腫瘍病理実習書

その2




05-5330 Mastopathy 乳腺症

乳腺症は、良性疾患なので乳癌との鑑別が大切である。組織像は、乳腺の上皮と間質における増生・退縮・化生などの変化が複合してみられ、それらが一つの局面を形成している状態である。代表としては、嚢胞とアポクリン化生、線維化が代表される。他には、乳管乳頭腫症、小葉増生症、閉塞性腺症、硬化性腺症などの組織所見もある範囲にまとまって認められる。 乳管乳頭腫症は、乳管内で乳上皮細胞が増生し、腺腔を形成している。腺腔の形状が不整で、大きさも様々である。  小葉増生症は、小葉の腺房数、腺房の中の細胞数両方が増加した組織所見である。 閉塞性腺症は、やや拡張した腺房のような小腺管が複数集蔟した病変である。周囲の線維組織の増生は乏しい。 硬化性腺症は、腺房様の小腺管が複数集蔟した病変で、腺管周囲には線維組織の増生を伴っている。閉塞性腺症と同様に小葉単位の病変で、両者の中間的な組織像を呈するものも少なからず存在する。 本例では、低倍率で嚢胞が容易に確認できる。嚢胞は小葉内拡張と癒合により嚢胞が生じる。嚢胞壁を覆う上皮、乳管上皮細胞は、アポクリン顆粒がみられることがあり、アポクリン化生と呼ばれる、アポクリン化生を伴った上皮は、断頭状を示し、HE染色で好酸性、顆粒状が広い細胞質を持ち、核小体が目立つ。  また、嚢胞の周囲は、線維化がおこる。これは、破裂した嚢胞から分泌物が周囲間質に漏出する結果、慢性炎症と線維化がおこる。

Mastopathy
Mastopathy

910150 Breast cancer + metastatic lung tumor

この標本は、浸潤性微小乳頭がんと転移性肺がんである。浸潤性微小乳頭がんは分葉状で境界が比較的明瞭な充実性腫瘤を形成しており、内部は空虚な組織間隙中に浸潤性癌包巣が浮遊している。空隙の内面には内皮細胞の皮覆を認めず、間質成分は網の目あるいは肺胞壁のように細いのが認められた。特徴的な細胞配列は細胞表面すなわち通常の腺上皮で見られる管腔面が胞巣の最外層に存在している。 転移性肺癌では一部で核のN/C比が高く、浸潤性乳頭がんと思われる腫瘤がみられるため、転移したものと思われる。

Breast cancer
Breast cancer
Breast cancer
Breast cancer

82-1122 Papillary carcinoma of thyroid gland(甲状腺乳頭癌)

乳頭癌は甲状腺癌の60~70%を占め、一般に発育は遅い。多くは境界明瞭な結節性病変であるが、浸潤性あるいは多発性の病巣を認めることもある。核所見(すりガラス様核、核内封入体、核溝)に特徴があり、核所見から診断されることもある。  標本では、腫瘍血管を中心とし、腫瘍細胞が乳頭状に増生している。また、下の写真の↑の部分では核内封入体、核溝(コーヒー豆のようなもの)を認める。また、腫瘍細胞は通常の濾胞上皮に比べると核異型が強く、核が大きい。
Papillary carcinoma
Papillary carcinoma

70-222 Papillotubular carcinoma

乳頭腺管癌は全乳癌の20%を占める、浸潤癌である。二種類の乳癌が含まれ、一つは乳管内癌巣を主体とし比較的小さな間質浸潤巣を伴うもの、もう一つは間質浸潤が主体でその形態が高分化であり、乳頭管状あるいは管状の型をとり浸潤するものである。  この標本では、乳管内に軽度の核異型を伴う腫瘍細胞が充実性または篩状に増殖し、一部乳管内には壊死物質がつまり、面疱型の様相を呈している。また、間質には筋上皮細胞を付随した二重構造を伴わない浸潤像を観察することができ、その形態は腺腔構造を伴わない比較的低分化なもので、軽度の核異型がある。先に述べた分類でいえば、前者にあたるといえるであろう。
Papillotubular carcinoma
Papillotubular carcinoma

69‐2356 Squamous cell carcinoma of the skin (扁平上皮癌)

扁平上皮癌は表皮ケラチノサイトへの分化を示す悪性上皮腫瘍であり、表皮下面から細い索状、幅広い円錐状に神秘に侵入する。また、高分化な細胞では角化・細胞間橋がみられる。また、分化度により以下の4つのGradeに分類される。  G1:75%以上が分化した細胞(細胞間橋・角化真珠あり)であり、比較的境界明瞭である。  G2:分化した細胞成分は50−75で、しばしば低分化(細胞間橋なし・境界不明瞭)な部分 を認める。細胞異型度は高度である。  G3:未分化細胞(角化真珠・細胞間橋なし)が過半数(75%まで)を占め、核分裂像、小型不 完全角化、単細胞角化を多数認める。  G4:ほぼ全細胞(75%以上)が未分化な異型細胞で占められ、個々の腫瘍細胞紡錘形となり、 悪性黒色腫または線維肉腫との鑑別が難しくなる。  標本では比較的高分化な細胞芽多く見られ、細胞間橋・角化真珠を認める。また、間質へのリンパ球浸潤も認める。このことから標本はG1であると考えられる。(皮膚病理学:シュプリンンガー・フェアラーク東京)
Squamous cell carcinoma of the skin
Squamous cell carcinoma of the skin

