抗菌性物質は、人や動物の細菌感染症の治療薬として、特に畜産分野で
は安全な畜産物の安定供給のため使
用されてきました。抗菌性物質を医療や獣医療で使用することで薬剤耐性菌が出現・増加してきたことは、歴史的にも明らかな事実です。薬剤耐性菌は、抗
菌薬による治療効果を減弱させて感染症コントロールを難しくするため、抗菌薬が利用される分野(医療、獣医療)で深刻な問題
とな ります。
2015年
に世界保健機構(WHO)
によりOne healthの
理念に基づくGlobal action plan on antimicrobial
resistanceが
示され、2016年
にわが国のNational Action Planで
ある「薬剤耐性(AMR)
対策アクションプラン」が公表されました。その中で、人、伴侶動物、畜水産動物、農業、野生動物を含む環境分野における薬剤
耐性 菌の実態を把握して、 薬剤耐性菌の制御のため分野横断的な協力体制が必要とされています。
(1)薬
剤耐性菌の分布に与える抗菌剤の影響
動 物で使用される抗菌性物質は、動物の細菌感染症の治療を目的とする動物用医薬品(動物用抗菌剤)と家畜の飼料中の栄養成分の 有効 利用(海外では成長促進)を目的とした抗菌性飼料添加物に区分されます。獣医療で使用される抗菌剤は、医療現場で使用され る系統と概ね共通しているため、抗菌剤で治療された動物から排泄される薬剤耐性菌は公衆衛生上問題となります。そこで、抗菌 剤を投与された動物の糞便中にどのような薬剤耐 性菌がどれくらいの期間分布しているかについて、家畜やペットを対象に研究し ています。
Yossapol
M, Suzuki K, Odoi JO, Sugiyama M, Usui M, Asai T.
Persistence of extended-spectrum β-lactamase plasmids
among Enterobacteriaceae in commercial broiler farms.
Microbiol Immunol. 64(10):712-718, 2020.
Suzuki,
K., Yossapol, M., Sugiyama, M., Asai, T. Effects of
antimicrobial administration on the prevalence of
antimicrobial-resistant Escherichia coli in broiler
flocks. Jpn. J. Infect. Dis. 72(3):179-184, 2019.
Kimura A, Yossapol M, Shibata S, Asai T. Selection of broad-spectrum cephalosporin-resistant Escherichia coli in the feces of healthy dogs after administration of first-generation cephalosporins. Microbiol Immunol. 61(1):34-41, 2017.
(2)自
然界における薬剤耐性菌の伝播・拡散様式に関する研究
One Healthに基づいてヒト―動物―環境分野における薬剤耐性を統合的に調査する体制が構築され、 2017年より「薬剤耐性ワン ヘルス動向調査年次報告書」として、国内における薬剤耐性菌の分布実態が明らかにされてきています。
国内の野生動物における薬剤耐性菌の分布について、1970年代には、スズメ、カラス、ムクドリなど人の生活に身近な野鳥か
ら薬
剤耐性菌が報告されました。しかし、1980年代の調査で、山奥に生息するニホンカモシカでは薬剤耐性菌がほとんど認められない
ことが報告されました。このように、抗菌性物質が使用されない野生動物にも薬剤耐性菌が分布しますが、野生動物の薬剤耐性菌
は、
人間の社会活動由来することが指摘されてきました。薬剤耐性菌の伝播ルートは、いろいろ考えられますが、よくわかっていません。
そこで、薬剤耐性菌が分離された野生動物の生息環境に関する情報を多面的に解析して、薬剤耐性の伝播ルートについて研究して
いま
す。2013~2117年に国内の野生哺乳類から分離した大腸菌の薬剤感受性を調べ、シカやイノシシ、小型哺乳類に薬剤耐性菌が
分布することを明らかにしました。特に、シカやネズミでは人間と密接な動物ほど薬剤耐性菌を保有することがわかりました。し
か し、身の回りの昆虫からは薬剤耐性菌がほとんど見つからないことから、必ずしも密接さだけでは説明できません。
Odoi JO, Yamamoto M, Sugiyama M, Asai T.
Antimicrobial resistance in Enterobacteriaceae isolated
from arthropods in Gifu city, Japan. Microbiol Immunol.
65:136-141,2021
Ikushima S, Torii H, Asano M, Suzuki M, Asai T.
Clonal spread of quinolone-resistant Escherichia coli
among Sika Deer (Cervus nippon) inhabiting an urban city
park in Japan. J Wildl Dis 57 (1): 172–177, 2021.
Asai T, Usui M, Sugiyama M, Izumi K, Ikeda T, Andoh
M. Antimicrobial susceptibility of Escherichia coli
isolates obtained from wild mammals between 2013 and 2017
in Japan. J Vet Med Sci. 82(3):345-349, 2020.
薬剤耐性菌が環境中で生存する状況にも興味があります。大学の横を流れる河川水から医療や獣医療で重要な医薬品として使用される
第三世代セファロスポリンに対する耐性菌が分離されました。第三世代セファロスポリンは農薬では使用されない成分であるた
め、人
類の生活から環境へ放出されたことが強く疑われます。耐性菌の耐性機序を特定したところ、国内では報告のない珍しい細菌
(VEB-3
ESBL産生Aeromonas)であることがわかりました。その耐性菌はどこから来たのか、その河川周辺に生息する野生動物が保菌しているのか、現在調査しています。
Aratani T, Koide N, Hayami K, Sugiyama M, Minamoto
T, Asai T. Continuous prevalence of VEB-3
extended-spectrum β-lactamase-producing Aeromonas
hydrophila in a local river in gifu city, Japan. Microbiol
Immunol. 65(2):99-100, 2021.
和
文記事等(最近5年間)
そ
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