Burner
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どんなバーナーを使えば良いか
What kind of Burner is
recommended?
以下の、若井のごたくを読みたくなければ、「どうすれば良いかの項」へいっきに飛んでください。それでも、十分わかります。ただし、本当に良いバーナーを作りたい人や、なぜこんなことをしなくてはならないのか、などについては、以下も読んでいただけると理解が深まるのではないかと思います。式はあまり使わずに述べるので、かえってわかりにくいところが多いとは思うし、いきおい、長い文章になってしまっています。失敗談、(毒を盛った)苦労談についても記述しているので、同じ失敗をしない意味でも、全く無駄では無いと信じています。ただ、実はこの内容はほとんど
20-30年前の話ですから、今となっては失敗するはずが無いことも沢山記述してしまっているでしょう。
古くなったが、Fristrom&Westenberg
の名著 "Flame
Structure" には、当時のレベルでの流速測定法、ガスサンプリング法およびその成分分析法などとともに、温度測定法にも多くのページが割かれている(Fristrom
によりかなり改訂されたが、以下に示す内容に関しての印象は変わらない)。これを読んで、私はよりよいバーナーづくりにいそしんだと言っても良い。さらに
Gaydon によって著された、火炎の光による診断を中心とした名著 "Flames" も役に立った。燃焼屋にとって "The Bible" とまで言われている
Lews&Elbe の "Combustion,
Flames and Explosions of Gases" が著した、とくにスロットバーナー火炎の詳細な温度分布には目を見張った。後者は、D
線反転法を紹介している、あるいは使っているため、検定用バーナーについての提案は無い。最初の Flame Structure
は、当時としては多様な温度測定法を紹介しているのに、D-線反転法の記述はない。さらに、校正用バーナーについての紹介もない。Kaskan
が混合気の条件と火炎温度についてフラットフレームを使ったが、これこそ検定にふさわしいものである。これはもともと Egerton
が吸熱 (heat sink)により温度を簡単に変えられるということで提案したものである。似たものに Paling
バーナー があるが、これは一様平面火炎(定常)でありながら、断熱状態で燃焼速度の遅い混合気の一様火炎を作るバーナーである。これで Paling
は、内燃機関のノッキングに関係のある冷炎と熱炎を定常火炎で分離して見せた(エンジン内の時間スケールを、空間スケールに置き換えた)のである。
今まで述べてきた論文や教科書は
1960年代までに書かれた、いわば火炎測定の黎明期から成熟期初期のものであり、今から見れば古典である。現在の学生諸君にとっては、「いかにも古い」という印象であろう。レーザーを使う時代に、1940年代の
Egerton
のバーナーの話など役に立つわけがないと。ひいおじいちゃんが活躍した時代の話なのだから。
最近開発されている温度測定法は、局所あるいは二次元分布、さらには三次元分布測定を狙っているのだから、校正用バーナーの温度がどんな分布をしていても、その中で測定場所を任意に選べば、比較ができると考えがちである。ところが、比較対照となる測定方法は最も信頼性が高いものでなくてはならず、局所温度測定に向いているとは限らない。局所温度測定ができない測定法が最も測定精度が高いとするなら、校正用バーナーは温度分布が無いものが必要となる。ここで推奨する校正用の温度計は、ナトリウムの炎色反応を利用する
D 線反転法というものであり、局所測定が苦手である(上述の Lews&Elve
はこれを巧みに二次元バーナーに適用して局所温度を測定した)。したがって検定用バーナーは、一様温度分布を持っている必要がある。その点、機械学会の定めた検定用バーナーは、温度測定法の検定のためにはほとんど役に立たない(機械学会が提案したこの標準バーナーは、単に温度測定だけを対象としたものではないので、仕方ない一面も有るが)と思われる。たとえ熱電対
(あとで述べるが、これとて D-線反転法で検定しなければ精度の保証はできない)
で校正するにせよ、温度分布ばかりか流速分布も有るので、ふく射補正が大変やっかいであるということは、一般にはそのため精度が落ちることになり、また熱電対軸方向への損失が精度をさら落とす。計算により補正できなくはないが、精度を十分回復することはできないし、労力は大変なものとなる。熱電対についてその欠点を言うなら、火炎に使うことのできるのは白金および白金をベースにした合金であり、触媒防止が不可欠でありながら、その方法自体が曖昧なばかりか、その対策を施した熱電対のふく射補正がまた一層やっかいになる。過去も最近も、新しい測定法を開発して熱電対で精度を確認したという論文が多いが、その熱電対の信頼性が保証されていないのでは意味がない。どうやら、最近の
beginner
の皆さんは、熱電対は絶対だと信じて疑わないようである。私の印象では、熱電対の精度を疑うことは、学会自体でも暗黙のタブーになっていたようにも思う。これを認めないと、何も始まらないのだというほどに。SiO2被覆を施したうえに、輻射補正を行った、と記述することが免罪符だったような節がある(私だけの印象かもしれない、正直に)。しかし、どのように
