タ イ ト ル 更新年月日 日本のバラ産業の活性化
−特別なバラを提案する−2014/10/14 日本のバラ産業の活性化
−バラの香りの提案−2014/10/03 日本のバラ産業の活性化
−バラの歴史を知る−2014/09/30 日本のバラ産業の活性化
−生販連携による消費の拡大−2014/09/24 日本のバラ産業の活性化
−ガーデンローズと切り花との連携−2014/09/22 日本のバラ産業の活性化
−消費ニーズの把握−2014/09/17 日本のバラ産業の活性化
−バラの印象は年代によって異なる−2014/09/16 日本のバラ産業の活性化
−消費者が欲しくなるバラを提案する−2014/09/04 日本のバラ産業の活性化
−データに基づくマーケティング−2014/09/01 日本のバラ産業の活性化
−設備投資と生産技術の向上−2014/08/28 日本のバラ産業の活性化
−オリジナル品種の育成−2014/08/25 日本のバラ産業の活性化
−衰退の原因を探る−2014/08/22 専門店での情報提供の意味 2014/08/18 園芸店が目指す方向 2014/07/21 園芸店・生花店の出前講義 2014/07/08 園芸店・生花店の減少 2014/07/04 花の輸出戦略(その1)国際化には生産効率の向上が必要? 2014/02/23 2014年を迎えて 2014/01/04
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★日本のバラ産業の活性化−特別なバラを提案する− (2014/10/14)
2010年頃から切り花の市場価格がやや持ち直しているものの、依然と低価格で推移しています。1995年頃までは、切り花の価格は2Lが最も高く、L、M、Sと規格が低くなるに従って大きく低下していたため、バラ生産者はとにかく高価格な長尺ものを収穫することに励んでいました。2000年以降になると景気の低迷を受けて業務用のニーズが低下して2L規格の市場価格が1/2程度まで下がりました。
生産者は収益を高めるために高価格で取引される切りバラの収穫を目指しますが、現在の花き市場では高価格のバラが見当たらない状況です。バブル景気の頃は高品質なものほど高価格という方程式があったのですが、「高品質」の定義が不確定になってきています。花径が大きく、発色が良く、葉に傷がないなどの基準は高品質の切り花として当然満たすべきものですが、これによって価格が上昇することはありません。
では、どのようなバラが高く評価されて高価格で取引されるのでしょうか。
マーケティングを語る方は「欲しい物を、欲しい人に、欲しい時に」と言われますが、「欲しい物」は人によって異なっており、物日でない限り「欲しい時」も定まりません。
これまで農産物は「大きさ」、「長さ」、「色合い」などの基準で品質が評価され、価格が決まりました。しかし、成熟したマーケットではこれらの基準が作用しなくなっており、『感性に訴える違い』が要求されています。キクでは「フルブルーム・マム(ディスパッド・マム)」がそうです。見た目で明らかに違いが判る「豪華さ」は、これまでの菊とは違うという感性が働き、新たな利用方法が開拓されることで高価格を生み出しています。
バラではどのようなものがあるのでしょうか。
切りバラのほとんどの品種はブッシュ・ローズ(木立性)に分類されており、収穫される切りバラはまっすぐに直立したバラです。これに対してガーデンローズの多くはシュラブ・ローズ(半つる性)の品種です。シュラブ・ローズはしなやかにカーブした切り花として収穫できます。「消費者ニーズの把握と的確な商品提供−効率的な流通に適さないバラの生産−(2005/03/30)」で述べたように、女性は「しなやかにカーブした切り花」が大好きです。半つる性のシュラブ・ローズ品種は通常の仕立て方で栽培すると収量性が低く、採算が合いませんが、仕立て方法や選花基準を変えることで充分な切り花本数を確保することができます。当然、見た目が明らかに違います。女性の生花店主は、間違いなくこの「かわいらしさ」を評価して高価格で購入してもらえるでしょう。
ドイツ南東部のフランクフルト近郊に自然咲きのバラ産地があります。見た目も、温室栽培したバラと比べて明らかに花が大きく、発色が鮮明で、茎がしっかりしているため花保ちが格段に長いのが特徴で、高価格で取引されています。自然咲きですので、出荷期間は周年ではなく5月から10月の短期間です(日本だと5〜6月と10〜11月)。しかし、温室や暖房設備は不要で、簡単なビニールパイプハウスの雨除け栽培のため、設備費がかからず生産経費は格安であるため、収益性は温室栽培のバラとは比較にならないほど高くなります。5〜6月と10〜11月の時期は全国各地のバラ園でバラ祭が開催されている時期です。何よりも「この時期しか手に入らない期間限定の自然咲きのバラ」というキャッチコピーは消費者を引きつけることでしょう。
「高品質なバラ」とは生産者や花き市場が決めるものではなく、生花店や消費者が決めるものです。ただし、「病気がなく、花径が大きく、発色が良く、葉に傷がないバラが高品質なバラ」という当たり前のことを言う生花店の言葉には耳を傾ける必要がないかもしれません。
★日本のバラ産業の活性化−バラの香りの提案− (2014/10/03)
資生堂研究所が世界に先駆けてバラの香りを科学的に解明し、「ダマスク・クラシック」、「ダマスク・モダン」、「ティー」、「フルーティ」、「ブルー」、「スパイシー」、「ミルラ」の7種類の香りを明らかにしました。
この7種類のバラの香りの情報は、バラを専門とする方々の間ではかなり一般的な事実として認識されており、新潟県長岡市の越後丘陵公園のバラ園「香りのエリア」では6種類のバラの香りを体感することができます。しかし、バラの生産者や生花店の中にはこれらのバラの香りを識別できない方が多くおられますし、バラの香りに種類があることを知らない方もおられます。ましてや、生花店にバラを買いに来る女性で7種類のバラの香りを嗅ぎ分けられる方はほとんどいません。
しかし、香りの異なるバラを女性の目の前に置いて、「このバラとこちらのバラは香りが違うでしょ?」と言うと、「確かに違う」と実感していただけますし、ほとんどの女性は「バラの香りに種類があるなんて知らなかった。今日は本当に得した気分です。」と言われます。
現在、花き市場に出荷されているバラは花色と花型で区別され、品種ごとに50本単位で取引されています。これを『ダマスク・モダンの香りミックス』や『フルーティの香りミックス』として5品種混合で1ケースにして出荷してはいかがでしょうか。当然、バラの香りの情報を満載したチラシも入れてください。
これを購入した生花店は、必ずバラの香りの情報をインターネットで探し始めますし、生産者の所に問い合わせをすることでしょう。そして、入手した情報は必ず来店される消費者に伝えたいと思います。そして何よりも、生花店の方はバラの香りを嗅ぎ分けられるようになるでしょう。
アメリカバラ協会の会長は「香りのないバラは笑わぬ美人と同じ」といい、イギリス王立バラ協会の会長George Taylor氏は「香りはバラの魂であり、香りのないバラは花ではない(Fragrance is the soul of the rose, without it, the flower is nothing)」と述べています。
香りはバラの魂です。もっとバラの香りを大切にしましょう。そして、バラの魂だからこそ、香りは人を魅了させることができます。
★日本のバラ産業の活性化−バラの歴史を知る− (2014/09/30)
バラの品種改良の歴史は「人の文化の歴史」そのものです。バラは、ヨーロッパと中国で独自に発展しました。
