★「東華園芸有限公司」(大連市)
[旅順生産基地]
[向英生産基地]
遼寧省大連市東華園芸有限公司には2002年9月と2004年7月に訪問しました。
遼寧省農業科学院が出資する切花生産会社で、大連市に本社農場(約1ha)を持ち、他2カ所に生産農場を持っています。主な生産品目は、輪ギク、ユリ、ガーベラです。従業員は15名で、この他に臨時雇用労働者を雇っています。
輪ギクは「神馬」を中心に60品種を生産しており、この他独自に育成したスプレー系や小菊も生産しています。輪ギクの生産は日本(愛知県)の生産者が技術指導を行っており、生産技術としてはかなり高いものと思います。
ここで生産されたキクの切花は、輸出(日本):国内販売=50:50の割合で出荷しています。中国国内の販売については、盛花や花束として利用されます。盛花は中国特有の切花消費の習慣で、お祝いや見舞い、開店祝いなどに飾る豪華なものです。この盛花は会社の上司の誕生日やその奥さんの誕生日などにも送られることがあるそうです(中国人も日本人と同様に苦労していますねえ・・・)。
東華園芸有限公司では、中国国内の輪ギクの消費拡大のために、「日式葬儀」のマーケティング活動も行っています。輪ギクを葬儀に使用するのは日本特有の習慣ですが、これを中国国内に広めることによって輪ギク消費の拡大を図っています。大手葬儀会社に毎週500本の輪ギクを無償で提供し続け、輪ギクを中国の葬儀で使用する習慣を広めたとのことです。
開店祝いでは「黄色」が主体で、葬儀には「白色」も用いられます。日本への輸出用は白色が主体であるため、「国内用と輸出用の割り振りのための栽培品種の選択が難しい」とのことです。
生産している品種は前述のように神馬ですが、今後は広島県の精興園から新品種を導入していきたいとの意向でした。当然その際には「種苗法に従ってパテント料を支払う」と言っていました。
下の写真は生産圃場の写真です。生育ステージも綺麗に揃っており、愛知県渥美半島の輪ギク生産農家を見ているような気がしました。訪問した時期は9月ですが、苗を定植した圃場では、当然のことながら電照栽培が行われており、下の最後の写真のように栽培されているキクの高さが綺麗に揃っています。
出荷されるキクの状況です。品質はかなり高く、日本国内でも十分通用するものです。日本への輸出は北京の日本輸入商社から注文を受け、大連港から船便で東京・大阪・名古屋に輸出されます。価格はCIF価格で30〜35円/本ということでした。
収穫された切花は出荷調整を行った後、水揚げを行い冷蔵庫に保管され、大連港から冷蔵コンテナで輸出され、日本に3日間で到着します。 生産量はかなり多く、出荷のピークは12月で、20万本/週ととんでもない数量を生産しています。今後は周年生産に取り組んでいきたいと意向です。
これまで東華園芸有限公司は、日本の輸入商社や日本の切花生産者と協議をしながら日本向けのキク切花輸出量を決定し、実施してきました。しかし、2002年12月に独自の判断の基に日本への大量輸出を行った結果、市場価格の大暴落を経験し、大きな損害を被ることになりました。現在では、これを教訓に、日本国内生産者と歩調を合わせながら輸出量を調整しているとのことです。
CIF価格 : 売り手の費用と責任は輸入港まで、という取引条件のことで、シフまたはシー・アイ・エフと呼ばれています。運賃・保険料込み渡し(cost,insurance and freight)で、この条件で輸出契約を結んだ売り手は、約定品を輸出港の船に積み込むまでの危険と費用を負担するほかに、仕向地までの運賃と保険料を負担しなくてはなりません。
FOB価格 : 売り手の費用と責任は輸出港まで、という取引条件のことで、本船積込渡し(free on board)と呼ばれています。この条件では買い手が手配した船に、約定品を積み込むまでの費用と危険を売り手が負担することになります。
輪ギクの生産が中国に適している原因の一つとして、「芽かき作業」の大変さを挙げることができます。キクの芽は葉1枚ごとに発生するのですが、それを成長過程で1つずつ手作業で取り除く必要があります。芽かき作業は労働者1人で、40〜50畝(1畝=7m×1m(5列植))/日を処理するそうです。
芽かき作業以外にも、出荷調整作業、病害虫防除作業が労働コストを大きくしています。雇用労働者の人件費は500〜600元(7500〜9000円)/月です。
大連のキク切花生産は「陽光温室」と呼ばれる片屋根式の温室で行われます。この温室は南面がビニルで覆われており、北面は冬季の北風を防ぐためにレンガの壁になっています。昼は温室内が高温になるため、上部と下部のビニルに隙間を作って換気を行います。夕方になると保温のために保温シートや菰(コモ)を毎日かけ、朝には巻き取る作業を行います。冬季の暖房は石炭を使い、オンドル式の暖房を行っています。陽光温室の基本的な大きさは「90m×8m」です。
