ω6及びω3系脂肪酸の必須性と推奨摂取量(Recommended Dietary Intakes)に関するワークショップ

ー決定事項の解説ー

      奥山治美、浜崎智仁 
 
 1998年6月1〜5日フランス リヨンで開催された第3回ISSFAL(International Society for the Study of Fatty Acids and Lipids、国際脂肪酸・脂質学会)会議後の理事会で、上記のテーマでのワークショップを開催することとなった。それに基づき、1999年4月7〜9日、米国NIH(Bethesda, Maryland) において、国際的な専門家たちによる新しいデータの持ち寄りと総括、討論のための十分な時間を取った円卓会議が開催された。会議議長団は、A.Simopoulos, N.Salem, Jr.および A.Leaf 博士であった。
 このワークショップで決定された内容は、十カ国、30名の専門家により署名され、公表されたISSFAL Newsletter 6:14-16, 1999)。 その内容のうち、従来のP/S比を指標とする指針と大きく異なる点は次のように要約される。

成人の適正摂取量(Adequate Intake, エネルギー%)について、
1.リノール酸の過剰摂取の害を認め、適正摂取量を極めて低いレベル(2エネルギー%)とし、上限を3エネルギー%とした。
2.αリノレン酸、EPA、DHAなどn-3系脂肪酸の必須性を認め、EPA、DHAの摂取下限をそれぞれ  0.1エネルギー%とした。
3.トランス型脂肪酸の有害性を認め、摂取上限を1エネルギー%とした。

乳幼児食の適正摂取量(総脂肪酸中の%)について
1.リノール酸の適正量を、わが国の平均的な母乳のリノール酸(15%前後)や乳幼児用粉ミルクのリノール酸(17%前後)に比べ、著しく低いレベル(10%)を適切とした。
2.アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸の必要性を認め、それぞれ0.5および0.35%とした。

 わが国の現状を、第六次改定日本人の栄養所要量(第六次改定)、日本脂質栄養学会会長要約1997(日本脂質栄養学会)、上記の成人推奨摂取量(ISSFAL)と比較すると下表のようになる。
 
脂肪酸 
日本の現状
第六次改定(成人)
日本脂質栄養学会
ISSFAL
 
1990' 答申
1999
1997
1999
リノール酸系
(n-6)
6.4
4.8〜6.0
3.8
 2〜3
αリノレン酸系
(n-3)
1.6
1.2〜1.5
1.9
 1.3
n-6/n-3
4
4
2
1.5〜2.3

 これまで日本脂質栄養学会を中心にリノール酸摂取過剰の害が指摘され、摂取量を半減するよう勧められてきた。今回、国際的な専門家会議で、より厳しくリノール酸摂取量を減らす方向が示された。このような情勢の時、前回(第五改定)とほとんど同じ内容の第六次改定が答申されたことに対して驚きを禁じ得ない。新しい方向への栄養指針の改革が5年遅れると、その被害は計り知れない。この脂質栄養の新しい方向を、一人でも多くの国民に広報する必要があると考える。