ヨーロッパではローマ時代に香りの文化としてバラが発展しました。イラン・イラク周辺に自生していたRosa gallicaとRosa x damascenaを起源とするガリカ・ローズとダマスク・ローズの品種群がローマ時代に育成され、「バラ水」の原料として栽培されていました。バラは権力の象徴として用いられ、クレオパトラはバラの花で埋め尽くした客間にアントニウスを迎え入れたといわれおり、皇帝ネロは宴会でバラの花を天井から降らせたと伝えられています。
ローマ時代の衰退と共にこれらのバラはいったん失われますが、十字軍遠征によってイラン・イラク周辺で栽培されていたものが再発見され、フランス王国に持ち帰られます。バラは、まさに古代ローマ文化の復興「ルネッサンス」の象徴であり、ボッティチェリのビーナス誕生にはRosa gallica、Rosa centifolia、Rosa albaが描かれています。そして、バラをこよなく愛したルイ16世王妃のマリー・アントワネットによって「ベルサイユのバラ」が花開きます。
しかし、このヨーロッパのバラは香料「バラ水」の原料としての扱いであり、一季咲きのバラであったため、現在の観賞用のバラではありませんし、花色も、白色・ピンク色・赤紫色程度の変化しかありませんでした。とはいえ、バラが栽培されていたバラ園は香り豊かであったことは想像に違いません。
中国のバラの育種の歴史も紀元前の前漢の時代に遡ります。漢の武帝の宮殿にはバラ園があったと記述されており、唐の時代の絹絵などにも多くのバラが描かれています。中国のバラの歴史は「庭園観賞用のバラ」の育成の歴史です。香りはそれほど重要視されていませんが、花色は赤色・白色・ピンク色・淡黄色・赤紫色と豊富で、一重から八重、剣弁咲きや丸弁咲きまで花型も豊富です。そして何より、四季咲き性であったことが特徴です。日本には鎌倉時代後期の1309年には庚申薔薇(長春花)として渡来していました。中国でのバラの育種は明と清の王朝時代に大きく進化し、22品種の名前が記載されています。
ヨーロッパは大航海時代をむかえ、東インド会社に代表されるアジアの植民地化が進みます。1792〜1824年にかけて、中国からヨーロッパに4種類のバラが渡ります。月月紅(Slateris Crimson China)、月月粉(Parson’s Pink China)、彩暈香水月季(Hume’s Blush Tea-scented China)、淡黄香水月季(Park’s Yellow Tea-scented China)の4品種です。
これらのヨーロッパに渡った中国のバラ品種は、ナポレオンの王妃ジョセフィーヌによって、現代バラの礎が作られます。中国のバラによって「四季咲き」、「紅色」、「淡黄色」、「剣弁咲き」、「Teaの香り」の特性がヨーロッパの古代バラに導入され、現代バラである「ハイブリッド・ティ」が完成します。
そして、1900年にはフランスの育種家Pernet-Ducherによって、イラン・イラクに自生するRosa foetidaが交配されて「黄色・オレンジ色のバラ」が生まれることになります。
バラは「赤いバラ」の印象ですが、1800年に中国のバラがヨーロッパに渡ったことで生まれました。そして、100年前までは「黄色・オレンジ色のバラ」はこの世になかったのです。
現在の切り花品種は、ローマ時代のアントニウスとクレオパトラが関わり、皇帝ネロが愛し、そして漢の武帝が好んだバラがそのルーツです。そして、バラをこよなく愛したマリー・アントワネットによって「ベルサイユのバラ」が生まれ、ナポレオンの王妃ジョセフィーヌが現代バラの礎を作りました。
バラの育種の歴史は、まさに「人の文化の歴史」です。私が分担執筆した『品種改良の世界史・作物編(悠書館出版)』にバラの育種の歴史が詳しく書いてあります。バラの歴史を知ることで、バラの価値を一層高めることができます。
今年の5月から朝日新聞から何度も取材を受けています。10月5日の日曜版「GLOBE」の特集でバラを取り扱っていただけるようです。記事の全体はまだ明らかになっていませんが、ヨーロッパと中国のバラの育種の歴史や世界を駆け巡るバラの国際流通など、私の知っている知識をほとんどすべて提供しています。楽しみにしてください。
★日本のバラ産業の活性化−生販連携による消費の拡大− (2014/09/24)
残念ながら、切りバラ業界では生産者と販売店との情報が乖離しています。ましてや種苗会社と販売店が情報交換することはほとんどありません。バラがどのように栽培されているのか。生産者がどのような思いを込めて切り花を生産しているのか。今年デビューした新品種は何か。このような情報は、販売に当たって重要なPR要素であるにもかかわらず、情報が伝わることはありませんでした。
家電業界でも食品業界でも、消費者の声や販売店の声を大切にし、それを商品開発の積極的に活用しています。消費者からのクレーム情報や販売店からの改善指示情報は、次の商品を開発する時の第一歩のはずです。しかし、生産者はクレームを「いちゃもん」ととらえて耳をふさぎ、花き市場は「直接個人の農家に言っても仕方が無い」と伝達を怠っていました。
以前のコラム「生産者の選ぶ花と生花店の選ぶ花(2008/04/22)」で、生産者の好みと生花店の好みが大きく異なっていることを述べました。そして、「生花店から種苗業界への要望(2006/11/27)」で、生花店が新品種のカタログを欲しがっていることを述べました。
バラ生産者の皆さん。自分が生産している品種の独自のカタログを作って、市場に出荷したバラを購入してくれているトップ20店舗の生花店の方々に配布しませんか。昨年の実績で良いので、年間出荷実績表を作って配布しませんか。1年1回で良いので、トップ20店舗に生産施設を見に来てもらいませんか。そして、新品種を導入する時には種苗会社のカタログをコピーしてトップ20店舗に送付して、新品種に対する要望を聞いてみませんか。(著作権の問題があるかもしれませんが、種苗会社はこれを認めてやって下さい。)
消費者の声を一人一人聞くことは不可能ですし、生花店ごとに顧客層が異なるため、一般論での消費ニーズの収集は意味がありません。しかし、自分のバラを年間継続して買ってくれているトップ20店舗の生花店の顧客情報とニーズ情報は、生産者自身の消費ニーズ情報そのものです。
ついつい花き市場の担当者に「うちのバラの評価はどうですか?」と聞きたくなりますが、市場から得られる評価は一般論でしかありません。花き市場に足を運んで、直接トップ20店舗の生花店の声を聞いてみませんか。生産施設を見に来てもらって一緒に語り合いませんか。近くのビジネスホテルの宿泊費と食事代であれば、極めて効率的な営業費の支出です。
生花店の皆さん。年間購入しているトップ5軒の生産者の所に行ってみませんか。生産者一人一人の生産にかける思いを聞くと、「ヨシ!頑張って売ってみよう!」っていう気持ちが沸いてきます。バラの品種にかける思いは、販売する際の消費者に伝える「うんちく」の貴重な情報源です。できれば、自分のお店で売りたいバラを生産者に提案してみませんか。生産者を訪問するための交通費は極めて効率的な営業費の支出です。
生産者と販売店の連携こそが、バラの消費の拡大の第一歩です。
★日本のバラ産業の活性化−ガーデンローズと切り花との連携− (2014/09/22)
切り花とガーデンローズはまったく異なるマーケットです。切り花は生花店で販売され、ガーデンローズは園芸店で販売されています。
