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タ イ ト ル 更新年月日 タ イ ト ル 更新年月日
 申年にちなんで、年賀状 2004/01/06  日本における国際花き生産流通戦略
  【13】中国における切花生産の概要
2004/11/19
 園芸店の衰退と静岡メロンの衰退 2004/04/09  日本における国際花き生産流通戦略
  【14】中国での菊切花生産と日本への輸出
2004/11/29
 岐阜新聞で研究内容が紹介されました 2004/04/30  日本における国際花き生産流通戦略
  【15】中国の鉢物生産
2004/12/06
 人を育てて生産する 2004/05/26  ついに始まった!中国からシクラメンの輸出 2004/12/23
 2000坪の法則 2004/10/26  シクラメンの将来 2004/12/24
 日本における国際花き生産流通戦略
  【12】中国の花き産業は第3段階に入った!
2004/11/05  農産物の新品種はダレのため? 2004/12/27
 園芸を楽しむ人々を生み出す 2004/11/10


★農産物の新品種はダレのため? (2004/12/27)

 私の専門としているバラは日本国内だけでも毎年数十種の新品種が登録されています。その中で数年後に残っているのはわずか数品種といわれており,ほとんどは消費者に名前を知られる前に消えていきます。というより消費者は切りバラの品種の名前をほとんど知らないのではないでしょうか。
 キュウリに品種の名前があるのを知っている消費者はどれくらいいるでしょう。「宮崎みどり」「五月みどり」など,どこかで聞いたことのある名前の品種も含めて数十品種が存在します。年末シーズンには不可欠のシクラメンにも品種があります。「作曲家シリーズ」というパステル系品種では「ベートーベン:赤紫」「シューベルト:パステルピンク」やF1品種の「オペラシリーズ」では「カルメン:赤」など品種名とイメージが一致していて園芸店で売っていれば是非買ってみたいと思うものもあります。しかし,これらのキュウリやシクラメンは高知産キュウリや赤のシクラメンとして販売されており,品種名が店頭で表示されることはありません。何故でしょう。
 農産物の品種は種苗会社(育種会社)が販売しています。種苗会社の直接の顧客は生産農家なので,「病害虫に強いキュウリ」,「冬の低日射量でも良く穫れるキュウリ」,「耐暑性のシクラメン」など,生産農家の栽培需要に応えるべく有用な遺伝子を持つ品種を育種して販売しています。この点では種苗会社のマーケティングは間違ってはいないのかもしれません。しかし,種苗会社の顧客である農家は最終消費者ではなく,農家が栽培したキュウリやシクラメンは市場,仲卸,スーパーを経て最終消費段階の消費者の手に渡ります。本来は,消費者に評価されない商品は小売店でも評価されず,当然,市場でも評価されないことになり,市場価格は低くなるのが普通です。したがって,生産農家は消費者に評価されない品種を選択することはないものと思いますし,どんな良い品種であっても消費者に評価されない新品種は生産農家が種苗会社から購入しないはずだと思います。しかし,現実はそのようになっていないところに問題があります。消費者の好みは新品種に反映されることなく,消費者は欲しくもないものを新品種といって高く買わされているように思います。
 生産農家は作付け前に種苗会社の営業マンから品種の特徴などの情報を入手して,カタログから品種を選んで購入して栽培します。そのときに最終段階の消費者の意向や,園芸店やスーパーなどの意見を取り入れることはほとんどありません。ヒョッとすると,種苗会社の育種の観点も生産農家の意向が重要視されて,消費者の意向調査やマーケティングはほとんど行われていないのではないかと思うこともあります。種苗会社にとって,品種の名前も知らない消費者は新品種が評価される顧客対象ではなく,せめて青果市場や花き市場に品種が評価されれば充分なのかもしれません。
 農業の問題点の一つとして,川上(生産)から川下(消費)までの情報の断絶があると思います。不思議なことに,農業という産業は最終消費者のことを軽視する傾向があるようで,実際に自分が生産した農産物(商品?)をどのような顧客層が買ってくれているかを知っている生産農家はほとんどいません。このような状況で農業を産業というのでしょうか・・?


★シクラメンの将来 (2004/12/24)

