研究内容
- インドネシア原産植物に含有する生理活性物質の探索
- タンザニア原産植物が産生する二次代謝物の構造解析と化学変換
- 岐阜産育成品種濃姫(苺)に含有する抗アレルギー物質の同定
- グリコサミノグリカン生合成阻害剤の合成
- 含セレンβ-ラクタム系抗生物質類縁体の合成
- グリコシルケンフェライドの三糖部構築
- 新規ヘテロ環状化合物の合成
- セレン導入試薬の開発
- 新規ヘテロ環状化合物の生理活性
- ウロソン酸の立体選択的グリコシドの合成
■ インドネシア原産植物に含有する生理活性物質の探索
インドネシアの熱帯雨林には、多くの未利用植物が自生している。我々は、西スマトラ島リンボーパンチの森で Eniconsanthum membranifolium Sinclairを採取した。Eniconsanthum membranifolium Sinclairはバンレイシ科に属す双子葉植物である。この植物はいまだ植物化学的研究が成されていなかったため、我々は含有する有用物質の探索を行った。
Eniconsanthum membranifolium Sinclairをメタノール抽出し、n-ヘキサン、酢酸エチル、n-ブタノールで液-液分配した。続いてシリカゲルやSephadex LH-20の充填剤を用いたカラムクロマトグラフィー、ODSカラムを用いた液体高速クロマログラフィー(HPLC)や再結晶等の分画手法を駆使してn-ヘキサン層よりR-(-)-mellein、酢酸エチル層よりN-trans-feruloyltyramineやclerodermic acid、n-ブタノール層よりsalicifoline chlorideを単離した。R-(-)-melleinとsalicifoline chlorideは単結晶X線構造解析を行い、絶対構造を明らかにした。
また、N-trans-feruloyltyramineがメラノサイトに作用し、チロシナーゼの活性や合成を阻害し、メラニン生成を抑制することを見出した。これは、美白化粧品(医薬部外品)の有効成分として使用されているコウジ酸よりも強いものであった。
また、clerodermic acidのガン細胞に対するアポトーシス誘導作用を明らかにした。
- [参考文献]
- M. Efdi, et al., Biol. Pharm. Bull., 30, 1972-1974 (2007).
- M. Efdi, et al., Bioorg. Med. Chem., 15, 3667 (2007).
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■ タンザニア原産植物が産生する二次代謝物の構造解析と化学変換
アフリカ熱帯地域では多くの薬用植物が民間薬として利用されている。我々が研究試料としたStrychnos cocculoidesは、マチン科マチン属に分類され、タンザニアではこの植物の根や樹皮を解熱、鎮痛、毒蛇に咬まれた際の解毒薬として用いている。その果実はモンキーオレンジと呼ばれ、食されている。我々は、まずこの植物が産生する二次代謝物の同定を試みた。
Strychnos cocculoidesの根や樹皮をメタノール抽出し、シリカゲルやSephadex LH-20の充填剤を用いたカラムクロマトグラフィー、再結晶等の分画手法を駆使してイリドイド配糖体二量体cocculoside、イリドイド配糖体morroniside、loganic acid、loganin、芳香族配糖体kelampyoside A、2-hydroxy-5-O-β-D-glucopyranosylbenzoic acid、環状モノテルペンsarraceninを単離した。
イリドイド配糖体二量体cocculosideはMS、IRスペクトルや1D-(1H、13C、DEPT)、2D-NMR(COSY、HMBC、HMQC、NOESY)等の構造解析の結果、新規物質であったため、植物の学識名より名付けた。
また、この植物から多量に単離されたイリドイド配糖体morronisideをヨウ素(触媒)存在下、アセトン溶媒で各種アルコールとの反応を行い、7位水酸基をエーテル(アルコキシ基)へと変換した。そしてこのエーテル誘導体を用いてガン細胞に対する細胞毒性を測定したところ、炭素鎖が長く、疎水性が増すほど活性が増加する傾向があることを明らかにした。
- [参考文献]
- F. Sunghwa, et al., Chem. Pharm. Bull., 57, 112-115 (2009).