しかし、消費者は意外と共通しているのも事実です。以前に、イングリッシュローズの聞き取り調査を行った所、イングリッシュローズの切り花消費者は庭でイングリッシュローズを栽培しています。庭で栽培しているイングリッシュローズは家の前を通る人に見てもらうために植えてあり、道路に面した庭のフェンスに沿って植えられています。私から見ると「庭のバラを切って玄関に活ければ良いのに、もったいない」と思いますが、庭のイングリッシュローズは道行く人達に見てもらうためのバラですので、「咲いている花は切りたくない」のだそうです。そのため、敢えて別の品種のイングリッシュローズの切り花を購入していました。
ガーデンローズ品種は切り花品種と違って株当たりの開花数が少なく、切り花生産性が低いため、ガーデンローズ品種が切り花生産されることは極めて稀です。しかし、イングリッシュローズの切り花を例に取るまでもなく、ガーデンローズの名花といわれる品種の切り花は一般の切り花の数倍の価格で販売されています。
毎年春になると、どこの園芸店でも「ローズフェア」を開催しています。しかし、ガーデンローズは2年苗を花付きのポット植えで販売しているため、株が未熟であることやポットで栽培されていることもあって、咲いている花はやや小ぶりで、本来の豪華な花ではありません。購入する消費者は、庭で豪華に開花するバラを想像しながらガーデンローズの苗を購入しています。
近年、園芸店でも切り花を扱っている店舗が増えてきています。ガーデンローズの「ローズフェア」と「切り花のローズフェア」を同時開催してはどうでしょうか。できればガーデンローズの切り花があればベストですが、普通の「バラらしいバラ」ではなくて『バラらしくないバラ』でも良いと思います。ただし、「品種名」を明記することが鉄則です。
切り花とガーデンローズの大きな違いとして、消費者が品種名を認識しているかどうかがあります。私がバラの研究を始めた20年前はどこの生花店でも品種名がなく、名古屋駅の近くの生花店ですべてのバラに名前が提示してあったのを見て感動した記憶がありました。最近では、かなりの生花店でバラの品種名を明記して販売することが多くなりましたが、店員が品種の特徴を認識しているかが重要です。
ガーデンローズを購入する消費者は「バラのうんちく」が大好きです。「品種のいわれ」や「育成の系譜」、「育種会社の歴史」、「品種名の由来」。『香りの種類』は必須項目です。
ガーデンローズ業界には申し訳ないのですが、ガーデンローズ業界の栄光を切り花業界に少しだけ貸してやって下さい。園芸店の皆さん、切り花業界に力をお貸し下さい。
ガーデンローズと切り花との連携は、近い将来、必ずや双方の業界の発展に繋がると思います。
★日本のバラ産業の活性化−消費ニーズの把握− (2014/09/17)
バラ業界には大きく分けて2つのマーケットがあります。切り花のマーケットとガーデンローズ(庭園バラ苗)のマーケットです。
切り花のマーケットは花き市場を経由することがほとんどであるため、年々の出荷量(消費量)や品種の変遷など、様々な統計データを把握することができます。また、生産者も日本ばら切花協会やエアリッチ・アーチング栽培研究会などの全国組織に加えて、各県ごとに生産者組織があり、様々な情報交換が行われています。
これに対して、ガーデンローズは花き市場を経由して流通されることがほとんどなく、ベンダーといわれる中間業者や苗生産会社から園芸店への直接販売、インターネット取引など様々な流通形態で商品が販売されています。ガーデンローズの全国的な生産団体は存在せず、大手から零細な農家まで、勝手に苗が生産され、流通しているのが現状です。
このような状況を見ると、切り花業界の方がデータに基づいた正確なマーケティングが行われているように感じられますが、実際にはそうではなく、ガーデンローズ業界の方が消費者ニーズを正確に把握しているようです。
切り花業界では、京成バラ園芸などの種苗会社が品種の提案を行っており、その情報に基づいて生産者は栽培するバラ品種を選定します。しかし、バラ種苗会社はマーケティングを行って提案する品種の選択をしているのではなく、提携する海外の育種会社の品種の中から独自の判断で品種を選択し、これに自社育成の品種を加えてカタログを作成して生産者からの注文を受けています。
一方、生産者は育種会社の品種説明とカタログの写真から好みの品種を選択します。品種選択の基準は、まず第一に生産性(面積当たりの切り花本数)です。その次に「ピンク色の品種は結構高値で売れたよなぁ」といった過去の市場価格に基づく生産者の好みです。消費者の好みなど、まったく品種選択評価の基準にはなりません。
花き市場は生産者から出荷されたものを販売しており、生産者が栽培導入する品種の選択に口を出すことは基本的にはありません。なぜなら、「この品種を植えて下さい」と口を出せば、必ず「高値で買ってくれるんだろうね!」と一定の価格での販売を約束しなければいけないからです。
ましてや仲卸や生花店は、花き市場に出荷している生産者の顔すら見たこともなく、市場に出荷された品種がどのように選ばれたのかも判りません。ただ目の前にある品種からそれなりに売れそうなバラを選ぶしか方法がありませんし、せいぜい過去の購入経験から良く売れた品種を注文で発注することが限界です。
当然のことながら、バラを買う消費者に至っては品種を選ぶこともできませんし、品種の名前すら教えてもらえません。例えば、大田花き市場に出荷されているバラ品種が1,400品種に及ぶことなど想像もできません。ただ、生花店の冷蔵ショーケースに並んでいるバラから、それなりに感性とマッチしたバラを選んで花束を作ってもらいます。
このように考えると、切り花業界が持っている年々の出荷量(消費量)や品種の変遷などの統計データは「そうであったという結果」を示しているだけで、このデータをマーケティングに活用したり、将来のバラの嗜好予測をしたりすることは極めて危険です。このように切り花業界は一見「データに基づいた正確なマーケティング」が可能に思えるものの、誰も正確な消費者ニーズを把握することができていないのが現状です。
一方、ガーデンローズ業界では年間の総流通量すら把握できていませんし、ましてや流通している品種数は誰も判りません。実際のところ、私も色々とデータを収集しようとしたのですが、あきらめました。
しかし、消費者ニーズは個々の生産会社ごとにかなり正確に把握されているようです。その理由は、販売店までの流通距離が近いことによります。園芸店は店頭で売れた分だけ生産会社に直接、あるいはベンダーを通じて生産会社に発注するため、リアルタイムで品種ごとのニーズを正確に把握することができます。インターネット取引に至っては販売量自体が消費者ニーズそのものです。インターネット取引では消費者が品種名を検索して、好みの品種を直接発注します。ガーデンローズの苗生産会社は、このような消費者や園芸店からの3〜5年間の発注データを基に、翌年あるいは翌々年に販売するバラ品種と数量を決定して栽培を行うと共に、カタログやインターネットの品種情報を作成しています。
ガーデンローズの苗生産会社が持つ消費者ニーズ情報はかなり正確で、関東や関西、都市や地方などの地域性や、販売店舗ごとの主要顧客層に応じたニーズ情報なども把握しています。ただし、その消費者ニーズはガーデンローズ業界で共有されることはなく、自社で生産販売している品種に限られているため、大手の苗生産会社の消費者ニーズ情報しか当てにはなりません。
この15年間で切り花生産量は2/3に減少していますが、ガーデンローズの生産量は推定ではありますが1.5倍以上に増加しています。この違いは消費者ニーズの把握によるものではないかと考えます。
切りバラ業界の皆さん。種苗会社、生産者、花き市場、仲卸、生花店の皆さん。消費者ニーズを正面から把握しようと考えてみませんか? 大変な労力と予算を必要とすることは間違いありませんが、ここから始めなければ何も始まりません。切りバラ業界全員が少しずつのお金を拠出して、情報調査会社や大学の研究者に調査委託をしてはいかがですか?
