植物分子生理学研究室
Lab for Plant Molecular Physiology, Fac Appl Biol Sci, Gifu University
筆記具2
ボールペン派宣言をしておいて何だが、数年前から万年筆を使うようになった。ペン先の滑りがよいのと書いた文字がボールペンのようにへこんだりしないのがよいと思う。
御存知の方はあまりおられないかも知れないが、万年筆のキャップは意図的にスキマを作ってある(注1)ものが多く、しばらく使わないとペン先が乾いてしまう。ペン先が乾くと後の手入れが面倒なので、使用する万年筆は一本だけにしておきたい。
万年筆の楽しみのひとつに好きなインクを選んで使える、というのがある。いろいろ使えて楽しい、と考えるのが一般的であるが、それが問題になることもある。色がしっくりこないと書いていて違和感が生じてしまうのである。生じてしまった違和感は見過ごせないのが私の性分である。
万年筆のインクにはいろいろある。黒のインクは一番シンプルであると考える方がおられるかも知れないが、私の机のひきだしに入っている黒インクには「黒」「炭黒」「色素黒(耐水)」「黒曜石」「超黒」「謎黒」「ライプチヒの黒」「日蝕」の8種類があり、それぞれ色目やテクスチャー(つや、粒子感)、濃さと濃淡の具合が異なる。色目についていうなら、ニュートラルな黒以外にも青緑がかった黒(ライプチヒの黒)、紫のニュアンスがある黒(謎黒)、黒というよりは濃い紫だが細字で書けばほとんど黒(日蝕)など、黒といいながらもそれなりに幅がある。どれかひとつのインクを選んで使っていても、誇張して言えば「その黒でよろしいのですか?」と問われているような気がしてしまう。そのせいか、インクがなくなったら即座に「別の」黒インクを万年筆に入れる。前述のとおり一度に使えるのは1種類だけである。
上の話は手持ちの8種類のインクから好みの1つを選ぶということではないことは御理解頂きたい。文具店に行けば上の8種以外の黒インクも多数あり、「黒水晶」や「冬将軍」「銀ぎつね」など各種取り揃えられているのである。 さらには、インターネットを探すとさらに多様なインクが市販されている。国内のネット通販で入手できなくても海外メーカーに直接注文する手もあり、これがまたそれほど難しい作業でもないのである。 また、単純に「黒」とラベルがあってもメーカーによって色や性格は異なる。 文具メーカーはインクの色目によってもブランドイメージを希求しているのであり、「黒インク」にもメーカーごとの個性が現れる。未だ見ぬ黒インクを使えば私の違和感がばっちり解消されるかも知れないのである。
ちなみに黒ほどシンプルではない青色だと、黒よりも色目の幅が大きい上に、赤いハローがでるものがあったりするのでさらに種類が多い。ウチにあるのは「露草」「緑青」「天色」「青黒」「深海」「深夜青」「柳(これも青)」「コバルト青」「サファイア」「サルガッソー海」「英皇室青(ラピスラズリ)」「英皇室青2」「某英国伝統大学青」「某英国王朝青」(英国多いな)「摂政時代青」「タンザニア産緑簾石」「1864年青」で(これだけで17種類である)、さらに数本ある紫色へとほぼ連続的に続く(下の写真は紫の「桑の実」)。買った記憶がないのに何故かひきだしに収まっているボトルも数本ある。
いまのところ青インクに関しては「摂政時代青」で小康状態(何の?)を保ててはいるものの(注2)、先のことはよくわからない。わからないといいつつ、一直線に「イメルダの靴」状態へ向かっているような。
2018.2. 27
注1)開けるときにキャップ内が陰圧になってインクが飛び出すのを防ぐため。いちおうゆっくり開けるのが万年筆のお作法ではあるが、あまり周知されていないので。ネジ式にして構造的に急には開けられないようにしているものもある。
注2)その後、インクの好みは耐水性の顔料インク(水性ボールペンのインクと同じ系統)へと大きく変わってしまった。色むらとつやがなくて可読性に優れているのがよいと思う。耐水性があるのもポイントが高い。お気に入りはモンブランの「永遠青」である。(つづく)
Highly Cited Researchers of Gifu University