教え方のポイント

日本語指導が必要な子供たちが在籍する学級で授業を行う時に,教師が教え方を少し工夫することで,日本語指導が必要な子供たちの授業内容の理解に役立つのではないだろうか。
そこで,日本語指導が必要な子供たちが多く暮らす地域の,初期日本語指導教室や取り出し教室において,これらの子供たちに教える時に教師たちがどのような点に配慮しながら教え方に工夫を施しているかを調査しました。その調査結果をもとに,日本語指導が必要な子供たちが在籍する学級で,教師はどのような点に配慮・工夫しながら授業を行うことができるかを,6つの学習場面に分けて紹介します。

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場面 ① 新しい言葉を覚えさせたい

児童は授業内はもちろん、授業外でも様々な単語や文に触れます。それらの言葉を覚えることで、語彙力が上がり、児童は自分の気持ちを豊かに表現できるようになります。

教え方のポイント

文字と意味と発音をセットにして教える

意味は視覚化したり動作化したりして伝えます。文字は見せるだけでなく、書かせることも大切です。発音は先生の発音を聞かせたり、児童にも発音させたりしましょう。体の様々な感覚器官を使って覚えさせることがポイントです。
※視覚化や動作化については場面②を参照してください。

ねこという言葉を絵と文字と音声で同時に説明

活用させる

使用法や背景知識を補足して、場面を変えて活用させます。場面は児童にとって身近なものがよいです。

事例|教師の働きかけ

  • 『委員会』がわかりましたね。
  • ○○小学校には『給食委員会』や『放送委員会』や『美化委員会』があります。
  • △△さんは何委員会に入りたいですか。

掲示する

教科書に出てくる重要語句や覚えにくい言葉は教室内に掲示していつでも見られるようにしましょう。その際、ただ重要語句を書き出して並べるのではなく、意味の難しい語句は児童の知っている言葉や簡単な言葉で言い換えたり、一目で意味を確認できるように表にまとめたりしましょう。

掲示板の算数コーナーで加減乗除の記号と用語を説明する掲示物

キーワードを示す

焦点化して教えることが大切です。また文章だけでなく、視覚的にどこが大切かを一目でわかるようにすることで、児童が板書を頑張って写せるようになります。

広さの説明を板書する時の良い例と悪い例

※注意
新しく出てきた言葉にはルビを振りましょう。しかし、2回目以降はなくして思い出させるようにしましょう。

先輩からのアドバイス

漢字を覚えさせるための工夫

漢字は国語以外の活動や教科でも、また日本で生活していく上でも大切です。外国人児童にとって漢字は難しく興味を持てないことも多いので、成り立ちや用法、偏(へん)や旁(つくり)にも触れ、楽しく自分から学びたいと思えるような工夫を行いましょう。

  • イメージを持たせる(例:「しんにょう」は人間が正座している様子)
  • 補助線入りのマスで形に気を付けさせる
  • 友達と一画ずつ交互に書かせて書き順を意識させる
  • 部首とつくりのパズル
  • 漢字で神経衰弱(「例:「漢字カード」と「ひらがな(読み方)カード」または「漢字カード」と「絵カード」を使い、2つを合わせて取らせる。)
  • 漢字でカルタ(例:「漢字カード」だけを並べておいて、読み仮名を言ったり、その漢字を表すイラストなどを見せてカードを取らせる。)

語彙力を高める

小学校1、2年の児童は、外国人児童であるかどうかにかかわらず語彙力が低いため、学級全体で語彙力を高めるための取り組みをしてもよいかもしれません。そこで忘れていけないのは、外国人児童には他の児童と同じように接すること、しかし同じ活動をしても時間がかかるのが外国人児童です。適切な支援を行いながら進めることが大切です。

場面 ② 単語の意味を理解させたい

児童に単語の意味を理解させるためには、まずは教員がその単語の意味をしっかりと理解しておく必要があります。その上で児童に単語の意味を理解させるための工夫を以下に示します。

教え方のポイント

辞書の使用

一つ一つの言葉の意味をしっかりとおさえることは大切ですが、授業中はそこまで丁寧に確認できないので、まずは前後の文や視覚的な情報を頼りに想像して読み進め、後から辞書などで調べられるとよいですね。

辞書を使うことで、単語の意味だけでなく、使い方も知ることができます。また、調べた単語 に付箋を貼ったり、マーカーを引かせたりすることで、「どんどん単語を覚えている」という実感が得られます。さらに、辞書を使う習慣ができると、授業外でも気になった単語があったら意味を調べることができ、学びの場が増え、学習意欲の向上にもつながると考えられます。