消費者ニーズを把握できれば、将来のニーズを予測したり、ニーズを作り出したりすることも可能です。このままでは、10年後の切りバラ流通量は現在の1/2に減少するかもしれません。そうなれば、切りバラ業界(種苗会社、生産者、花き市場、仲卸、生花店)が崩壊してしまいます。
★日本のバラ産業の活性化−バラの印象は年代によって異なる− (2014/09/16)
関東の女性1,438人のアンケート結果から、バラに対する印象が年代によって大きく異なることが明らかとなりました。
20歳代の女性はバラの花に対して「大人びた」、「落ち着いた」、「風格のある」、「濃厚な」と感じていたのに対して、40歳代の女性は「フォーマルな」と感じていました。また,60歳代の女性はバラに対して「若々しい」、「新しい」、「陽気な」、「ういういしい」という印象を強く持っていました。特に、20歳代と60歳以上の女性でのバラに対する印象の違大きく、20歳代はバラに対して「大人びた」、「風格のある」、「濃厚」なイメージを、そして60歳以上では「若々しく」、「陽気」で、「ういういしい」イメージを持っていたことが特徴的でした。
このことは、生花店でのバラの販売において重要な意味を持っています。すなわち、60歳以上の女性がバラの花束をもらった時、「若々しく」、「陽気」で、「ういういしい」イメージを持つのに対して、20歳代の女性へのバラの花束をもらうと「大人びた」、「風格のある」、「濃厚」なイメージを持つことを意味しす。従って、60歳以上の女性はバラの花束をいただいた時には「気楽な気持ち」で受け取るのに対して、20歳代の女性は「格式張った」気持ちでバラの花束を受け取ることになります。
20歳代の女友達の誕生日に「バラの花束」を贈ると「どうしてあなたから?」と思われるかもしれませんが、愛の告白など“ここぞ!”という時の「バラの花束」は大きな効果を発揮してくれることでしょう。反対に60歳以上の女性への「強い思いをバラに託して」ということは通じないかもしれません。
花色の嗜好性と年齢との関係についてみると、20〜40歳代の女性はピンク色のバラを好むのに対して、50歳以上の女性は赤色や黄色などのはっきりした花色のバラを好む傾向が見られました。
花型の嗜好性についてみると、全般的にスタンダードな花型である高芯丸弁のバラが好まれる傾向があるものの、20〜40歳代の女性はクウォーターなどのオールドローズ系の花型を好むのに対して、50歳以上の女性はスタンダードな高芯丸弁の花型を強く好む傾向がありました。
このように、年齢によってバラの花に対するイメージや嗜好性は大きく異なっています。一律に「バラに対する女性の好み」を判断してバラの花束やアレンジを作ると、もらった女性は違和感を感じることがあるようですし、バラの花束も使い方次第でその効果が大きく違ってくると思います。
生花店の皆さん。花束の注文をいただいた時に、その用途や贈る相手の年齢などをうかがいましょう。個人情報で気が引けるかもしれませんが、適切な花の色やバラの花のタイプを選んで花束を作ることで、バラの花束がより大きな効果を発揮し、強いリピーターの確保に繋がります。
★日本のバラ産業の活性化−消費者が欲しくなるバラを提案する− (2014/09/04)
バラは花色ごとに花言葉を持っています。赤いバラは「情熱・愛情」、ピンク色のバラは「上品・しとやか」、白色のバラは「尊敬・私はあなたにふさわしい」、黄色のバラは「嫉妬」、青色のバラは「夢かなう」。
女性はバラに対してどのような印象を持っているのでしょうか。
関東・東海・関西の女性5,350人に対してバラの花色と花型のイメージアンケートを取りました。方法は、バラの花色11種類(濃赤、紅、濃ピンク、サーモンピンク、淡ピンク、白、黄、オレンジ、緑、藤、淡赤茶)と花型8種類(高芯剣弁、高芯丸弁、カップ咲き、クウォーター、内弁、半八重、グロビュラー、波弁)に分類した74品種のバラの写真を提示して、「カジュアルな−フォーマルな、上品な−派手な、キュートな−渋い、陽気な−落ち着いた」などの20組の感性用語対を用いて印象をたずねました。
バラに対する印象は、関東と東海地方の女性に対して関西の女性はやや異なるものの、全体としては地域性は大きくありませんでした。しかし、花色と花型によって印象は大きく異なりました。
花色と花型 印象用語 濃赤色 濃厚な・風格のある・大人びた 紅色 洋風な・暖かい・女性的な 濃ピンク色 女性的な・洋風な・カワイイ・キュートな サーモンピンク色 女性的な・カワイイ・上品な・マイルドな 淡ピンク色 女性的な・カワイイ・キュートな・上品な 白色 上品な・さわやかな・繊細な・女性的な 黄色 洋風な・キュートな・暖かい・カワイイ オレンジ色 暖かい・洋風な・個性的な・キュートな 緑色 新しい・個性的な・さわやかな・上品な 藤色 女性的な・上品な・フォーマルな・落ち着いた 淡赤茶色 上品な・落ち着いた・シックな・繊細な 高芯剣弁 クラシックな、フォーマルな、古い、暖かい 高芯丸弁 フォーマルな、上品な、落ち着いた、風格のある、シックな カップ咲き 上品な、ういういしい、マイルドな、キュートな クウォーター 若々しい、繊細な 内弁 新しい、美しい 半八重 カジュアルな、和風な、モダンな、刺激的な グロビュラー 大人びた、人工的な、豪華な、ダイナミックな、濃厚な 波弁 カジュアルな、個性的な、若々しい、キュートな、モダンな
印象用語に対応したバラの一覧を見ると、「カワイイ」と感じるバラは「淡ピンク・クォーター」が最も高得点で、次いで「淡ピンク・波弁」、「白・カップ咲き」、「サーモンピンク・クォーター」となりました。
このように印象用語に代表されるバラが明らかとなったことから、例えば「フォーマルで落ち着いた」雰囲気の花飾りをしたいと考える女性に対して提案できるバラ品種が決まります。同様に、「陽気でキュートな」女性に送る花束に適したバラ品種が決まり、「女性的で上品な」女性が好むバラ品種が決まります。
これまで、生花店では「ブライダルは白を基調とした花飾り」とか、「女性的なイメージはピンクでカップ咲き」など、根拠に基づかないイメージで提案をしていました。そして、そのイメージは生花店ごとにあるいは人によって異なっていたと思います。今回の5,350人の女性を対象としたアンケートによって、女性のバラに対する思いを数値化することができ、客観的な基準に基づいて、購入する女性が好むバラを提案することができます。
マーケティング理論では「ニーズに応じた商品提案」が基本です。バラの消費が低迷している原因に、買いたいと思う消費者への提案にミスマッチがあったのではないかと考えます。まず、「消費者が欲しくなるバラを提案する」ことから始めませんか?