大連市は年間降水量が700mm前後と少ないため、大きな貯水池を作って潅水のための用水を確保していました。
キクの苗は挿し木で生産されており、プラグトレーに挿し木をしていました。挿し穂は温室脇の露地で管理されている親株から採穂し、定植しています。
切花生産は施設栽培だけでなく、露地生産も行われています。大連は、前述のように降水量が700mmと少ないため、露地生産の切花の品質も高く、広大な農地を活用した切花生産体系が取られています。
ユリの切花生産も行われています。ユリの球根は東華園芸有限公司の出資者の一人であるオランダの球根種苗会社から輸入し、球根繁殖許可を得た上で、リン片繁殖を行って球根生産を行っています。露地圃場では球根生産を行い、切花球根として販売すると共に、施設内に球根を植え付け、切花生産を行っています。施設で切花を収穫した後の球根は、切り下球として2回切花生産に使用します。日本にユリ切花として輸出する場合には、CIF価格で150〜200円/本だということです。
ガーベラの切花生産は始まったばかりという感じで、栽培術としても確立されているとはいえない状況です。品種などは日本の静岡県の種苗会社(?)から輸入しているということでした。
東華園芸有限公司の総経理の寧景華さんに「将来の中国の切花市場」について聞いてみました。
今後、日本を対象とした切花生産地が天津、北京、青島、大連で次々と建設されていくでしょう。これらの地域は、いずれも黄海沿岸地域で夏季は冷涼な気候であると共に冬季の日射量が多く、施設生産に適している。また、船便(冷蔵コンテナ)を活用して3日間で日本に輸出することができる。また、中国国内市場として大きな発展を遂げ富裕層が住んでいる北京、上海の大都市にも近く、今後大きく発展する国内消費も考えることができる。
現在中国国内の切花生産地である雲南省昆明は輸送経費の問題や気候上の問題から、次第に産地としての活力が低下していくことになると考えている。
中国国内の花き生産は、人件費が低価格であることを最大の武器にして国際競争力を高めてきたが、10年後には経済成長に伴い人件費が高騰すると推定される。従って、今後は肥大する中国市場を標的に、さらに人件費の安い東南アジア各国から中国市場にむけて輸出が増大することが予想され、中国国内の切花生産は大きな体質の転換を要求される。
これに対応する一つの方策として、育種事業を挙げることができる。東華園芸有限公司では育種に大きな投資を行っていく予定である。
2004年7月に訪問した状況を報告します。
2002年に訪問したときの生産施設は,ほとんどが片屋根式の陽光温室でしたが,連棟のハウスでの生産も行われていました。大連は雪がほとんど降らないため,このような連棟温室での生産も問題がないものと思います。この連棟ハウスの面積は4000uで,建設コストは350元/uです。
施設内では,定植直後のものから出荷間近のものまで連続して植栽されていました。成育状況は2002年の訪問時からさらに向上しており,かなりの生産技術を持っていることが判ります。
片屋根式の陽光温室(8m×90m)での生産量は40,000本/棟で,年間の収入は2万元/棟です。生産経費としては暖房費が2万元/棟/年(石炭),電気代300元/棟/年などで,切り花1本当たりの生産原価は0.5元になります。労力の中で最も大きなものは芽掻き作業で,労働者の賃金は800〜1000元/月です。生産された切花の80%は輸出向けで,20%が国内で販売されます。国内販売価格は0.4〜1.6元で,最も高いのは4月の清明節(日本のお彼岸)で2.0元/本とのことです。生産原価が0.5元ということを考えると,国内販売でも充分経営が成り立つように思いました。
連棟ハウスには,各々の単棟ごとに責任者が明記されています。その中の一つを紹介します。下の写真のように,品種は「830:神馬」で,「定植本数:78000株」,「定植期日:2004年4月27日」,「出荷予定日:8月8日」と記載してあります。ここで注目すべきこととして,出荷予定日の8月8日という点です。これはまさに日本のお盆をターゲットに生産して輸出することを意味しています。この生産ハウスから8月10日前後には日本向けの40フィートのコンテナが出発することでしょう。
日本側の輸入業者として(株)クラシック,(株)東亜通商,アジア通商の3社が入っていました。
冷蔵庫をみせてもらいましたが,たくさんのキクの切花が保管されており,出荷前の段ボールが山のように積まれていました。また,選花機が導入されて省力化も進み始めていました。