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さらに詳しく販売されている植物の部位を比較してみると、最小単位の販売価格の平均額は、根茎で523円、地上部(葉、茎、花を含む)で217円と、根茎が地上部の2倍近い価格で販売されていることがわかった(表2)。売れ行きに関して回答者の印象をたずねたところ、葉などの地上部は、ほとんどの店で「置けば完売」、「すぐ売れる」と好調さが目立ったのに対し、根茎では、5店舗中1店舗の割合で「あまり売れない」との回答が比較的多く得られ、根茎よりも地上部の方が総じて売れ行きがよいという結果が得られた(表2)。地上部を購入者した人に関して、「どのような客層であったか」を確認したところ、「食べ方を知っている地元の人」と回答する店舗が22件でみられた。その一方で、地上部の食べ方がわからない客層に食べ方を教えたり、レシピを配布するなどしている店舗が23店舗あり、食べ方を知らない人でも購入できるよう工夫がなされていることがわかった。この23店舗中の22店舗では、地上部は「置けばすぐ完売」、残りの1店舗も「まあまあ売れる」と、いずれも売れ行きが好調であったことからも、こうした販売努力は売り上げ向上に貢献していると考えられる。
また、地上部と根茎では、販売時期にも違いがみられた。地上部は、春(60店舗)、秋(1)、冬(1)、冬春(6)、春秋(1)に販売されていた。地上部の場合、ほとんどが春に販売されており、他の山菜と同様に、「季節もの」として扱われていることがわかる。これに対し、根茎は、春(3店舗)、夏(7)、秋(4)、秋冬(2)、冬(3)、冬春(1)、年中(10)と、全国的に、決まった季節に販売される傾向はなく、店舗により販売している季節が異なる傾向があることがわかった(表2)。
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3-2. 栽培実態〜ワサビは全国各地で栽培されており、高齢化も著しい
道の駅のある地域でのワサビの栽培状況について調査をしたところ、「栽培あり」と回答があったのは91店舗(有効回答数中48%)であった。ただ、ワサビの場合、「栽培」の定義が明確でなく、道の駅に持ち込まれたワサビは、真の意味で栽培によるものなのか、あるいは自生しているものを採集しただけのものなのか、今回の聞き取り調査だけでは正確に把握することはできない。いずれにせよ、上記の結果は回答者が「生産者」として認識している人とみなすことができる。生産者の年齢層もたずねたところ、確認できただけで70代以上では13人(59%)、60代以上(70代以上も含む)は18人(82%)となった。ワサビにおいても栽培従事者の高齢化著しいことがうかがえる。こうした状況はワサビに限った傾向ではないと考えられ、「あと数十年もすれば特産物を持ち込む人もなくなり、道の駅としても大きな損失になるだろう」と話す駅長もいた。
3-3. 自生ワサビについて〜過剰採集のおそれあり
春になると、全国各地の直売所には、ワサビも含めてコゴミ、タラの芽など、いわゆる「山菜」とよばれる品目が店にならぶようになる。地域特産物のうち、とくにこうした山菜がイネなどの一般的な作物と異なる点として、「栽培」を経なくても収穫ができる点があげられる。ここで疑問が生じる。それは、こうした山菜類が栽培されたものでない場合、どのようにして店に持ち込まれるのだろうか、という点である。もし、天然資源が持ち込まれているとすれば、不特定多数の人に対する販売行為が、植物資源の枯渇につながっていないか懸念される。現在のところデータもないが、今後は調査が必要であろう。ワサビにおいて、この点を検証するために、「自生ワサビ」に関して質問をした。
質問C「道の駅周辺地域でワサビが自生している地域はあるかどうか」に対し、91店舗で「あり」との回答が得られた。道の駅のほとんどが中山間地に立地している点を考慮に入れたとしても、高い数値といえよう。こうしたなかで注目すべき点は、ワサビの「販売あり」と答えた店舗のなかで、「栽培なし」(「不明、わからない」は除いている)としながらも、「自生あり」とした店舗が20件におよんだことであろう。この結果は、少なくとも回答者が、道の駅に持ち込まれるワサビが栽培されたものではなく、自生状態のものであると認識していることを意味している。さらにこの20件のうち、6件(30%)では、根茎も販売されていることがわかった。このことは、現地から「根こそぎ」採集したワサビを販売していることを意味しており注意が必要だ。とくに、昔から持続的にワサビを利用してきた地元の資源利用に詳しい人物であれば、採り尽くさないよう注意しながら採集されている可能性もあるが、何の知識もなく、ただ採集してきて販売しているとすれば、絶滅を招く危険な行為といえるだろう。ワサビに限らず、栽培ではなく、山に自然にはえている山菜を採集して販売されているケースがある。そのため、資源枯渇を防ぎ、持続的に利用するためにも、直売所での販売が、植物資源の過剰採集につながっていないか、今後はモニタリングが必要であろう。
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「ワサビは昔に比べて減ったかどうか」という質問をしたところ、「減った」(48人、59%)、「増えた」(1人、1%)、「変わらない」(20人、21%)、「わからない」(27人、28%)となり、「昔より減った」と感じている人が圧倒的に多いことがわかった。その要因をたずねた結果が表3である。ここで注目すべきは、最も回答が多かったのが「乱獲」23人(30%)であった点であろう。著者の現地調査でも、乱獲が深刻な問題であることは認識していたが、今回それを裏付ける結果となった。営利目的で集団を絶滅に追い込んでしまうほど大量に略奪するケースもあれば、登山などでたまたま立ち寄った人に持ち帰られるケースもある。後者の場合でも、頻度が多ければ、集団を消滅させることはたやすく、深刻さに変わりはない。その一方で、同じく人間が関係する理由でも、「山を手入れする人(または山に入る人)が減ったから」という回答も15人(19%)から得られた。ワサビは史実として最初にあらわれる飛鳥時代から1400年にわたり利用されてきたことがわかっている。 |
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以来、ワサビは様々な人の関与を受けながら、現在まで絶えることなく受け継がれてきた貴重な資源といえる。山に自然にはえているものでも、森林利用および管理の一環として、なんからの人の関与により個体数が維持されてきたとすれば、このまま放置すれば、乱獲による個体数の減少がとまらなくなる可能性が否めない。この件に関しては、これからの植物資源としてのワサビの保全計画にもかかわるため、さらなる調査が必要といえる。また、「動物による被害」を要因としてあげる人も16人(21%)いた。ワサビに限らず、中山間地における植物資源の動物による被害は、全国的に非常に深刻な問題となっており、ワサビも例外ではないようだ。 |
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