辞書を使っている児童

分解

単語を分解することで意味を伝えやすくなることがあります。

事例|単語の分解

  • すね当て →「すね」に「当てる」
  • 焼肉 →「肉」を「焼く」

視覚化

「百聞は一見に如かず」です。視覚物には、実物、絵、写真などがあります。絵や写真はインターネットにつながったテレビモニターがあれば、すぐ映し出すことができます。ICT を積極的に活用しましょう。また、視覚物を利用することは、児童の理解を促すだけでなく、児童の注意をも引くことができ、授業にメリハリをつけることができます。

もみじをイラストと実物を使って説明

動作化

意味を身体で表現させます。例えば「会釈」の意味を「軽く一礼すること」と言葉で言うよりも、実際の動作で示した方が、児童にとってイメージがしやすく実生活ともつなげやすくなります。

※注意
文化によって動作に込められた意味が異なるため、動作化が有効でない場合があります。例えば、日本で誰かを呼ぶときに手の平を下にして「おいでおいで」と上下に振りますが、このジェスチャーはアメリカでは「あっち行って」の意味になります。

活用させる

活用することで意味を一般化できるようになります。

事例|教師の働きかけ

  • 『花だん』がわかりましたね。
  • では、○○小学校には『花だん』はありますか。

言い換える

児童に自分たちの知っている言葉に言い換えさせることで、意味を理解させることができ ます。

※注意
言い換えることは理解を促す際には大切ですが、言い換える前の形で今後も出てくるので、そのまま覚えさせましょう。

終了をおわりと言い換える

先輩からのアドバイス

関連語や対義語も教えよう

例えば「川沿い」という言葉を教えるときに、「道沿い」という言葉にも触れましょう。川沿いの説明で「○〇沿い」の意味がわかっていれば、「道沿い」という言葉も児童から引き出すことができます。また、「地下」という言葉を教えるときには「地上」という言葉にも触れましょう。「上」と「下」という既習の概念の活用にもなります。

このように、関連語や対義語にも触れることで、語彙力が上がり、またその言葉の意味理解の深化にもつながります。

場面 ③ 概念を理解させたい

小学校では、「倍」や「民主主義」など様々な概念を身に付けます。概念は簡単に言い換えができたり、1枚の写真や絵で表したりすることができません。

教え方のポイント

視覚化

概念を言葉だけで理解させることはとても難しいです。教科書の図や表など様々なものを使って視覚的に示すことが大切です。

大きい魚は小さい魚のいくつ分を図で示す

動作化

いくつかのジェスチャーを組み合わせて劇のようなストーリーの中で理解させたり、実際に活動して気付かせたりしましょう。

事例|ペットボトルで「気圧」を説明

  • ペットボトルにお湯を注ぎ、数回振る。
  • お湯をこぼし、ふたをする。
  • 質問:「ペットボトルはどうして潰れてしまったのだろう。」

事例|「熱中する」という状況を説明

  • 設定の説明:「私は読書に熱中しています。」
  • 本を取り出し、熱心に集中して読んでいる様子を見せる。

言い換える

児童が知っている言葉に言い換えることで、意味を理解させることができます。

事例|言い換え方法

  • 「口ぐせ」 → 「いつも言う言葉」
  • 「いまだに」 → 「まだ」
  • 「つゆ」 → 「六月から七月半ばごろまでふる雨」

活用させる

活用することで意味を一般化できるようになります。また、概念の意味を理解できているかどうかも簡単にはわからないことがあるので、理解の度合いを確かめるときにも使うことができます。

事例|児童に質問する

  • 教師:『家族』がわかりましたね。では、○○さんの家族は何人いますか。
  • 児童:私の家族は△人います。

※児童には「△(人)」と単語で答えさせるのでなく、文で答えさせるようにしましょう。

事例|児童の生活に関連する例文を作る

  • 「めったに〜ない」の例文:「めったに納豆を食べない。」
  • 「いまだに」の例文:「四年生になっても、いまだに一年生の漢字を練習している。」

先輩からのアドバイス

時間をかけて教える

時間をかけて教えることが大切です。しかし、教え過ぎないようにしなくてはなりません。教え込むというより、児童の中にある概念理解の手がかりを呼び起こす・引き出すことが大切です。

また、概念の意味を短時間(1時間の授業内など)で理解させることは難しいので、単元の学習を進める中で、文作りをしたり、何度か触れたりしましょう。そして、その後、国語の他の単元や他教科、日常生活でその学習語彙が出てきたときに「その言葉、あの勉強のときにも出てきたな」「あ、そういう意味だったな」と思い出せるようにしておくことがポイントです。

それでも、やはり理解が難しいようなら、通訳さんに母語で説明してもらいましょう。児童の「わかった!そういうことか!」という言葉が聞けるととても嬉しくなりますよ。上手く伝えられなくて、悩むこともありますが、言葉は通じなくても気持ちは通じます。頑張って!