SiO2被覆をしているか、多くはない例ではあるがときどき個人的に話を聞くととても納得できない方法でやっているし、またふく射補正に至っては、その被覆によりふく射率が白金素線のそれから離れることなど種々の不確定因子があるにもかかわらず、どのように行ったかははっきりしない(再三このように、非常に皮肉っぽい、毒々しい表現ですがお許しを)。
さて、バーナーに話を戻そう。ともかく機械学会の標準バーナは温度測定法の検証に使うことには無理がある。もちろん、そのうたい文句である「研究者により検定用バーナーがまちまちで、合う合わないという議論がかみ合わないから統一規格のバーナーを皆が使う必要がある」ということは賛成できる。ただ、ここで対象としている新しい温度測定法の検証に使うために、このバーナーが確実に正しい温度を提供してくれるかというと、そうではない。上述のように正しい温度が誰にも測定できない可能性がある。これを提案した機械学会の著書には熱電対で測定した温度が示されている。コーティングしたのか、ふく射損失、軸方向損失を補正したのかの記述はない。赤外線で測定した温度と
20-30K で合っているとしているが、データ提供者も赤外線による測定自体がバーナーを横切る光軸上のある種の平均温度を示す(私どもがやっているような CT
法が適用されたとは考えにくい)ことは十分知って居られての記述と察する。このように、たとえこのバーナーを使ったとしても、人によって違う温度を主張するところとなり、誰の測定結果が正しいか相変わらず闇の中になる。繰り返すが、このバーナーは乱流を含め、温度のみならず種々の測定法に対する検証用に使うことが目的であるから、温度だけにこだわってはいけないのかもしれない。これを乱流の諸量測定法の検証用とするなら、温度測定には無理なので、きちんとしたゼロ次元層流場を与える標準バーナーをまず提案すべきであったと思う。ちょっと、この件にこだわりすぎてしまいました。
さて、平面火炎を作るためにはディスク状フレームホルダーが用いられるが、その材質について、二種類がいままでも提案されている。上述の Paling
は、燃焼速度の遅い火炎を安定化させるために、小さな球形粒子を敷き詰めて多孔質状にすることで一様流を得、その上にさらに金網の抵抗を置くことで流線が拡がり管状態になるようにして、粒子層と金網の間に火炎を安定保持した。これは断熱火炎であり、温度測定用に可変温度にするには当量比を変えることになる(Paling
本人はそれを目指したわけではない、彼がこのバーナを考案した目的は上述のとおり)。その後、Egerton
が最初に使い出したと思うが、ヒートシンク型のフラットフレームバーナーがある。フレームホルダーは構造的に二種類があり、一つは焼結合金のディスクタイプで、Egerton
も Kaskan も用いたもので、今も多くの研究者がフラットフレームをこれで実現している。もう一つは、Dixon-Lewis(もうひとりのLewis)
が火炎保持機構などの研究に使ったものであるが、ハニーカム構造のディスクタイプである。彼は、今のように PIV や PTV
が無かった頃、パーティクルトラック法(粒子追跡法)で、ディスクフレームの外周部の流れを観察したかったため、粒子が通過しにくい焼結合金は不利で、それより穴径の大きいハニーカム構造が良かったため採用したと思われる。
最近(と言っても5年以上もさかのぼる)、大沢ら(解説記事なのに、論文調で敬称略をお許し下さい)は、校正用バーナーに用いるのに良いものとして、前者を挙げている。しかし、焼結合金は圧力損失が非常に大きく取り扱いが難しいばかりでなく、D-線反転法を行うためには適していない。また、焼結の粒度がきちんと揃いにくいようで、粒度分布は即温度分布となり、実際かなりの温度分布もありそうである。大沢らの論文は、カラー写真付きだから見ていただくと良い。大変大きな圧力損失に対応するためには、混合ガスを高圧で供給しなくてはならず、大変扱いがやっかいと見受ける。たとえばフレームホルダーとバーナーのハウジングとのシールが問題であり、漏れが生ずる。私は、火炎の研究を始めて以来一貫してハニーカム構造を愛用している。初期はそれでも、温度分布を一様にするのに大変であった。文献に、波板を作ってそれを多数枚重ねて隙間を造りその隙間を混合気が流れて出口を一面にそろえて切ったところに火炎を形成するというタイプが出ていたが、そんなものはとても一様流が作れないので失敗するに決まっていると思って造りもしなかった。実行したのは細いステンレスパイプを同じ長さに千本近く切り、束ねて円管に詰め込み、端面を研削盤でそろえてハニーカムを作るというもの。さらに、熱伝導率を高めないと、フレームホルダーに温度分布ができてしまうので、一本一本を半田メッキしておいてから束ね、再度加熱して相互に半田メッキで溶接する方法をとった。似た方法は、車のラジエターの製作に使われている。しかし、ハニーカムのような一様性はなかなか確保できなかった。それが、NC(数値制御工作機械)
ができてからは、ハニーカムを一様に作ることが容易になり、楽をしている。楽とは言え、作るのはそれでも大変なので、以前作ったものを長年愛用している(もっとも古いフレームホルダーは
20年を優に超えたが、今でも最もよく使っており、現役ばりばりである)。
バーナーの構造は?
