社会インフラ分野部門長
工学部社会基盤工学科

教授吉野 純

気象情報+AIでビジネスを戦略的に、
  社会インフラ+IOTで安全性の向上を

天気予報と気象予報士

天気予報というのは、気象予報士知識と経験によって支えられています。
それは、ものづくりに卓越した職人の仕事に似ているかもしれません。ですから、天気予報は気象予報士の力量によって左右されるため、どうしても予報士によって出される予報にもムラが出てしまいます。

そこに、人工知能であるAIを導入することで、ムラを抑えた正確な天気予報を出すことができるようになります。
天気予報を“一歩先ゆく仕組み”を作る可能性を探ることが私の研究の目標です。一歩先を行くというのは、例えば、気象の変化を予測することにより、“人や社会の動き”までも予測し、最適化を図ってゆくのです。

以前まで、天気予報といえば“当たらないものの代名詞”とされてきました。
現在では、その正確性も上がってきておりますが、梅雨時の天気予報の精度は未だ十分とは言えません。例えば、“傘を持っていく”という行動を人に促すためには、先ず「天気予報の正確性」を上げる必要があります。

その正確性を上げる鍵となるのが、AIによるディープラーニングなのです。

AIと人間との分業が可能にする、精度の高い天気予測

天気予報の基礎となる天気図の作成には気象モデルと呼ばれる力学的な予測手法が利用されています。空気の流れや温度の変化など大気や降水の力学に基づいて、観測された現在の気象状態から未来の気象状態を予測するのです。

このようにして予測された膨大な数字の羅列から予想天気図が生まれますが、天気図には「晴れ」とか「雨」とかは書いてありません。そこから未来の天気を解読する必要があるのです。そこで気象予報士の出番です。無数の天気図を見続けてきた気象予報士の知識と経験が重要になってきます。
このような作業こそ、統計学的な予測手法であるAIの得意分野です。そして、AIによるディープラーニングは、短期間で多くのデータを学習できるため、1人のベテランの気象予報士を育てるより、はるかに効率が良いのです。

また、人間では気づかないような天気図上の小さな変化もAIは見逃さず,地域スケールの天気予報の精度を改善してくれることになるでしょう。
しかし、AIは大量のデータから特徴を見出して予測するのが得意な一方で、AI自体が「何故、雨が降るのか?」まで考えることはできませんので、依然としてAIが気象予報士の仕事を全て奪うことはありません。人の行動に関わる情報提供には必ず説明責任を伴うからです。何故、雨なのか?何故、晴れるのかを分かりやすく解説するのも気象予報士の大事な仕事なのです。

むしろ、気象予報士は、より精度の高い天気予報のために、AIを道具として積極的に活用して、より分かりやすい解説(説明責任)のために時間を割くことができるように努めなくてはならないと思うのです。

気象情報を利用したビジネスサービスを

天候は、様々な業種の需要や供給に関わってくる要素であるにも関わらず、その情報を利用し、経営戦略に取り入れているのは大企業のみで、中小企業は知らず知らずのうちに天候の変化により、ビジネスに無駄が生じてしまっている実情があります。

例えばアパレル業。
気温の急変によって季節物の売れ行きは大きく影響を受けます。事前に気温の急変を予測し、売れ行きを事前に予測できるならば、仕入れすぎてしまう廃棄損失や本来売れるはずだった機会損失のリスクから回避できるようになります。それだけでも多額のコストカット、並びに収益に繋がる事が予想されますよね。

しかし、中小企業がその気象情報を利用できない背景には、“気象情報の利用料が高い”とか“気象会社によるコンサルティング料が高い”いった金銭的な問題や、“気象情報を使いたくても専門的すぎて分からない”といった技術的な問題もあるのです。

将来的には、AIの導入により、自動的に天気図などの気象情報を収集して、気象会社を介さずに、シームレスに期待される物の売れ行きを予測してくれるような仕組みができるかもしれません。そうすれば、企業規模にかかわらずもっと気軽に気象情報に基づくビジネスの効率化や経営戦略の策定を実現できるかもしれませんね。

気象情報もどんな種類の情報かによって、様々なビジネスサービスが展開出来る為、可能性は多岐に渡ります。
そんな未来を可能にするため、私たちの研究はあるのです。

IOTが叶えるインフラの安全性

そして、私のもう一つの研究、社会インフラへのIoTの導入です。現在の気象状態をIoTにより多面的にモニタリングすることで天気予報の精度が上がるように、様々な土木事業にIoTを導入することで建設事業の効率化や安全・安心につながり、生産性を高めることができるようになります。
例えば、橋を建築する土木事業。
社会インフラの大事な事業の一環です。

気象予報士同様、現在その社会インフラの多くは、土木技術者の知識と経験値によって支えられています。

しかし、安全性が何よりも重要視される社会インフラの整備の現場では、技術者の人手不足や高齢問題など、安全性を一定のレベルを保つ上で憂慮される事態となっています。

そこで、活用したいのがIoT。
IoT導入で、人員不足の解消はもちろん、人の管理が行き届かないところまでモニタリングできるため、少ない人員でも安全性を維持することができるようになります。さらに,AIと組み合わせることによって,現場における工程の一部を機械化・自動化できるようになり、現場の技術者を支援してくれるようになると期待しています。

来たる少子高齢化社会に備えて、社会インフラへのIoTの普及と技術研究も私たちの大事な研究の一つです。
安全・安心な未来へ向けて、私たちの今後の研究成果が活用されるようになれば、この上なく嬉しいですね。

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