OKA LABORATORY

研究紹介

岡研究室では、核酸や糖などの生体関連分子やその化学修飾アナログの化学合成法の開発、及び機能評価を行っています。

新規ドミノ反応を用いる光学活性シクロペンテンの合成

ドミノ反応は、1つの反応を端緒としてドミノ倒しの様に複数の反応が連続して起こるプロセスであり、複雑な化合物の効率的合成に有用です。 我々は、ヌクレオシドから誘導したJulia-KocienskiスルホンをDBUなどの塩基で処理すると、ドミノ反応を経由してシクロペンテンヌクレオシドが1段階で得られることを見出しました。 加えて、本反応系にチオールやチオカルボン酸などの求核剤を共存させることで、核酸塩基がこれらの求核剤と置き換わったシクロペンテンが得られることも見出しています。 得られるシクロペンテンは、生物活性炭素環ヌクレオシドやシクロペンタン誘導体の合成中間体として有用であると期待されます。

  1. Oka, N.; Kanda, M.; Furuzawa, M.; Arai, W.; Ando, K. ChemRxiv 2021, DOI: 10.33774/chemrxiv-2021-j0rc0.
  2. Oka, N.; Kanda, M.; Furuzawa, M.; Arai, W.; Ando, K. J. Org. Chem. 2021, 86, 16684-16698.
  3. Oka, N.; Kanda, M.; Furuzawa, M.; Arai, W.; Ando, K. Curr. Protocol. Nucleic Acid Chem. 2022, 2, e398.

1,2-cis-グリコシルスルホンの立体選択的合成と応用

グリコシルスルホンは、種々の糖誘導体の合成中間体や生物活性分子として有用ですが、これまでの研究は合成が容易な1,2-trans体を用いて行われることが多く、 1,2-cis体の活用に関する研究はあまり進んでいません。当研究室では、ヨウ化糖をグリコシルドナーとするチオールの1,2-cis選択的グリコシル化と酸化によって、 1,2-cis-グリコシルスルホンが高立体選択的に合成できることを見出しました。また、得られた1,2-cis-グリコシルスルホンがJuliaオレフィン化試薬として有用であり、 アルデヒドとの反応によってexo-グリカールを収率良く与えることも見出しました。リボース、グルコースから1,2-cis-、1,2-trans-グリコシルスルホンを合成し、 Juliaスルホンとしての性能比較を行ったところ、1,2-cis体の方が高いE選択性でexo-グリカールを与え、リボース誘導体では特に大きな差があることが分かりました。 以上の様に、グリコシルスルホンの1,2-cis選択的合成法の開発により、その有用性や1,2-trans体との違いを明らかにできました1-3

  1. Oka, N.; Mori, A.; Ando, K. Eur. J. Org. Chem. 2018, 6355-6362.
  2. Oka, N.; Mori, A.; Suzuki, K.; Ando, K. J. Org. Chem. 2021, 86, 657-673.
  3. Oka, N.; Suzuki, K.; Mori, A.; Ando, K. Eur. J. Org. Chem. 2021, 5922-5933.

核酸の生合成中間体アナログの合成法の開発

核酸の生合成経路には、核酸塩基のカルボニル基がリン酸化によって活性化され、アミノ基等に置き換わる反応が複数存在します。 我々は、この様な生体内反応の1つであるイノシン一リン酸→アデニロコハク酸の生合成の反応機構解明と酵素応答性分子の開発を目的とし、 活性中間体アナログであるカルボニル基がリン酸化されたイノシンの合成法の開発に取り組んでいます。 カルボニル基のリン酸化は既存の手法では困難ですが、求核性が極めて小さい酸性活性化剤であるCMPTやCMMTを用いることによって、 不安定な合成中間体の分解を抑制することができ、カルボニル基がリン酸ジエステル化されたイノシンの合成法の確立に成功しました1。 加えて、キサントシン一リン酸(XMP)→グアノシン一リン酸(GMP)の生合成中間体として知られる2位カルボニル基がアデノシン一リン酸化された XMP(AMP-XMP)の単純なモデル化合物として、2位カルボニル基がリン酸ジエステル化されたキサントシンの合成に成功し、 その加水分解安定性について明らかにしました2

  1. Oka, N.; Morita, Y.; Itakura, Y.; Ando, K. Chem. Commun. 2013, 49, 11503–11505.
  2. Oka, N.; Hirabayashi, H.; Kumada, K.; Ando, K. Bioorg. Med. Chem. Lett. 2021, 54, 128439.

アーケオシンの合成研究

アーケオシンは、古細菌のtRNA中に見られる超修飾ヌクレオシドであり、その生合成や機能に関する研究が盛んに行われています。 化学合成による純粋なアーケオシンの供給は研究の促進に重要ですが、既存の合成法は収率などに課題がありました。 そこで、我々は、PreQ0-nucleosideを合成中間体とする効率的な化学合成法を開発しました1。 加えて、本合成法を応用することで、PreQ0-nucleosideとlysineの付加体1の合成にも成功しました。 1は、本学科横川先生との共同研究によって、アーケオシンの生合成中間体であることが明らかとなりました2

  1. Oka, N.; Fukuta, A.; Ando, K. Tetrahedron 2018, 74, 5709-5714.
  2. Yokogawa, T.; Nomura, Y.; Yasuda, A.; Ogino, H.; Hiura, K.; Nakada, S.; Oka, N.; Ando, K.; Kawamura, T.; Hirata, A.; Hori, H.; Ohno, S. Nat. Chem. Biol. 2019, 15, 1148-1155.

α-リボフラノシドの立体選択的合成法の開発

リボフラノシドは、医薬品や化粧品、食品添加物などへの応用が考えられる多くの生物活性天然物に含まれる構造ですが、2つの立体異性体(α体、β体)が存在し、これらの作り分けが必要です。 β体の合成は容易ですが、α体の合成は比較的難しく、従来法ではβ体の副生を完全に抑制するのは困難です(通常数%から20%程度のβ体が副生します)。 また、従来法には、スズなどの重金属や爆発性の過塩素酸塩など、環境や人体の安全に悪影響がある試薬を必要とする問題点もあります。 製造プロセスにおいて使用したスズなどの重金属を製品から完全に除去することは難しいため、従来法は医薬品などの人体に適用する化合物の製造法としては不適切と言えます。 この様な問題点を踏まえ、当研究室では、下図に示す様に、ヨウ化糖1とアルコールとの反応による新しいα選択的リボフラノシル化反応を開発しました。 ヨウ化糖1は反応性が高いため、重金属などの活性化剤を必要とせず、アミンを共存させるだけで容易にアルコールと反応します。 また、この反応にトリフェニルホスフィンオキシドを添加すると反応のα選択性が劇的に向上し、α体のみが99:1以上の選択性で得られることを見出しました。 この新しいα選択的リボフラノシル化反応は、β体の副生、重金属の使用という従来法の2つの問題点を共に解決する優れた手法であり、 特に、重金属を使用しないため、従来法では困難であった医薬品や化粧品、食品添加物などの製造法への応用が期待されます1

  1. Oka, N.; Kajino, R.; Takeuchi, K.; Nagakawa, H.; Ando, K. J. Org. Chem. 2014, 79, 7656–7664.