★日本のバラ産業の活性化−データに基づくマーケティング− (2014/09/01)
大田花き、名港フラワーブリッジ、なにわ花市場の3社に出荷されたバラの色別割合を見ると、ピンク色が最も多く36.3%、黄・オレンジ色が21.5%、赤色が19.5%、白色が14.5%で、上位4色で91.8%を占めています。しかし、関東・東海・関西の3地域の女性5,350人に対するアンケート調査結果から、色別嗜好割合を見ると、ピンク色:27.7%、黄・オレンジ色:19.7%、赤色:15.7%、白色:11.0%、藤色:10.1%、茶色:8.6%、緑色:7.2%となり、市場に出荷されている色別割合と異なっていることが判ります。
特に、市場に出荷されている(生産されている)バラの花色がピンク色に大きく偏重しています。さらに、女性の嗜好割合では藤色や茶色、緑色がそれぞれ10%前後を占めているのに対して、これらの花色のバラが市場にほとんど出荷されていない(生産されていない)ことが判ります。
このことは、市場に出荷されているバラ品種、すなわちバラ生産者が品種を選択する際に、生産者の嗜好と女性の嗜好とが大きくズレていることを示しています。その理由として、(1) 藤色や茶色、緑色の品種の生産性が低い傾向があり、収益性が低いことから生産者がこれらの品種の栽培を敬遠していることがあげられます。さらに、(2) 女性はピンク色のバラを好んでいるという生産者の勝手な思い込みもあると思います。
このように、バラの消費者である女性の嗜好と店頭に並んでいるバラの色別割合が異なっていた時に何が起きるのでしょうか。
「中国人は赤色を好む」と良く言われますが、必ずしもそうではありません。2010年のコラム「中国で販売されるバラの花色の変化(2010/12/18)」で書いたように、赤色のバラが減少し、ピンク色のバラが増加しています。その理由として、知的財産権保護の危惧から15年前まではヨーロッパの育種会社が新品種を中国に導入することを避けていたために、カーディナルなどパテント権利の切れた古い品種が主体であったことから赤色のバラの割合が必然的に多くなっていました。しかし、バラの需要の増加からヨーロッパの育種会社が昆明に営業拠点を置き始め、最新品種のピンク色や淡いパステル系のバラが出回り始めています。
消費者は欲しい物がなければ、代替の商品を選択します。しかし、これを信じて「代替の商品が好まれている」と誤解した時に大きな反動が来ます。すなわち、「欲しい物がなければ、もう要らない」という動きです。
バラの消費量は1997年を境に5億2,250万本から2013年には3億6,000万本へと急激に減少しています。この理由の一つに『消費者の好み』を読み違えていることがあるのではないかと思います。生花店にはピンク色、黄・オレンジ色、赤色、白色のバラしか並んでいません。しかし、消費者が本当に欲しいのは、藤色、茶色、緑色を含めた色とりどりのバラであって、多くの花色のバラから自分の欲しいバラをチョイスしたいのではないでしょうか。欲しい色のバラがないので、色のバリエーションの豊富なトルコキキョウやラナンキュラスを購入しているのではないでしょうか。
「バラは花保ちが悪いから、花保ちの良いトルコキキョウに食われている」と良く耳にしますが、本当にそうでしょうか。「ラナンキュラスは花保ちが良くて、価格が手頃なので良く売れている」のでしょうか。
データに基づかないで勝手な思い込みでバラを生産し、切り花本数が少ないからと収量性の高い特定の品種ばかりを生産し続けた結果、消費者から見放されてしまっていることはないでしょうか。
★日本のバラ産業の活性化−データに基づくマーケティング−花き市場の皆さん。「売れているものが好まれているもの」ではありません。生産者も花き市場も、勝手な思い込みではなく、正確なデータに基づいてマーケットを評価することが今求められているのです。
★日本のバラ産業の活性化−設備投資と生産技術の向上− (2014/08/28)
15年前に大分県メルヘンローズの小畑和敏氏が提唱した「バラらしくないバラ」は一定の評価を得て定着し始めており、メルヘンローズ育成の「Mシリーズ」や「Jシリーズ」の他、広島県の今井ナーセリーが育成したネオ・アンティークローズや滋賀県のRose Farm KEIJIの和バラなど、ヨーロッパの育種会社にはない日本人の美的感性を前面に出した日本から発信できる「バラの新たな流れ」が見られ始めています。
これらのバラ品種は「バラらしくないバラ」特有の柔らかい花弁や独特の優しい花色が特徴です。しかし、同時に灰色かび病に罹りやすい欠点を持っています。灰色かび病はBotrytis cinereaという糸状菌が原因で発生します。Botrytis cinereaはどこにでもいる菌で、湿度90%で1時間以上、あるいは湿度80%で3時間以上経過すると、付着した胞子から菌糸が伸長して発病します。生産施設での灰色かび病の発生は、生産温室にヒートポンプを設置して除湿運転するか、あるいは除湿機を設置することで防ぐことができます。また、冷蔵庫から搬出した時に選花場での結露を防ぐために、選花場に除湿機を設置するなどの設備投資が不可欠です。
一般に「バラらしくないバラ」品種は生産性が劣る傾向があります。生産性を向上させるためには、光合成を促進するためのCO2施与装置の設置が効果的です。またナトリウムランプや高輝度LEDによる補光も生産性の向上に大きな効果を発揮します。さらには、夏季の高温による植物体の消耗を防ぐために、パッド&ファンや細霧冷房などの設備の設置が効果的です。
しかし、現状では重油の高騰や電気料金の値上げなどに加えて、切り花の市場価格の低迷から先行きが不安なため、積極的な設備投資がほとんど行われていません。
現在切りバラ生産を継続して行っている多くの生産者はいわゆる1匹狼の生産者で、共選共販産地のような組織力と政治力を持っていません。その結果として、公的な補助制度などの支援を受けられず、後継者が就いているにも関わらずジリ貧の状況をむかえています。まさに、『公的補助制度の支援がない』?『設備投資ができない』?『生産性と品質向上が図れない』?『市場価格の低迷』という「負のサイクル」が回り始めています。
韓国の事例を参考にするまでもなく、国際化の中で輸出の可能性を持つ日本のバラ産業を活性化するためにも、農水省や都道府県からの設備投資のための公的支援制度の充実は、大きな役割を果たすものと思います。
平成26年6月20日に花きの振興に関する法律が成立し、12月には施行されることになりました。この法律の基に、花き産業の自立と発展、そして新たな需要拡大にむけての実効ある施策を期待します。
★日本のバラ産業の活性化−オリジナル品種の育成− (2014/08/25)
日本国内で生産されている切りバラ品種の5割以上がフランスのMeilland、ドイツのKordes RosenとRosen Tantauの3社で占められ、この他にオランダのLEX+、Terra Nigra、Schreurs、Preesman、Olijなどを合わせると9割以上がヨーロッパの育種会社で育成された品種です。これらの育種会社は国際的に種苗販売を行っている会社で、ケニアやコロンビアなどの熱帯高地の生産輸出国で生産されている品種のほとんどもこれらの育種会社の品種で占められています。
