成果の普及

年次報告会


地域環境変動適応研究センターでは、センター内部での情報共有と今後のさまざまな連携につなげるべく、年次報告会を開催しております。 年度ごとに当センターがおこなった活動、研究などについての報告と、来年度の活動計画について意見交換します。 年次報告書代わりにサマリーをまとめて掲載しています。



2020(令和2)年度年次報告会 2021/3/23

【日時】2021年 3月23日(火)9:00~12:00
【形式】zoomウェビナー



<第1部 活動報告>

1.センター活動報告
2.岐阜県気候変動適応センター事業報告
3.来年度の活動計画について(計画案の説明と意見交換)



<第2部 研究プロジェクト紹介>1.岐阜県気候変動適応センター共同研究(2020年度課題)

温暖化に伴うカキの影響評価と転換品目を含めた栽培適地マップの作成/山田邦夫(農業適応研究部門)
岐阜県の名産品である富有柿の栽培適地について、3種の気候モデル(GCM)を用い、現在から今世紀後半にかけて1kmメッシュでの栽培適地評価を行った。 柿については9月の気温上昇による着色不良が適地スコアを低下させる主要因となった。 代替作物としてアボカド、レモン、グレープフルーツを検討した結果、アボカドについては耐寒性付与が必要であることが明らかであるが、 その他の条件については今後精査し、予測の精度を高めていく必要がある。



森林・中山間農業における雪害・風害リスクの将来予測/斎藤琢(森林研究部門)
森林冠雪害(倒木、幹折れなど)、農業雪害(ビニールハウスの倒壊など)について、岐阜県における危険度を1kmメッシュで評価した。 5種の気候モデル(GCM)を用い、現在気候(1980/81~2004/05年の25冬季)に対する将来気候(2026/27~2050/51年の25冬季)の差分によって危険日の増加・減少を評価した。 森林冠雪害については、いずれの気候モデル、将来予測シナリオ(RCP2.6、RCP8.5)でも、県北部で危険日日数が増加する傾向にあった。 一方、多くの将来予測では、県中南部の多くの地域で冠雪害危険日が減少する傾向にあった。 農地雪害については、日積雪量が農業用ハウスの限界荷重を上回る危険日日数を判定した。 現在気候において無補強ハウスと比べると強化ハウスの危険日日数は顕著に少なく、強化ハウスの効果が明瞭に表れた。 将来予測では、いずれの気候モデル、シナリオでも、県北部で農地雪害の危険性が増加し、 県中南部域では、農地雪害危険日が減少する傾向にあり、特に県北部でハウス強化などの対応が必要であることが明らかとなった。



洪水・土砂災害発生頻度の増加と人口減少の複合影響評価/小山真紀(社会システム研究部門)
岐阜県における洪水及び土砂災害の規模・頻度の増加を鑑み、現在から将来にかけての災害曝露状況(施設、人口、支援者数、要支援者数)を明らかにした。 国勢調査の基本単位区BUBを用い、洪水は計画規模(L1)、想定最大規模(L2)、土砂災害は警戒区域(イエローゾーン)と特別警戒区域(レッドゾーン)の両方について分析した。 避難行動要支援者と支援可能者の比率に着目すると、現時点において既に要支援者一人あたりの支援可能者が4人を切っている地域が中山間地域に広がっており、 将来より厳しい状況になることが明らかになった。



将来気候における岐阜県の台風や豪雨の温暖化影響評価/吉野純(地域気候研究部門)
長期間の気候変動予測モデルプロダクトd4PDFや独自の高解像度気象モデルを用い、将来気候下における台風や豪雨が岐阜県に及ぼす影響について分析した。 豪雨については、d4PDFから、過去気象、4℃上昇の気候下において岐阜県に100年に一度の豪雨が発生した際の気象場の特徴を、地上気圧分布についての主成分分析によって天気図の特徴を抽出した。 前線に台風等の低気圧が関わる際の豪雨がより将来強化される傾向が明らかになった。 令和元年東日本台風が異なる進路をたどった場合に、岐阜県にもたらされる最悪ケースの評価では、伊勢湾台風以上の積算降水量となることが明らかになった。 さらに擬似温暖化した状態で東日本台風が最悪コースをたどった場合、降水量差分は紀伊半島で最大200~300mm増加し、より大きな被害を発生させうることが明らかになった。