以下に、バーナーと燃料供給系の典型的な構造を図示する。
配管は、バーナー系で食道に値する。単純に空気と燃料を混合するのであるが、メタルハニーカムをフレームホルダーにする長所の一つが、低い圧力損失にある。つまり、家庭用の天然ガスやプロパンガス配管からでも十分安定した火炎が得られる。そのために、配管が圧力損失を伴ったのでは意味がない。したがって、配管は極力短く、しかも太いに限る。目安として、配管には家庭用のガスホース程度の太さのものを使うとして
10mm程度に抑えるのが良い。なまじっか、安全のためにと銅パイプで引き回し、その直径は内径が 4mm
あるかないかなどでは、圧力損失が大きくて燃料と空気の混合比が安定しないことになる。もちろん、燃料を高圧タンクから導くこともあるから、それほど圧損は気にしないと言う考えもあるが、後述の
Sodium D-line Reversal
法を使うときには、やはり圧力損失はない方が良いことになるから、配管は太いに限る。空気は安定した流量を確保するために、流量調整用バルブまでは
2気圧以上が望ましい。ここの配管だけは他より細くても良い。内径3mm
程度の4mm銅パイプということでも構わない。
配管で、とくに流量調整バルブの下流側に大きな流動抵抗があると、ここで奨励する燃料の圧力を水銀柱で
20mm程度大気圧より高くする場合は、空気流量を少し変えるたびに燃料流量が大きく変わり、空気流量が多くなって圧力損失が燃料の圧力20mmHg
程度に達すれば当然燃料は出てこなくなる。そういうわけで、流量調整バルブ以降は圧力損失を徹底的に減らす必要がある。それが不可能なら燃料の圧力を高めることになる。この圧力損失が避けられないのがハニーカムフレームホルダーである。これは圧力損失を作ることで良い平面火炎を作ることになる。それでも、その圧力損失を減らす方法もある。これはフレームホルダーの項で述べる。
バルブはニードルタイプが良く、微調整ができるようにニードルも鋭いものが良い。必要流量との関係で、ニードルバルブ最大開口面積が決まる。その下流側の配管は、太くなくてはならない。バルブ下流の圧力はほとんど大気圧になる構造なので、耐圧は気にしないことになる。空気用流量調整バルブは流量計の上流でレギュレーターとの間にセットする。なぜなら空気は高圧で供給するし、流量計の検定は後述のように大気圧付近で行うので、減圧弁で大気圧まで落としてから使うことで精度を上げるためである。同様の考えで、燃料用の流量調整バルブもレギュレーターと流量計の間に置くのが良いが、燃料は敢えてほぼ大気圧に近いところで取り出すので、流量計の下流であっても大きな問題ではない。
圧力調整弁、すなわちレギュレーターの空気用は上述のようにバルブ上流側を2気圧以上に保つなら、流量はその上流側の圧力に比例するから、圧力変動はそのまま流速変動および当量比変動になって現れる。したがってレギュレーターの精度は高くなくてはならない。私は二段にして使っている。これで相当安定する。
流量計は、私の場合浮子式面積流量計を使っている。購入したままなら、最大流量の
2%程度が保証される精度。一般に浮き子式面積流量計の最小目盛りは最大目盛りの 1/10 だから、最小目盛り付近で流量を設定すると
20%の誤差もあり得る。燃料と空気では最悪
40%の誤差もあり得ることになる。当量比=1.0に設定したつもりが、0.6〜1.4までの不確定さが有ることになりうる。これでは実験にならない。しかし、自分で検定すれば最小流量でも
2%程度の精度は保つことが可能。
流量計の検定方法は、必要流量に見合うタンクを用意し、真空近くまで引き、そこへ流量計から流量調整バルブをとおして流す形にする。測定対象のガスが流量計を大気圧にごく近い圧力で流れるようにしておくと、あとあと都合が良い。そのため、ガスタンクから流量計の間には、減圧弁のあとにさらに家庭用のプロパンガスなどのためのレギュレーターを介入させる。これで圧力は大気圧より水銀柱で