日本で最も生産量が多いバラ品種は“サムライ08”で、名前から日本で育成された品種のように思えますがMeilland社が育成した品種です。“サムライ08”は日本だけで生産されているわけではなく、Meilland社はケニアでも種苗を販売しており、ケニアからも切り花が輸入されています。
品種は知的財産権の一つで、品種の苗を営利栽培するにあたり育成者に対してロイヤリティの支払い義務が生じます。当然、育種会社は日本国内だけで品種を販売するよりも生産量が多いケニアやコロンビアでも品種を販売する方がロイヤリティ収入が多いことから、生産ニーズがあればどこでも販売します。仮に、日本で“サムライ08”の切り花需要が高いからといって、日本での切り花生産にこだわりを持っているわけではなく、日本の消費マーケットが満たされるのであれば、日本以外の切り花輸出国で大量に“サムライ08”を生産し、輸出することで確実にロイヤリティ収入が確保されます。
工業界では特許などの知的財産の取得が重要な意味を持っているのに対して、切りバラ業界ではこのことに対してまったく無頓着であることは、常識的には奇異な現象といえます。
国際的な消費マーケットでは、アメリカとロシアが最も大きな消費マーケットであり、将来を考えると間違いなく中国は巨大な消費マーケットになると推定されています。中国に対しては、知的財産権の保全に対する危惧の観点から、15年ほど前まではヨーロッパの育種会社のほとんどが中国への進出に及び腰で、唯一Meilland社だけが雲南省昆明市に農場を持っていました。しかし、現在でも知的財産権保全の危惧は改善されていないにも関わらず、ほとんどの育種会社が昆明市に農場を開設しています。まさに「将来ニーズの予測」が優先されたといえます。
日本と中国は基本的な文化が共通で、美的価値に対する感性を共有しています。日本人もそうであったように、現在の中国でも「欧米の文化が進んでいる」との価値観が優先されており、ヨーロッパで生まれたハイブリッド・ティーの特徴である高芯剣弁の品種が好まれていますが、必ず「和の感性(アジアの感性)」が生まれてくるものと思います。
私は、10年前から中国遼寧省農業科学院との共同研究で中国古代バラと現代バラとの交配を行ってきましたが、ようやく東洋の感性を持つ新しいバラ品種が生まれようとしています。
日本での国内バラ生産を活性化させるためには、日本から発信できる「バラの新たな流れ」を作り出すことが必要です。イングリッシュローズはガーデンローズ(庭園植栽用品種)として育成されましたが、切り花の需要を作り出したのは日本人の美的感性です。
当面売れている高芯剣弁の切りバラ品種に加えて、日本人の美的感性を前面に出した品種を育成して生産・流通させることこそ、「将来のニーズ」を作り出す第一歩ではないかと考えます。
このためには生産者と花き市場と生花店が一体となって、「将来のニーズ」の作出に取り組む必要があります。高芯剣弁以外の品種が全流通量の半数以上を占めることが当面の目標です。目の前のマーケットしか見えない産業界には明日はありません。
★日本のバラ産業の活性化−衰退の原因を探る− (2014/08/22)
1980年代まで世界をリードしていた日本の半導体産業が衰退しています。その理由には諸説がありますが、(1) 当時好調であったテレビやVTR・ゲーム機などに傾注し過ぎてその後のスマートフォンやPCタブレットなどの流れに対応できなかったこと【現状の顧客へのこだわり】、(2) 利益の低下を危惧して設備投資を怠ったこと【設備投資の不足】、(3) グローバル化(国際標準化)に出遅れたこと【国際化への対応不足】、(4) 技術力に頼り切ってスマートフォンやPCタブレット製造会社のニーズに対応できなかったこと【マーケティング不足】、(5) 車載用半導体や医療機器への対応が遅れたこと【将来ニーズの予測不足】に加えて、(6) 為替変動への対応や(7) 国からの支援不足もあげられます。
切りバラ産業も近年急速に衰退し始めており、切りバラの国内流通量は1997年の5億2,250万本から2013年には3億6,000万本へと2/3以下に減少しています。半導体産業の衰退の原因は、国内のバラ産業の衰退の原因とも共通するものがあるように思います。
バブル景気の時には、上り調子の業務需要に支えられて切りバラの平均単価は150〜200円に達しており、「2L規格のバラでなければバラではない」とまで言われていました。しかし、バブルの崩壊に伴ってLやM規格のバラの需要が高まったにも関わらず、生産者も花き市場もそれまでの2L規格のニーズにこだわり続けた結果、バラに対する消費ニーズの低下を招きました【現状の顧客へのこだわり】。2L規格の切りバラが売れなくなっているにも関わらず、長尺物の収穫に適したアーチング栽培にこだわった結果、収益性が低下し、坪当たりの収穫本数を増加させるための設備投資(炭酸ガス施与やパッド&ファン、細霧冷房、ヒートポンプなど)が遅れ、すでにオランダで実用化されていた栽培技術の導入にも後れをとりました【設備投資の不足】。
ガーデンローズ業界では、2000年以降には高芯剣弁のハイブリッド・ティー系品種からイングリッシュローズに代表されるオールドローズ系品種に変化していたにも関わらず、生産性と従来の横箱流通へのこだわりから、オールドローズ系品種の導入が遅れました【マーケティング不足】。また、1990年前後から増加し始めた海外からの切りバラ輸入に対して過剰に反応したものの、有効な差別化戦略がとれませんでした【国際化への対応不足】。さらには、未だに切りバラ産業の将来予測がなされないままに、1995年の2/3まで国内の消費量が減少して現状に至っています【将来ニーズの予測不足】。
1990年前後のバラ生産業界は、農協系の共選共販産地と1匹狼の生産者からなっていましたが、この20年間で最も衰退が顕著なのが農協系の共選共販産地です。1990年代のエアリッチ・アーチング栽培研究会の会員名簿をみると、静岡県清水市・島田市・掛川市や愛知県豊川市、愛媛県丹原町・東予市など、多くの共選共販産地の生産者が会員となっていましたが、現在はその多くがバラ生産を諦めかけています。
共選共販産地は農協が販売戦略を指揮しており、大量の切り花出荷量を武器として市場占有率を最大の目標にあげていました。バブルが崩壊し、消費ニーズが大きく変化し始めたにも関わらず産地が巨大であったために対応ができず、さらには花き市場の対応の遅れも共選共販産地の対処の遅れに拍車をかけました。また、販売戦略の指揮を執っていた農協職員が専門職ではなくサラリーマンであったことも大きな戦略転換を鈍らせる原因となりました。まさに、「現状の顧客へのこだわり」、「設備投資の不足」、「マーケティング不足」、「将来ニーズの予測不足」が共選共販産地の崩壊の原因であったと考えます。
現在、元気に切りバラ生産を行っているのは1匹狼の生産者です。しかし、1匹狼であるがために組織力を持って戦略を立てることができず、国や県からの支援を十分に受けることもできません。さらには「マーケティング」や「将来ニーズの予測」のような長期戦略を立てられない状況に陥っており、ジリジリとバラの消費が落ち込み続けています。
このような状況をふまえて、後継者就農率が高い1匹狼のバラ生産者の活性化のための戦略を考えてみたいと思います。
花は誰が売っているのか? 園芸店? そうです! しかし、実際は「販売店員」!
