1.
背 景
メタマテリアルの性質の一つに,その内部を広帯域の波動が伝播できなくなるという特性が知られている.本特性により,機械構造物上の波動伝播を広帯域に操作できる可能性がある.
機械構造物が発する騒音の源は,パネル放射音である場合が多い.自動車では,車内外への騒音の抑制が商品価値向上,環境騒音低減に重要であるが,その騒音源は,ルーフやフロアーなどのパネル面である.パネル放射音を低減できれば,様々な騒音問題が解決する.しかしながら,従来技術による対策は飽和状態にあり,どちらかと言えば,単一周波数での騒音対策が主である.
パネル放射音は,パネルの面外振動によって,パネル近傍の空気の音圧が変動することで発生する.振動は,パネルの面外共振周波数近傍の周波数で大きくなり,連れて放射音も増大する.共振周波数近傍の帯域では,共振周波数に対応する振動モード形でパネルが振動する.振動モード形に依存して音響放射効率が異なることから,パネル放射音の低減には,振動の大きさを低減する以外に,振動モード形を変化させることも有用である.振動モード形は,パネル面を伝播する波動が重畳し,定在波となることで定まる.そこで,音響放射効率を低減するために波動の伝播を操作し,パネルの振動の大きさを低減したり,振動モード形を変更したりする技術が有用と考えられる.さらに,従来技術では困難であった広帯域での対策を実現できる設計法を盛り込めれば,実用的なパネル放射音の低減対策を実現できると考えられる.
2.
目 的
パネルのメタマテリアル化による波動伝播の制御と,振動モードからの音響放射効率の低減技術を紡ぎ,広帯域にパネル放射音を低減する方法を開発する.メタマテリアルの研究の多くは,波動伝播の操作に着目していたが,本研究は,波動が重畳して形成される振動モード形の操作までをメタマテリアルの最適化で実現し,最終的には放射音を低減する設計法として確立する点で,波動に関する基礎研究を工学に応用発展させるものである.
3.
問題解決のために考案した方法
パネル面における振動モードの形成は,波動がPhase Closureの原理に基づく共振形成条件を満たし,特定の角度に伝播する平面波が,互いに打ち消しあうことなく重畳して,定在波を形成することに起因する.そこで,この特定の角度の近傍の角度で伝播する波動の一部を,メタマテリアル内での干渉によって相殺させる方法を考案した.
特定の角度で伝播する平面波がメタマテリアル内を伝播する際に,円筒波として平面波から漏れ出す成分が存在し,メタマテリアル内での相殺が不十分になる.そこで,メタマテリアル内での干渉を促進するため,日光東照宮の鳴き竜で知られる「むくり構造」を付与し,平面波からの漏れ出しを低減することで,メタマテリアルでの波動の相殺を促進する技術も考案した.
4.
期間内での達成目標
パネルに面外振動が生じた場合,その表面積が大きいことから放射音も大きくなる.騒音低減には,音響放射効率が大きい振動モードを把握して対策する.例えば,ビート形状や曲率などの構造変更を検討し,固有値の再配置や,放射効率の低い振動モードへの変更を行うこととなる.しかし,構造変更の案出には,明確な理論や規則がなく,設計者の経験,勘,そしてコツに依存する.さらに,モード密度が高くなると,対策すべきモードが増え,広帯域での騒音低減に有効な構造変更を案出し難くなる.本研究では,複数の振動モードに同時に寄与する構造変更案をメタマテリアルの視点から導き出し,広帯域でパネル放射音を低減する方法を提案する.
5.
研究成果