20mm程度高い値に設定される。もちろん、流量計を高圧下で使う特殊な場合は、その圧力程度にしておく方が精度を保つことができるのは言うまでもない。ここではバーナーがほとんど大気圧であり、流路もほとんど大気圧で作ることを前提にして、流量系も大気圧で検定することを推奨している。さて流量計を過ぎてからバルブを通してタンクに行くが、その圧力が0.5気圧を上回らないまでを測定対象とする。バルブで一定流量に流量計の浮き子を安定させるとバルブの流れ部は臨界状態になっているから、流量は下流側圧力が上昇してきても臨界圧力比である約
0.5気圧まではほぼ一定値を維持する。一定の圧力上昇をする時間(すなわち ΔP/Δt)を測定することで、 P・V=m・R・T
つまり、Δm/Δt=V/(R・T)・(ΔP/Δt)
を用いて質量流量が求められ、検定ができる。このとき、前提は圧力上昇すれば中の温度は上昇するが、十分ゆっくりとして放熱していまい、実際は上昇温度は無視できることが許されなくてはならない。もちろん温度上昇を伴うなら、それをモニターして式を誘導して検定することも可能である。そういう面倒を嫌うなら、必要流量に応じて多様な検定用タンク容量をそろえる必要がある。恐らく、10g/分程度までなら、20g程度のタンクで良いが、それを超えると温度上昇誤差が大きくなり、より大きなタンクを必要とする。少々気になる温度上昇について付け加えるなら、真空びきしたタンクが断熱状態にあるとして、そこへ検定するガスが流入するとすれば、入ったガスは平均的にκ
Ta(κ:検定しているガスの比熱比、Ta:
ガス流入前の温度)になる。実際24g程度の鋳鉄製ボンベで断熱材を全く施さないで、空気を1秒もかからず大気圧に回復するように(入り口は直径3cm
程度の広口にしなくてはそれだけ高速では入らない)流入させると、60℃程度上昇する。つまり理論では120℃ほどになるが、その半分程度上昇する。流量で言えば、これは
1440g/min. であり、必要流量の二桁高い値である。30秒ほどかけて噴入させると 5℃程度の上昇である。この場合は50g/min. 程度に相当する。
余談であるが、この面積流量計の目盛りは、さらに疑う必要がある。それは空気用は恐らく問題ないが、他のガスの場合は浮き子式面積流量計の理論式に従ってガス定数の違い分を空気の目盛りにかけて目盛るということが行われている可能性である。事実、20年も前私がこの研究を始めたころ、メタン用の流量計を購入して実験したときのこと、どうしても火炎の色と当量比が合わないし、流速によってその火炎色と設定当量比が一定ではないという不思議なことに遭遇して、私の実験方法ではなくどうしても流量計がおかしいのではと検定してみたところ、上述のように空気目盛りをガス定数分だけ換算して目盛りなおしたものを商品化しているに違いなという結論に至った。実際は浮子の粘性が浮力に利いてくるから、プロパンなどはその目盛りでは全くあてにならない流量になる。しかも流量により浮き子とテーパ管との隙間が変化する(レイノルズ数が変わる)ので、もし粘性の補正をするなら、流量により補正係数が変わることになる。だから、混合気流速を変えるために、ガス定数のみの補正をした目盛りに合わせて燃料流量を設定すると、当然、空気側は流速に比例して流量をコントロールするのに対し、燃料側は粘性の影響で比例しないため当量比が変わることになる。これは、上述の当量比が変わったことを裏付けている。それでそのメーカー(浮き子式面積流量計で当時は大手、今も?)に質問したら副社長が寄ってくれたのまでは良かったが、「当社に限ってそのような低次元の過ちはおかしていないはずだ」と言い残して帰った。後日、「主張されたとおり、粘性の影響は考えずに単純に空気による目盛りをガス定数の影響を比例させて目盛りなおして販売しておりました。今後は対応するガスを用い度盛りするようにいたします。」という手紙が届いた。でも、それまで購入した流量計で間違った目盛りを振ったものについて交換するとも何とも述べていなかった。私としては、その会社が正しいやり方に変えてもまだ信用ならず、自ら校正して使うのでどちらでも良いといえば良いことではあるが。でも、会社の信頼、ひいては存亡にも関わるような大変な事実を指摘されて、手紙一本で謝るわけでもなく、お礼をいうわけでもなく、今後どうするだけを述べているという姿勢は全くいただけない(また毒を吐いてしまった)。
