できます。このような補助制度のおかげで、25円/本(生産者価格)で充分に経営が成り立つとのことでした。
炭酸ガスボンベを用いてCO2施与が行われていました。
ヨトウの防除に集蛾装置が設置されていました。ウドンコ病の防除にはイオウの薫蒸装置が用いられています。
天敵の導入が積極的に行われています。天敵は韓国製で、チリカブリダニ製剤でした。天敵の導入も補助制度があるとのことです。
その他の生産品目
韓国でもハーブが流行しているようで、プランターのハーブ寄せ植えセットやキッチンハーブなどが生産されていました。
韓国の暖房装置
暖房装置は電気ヒーターが主流です。様々なタイプの電気暖房装置が設置されています。
なかには練炭暖房装置がありました。練炭の燃焼時間は6〜12時間ですので、練炭の補給と灰の除去作業が必要です。練炭の補給作業は外国人労働者に頼っているとのことでした。
現在は使用されていないようですが、水冷式冷却機がバラの生産施設に設置されていました。
環境制御はかなり進んでいるようで、すべての施設にはセンサーが設置されており、センサーに基づいた環境制御が行われています。
高陽市でみた高圧ナトリウムランプの色々な種類です。日本ではGAVITA社が多く導入されていますが、韓国製のランプのようです。
韓国では、FTA(自由貿易協定)締結に伴う農業保証として、補助金で施設生産電気料金を低価格保証しています。日本の電気料金と比較すると1/10と格安価格です。以前は灯油価格補助をしていたそうですが、市場への横流しが横行したため電気料金補助に変わったそうです。この電気料金補助政策によって、様々な電気を用いた設備が設置されていました。
日本では暖房機は重油温風暖房機が主流で、電気を用いた暖房は一部バラ生産などでヒートポンプが導入されているにすぎません。韓国では電気料金補助政策のもと、電気暖房設備が導入されており、さらに、補光設備がほとんどの生産温室に導入されていました。