犬と猫の内分泌異常に関する研究

グルココルチコイド誘導性筋萎縮の病態の解明

グルココルチコイドは小動物臨床において広く使用される薬剤ですが、様々な副作用が問題となります。その中でも筋萎縮は運動器障害や運動不耐性の原因となり、動物の生活の質を著しく低下させます。同様の現象は犬の副腎皮質機能亢進症でも観察されます。

私たちはグルココルチコイドによる筋萎縮の病態を明らかにすることで、新たな予防法および治療法を確立することを目指しています。

最近の研究論文

Yoshida, K., Kobatake, Y., Takashima, S. Nishii, N.: Evaluation of muscle mass and intramuscular fatty infiltration in dogs with hypercortisolism and their association with prognosis. J Vet Intern Med 38: 1334-1344, 2024.

犬のクッシング病では顕著な筋萎縮が生じていることを、CT検査を用いて定量的に証明しました。さらに筋萎縮や筋肉内脂肪浸潤がその個体の予後を悪化させる重要な因子であることが明らかになりました。

Yoshida, K., Matsuoka, T., Kobatake, Y., Takashima, S., Nishii, N.
Quantitative assessment of muscle mass and gene expression analysis in dogs with glucocorticoid-induced muscle atrophy.
J Vet Med Sci 84, 275-281, 2022.

この研究ではCTを用いて骨格筋断面積を定量し、犬のグルココルチコイド筋萎縮を評価しました。1ヶ月間のプレドニゾロン投与が有意な筋萎縮を引き起こすことが明らかとなったほか、グルココルチコイド筋萎縮の病態にはGRB10遺伝子発現量の増加が関与していることが示唆されました。

犬と猫の泌尿器疾患に関する研究

犬と猫の腎傷害マーカーに関する研究

今日の獣医臨床において、腎機能の評価には糸球体機能(ろ過能)を反映する血中マーカーが主に用いられています。しかし、人の組織学的な研究は腎疾患の進行や予後との関係が糸球体病変の程度よりも尿細管傷害の程度との方が深いことを示しており、尿細管傷害を検出するマーカーのほうが糸球体機能マーカーよりも早く腎臓の異常を表現できる可能性があります。現在のところ、獣医臨床において実用性のある尿細管傷害マーカーは普及していません。

L型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)は、尿細管上皮細胞に恒常的に存在するタンパク質ですが、虚血など酸化ストレスの負荷される状態において尿中排泄が増加することから、急性腎傷害のマーカー候補として注目されています。私たちは犬と猫の尿細管傷害をリアルタイムに表現するマーカーとして尿中L-FABP値が利用できないか検討しています。

最近の研究論文

Takashima, S., Nagamori, Y., Ohata, K., Oikawa, T., Sugaya, T., Kobatake, Y. and Nishii, N. Clinical evaluation of urinary liver-type fatty acid-binding protein for the diagnosis of renal diseases in dogs. J Vet Med Assoc 83, 1465-1471, 2021.

腎疾患を持つ犬では、そうでない犬と比較して尿中L-FABP濃度が高いことがわかりました。尿中L-FABPは新たな犬の腎傷害マーカーとして利用できる可能性があります。

犬と猫の神経疾患に関する研究

犬と猫の中枢性神経疾患におけるグリア細胞の役割の解明

グリア細胞とは、中枢神経系(脳および脊髄)を構成する細胞の内、神経細胞以外の細胞の総称です。神経細胞は情報の伝達や処理といった中枢神経系の中心的な機能を持っています。一方、グリア細胞は近年まで神経細胞の足場的な役割に過ぎないと考えられてきました。しかし研究が進むにつれ、グリア細胞は独自のネットワークを持っており、神経細胞への栄養供給、神経に対して毒性を示す物質の排除、中枢神経系の免疫機構など、中枢神経系の恒常性を維持する上で重要な役割を担っていることが明らかとなりました。

グリア細胞が正常な機能を失うことで、神経細胞死が起こります。また、神経細胞死が起こると、グリア細胞の機能が異常に活性化し、神経細胞死を助長する可能性があります。このように、中枢神経疾患の病態にグリア細胞が深く関与していると考えられています。

私たちは、犬や猫で認められる様々な中枢神経疾患におけるグリア細胞の役割を解明するとともに、グリア細胞をターゲットとした治療法の確立を目指しています。

最近の研究論文

Kobatake Y, Sakai H, Tsukui T, Yamato O, Kohyama M, Sasaki J, Kato S, Urushitani M, Maeda S and Kamishina H.
Localization of a mutant SOD1 protein in E40K-heterozygous dogs: implications for non-cell-autonomous pathogenesis of degenerative myelopathy.
J Neurol Sci. 372, 369-378, 2017.

犬の神経変性疾患のひとつである変性性脊髄症の初期段階では、グリア細胞が活性化し、機能が変化している可能性が明らかになりました。これまで、変性性脊髄症は神経細胞における異常蛋白の蓄積が原因で発症すると考えられてきましたが、グリア細胞も病態に深く関与していることが示唆されました。