さて、無駄話が長くなったが、きちんと校正すれば浮き子式面積流量計でもほぼ精度は満足できると納得していただけたであろうか。2%以上の精度を期待される場合(空気の流量誤差もあるから最悪
4%の誤差となる、たとえば当量比=1.0 に設定したつもりでも、 0.96〜1.04
の不確定さが残る)は、それ以外のたとえば層流流量計などを用いる必要がある。
混合容器は、流量が 20-30g/分程度なら
1-2gで良い。上述のように検定した流量計で、所定の流量に設定された燃料と空気が自然に攪拌混合するのが混合容器の役割である。メタンと空気は比較的早く混合が進む。メタンなら、三方継ぎ手で合流した燃料・空気を一度1-2gの混合容器に導く。配管から急に容器に入るところは、拡がり管にして、攪拌効果を高める。この経路を一回通せば十分混合する。あとは、出口から配管になり、再度燃焼室で拡がり管を経験して混合を進め、フレームホルダーに至る。燃料にプロパンなど重いガスを使う場合は、なかなか空気と混ざらないことに注意を払うべきである。上記混合容器を二重三重にするのが望ましい。上述三方継ぎ手で合流したあと、細いパイプを通るのだから、当然混合が進むと思いがちであるが、まるで液体と気体のように、信じられないほど混ざらない。実際、混合容器を外して直接燃焼室に導くと、フレームホルダー上の火炎は明らかに目視で場所により当量比が異なることがわかるほどである。
1-2リットルであっても、なんらかの原因で火がつくことに気を遣うべきであろう。私の研究室では、アクリル円筒の上下にふたを付ける形の混合容器を使っているが、一方は完全に接着しているが、他方は
O
リングでシールしつつ締め付ける形の蓋にしている。したがって、暴発してもふたが安全弁として働くのでアクリル容器が破壊されることはない。これも、圧力損失が非常に低いシステムの採用により簡単になっている。これが焼結合金など高い圧力損失を要求するバーナーなら、すべてが高圧仕様になり、大変やっかいであろう。
バーナー本体は、前述のように混合容器としての一面を持つ。それは図に示している金網の一段目との空間である。それを過ぎてからは、混合を促進するというよりその逆である。混合の促進のためには、流路が急拡大になっていると効果的であるが、金網は整流するためのものである。
実は、この金網もフレームホルダーも整流がその役目である。整流とは何をすることか。図の場合は下から急拡大する管に細い管から混合気が流入してくるが、当然その流速は大きい。その流速がフレームホルダーまでに十分減衰していないと、流速分布はそのまま火炎の流速分布となり、温度分布になる。流速分布は運動量と交換関係にあるから、図では一度衝突させることで持っている運動量を減衰させている。それでも流速分布は大きく残る。これを抑えるためにはどうするのが良いのだろうか?金網で圧力損失を作るのである。ここで圧力損失するということは、交換関係にある運動量分布を減らすことになる。
フレームホルダーはすぐあとで詳述する。酸化剤と燃料は、バーナー流入前に混合しておく。いわゆる予混合火炎である。これは、断熱火炎温度が計算で求められるので、検定の保障にも使えるから重宝である。燃料はメタンでもプロパンでも良いが、水素は使わなくてはならない事情がない限り、勧められない。非常に危険である。この点がハニーカム構造のフレームホルダーの欠点でもある。水素火炎の消炎距離より小さな穴を多数開けるのは、賢明ではない。それより、メタンやプロパンを用いた方が良い。断熱火炎を形成すれば、検定範囲は
2300K程度になる。酸化剤として空気に酸素を富加したものを用いれば、さらに高温の検定も可能であるが、酸素富加の程度により水素火炎と同様に危険になりうる。熱電対を検定したい、あるいは、D-線反転法で検定するとなると、前者は火炎温度が2300K
にもなるとふく射損失を考慮しても溶けてしまう(タングステン系の熱電対なら結構高温まで持つが、一般的に火炎温度測定にはタングステン系は使えないし、白金系では1700度C以上にはしない方が良い)。D-線反転法でも、この方法の精度の保障をしてくれる標準電球の校正範囲が
1800度程度なので、自ら調べない限りこれも2100K程度以上は怪しいことになる。そういう次第で、よほどのことがない限り、燃料はメタンやプロパンでよいし、酸化剤も空気で良い。