 10年ほど前に発表されたパステル系シクラメンには生産者の間では有名な「音楽家シリーズ」があり,「シューベルト」「ベートーベン」「ショパン」などの品種がありました。「シューベルト」は少し色の濃いパステルピンク,「ベートーベン」は赤みのある紫色,「ショパン」はサーモンピンクに白いかすり模様,などのように特徴ある花色です。これらのシクラメンは,生産者の段階では品種名があったのですが,市場に出荷されるときには「ピンクのシクラメン」「赤紫のシクラメン」として,ほとんど品種名を明記されないままに販売されてしまいました。当時「折角良い名前があるのにもったいない」と感じた記憶があります。消費者にとって品種の名前は単なる記号ではなく,思いを込めるキッカケといえると思います。熱き思いを込めてシクラメンをプレゼントするときには「ベートーベン」を贈りたい! 安らかな気持ちを込めて「シューベルト」を贈りたい・・。
 財)日本花普及センター発行のフラワーデータブックによると,シクラメンの市場価格は1990年を境に急落しています。平均単価は1990年の1829円から2002年には1266円と2/3に低下し,シクラメンの生産者の経営は極めて苦しい状況に追い込まれています。シクラメンは年末の定番商品と思っていたのですが,消費者はシクラメンに飽きてしまったのでしょうか。 【PDF file シクラメンの価格の推移】
 先日,岐阜市内の園芸店を訪問してビックリしました。12月の園芸店は赤,ピンク,白のシクラメンで覆い尽くされていると思っていたのですが,黄色や覆輪,ぼかしなどの新品種のシクラメンが半数以上並んでいました。実際に,豊明花き市場で2004/12/20に取り扱われたシクラメンをみてみると,取扱量は56,344鉢で,そのうち品種名が付いているものは26,973鉢とほぼ半数が新品種のシクラメンでした。インターネットの楽天市場でシクラメンを検索すると,これまで見たことのない新しい品種が並んでいました。 【PDF file シクラメンの新品種】
 これまでのシクラメン品種の音楽家シリーズやオペラシリーズなどF1やパステル系の多くはヨーロッパの育種会社で育成されたものがほとんどでした。しかし,この数年間に新たに登録された品種のほとんどは日本国内の育種家によって育成された品種で,日本のシクラメンの育種力が急速に高まっていることを実感しました。
中国からシクラメンが輸入されるという中国花卉報社の記事に少々驚いたのですが,シクラメンの市場が,このような新品種に置き換わってきている状況を見ると,一安心しました。当然これらの新品種にはロイヤリティーがかかっていますから,中国からの普通のシクラメンの輸出に対して一定の対抗措置が取れるのではないかと思います。
 中国から輸出されるシクラメンはヨーロッパの品種ですから,いわゆる「普通のシクラメン」の土俵で価格が設定されることになります。これに対して,日本国内で生産されるシクラメンは「特別な品種のシクラメン」ですから,中国のシクラメンとは異なる土俵で勝負ができることでしょう。確かに普通のシクラメンを栽培している生産農家は中国からのシクラメンの輸出の影響を強く受けることは間違いないと思いますが,日本の消費者が希望するシクラメンの新品種をこれからもどんどん育成して,消費者と一緒に手を携えて日本のシクラメンを育てていって欲しいと思います。


★ついに始まった!中国からシクラメンの輸出 (2004/12/23)

 中国花卉報社の2004年12月9日の報道によると,中国からシクラメンの鉢物の輸出が始まりました。以下の記事はその抜粋です。
『本報訊 記者柳原報道 11月24日,浙江森禾公司的首批1000多盆精品仙客来離開天津港,奔赴日本。拠悉,這是我国盆栽仙客来首次実現批量出口。拠河北分公司総経理王宗標介紹,此次簽訂的合同是向日本市場提供4000多盆仙客来,当第一批1000多盆順利通関後,日商決定還要追加訂貨。 拠最新消息,由於市場反映良好,本来需分両次出口的第二和第三批仙客来,将於今日一次出港,数量為2200盆。』
【柳原記者のニュースによると,11月24日,浙江省森禾種業から1000鉢の高品質シクラメンが天津港から日本に向けて輸出された。これほどの量のシクラメンの鉢物が輸出されたのは,恐らく初めてのことである。森禾種業河北支社長の王宗氏によれば,今回は日本市場向けに4000鉢のシクラメンを輸出する契約で,第1陣として1000鉢が無事通関をとおり,今後順次輸出する計画である。 最新ニュースによると,市場での評価は良好で,2回の輸出計画のうち第2陣は今日(2004/12/9)2200鉢が出港します。】
 早速輸出されたシクラメンを見てきました。日本では生産が少ない8号鉢の大鉢のシクラメンでした。【写真】中国から日本への輸送日数は約3日間で,これに通関・植物検疫の日数が加わり,5〜6日間を要します。冷蔵コンテナを使用しますが,その間暗黒条件となります。状況見た限りでは,この程度の日数の暗黒条件であれば,品質上問題とならないと感じました。植物検疫で一番問題となる土壌については,森禾種業があらかじめ日本に培地を送付して検査を受けた後,製品を輸出する方法をとっています。この方法は日本から中国にシンビジウムを輸出する場合の方法と同じです。当然,森禾種業はカナダ産の調整ピートモスを取り扱っていることもあって,シクラメン生産には土壌を使用していないので,問題とはなりませんでした。病害虫に対しても細心の注意が払われていました。植物検疫には通常日数がかかりますが,生鮮品の取り扱いで迅速に検疫業務が実施されたようです。
 さて,輸入されたシクラメンの品質についてみると,そのままの状態で販売できる状況ではありませんでしたが,中国の生産技術の進歩は目を見張るものがあり,近々にそこそこのレベルに達するのではないかと思います。現状でも鉢物の価格が低迷していることを考えると,さらに中国から大量の鉢物が輸出されてきたときには,日本国内の鉢物生産者が大きな打撃を受けることは間違いないと思います。
 しかし,観点を変えると,これで日本国内から中国へ鉢物を輸出する下地が見えてきたということができます。中国のシクラメンの品質と日本国内のシクラメンの品質を比較すると明確な差がありますので,中国の富裕層は中国国内のシクラメンに満足できず,日本から輸出された高品質のシクラメンに食指をのばすことは間違いないと思います。ただし,日本国内で最も流通量の多い5号鉢サイズのシクラメンに中国の富裕層は興味を示すことはなく,日本から輸出する場合には7号鉢以上の大鉢のシクラメンでないと富裕層の需要を満足できないと思います。すなわち,日本での需要が少ない7号鉢以上のシクラメンを,中国輸出目的で専用に生産する必要があります。12月中旬の日本国内での8号鉢のシクラメンの市場価格は3000〜5000円と思いますが,恐らくこれ以上の価格は間違いないでしょう。シクラメンの生産者のなかで,どなたかチャレンジしてみようという方はおられませんか?


