私たちの体の中では、多数の細胞や分子が連携しながら複雑な生命現象を生み出しています。細胞内では、タンパク質、核酸、糖鎖、脂質など多様な分子が精密に制御され、秩序だった機能ネットワークを形成しています。こうした生命現象の本質を理解するには、その動態や機能を生きた細胞内で直接観察することが重要です。生命機能化学研究室では、緻密に設計した独自の蛍光プローブを合成し、蛍光イメージングを駆使して細胞機能を解析するケミカルバイオロジー研究を展開しています。進行中のテーマは以下のとおりです。
脂質膜は、細胞やオルガネラの構造を規定するとともに、膜輸送やシグナル伝達をはじめとする多様な生命現象を支える基盤として機能しています。さらに、オルガネラ同士も膜間接触部位(Membrane Contact Sites)の形成を介して相互作用することで、物質交換や情報伝達が行われています。これらの膜動態を理解するには、膜の構造や物性(流動性、張力、厚みなど)を生細胞内で高精度に計測できる技術が不可欠です。生命機能化学研究室では、有機合成化学を基盤に、これらの膜特性を高精度に捉える蛍光プローブを開発し、最先端の蛍光顕微鏡技術と組み合わせることで、脂質膜の動的挙動を時空間的に可視化・解析しています。
Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 116, 15817–15822 (2019).
Angew. Chem. Int. Ed., 63, e202404328 (2024).

近赤外光は、高い生体透過性と低い光毒性、自家蛍光の影響を受けにくい特性を併せもつことから、深部組織や長時間イメージングに適しています。こうした近赤外光を利用したイメージングを実現するためには、高輝度、耐光性、化学的安定性を兼ね備えた近赤外蛍光色素の開発が必要です。私たちは、この課題に対してリン原子を含む多様なキサンテン系色素の創製に取り組んでいます。これらの色素を基盤に、タンパク質や糖鎖、脂質などの生体分子を標的とする蛍光標識剤や、金属イオン、pH、活性酸素種などに応答する蛍光センサーを開発し、生命科学および医学研究の発展に貢献することを目指しています。
Chem. Sci., 22, 7902–7907 (2021).
Angew. Chem. Int. Ed., 63, e202400711 (2024).

脂質は、エネルギー貯蔵、細胞膜の構成要素、生理活性分子の前駆体など多様な役割を担っており、その代謝異常は肥満や糖尿病、がんをはじめとする様々な疾患に関与しています。脂質代謝を分子レベルで理解するためには、細胞内での脂質の動態や代謝経路を可視化する技術が重要です。私たちは、蛍光脂肪酸プローブや脂肪滴プローブを開発し、脂質の蓄積や分解過程、さらにはMCSを介した脂質輸送を時空間的に解析しています。これらの技術を通じて、脂質代謝の恒常性維持機構や病態形成過程の解明に貢献することを目指しています。
ACS Mater. Lett., 3, 42–49 (2021).
Nat. Commun., 13, 2533 (2022).