<第2部 研究プロジェクト紹介>2.岐阜県気候変動適応センター共同研究(2021年度予定分の概要紹介)

温暖化に伴うクリ品種の収穫期に及ぼす影響と産地別品種マップの作成/山田邦夫(農業適応研究部門)
クリの収穫期に及ぼす影響について検討し、クリ栽培種品種選定に役立てる予定。 「丹沢」、「筑波」等の品種ごとに収穫期予測式を岐阜県の過去40年分の記録に適用し検証した上で、気候モデルと組み合わせて将来予測を行う。



温暖化に伴うジャンボタニシによる水稲への影響評価と被害軽減に向けた対策/伊藤健吾(水環境研究部門)
イネ食害を起こすジャンボタニシが暖冬によって越冬個体が増え、分布拡大してきている。 ジャンボタニシの越冬条件について整理し、現地観測や地温予測モデル等と組み合わせて、越冬可能性について検討する。 対策についても併せて検討を行う。



豪雨災害の増加と都市における災害リスクの評価及び課題分析/高木朗義・小山真紀(社会システム研究部門)
現在の都市計画と災害リスクの関係性について実態把握するとともに、居住誘導区域の防災計画立案のための基礎資料を整理する。 都市計画以外にも、農業地域、網掛けのない白地などが、経年的にどのように開発されてきたか、 岐阜県下における土地利用の変化が災害曝露人口・財産をどのように変遷させてきたかについても分析し、将来を検討するための基盤として分析する。



<第2部 研究プロジェクト紹介>3.外部資金による研究プロジェクト紹介

環境研究総合推進費/永山滋也(水環境研究部門)
本研究では、岐阜大、岐阜県水産研究所、(国研)土木研究所の共同研究により、水防災・農地・河川生態系・産業文化に及ぶ複合的な気候変動影響を地域視点で総合評価する手法を構築する(サブテーマ1)。 さらに、2015年に世界農業遺産「清流長良川の鮎」として認定され、地域循環共生圏の先進モデルとされる「長良川システム」を持続するため、 河川生態系と地域の産業・文化活動に気候変動が及ぼす影響評価手法の開発から適応策の立案までを、地域のステークホルダーとの協働により実現する(サブテーマ2)。



RISTEX政策のための科学/乃田啓吾(水環境研究部門)
課題名は「生態系サービスの見える化による住民参加型制度の実現可能性評価と政策形成過程への貢献」で、総合推進費課題の成果を下地として、農業インフラの維持管理を検討することが狙いとして申請した。 日本の灌漑排水システムに対して、多面的機能を生態系サービスとして評価し、日本型直接支払い制度の適用を検討する。プロジェクト愛称はVESPa。



ムーンショット型研究開発制度・新たな目標検討/村岡裕由(森林研究部門)
JSTムーンショット型研究開発制度で既に7つの目標に対する研究課題が動いている。 現在、新たな目標を追加する公募がされ、2020年度に21チームが採択された。生物多様性分野、生態系保全管理を真正面から扱った提案としては唯一。強靭な生態-社会共生体の実現に向けて、検討を進めている。 カーボン・コアリッションに岐阜大学として参加するにあたり、岐阜大学内部の調整を行った結果、 岐阜県気候変動適応センター、流域圏科学研究センター高山試験地等についてインプットし、3/23夕方開催の学長サミットで報告される見込み。



その他話題提供/関連する研究プロジェクト/等

● 農業農村工学会のアイデア公募に採択。位置情報ゲームで農村地域の交流人口を増やしたい。学生グループを構成して取り組むことを検討中。(小島、乃田)
● 気象数値予報と水文モデルと生態適地モデルを組み合わせた釣り日和予報システムを民間と共同開発中。(原田、吉野)
● 教材開発のためにはカリキュラムマネジメントが必要。(小山)