場面 ④ 意見を言えるようにしたい

自分の意見を言えない原因は、質問の答えが分からないと いうものの他にも、質問の意味がわからない、答え方がわからない、恥ずかしいなど様々です。児童をよく観察し、個別で話を聞くなどして、原因を見つけ、それにあった支援を行いましょう。

教え方のポイント

すぐに言える言葉を教える

「ちょっと待ってください」など、とりあえず言える言葉を教えておきましょう。意見を言えない のは、聞かれたことをまだ頭の中で整理しているからかもしれません。とりあえず何かを答えられることで児童も落ち着くことができます。

質問を変える

「○○はどうですか。」という質問は外国人児童にとってとても難しいです。ノートを見れば答えられるような質問に変えたり、選択肢を出してそれを選んでもらうようにしたりすると答えられるかもしれません。

質問の仕方の例

言い方の手本を掲示しておく

答え方の見本を教室に掲示しておくことで、答えやすくなります。

事例|言い方のお手本1

  • 「わたしは○○だと思います。」
  • 「○○さんと同じで~。」

事例|言い方のお手本2

  • 「まず(はじめに)~(ですね)。」
  • 「次に~、そして~、理由は~。」
  • 「だから~となります。(どうですか。)」

友達の発表を真似させる

友達の答えを聞くことで、質問の意味や答え方がわかることがあります。

友達の答えから答え方を知る

多様な表現方法を認める

質問に対する答え方を言葉に限定せず、例えば絵を描く、動くなどの表現方法も認めると、児童の素敵な考えを見つけられるかもしれません。

事例|設問に対する多様な答え方

主人公の気持ちを,言葉,体,絵でそれぞれ表現する児童

先輩からのアドバイス

傾聴する

学級全体で聞く態度を育てましょう。発表のときのルール(仲間の話は最後まで聞くなど)を示しておくのもよいでしょう。また、否定的なフィードバックはしないようにしましょう。少しでも発表出来たら褒めてあげることが大切です。

場面 ⑤ 作文を書かせたい

無理やりやらせるのではなく、児童が書きたいというようなきっかけ作りから工夫していけるとよいですね。作文は何度も書くとどんどん上手くなっていきます。児童の成長にも目を向けましょう。

教え方のポイント

書く内容を決める

箇条書きや動作や絵で作文に書きたいことを表現させたり、インタビュー形式で聞き出したりして書く内容を決めます。また書きたい内容が思いつかない場合には、児童の日頃の生活を見て教師が提案するのもよいでしょう。

目標を明確にする

ただ書かせるのではなく、今回の作文ではどこに気を付けてほしいかを伝えます。一度で完璧な作文を作ることは難しいです。毎回の作文で一つずつできることを増やしていきましょう。

  • 教員が書いたものを視写できる。
  • キーワードを入れるだけの穴あきのワークシートを完成させることができる。
  • 単文を作ることができる。
  • 助詞や接続詞の使い方や、「はじめ」「中」「終わり」を意識して書くことができる。
お手本を見ながら文章を書く児童

添削をする

添削は少しずつ行いましょう。丁寧に間違えた箇所を一つずつ指導することも大切ですが、児童が「間違いばかりで、もう嫌だ。」となってしまわないように注意します。直されたところを 視写させたり、なぞらせたりするだけでもとても効果があります。

また、添削では間違っているところを指摘することも大切ですが、良かったところも見つけて褒めてあげることも大切です。「誰が」「どこで」「何を」「どうした」が全部入っています!

作文を添削しながら,それを児童に教える教師

先輩からのアドバイス

学習語彙の単文作り

国語の授業で出てくる学習語彙の意味を確認した後に、その語彙を使って単文作りをしましょう。日ごろから単文でもよいので、文章を書く習慣を持つことが大切です。学習語彙の単文作りでは、学習語彙の意味を理解しているかの確認と作文指導ができて一石二鳥です。

作文嫌いの児童をつくらないで

作文は自分の思いをしっかりと伝えられ、また、見返したときにそのときのことを思い出すことのできる記録になるものです。書くという行為が嫌いでも、児童には「感じる心」や「書きたい材料」が必ずあります。教師はこの気持ちを大切にして、支援できるとよいと思います。

場面 ⑥ 既習事項を思い出させたい

新しいことを教えるときには、既習事項を振り返らせます。これは、これから始まる新しい学習内容と今まで学習したことを関連付けるためです。

教え方のポイント

視覚化

前回までの学習で使った教材を見せながら話をしたり、学習内容を構造化したものを教室に掲示しておくことも大切です。また、国語の物語文や説明文の内容の確認のときには教科書の挿絵や言葉を実際に並べ替えさせます。