気を付けなくてはならないのは、プロパンは思ったより空気と混じりにくいこと(だからメタンガスあるいは天然ガスの場合より、気を遣う)。
フレームホルダー
そういう火炎を安定に、一様に燃すバーナーが有れば良いことになるが、そのフレームホルダーとして一言でハニーカム構造と言っても、穴径、ピッチ、厚さ、材質、直径が問題になる。穴径は、消炎距離より小さければ良いと考えられるが、小さく作れるのならそれに越したことはない。
ピッチを問題にするのは、穴径との関係で半径方向の熱流束が制限されるからである。極端な話、穴径とピッチが同じになれば、穴と穴の間に肉厚ゼロという部分が存在することになり、半径方向の熱損失は、フレームホルダー自身を通しては起こらなくなってしまう。
半径方向に熱を流す必要があるのは、
Egertonバーナーは、燃焼温度を、混合気の流入流速、したがって流入する発熱量と火炎からフレームホルダーさらにフレームホルダー周囲壁への熱損失とのバランスで調整するものだからである。半径方向の熱損失が存在するためにはフレームホルダーの半径方向温度分布が必要になる。すると、そのフレームホルダーを通る火炎にも温度分布ができてしまう。
これを少なくするためには、熱伝導率の大きな、厚みのある、穴径よりピッチが十分大きいものが良いことになる。それは、作ってみなくてはわからない、ということになるが、計算でそれを予測してみよう。
その計算ができていなくてもわかるのは、以下の点。
- 穴径は、燃焼させるガスの消炎距離以下。一般的な燃料としてメタンやプロパンを使うなら、1.5mm程度まではフラッシュバックに対して十分安全。しかし、ピッチを穴径の半分程度と考えると、火炎が平面であるためには予熱帯厚さ(ほぼ消炎距離)よりピッチ+穴径の方が小さい必要がある。つまり、穴径+ピッチは小さければ小さいほど良いことになる。
それなら、焼結合金が良さそうに思うだろうし、実際多くの研究者が円形の焼結合金を使っている。これは、以下の点で問題。
- 材質は当然のことながら、熱伝導率の高いものが良い。材質とピッチ/穴径とで横方向の熱伝導率が決まるので、ピッチ/穴径も小さくはできない。この点、ハニーカムと比較して、ステンレスをベースにした焼結合金は、強い温度分布ができやすく薦められない。たとえハニーカムでもステンレスで作ると腐食には強いであろうが、温度分布を犠牲にすることになりかねない。実は焼結合金はそれ以外に、流動抵抗も非常に大きいので、バーナ全体の構造と取り扱いを非常に複雑でめんどうなものにする(後述)。さらに、円盤の外周をシールしなくてはならないが、うまくできずに混合気がリークし、それが燃焼することで火炎の一様性が問われるし、温度分布ができやすい。λの高い材料は銅・銀、アルミ(銅・銀の約半分)だが、前者はとくに加工性が悪いし、後者はさらに高温燃焼ガスのもとで化学的安定性に難がある。恐らく真鍮(=黄銅
: 銅の1/6程度のλ)か高力黄銅(通常の黄銅の倍のλ=銅の
1/3)が加工性とλから最も適している。これとて、そのまま使っているとしばらくして恐らく燃焼ガスの OH
などの活性種の影響と思われるが、化学的に変化を来たし、せっかく苦労して作ったハニーカムの寿命を大幅に縮める。とくに以下で説明する Naの
D線反転法を実施するなら、NaCl微粒子が穴などに付着し、火炎ではNaが発生するため、痛みやすい。それで、クロームメッキを施すのが良い。私の場合、これで20年以上使っていて、化学的に劣化したという様子は見られない。
- 厚みも同じく熱伝導をよくするために、厚い方が良いが、穴を開けるのに苦労する。通常ドリルは直径の
10倍程度で直進からずれる。厚さを薄くするためには、前に戻るが極力熱伝導率(λ)の高い材質が望まれる。
このようにして作った私の愛用のバーナーによる火炎を以下に示した。上を見ていただくと、火炎とフレームホルダーの間に少し隙間が見えると思う。これが
Quenching Distance、あるいは予熱帯に相当する。当量比は敢えてこの距離を可視化するために 1.45とした。そのため周囲は空気の拡散で当量比が