★日本における国際花き生産流通戦略
 【15】中国の鉢物生産 (2004/12/06)

 中国の鉢花生産は清王朝からの歴史がありますが,その用途は日本と大きく異なっています。日本では「花壇に苗を植えて花を飾る」ことが公共緑化の主流ですが,中国では鉢花を並べて花飾りを行います。したがって,1990年代半ばまでの鉢花生産は主に公共装飾としての伝統的な鉢物生産が主体となっていました。鉢は素焼き鉢で,畑土を用土として使用し,一鉢一鉢の品質ではなく集団としての豪華さが求められる鉢花生産でした。10月1日の国慶節には北京の天安門広場を始めとして,各都市の中山広場では華やかな花飾りが行われており,その鉢花の供給基地として近郊鉢花生産地が発達していました。北京市南西部の豊台区花郷地区は,清王朝時代から続く歴史的にも有名な花産地として発達した地域で,現在でも多数の鉢花生産農家があり,鉢花市場も多数存在します。 【pdf file】 
 個人消費を目的とした鉢花生産は1992年頃から次第にみられるようになり,素焼きや陶器鉢に混ざってプラスチックの鉢花が花市場でも時々みられるようになりました。私が最初にプラスチック鉢の鉢物をみかけたのは1992年で,北京市の天壇公園の花市場でオリヅルランの吊り鉢をみかけたのが最初です。1996年以降になると,各地でコチョウランやグズマニアの鉢花生産を行う大規模温室が建設され始め,特に台湾資本との合弁企業による大規模鉢花生産温室が目立ち始めるようになりました。当初の品質は極めて低く,日本の品質基準ではとても販売できるような商品ではありませんでしたが,希少価値ということも手伝って,日本の販売価格の2倍以上の価格が付いていました。
 1999年に昆明で開催された国際花博覧会を契機に,公共緑化以外の花苗も販売されるようになると共に,2000年頃からはシクラメンやポインセチアなどの小鉢の鉢花も生産・販売されるようになり,個人消費が芽生えが感じられるようになってきています。このような消費動向によって鉢物生産量は1996年以降急激な増加をみせています。 【中国の鉢花生産の発達】
 中国での鉢物産地は、観葉植物と花鉢物で大きく異なります。観葉植物は広東省を中心とする地域で生産され,なかでも仏山市順徳区陳村は生産規模が10haを越える大規模生産会社が百数十社あり,特にガジュマル、ベンジャミン、カポック、パキラなどの木本性の大鉢の生産は中国の60%を超える生産地です。春になると北京や上海に貨物列車を用いて大規模輸送販売を行っています。北京や上海の販売会社は一時的に温室内に搬入して、気温が高くなると同時に販売を開始します。1990年頃の中国国内の鉄道輸送状況は極めて悪く、広州から北京、上海への輸送には3日以上を要していましたが、近年の技術革新によって大幅な輸送時間の短縮が図られ、2日以内で広州から上海に到着できるようになってきています。現在の中国は景気が良く,会社やホテルの室内装飾用として使用されています。
 観葉植物は長距離の輸送に耐えるため,生産地が気候が温暖な広東省に偏在し,輸送園芸が発達しているのに対して、鉢花物はコンテナ内の暗黒条件での管理に耐えられないことから、その生産地は消費地の近郊に限られています。1990年代前半では大都市の近郊産地で公共緑化用の鉢花に加えて個人消費用の花鉢物が細々と生産され,都市の相対市場で販売されていました。北京市豊台区花郷地区を1990年に訪問したときには、中国国慶節などの国家行事で天安門広場に並べて飾る鉢花物の生産が主に行われており、個人消費向けの鉢物はオリズルランや観音竹などがわずかに生産されているに過ぎませんでした。しかし、2000年前後から大規模温室での花鉢物の生産が盛んになり始め,その代表的なものとしてシクラメンを挙げることができます。シクラメンは中国語で「仙客来」といい,縁起がよい花として人気のある植物です。2001年に訪問した北京花郷花木集団仙客来基地北京市林木良種繁育中心では,各々数万鉢のシクラメンが生産されており,2002年の生産計画は数十万鉢であるとのことでした。
 2002年と2004年の小売価格を比較してみましょう。
シクラメン:30〜50元(2002)→10〜40元(2004),カランコエ:10〜15元(2002)→2〜10元(2004),ポインセチア:50〜70元(2002)→10〜20元(2004),アザレア:20〜25元(2002)→5〜15元(2004),ブロメリア:50〜60元(2002)→20〜40元(2004)
 いずれもこの2年間で価格が急落しています。その理由として,@希少価値がなくなってきた,A需要を上回る生産量,B消費者の目が肥えてきたなどがあると思います。しかし,中国国内の物価水準は日本の1/10以下であることを考えると,1元=13円で計算しても鉢花物は中国人にとって極めて高い買い物であることが判ります。特に,品質と価格との関係を見ると、品質が低いにも関わらずこの価格であることから、かなり割高であるというのが印象です。
 しかし,生産技術の点からみると,1999年から2004年までの5年間で急速に生産技術が向上しています。1999年のシクラメン用土は畑土と腐葉土が使われており,とても商品の域には達していませんでしたが,2001年には用土が調整ピートモスに変化し,2004年には日本の普及品レベルの商品が販売される状況にまで達していました。 【pdf file】
 これからも鉢物生産の技術発達は続いて,日本と同じレベルに到達するのは間近ではないかと思います。