海鮮居酒屋に行って、メニューを見る。どれも美味しそう! 迷ったときに、「今日のおすすめは何?」と従業員にたずねると、本日のおすすめを紹介してくれます。しかし、すすめられるままに「じゃぁ、それをお願いします?」とは行かなくて、すすめられたものの中から「そうだねぇ」と言って食べたいものを選択します。
優秀な店員は、ビールか、日本酒か、焼酎か、によってすすめる料理を変えます。年齢層を考えて、すすめる料理を変え、男女比によってすすめる料理を変えます。そうすると、間違いなくすすめられたものをそのまま注文してしまいます。
このような対応が的確に出来ているのが貴金属専門店です。先日、娘のためにネックレスを買いに行ったのですが、最初に聞かれたのが「奥様ですか?」と言いながら大きめのペンダントのようなショーケースを開けようとしました。「娘です」と言うと手を止めてファッション性の高い小さ目のネックレスケースに移動しながら、「これは有名なブランドのデザインで・・・」、「普段つけない方でしたら目立たないけれどもキラッとしたアクセントがポイントの・・」。「ところで、ご予算は?」と聞かれて、思わず良いと思った商品に近い予算を口走っていました。
園芸店や生花店に行って、どれを買おうか迷ったことはありませんか?「目的買い」であれば迷うことはないのですが、私は迷います。
アドバイスとは何か?それは衝動買いの誘発ではないでしょうか。「こんな物もあったんだ!」と思った途端に手にとってしまいます。一度手に取ると、なぜかしら思いがそちらに移り始めて、他のものを見ても、もう一度戻ってきてしまいます。
「最寄り品」と「買い回り品」。園芸植物は間違いなく「買い回り品」です。
LoftやHANSに行くと2時間は時間をつぶせます。お店を出る時には必ずなにがしかを購入してしまいます。まさに「こんな物もあったんだ!」という衝動買いの誘発ですし、店舗内で買い回ることもできます。LoftやHANSのような販売を行うためには大きなスペースが必要で、品揃えも重要です。従業員は、商品説明はしません。顧客がショッピングを自由に楽しんでもらうことを基本にしています。園芸業界でこれに近い業態はガーデンセンターでしょうか。
園芸店はガーデンセンターとは違うジャンルの業態だと思います。
「専門店」とは? 何の専門店? 園芸専門店でしょうか? 違います! アドバイスの専門店だと思います。
来客者が欲しい情報をアドバイスすることです! 顧客がどのような情報を欲しがっているのかを把握し、理解し、的確に提供することが園芸店の専門店しての役割です!
まず「客を知る!」 友の会顧客カードの活用は有効です。 家族構成は? 住宅の状況は? 年収は? 趣味は? そして、顔と名前を覚える! 店内で雑談して趣味を聞き出す! レジを打ちながら顧客と雑談して情報を収集する! 友の会顧客カードの住所から家を探して情報収集することも重要です。
情報の入手。入手した情報の入力。そして情報の蓄積。
誰にでも同じ情報を提供してはいけません! 個別に顧客を識別して情報を提供することです! こんなことをされたら間違いなくはまります! うれしくて来週もお店に行きたくなるでしょう!
以前のコラム「園芸店は農産物展示即売所(2002/02/06)」で書いたことですが、生花店は花束やブーケ、アレンジなど店の技術で販売し、技術力とそれにあわせた切り花の品揃えをお店の特色としています。これに対して園芸店は、市場で仕入れた鉢花を並べ替えて販売する農産物販売所のようです。お店の特色は「品揃え」と「リボンを付けたりカバー鉢を変えたり」などの少々の手間です。園芸店の取り組みとして、これはこれで悪くはないのですが、中途半端で玉石混淆の品揃えが問題です。
鉢物や苗物などの園芸店商品は買い回り品と最寄り品に分かれます。
暑くなってパンジーが伸びてきたから、とりあえずプランターを植え替えなければと思う消費者は、次に植え替える植物の種類にそれほど執着がなく、「とりあえず赤い花が咲く植物を」と苗を選びます。当然、ホームセンターに行った時に、思い出して花苗を買い求めます。
これに対して買い回り品としての花苗を購入する人達は「近所の人達が植えない何か特別なブランド苗はないかしら?」と考えて、ブランド苗の品揃えの豊富な園芸店を探し回ります。この時に「あの園芸店に行けば必ず珍しい特別なブランド苗が揃っているはず!」と思われる園芸店を目指しているお店には、そういう顧客が集まってきます。そして、そういう顧客こそ「こだわりの情報」を聞きたがっているはずです。まさに販売員の知識とトーク能力が発揮されるでしょう!「こだわりの顧客」のコーナーにはソムリエのようなオシャレな服装か、いかにも職人風の服装の販売員が張り付いているとベストです。
このような「こだわりの顧客」には至っていませんが、最寄り品の花苗を売っているホームセンターに飽き足らなくなっている「こだわりの顧客予備軍」の顧客もいます。しかし、この予備軍の顧客はホームセンターでの「勝手に買い物する」ことに慣れているため、販売員が声を掛けると避けてしまいます。このような予備軍の顧客のためには、是非とも「こだわりの顧客コーナー」とは違う「予備軍の顧客のためのコーナー」を設けることをおすすめします。このコーナーではトップブランドの高額な花苗ではなく、「チョット珍しい、チョット値段の高い」花苗を並べましょう。「予備軍の顧客のためのコーナー」ではPOPが大いに力を発揮することでしょう。POPには少々文字がたくさんあっても必ず読んでくれます。「なるほど!」と思わせるPOPの文章を読んで、黙って納得してチョット珍しい、チョット値段の高い花苗を手に取ることでしょう。やみくもに通り一遍のPOPを付けてはいけません。
顧客に合わせた商品コーナー、顧客に合わせたPOPでの提案が効果的です。
国立大学は、私立大学に比べて授業料が安いので何もしなくても必ず受験生は確保できるという考えから、これまで受け身の姿勢で受験生に対応をしてきました。しかし、受験生人口が15年後には118万人から87万人、40年後には61万人へと半減することが予想されており、厳しい状況を向かえ始めています。さらに、受験生の保護者の考え方も変化し始めており、地方の国立大学に進学するくらいなら、名前の通った有名私立大学の方が就職などで有利になるのではという価値判断も出てきています。実際に、首都圏の農学系私立大学と岐阜大学を併願している受験生が、岐阜大学に合格しても首都圏の私立大学を選択する事例がみられ始めています。また、地方の農学系大学の志願者倍率を見る限り、毎年数校で定員割れギリギリの状況が生まれているようです。
このような状況を受けて、10年前から岐阜大学応用生物科学部では高等学校への出前講義を積極的に取り組み、地域の高校生へのPRに努めており、昨年の出前講義の延べ回数が100回を超えました。このような取り組みの効果が現れているのかもしれませんが、岐阜大学応用生物科学部の志願者倍率は高い位置で推移しています。