1に近くなり燃焼速度が増し、予熱帯が小さくなって火炎がフレームホルダーに近づいている。下は燃焼の教科書によく出てくるいわゆる「セル状火炎」。セル状火炎は、バーナーが非常に一様にできていないと、セル間隔が狂ったり並び方が不整になる。
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以上、文章で述べたが、以下ではそれらの影響を計算機で具体的に調べてみよう。まずフレームホルダー中を円筒座標でモデル化する。
エネルギー式を解くと、
フレームホルダー上流側のエネルギー式は、
最後に、フレームホルダー下流(火炎側)に対するエネルギー式は、
となる。ここで、フレームホルダーであるハニーカムは、半径方向熱伝導率と軸方向熱伝導率は当然異なる。それは穴径とピッチの比で熱伝導率の比が決まる。それを計算したのが、以下の図である。
ここで
λZ/λ0
は材料の熱伝導率に対する、穴を開けたホルダー軸方向熱伝導率。これは、当然単純にフレームホルダー面積に対する、穴を開けた後に残った肉の面積の比になる。一方、
λR/λ0
は半径方向の熱伝導率だから、ピッチと半径が同じになると肉が無いから横方向には熱が伝わらないことになり、ゼロとなる。これらの結果を上記エネルギー式に入れて解く。
すると、以下のような結果が出る。ただし、流速と火炎温度の関係には Kaskan
の結果を引用した。
上図は温度分布が強く出る水素−酸素予混合火炎の場合のフレームホルダー厚さの影響を見たものである。材質は真鍮である。左縦軸
Tb は予測される火炎温度、右縦軸 Tfh, t は
フレームホルダー上面の温度を示す。フレームホルダーから熱が逃げるのは周囲からなので(穴を通過する混合気が熱を奪うと考える方もあろうけれど、それは予熱されたことになり、自己反映)、中央は高く、周囲は低いという前述の通りの結果を示す。このとき、L=5mmでは、中央は周囲(350K)より
300K も高いことになる。厚さを倍にした L=10mmでは、それが
160℃ほどに下がっている。そのホルダーの温度分布の結果、火炎には中央が低いという一見不思議(フレームホルダーと逆の分布となる)な結果を示す。これは、私が水素・空気火炎の研究をしようとしたときに、悩んだこと。予熱された中央の方が温度が低いとはどういうことなのか、すぐにはわからなかった。きっと流速分布があるのだろう、いや混合に分布があるのだろう、など調べたがそれらはきちんと一様になっていた。水素で発生したのは、水素の予熱帯厚さが非常に薄く
(燃焼速度の逆数だから、予想がつきますね)、メタンやプロパン火炎より圧倒的に多くの熱がフレームホルダーに流れることになる。水素にしてこのような分布が出たのは、そこが問題だった。そしてしばらくして、たどり着いた結論は、ヒートシンクバーナーの持つ性質ということになった。つまり、中央は混合気温度が高いので密度が低い、その結果、ついでに管内摩擦も増すこととなり質量流量は周囲の低温部より非常に少なくなる。すると、その火炎の単位時間当たりの発熱量は周囲より質量流量比だけ少ないことになる。一方ヒートシンクバーナーなので、火炎から熱を奪う。これは上記式からも明らかなように、混合気の熱伝導率と余熱帯厚さに対する火炎と混合気温度の差に依存する温度勾配の積で決まる。この値はしかし、中央の高温部も周囲の低温部もあまり変わらない。したがって、火炎からフレームホルダーへ逃げる熱はそれほど変わらないのに、発生熱量は温度が高い中央は少ない。となると、断熱燃焼温度から温度が下がる程度は、当然中央部が多いことになる。
という次第で、この不思議なメカニズムがわかった。実はここに示した式は、私がこういうことを始めた、非常に若い頃に計算した結果である。だから、示している図はロットリングという若い研究者は見たこともない図を書く道具で丹念に書いたものである。これで、私のオリジナルが一つできた、こういう温度分布になることはきっと誰も知らないだろう、と思ったところが、実はすでに
Hawaii 大学の Kinbara & Fox
という研究者達が論文を発表していた。だから、この研究は世に出ることなくポシャッた。甘酸っぱい記憶が残る。