★日本における国際花き生産流通戦略
 【14】中国での菊切花生産と日本への輸出 (2004/11/29)

 中国のキクの切花生産は1998年以降急増しています。現在の主な菊の生産地は遼寧省大連,河北省保定,山東省青島,福建省廈門,江蘇省,海南省で,寒冷地から暖地まで気候に応じた生産が行われています。日本で行われているような1カ所の産地での周年生産体制はまだ確立されていませんが,中国全土を考えると周年出荷体制が確立しています。1998年頃のキク切花生産技術は低く切花品質も著しく低かったのですが,数年間で日本からの技術導入が進み,2000年には電照栽培も行われはじめ,かなりの高品質の切花が生産され始め,日本への輸出が急増しました。2002年と2004年に訪問した遼寧省大連市東華園芸有限公司におけるキクの切花生産の状況を紹介します。
 大連市は冬の気温がマイナス10℃以下に達する極寒地域ですが,降雪がないため冬季の晴天日が多く,切花生産に重要な日射量が確保できます。また自国産の石炭を暖房に使用しているため暖房費は安く,必ずしもコストの上昇を招いていません。一方夏季の最高気温は25℃を超えることがなく,梅雨や秋雨もないため冷涼で高日射量が確保できます。このような好条件を基盤にした大連市の輪ギク生産は日本国内のキク生産者の指導の基に,この数年間で急速に技術力が向上し,大量の輪ギクが日本へ輸出され始めています。暖房コストの問題から,現在は12月までの秋ギクが主体ですが,日長処理技術が進み始めていることから,近い将来には周年生産が可能になると思われます。訪問した大連東華園芸有限公司の生産量は2002年の段階で既に20,000uの生産規模で,2002年の年末から年始にかけての生産量は約400万本(40万本/週の生産量)でしたが,2003年には生産面積が3倍の60,000uに増加していました。
 生産された切花の80%は日本向けに輸出されており,20%が国内販売されています。中国国内の販売価格は0.4〜1.6元(5.2〜20.8円)/本で,清明節(日本のお彼岸)には最高値の2元(26円)/本まで高騰するとのことです。生産原価は0.5元/本であることを考えると,国内販売でも充分経営的には成り立つように思います。日本への輸出についてみると,CIF価格(日本到着価格)は日本側の輸入商社(クラシック,東亜通商,アジア通商)と年間一定の契約価格が設定してあり,秀(全体の30%)が30円(2.3元),優(50%)が25円(1.9元),良(20%)が18円(1.4元)となっていました。大連から日本への輸送方法は船便で,2〜3℃で維持した40フィートコンテナに切花を80,000本入れることができます。大連港から横浜港までの所要日数は4日間、大阪港までは3日間(土曜日の朝出港し、月曜日の昼頃到着)で,植物検疫や積み出し,積み降ろしを含めて7日程度です。キクは水上げが極めて容易な切花で,バラのような前処理や後処理などの必要がなく,冷蔵コンテナでの1週間程度の輸送期間であれば品質上問題となることはありません。輸送コストは、海上運賃に加えて輸出入手続きにかかる費用を含めて5円/本程度であることを考えると,日本への輸出は東華園芸有限公司にとって大きな収入をもたらしていると思います。
 中国からの輪ギクの輸出本数は年間8,000万本に達し,現在の日本国内の総流通量の約7%ですが,中国の生産状況を見ると今後ますます増加することが予想されます。山東省青島の用大園芸有限公司は1996年から日本市場向けのキクの生産を開始し、現在は8月から12月にかけて切花を出荷しています。青島は大連と同様に黄海沿岸都市ですので,船便を使っての輸出が可能です。輸出実績は、1999年:20万本→2000年:50万本→2001年:100万本→2002年:200万本→2003年:400万本→2004年:800万本(予定)で,将来は周年出荷を目標にしています。中国で聞き取り調査を行った農産物輸出商社は,大連や青島で生産された8月から12月の秋ギクに加えて,12月から8月にかけては、福建省厦門(アモイ)で20万本、河北省保定市で200万本のキクを生産し、天津港に集荷し、日本へ輸出しています。しかし別のデータによると,2003年に山東省青島から1,000万本、遼寧省大連から300万本が輸出されているとの報告もあり,正確な輸出量は把握できませんが,毎年倍増する中国の輪ギク生産によって日本のキク切花業界は大きな影響を受け始めていることは事実です。
 2004年5月に農産物輸出商社の友人からe-mailが届きました。内容は「キクの切花を毎週8万本輸出したい。河北省保定,廈門,青島,江蘇,海南でリレー栽培をしており,LLサイズの規格の切花を周年輸出することができます。日本での受け入れ会社を紹介して欲しい」というものでした。色々と連絡したところ葬儀用のキク取り扱い会社との商談が成立し,新たな輸入が始まったようです。
 日本の輪ギクの生産量は約12億本で,その消費の多くは葬儀需要が担っています。当然のことながら輪ギクにも数多くの品種がありますが,周年生産を行うための作型に応じた品種の開発が主で,葬儀用輪ギクの需要者はキクの品種にはそれほどこだわっておらず,等級が主体となっています。このように輪ギクの最終消費者は一般消費者ではなく葬儀業者であり,他の切花とは異なる「消費のゆがみ」があることが中国からの輸出を拡大させています。すなわち,個人消費ではなくビジネスユースが主体で,価格に大きなウェイトがかかっており,さらに葬儀用のキクは何度も使用されることが多く,日持ち性や一定以上の品質は重要な要素ですが,品種や高品質は大きな要素ではありません。加えて,低価格の中国産輪ギクが入手できた場合には1回の使い切りをすることも可能になり,葬儀後の撤収時間が短縮できることから,1日当たりの受注葬儀回数が増えて収益性を高めることも可能となることから,ますます中国からの輸入キクの需要が拡大することは間違いないと思います。生花祭壇「愛彩花葬」を主力商品としている(株)ニチリョクの相島秀男氏は「積極的に中国の輪ギクを使用して,低価格の生花葬を国内に普及したい」と言っておられました。
 一部でキクの個人消費のための消費促進活動も行われていますが,現状では葬儀や仏花以外の分野で新たにマーケット(市場)が拡大する可能性が低いことが問題と考えます。このような閉鎖市場に新たに中国からの低価格輸入切花が増加した結果,キクの市場価格は急落し,数年間で十数円下落しました。【pdf file キクの輸入と市場単価】
 今後,中国からの輪ギク輸出量がさらに増加したときに,日本国内の輪ギクの生産地はどのような状況になっていくのか不安を感じているのは私だけではないと思います。輪ギク生産業界は,生産・流通・消費を含めた構造改革が不可欠な段階に突入していることは間違いないと考えます。


