植物分子生理学研究室
Lab for Plant Molecular Physiology, Fac Appl Biol Sci, Gifu University
投げハンマー
以前このコラムで論理的な思考というものは一歩づつ隙のないように考えを進めて行く地道なものであるという話をした(論理的思考)。時には常識に反する方へ進むこともあり誰もができている訳ではないが、原理的には誰が行っても同じ結論になるはずのものである。将棋で言えば詰将棋、沢登りでいうなら3点確保の手堅い登りである。問題なのは詰将棋だけが上手くても勝負には勝てないというところで、対局にはローカルな詰将棋を超える着想も必要になる。
さて、沢登り界には投げハンマーというものがある。取り付くシマのないようなつるつるの滝を登る際、ハンマーにザイルを付けて滝の上へ投げ、滝の向こうの見えない何かに引っかけてザイルに頼りつつ滝を登るという荒技である。堅実な3点確保で行き詰まったときの打開策であり、ペグを打ち込んで支点を作るよりも手軽で早い。一見反則技にも見えるがそういう訳でもない(フリークライミングにはならないが)。事故がないわけでもないらしいがそこは運用次第である。
沢登りのブログ1を見ていてこの投げハンマーの技を発見し、「私が長年探していたものはこれではないか」と思ってしまった。会心の出会いである。
そう、歩幅の狭い論理展開だけでは行き詰まるのである。時には飛躍が欲しいのである2。投げハンマーはこの要求に答えてくれる3。飛躍でできたギャップは後で論理的に埋めればよいので(埋まらなければあきらめる4)、まず飛躍、次にギャップ埋め、の順番になる。飛躍がなければ始まらない。
という訳で、沢ハンマーを購入した5。価格は¥12,650、渓流釣りの際には携行し、出番がくるとひも付きのハンマーを得意げに振り回している。
2022.7.6
1例えばこういうサイト。
2もちろん研究の話である。
3何の話かわからなくなった人はフンイキで感じるように。Don’t think.
4 埋まらなければ数年間の研究活動の浪費で終わってしまい結局飛躍にはならない、ので願い下げである。欲しいのは「<正解>を論理を超えて天啓のように得ること」である。着想段階ではまだ真偽の判定はできないので、スジが良いかどうかで信頼度、つまり今後どれくらいの年月を捧げるかを決める。判断は感覚的なものにはなるが、、、論理的な思考の経験を積めば発達させることができる。ということは機械学習(ML)でもいけるかも知れない(どうだろう)。
5<ミゾーチコ> 柄の下の穴にロープを通すと投げハンマーができる。
6いま思い出したが、高校生のときには鉱物採集が趣味で、地学部で買ってもらったバールを持って山に入っていた(いわゆるひとり部活)。今思えば警察に職務質問されそうな装備であるが、当時は他人の視線とか考えたこともなかった。
バールを持った男子高校生は一見怖いが、ハンマーを持った中年男性の方がよりインパクトがある。他人の恐怖心を煽らないためには作業服、ヘルメット、手袋、等でバールを持つ目的を視覚的に伝える必要がある。逆に考えると普段着+バールにすれば目的が見えないのでより不気味である。スーツ姿ならさらに怖い。目的が見えない上に、社会の慣習や法律には縛られていないようなニュアンスが生まれる。
7山中で出会っていちばん怖いのは何だろう?クマはもちろん怖いが、クマだってヒトが怖いのであり、またヒトを攻撃することが習性になっている訳ではない。心に余裕がある状態なら危険ではないらしい。村上春樹の旅行記にトルコの山中で武装ゲリラのグループ(独立派クルド人、山賊風ヒゲもじゃ)に出会ったという話があった。これは怖いが、武装ゲリラは目的と規範を持って活動しているらしいので、行動を予測できる分最悪というほどではないかも知れない(と言ってもとても怖そうである)。さらに怖いのは武装していて行動が読めない、かつ法律が通用しなさそうな場合が考えられる。となると先のスーツにバールというのは最上位あたりにランキングできるかも知れない。支離滅裂な言動をする猟師(手には散乱銃)も怖い。怒って我を失っているクマも怖い(やっぱりクマ?)。
Highly Cited Researchers of Gifu University