生体関連化学分野
化学・生命工学科 生命化学コース
教授岡 夏央
AIとの共同作業で研究の効率化を図り新しい発見を
調べる事が新しい発見の第一歩
私の専門分野は「有機合成化学」です。“有機化合物をどのようにつくるのか?”というのが私の研究です。
そもそも有機化合物とは“炭素”を骨格とする化合物で、例えば医薬品の殆どは有機化合物で、プラスチックなども有機化合物です。炭素が含まれない無機化合物とは区別されて使われています。
特に私の研究は、“生物”に関連し働く化合物を専門にしているので、医薬品などの分野で応用されていて、「糖」「核酸」などの有機化合物を研究の中心としています。
研究の進め方としては、まずその分子が“過去に作られた事があるか?”という事をまず調べるところからがスタートです。
その分子が作られた事があれば、“より良い作り方はないか?”というのを考え、そのより良い作り方のヒントが過去にある場合はそれを参考に研究しますが、全くその参考になる研究が見つからない場合は、自分達の経験則や研究のデータを基に、新しい作り方を設定するのが一般的なやり方です。
調べる際は、論文などのデータベースから調べます。一つの新しい研究を始める為には、時には100以上の論文を読まなければならない為、この研究に必要な論文を探し、情報を抽出するという作業に多くの時間を費やさねばなりませんでした。 しかし最近では、データベースの高機能化が進み、調べる作業が格段に早くなった事を実感しています。
AIの登場でルート設定が簡易的に
より効率的なルートで有機化合物を作る為に過去の研究情報からルート設定を模索するのですが、そのルートを設定するにあたり、以前まで全て人の手で行っていたものが、AIの登場でかなり効率的になってきました。
現在では、AIの過去の研究を学ばせて、データベースにAIによる合成ルートの設定機能が実装されています。その機能はAIの成長とともにどんどん進化している状況です。
ただ、現段階でAIの対象となる分子は多くの化学者が研究対象としているものが殆どを占めており、これまでに作られたことがない分子や、重要ではあるものの研究者が少ない分子については、AIに学ばせるデータ量が少ない為、そのような分子の合成ルートは現在でも人の手で設定する必要があります。
また、無機化合物より有機化合物の方が構造が複雑なので、有機化合物より無機化合物の方がAIの技術としては進んでいるという現状もあります。その様な部分がAIを導入した共同研究の今後の課題です。
人とAIとの共同作業で研究の効率化を目指す
有機化合物を作る際に、実験の条件設定などをAIに任せる事が出来れば、研究のスピードが飛躍的にアップするのは間違いありません。例えば、医薬品開発などでは、どのような有機化合物が医薬品としてより効果的かというのを設計し、その設計を基に実際に化合物を作り、効果を調べるという過程をふむのですが、この一連の過程をAIの力でより効率的にならないかという話を、AIの研究技術者と現在話し合っている最中です。
これが出来るようになれば、トライアンドエラーの“エラー”の数が大分減っていく為、医薬品の開発もよりスムーズに出来ると思います。
しかし、AIが進歩したからと言って全てをAIに任すというわけではありません。
人とAIが並行して作業分担する未来が理想だと考えています。過去の研究結果からの組み合わせなどはAIに任せて、研究者は以前よりもっと新しいところに力を注げる様になれば嬉しく思います。