★日本における国際花き生産流通戦略
 【13】中国における切花生産の概要 (2004/11/19)

 中国の花き生産は,この10年間で急速に発展しました。この大きな理由の一つに,経済発展と交通網の整備を挙げることができます。私が最初に中国を訪問した1988年は主要な交通手段が自転車で,車は専属の運転手が運転する公用車とタクシーのみでした。首都北京でも自動車より自転車の方が多く,環状2号線内側の中心部幹線道路以外はほとんど未舗装でした。しかし,1990年にはバイクが主体となり,現在は乗用車があふれて毎日日常的な渋滞が起きています。また,東京並みの高速道路網も整備され,走っているアウディやBMWは日本より多いのではないかと思うほどです。また,1990年頃は地方へ行くには1日1便の飛行機しかなく,航空券の購入も電算化されていないため発券に日数が掛かるなど不便だったのですが,現在はどの航空路線も複数の発着便があり,発券システムもオンライン化されて直接窓口で購入できるようになりました。
 このように急速な経済発展と交通網の整備によって発達したのが切花生産でした。近年の中国国内での切花生産の発達はめざましいものがあります。特に,1999年に雲南省で開催された昆明園芸博覧会(通称「昆明花博」)を契機に,昆明市周辺は中国最大の切花生産地となりました。切花の主体はカーネーション,バラなどを中心に多彩ですが,個々の生産農家の規模は小さく,無加温の露地栽培が主体であるため品質は高いとはいえませんでした。しかし,近年オランダや韓国あるいは台湾などの外国資本を導入した大規模生産会社が現れ始め,品質は急速に高まってきています。
 中国の切花生産面積は,中国花卉協会でもよく把握できていません。その理由として,各地で倍々ゲームのように生産面積が急増しており,例えば,青島市の用大園芸有限公司のキクの生産本数は,1999年の20万本から2001年には150万本へと増加し,2004年の生産予定は800万本といわれています。このように切花生産は,ハードが先行しソフトが追いつかない状況です。同様に,生産技術のハード(温室などの施設)は完備してきていますが生産技術者が不足気味で,生産技術(ソフト)が追いつかないため素晴らしい品質の切花があると思えばとんでもないゴミも市場に出荷されており,品質の幅が大きいのが現状です。
 もう一つの課題として流通システムがあります。昆明,北京,広州など,日本の太田花き市場や豊明花き市場の支援の下で新たな大規模セリ市場が開設されていますが,ほとんどの市場は順調に機能しているとはいえない状況で,多くの切花は上海精文花卉交易市場に代表されるような直接相対市場で取引されています。
 また,切花生産地から消費地までの輸送にも大きな問題があります。大生産地である昆明で生産された切花はトラック便や列車,航空便で北京や上海などの大都市を中心に中国全土に輸送されています。昆明の斗南花卉市場での高品質なバラの平均価格は0.5元(6.5円)程度ですが,上海,北京での販売価格は1〜2.5元(13〜32円)程度であることをみると,中間マージンを含めて輸送にかかるコストがかなり高いことが想像できます。実際の輸送費としては,航空便の場合には2.4〜4.0元/kgの航空運賃がかかり,列車の場合でも1.0元/kgの輸送費がかかります。また,高速道路が完備されてきたといっても北京まで4日間を要します。
 昆明の切花生産は世界的にも有名で,生産量も多いため,日本への輸出が危惧されています。2000年頃までは国内需要が高く,高品質な切花の生産量が追いつかない状況でしたが,この数年の生産施設の整備や大規模生産者の台頭で生産過剰の状況に陥っており,新たな販売先を求めて海外輸出をもにらんだ動きが現れ始めています。しかし,日本で要求される切花品質を維持できないこと,あるいは航空便輸送による輸送コストの問題等から日本への輸出が急速に増加する状況にはありませんが,年々増加すると考えられます。また,中国国内の大規模セリ市場の設立に太田花き市場や豊明花き市場などが関与していることから,これらの市場の方針次第では日本への輸出が活発化する可能性も否定できません。
 2008年の北京オリンピック,そして2010年の上海万博を契機に中国国内の個人消費は急速に高まることが予測されています。現在の中国国内の切花消費のほとんどは贈答品やビジネスユース(開店祝いや冠婚葬祭などの盛り花)で,個人消費は全体の1%しかないといわれています。ビジネスユースの盛り花では見かけの豪華さが要求され,花保ちや鮮度は必ずしも必要とされません。また,贈答品においても受領したときが最高であれば,その目的が充分果たせるようです(日本では,その後の花保ちも要求されるようですが,この点は中国の国民性かもしれません)。したがって,中国各地の切花市場では傷んだバラの外花弁を数枚取り除く作業が毎日の日課のように行われていました。 【バラの花弁を取り除く状況写真】
 しかし,2010年以降の個人消費の高揚と共に切花の鮮度が要求され始めるのは間違いなく,中国の富裕層あるいは新富裕層の状況を見ていると,中国国内での切花の個人消費の増加はすぐ目の前にきているのではないかという予感がします。中国国内の切花の個人消費が増加すると国内の切花需要は急増することから,それに伴って日本への輸出も減少するのではないかと予測しています。
 日本の花は中国の富裕層の間では既にブランドとなっており,上海や北京の花き市場でも「日本進口(日本からの輸入の意味)」の表示があるものは偽物であっても高価格が付いています。同じような現象として,中国国内の切花生産者の意識のなかには「日本に輸出することに対するステータス観」があり,「日本へ輸出できる高品質な切花生産ができる優秀な生産会社でありたい」という憧れにも似た感覚で,積極的な輸出を行っているということができます。
 いずれにしても,中国の花き産業の中では「日本ブランド」は定着しつつあるといえると思います。