文の構造を3つの絵を並べて説明する教師
これまでに覚えた九九の段の掲示を見ている児童

キーワードに絞る

毎回の授業で大切だったことをキーワードとしてしっかりとおさえます。特に教科独特の用語は忘れてしまうことが多いです。 一度に多くのことを覚えるのは難しいですよね。授業内では、どこが重要なのかということを常に意識しながら指導にあたりましょう。

復習問題をやらせる

言葉で思い出させるのではなく、実際に問題を解いて思い出させます。前回の学習内容を思い出させるときにも、一学年前の学習内容を思い出させるときにも有効です。

1学年前のドリルを児童に渡す教師

学習の足跡を残すようにさせる

毎回の授業の最後に、授業のまとめを自分の言葉で言わせたり、ノートに書かせたりします。そのためには授業内容を理解していなくてはいけません。この冊子に掲載されている様々な工夫や配慮を行って、児童が自分のまとめをしっかりと書けるようにしましょう。

自分の学習ポートフォリオを確認する児童

先輩からのアドバイス

アウトプットの場を大切にする

児童にたくさん話をさせましょう。既習事項の整理ができるだけでなく、授業内で発言し、それが位置づけられることで児童の学習の意欲も高まります。また、児童にたくさん話をさせるためには、教師の話を少なくする必要があります。これは、端的でわかりやすい指示や発問をすることにつながります。

外国人児童の中には宿題をなかなかやってこない児童も多いため、アウトプットの時間を授業内に積極的に設けるようにしましょう。余談ですが、宿題をやってこないというところでは、保護者の方に連絡をして協力をお願いしたり、宿題をやってきたことを褒めたりすることが大切です。褒めるときにも視覚化は有効で、例えば、宿題を全部やってくるとスタンプがもらえ、スタンプが全部貯まったら賞状がもらえるというようにするのもよいでしょう。

参考情報日本語指導が必要な子供たちを教えるために

ユニバーサルデザインを取り入れた授業

ユニバーサルデザインを取り入れた授業とは、「配慮の必要な児童にとっては、なくてはならない支援」であり、「全ての児童にとっては、あると便利な支援」を行うことで全ての児童が「わかった」「できた」を感じることのできる授業のことです。つまり、外国人児童にとってなくてはならない支援を行うことは、他の児童のためにもなるのです。

授業の流れの明確化や統一化を行うこともここに含まれます。授業の流れを最初に視覚的に示しましたり、毎回の授業の流れを統一したりしておくと、児童が授業の中で活動の見通しを持って活動することができ、安心して授業を受けることができます。また、指示は一文一意にしましょう。余分な言い換えをしないことも大切です。外国人児童は言い換えられた言葉もまた新しい別の意味の言葉だと認識してしまい、混乱してしまうことがあります。

外国人児童に関連する情報や教材

外国人児童に関連する情報や教材はインターネット上から入手できます。ここでは,日本語指導が必要な子供たちが在籍する学級で授業を行う時に役立つ情報が掲載されている主なウェブサイトを紹介します。

文部科学省「外国人児童生徒受入れの手引
第4章では,在籍学級担任の役割について紹介されています。在籍学級担任が外国人児童生徒等の受入れ体制をどう作るのか,外国人児童生徒等の受入れ時にどのような指導が必要なのか,保護者への対応はどうしたらよいかなどが説明されています。
文部科学省「CLARINETへようこそ
文部科学省が運用している在外教育,外国・外国人児童生徒等教育等に関するウェブサイト。日本語指導が必要な児童生徒を対象とした「特別の教育課程」の編成・実施に関する情報も掲載されています。
文部科学省「学校教育におけるJSLカリキュラム
「3 日本語指導」では,日本語の初期指導から教科指導につながる段階の日本語指導が必要な子供たちのための学習支援方法「学校教育におけるJSL(Japanese as a Second Language:第二言語としての日本語)カリキュラム」が,小学校と中学校に分けて紹介されています。
文部科学省「かすたねっと
日本語指導が必要な子供を含めた外国につながりのある児童・生徒の学習を支援する情報検索サイトです。教材だけでなく,保護者へのお知らせに利用できる多言語対応の文書も入手できます。

DLA(Dialogic Language Assessment for Japanese as a Second Language)

DLA とは、文部科学省によって開発された紙筆テストや集団テストでは測ることのできない文化的・言語的に多様な背景を持つ児童生徒の学習言語能力を測るための評価法です。DLA を行うことで、児童生徒の言語能力を把握すると同時に、どのような学習支援が必要か、また児童生徒が何をどのように学んでいるかを知ることができます。DLA はネットに上がっているので、積極的に活用しましょう。