- F. Sunghwa, et al., Nat. Prod. Res., 23, 1408-1415 (2009).
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■ 岐阜県育成品種 濃姫(苺)に含有する抗アレルギー物質の同定
岐阜県では、平成18年度から20年度に掛けて地域連携型技術開発プロジェクト研究「天然由来の健康有用物質の探索と実用化」として岐阜県の主要な農産物から健康有用物質を探索し、県内産農産物の振興の政策が施行されている。本学では、平成19年度から本プロジェクトに参画し、研究を開始した。本研究では、岐阜県産の濃姫(苺)の抗アレルギー作用を中心にその活性本体の探索と高付加価値化の可能性を追求することを目的とした。
まず、濃姫を搾汁し、この搾汁残渣をメタノール抽出して搾汁液とメタノール抽出物を得た。これらをシリカゲル、Sephadex LH-20、Amberlite XAD-7HP等の充填剤を用いたカラムクロマトグラフィー、ODSカラムを用いた液体高速クロマログラフィー(HPLC)や再結晶等の分画手法を駆使して多くの芳香族物質を単離した。これらのうち、4つのフラボノイドを用いて抗アレルギー試験を行った。
4つのフラボノイドともに抗原刺激による脱顆粒(ヒスタミン遊離)作用を抑制したが、その中でもchrysin、kaempferolは強いものであった。
次に細胞内のカルシウム濃度を測定したところ、これらの4つのフラボノイドは濃度上昇を抑制していた。このことから細胞内へのカルシウム流入を抑制していることが推測された。細胞内へのカルシウム流入を制御する因子の一つである抗原刺激の際に産生される細胞内の活性酸素種(ROS)量を測定した結果、TI(CCは若干低下)はROSの濃度がPositive Control群よりも低下させた。
kaempferolは抗原刺激による脱顆粒を引き起こす細胞内情報伝達の上流で作用するSrc family kinaseの一種であるSykのリン酸化を抑制し、脱顆粒をブロックしていることが示唆された。また、各物質の抗酸化活性をDPPHラジカル捕捉能により評価したところ、活性は非常に弱いと示唆されたため、抗原刺激により発生したROSを消去していなことが推察された。おそらく抗原刺激の際に活性化されるNADPHオキシダーゼの活性化を阻害することでROSの産生を抑制しているものと考えている。
- [参考文献]
- T. Itoh, et al., Bioorg. Med. Chem., 17, 5374-5379 (2009).
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■ 含セレンβ-ラクタム系抗生物質類縁体の合成
β-ラクタム系抗生物質は、その名の通りβ-ラクタム(四員環ラクタム)構造を有し、有名なものにはペニシリンやセファロスポリンがある。ペニシリンは1929年、Alexander Flemingによってアオカビ(Penicillium notatum)培養液より発見された。セファロスポリンはGiuseppe Brotzuによってカビの一種(Cephalosporium acremonium)の培地より発見された。これらは、β-ラクタム構造に加えてヘテロ環を有しているが、近年、含セレン環を有するβ-ラクタム系抗生物質の合成および生理活性に関する研究が成されている。我々は、簡便な含セレンβ-ラクタム系抗生物質類縁体の合成を目的として研究を行った。
まず、セレン化剤を用いて中間体を調製した。これらはセレン原子上にトリメチルシリルエチル(TSE)基を有するため、活性化することによってセレン原子からの求核攻撃により含セレン環を形成することが可能である。
中間体より様々な含セレンβ-ラクタム系抗生物質類縁体の合成を達成した。また、このうち、selenacephem-IIIを用いてMRSA(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus)、MSSA(Methicillin-sensitive Staphylococcus aureus)に対する抗菌試験(ペーパーディスク法)を行ったところ、小さかったが阻止円を確認した。
- [参考文献]
- H. Ishihara, et al., Synthesis, 371 (1987).