★園芸を楽しむ人々を生み出す (2004/11/10)

 Plants・Plantsを経営しておられるピーツー・アンド・アソシエイツ株式会社の田坂豊継社長のお話を伺っていて感じたことです。ピーツー・アンド・アソシエイツ株式会社はペットショップを展開している会社で,Plants・Plantsは植物のペットショップとして位置づけているとのことです。
 「動物は死ぬと悲しくて、特に人に密着するほど悲しく感じます。犬を飼うと死んだときが悲しいので,その代わりハムスターを飼う人がいますが,ハムスターを飼う前には植物でしょうか?植物がペットになるためにはまず『かわいい』と感じてもらうこと,そして『感動を覚えること』が重要です。現在の園芸業界を支えているのは全体の20%の園芸マニアで,その外側には80%の園芸の素人がいます。素人が園芸を始めるには、まず感動を与えることが重要だと考えます。植物を育てるなかで最も感動的なものは種子からの発芽ではないでしょうか。小学校で植物と触れる最初の感動は「種子の発芽」だと思います。Plants・Plantsは『園芸店』ではなく『園芸の感動を与えるお店』と考えています。」
 園芸生産業界にいると,園芸の楽しみは「植物を育てること」だと思い込んでいます。植物が育つことで感動をおぼえ,大きく育つことで楽しみを感じると思い込んでいます。しかし本当にそうでしょうか。私自身,以前「ジャックと豆の木」を中国広州で買って育てたときには「発芽してグングン育っていく」ことに感動をおぼえましたが,その後は興味が失せてしまった記憶があります。園芸の素人の方であれば,「発芽した途端に最高の満足を覚えて、気持ちは他に移っていく」こともあるかもしれません。しかし,この植物と触れあうことが第一ステップと考える必要があるでしょう。
 私たち園芸生産業界の人間にとって,「パンジーは初心者のための園芸植物」と思っていますが,実は「園芸マニアの植物」なのかもしれません。だって秋に植えたパンジーの最高の状態は数ヶ月後の2〜3月にしか訪れなくて、その間は単に水やりを続けて,感動を感じることができません。Plants・Plantsには「育てる卵(価格600円)」という商品がありました。卵の形をしていて,卵の一部を割って水を与えると植物が育ってきます。1ポット80円のパンジーに比べて割高に感じますが,金額の問題ではなく,感動を関することができるものにはある程度の投資をする人たちが育っているということでしょうか。
 園芸業界の人は,すぐに植物を枯らしてしまう人を「ブラックハンド」といってバカにしますが,このような人々に適切なアドバイスを与えて「園芸ファン」を増やす努力をするべきではないかと感じました。


★日本における国際花き生産流通戦略
 【12】中国の花き産業は第3段階に入った! (2004/11/05)