そういう目で、前述の大沢先生達のバーナーを見ていただくと、中央の温度が低く周囲が高い結果を示している。学会でこの結果を見た時、すぐにその原因がわかったので、コメントさせていただいた。
というわけで、燃焼速度が速い水素−空気火炎では、熱伝導率が結構良好な材質のフレームホルダーを作っても、温度分布が激しいものができてしまうことは理解していただけたと思う。
一方、材質の熱伝導率が低いと、やはり温度分布ができる。下の図は、メタン−空気火炎で
Va=20cm/s の例で、材質に λが真鍮の1/3〜1/5のステンレスを用いた場合である。やはり、強烈な温度分布が発生する。
それでは、どうしたら良いのか?真鍮でしかるべき厚さのバーナーを用いれば、一様な火炎ができるのだろうか。下の図は、真鍮を材料にした、厚さ5mm
場合の計算である。燃料は、メタンで当量比は 1.0である。
これで相当一様化されている。さらに厚さを増せばほぼこの分布は半減する。
実際、私のバーナーは、この条件にたいし、厚さのみを
10mmに変えたものを愛用している。その温度分布を以下に示す。ただし、測定は熱電対で行い、熱電対については後述の輻射補正を行っている(図中に式を示したが、ここでは読みづらいので熱電対の項を参照されたい)。Na
D線反転法で求めても、非常に一様な結果が得られる。
さて、この温度分布が発生しやすいのはもう想像がつくと思うが、断熱に近い燃焼では起こらないし、非常に流入速度が低くしたがって発熱量も低く、消炎距離(=余熱帯厚さ)が厚くなっても発生しにくい。それを示したのが下の図である。
材質は真鍮である。メタン−空気でも相当分布が出るが、それは燃焼速度と比べ約半分の流入速度で発生する。水素−空気も最大温度分布を経験するのは同じところになっている。前述のごとく、水素の温度分布は燃焼速度が大きい分、非常に大きくなっている。水素は、したがって扱いが危険だから誰も温度の校正に使わないと思うが、もし何らかの理由で使わざるを得ないというときは、これらのことを十分考慮して設計する必要がある。ステンレスを使えば当然、メタン−空気であっても水素の場合と同程度分布が発生するので、面倒でも真鍮で作ってメッキをして使うのが賢明であろう。
以上、くどくどとごたくも沢山並べたが、結局何がバーナーとして良いか簡潔にまとめると、以下の通り。
- フレームホルダーにはハニーカムメタルを使う。
- その材質や黄銅か高力黄銅が良い。
- 寿命を長くしたければ、クロームメッキを施す。
- 検定用に使う火炎の燃料としては温度範囲によるが、一般には
CH4またはC3H8で良い。
- その場合、ハニーカムの穴径は 1mm〜1.2mm程度、ピッチは穴間隔で0.5mm程度に抑える。
- バーナーサイズは、検定対象によるが、熱電対を Na D-線反転法で検定するならば、4cm程度。それに適した厚さは
10mm程度。5mmでも問題は無いと思われる。
- フレームホルダーまでのバーナー構造として、スクリーンなどで流入混合気の持つ運動量を消すようにする。
- 低圧での検定を行うなら、伴流を流すことのできる構造とする。
- いずれにしても、ヒートシンクで温度を可変とする構造なので、バーナー全体が放熱できる構造とする。
- 燃料・空気流量は、浮き子式面積流量計でも良いが、必ず検定をすること。
- ハニーカム上流の圧力はほぼ大気圧なので、レギュレーターもそれに見合うものを用意する。
- 同じく、圧力損失を嫌うので、配管は極力太く短くする。
以上で、校正用バーナーの備えるべき条件を深く考察したが、次へ進もう。
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- 本章
- 検定を行うのに最も優れた温度校正法は?
最も信頼性の高いのは Null Method の Na D-line Reversal
法 !!
- 校正用標準電球
- Na混入器
- 中央へ混入する方法
- 光学系
- 精度
- まとめ
- 次善の策として簡便な熱電対
- 熱電対の溶接
- コーティングの実際
- 触媒作用の確認
- 熱電対の劣化
- 軸方向熱伝導の影響
- ふく射損失補正法
- まとめ
参考文献
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