- K. Tani, et al., J. Am. Chem. Soc., 124, 5960 (2002).
- D. R. Garud, et al., Org. Lett., 9, 4455-4458 (2007).
- D. R. Garud, et al., Org. Lett., 10, 3319-3322 (2008).
- D. R. Garud, M. Koketsu, Org. Biomol. Chem., 7, 2591-2598 (2009).
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■ 新規ヘテロ環状化合物の合成
- 第一セレノアミドを用いた環状化合物
- 1,3-セレナジンおよび1,3-チアジンの調整
- ビスアシルクロリドとの反応
- ハロアシルハライドとの反応
- セレノアザジエンを用いた環状化合物
- アセチレンジカルボン酸(DMAD)との反応
- ハロアシルハライドとの反応
- TiCl4と亜鉛を用いた環状化合物
- 4,5-ジヒドロセレノフェンとの反応
- セレノケテンと第一アミンとの環化反応
- 5,6-ジヒドロセレニンとの反応
- β-セレノラクタムの合成
- 1,4-オキサセレニンの合成
■ セレン導入試薬の開発
- セレノカルボン酸カリウム塩
- 合成方法
- 応用例
- LiAlHSeH
- 合成方法
- 応用例
■ 新規ヘテロ環状化合物の生理活性
After HT-1080 cells (1 x 104 cells/well) seeded into the 96-well plate were preincubated for 48 hr, the culture was replaced by the medium containing various concentration (0.1 mM-100 mM) of compounds and incubated for another 24 hr. The survival cells were determined by crystal violet method. Each assay was performed in triplicate.
セレナジンの中でTS-2とTS-6のみが、ガン細胞に対して強い増殖阻害効果を示した。他のセレナジンは阻害効果を示さなかった。 また、TS-2, TS-6と同様の構造を持ちセレン元素が硫黄元素に置き換わったPT-2, PT-6もまったく阻害効果を示さず, セレナジンの中でもTS-2,TS-6の構造が活性に重要であることが判明した。
1,3-セレナジンは、ガン細胞のアポトーシス(細胞死)を誘導した。ガン細胞のDNA(遺伝子)を断片化した。ガン関連酵素であるプロテインキナーゼの特異的な阻害効果を有することが明らかとなった。
■ ウロソン酸の立体選択的グリコシドの合成
KDOを含むウロソン酸は、ガンの転移・細胞接着・ウイルスや毒素のレセプター作用など様々な有効な作用が知られている。 ウロソン酸は、天然ではα結合した多糖として存在し、これらの合成においてグリコシド結合の立体選択性は、最も重要な目的のひとつである。 しかしながら、これまでKDOを含む糖鎖の合成では、α、βの混合物であったり、β体のみが得られる場合が多く見られた。 また、α選択的に合成された例では非常に多くのステップを必要とし実用性に乏しい方法であった。
近年我々は、ウロソン酸のC-グリコシドのα選択的糖鎖の合成法を確立してきた。 (J. Am. Chem. Soc., 119, 1480, 1997; Tetrahedron Lett., 39, 5007, 1998; Carbohydr. Res., 308, 1998; J. Org. Chem., 64, 7254, 1999.) しかしながら、KDOの場合のみ、逆のβ選択的に糖鎖が合成された。これは、シアル酸とKDNの場合、2C5型を しているのに対し、KDOは、5C2型を形成しているためその立体選択性は、シアル酸・KDNの場合と完全に逆であり、 KDOのα選択性を持たせるためにはかなりの工夫が必要であった。
この課題を解決するため立体的にかさ高いt-BuエステルをKDOに導入することによりKDOのアノマー位をα型に固定しKDOのα選択的糖鎖の合成に成功した。