 上海市の高級花店の上海鮮藝花行の王社長が分析された内容です。
 中国の花き産業は,これまでの第1段階,第2段階を経て,第3段階に突入し始めた。中国の花き産業は,図【PDF file】に示すように天安門事件が起きた1989年頃から急速に成長し始めました。第1段階は「改革開放時代」ともいうことができ,1990年代半ばまで続きました。バラ,カーネーション,フリージアに代表されるように,それまでの中国には流通していなかったヨーロッパやアメリカから導入された花き類が流通し始め,需要が急速に増加したため,「作れば何でも売れた時代」ということができます。急速な生産と膨大な需要に支えられて中国の花き産業は急速に成長し,流通過程が未整備であったことから生産農家の直接相対市場が発達しました。また,大都市への輸送園芸が成長し始めた時代ともいうことができ,雲南省昆明市周辺が大産地として発展し始めた時期ともいえます。この段階では「バラ」であれば品質に関係なく「バラ」として販売することができたため生産技術の進歩は遅く,それまで野菜を生産していた小規模生産農家が商品作物(換金作物)としての花き生産に移行して行った時代ということができます。
 第2段階は1990年代半ば以降に始まりました。急速な経済成長に支えられた富裕層が現れ始めた時期で,富裕層は一般的な花き類に飽きて珍しい高級花き類に興味を持ち始めた時代です。代表的な花き品目として,コチョウラン(鉢花),グズマニア(鉢花),アンスリウム(切花)などを挙げることができ,第1段階の改革開放時代にはみられなかった少しランクの上の商品が品質に関わりなく大量に生産・販売された時代ということができます。高度経済成長にも支えられて,花き生産は小規模生産農家から大規模生産会社へと変遷を遂げていきました。これらの大規模生産会社では台湾やオランダの生産システムを導入して,コチョウランやアンスリウム,グズマニアなどが品質に関わりなく大量に生産され始めました。この流れは2004年の現在でもみることができ,北京や上海の花き市場では「日本では販売できないゴミ」ともいうべきコチョウランが300〜400元(3900〜5200円)で販売されていました。 【PDF file】
 2001年頃から第3段階ともいうべき時代が始まりました。富裕層の人口は急速に増大し,海外のブランド品や高級乗用車を手に入れるようになり,高品質の意味を理解し始めました。この時期に韓国から大量に輸出され始めたシンビジウムに対して,日本から高品質な新品種が輸出されると富裕層はすぐに飛びつき,「新品種」,「高品質」が花き業界のトレンドとなり始めました。韓国産のシンビジウムの200〜300元(2600〜3900円)に対して,日本産の高品質・新品種のシンビジウムは1000元(13000円)で販売されていました。また,それまではバラは「赤バラ・白バラ・黄バラ」と表示されていたものが,品種名が表示されるようになってきました。これからは,日本と同じような価値観で花きの販売が行われることになると考えます。
 このような状況から,私は「中国は日本からの高級花きの輸入国になる」と考えます。日本の花き生産者の皆さん!花が安いと不満を言うのではなく,中国という大きな市場を考えた生産をしてみませんか?富裕層人口は北京,上海だけで570万人,香港,広州,マニラ,シンガポール,バンコク,ジャカルタなどの東アジアに広げると2000万人以上の富裕層が日本の花きの顧客として待っていると思います。ヨーロッパ(EU)のオランダと同じように,「アジアの日本」という気持ちを持って花き産業を発展させてはいかがでしょうか。


★2000坪の法則 (2004/10/26)

 岐阜県内の花き生産者をみていて感じたことです。家族労働で経営している生産者は施設内に良く目が届いて,高品質生産を目的とした生産体系を取っています。生産規模は大きくありませんが単価が高く,高収入を得ている傾向にあります。しかし,近年の上限価格の下落の影響は大きく,全体の収入が大きく低下しており経営は苦しい状況です。しかし,家族労働ですので,外食を減らしたり,贅沢品の購入を削減したりして当面を凌いでいるのが現状です。
 後継者が親の経営に参画し始めると,労働生産性を高めるために規模拡大をする傾向があり,息子夫婦に対して給与性を取り始めます。それまでの経営は,いわゆる「丼勘定」であったものが,定期的に給与を支払う必要に迫られ,経営内容が大きく変化し始めます。生産体系は周年生産に移行し始め,定期的な収入を目指すようになります。
 両親夫婦,息子夫婦の計4名程度の労働で最大限2000坪程度を管理することが可能です。近年の単価の下落に対応するためには規模拡大をせざるを得なくなりますが,2000坪を超えると最大4名の家族労働では施設内に目も手も届かなくなるようです。これを回避するために従業員を雇用するようになります。これが法人化の第一歩です。
 従業員を雇うと,その従業員にパートタイマーを貼り付けて温室1棟を管理させたり,営業販売部門を任せたりすることが出来ます。従業員が一人前に仕事が出来るようになると生産性が向上し,さらに新たな従業員を雇用すると共に新たに施設を建設して規模拡大することが出来ます。この従業員も一人前に仕事が出来るようになると,さらに・・・。
 このように,施設面積が2000坪を超えるようになると生産管理作業の分業化や施設管理マネージャー制を取ることができ,家族内労働では達成できなかった一層の規模拡大の道が開け始め,法人化のメリットを最大限に享受することができるようになります。
 このことに気が付き始めたのは5年ほど前ですが,最近オランダの統計データをみていて同じようなことが起きていることに気が付きました。最近の19年間の経営規模別農家数の推移を見ると,0.75ha未満の農家数はいずれも減少しているのですが,0.75〜1.0haの農家数はほぼ一定で,それ以上の経営規模の農家数はいずれも増加しています。オランダにおいても2000坪の法則が存在し,0.75ha(2250坪)以下の農家は将来性がなく衰退していくようです。 【PDF file】
花きの施設生産は他の農業生産と比較して法人化が進んでいる分野だと思いますが,将来も花き生産を継続していこうと考えておられる2000坪以下の生産者の方は国際化に向けて規模拡大に努め,従業員を雇用した法人化を目指して頂くことを期待しています。


★人を育てて生産する (2004/05/26)