さて、園芸店や生花店などの専門店とホームセンターやスーパーなどの量販店を比較してみると、量販店では毎週のように新聞折り込みチラシが入っており、チラシのトップには花が位置しています。それに対して専門店のチラシが新聞に入っていることはほとんどなく、以前の国立大学と同じ「待ちの姿勢」が感じられます。新聞の折り込みチラシは結構経費がかかるので、それだけの投資効果が期待できないのかもしれませんが、単に来客を待っているだけではジリ貧の状況を向かえることになります。
経費をあまりかけないでPRを行う方法として、地域の公民館や小中学校のPTAの保護者講座での出前講義の開催はいかがでしょう。地域に密着した活動で、地域ボランティアとしても評価されますし、直接話しをすることで園芸のおもしろさを語ることもできます。当然、参加者が楽しんでいただければ、お店のリピーターとなり、口コミの発信者となっていただけます。自分では地域に密着したお店と思っていても、意外と地域の方々に知られていないこともあるように思います。
生花店や園芸店はそんなにヒマにしているわけではない!と叱られそうですが、大学教員も研究や学生の教育に加えて、委員会などの管理運営や学外からの研究協力など忙しい毎日を送っているにも関わらず、高校への出前講義に時間を費やし始めています。
何かを始めなければ、何も変わりません。
岐阜市の園芸店の老舗「岐阜園」が7月4日に閉店します。センスの良い園芸店でしたが、後継者難に加えて、販売金額の減少が引き金となってしまいました。
閉店前に経営者とお話しした時に伺った話です。6月中旬に閉店セールのチラシを新聞広告に出したところ大賑わいで、「こんなにお客さんが来るのだったら閉店しなくても良かった?」と思ったそうです。しかし、来店した若い方から「こんなに近くに園芸店があるとは知らなかった」と言われた時には,老舗として「ガックリきた」とのことです。
商業統計によると、平成9年から19年の10年間で、花専門店は22,032店から21,013店に減少し(4.6%減)、花を中心として販売する店舗数は3,123店から2,344店に減少(25%減)しています。それに対して、スーパーやホームセンターは260店から298店に増加(14.6%増)しました。
スーパーやホームセンターは積極的に折り込みチラシを使って顧客の呼び込みを行っているのに対して、園芸店や生花店の営業姿勢は「来店を待つ姿勢」が多いように感じます。専門店の気持ちとしては、「お店に来ていただければ、ホームセンターやスーパーとは違って、商品の良さやセンスの良さが判ってもらえる」との自負がありますし、長年お店を構えているのだから「お店の存在を知ってもらえているはず」との思いがあるのかもしれません。
買い回り品と最寄り品の中で言われることですが、スーパーやホームセンターは「最寄り品」としての花を販売するのに対して、園芸店や生花店などの花専門店は「買い回り品」としての花を販売しています。しかし、お店の存在を認識してもらえなければ「買い回って」もらうことすらできません。チラシなどの広告・宣伝は重要ですし、ヘビーな常連の顧客を通じた口コミを積極的に拡散するための手法も必要です。当然、インターネットの活用も有効な方法であるように思います。
いずれにしても園芸店や生花店は専門店であるからこそ、店の存在の認知度を高めて、高品質でセンスの良い「買い回り品」を求める顧客の獲得に努めることが、何よりも原点であると思います。
★花の輸出戦略(その1)国際化には生産効率の向上が必要? (2014/02/23)
TPP交渉が大詰めをむかえて、花の輸出の話題が様々なマスコミで取り上げられ始めています。これを受けて、全国花き輸出拡大協議会、全日本生花輸出振興協議会、日本植物輸出協議会などが活発に活動をし始め、香港やニューヨークなどに切り花を輸出し、高い評価を受けています。
香港とニューヨーク(アメリカ)の共通点は切り花生産者がいないという点が共通しています。香港は切り花消費圏で、消費される切り花は全量輸入でまかなわれています。特に、亜熱帯の香港で消費される切り花は温帯性のものが多く、ニュージーランドやオーストラリア、マレーシアのキャメロン高原、ベトナムのダラット高原などから大量の切り花が輸出され、消費されています。
アメリカは香港とは違って温帯気候の国ですが、コロンビアやエクアドルに淘汰されて切り花産業が崩壊し、アメリカの切り花市場で主に流通している切り花は、周年同じ短日条件で冷涼な気候のコロンビアで大量に生産される周年生産のバラ、キク、カーネーションです。
本来、温帯性の植物の開花は季節の影響を強く受けることから、いわゆる春の花、秋の花のように四季を感じることができる植物として認識されていました。しかし花芽分化の機構が解明されて、環境制御や日長処理によって切り花を周年生産できるようになりました。キクは重陽の節句(旧暦の9月9日)の花で、秋の花の代表ですが、電照栽培で1年中切り花を生産できるようになっています。カーネーションの原種は初夏に開花する性質を持っていましたが、四季咲き性の育種の結果、1年中切り花として生産することが可能になり、同様にバラも5月にしか咲かない性質のものが突然変異育種の成果として四季咲きとなり、周年生産が可能になっています。
このように周年生産が可能な温帯性切り花は、国際戦略や企業的経営の観点から、赤道直下の熱帯高地のケニアやコロンビアなどのように1年中常春の気候の国々で切り花が大量に生産されるようになり、季節感を味わうことが難しくなってきました。
これに対して、育種や栽培技術開発が進んでいない低温要求性の宿根草や球根植物は季節を感じさせる切り花の代表ですが、休眠と休眠打破が不可欠であることから周年生産が難しく、生産性が高くないことから、赤道直下の熱帯高地ではほとんど生産されていません。
季節感を感じることができる切り花の需要は意外と高く、特にコロンビアから周年供給されるバラ、カーネーション、キクなどで総流通量の90%が占められるアメリカでは、日本から輸出される季節を感じさせる切り花が高く評価されています。同様に、四季のない亜熱帯の気候である香港や東南アジアでも、東洋文化として季節を感じる切り花の需要は高く、日本からの輸出が可能です。
国際化の大きな波に飲み込まれていると、生産の効率化にしか目がいかなくなりますが、生産効率の悪い季節感を感じさせる切り花こそが、先進国の日本が戦うことができる武器なのかもしれません。
午年の年頭に当たって、メール年賀状を作成いたしました。ご覧下さい
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本年もよろしくお願いいたします。