岐阜大学大学院 自然エネルギー研究所
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研究内容


人間社会を取り巻く大気の現象,とりわけ日常の日射,降雨,風などは人間活動にもっとも強い影響を与える自然環境であり,経済活動でも支配的要因の一つとなっている.また新エネルギー面でも,風力や太陽光などの自然エネルギーはエネルギー密度が低く時空間的変動が大きいため,これらの変換効率を向上させて自然エネルギーを有効活用するためにはエネルギー腑存量の空間分布を詳細に把握することはもちろん,その時間変動特性の予測予報までも正確に把握する必要がある.このような大気環境の細密時空間分布の把握とその予測に対する要求に対しては,100m単位の判断が必要とされる風力発電風車の設置点選定などを考えると,現在気象庁から配信される気象情報(たとえば,気象庁客観解析データMSM,分解能10km)でも不十分である.

そこで我々はこの大気環境の細密時空間分布の把握とその予測システムを開発している.このシステムは米ペンシルバニア州立大学と米国大気研究センターで開発された局地気象モデルMM5(5th generation Mesoscale Model)をベースに次のような改良を行い,超高解像・高精度気象モデルを開発した.1)解像度50mの国土数値情報による詳細な地表面条件の設定,2)ドップラーソーダによる観測とこれに基づく大気境界層モデルの最適化,3)気象庁客観解析データ(MSM)による4次元同化,4)気象モデルMM5より高解像度な工学モデルの開発とMM5との結合,など.このシステムを用いて現在は東海・中部地方を中心とした地域を対象に水平空間分解能333mで10km上空までの気象場の再現と気象データベースの構築,さらに詳細な12時間予報を行っている.

この高解像度気象システムやその解析・予測結果に対するニーズは高く多方面にわたっている.たとえば自然エネルギー活用面では,風力発電風車設置の適地選定や期待発電量予測に必須となる高精度・細密風況マップの作成を民間企業との共同研究によって進めている.また環境面でも,森林生態学や衛星計測学の専門家とともに生態系炭素循環機構の解明とモデル化に取り組み,その試みは「革新的学問分野」の21世紀COEプログラムに採択されている.

 これらの研究遂行に際して下記の外部資金を受け入れた.

1)  高解像度気象モデルの開発とそれによるクリマアトラスの作成(平成13年度,(株)太陽建設コンサルタント)

2)  高精度細密風況マップの作成と活用に関する研究(平成14,15年度,(株)シーテック)

3)  高精度細密風況マップ製作システムの高度化研究(平成16,17年度,(株)シーテック)

4)  自然エネルギー利用システムに関する研究(平成14-16年度,(株)ニュージェック)

5)  複雑地形の影響を取り込んだ超高解像度気象場の数値計算とデータベース化(平成13年度,(財)中部電力基礎技術研究所)

6)  COE研究費:衛星生態学創生拠点(平成16年度)





風力発電はすでに商用化されている大出力の新・自然エネルギーである.新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などの資料からもわかる通り,海岸沿岸域や洋上は年間を通じて特に風が強く,風力エネルギーポテンシャルが高く,風力発電用風車設置の有力な候補地点である.

 しかし,実際の風車設置に際してはエネルギーポテンシャルだけではなく,風車設計に必要な自然外力条件のほか,風車が周辺環境におよぼす様々なインパクトまで幅広く検討する必要がある.そこで当研究室では,洋上風力発電用風車の建設適地選定に必要となる,風や波浪,海洋循環を総合的に評価しうる解析手法を開発するとともに,その手法を用いて,伊勢湾周辺域を例に総合環境情報データベースの構築を進めている.

まず風力発電のエネルギーソースとなる海上風あるいは地上風については,前述のプロジェクトに示した,局地気象モデルMM5をベースにしたシステムを構築し,これらの風情報を詳細に解析・予測している.このシステムは水平解像度333mという極めて高い解像度の風況データを提供することができる.このため,従来の適地選定に必要であった現地での長期実測調査が簡便あるいは不要になり,時間・コストの両面で非常に有利な情報を提供できる.現在はこのシステムを用いて,建設適地選定に有用な風況データベースの構築を進めるとともに,風車の効率的運用に欠かせない高精度風況予測も行っている.

 また波浪モデルや海洋循環モデルを用いて海洋波浪や沿岸・海浜流の解析・予測システムも構築している.わが国は台風に伴う強風や高波など,風力発電先進国ヨーロッパ諸国にはないきわめて厳しい自然条件下にある.この波浪解析・予測システムなどにより風力発電用風車の設計外力として不可欠な来襲高波浪などの情報を提供できる.また一方でこのシステムでは,風車の設置にともなう周辺海域での波浪や沿岸・海浜流におよぼす影響を解析し,流れの澱みや密度成層形成などによる水質変化などを周辺環境変化も予測することが可能である.現在,波浪モデルにはヨーロッパ中期気象予報センター(ECMWF)で開発された第三世代波浪推算モデルWAM(Wave Model)およびその発展モデルであるSWAN(Simulating Waves Nearshore)に独自の観測データ同化モデルを組み合わせてモデルを構築しており,解像度200mの高分解能波浪解析・予測を実施している.また,海洋循環モデルには米プリンストン大学のPOM(Prinston Ocean Model)を用いて,水平解像度1kmの沿岸・海洋海水循環解析・予測を行なっている.

以上のように洋上風力発電に関して,その建設適地選定から設計外力算定,環境アセスメント,そして建設後の効率的運用に対して,必要とされる総合的な高精度情報を提供できる環境を整備している.

これらの研究遂行に際して下記の外部資金を受け入れた.

1)  開境界適応型の大気海洋結合波浪推算手法に関する研究(平成13-15年度,科学研究費補助金)

2) 

吹送流の新しいパラダイム―強風下吹送流―に向けた海面バースト層の実証とモデル化(平成16年度,科学研究費補助金)








 
 

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超高解像度気象モデル・計算コードの開発とその環境・エネルギー問題への活用
エネルギーシステム講座    安田孝志,小林智尚,吉野純

洋上風力発電建設・運用のための総合的環境条件評価予測システム
エネルギーシステム講座   安田孝志,小林智尚,吉野純

研究テーマ