 「花を育てて生産する」ではありません。
 ガーデニングを楽しむ30歳から60歳までの人口は、2001年には54,747,000人で、この人達が現在のガーデニングブームを支えています。 【PDF file】 2010年にはこの年代層の人口は54,109,000人と60万人程度の減少がみられますが、5400万人のガーデニング人口を維持できています。しかし、2020年になると少子化の影響をまともに受けて50,868,000人となり、324万人が減少し、その後は坂道を転げ落ちるがごとく毎年人口が減少していきます。ガーデニングを楽しむ人口の減少は、ガーデニング市場の縮小を示しており、20年後には間違いなく園芸産業は縮小することが予想されます。
 園芸人口が減少しても産業を維持するためには、「一人当たりの購入金額を増加させる」ことが必要です。一人当たりの購入金額を増やす方法として、20年後の園芸需要を担う現在の若者(小中高校生)に園芸を浸透させることが必要と考えます。
 男性がバラの花束を持って街を歩くことは「恥ずかしくてとても出来ない」ことかもしれません。しかし、私は花業界に入ってからは随分と鍛えられたこともあって、今はバラの花束を持って街を歩いても『恥ずかしい』とは思わなくなりました。子供のうちから「花を持って歩く」ことに違和感を感じないようにすることは、将来の園芸需要を担う人たちを育成するためにも重要なことではないかと思います。
 例えば、母の日や父の日や敬老の日に、日本全国の花き生産者が地元の小学校に子供の人数分花を贈ってみましょう。担任の先生は、きっと花生産のすばらしさを語りながら、「絶対にこの花を家まで持って帰って、お母さん、お父さん、お爺さん、お婆さんに必ず手渡すんですよ!」と言ってくれると思います。子供たちは学校から家まで帰る間に、近所のオジサンやオバサンに「○○君、お花なんか持ってどうしたの!」とからかわれながら、花を持って歩くことの快感(?)を感じることになるでしょう。毎年何回もこのような経験をすることによって、彼が30歳になったときにはキット奥さんや両親に,あるいは友人に花を贈るお父さんになっていくと思います。さらにこれをみているその子供たちは「花を贈ることのすばらしさ」感じることにも繋がるのではないでしょうか。
 20年後も花き生産を続けていきたいと考えておられる生産者の皆さん!是非とも将来の花き産業を支えてくれる今の子供たちを育てることを考えてみませんか?


★岐阜新聞で研究内容が紹介されました (2004/04/23)

 岐阜新聞の岐阜大学紹介コーナー「研究室から−大学はいま」で、岐阜大学農学部生物生産制御学講座 園芸植物生産学研究室が紹介されました。興味のある方は、是非、右の文字をクリックしてみてください。  【研究室から−大学はいま】


★園芸店の衰退と静岡メロンの衰退 (2004/04/09)

 2002年5月13日のコラムで述べたように、「静岡温室メロン」の販売額が1991年の270億円から1999年は170億円にまで減少し、2000年の粗生産額は146億円まで落ち込んでいます。その大きな理由の一つに、主力販売網の崩壊を挙げることができます。静岡メロンの販売先は高級デパートの果物売場や果実専門店でしたが、バブル景気崩壊後のお中元やお歳暮需要の後退に伴うデパートの不振や、果物販売ルートが果物専門店からスーパーに変化し、果物専門店が廃業しはじめたことが販売額の大幅な減少に繋がっています。静岡メロンは外観、味、香りのいずれをとっても最も優れた商品ということができ、桐箱に詰めた高級感も差別化商品戦略としては間違っていなかったのかもしれません。しかし、果物の販売が果物専門店からスーパーの果物コーナーに変化したことによって、「外観や味、香り、高級感漂う差別化商品」から「価格主体の手軽な果物やチョット高級な果物」へと消費者志向が変化し、静岡メロンの生産技術や品質を正当に評価できる販売店がなくなったことを示しています。
 さて、近年のガーデニングブームを契機にホームセンターなどの量販店が園芸商品の販売網として急速に台頭しはじめています。昔からある園芸店は量販店の攻勢に防戦一方で、廃業を余儀なくされる園芸店も出始めてきています。量販店の戦略は「品質よりも低価格」が第一で、店頭に並んでいる商品を見ても品質はイマイチなものが多いようです。生産農家からの情報でも、「品質はともかく、設定価格帯の商品はないか?」という問い合わせが多いと聞きます。
 園芸の楽しみは、「育てて楽しむ」ことだと考えます。店頭での見栄えが同じシクラメンでも「2週間後には花が終わって寂しい状態になる」ものと「ゴールデンウィークまで開花が続く」ものがあります。その違いは生産技術の違いであり、園芸店の店員が「これは5月の連休まで咲き続けますよ!」という一言が消費者の購買意欲に繋がります。すぐにダメになるシクラメンを買った消費者は「来年からはシクラメンを買うのをやめようかな?」という気持ちになるかもしれません。用土を厳選して、適時に肥料を与え、わい化剤を使わないでキッチリ育てたパンジーは、チョット価格は高いですが、春の訪れと共に大きな株に育って見事な花を着けます。これに対してわい化剤を使用した即席のパンジーは、価格は安いものの、春になっても一向に株が育たず、春の花壇やプランターは寂しい状態です。
 低価格第一で商品の正当な品質評価ができない量販店がこのまま拡大すると、本当に園芸を楽しみたい消費者をドンドン園芸から遠ざけていくことになるのではないかと心配しています。園芸専門店の皆さん、皆さんは「正当な商品を消費者に的確に供給する役割」と「園芸文化」を担っているという自負を持って頑張ってください!生産農家の皆さん、目の前のニンジンに目が眩んで将来の大きな獲物を逃すようなことはやめましょう!園芸専門店と生産農家は共に手を携えて、園芸文化を支えているのだと思います。低価格第一で商品の正当な品質評価ができない量販店の拡大は、一見消費者のためになっているようにも見えますが、園芸を楽しみたいと望む本来の消費者を減少させることに繋がりかねないのではないかと危惧しています。


★申年にちなんで、年賀状 (2004/01/06)

 申年の年頭に当たって、メール年賀状を作成いたしました。ご覧下さい
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