TCH-1014 Pulmonary adenocarcinoma (肺腺癌)

肺の上皮細胞は腺上皮細胞であるので肺の上皮性の悪性腫瘍の基本形は腺癌である。肺腺癌は組織学的に腺房型、乳頭型、細気管支肺胞上皮型(bronchioloalveolar carcinoma:BAC)、粘液充実型、混合型に細分類される。  標本では腫瘍細胞が血管中心性に乳頭状増殖している。また、血管を中心とした線維化も認められる。
Pulmonary adenocarcinoma
Pulmonary adenocarcinoma

410 Leiomyoma accompanying leiomyosarcoma of the uterus

平滑筋肉腫は稀な腫瘍であり、多くは閉経後の女性に発生する。典型的な平滑筋肉腫はその高い細胞密度、著しい核の多形性、異型分裂像を含む高頻度の核分裂像および腫瘍境界部の浸潤性所見により平滑筋腫とは区別される。
leiomyosarcoma
leiomyosarcoma

78-1384 Malignant melanoma ;skin (悪性黒色腫)

悪性黒色腫は、上皮においてメラニンを産生するメラノサイトが癌化した悪性腫瘍である。悪性腫瘍の中でも転移能が高く、予後不良である。 肉眼上では、病変はクラーク分類で結節型をしいる。顕微鏡下では、メラニン沈着部が病変部中央に関して非対称性に分布し、孤立性壊死像もみられる。メラノサイトの増殖も確認できるほか、細胞所見では核分裂像、核異型、多形性が認められ、細胞形は上皮様の形態を示すものが多い。原発巣は3.0mmを超え、PT分類ではT3bと評価される。腫瘍細胞は真皮網状層にまで浸潤しており、メラノサイトのグレードであるクラークレベルではステージWである。
Malignant melanoma

193 Teratoma (奇形腫)

奇形腫は内胚葉、中胚葉、外胚葉に由来する成分が混合してみられる胚細胞腫瘍である。原始生殖細胞に由来するため性腺、縦隔、後腹膜に好発する。  顕微鏡下では下画像右から軟骨、平滑筋、脂肪組織、腺上皮、呼吸上皮などさまざまな構造が観察でき、肺の組織像のように見える。腺上皮は一部で過形成を伴っているが、核異型は認められない。
Papillotubular carcinoma

971526 Squamous cell metaplasia ; uterine cervix (扁平上皮化生)

子宮頸部には扁平上皮と円柱上皮の2種類の上皮が存在し、その境界部をsquamo-colummar junction;SCJと呼ぶ。扁平上皮化生とは、円柱上皮で覆われていた組織が、物理的または化学的刺激によって扁平上皮に置き換わることである。顕微鏡下ではSCJを超えて円柱上皮に移行した部分より先に、扁平上皮様の上皮成分で覆われた部位を確認することができる。
Squamous cell metaplasia

70-1392 Follicular adenoma of the thyroid gland (甲状腺濾胞腺腫)

濾胞腺腫は濾胞への分化を示す良性腫瘍である。線維性被膜により被包されているが、この被膜内にあるかどうかは診断に重要である。被膜に浸潤しているものは濾胞癌で、していないものが濾胞腺腫であり、細胞の異型度はこの差に関与しない。 濾胞状増殖には多くのパターンが見られる。 @ 胎芽性腺腫・・・索状構造が顕著であり、濾胞形成は乏しくコロイドをごくわずかにしか、あるいは全く持たない。 A 胎児性腺腫・・・@と同様の細胞であるが、わずかにコロイドをためた小濾胞を形成する傾向にある。本例はこれだと考える。 B 単純性腺腫・・・正常の量のコロイドを持った成熟濾胞を示す C コロイド腺腫・・・単純腺腫より大きく多量のコロイド含んでいる D 好酸性細胞腺腫・・・腫瘍は小さくそろった核と豊富な好酸性の細胞質から成り、コロイドは少ない充実性腫瘍である。 E 異型腺腫・・・分裂像、細胞密度の増加、核異型がはっきりしない被膜侵襲を示す濾胞性腫瘍であるが、確実に癌とは診断できないものを示す  本例は胎児性腺腫であると考えられる。下図では、通常の濾胞より鮮やかな赤に染まっているが、これは標本が古いためである。
 Follicular adenoma

C 939 Small cell carcinoma of the lung (小細胞癌)

小型の細胞からなる悪性上皮性腫瘍である。腫瘍細胞は、円形、卵円形、または紡錘形などの形態を示し、細胞質は乏しく、細胞境界は不明瞭である。結合性が弱いため、細胞が挫滅しやすい。核は微細顆粒状のクロマチンを有し、核小体はないか、あっても目立たない。核分裂像が多い。
Small cell carcinoma
Small cell carcinoma



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