研究インタビュー

Interview about research

※所属、職名はインタビュー当時のものです。

宇宙という過酷な状況にも耐えられる素材の研究開発

わたしの研究は、摩擦摩耗の材料開発を行なっています。
宇宙空間の様な真空では、金属のすべりをよくする潤滑油が使用出来ません。
また地球で作ったものを宇宙空間に送った場合、摩擦や摩耗による機能低下が起こっても、宇宙空間ではメンテナンスが出来ないという現実があります。
そのため耐久性があり長寿命なものを最初から作っておかなければなりません。
しかし、宇宙線であったり、太陽光による温度上昇であったりと、宇宙空間はとても過酷な環境です。できるだけ金属同士の摩擦係数を下げる材料を探しているのですが、残念ながら満足できる材料は「ない」というのが現状の答えになります。
摩擦係数が下がる材料には、金や銀、テフロンなどがありますが、“軟らかい”という特質があるため、摩擦によりどんどん摩耗していき、すぐに寿命がきてしまいます。
この「長寿命だけど摩擦係数は下がる」という、相反する材料を作る事になるので、開発は非常に困難を極める研究といっても過言ではありません。

 

地球上にも大きな変化をもたらす摩擦というエネルギー

この“摩擦係数が下がる材料開発”というのは、宇宙空間だけに期待される話ではありません。
材料の発見は、地球上での産業エネルギーの効率化はもちろんの事、ちょっとした身近な道具に至るまで、ありとあらゆるものが恩恵を受ける研究と言えるでしょう。
例えば子どもを乗せるベビーカー。
日本のベビーカーは、日本の道路整備事情が良いために諸外国に比べてタイヤがとても小さいため、軽くて丈夫、そして静かなつくりをしています。
しかし北欧スウェーデンなどでは、整備されたアスファルトが少ない・石畳の道路が多く、道がガタガタしているので、車輪が大きいゴムのタイヤでないとスムーズに押せないばかりか、車輪がすぐに壊れてしまいます。その結果、ベビーカーの車重自体が重くなってしまい使いづらくなっています。
ベビーカーのように、荷重がかかる車輪には回転する部品にある「軸受」が関係しており、その他に、新幹線や飛行機なども軸受が沢山積んであるので、とても大きなエネルギーを必要としています。
摩擦係数を下げる材料の開発は、これらの多くのエネルギー問題に対してメスを入れる事が出来るので、産業の大きな飛躍や生活の向上に直結する研究と言えます。

 

こすらないという発想の転換が生み出した材料開発への希望の地図

「摩擦=こすれる現象」である以上、摩擦素材の摩擦係数や摩耗の割合を調べる時には、“実際に材料をこすって調べる”という事が今までの常識的な方法です。
しかし、それでは調査に膨大な時間と労力がかかる上に、研究成果が必ず出るという保証もありません。つまりある種の“賭け”のような研究になっていました。
そこで、現在わたしが行っている研究は“こすらない“という真逆の研究方法です。
紫外線を照射する事によって、こすった時と同じ膜の構造変化(グラファイト構造形成)が引き起こるということを活用した研究方法で、この構造の変化の発見と研究方法は世界初の業績です。
今までは研究者の勘を頼りに評価する材料を作っていた方法から、紫外線照射で素材全体に分布を持たせる事が出来る様になったので、どこの辺りを集中して調べれば良いのかという研究指針の地図になり、従来研究方法の100倍のデータが取れるようになりました。
その研究方法のおかげで新しい材料開発の兆しが見え始めているのです。

 

A Iの進化の前に取り組むべき根本的な課題の解決

近年、インターネットの普及やA Iなどのコンピューターの飛躍的進化と共に、情報を取り巻く研究分野や産業の発展は著しく、わたしたちの生活をより便利なものにしています。
しかし、それと同時に取り組むべき研究課題も実は沢山存在しており、その一つが わたしの研究している摩擦摩耗と分野の問題です。
どれだけA I(コンピューターの頭脳)が進化しても、実際に物を運ぶ技術が同じ様に発展していかなければ、A I技術の進歩による恩恵も十分に享受する事は出来ません。
特に日本におけるエネルギー問題の課題は深刻で、原発を何基もつくるわけにはいかないため、これから訪れる世界的電気自動車などの波に乗り遅れている現状もあります。
わたしの研究分野である摩擦摩耗が下がる素材の開発が進めば、エネルギー消費を大きく抑える事が可能となり、エネルギー問題解決の大きな糸口になる事は間違いありません。
わたしの研究が、明日の社会をもっとより良いものにするものだと信じています。

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